特許第5866194号(P5866194)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5866194
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】空調装置および鉄道車両
(51)【国際特許分類】
   F24F 13/20 20060101AFI20160204BHJP
   B60H 1/00 20060101ALI20160204BHJP
【FI】
   F24F1/00 401C
   B60H1/00 102S
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-271749(P2011-271749)
(22)【出願日】2011年12月12日
(65)【公開番号】特開2013-122362(P2013-122362A)
(43)【公開日】2013年6月20日
【審査請求日】2014年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 正憲
(72)【発明者】
【氏名】鬼武 康夫
(72)【発明者】
【氏名】原 由典
【審査官】 横溝 顕範
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−082681(JP,A)
【文献】 特開2006−194459(JP,A)
【文献】 特開2008−241142(JP,A)
【文献】 特開2001−215048(JP,A)
【文献】 特開2001−322544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 13/20
F24F 1/00
B60H 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸込口と、
前記吸込口に設けられ、互いに間隔を隔てて略平行に配置された複数の桟と、前記複数の桟の吸込側の端部に位置する吸込面とを有する吸込グリルと、
前記吸込グリルを介して前記吸込口から空気を吸い込む送風機とを備え、
前記複数の桟のそれぞれは、前記吸込面から空気の流れの下流側に向かって順に配置された、前記吸込面に対して傾斜する傾斜板部と、前記傾斜板部から連続的に形成され前記吸込面に対して略直交方向かつ下流側に延びる整流板部とを有し、
前記複数の桟を構成する互いに隣接する2つの桟のうち、一方の桟を第1桟とし、前記第1桟に対して前記第1桟の前記傾斜板部が前記吸込面に向かって傾斜する側にある他方の桟を第2桟とし、前記第1桟における下流側端縁および上流側端縁の両方を含む平面を仮想基準面としたとき、
前記第2桟における前記整流板部と前記傾斜板部との境界部の少なくとも一部は、前記仮想基準面よりも前記第1桟側にある、空調装置。
【請求項2】
前記吸込グリルの下流側であって、かつ前記送風機の上流側に配置され、前記吸込グリルを通過した空気を整流する整流部をさらに備える、請求項に記載の空調装置。
【請求項3】
前記整流部の上流側の主面は、前記吸込面に対して略平行に配置されている、請求項に記載の空調装置。
【請求項4】
前記整流部は、空気を通す多数の孔を有するエアフィルタである、請求項またはに記載の空調装置。
【請求項5】
前記吸込面に対する前記整流板部の角度αは、90度を基準として±20度の範囲内である、請求項1ないしのいずれかに記載の空調装置。
【請求項6】
前記吸込面に対する前記傾斜板部の傾斜角度βは、25度以上、かつ、55度以下である、請求項1ないしのいずれかに記載の空調装置。
【請求項7】
前記複数の桟のそれぞれの前記吸込面と直交する方向の長さをDとしたとき、当該方向における前記整流板部の長さd1は、0.35D以上、かつ、0.65D以下である、請求項1ないしのいずれかに記載の空調装置。
【請求項8】
前記複数の桟のそれぞれの前記吸込面と直交する方向の長さをDとしたとき、前記吸込グリルの下流側の端面と前記整流部の上流側の主面との間隔Hは、0以上、かつ、2D以下である、請求項ないしのいずれかに記載の空調装置。
【請求項9】
請求項1ないしのいずれかに記載の空調装置と、
車室を有する車体とを備え、
前記車室の天井面に前記吸込口が設けられる、鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸込グリルを有する空調装置およびそれを備える鉄道車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、換気用ファンによって通風口から外部の空気が導入されるとともに、ファンによって通風口から車室内の空気が導入される鉄道車両用空調装置が知られている(特許文献1)。特許文献1に記載の空調装置において、通風口から導入された空気は、蒸発器で冷却され、或いは、ヒータで加熱された後、吹出口から車室内に供給される。この空調装置において、車室内の空気を導入するための通風口は、車室の天井に設けられており、通風口から空調装置の内部構造が見えるため、見栄えが良くない。また、内部構造が視認できるので不用意に扱われ、内部機器に損傷が生じる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-221921号公報
【特許文献2】特開2004-340497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これに対して、例えば特許文献2には、空気調和機の内部構造が見え難い吸込みグリルの構造が提案されている。この吸込みグリルを備えた空気調和機では、横桟で視線を遮ることができるため、吸込口から内部構造が見え難いとしている。しかし、この空気調和機では、横桟の表面が曲面であるため、変動の少ない、安定した気流を得ることのできる曲面形状を形成することが難しく、空気流の変動に起因する騒音(気流音)が発生し易いという問題があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、気流音の発生を抑制しつつ、内部構造を見え難くすることができる空調装置およびそれを備える鉄道車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る空調装置は、吸込口と、吸込口に設けられ、互いに間隔を隔てて略平行に配置された複数の桟と、複数の桟の吸込側の端部に位置する吸込面とを有する吸込グリルと、吸込グリルを介して吸込口から空気を吸い込む送風機とを備え、複数の桟のそれぞれは、吸込面から空気の流れの下流側に向かって順に配置された、吸込面に対して傾斜する傾斜板部と、傾斜板部から連続的に形成され吸込面に対して略直交方向かつ下流側に延びる整流板部とを有する。
【0007】
この構成では、複数の桟のそれぞれの整流板部によって空気の流れを整流することができ、空気の流れの方向が変動することに起因する気流音の発生を抑制することができる。また、整流板部は、吸込面に対して略直交方向に延びて設けられているので、整流板部に沿って流れる空気の流速に横成分が加わることを抑制することができ、流速の増大に起因する気流音の発生を抑制することができる。そして、複数の桟のそれぞれの傾斜板部は、吸込面に対して傾斜しているので、傾斜板部で視線を遮ることができ、吸込グリルの上流側から吸込グリルより奥の内部構造を見え難くすることができる。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る鉄道車両は、上記の空調装置と、車室を有する車体とを備え、車室の天井面に吸込口が設けられる。
【0009】
この構成は、上記の空調装置を備える鉄道車両に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上記の構成によって、気流音の発生を抑制しつつ、空調装置の内部構造を見え難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る鉄道車両(空調装置を含む。)の構成を示す概略断面図である。
図2】空調装置の要部の構成を示す概略断面図である。
図3】吸込グリルの構成を示す底面図である。
図4】吸込グリルおよび整流部の構成を示す概略断面図である。
図5】吸込グリルおよび整流部の構成を示す概略断面図である。
図6】比較例に係る吸込グリルおよび整流部の構成を示す概略断面図である。
図7】他の実施形態に係る空調装置における吸込グリルの構成を示す底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る鉄道車両(空調装置を含む。)の好ましい実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態において、「前」とは鉄道車両の進行方向を意味し、「後」とはその反対の方向を意味し、「前後方向」は「車両長手方向(レール方向)」と一致する。また、「左」とは進行方向を向いたときの左方を意味し、「右」とは進行方向を向いたときの右方を意味し、「左右方向」は「車幅方向(枕木方向)」と一致する。
【0013】
図1は、実施形態に係る鉄道車両10(空調装置18を含む。)の構成を示す概略断面図であり、図1中の矢印は、空気の流れを示している。図1に示すように、鉄道車両10は、乗客を収容する車室S1を有する車体12と、車室S1の床面14に設けられた複数の座席16と、車体12の上部に組み込まれた空調装置18とを有している。
【0014】
図1に示すように、空調装置18は、車室S1の天井面20における車幅方向の中央部に設けられた略四角形の吸込口22と、吸込口22から上方に延びて設けられた略四角形の断面を有する吸込ダクト24と、車体12の屋根26から上方に突出して設けられたケーシング28と、車室S1の天井面20の裏側に前後方向に延びて、かつ、左右方向に間隔を隔てて設けられた2つの天井ダクト30(図1では、左側の天井ダクト30だけを示している。)とを備えている。
【0015】
図1に示すように、ケーシング28は、略筐体状に構成されており、ケーシング28の内部空間は、仕切り壁32によって、仕切り壁32より後方の第1室S2と仕切り壁32より前方の第2室S3とに分割されている。そして、第1室S2の底面には、1つの還気入口34と2つの還気出口36(図1では、1つだけ示している。)とが形成されており、還気入口34には、吸込ダクト24の上端部が接続されており、還気出口36のそれぞれには、2つの天井ダクト30のうち対応する一方が接続されている。また、第2室S3の側面には、外気を取り込む外気入口38と、外気入口38から取り込んだ外気を排出する外気出口40とが形成されている。
【0016】
図1に示すように、一方の天井ダクト30は、車幅方向における吸込ダクト24の左側に配置されており、他方の天井ダクト30は、車幅方向における吸込ダクト24の右側(図示省略)に配置されている。そして、2つの天井ダクト30のそれぞれの側方における車室S1の天井面20には、前後方向に延びるスリット状の吹出し口42が対応する天井ダクト30に沿って形成されており、吹出し口42とこれに対応する天井ダクト30とが連通路(図示省略)を介して連通されている。
【0017】
また、図1に示すように、空調装置18は、吸込口22に設けられた吸込グリル50と、ケーシング28の第1室S2に配置され、吸込グリル50を介して吸込口22から空気を吸い込む室内送風機52と、吸込グリル50の下流側であって、かつ室内送風機52の上流側に配置され、吸込グリル50を通過した空気を整流する整流部54と、ケーシング28の第2室S3に配置され、外気を外気入口38から取り込むとともに、当該外気を外気出口40から排出する室外送風機56とを備えている。さらに、空調装置18は、第1室S2に配置されたヒータ60および蒸発器62と、第2室S3に配置された圧縮機64および凝縮器66と、ヒータ60および圧縮機64を制御する制御部(図示省略)とを備えている。したがって、空調装置18においては、車室S1から吸込グリル50、整流部54、蒸発器62、ヒータ60、室内送風機52、天井ダクト30および吹出し口42を経て車室S1に戻る還気流路R1が構成されている。また、ケーシング28の外部S4から外気入口38、凝縮器66、室外送風機56および外気出口40を経て外部S4に戻る外気流路R2が構成されている。そして、制御部(図示省略)で圧縮機64を駆動させることによって、還気流路R1を流れる還気を蒸発器62で冷却することができ、或いは、制御部(図示省略)でヒータ60を駆動させることによって、還気流路R1を流れる還気をヒータ60で加熱することができる。
【0018】
図2は、空調装置18の要部の構成を示す概略断面図であり、図3は、吸込グリル50の構成を示す底面図である。また、図4および図5は、吸込グリル50および整流部54の構成を示す概略断面図である。図2および図3に示すように、吸込グリル50は、乗客の視線を遮る等のために吸込口22に設けられるものであり、前後方向に互いに間隔を隔てて、かつ、車幅方向に延びて互いに略平行に配置された複数の桟70と、前後方向における吸込口22の中央部に車幅方向に延びて配置された目隠し部材72とを有している。また、図4に示すように、吸込グリル50は、複数の桟70の吸込側の端部に位置する吸込面74を有している。吸込面74は、複数の桟70のそれぞれの吸込側の端部を含む仮想平面であり、後述する傾斜角度α,βを規定する際の基準となる基準面である。
【0019】
図4に示すように、複数の桟70のそれぞれは、吸込面74から空気の流れの下流側に向かって順に配置された、吸込面74に対して傾斜する傾斜板部76と、傾斜板部76から連続的に形成され吸込面74に対して略直交方向かつ下流側に延びる整流板部78とを有している。図2に示すように、本実施形態では、目隠し部材72の前方に配置された複数の桟70と後方に配置された複数の桟70との間で傾斜板部76の傾斜方向が逆になっており、前方に配置された複数の桟70のそれぞれの傾斜板部76は、吸込面74に近づくにつれて前方に位置するように構成されており、後方に配置された複数の桟70のそれぞれの傾斜板部76は、吸込面74に近づくにつれて後方に位置するように構成されている。
【0020】
図5に示すように、吸込面74に対する整流板部78の角度αは、90度を基準として±20度の範囲内(70度≦α≦110度)であり、最も望ましい角度αは、90度を基準として±5度の範囲内(85度≦α≦95度)である。角度αが90度から大きく外れると、空気を整流する方向を吸込ダクト24が延びる方向に一致させることができず、空気の流れを安定させることが困難になる。また、角度αが90度から大きく外れると、空気の流れに横成分が加わって流速が増大し、空気が整流部54に当たったときに生じる気流音が増大する。
【0021】
図5に示すように、吸込面74に対する傾斜板部76の傾斜角度βは、25度以上、かつ、55度以下である。傾斜角度βが25度よりも小さいと、整流板部78と傾斜板部76との境界部82において空気流に渦が発生し、気流音が増大する。また、傾斜角度βが55度より大きいと、目隠しのために桟70のピッチpを小さくする必要があることから、桟70の枚数が増大し、重量およびコストが増大する。
【0022】
図4に示すように、複数の桟70のそれぞれの吸込面74と直交する方向の長さをDとしたとき、当該方向における整流板部78の長さd1は、0.35D以上、かつ、0.65D以下である。整流板部78の長さd1が0.35Dより短い場合には、整流板部78の整流効果を十分に発揮させることができない。また、整流板部78の長さd1が0.65Dより長い場合には、傾斜板部76の長さd2が短くなるため、傾斜板部76の視線を遮る効果を十分に発揮させるために桟70のピッチpを小さくする必要がある。かかる場合、桟70の枚数が増大し、重量およびコストが増大する。
【0023】
図4に示すように、目隠し部材72の前方および後方のそれぞれにおいて、複数の桟70を構成する互いに隣接する2つの桟70のうち、一方の桟70を第1桟とし、第1桟に対して第1桟の傾斜板部76が吸込面74に向かって傾斜する側にある他方の桟70を第2桟とする。第1桟における下流側端縁70aおよび上流側端縁70bの両方を含む平面を仮想基準面80としたとき、第2桟における整流板部78と傾斜板部76との境界部82の少なくとも一部は、仮想基準面80よりも第1桟側にある。つまり、互いに隣接する2つの桟70の間隔(ピッチ)pは、境界部82の少なくとも一部が仮想基準面80より第1桟側に配置されるように設計されている。また、図2に示すように、目隠し部材72は、その前方に配置された桟70とその後方に配置された桟70との隙間Qにおいて、通気性を確保しつつ、視線を遮ることができるように、略三角形の断面を有する略棒状に形成されている。したがって、車室S1から吸込グリル50より奥の内部構造が見えることはない。
【0024】
図4に示すように、ピッチpは、視線を遮る効果が損なわれない限り大きくとることが望ましい。つまり、ピッチpが小さいと、桟70の枚数が増加して吸込グリル50の開口面積が小さくなり、同じ流量を得るのに必要な流速が増大する。気流音は、流速の6乗に概ね比例して増加し、圧力損失は流速の2乗に概ね比例して増加するため、気流音および圧力損失を低減するためには、ピッチpをできるだけ大きくとることが望ましい。そこで、本実施形態では、桟70の厚さtとピッチpとが「p>4t」の関係を満たすようにピッチpが設計されている。
【0025】
図4に示すように、整流部54は、空気の流れを整流する機能と、空気に含まれる塵埃を捕捉する機能とを併有するものであり、本実施形態では、空気を通す多数の孔を有するエアフィルタが整流部54として用いられている。整流部54は、吸込グリル50の下流側であって、かつ室内送風機52の上流側に配置されており、整流部54の上流側の主面54aは、吸込面74に対して略平行で、かつ、整流板部78に対して略直交して配置されている。図4に示すように、複数の桟70のそれぞれの吸込面74と直交する方向の長さをDとしたとき、吸込グリル50の下流側の端面50aと整流部54の上流側の主面54aとの間隔Hは、0以上、かつ、2D以下である。この間隔Hが2Dより長いと、吸込グリル50の下流側の端面50aと整流部54の上流側の主面54aとの間で空気流の方向が変動し易くなり、気流音の発生を十分に抑制することができない。
【0026】
図1に示すように、室内送風機52が駆動されると、車室S1の空気が吸込グリル50を介して吸込口22から吸い込まれ、当該空気が、整流部54、蒸発器62、ヒータ60、室内送風機52、天井ダクト30および吹出し口42を経て車室S1に戻される。図5に示すように、空気が吸込グリル50を通過する過程では、当該空気の流速u1に横成分が加わることがなく、吸込グリル50の入口における空気の流速u1と、吸込グリル50の出口における空気の流速u1とは同じである。
【0027】
[実施形態の効果]
本実施形態に係る鉄道車両10によれば、空調装置18を備えることによって以下の効果を奏することができる。
【0028】
図5に示すように、複数の桟70のそれぞれの整流板部78によって空気の流れを整流することができ、空気の流れの方向が変動することに起因する気流音の発生を抑制することができる。また、整流板部78は、吸込面74に対して略直交方向に延びて設けられているので、整流板部78に沿って流れる空気の流速u1(図5)に横成分が加わることを抑制することができ、流速の増大に起因する気流音の発生を抑制することができる。
【0029】
図6は、比較例に係る吸込グリル90および整流部92の構成を示す概略断面図である。比較例に係る吸込グリル90では、角度αおよび傾斜角度βが34度に設計されており、境界部94において桟96が68度に曲げられている。この比較例では、整流板部78に沿って空気が流れる過程で、空気の流速u1に横成分u2が加わるため、整流部92に当たる空気の流速u3が速くなり(u3>u1)、空気が整流部92に当たるときに発生する気流音が大きくなる。また、境界部94を空気が大きく曲がるときに渦(図6中に矢印で示す。)が発生するため、境界部94で発生する気流音が大きくなる。図5に示すように、本実施形態に係る吸込グリル50では、吸込面74に対する整流板部78の角度αが、90度を基準として±20度の範囲内であるため、空気の流速u1に横成分が加わることを抑制することができ、整流部92における気流音の発生を抑制することができる。また、境界部82における渦の発生を抑制することができ、渦に起因する気流音の発生を抑制することができる。
【0030】
発明者等は、本実施形態に係る吸込グリル50(図4)について、D=22mm、H=23mm、d1=11mm、p=9.5mm、α=90度、β=34度とし、比較例に係る吸込グリル90(図6)について、D=22mm、H=23mm、d1=11mm、p=16.6mm、α=34度、β=34度として、気流音の大きさを比較する実験を行った。この実験により、吸込グリル50によれば、吸込グリル90に比べて、500Hzよりも高い周波数において気流音を大幅に低減できることを確認できた。
【0031】
図4に示すように、吸込面74に対する傾斜板部76の傾斜角度βは、25度以上であるため、境界部82における渦の発生を抑制することができ、渦の発生に起因する気流音の発生を抑制することができる。また、傾斜角度βは、55度以下であるため、目隠しのために桟70のピッチpを大きくすることができ、桟70の枚数を少なくして、軽量化および低コスト化を実現することができる。
【0032】
図4に示すように、複数の桟70のそれぞれの傾斜板部76は、吸込面74に対して傾斜しているので、傾斜板部76で視線を遮ることができ、吸込グリル50の上流側から吸込グリル50より奥の内部構造を見え難くすることができる。特に、本実施形態では、隣接する2つの桟70のうち、第2桟における整流板部78と傾斜板部76との境界部82の少なくとも一部が、仮想基準面80よりも第1桟側にあるので、吸込グリル50の上流側から吸込グリル50より奥の内部構造を完全に見えないようにすることができる。
【0033】
図2に示すように、整流部54の上流側の主面54aは、吸込面74に対して略平行で、かつ、整流板部78に対して略直交して配置されているので、当該主面54aに空気が供給されるときに、空気の流速に横成分が加わることを抑制することができ、流速の増大や、空気の流れの方向が変動することに起因する気流音の発生を抑制することができる。そして、整流部54としてエアフィルタを用いているので、整流部54と他のエアフィルタとを別々に設ける必要がなく、装置全体を小型化することができるとともに、メンテナンスの作業性を良くすることができる。
【0034】
図4に示すように、複数の桟70のそれぞれの吸込面74と直交する方向の長さをDとしたとき、当該方向における整流板部78の長さd1は、0.35D以上、かつ、0.65D以下であるため、整流板部78の整流効果を十分に発揮させることができるとともに、傾斜板部76の視線を遮る効果を十分に発揮させることができる。
【0035】
図4に示すように、吸込グリル50の下流側の端面50aと整流部54の上流側の主面54aとの間隔Hは、0以上、かつ、2D以下であるため、これらの間で空気流の方向が変動し難くなり、気流音の発生を十分に抑制することができる。
【0036】
[他の実施形態]
図3に示すように、上述の実施形態では、吸込グリル50を構成する複数の桟70を前後方向に間隔を隔てて配置しているが、図7に示すように、他の実施形態では、吸込グリル50を構成する複数の桟70を左右方向に間隔を隔てて配置してもよい。
【0037】
また、吸込グリル50の傾斜板部76の向きは、目隠し部材72に対して左右対称としているが、これに限られず、全ての傾斜板部76を同方向に配置してもよい。かかる場合、目隠し部材72は設けなくてもよい。
【0038】
図1に示すように、上述の実施形態では、レール上を走行する車両について示したが、各種鉄道車両やバス、その他の交通機関に適用可能である。また、他の実施形態では、整流部54に代えて、整流機能だけを有する整流部と、塵埃を捕捉する機能だけを有するフィルタとを別々に設けてもよい。このような整流部としては、多数の孔を有する金網等を用いることができる。
【符号の説明】
【0039】
10… 鉄道車両
18… 空調装置
22… 吸込口
50… 吸込グリル
70… 桟
74… 吸込面
76… 傾斜板部
78… 整流板部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7