特許第5866035号(P5866035)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5866035
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】有効分げつ促進方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 63/02 20060101AFI20160204BHJP
   A01N 63/00 20060101ALI20160204BHJP
   A01N 59/00 20060101ALI20160204BHJP
   A01N 59/26 20060101ALI20160204BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20160204BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20160204BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20160204BHJP
【FI】
   A01N63/02 C
   A01N63/00 Z
   A01N59/00 C
   A01N59/26
   A01N25/00 102
   A01P21/00
   A01G7/00 604Z
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-2037(P2015-2037)
(22)【出願日】2015年1月8日
【審査請求日】2015年9月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000055
【氏名又は名称】アサヒグループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 隆史
【審査官】 竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/094235(WO,A1)
【文献】 特表2009−534445(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/104197(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/059683(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/136863(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 1/00
A01G 7/00 − 7/06
A01N 63/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母、酵母の抽出物、または酵母の細胞壁と、リン酸またはリン酸化合物及びカリウムまたはカリウム化合物とを含む混合物に過熱水蒸気処理を施すことにより得られる微生物材料過熱水蒸気処理物をイネ科植物に処理することを含む、有効分げつを促進する方法。
【請求項2】
前記微生物材料過熱水蒸気処理物を葉面散布することにより前記イネ科植物に処理する請求項に記載の有効分げつを促進する方法。
【請求項3】
前記イネ科植物が、稲、小麦、大麦、ライムギ、またはエンバクである請求項1または2に記載の有効分げつを促進する方法。
【請求項4】
前記微生物材料過熱水蒸気処理物を分げつ期においてイネ科植物に処理する請求項1から3のいずれか1つに記載の有効分げつを促進する方法。
【請求項5】
前記微生物材料過熱水蒸気処理物を有効分げつ期においてイネ科植物に処理する請求項に記載の有効分げつを促進する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、稲などに対して処理されることにより有効分げつを促進させて収量を増やすことが可能である有効分げつ促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
稲は、苗等が植えられた後、まず栄養生長が進行して、苗の根もとから新しい茎がでてくる分げつ期をむかえる。続いて、幼穂形成期、穂孕期、出穂・開花期、および成熟期と順を追って生殖生長が進み、稲穂が実って収穫できるようになる。
ここで分げつ期における茎の発生は、有効分げつと無効分げつとに分けられる。有効分げつとは、当該分げつのうち、生殖生長が進むことによって種子が実る穂が形成される茎をいう。また、無効分げつとは、発生しても穂が形成されないか、穂が形成されても種子が実らない茎をいう。
有効分げつの数が増えることにより1株当たりの実る種子の数も増えるため、有効分げつは収量の増減に大きな影響を与える要因の1つである。
【0003】
そのため、有効分げつを促進させて収量を増やすために肥料や植物ホルモンなどの生長調節剤の使用が試みられているが、その効果は十分とはいえない。
【0004】
一方、ビール酵母などを用いて製造される、還元性肥料が知られている(例えば特許文献1)。当該還元性肥料は、例えば、微生物材料過熱水蒸気処理物を含む態様で構成されており、微生物材料過熱水蒸気処理物は、例えば酵母、酵母の抽出物、または酵母の細胞壁と、リン酸及びカリウムとを含む混合物に過熱水蒸気処理(水熱反応処理)を施すことにより得ることができる。特許文献1には当該還元性肥料を施用することで、果樹類の根の成長や、果実の肥大を促進できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/094235号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり、分げつ期における有効分げつの促進について、肥料や生長調節剤の使用は十分な効果をあげることができていない。
本発明はこのような事情に基づきなされたものであり、有効分げつを促進可能である新規な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は有効分げつを促進できる技術について鋭意研究を行った。その結果、特許文献1に開示される微生物材料過熱水蒸気処理物を稲等に処理することで、有効分げつの数を増加できることを見出した。有効分げつの促進に対するこのような作用については特許文献1には開示されていない。
【0008】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] 酵母、酵母の抽出物、または酵母の細胞壁、リン酸またはリン酸化合物及びカリウムまたはカリウム化合物を含む混合物に過熱水蒸気処理を施すことにより得られる微生物材料過熱水蒸気処理物を含む、有効分げつ促進剤。
[2] 酵母、酵母の抽出物、または酵母の細胞壁、リン酸またはリン酸化合物及びカリウムまたはカリウム化合物を含む混合物に過熱水蒸気処理を施すことにより得られる微生物材料過熱水蒸気処理物をイネ科植物に処理することを含む、有効分げつを促進する方法。
[3] 前記微生物材料過熱水蒸気処理物を葉面散布することにより前記イネ科植物に処理する[2]に記載の有効分げつを促進する方法。
[4] 前記イネ科植物が、稲、小麦、大麦、ライムギ、またはエンバクである[2]または[3]に記載の有効分げつを促進する方法。
[5] 前記微生物材料過熱水蒸気処理物を分げつ期においてイネ科植物に処理する[2]から[4]のいずれか1つに記載の有効分げつを促進する方法。
[6] 前記微生物材料過熱水蒸気処理物を有効分げつ期においてイネ科植物に処理する[5]に記載の有効分げつを促進する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、有効分げつを促進可能である新規な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】試験例2に係り、実施例の有効分げつ促進剤処理区と無処理区の収量に係るグラフである。
図2】試験例3に係り、実施例の有効分げつ促進剤処理区において栽培された株と無処理区において栽培された株の一例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の1つの実施形態について詳述する。
本実施形態の有効分げつ促進剤は、微生物材料過熱水蒸気処理物を含んで構成されており、微生物材料過熱水蒸気処理物は、酵母、酵母の抽出物、または酵母の細胞壁、リン酸またはリン酸化合物及びカリウムまたはカリウム化合物を含む混合物に過熱水蒸気処理(水熱反応処理)を施すことにより得ることができる。
【0012】
微生物材料過熱水蒸気処理物は、上記の特許文献1などに開示されており、例えば当該特許文献1に開示される方法に従って従来公知の材料から製造することができる。
ここで、特に限定されないが、酵母、酵母の抽出物、又は酵母の細胞壁は、泥状ビール酵母、圧搾ビール酵母、乾燥ビール酵母、ビール酵母懸濁液、乾燥酵母細胞壁、酵母細胞壁懸濁液、及びビール酵母含有無機物からなる群から選ばれる少なくとも1種に由来するようにすることができる。
リン酸またはリン酸化合物としては単独でも2種以上混合して用いてもよく、リン酸化合物としては、肥料の成分として従来公知のリン酸化合物を用いることができる。具体的には、種々の可溶性又はク溶性肥料を用いればよく、リン鉱石を硫酸で処理してリン酸を可溶化した過リン酸石灰や、重過リン酸石灰、混合物としての熔性リン肥料や焼成リン肥等を挙げることができる。
カリウムまたはカリウム化合物についても単独でも2種以上混合して用いてもよい。カリウム化合物としては、肥料として従来公知のカリウム化合物を用いればよく、具体的には、塩化カリウム、硫酸カリウム、水酸化カリウム、及び硝酸カリウム等を挙げることができる。
また、酵母、酵母の抽出物、又は酵母の細胞壁、リン酸またはリン酸化合物及びカリウムまたはカリウム化合物の混合割合は特に限定されず、当業者が適宜設定でき、例えば、酵母、酵母の抽出物、又は酵母の細胞壁100重量部に対し、リン酸またはリン酸化合物0より大きく135重量部以下、カリウムまたはカリウム化合物0より大きく100重量部以下とすることができる。
【0013】
本実施形態の有効分げつ促進剤の使用方法については特に限定されず、例えば分げつ期前もしくは分げつ期(本葉6〜10枚)に入った稲等のイネ科植物に本実施形態の有効分げつ促進剤を1回以上処理するなどすればよい。ここで、有効分げつをさらに増やして収量を増加できる観点から、有効分げつ期(本葉6〜8枚)と無効分げつ期(本葉9〜10枚)とから構成される分げつ期のうち、有効分げつ期に本実施形態の有効分げつ促進剤の処理を行うことが好ましい。
処理方法は特に限定されないが、農作業効率の観点から、葉面散布によりイネ科植物に対して処理することが好ましい。水稲に関しては水口への流し込み処理も好ましい。
また、処理する量についても特に限定されず、例えば、葉面散布の場合、10a当たり得られた本実施形態の有効分げつ促進剤(原液)を10ml〜1000mlの範囲で、希釈倍率が1倍〜10000倍として投与すればよい。好ましくは原液を40ml〜400mlの範囲で、希釈倍率が50倍〜1000倍として投与する。
また、本実施形態の有効分げつ促進剤を処理するイネ科植物としては、特に限定されず当業者が適宜設定することができるが、例えば稲や、小麦、大麦、ライムギ、エンバク(オート麦)などの麦類を挙げることができる。また、稲については水稲、陸稲のいずれであってもよい。なお、水稲の場合、10a当たりの株数は、通常、1万株〜2.3万株である。
【0014】
以上、本実施形態の有効分げつ促進剤によれば、処理した稲等のイネ科植物における有効分げつの数を増加させることができるので、一株における穂の数の増加、登熟向上(結実籾数の増加、不稔率の低減)、千粒重の増加などの効果を得ることができ、その結果、収量を増加させることが可能となる。
また、本実施形態に係る微生物材料過熱水蒸気処理物が稲等のイネ科植物に処理されることにより、発根(細根)が促進されて吸肥量が増加するほか、倒伏軽減などの効果も得られる。そのため、処理した稲等のイネ科植物の収量を増加させることができる。
【実施例】
【0015】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0016】
[実施例の有効分げつ促進剤の製造]
実施例の微生物材料過熱水蒸気処理物を含む有効分げつ促進剤は、以下のようにして製造した。
まず、磁力撹拌型水熱反応釜に、酵母細胞壁570kgとリン酸8重量%・カリウム7重量%に調整された液体肥料3230kgを投入し混合液を得た。その混合液を撹拌混合しながら加温し、反応釜内を蒸気で満たした後、蓋を閉めて温度170℃、圧力0.95MPaまで昇温し、微生物材料過熱水蒸気処理物である有効分げつ促進剤3800kgを得た。
【0017】
[試験例1]
水稲(品種:インディカ米 OM4900)に対して1)実施例の有効分げつ促進剤 0.3%液、2)Vipac88 0.3%液、3)無散布の3試験区を設定し、田植え後28日目と50日目に10 aあたり40 L を全面葉面散布した。なお、Vipac88(a-Naphthyl Acetic Acid (アルファ-N.A.A),b-Naphthoxy Acetic Acid (ベータ -N.A.A))は慣行の植物生長調整剤であり、オーキシンの一種である。
また、田植え後28日目は有効分げつ期、50日目は穂孕期に相当する。
上記の処理を行った水稲について栽培を行い、田植え後90日目に各区坪刈りを行って収穫調査を実施した。結果を表1に示す。
【0018】
【表1】
【0019】
有効分げつ促進剤の葉面散布によって、総収穫量(1.43倍)、穂数(1.21倍)、千粒重(1.04倍)、登熟籾数(1.68倍)、一穂粒数(1.22倍)、登熟歩合(1.38倍)が増加した。
また、根張りが良く主稈がしっかりし、倒伏が軽減された(倒伏度合が2)。
【0020】
[試験例2]
水稲(品種:ジャポニカ米 はえぬき)に対して 1)実施例の有効分げつ促進剤 0.1%液、2)無散布の2試験区を設定し、有効分げつ期(本葉6〜8枚時期)に有効分げつ促進剤を10 a(約2万株)あたり200 L 全面葉面散布した。収穫直前に立毛調査で株あたりの平均穂数を調査し、収穫後ライスセンターに出荷して総収量、くず米率(10aあたりのくず米量)、一等米率(10aあたりの一等米量)を調査した。なお、くず米とは1.8〜2mmの篩にかけて通過したものをいう。また、一等米とは上記篩を通過しなかったもののうち、農林水産省が定める水稲うるち玄米及び水稲もち玄米の品位に基づき等級検査を行って最上級である一等と分類されるものをいう。
結果を図1に示す。
【0021】
図1から理解できるように、有効分げつ促進剤の葉面散布によって、総収穫量(1.56倍)、穂数(1.64倍)が増加した。また、くず米が減少して一等米が増加し、品質が向上した。
【0022】
[試験例3]
水稲(品種:黒米 さよむらさき)に対して 1)有効分げつ促進剤0.1%液、2)無散布の2試験区を設定し、1)の区については田植え後30日目と100日目に有効分げつ促進剤を10 a(約12,000株)あたり500 Lを全面葉面散布した。田植え後30日目は有効分げつ期〜無効分げつ期に、100日目は出穂期に相当する。
【0023】
収穫後に堀上調査したところ、図2に示すように1)の区(処理区)では発根量(細根量)と分げつ数が多く、根が白く健全な状態が維持されていた。
また1)の区では有効分げつ促進剤の葉面散布によって総収穫量が1.13倍増加した(有効分げつ促進剤処理区;329.7 kg/10a 、無散布区;292.6 kg/10a)。
【要約】      (修正有)
【課題】稲科等の植物の有効分げつを促進できる新規な技術の提供。
【解決手段】酵母、酵母の抽出物、又は酵母の細胞壁と、リン酸又はリン酸化合物及びカリウムまたはカリウム化合物と、を含む混合物に過熱水蒸気処理を施すことにより得られる微生物材料過熱水蒸気処理物を含む、有効分げつ促進剤。好ましくは、該微生物材料過熱水蒸気処理物をイネ科植物に処理することを含む、有効分げつを促進する方法。より好ましくは、該微生物材料過熱水蒸気処理物を葉面散布することにより、イネ科植物に処理する有効分げつを促進する方法。
【選択図】なし
図1
図2