【実施例】
【0017】
次に実施例、試験例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0018】
1.皮膚粘弾性及びNGALの測定
A.方法
(1)試験対象
健常者女性45歳〜69歳(37名)
【0019】
(2)キュートメーターを使用した粘弾性測定
顔面右頬部に測定部位を統一して粘弾性を測定した。測定はキュートメーターMPA580を用いて、付属のプローブを用いて、吸引径6ミリで300mbの吸引圧を5秒間吸引するモードで行った。
【0020】
B.NGALの測定
・角層採取
被験者の頬部より2.5×2.5cmの角層チェッカー(アサヒテクノラボ社)1枚を用いてストリッピングを行い、角層を採取した。
・角層抽出方法
ガラスビーズとT−PERバッファー(#78510/Thermo SCIETIFIC)500μlの入ったチューブに角層を採取した角層チェッカーを入れ、ビーズ式細胞破砕装置(Tommy)を用い、4600rmp、180秒にて角層タンパクを抽出した。
・角層中総タンパク量の測定
各サンプルのタンパク量はPierce BCA protein Assay Kit (Thermo Scientific #23225)を用いて測定した。測定には角層サンプルを10μlに reagentA: reagent=50:1で混和した液200μlを加え、60℃30分間インキュベーションしたのち、562nmの吸光度で測定した。同時に精製ウシ血清アルブミンを標準品として検量線を作成し、吸光度の値からタンパク量を算出した。
【0021】
・角層中NGAL量の測定
各サンプルのNGAL発現量は、市販のELISAキット(R&D systems#DY1757)を用い、サンドイッチ ELISA法によって次の基準で測定した。
(1)吸着抗体の固定化
96well plate(COSTAR #3590)にラットNGAL(rat anti−Lipocalin−2 Part 842271)を最終濃度2.0μg/mlになるようにPBS(−)(WAKO #16219321)で希釈したものを100μl/wellで添加し、25℃、酸素/窒素混合雰囲気でインキュベートした。
(2)ブロッキング
蒸留水を用いて10倍に希釈した希釈液(R&D #890803)を300μl/well加え25℃、1時間インキュベートした。
(3)サンプル添加
検量線作製用の遺伝子組み換えNGAL(recombinant human Lipocalin−2 Part 842273)、ヒト角層抽出液(T-PER bufferで2倍希釈)をそれぞれ100μl/wellで加え、25℃で2時間インキュベートした。
(4)検出用抗体反応
biotinylated goat anti−human Lipocalin−2(Part 842272)を終濃度100ng/mlになるように希釈液で希釈した反応液を100μl/well添加し、25℃、2時間インキュベートした。
(5)Streptavidin−HRP反応
Reagent Diluentで200倍に希釈したStreptavidin−HRP(Part 890803)を100μl/well添加し、25℃、20分間インキュベートした。
(6)TMB反応
TMB One Solution(Promega #G7431)を100μl/well添加し、25℃、7.5分間インキュベートした。
(7)反応停止液の添加と吸光度計での測定
0.5NH2SO4(Wako #198−09595)を100μl/well加え、反応を止め、SPECTRA MAX 190(Molecular Devices)を用いて450nm−540nmの吸光度を測定した。
なお手順(2)〜(6)を行う前には洗浄用緩衝液(0.05%Tween20/PBS)を用いてプレートの洗浄を行った
【0022】
角層中NGAL量として、抽出液中の総タンパク量で補正し、単位タンパク量あたりのNGAL量で表した。
【0023】
C.結果
粘弾性とNGALの相関解析
粘弾性及びNGALの測定結果についてピアソンの単相関分析を行い、単相関回帰式と相関係数を求めた。散布図グラフ及び回帰式を
図2、3に示す。
R2の粘弾性パラメータとNGAL測定値の相関係数r=0.319、R7の粘弾性パラメータとNGAL測定値の相関係数はr=0.303であった。この解析結果から皮膚角層のNGAL測定結果は、キュートメーターで測定した皮膚の粘弾性パラメータのR2、R7に代替できることが明らかとなった。
すなわち、皮膚の粘弾性の物理的な測定結果に変えて、NGALを測定することで皮膚の粘弾性を評価できた。
【0024】
2.老化指標としてのNGALの利用
NGALの測定結果を老化指標として利用することができないか試験を行った。
前記1.の試験と同様に健康な女性97名の頬部のNGALを測定し、年齢との相関の有無を確認するため、年齢とNGAL値について、ピアソンの方法による2元配置の相関分析を行った。散布図、一次回帰式、相関係数を
図5に示す。
【0025】
年齢とNGAL値には負の相関が存在することが確認できた。また前記のとおり皮膚の粘弾性とNGALには正の相関が観察されたことから、NGALを老化の指標として利用可能であることがわかった。
【0026】
以下に、皮膚粘弾性とNGALが関係していることを証明する試験例を示し説明する。
3.コラーゲンゲル収縮試験
皮膚の弾力性に係る皮膚の反応として、コラーゲン線維の収縮を指標として評価することができる。この試験は線維芽細胞を含むコラーゲンゲルは皮膚に弾力性を付与する化合物や組成物に反応してゲル収縮を起こす。NGALがこのコラーゲンゲル収縮を引き起こすことを確認する試験を行った。
(1)試験方法
コラーゲンゲルはブタ皮膚性コラーゲンI溶液(日本ハム社製、#307−31611)を使用した。まず、ヒト線維芽細胞(NHDF cell)を DMEM (Gibco #1996−065)+ 10% FBSで混濁し、600000 cells/mlに調整した後、細胞混濁液:ゲル溶液を1:6になるように混合し、氷冷上で2mlずつ6 well plateに分注した。37℃、CO
2雰囲気下で5時間培養した後、ゲルの固化を確認、調整したrecombinant human Lipocalin−2/NGAL protein(rhNGAL;R&D systems #1757−LC−050)を溶解した培地を2ml/wellずつ添加し、培養を継続した。48時間観察した後、培地を除き、PBSにて洗浄した後、10%ホルマリン溶液にて、24時間以上固定した。1% Triton−X 溶液に置換して、ゲル直径の計測を行った。各Wellにおいて、ゲル及びWellの直径を4つの角度から測定し、各Wellの面積当たりに対するゲルの面積を割って収縮率を算出し、3wellの平均値及び標準偏差値を求めた。
【0027】
(2)結果
コラーゲンゲル収縮の観察画像を
図5に示す。また収縮率のデータを
図6に示す。なお、データはStudent’s T−testにより対照群に対する統計解析を行い、*p<0.05、**p<0.01の危険率表示を付した。
rhNGALを添加すると、無添加のコントロールと比較して、NGAL添加により、濃度依存的にゲルの収縮率が高くなった。特にNGAL 1ng/ml以上の濃度において有意なゲル収縮が観察された。この結果から、皮膚において、NGALの濃度上昇に対応して皮膚の弾力性が上昇することが予測された。
【0028】
4.基底膜タンパク質の産生試験
基底層を構成するヒト表皮角化細胞を用いてNGAL発現の基底膜タンパク質に及ぼす作用を確認した。
(1)予備試験
(1−1)siRNAによるNGAL発現のノックダウン試験
NGALを産生している正常ヒト表皮角化細胞(NHEK細胞;LONZA)を用い、siRNAによるNGAL遺伝子発現の一時的抑制を行い、NGAL発現のノックダウンを試みた。
細胞培養にはEpiLife(登録商標) basal medium with 60 μM calcium(Life Technologies、USA)にHumedia−KG2増殖添加剤(倉敷紡績社製、日本)を添加したものを使用した。NHEK細胞は1×10
5cells/wellの密度で直径35mmの組織培養ウェルで50%コンフルエントになるまで培養した後、siRNA(Qiagen、USA)を細胞に導入した。なお、siRNAは無血清培地で調整し、100μl培地あたりHiPerFect(登録商標) Transfection Reagent(Qiagen、USA)を用いて、0.5 nMのHs_LCN2_6 FlexiTube siRNA(Qiagen、USA)内でsiRNAを細胞に導入した。またネガティブコントロールとして、All Stars Negative Control siRNA (Qiagen、USA)を用いて同様に操作を行った。導入細胞は、37℃、5%CO
2雰囲気の条件下で72時間培養を行った。
【0029】
(1−2)NGAL量の測定
各細胞の培養液中のNGAL量は市販のELISAキット(R&D systems#DY1757)を用い、sandwich ELISA法により測定した。
また、siRNAによるNGALノックダウンを確認するため同じく細胞外タンパク質であMMP−9を測定した。MMP−9の測定は、市販のELISAキット(R&D systems、#DY911(MMP−9))を用いて測定し、NGALが選択的に抑制されていることを確認した。
【0030】
(1−3)基底膜タンパク質の測定
1−1、1−2の試験でNGALが選択的に抑制されていることを確認した後、基底膜タンパク質の産生抑制を確認する。
基底膜タンパク質として、IV型コラーゲン(Collagen type IV)を測定した。
測定は、ウエスタンブロッティング法によった。培養上清を10−kDa Amicon ultra filter (Amicon、USA)を用いて10−kDa以上のタンパク質が含まれるように濃縮を行い、ウエスタンブロッティング用のサンプルとして用いた。調整した培養上清は、7.5% sodium dodecyl sulfate−polyacrylamide gel electrophoresisで分離し、0.2μm PVDF Trans−Blot Turbo Transfer Packに転写した。
Starting Block Blocking buffer in PBS with Tween−20(Thermo Scientific)を用いて、室温条件で1時間ブロッキングし、次いでblocking bufferで調整した一次抗体で、4℃で振動させながら一晩反応させた。
一次抗体には、anti−Rabbit Collagen type IV antibody(1/1000、 Abcam、USA)を使用した。
次いで、0.1% Tween 20−PBSで5分間(2回)10分間(1回)洗浄した。その後、2次抗体として、HRP−Rabbit−IgG(Invitrogen、Catalog No. 81−1620)を10000倍に希釈し、室温で1時間反応させた。
反応終了後ECL prime Western blotting detection reagent (GE Healthcare、Catalog No.RON2232)を用いて5分間反応させ、ルミノ・イメージアナライザー LAS−4000miniシリーズ(GE Healthcare)で検出した。
【0031】
(2)結果
(2−1)siRNAによるNGAL遺伝子ノックダウン結果
図7にNGAL産生量の測定結果、
図8にMMP−9産生量の測定結果を示す。明らかにsiRNAによってNGAL産生が抑制されることが確認できた。
【0032】
(2−2)NGAL遺伝子ノックダウンによる基底膜タンパク質の産生量測定結果
図9にIV型コラーゲンの測定結果を示す。
いずれの基底膜タンパク質も顕著に産生が抑制されていた。
【0033】
(3)NGAL刺激による基底膜タンパク質の産生促進試験
(3−1)NGAL存在下での細胞培養
NHEK細胞をrhNGAL存在下で48時間培養した。NHEK細胞は、1×10
5cells/wellの密度で直径35mm組織培養ウェルを用いて、50%コンフルエントになるまで培養した。次いで、rhNGALを無血清培地に溶解させた培養液に交換した。また比較のため、コントロールとして無血清培地のみの培地に交換したものを、同様に培養を行った。なお培養液中のNGAL濃度は0.1、1.0、10ng/mlとした。また培養条件は、37℃、5%CO
2雰囲気とした。
培養用終了後、培養上清中の培養上清中のIV型コラーゲンをウエスタンブロッティング法により測定した。なお測定は前記のルミノ・イメージアナライザーで行った。
【0034】
(3−2)結果
測定結果を
図10に示す。IV型コラーゲンは、NGAL濃度に対応して顕著に増加した。
以上の試験結果から、NGAL濃度の増加は基底膜タンパク質であるIV型コラーゲンを増加させることが明らかとなった。基底膜タンパク質の増加は皮膚の粘弾性改善に関わっており、この点からもNGALを皮膚の粘弾性の指標とすることは有用であることが裏付けられた。
またNGALは濃度依存性の基底膜タンパク質産生促進作用を有することが判明した。したがってNGALは基底膜タンパク質の産生促進剤として利用可能である。