(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、密封流体を効率的に循環させ、相互に摺動する回転環と静止環とを効率的に冷却することができるシャフトシール装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係るシャフトシール装置は、
静止部材に固定される静止環と、
前記静止部材に対して回転する回転体に固定されて前記回転体と共に回転し、前記静止環の静止摺動面に摺動する回転摺動面を持つ回転環と、を有するシャフトシール装置であって、
前記静止摺動面と前記回転摺動面とが摺動することで密封される密封流体の密封空間が、
前記回転環の外周に形成されるように、前記静止部材が前記回転体の外周を覆っており、
前記密封空間に位置する密封流体が前記回転体の軸心方向に沿って流れるように前記密封流体に軸方向流れを生じさせるポンピングリングが、前記回転環と異なる軸方向位置で前記回転体に固定してあり、
前記ポンピングリングの回転による前記密封流体の軸方向流れの下流側に位置する前記静止部材の内周面には、排出孔が形成してあり、
前記排出孔が形成してある前記静止部材の内周面には、前記回転体の回転方向に沿う前記密封流体の流れを堰き止めて前記排出孔へと向かわせる整流部材が、半径方向の内側に突出するように具備してあることを特徴とする。
【0007】
本発明に係るシャフトシール装置では、ポンピングリングにより密封流体に軸方向流れを発生させ、ポンピングリングの下流側(または上流側)に設置された回転環および静止環に流体を向かわせ、これらの摺動環を冷却することができる。
【0008】
また、ポンピングリングの下流側の流体には、回転する回転体により発生する周方向流れによって遠心力、即ち、径方向外側に向かう力が作用し、密封流体は排出孔より排出される。さらに、流体の周方向流れを排出孔に向かわせるように整流部材が設けられていることで、排出孔から排出される流体の流量を増大させることができ、また、排出孔からの排出圧を向上させることができる。
【0009】
好ましくは、前記ポンピングリングの回転による前記密封流体の軸方向流れの上流側に位置する前記静止部材の内周面には、流入孔が形成してあり、
前記排出孔から排出された密封流体が前記流入孔から前記密封空間の内部に戻るように構成してある。
このように構成することで、排出孔から流入孔に向かう外部配管の途中に、ポンプ機能を設ける必要がなくなる。外部配管が長くなれば長くなるほど圧力損失が大きいため、流体を流すのに高い排出圧を要するが、本発明では、排出圧を向上させることができるため、従来の流量と同じ流量ならば、従来の配管よりもより長い配管を設けることが出来、装置の取り付けや配置について、柔軟な対応が可能となる。
【0010】
さらにまた、より高い冷却能力を有するクーラー(冷却能力が高いものは配管の表面積が大きく、その配管の表面積が大きい分、圧力損失が大きくなってしまう)を外部配管の途中に設けることが可能になり、冷却能力が向上する。
【0011】
好ましくは、前記整流部材が、前記回転環または前記回転環を保持するリテーナの外周に所定の隙間を有して配置され、前記回転環またはリテーナの外周には、前記回転体の回転方向に沿う前記密封流体の流れを増大させる凸部が形成してある。
【0012】
整流部材を、回転環またはリテーナの外周に、径方向隙間を設けて設置することで、回転軸が振れ回りを起こした際でも、隙間を有するため、整流部材が回転環またはリテーナに接触することが無く、回転体の幾何公差(軸振れ、同心度、直角度)を大きく設計することができ、また、運転時に回転軸の精度が大きく低下した場合でも(例えばベアリングの劣化・損傷等の影響)、整流部材と回転環またはリテーナとの接触を避けることができる。さらに、径方向隙間があることで、回転環の全周に流体が接することができるため、全周で冷却を行うことができる。
【0013】
また、回転環またはリテーナの外周面に凸部を設けることで、回転環またはリテーナの表面積を大きくし、流体が接する面積を増やすことで、冷却し易くできる。さらに、回転環およびリテーナは回転する部材であるため、溝により流体を撹拌し、より強い周方向流れを発生させることができ、排出孔からの流体の排出量を増大させることができる。
【0014】
好ましくは、前記排出孔が、前記回転環の外周に位置する前記静止部材の内周面に形成してあり、
前記排出孔が、前記回転体の回転方向に沿う前記密封流体の流れを向かい入れる方向に、前記静止部材の内周面に対して傾斜している。
【0015】
排出孔を傾斜させることで、整流部材に当たった周方向流れの流体がより排出され易く、排出孔から排出される流体の流量が増大し、排出圧が上がる。なお、流体の流れは周方向流れと周方向流れにより作用する遠心力により、流体は外径側へと移動する周方向流れとなるため、周方向に対して傾斜している場合、排出孔に向かう流れとなるため、より流体が排出され易い。
【0016】
本発明では、整流部材の排出孔側の面を排出孔に向かって傾斜させても良い。その場合には、周方向に流れている流体が排出孔に流れ易くなり排出流量が増大すると共に、排出圧が上がる。すなわち、排出圧の低下が回避されることで流量が増大する。また本発明では、排出孔を軸方向に対して傾斜させてもよい。その場合には、流体の軸方向流れに対して排出孔を設けることになるため、より流体が排出され易い。
【0017】
好ましくは、前記整流部材は、前記静止部材に対して着脱自在に取り付けてある。整流部材が取り外し可能に設けてあると、使用条件により整流部材を適宜選択することができ、また、メンテナンス等の際に整流部材のみを交換することも可能となる。
【0018】
また、整流部材が取り外し可能なため、整流部材のみで加工することが可能であるため、より複雑な形状も加工することが可能である。さらに、シールハウジングと異なる材質、かつ、回転環よりも軟質な材質、例えばプラスチックなどの軟質材で、整流部材を構成することもできる。この場合、回転軸の振れ回りが過大で万が一、整流部材と回転環が接触した際にも、回転環の損傷を防ぐことが可能であり、メカニカルシールとしての重大な機能損失、即ち流体の漏れ等を回避できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
第1実施形態
【0021】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るシャフトシール装置2は、たとえばポンプ、コンプレッサなどの流体機械におけるケーシング(静止部材)4と回転軸(回転体)6との間の流体の密封を図る装置である。
【0022】
ケーシング4の内部には、回転軸6が伸びており、回転軸6には、図示省略してある羽根車などが装着してあり、ケーシング4の内部で処理流体の圧力を制御している。ケーシング4の内部の処理流体が、回転軸6に沿ってケーシング4の端部で回転軸6との間の隙間から外部に漏れないように、本実施形態のシャフトシール装置2が設けられている。
図1では、回転軸6に沿ってケーシング4の一方の端部に装着してあるシャフトシール装置2のみが図示してあるが、回転軸6に沿ってケーシング4の他方の端部にも同様なシャフトシール装置2が装着される場合もある。
【0023】
本実施形態のシャフトシール装置2は、メカニカルシール装置35を有する。メカニカルシール装置35は、少なくとも静止環40と回転環56とを有し、以下に示すように、静止環40はケーシング4に取り付けられ、回転環56は、回転軸6に取り付けられる。
【0024】
回転軸6に沿ってケーシング4の一方の端部には、円筒状のシールカバー(静止部材)8がボルト10等によって着脱自在に取り付けられ、シールカバー8とケーシング4との間には、ガスケット等のシール部材12が装着してあり、これらの間の密封を図っている。なお、
図1に示すボルト10は、
図2に示すシールカバー8のボルト孔9に通される。
【0025】
図1に示すように、シールカバー8の主内周面32と回転軸6との間には、密封空間33が形成されている。密封空間33は、ケーシング4の内部と連通しており、ケーシング内部の処理流体と同じ流体が、メカニカルシール装置35により密封流体として密封されている。
【0026】
回転軸6に沿ってシールカバー8の外側軸端部には、半径方向の内側に突出する内方凸部37が一体的に形成してあり、その凸部37の内周面には、軸方向の内側から順に、第1取付内周面34および第2取付内周面36が形成してある。第1取付内周面34の内径は、主内周面32の内径よりも小さく、第2取付内周面36の内径は、第1取付内周面36の内径よりも小さい。なお、
図1において、回転軸6に沿って外側(矢印A1方向/前方とも称する)とは、ケーシング4から離れる方向であり、この実施形態では、大気側である。また、矢印A1と反対方向の内側は、ケーシング4に近づく方向であり、密封流体側になり、後方とも称する。
【0027】
内方凸部37における第1取付内周面34および第2取付内周面36には、静止環40が着脱自在に装着してある。静止環40と第1取付内周面34および第2取付内周面36との間には、Oリング等のシール部材42が介在してあり、これらの間を密封している。
【0028】
図5に示すように、静止環40の静止摺動面41に対して回転環56の回転摺動面57を摺動可能に保持して、これらの摺動面で流体のシールを行うために、
図1に示すように、回転軸6には、メカニカルシール装置35の回転部分が組み付けられている。具体的には、以下のように構成してある。
【0029】
回転軸6には、スリーブ45が嵌合してあり、スリーブ45の外側(矢印A1)軸端部には、カラー43がボルト44により連結され、カラー43がセットスクリュー46により回転軸6に固定してあり、スリーブ45およびカラー43は、回転軸6と共に矢印R方向に回転可能になっている。
【0030】
スリーブ45の内側軸端部の外周には、セットスクリュー47によりポンピングリング46の内側端部が固定してある。ポンピングリング46の内側端部には、回転軸6に沿って外側方向A1に延在する筒状部が一体に形成してある。筒状部の外周面には、らせん状突起48が形成してあり、回転軸6と共にポンピングリング46が矢印R方向に回転することで、シールカバー8の主内周面32との隙間に矢印A1方向の流れを作り出すようになっている。
【0031】
ポンピングリング46のらせん状突起48が形成してある筒状部の径方向内側には、アダプタ49がポンピングリング46の内側端部に対してボルトなどで固定してある。アダプタ49とポンピングリング46とスリーブ45との間には、Oリングなどのシール部材が介在してあり、これらの間を密封している。
【0032】
アダプタ49の外側方向(前方向)A1には、ベローズ50の後端(内側端)が接続してある。ベローズ50の前端(外側方向A1)には、リテーナ52が接続してあり、ベローズ50の軸方向のスプリング力によりリテーナ52を静止環40方向に押圧し、結果として回転環56を静止環40の摺動面に押し付けている。ベローズ50の内周と外周とはベローズ50自体により流体の流通が遮断される。リテーナ52は、
図5に示すように、一体的に形成してある円盤状部分53と筒状部分55とを有する。
【0033】
リテーナ52における筒状部55の半径方向内側には、メンテナンス時などに交換可能なように回転環56が着脱自在に保持してある。回転環56の先端(矢印A1方向)に形成してある回転摺動面57は、前述した静止環40の後端(矢印A1と反対方向)に形成してある静止摺動面41に対して矢印R方向に回転して摺動可能になっている。回転環56の回転摺動面57は、リテーナ52の先端よりもさらに先端側に飛び出している。
【0034】
回転環56と静止環40の材質は、特に限定されず、カーボン、炭化珪素、超硬合金、アルミナセラミック、エンジニアリングプラスチックまたは前記材料同士の複合材などで構成される。
図1に示すメカニカルシール装置35を構成するその他の部材は、合成樹脂やゴムなどで構成されるシール部材を除き、金属あるいはその他の材質で構成される。なお、シール部材としてのガスケットは、合成樹脂やゴム以外で、金属製薄板やグラファイトで構成される場合もある。
【0035】
図4に示すように、筒状部分55の外周面には、凸部54が円周方向に沿って所定間隔に軸心方向に沿って形成してある。凸部54の形状および間隔などは、特に限定されないが、この実施形態では、
図4に示すように、凸部54の横断面が四角形状であり、円周方向に沿って、10〜40等間隔で形成してある。
図1に示す回転軸6の回転により凸部54が密封流体に円周方向の流れを作り出すような凸部54の形状および配置であれば、図示する実施形態に限定されない。なお、凸部54は、リテーナ52の外周面に形成されることが好ましいが、形成されなくとも、リテーナ52の回転による密封流体の回転方向の流れは多少形成される。
【0036】
図1および
図2に示すように、シールカバー8の主内周面32で、第1取付内周面34との段差部には、排出孔14が形成してあり、密封空間33に連通している。排出孔14は、ポンピングリング46の回転による密封流体の軸方向流れの下流側に位置する回転環56の外周位置で、本実施形態では、円周方向の一カ所に形成してある。
【0037】
また、排出孔14は、
図2に示すように、回転軸の回転方向Rに沿う密封流体の流れを向かい入れる方向に、シールカバー8の主内周面32に対して傾斜(直角ではない)している。排出孔14の主内周面32に対する傾斜角度θは、好ましくは0〜60度である。本実施形態では、
図1に示すように、排出孔14は、回転軸6の軸心に対しては、傾斜せずに垂直であるが、
図7に示す実施形態のシャフトシール装置2aでは、排出孔14aは、回転軸6の軸心に対しても傾斜してあり、回転軸6の軸心方向に沿って流れる密封流体の流れを向かい入れるように構成しても良い。
【0038】
図1〜
図3および
図5に示すように、シールカバー8の主内周面32で、排出孔14の近くで、排出孔14における回転方向Rの下流位置には、整流部材18が、シールカバー8に対して、ボルト20などにより着脱自在に装着してある。
図3(A)に示すように、整流部材18は、基板部22と、その基板部22に対して略垂直方向に突出する流れ案内部24とを有し、基板部22には、取付孔26が形成してあり、その取付孔26にボルトなどを通すことで、整流部材18をシールカバー8に対して着脱自在に装着可能になっている。
【0039】
整流部材18における流れ案内部24の側面28は、
図2に示す回転方向Rの流れに沿って流れてくる密封流体の流れを堰き止めて排出孔14方向に案内するための案内面である。また、整流部材18におけるL字形状の側面30は、
図5に示すように、リテーナ52の外周面に形成してある凸部54に向き合う面であり、その形状に合わせた円弧状曲面であることが好ましいが、平面形状であっても良い。
【0040】
整流部材18におけるL字形状の側面30と凸部54との間の隙間C3は、
図1に示す凸部54とシールカバー8の主内周面32との隙間C2から、
図3(A)に示す整流部材18の幅W1を引いた値に等しい。この
図5に示す隙間C3は、好ましくは0.5〜3.0mmである。また、
図1に示すように、凸部54の外周とシールカバー8の内周面との間の隙間C2に対して、ポンピングリング46のらせん状突起48と内周面32との隙間C1は狭く構成してあり、その隙間C1は、好ましくは0.5〜1.5mmである。
【0041】
なお、本実施形態では、
図3(A)に示すように、整流部材18における側面28と側面30とを略垂直に構成したが、
図2および
図3(B)に示すように、排出孔14の傾斜角度θに合わせて、鋭角度に傾斜させても良い。その場合には、回転方向Rに沿って流れてくる密封流体は、側面28aに当たり、排出孔14の方向にさらに向かいやすくなる。
【0042】
排出孔14は、シールカバー8の外部に形成してある排出接続口16に連通してある。排出接続口16には、
図1に示す外部配管19の一方の接続端が接続される。外部配管19の他方の接続端は、シールカバー8における流入接続口17に接続される。外部配管19には、圧力計P1およびP2、流量計Q、バルブVなどが装着してあっても良い。あるいは、外部配管19には、図示省略してある熱交換器が接続してあり、外部配管を流れる流体を冷却するように構成してあっても良い。
【0043】
流入接続口17は、シールカバー8の内周面に開口している流入孔15に連通してある。流入孔15は、排出孔14に対して、回転軸6に沿って内側(後側)に形成してあり、ポンピングリング46の外周面に形成してあるらせん状突起48の上流側に位置してある。流入孔15は、回転軸6の軸心に対して垂直に形成しても良いが、スペースがある場合には、
図1に示すように、ポンピングリング46のらせん状突起48に向けて多少傾斜させることで、らせん状突起への流体の流入を、よりスムーズにすることができるため好ましい。
【0044】
回転軸6を矢印R方向に回転させると、ポンピングリング46も同時に回転し、らせん状突起48が、隙間C1間で、密封空間33内の密封流体を矢印A1方向に移動させる。その流体の流れにより、流入孔15から流体を引き込むことになる。隙間C1を通して矢印A1方向に流れた密封流体は、リテーナ52および回転環56および静止環40の外周部に至り、回転環56と静止環40との摺動による発熱を冷却する。
【0045】
その後、あるいは同時に、密封流体は、
図5に示すリテーナ52の外周面55に形成してある凸部54により、回転方向Rに回転させられ、整流部材18または18aの側面28または28aに衝突し、強制的に排出孔14に向かわさせる。排出孔14に流入した流体は、
図1に示す接続口16および外部配管19を通り、接続口17および流入孔15から密封空間33に戻される。
【0046】
本実施形態のシャフトシール装置2では、ポンピングリング46の下流側の流体には、回転するリテーナ52により発生する周方向流れによって遠心力、即ち、径方向外側に向かう力が作用し、密封流体は排出孔14より排出される。さらに、流体の周方向流れを排出孔14に向かわせるように整流部材18が設けられていることで、排出孔14から排出される流体の流量を増大させることができ、また、排出孔14からの排出圧を向上させることができる。
【0047】
たとえば、整流部材18を取り付けない場合(比較例)には、
図6に示す曲線Yに示すように、
図1に示す外部配管19を流れる流体の流量Q(
図6の横軸)が少なく、しかも、ヘッドH(縦軸)も小さい。これに対して、整流部材18を有する本発明の実施例では、
図6に示す曲線Xに示すように、比較例(整流部材無し)のものに比べ、ヘッド圧Hの最大値が約3.5倍、流量の最大値は約3.7倍に向上する。
【0048】
なお、流量Qは、
図1に示す流量計Qにより測定することができる。また、ヘッドHは、
図1に示す圧力計P1およびP2の圧力差から求められ、ヘッドHが大きいほど排出圧力が高い。
図6に示す曲線XおよびYは、
図1に示す外部配管19のバルブVを完全に閉じた状態が流量Q=0で、そこから、バルブVを少しずつ開状態にし、流量Qを変化させ、その時のヘッド圧H(圧力P1−P2)を測定し、その値をプロットした。
【0049】
図6中の曲線Zは、
図1に示す外部配管19の流路抵抗に基づく曲線であり、曲線XおよびYとの交点が、実施例および比較例に係る流量とヘッドの最大値を決定する。外部配管19の途中に熱交換器などを介在させると、流路抵抗が大きくなり、その曲線Zの傾きが曲線Z’のように高くなり、実施例および比較例に係る流量の最大値を低下させる。比較例Yでは、流路抵抗が高くなるほど(曲線ZからZ’)、流量(冷却用)を確保することが困難になり、回転環の摺動面での冷却が不十分になる傾向にある。これに対して、本実施例Xでは、流路抵抗が高くなっても、十分な流量QとヘッドHとを確保できるので、回転環の摺動面での冷却を十分に行うことができる。
【0050】
また、本実施形態では、
図1に示す外部配管19の途中に、ポンプ機能を設ける必要がなくなる。外部配管19が長くなれば長くなるほど圧力損失が大きいため、流体を流すのに高い排出圧を要するが、本実施形態では、排出圧を向上させることができるため、従来の流量と同じ流量ならば、従来の配管よりもより長い配管を設けることができ、装置の取り付けや配置について、柔軟な対応が可能となる。すなわち適応性および多様性が向上する。
【0051】
さらにまた、より高い冷却能力を有するクーラー(冷却能力が高いものは配管の表面積が大きく、その配管の表面積が大きい分、圧力損失が大きくなってしまう)を外部配管19の途中に設けることが可能になり、冷却能力が向上する。
【0052】
さらに実施形態では、整流部材18を、回転環56またはリテーナ52の外周に、径方向隙間C3を設けて設置することで、回転軸6が振れ回りを起こした際でも、隙間C3を有するため、整流部材18がリテーナ52または回転環56に接触することが無く、回転体の幾何公差(軸振れ、同心度、直角度)を大きく設計することができ、また、運転時に回転軸6の精度が大きく低下した場合でも(例えばベアリングの劣化・損傷等の影響)、整流部材18とリテーナ52または回転環56との接触を避けることができる。さらに、径方向隙間C3があることで、リテーナ52および回転環56の全周に流体が接することができるため、全周で冷却を行うことができる。
【0053】
また、リテーナ52の外周面55に凸部54を設けることで、リテーナ52の表面積を大きくし、流体が接する面積を増やすことで、冷却し易くできる。さらに、回転環56およびリテーナ52は回転する部材であるため、凸部54または溝部により流体を撹拌し、より周方向流れを発生させることができ、排出孔14からの流体の排出量を増大させることができる。
【0054】
さらに本実施形態では、
図2に示すように、排出孔14を、シールカバー8の内周面32に対して所定角度θで傾斜させることで、整流部材18に当たった周方向流れの流体がより排出され易く、排出孔14から排出される流体の流量が増大し、排出圧が上がる。なお、流体の流れは周方向流れと周方向流れにより作用する遠心力により、流体は外径側へと移動する周方向流れとなるため、周方向に対して傾斜している場合、排出孔14に向かう流れとなるため、より流体が排出され易い。
【0055】
さらに本実施形態において、
図3(B)に示すように、整流部材18aの排出孔側の側面28aを排出孔14に向かって傾斜させた場合には、周方向に流れている流体が排出孔に流れ易くなり排出流量が増大すると共に、排出圧が上がる。すなわち、排出圧の低下が回避されることで流量が増大する。また本実施形態では、
図7に示すように、排出孔14aを軸方向に対して傾斜させてもよく、その場合には、流体の軸方向流れに対して排出孔14aを設けることになるため、より流体が排出され易い。
【0056】
さらに、この実施形態では、整流部材18または18aは、シールカバー8に対して着脱自在に取り付けてあることから、使用条件により整流部材18または18aを適宜選択することができ、また、メンテナンス等の際に整流部材18または18aのみを交換することも可能となる。
【0057】
また、整流部材18または18aが取り外し可能なため、整流部材18または18aのみで加工することが可能であるため、より複雑な形状も加工することが可能である。さらに、シールカバー8と異なる材質、かつ、回転環よりも軟質な材質、例えばプラスチックなどの軟質材で、整流部材18または18aを構成することもできる。この場合、回転軸6の振れ回りが過大で万が一、整流部材18または18aとリテーナ52または回転環56が接触した際にも、リテーナ52または回転環56の損傷を防ぐことが可能であり、メカニカルシールとしての重大な機能損失、即ち、流体の漏れ等を回避できる。
第2実施形態
【0058】
図8に示す本発明の他の実施形態に係るシャフトシール装置2bは、
図1および
図7に示すシングル型メカニカルシール装置と異なり、タンデム型メカニカルシールであり、二つの第1および第2メカニカルシール装置35aおよび35bが、軸方向に沿って装着してある。以下の説明では、
図1〜
図7に示す実施形態と異なる部分についてのみ詳しく説明し、共通する部分に関しては、その説明を一部省略する。
【0059】
図8に示すように、本実施形態では、ケーシング4の外側(矢印A1方向)端部に、第1シールカバー8aが、第2シールカバー8bを介して、ボルト10により着脱可能に装着固定してある。第1シールカバー8aと第2シールカバー8bとの間には、ガスケットなどの第1シール部材12aが介在してあり、第2シールカバー8bとケーシング4との間には、第2シール部材12bが介在してあり、これらの間を密封している。
【0060】
第1シールカバー8aの内周側には、第1実施形態のメカニカルシール装置35と同様なメカニカルシール装置35aが装着してある。第1実施形態のメカニカルシール装置35における静止環40、回転環56、リテーナ52、ベローズ50、アダプタ49、およびポンピングリング46は、本実施形態の静止環40a、回転環56a、リテーナ52a、ベローズ50a、アダプタ49a、およびポンピングリング46aと同じである。
【0061】
ただし、この実施形態では、第1実施形態における整流部材18,18aの代わりに、板状整流部材18bが、第1シールカバー8aの内周面に、排出孔14およびリテーナ52などに対して整流部材18,18aと同じ位置関係で、溶接などで固定して形成してある。あるいは、
図10に示すように、整流部材18bと同様な位置関係で、凸状整流部材18cが、第1シールカバー8aと一体に形成してあってもよい。
【0062】
本実施形態では、
図8に示すように、回転軸6の外周に装着してあるスリーブ45aが、第1実施形態のスリーブ45よりも軸方向に長く形成してあり、スリーブ45aの後端が、ケーシング4の端部内側に形成してある密封空間33bにまで入り込むようになっている。
【0063】
密封空間33bは、ケーシング4の内部と連通しており、その内部の処理流体が密封流体として入り込むようになっている。なお、第1シールカバー8aおよび第2シールカバー8bの内周側には、中間密封空間33aが形成してあり、中間密封空間33aと密封空間33bとは、第2メカニカルシール装置35bにより密封されている。
【0064】
第2メカニカルシール装置35bにおける静止環40bは、第2シールカバー8bの半径方向内側端部に着脱自在に固定され、第1メカニカルシール装置35aの静止環40aと同様な構成である。静止環40bに対して摺動する回転環56bは、第1メカニカルシール装置35aの回転環56aと同様な構成である。回転環56bを保持するリテーナ52bは、第1メカニカルシール装置35aのリテーナ52aと同様な構成であるが、その外周面には、必ずしも
図5に示す凸部54を設ける必要はない。
【0065】
第2メカニカルシール装置35bにおけるベローズ50b、アダプタ49bは、第1メカニカルシール装置35aにおける対応する部品と同様である。第2メカニカルシール装置35bには、第1メカニカルシール装置35aのポンピングリング46aは、具備させる必要がない。第2メカニカルシール装置35bにより、密封空間33bと中間密封空間33aとが密封され、第1メカニカルシール装置35aにより、中間密封空間33aとケーシング4の外部(大気)とが密封される。
【0066】
中間密封空間33aの密封流体は、第1実施形態の場合と同様にして、ポンピングリング46aの回転により、矢印A1方向に移動させられる。その流体の流れにより、第2シールカバー8bに形成してある流入孔15から流体を引き込むことになる。矢印A1方向に流れた密封流体は、リテーナ52aおよび回転環56aおよび静止環40aの外周部に至り、回転環56aと静止環40aとの摺動による発熱を冷却する。
【0067】
その後、あるいは同時に、密封流体は、リテーナ52aの外周により回転方向Rに回転させられ、板状整流部材18bまたは凸状整流部材18cに衝突し、強制的に排出孔14に向かわさせる。排出孔14に流入した流体は、接続口16および
図1に示す外部配管19を通り、接続口17および流入孔15から中間密封空間33aに戻される。
【0068】
本実施形態のシャフトシール装置2bでは、ケーシング4内部の処理流体とは異なる冷却専用の流体を、中間密封空間33a内に封入しておくことが可能であり、その封入された密封流体を、排出孔14から排出して流入孔15から中間密封空間33aに戻すことができる。そのため、ケーシング4の内部の処理流体の圧力変動や、流れの変動による影響を受けずに冷却用流体の循環を行うことができる。その他の構成および作用効果は、前述した第1実施形態と同様である。
【0069】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0070】
たとえば、排出孔14は、整流部材18,18a,18bまたは18cと共に、円周方向の複数個所に形成しても良い。流入孔15に関しても同様である。
【0071】
また、上述した実施形態において、流入孔15と排出孔14との位置関係を逆にしても良い。ただし、整流部材18,18a,18bまたは18cは、常に排出孔14の近くに位置させる。この場合には、ポンピングリング46,46aによる密封流体の軸方向流れを軸方向外側A1とは逆の方向にする必要がある。この実施形態の場合には、流入孔から流入する冷却済みの密封流体により回転環と静止環とを効率的に冷却することができる。
【0072】
さらに、上述した実施形態において用いられたポンピングリング46の代わりに、その他のポンピングリングを用いても良い。ポンピングリングとしては、回転軸6の軸方向の流れを作り出す形状および/または構造であれば何でも良く、たとえば
図11に示すポンピングリング46bでは、リングのフランジ部に、回転軸の軸線A2に対して所定角度で傾斜している貫通孔48bを、周方向に所定間隔で形成してある。このような貫通孔48bを設けることでも、回転軸6の軸方向の流れを作り出すことができる。このポンピングリング46bでは、ポンピングリングの外径を小さくしたい場合や、軸方向長さを小さくしたい場合に有利である。