(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数組の巻線群を有する多重巻線電動機の各巻線群毎に、当該巻線群を駆動する電力変換器と、当該巻線群の電流を検出する電流検出器と、この電流検出器により検出された当該巻線群の電流値と、入力される当該巻線群の電流指令値との電流偏差に基づいて、当該巻線群を駆動する電力変換器を制御する電圧指令値を求めて前記電力変換器を制御する制御部と、各巻線群のうちの第一巻線群を駆動する第一電力変換器を制御する第一制御部の信号を用いて前記第一電力変換器以外の他の電力変換器を制御する他の制御部の信号を補償する補償量を求める補償量演算部とを備え、この補償量演算部により求めた補償量により前記他の制御部の信号を補償して前記他の電力変換器を制御し、前記第一制御部の信号は補償せずに前記第一電力変換器を制御する多重巻線電動機の駆動制御装置において、
前記第一巻線群の前記電流指令値から前記第一巻線群の電流までの制御系は、前記他の制御部の制御ゲインが前記第一制御部の制御ゲインとして設定された制御ゲインと同一に設定された場合には、ゲイン零交差周波数における位相遅れが180度以上となる制御系であって、前記他の制御部の制御ゲインが前記第一制御部の制御ゲインとして設定された制御ゲインよりも小さく設定されるとともに、前記補償量演算部は、前記第一制御部の信号を用いて前記他の電力変換器を制御する電圧指令値を補償する補償量を求め、前記第一制御部の制御ゲインとして設定された制御ゲインよりも小さく設定された前記他の制御部の制御ゲインを用いて求めた後の前記他の電力変換器の電圧指令値の信号を、前記補償量演算部で求めた補償量を用いて補償することを特徴とする多重巻線電動機の駆動制御装置。
複数組の巻線群を有する多重巻線電動機の各巻線群毎に、当該巻線群を駆動する電力変換器と、当該巻線群の電流を検出する電流検出器と、この電流検出器により検出された当該巻線群の電流値と、入力される当該巻線群の電流指令値との電流偏差を用いて、当該巻線群を駆動する電力変換器を制御する電圧指令値を求めて前記電力変換器を制御する制御部と、各巻線群のうちの第一巻線群を駆動する第一電力変換器を制御する第一制御部の信号を用いて前記第一電力変換器以外の他の電力変換器を制御する他の制御部の信号を補償する補償量を求める補償量演算部とを備え、この補償量演算部により求めた補償量により前記他の制御部の信号を補償して前記他の電力変換器を制御し、前記第一制御部の信号は補償せずに前記第一電力変換器を制御する多重巻線電動機の駆動制御装置において、
前記補償量演算部は、前記第一制御部の前記電流指令値の信号を用いて、前記他の制御部の前記電圧指令値の信号、または前記他の制御部の前記電流偏差の信号を補償する補償量を求めることを特徴とする多重巻線電動機の駆動制御装置。
複数組の巻線群を有する多重巻線電動機の各巻線群毎に、当該巻線群を駆動する電力変換器と、当該巻線群の電流を検出する電流検出器と、この電流検出器により検出された当該巻線群の電流値と、入力される当該巻線群の電流指令値との電流偏差を用いて、当該巻線群を駆動する電力変換器を制御する電圧指令値を求めて前記電力変換器を制御する制御部と、各巻線群のうちの第一巻線群を駆動する第一電力変換器を制御する第一制御部の信号を用いて前記第一電力変換器以外の他の電力変換器を制御する他の制御部の信号を補償する補償量を求める補償量演算部とを備え、この補償量演算部により求めた補償量により前記他の制御部の信号を補償して前記他の電力変換器を制御し、前記第一制御部の信号は補償せずに前記第一電力変換器を制御する多重巻線電動機の駆動制御装置において、
前記第一巻線群の前記電流指令値から前記第一巻線群の電流までの制御系は、前記他の制御部の制御ゲインが前記第一制御部の制御ゲインとして設定された制御ゲインと同一に設定された場合には、ゲイン零交差周波数における位相遅れが180度以上となる制御系であって、前記他の制御部の制御ゲインが前記第一制御部の制御ゲインとして設定された制御ゲインよりも小さく設定されるとともに、前記補償量演算部は、前記第一制御部の前記電圧指令値の信号を用いて前記他の制御部の前記電流指令値の信号を補償する補償量を求めることを特徴とする多重巻線電動機の駆動制御装置。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態1による多重巻線電動機の駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の原理を説明するための、2重巻線電動機のモータモデルを表現するq軸ブロック図である。
【
図3】本発明の原理を説明するための、2重巻線電動機のモータモデルを1群のみの入出力で表現するブロック図である。
【
図4】本発明の原理を説明するための、2多重巻線電動機の制御におけるボード線図である。
【
図5】
図4のボード線図の作成に用いたモータ定数を表で示した図である。
【
図6】本発明の原理を説明するための、
図3のモータモデルのブロック図にゲイン調整部を付加したブロック図である。
【
図7】本発明の実施の形態1による多重巻線電動機の駆動制御装置の構成を示すより詳細なブロック図である。
【
図8】本発明実施の形態1による多重巻線電動機の駆動制御装置の効果を説明するための、2巻線電動機のシミュレーション結果を示す第一の図である。
【
図9】本発明実施の形態1による多重巻線電動機の駆動制御装置の効果を説明するための、2巻線電動機のシミュレーション結果を示す第二の図である。
【
図10】本発明の実施の形態2による多重巻線電動機の駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図11】本発明の実施の形態3による多重巻線電動機の駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図12】本発明の実施の形態4による多重巻線電動機の駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図13】本発明の実施の形態5による多重巻線電動機の駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図14】本発明の実施の形態5による多重巻線電動機の駆動制御装置の構成の一例を示すより詳細なブロック図である。
【
図15】本発明の実施の形態5による多重巻線電動機の駆動制御装置の構成の別の例を示すより詳細なブロック図である。
【
図16】本発明の実施の形態5による多重巻線電動機の駆動制御装置の構成のさらに別の例を示すより詳細なブロック図である。
【
図17】本発明の実施の形態6による多重巻線電動機の駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図18】本発明実施の形態6による多重巻線電動機の駆動制御装置の効果を説明するための、2巻線電動機のシミュレーション結果を示す第一の図である。
【
図19】本発明実施の形態6による多重巻線電動機の駆動制御装置の効果を説明するための、2巻線電動機のシミュレーション結果を示す第二の図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
先行技術においては、例えば2組の巻線群間において、両方の巻線群において干渉を補償するように制御する、あるいは両方の巻線群の電流が一致するように制御する、といった、いわば2組の巻線群において、対称な制御を行うことに主眼が置かれていた。しかし、複数の巻線群間の制御系におけるむだ時間については考慮されていなかった。本発明者らは、多重巻線電動機の電流制御において制御系にむだ時間が含まれることが、群間干渉による不安定化の原因の一つであることを明らかにして、非対称な制御を行うことにより群間干渉の抑制を実現した。
【0014】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1による多重巻線電動機の駆動制御装置の構成を示すブロック図である。実施の形態1では、多重巻線電動機として、第一巻線群20aおよび第二巻線群20bの2組の巻線群を有する2重巻線電動機の駆動制御を行う場合を例として説明する。多重巻線電動機2を駆動制御する多重巻線電動機の駆動制御装置50は、電源6a、6bから供給される電力を変換して各巻線群に電力を供給する電力変換器1a、1bを備え、各巻線群に流れる電流が、入力される電流指令値に一致するように電力変換器1a、1bに対して電流制御を行う。この制御を行う制御部30a、30bは、基本として、各巻線群の3相の電流値を電流検出器40a、40bにより取り込み回転座標上の2相に変換して出力する3相−2相座標変換部8a、8bと、各巻線群について入力された電流指令から電圧指令値を演算する電流制御部23a、23bと、2相の電圧指令値を3相の電圧指令値に変換する2相−3相座標変換部3a、3bとを備えている。ここで、電流制御部23aと電流制御部23bの制御応答、すなわち制御ゲインは等しくなるよう設定されている。
【0015】
本実施の形態1による駆動制御装置50は、さらに、巻線群間の磁気結合による干渉を補償するための補償量を演算する補償量演算部5を備え、第二巻線群20bを制御する制御部30bは、この補償量を電圧指令値に加算する補償量加算部9と、ゲイン調整部10とを備えている。電流制御部23a、23bは例えばPI制御を用いて各巻線群の電流値を所望の電流制御応答で、入力される電流指令値に追従させることができる。本発明では、第一巻線群を駆動制御するための部分に「第一」を付加して呼ぶことがある。すなわち、電力変換器1aを第一電力変換器1a、制御部30aを第一制御部
30aなどである。また、第一巻線群以外の巻線群を駆動制御するための部分に「他の」を付加して呼ぶことがある。すなわち、電力変換器1bを他の電力変換器1b、制御部30bを他の制御部30bなどである。
【0016】
多重巻線電動機において群間干渉は各巻線群の電流制御を行う上で外乱となり、制御系を不安定化させるなど、制御性能に悪影響を及ぼす可能性がある。このため、本発明では補償量演算部5によりこの干渉による外乱の影響をなくすように補償を行い、電流制御系の安定化を実現する。この原理を説明するため、
図2に2多重巻線電動機のモータモデルのq軸ブロック図を示す。図中符号のvq1は第一巻線群q軸電圧、vq2は第二巻線群q軸電圧、vq1
intは群間干渉により第二巻線群が第一巻線群に与えるq軸電圧外乱、vq2
intは群間干渉により第一巻線群が第二巻線群に与えるq軸電圧外乱、iq1は第一巻線群q軸電流、iq2は第二巻線群q軸電流、R
1、R
2はそれぞれ第一巻線群、第二巻線群の巻線抵抗、L
1q、L
2qはそれぞれq軸の第一巻線群、第二巻線群の換算自己インダクタンス、M
bankは巻線群間の換算相互インダクタンス、R
bankは巻線群間の相互換算の抵抗、sはラプラス変換の微分演算子を表す。ここで換算インダクタンスとは、電動機モデルの入力を電機子電流、出力を電機子電圧として、単純な抵抗とリアクトルのみの1次のモデルとして表現する場合のインダクタンスである。
【0017】
図2のモータモデルから、群間結合の干渉により電圧vq1
int、vq2
intが互いの巻線群に外乱として入力されることが分かる。この外乱が群間干渉を引き起こしているため、これを相殺するように補償する。
【0018】
本実施の形態1では、片方向のみ通信可能な制御構成においても、全巻線群について非干渉化を行うために、通信可能な片方向については電圧指令を補償することに加え、さらに制御のむだ時間を含み帰還する項の影響を小さくすることで非干渉化を実現する。多重巻線電動機のモデルを1群のみの入出力で表現した
図3のブロック図により、その原理を説明する。
図3に示したモータモデル中の群間干渉部にはむだ時間Ti、Tvが含まれている。Tiは電流サンプリングのむだ時間、Tvは電圧指令出力から反映までのむだ時間をそれぞれ表している。
図3中のvq2
intは
図2同様に群間干渉により第一巻線群が第二巻線群に与える電圧外乱、iq2
intは外乱電圧vq2
intが与える電流外乱を表す。
【0019】
群間干渉による不安定化現象は、むだ時間がない理想状態では発生せず、むだ時間が群間干渉項に含まれる場合にのみ生じる。これを表すボード線図を
図4に示す。このボード線図は電流制御応答800rad/sの設定で2多重巻線電動機を制御する場合において、電流指令vq1を入力、モータモデルの電流出力iq1を出力として求めたボード線図である。実線の曲線がむだ時間Ti=0.5ms,Tv=1.0msの場合、破線の曲線がむだ時間なしの理想状態の場合を表し、上段の図がゲインのグラフ、下段の図が位相のグラフである。用いたモータ定数は
図5に示す表の通りである。
図4より、むだ時間がない場合は周波数800rad/sにおいてゲインが零交差し設計通りの電流制御応答で制御できており、ゲインの増大もなく安定であることが分かる。一方、むだ時間がある場合はゲインが増大し、周波数1000rad/sを超えてもゲインが0dB以上となり、ゲインの零交差周波数における位相遅れは180度以上で不安定である。これにより、制御系にむだ時間が含まれることによって、制御系が不安定化することが分かる。
【0020】
そのため本発明では、むだ時間を含み帰還する項の影響を小さくすることで非干渉化を実現する。このためには電流制御応答のゲインを調整することが有効である。具体的には、本実施の形態1では第二巻線群の電流制御部
23bが出力する電圧指令値をゲイン調整部10により制御ゲインが小さくなるよう補正する。
図3のモータモデルにゲイン調整部を加えたブロック図が
図6であり、図中のKgがゲイン調整部を表している。制御ゲインが小さくなるよう補正するゲイン調整部10を設けることは、第二巻線群の制御部の制御ゲインが、第一巻線群の制御ゲインより小さくなるように設定することを意味する。すなわち、ここでは、電流制御部23aと電流制御部23bの制御応答、すなわち制御ゲインが等しくなるよう設定し、第二巻線群の制御部30bにゲイン調整部10を設ける構成で説明しているが、ゲイン調整部10を設けずに第二巻線群の電流制御部23bの制御ゲインを第一巻線群の電流制御部23bの制御ゲインよりも小さく設定しても良いのは言うまでもない。
図6より、第二巻線群の制御部の制御ゲインが、第一巻線群の制御ゲインより小さくなるように設定することにより、第二巻線群の制御器を介してむだ時間e
-Tiおよびe
-Tvを含んで帰還する量の影響を小さく抑えることができ、非干渉化が実現できることが分かる。
【0021】
以上により非干渉化を施した電圧指令値が演算され、各巻線群の電圧指令値が決定される。第一巻線群においては電流制御部23aから出力される回転座標上2相の電圧指令値を3相電圧に変換する2相−3相座標変換部3aにより3相電圧指令値を演算して電力変換器1aに出力する。第二巻線群においては、電流制御部23aから出力される回転座標上2相の電圧指令値に補償量演算部5で演算して求めた補償量を補償量加算部9で加算する。補償量加算部9から補償量を加算して出力される回転座標上2相の電圧指令値を、3相電圧に変換する2相−3相座標変換部3bにより、3相電圧指令値を演算して電力変換器1bに出力する。電力変換器1a、1bは、電源6a、6bの電圧を2相−3相座標変換部3a、3bからの電圧指令値に応じた電圧に変換して、多重巻線電動機2のそれぞれの巻線群に出力する。ここで、2相−3相座標変換部3a、3b、および3相−2相座標変換部8a、8bにおいて、巻線群間の位相差がある場合には、座標変換において用いる位相にも位相差を考慮して巻線群間で合わせる必要があることに留意する必要がある。
【0022】
図7は、
図1の電流制御部23a、23bおよび補償量演算部5の具体的な一例を示すブロック図である。電流制御部23a、23bは、3相−2相座標変換部から入力される出力電流をフィードバックして電流指令との偏差を演算する電流偏差演算部7a、7bと、電流偏差演算部7a、7bの演算結果から電圧指令値を演算する電流制御器4a、4bを備えている。本実施の形態1では群間干渉の影響を抑えるための第二巻線群に対する補償量を、第一巻線群の電圧指令値を用いて補償量演算部5により演算して求める。この演算は例えば補償量演算部5のゲインを、d軸q軸においてそれぞれG
ad、
G
aqとして次のように設定する。
【数1】
ここでL
1dはd軸の第一巻線群換算自己インダクタンスである。
【0023】
この補償の原理について説明する。
図2でも示したとおり、多重巻線電動機の巻線間干渉は、一の巻線群に流れる電流に対して他の巻線群が作る磁束が鎖交して、その磁束変化を妨げる向きの電圧が一の巻線群に発生する。他の巻線群から誘起される電圧が外乱となるため、補償電圧はこれを相殺するように、想定する外乱を逆符号で電圧指令に加算して補償する。これにより
図2のモータモデルにおいて群間干渉項を打ち消すことができる。またモータの時定数より十分大きい高周波領域では次のように近似することができ、より簡易な演算により非干渉化を実現することができる。
【数2】
【0024】
一般にモータ駆動においては、モータ時定数により決まる周波数に対して十分高い周波数領域の基本周波数にて動作するため、このように簡易計算を用いても十分な非干渉効果が得られる。
【0025】
本発明では第一巻線群を主制御装置とするため、第一巻線群の電圧指令値を用いて第二巻線群の電圧指令値を補償する。前述のとおり、第一巻線群については主制御装置でありこのような補償を行なわず、第二巻線群の電圧指令値を第二巻線群の制御器の制御ゲインを調整することで非干渉化を実現する。これにより、第一巻線群に対する群間干渉の影響も抑えることができる。これは、群間干渉により制御性に悪影響を及ぼすのは、他の巻線群を介して自群に戻るむだ時間を含む量であり、これを小さく抑えるには他の巻線群の電流制御ゲインを小さく設定することが効果的であるためである。電流制御ゲインは例えば次のように設定する。
【数3】
【0026】
このとき電流制御器4bの入力からゲイン調整部10の出力までの伝達関数G
c2d’、G
c2q’は次のように表せる。
【数4】
ここでKgはむだ時間の影響を抑えるための調整ゲインであり、例えばK
g<1.0の定数として設定する。式(1)、式(2)において、K
pd1、K
id1、K
pd2、K
id2はそれぞれd軸電流制御の比例ゲイン、および積分ゲインで、K
pq1、K
iq1、K
pq2、
K
iq2はq軸電流制御の比例ゲイン、および積分ゲインであり、電流制御応答に応じて設定する。
【0027】
ゲイン調整部10の効果について説明するため、
図8および
図9に2巻線電動機のシミュレーション結果を示す。2巻線電動機は簡単のため2つの巻線群が対称であるとし、電動機の定数は第一巻線群、第二巻線群、また制御軸d軸、q軸で等しいとしている。モータ定数は
図5の表に記載の値を用いた。
図8および
図9はいずれも、結合比M
bank/L
1=0.33である2重巻線電動機において、補償ゲインをG
ad=G
aq=M
bank/L
1=0.33として設定し、両巻線群のq軸電流指令にステップ信号を入力したときの、シミュレーションによるq軸電流出力波形である。グラフ中の記号はそれぞれ、iqref1:第一巻線群q軸電流指令、
iqout1:第一巻線群q軸電流出力、iqref2:第二巻線群q軸電流指令、iqout2:第二巻線群q軸電流出力を示す。
【0028】
図8は第二巻線群の電流制御ゲインが第一巻線群と等しいK
g=1の場合、つまりゲイン調整をしない場合を示し、
図9は第二巻線群の電流制御ゲインが第一巻線群のゲインの0.7倍、つまりK
g=0.7とした場合の電流波形である。第二巻線群のゲイン調整をしない
図8のグラフでは電流振動が徐々に大きくなり発散する。ゲイン調整を行った
図9のケースでは、ステップ指令入力後も安定に動作することがわかる。これにより片方の群のゲイン調整を行うことで、群間干渉による不安定化を抑制する効果があることが確認できる。このように、従来はできるだけ対称な制御を行うことにより群間干渉を抑制しようとしていたのを、本発明では非対称な制御を行うことにより制御系のむだ時間の影響を低減でき、群間干渉の抑制が実現できることを実証した。
【0029】
本実施の形態1の非干渉化制御方式は片方向の通信のみを用いて多重巻線電動機の群間非干渉化制御を実現できる方式となっているが、各巻線群間で双方向の通信が可能な制御装置においても、本非干渉化方式を用いることで非干渉化が実施できることは言うまでもない。
【0030】
実施の形態2.
図10は本発明の実施の形態2による多重巻線電動機の駆動制御装置の構成を示すブロック図である。実施の形態2では、多重巻線電動機として、3組の巻線群を有する3重巻線電動機の駆動制御を行う場合を例として説明する。第三巻線群の電流制御に関しては実施の形態1の第一巻線群に対する第二巻線群の関係と同様の構成となっており、本実施の形態2では電力変換器1c、座標変換部3c、電流制御器4c、電流偏差演算部7c、座標変換部8cおよびゲイン調整部10bを、実施の形態1の構成を示す
図7の構成要素に追加している。さらに、群間干渉の補償量演算についても、補償量演算部51として、第二巻線群の電圧指令を用いて第三巻線群の群間干渉補償量を演算し、補償量加算部9において加算するようにしている。3多重巻線においては第一巻線群と第二巻線群のみでなく、第一巻線群と第三巻線群、第二巻線群と第三巻線群の間にも巻線間結合が生じる。これらの巻線間結合によっても、各巻線群の電流、電圧が影響を受けるため、非干渉化補償を第二巻線群第三巻線群間にも実施することにより高精度な非干渉化補償が可能となる。そのために補償量演算部51では新たな補償項G
a2d、G
a2q、およびG
a3d、
G
a3qを加えている。ここでも、第一巻線群の制御部では補償を行わない。
【0031】
本実施の形態2においても、実施の形態1と同様に電流制御ゲインおよび補償量演算式を設定することができる。補償量演算式は実施の形態1と同様に、群間干渉による外乱を打ち消すように設定すればよい。また、電流制御器4a、4b、4cも各巻線群の電流制御応答に応じて設定する。調整ゲインについては例えばK
g2<1.0、K
g3<1.0となるような定数に設定することにより、むだ時間を含んで他群の制御器を介して帰還する量の影響を小さくでき、非干渉化できる。また巻線群の数が4以上の場合についても、他の巻線群の電圧指令を用いることにより群間干渉補償量を演算できるため、第一巻線群の制御部では補償を行わずに、非干渉化補償が可能である。これにより3組以上の巻線群を備える多重巻線電動機においても群間干渉による外乱の影響を小さくでき、安定駆動が可能となる。以降の実施の形態においても、3多重以上の巻線群を持つ電動機について、本実施の形態2と同様に巻線群数に応じた非干渉化が可能であることは言うまでもない。
【0032】
実施の形態3.
図11は本発明の実施の形態3による多重巻線電動機の駆動制御装置の構成を示すブロック図である。本実施の形態3は、電流偏差から補償量を電圧量として求めることが特徴であり、その他の構成要素については実施の形態1と同様である。多重巻線電動機の駆動制御装置50は補償量演算部52を備え、補償量演算部52は、補償を行わない巻線群、すなわち
図11においては第一巻線群の電流指令値と電動機の出力電流との電流偏差の信号を入力として、補償量の演算を電圧量として行う。実施の形態1および実施の形態2では、群間干渉を抑制するための補償量演算に用いる情報は電圧としていた。電流制御器4aの特性は既知であり、この特性を踏まえて補償量演算をすることで電流値からの補償量演算も同様に可能である。このため、本実施の形態3では電流量から演算を行う構成とした。調整ゲイン10やその他の制御演算については実施の形態1および実施の形態2と同様である。以上のように、電流偏差の信号を用いて補償量演算を行うことによっても非干渉化を実現することができる。本実施の形態によれば、補償量は第一巻線群の電流制御ゲインの影響を受けないため、各群の電流制御応答設定を変える場合にも、補償量演算の設定が容易にできるという利点がある。
【0033】
実施の形態4.
図12は本発明の実施の形態4による多重巻線電動機の駆動制御装置の構成を示すブロック図である。本実施の形態4は電流指令値の信号を用いて補償量演算を行うことを特徴とし、その他の構成要素については実施の形態1と同様である。多重巻線電動機の駆動制御装置50は電流指令値から電圧補償量演算を行う補償量演算部53を備えている。ここで指令値には出力電流の情報が含まれておらず、実際に流れる電流の引き起こす群間干渉の影響は考慮しない。しかしながら、速度制御や位置制御などの上位の制御系から与えられる電流指令値の信号が急変した場合に、電流指令値の信号を補償量演算に用いることによって、その変動分が群間干渉として影響を及ぼすのを抑制することが可能となる。補償量演算部53の演算についても、他の実施の形態と同様に巻線間の干渉を相殺するように補償量演算を行う。指令値が等しい場合には他の巻線群の電流指令値の信号を用いても同様の効果が得られる。以上により、電流指令値の信号を用いることによっても、多重巻線電動機の非干渉化を実現し、電動機の安定駆動を実現することができる。
【0034】
実施の形態5.
図13は本発明の実施の形態5による多重巻線電動機の駆動制御装置の構成を示すブロック図である。本実施の形態5は電流量として群間干渉のための補償量を求める構成となっている。補償量演算の部分以外は実施の形態1と同様である。電流制御部23aが出力する補償量演算用の信号を補償量演算部54に入力する。補償量演算部54は入力される補償量演算用の信号により電流補償量を求めて出力し、その電流補償量を補償量加算部90により電流指令値に加算して補償する。
図13では第一巻線群については補償を行わず、第二巻線群については第一巻線群の電流制御部23aから受ける補償量演算用信号より補償量を計算して非干渉化補償を行う構成であり、このように第一巻線群から第二巻線群への片方向通信のみで非干渉化を実現できることが本形態の特長である。ただし実施の形態1と同様に、本非干渉化方式は双方向の通信が可能な構成をもつ制御装置においても適用可能で非干渉化を実現することができるのは言うまでもない。双方向通信においても片方向通信の場合と同じ非干渉化手法を用いることができるため、通信方向による制御回路変更が必要なく、共通化できるという利点がある。
【0035】
図14は電流補償量演算の一例について詳しく説明したブロック図である。駆動制御装置50は群間非干渉化のための補償量を電流値として補償量演算部54により求める構成となっている。第一巻線群の電流偏差演算部7aにより演算した第一巻線群の出力電流と電流指令値との電流偏差の信号により補償量演算部54において演算した補償量は補償量加算部90において第二巻線群の電流指令値に加算され、電流偏差演算部7bにより出力電流との偏差を演算したのちに電流制御器4bに入力される。実施の形態1と同様に電流制御ゲインは(1)式、(2)式により設定でき、補償量演算部についても同様に巻線間の干渉を相殺するように補償量演算を行う。
【0036】
図15および
図16により電流補償量演算の異なる例を示す。補償量演算用の信号として、
図15では第一巻線群の電圧指令を、
図16では第一巻線群の電流指令を用いている。
図15は電圧指令値の信号を用いて電流補償量演算を行うもので、電流制御器4aの特性が既知であることから、実施の形態1と同様に補償量演算やゲイン調整を行うことで、非干渉化効果が得られる。また
図16では、電流指令値の信号を用いて補償量演算を行うもので、実施の形態4と同様に、上位の指令値急変に対応した電流変動が引き起こす群間干渉を補償して非干渉化を実現することができる。指令値が等しい場合には第二巻線群の電流指令値を用いても同様の効果が得られる。
【0037】
このように補償量演算および電流制御ゲインを適切に設定することで、本構成においても電圧で補正を行う場合と同様の非干渉化効果が得られ、電流制御系の安定化、および高応答化を実現する効果が得られる。巻線群の数が3以上の場合についても同様に本方式を用いて非干渉化が可能である。
【0038】
実施の形態6.
図17は本発明の実施の形態6による多重巻線電動機の駆動制御装置の構成を示すブロック図である。実施の形態1から実施の形態5まででは、補償を行う巻線群の制御部の制御ゲインを調整するゲイン調整部を設け、第二巻線群の制御部30bの制御ゲインが第一巻線群の制御部30aの制御ゲインよりも小さくなるよう設定していた。本実施の形態6では、第一巻線群の制御部30aの信号を用いて第二巻線群の制御部30bの電圧指令値を補償する補償量を演算する補償量演算部5のみを設け、第二巻線群の制御部30bにゲイン調整部を設けていない。すなわち、第一巻線群の制御部30aの制御ゲインと第二巻線群の制御部30bの制御ゲインが等しくなるよう設定している。
【0039】
このように、ゲイン調整を行うことなく、第一巻線群の制御部30aの信号の情報から演算により得た補償量により第二巻線群の制御部30bの信号を補償するだけでも非干渉化が可能である。例えば、第一巻線群の制御部
30aの電流制御部23a、および第一巻線群の制御部30bの電流制御部23bの電流応答、すなわち制御ゲインが小さくても電流偏差を小さく、すなわち各巻線群の電流値を電流指令値に近づけることができる系であれば、第二巻線群の制御部30bの制御ゲインを第一巻線群の制御部30aの制御ゲインと同じ制御ゲインに設定していても非干渉化ができる。
【0040】
図18および
図19に、ゲイン調整部を備えない場合の2巻線電動機のシミュレーション結果を示す。
図18の実線は、第二巻線群の制御信号を補償しない場合の第一巻線群q軸電流出力iqout1および第二巻線群q軸電流出力
iqout2を示している。
図18と同じ系において、
図17における補償量演算部5および補償量加算部9を備え、第二巻線群の制御信号を補償した場合の第一巻線群q軸電流出力iqout1および第二巻線群q軸電流出力iqout2を、
図19に示す。このように、第二巻線群の制御部30bにおいてゲイン調整部を設けず、すなわち第一巻線群の制御部30aの制御ゲインと第二巻線群の制御部30bの制御ゲインを同じ制御ゲインに設定し、補償量演算部5により演算した補償量を加算するだけで非干渉化を達成できる条件が存在することがわかる。
【0041】
ここでは、実施の形態1における
図7に相当する構成においてゲイン調整部を備えない構成について説明したが、他の実施の形態における構成においてゲイン調整部を備えない構成についても、同様に非干渉化を達成できる条件が存在するのは言うまでもない。
【0042】
以上説明したように、本発明によれば、第一巻線群を駆動する第一電力変換器を制御する第一制御部のいずれかの信号を用いて、第一電力変換器以外の他の電力変換器を制御する他の制御部のいずれかの信号を補償する補償量を求めて、このいずれかの信号を補償して他の電力変換器を制御し、第一制御部の信号は補償せずに第一電力変換器を制御することにより、制御系によるむだ時間の影響を低減して群間干渉を抑制できる多重巻線電動機の駆動制御装置を実現できた。
【0043】
なお、本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略したりすることが可能である。
複数組の巻線群を有する多重巻線電動機の各巻線群毎に、巻線群を駆動する電力変換器を備えた多重巻線電動機の駆動制御装置において、各巻線群のうちの第一巻線群を駆動する第一電力変換器を制御する第一制御部の信号を用いて、第一電力変換器以外の他の電力変換器を制御する他の制御部の信号を補償する補償量を求める補償量演算部を備え、この補償量演算部により求めた補償量により他の制御部の信号を補償して他の電力変換器を制御し、第一制御部の信号は補償せずに第一電力変換器を制御するようにした。