(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Fe;1.5質量%以上2.7質量%以下、P;0.008質量%以上0.15質量%以下、Zn;0.01質量%以上0.5質量%以下を含有し、残部がCu及び不可避不純物とされており、前記不可避不純物として含まれるCの含有量が5質量ppm未満、Crの含有量が7質量ppm未満、Moの含有量が5質量ppm未満、Wの含有量が1質量ppm未満、Vの含有量が1質量ppm未満、Nbの含有量が1質量ppm未満、Mnの含有量が20質量ppm以下、Taの含有量が1質量ppm以下とされた銅合金からなり、
Cr、Mo、W、V、Nbのうちの少なくとも1種以上とFeとCとを含有する鉄合金粒子が表面に露出することによって形成された長さ200μm以上の表面欠陥が、5個/m2以下とされていることを特徴とする銅合金薄板。
前記銅合金は、さらに、Ni;0.003質量%以上0.5質量%以下、Sn;0.003質量%以上0.5質量%以下のいずれか一方または双方を含有することを特徴とする請求項1に記載の銅合金薄板。
前記銅合金は、さらに、Mg、Ca、Sr、Ba、希土類元素、Zr、Si、Al、Be、Ti、Coのうちの少なくとも1種または2種以上を0.0007質量%以上0.5質量%以下の範囲で含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の銅合金薄板。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、Cu−Fe−P系合金からなる銅合金においては、鋳塊を圧延して銅合金薄板を製造する際に表面欠陥が多く発生することがある。上述の表面欠陥が存在すると、製造歩留が大幅に低下してしまうため、銅合金薄板の製造コストが大幅に上昇してしまうといった問題があった。
また、上述のCu−Fe−P系合金からなる銅合金薄板に対し、プレス加工、エッチング加工又は銀めっきを行った際に、粗大な鉄合金粒子を起因とした非平滑な形状不良を生じることがあった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、Cu−Fe−P系合金において、表面欠陥および形状不良の発生を抑制することができる
銅合金薄板および銅合金薄板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、CDA19400合金等のCu−Fe−P系合金に発生する表面欠陥および形状不良は、Cr、Mo、W、V、Nbのうちの少なくとも1種以上とFeとCとを含有する鉄合金粒子が、銅合金薄板の表面に露出されることにより形成されるものであることが判明した。
そして、上述の鉄合金粒子は、銅合金溶湯中にCさらにはCr、Mo、W、V、Nbのうち少なくとも1種以上が一定量以上存在すると、Feを主成分としCさらにはCr、Mo、W、V、Nbのうち少なくとも1種以上を含有する液相とCuを主成分とする液相とが液相分離し、Cr、Mo、W、V、Nbのうちの少なくとも1種以上とFeとCとを含有する粗大な晶出物が鋳塊内に生成することが判明した。そして、鋳塊内に生成した粗大な晶出物が起因となって、銅合金薄板の表面に露出する鉄合金粒子が生成するとの知見を得た。
【0009】
本発明は、かかる知見に基いてなされたものであって、本発明に係る銅合金薄板は、Fe;1.5質量%以上2.7質量%以下、P;0.008質量%以上0.15質量%以下、Zn;0.01質量%以上0.5質量%以下を含有し、残部がCu及び不可避不純物とされており、前記不可避不純物として含まれるCの含有量が5質量ppm未満、Crの含有量が7質量ppm未満、Moの含有量が5質量ppm未満、Wの含有量が1質量ppm未満、Vの含有量が1質量ppm未満、Nbの含有量が1質量ppm未満
、Mnの含有量が20質量ppm以下、Taの含有量が1質量ppm以下とされた銅合金からなり、Cr、Mo、W、V、Nbのうちの少なくとも1種以上とFeとCとを含有する鉄合金粒子が表面に露出することによって形成された長さ200μm以上の表面欠陥が、5個/m
2以下とされていることを特徴としている。さらに望ましくは、長さ200μm以上の表面欠陥が2個/m
2以下とする。
【0010】
この構成の銅合金薄板においては、不可避不純物であるCの含有量が5質量ppm未満、Crの含有量が7質量ppm未満、Moの含有量が5質量ppm未満、Wの含有量が1質量ppm未満、Vの含有量が1質量ppm未満、Nbの含有量が1質量ppm未満に、それぞれ規制されている。C、そしてCr、Mo、W、V、Nbといった元素は、上述のように、Feを主成分としてCさらにはCr、Mo、W、V、Nbのうち少なくとも1種以上を含有する液相とCuを主成分とする液相との液相分離を促進する作用を有する元素であるため、鋳塊内に粗大な晶出物が生成しやすくなる。すなわち、これらC、Cr、Mo、W、V、Nbといった元素は、Fe中に固溶できるがCu中にほとんど固溶できないため、晶出物(鉄合金粒子)としてCu中に残存することになるのである。
よって、C、Cr、Mo、W、V、Nbといった元素の含有量を上述のように規制することにより、粗大な晶出物の発生を抑制でき、鉄合金粒子による表面欠陥を大幅に低減することが可能となる。また、粗大な晶出物に起因する製品の形状不良を抑制できる。
さらに、長さ200μm以上の表面欠陥を5個/m
2以下とすることによって、プレス加工、エッチング加工又は銀めっきを行った際に生じる製品不良率を著しく低下することができる。
また、Mn、Taといった元素は、上述のように銅合金溶湯が液相分離した際に、Feを主成分としてCさらにはCr、Mo、W、V、Nbのうち少なくとも1種以上を含有する液相側に含有され、液相分離を促進する傾向にある。このため、不可避不純物であるMn及びTaが多く含有されると、鋳塊内に粗大な晶出物が生成しやすくなるおそれがある。そこで、Mnの含有量を20質量ppm以下、Taの含有量を1質量ppm以下に規定することにより、粗大な晶出物の発生を確実に抑制できる。
【0011】
ここで、本発明の
銅合金薄板においては、
前記銅合金は、さらに、Ni;0.003質量%以上0.5質量%以下、Sn;0.003質量%以上0.5質量%以下のいずれか一方または双方を含有してもよい。
この場合、NiまたはSnが、Cuの母相中に固溶することにより、Cu−Fe−P系銅合金の強度向上を図ることができる。
【0012】
さらに、本発明の
銅合金薄板においては、
前記銅合金は、さらに、Mg、Ca、Sr、Ba、希土類元素、Zr、Si、Al、Be、Ti、Coのうちの少なくとも1種または2種以上を0.0007質量%以上0.5質量%以下の範囲で含有してもよい。
この場合、Mg、Ca、Sr、Ba、希土類元素、Zr、Si、Al、Be、Ti、Coといった元素により、Cu−Fe−P系合金の強度向上および耐打抜き金型摩耗性の向上を図ることができる。
【0014】
本発明の銅合金薄板
は、薄板の厚さが0.5mm以下とされていることを特徴としている。
【0015】
銅合金薄板の板厚が0.5mm以下の場合、200μm以上の表面欠陥が存在すると厚み方向にも欠陥が成長しているおそれがあるため、例えば、プレス加工、エッチング加工などの微細な形状付与のための加工を行うと不良の原因となる。上記の観点から、銅合金薄板の板厚が0.2mm以下の時に本件発明の効果がより発揮される。
【0016】
本発明の
銅合金薄板の製造方法は、前述の
銅合金薄板の製造方法であって、原料を溶解して銅合金溶湯を生成する溶解工程と、前記銅合金溶湯を1300℃以上に保持する高温保持工程と、1300℃以上に保持した前記銅合金溶湯を鋳型内に供給して鋳塊を得る鋳造工程と、を備えていることを特徴としている。
【0017】
この構成の
銅合金薄板の製造方法によれば、銅合金溶湯を1300℃以上に保持する高温保持工程と、1300℃以上に高温保持した銅合金溶湯を鋳型内に供給して鋳塊を得る鋳造工程とを備えているので、Cr、Mo、W、V、Nbのうちの少なくとも1種以上とFeとCとを含有する液相が、Cuを主成分とする液相と液相分離することを抑制でき、粗大な晶出物の生成を抑制することができる。よって、鉄合金粒子に起因する表面欠陥を低減することが可能となる。また、粗大な晶出物に起因する製品の形状不良を抑制できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、Cu−Fe−P系合金において、表面欠陥および形状不良の発生を抑制することができる
銅合金薄板、銅合金薄板の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の一実施形態である
銅合金薄板について説明する。
本発明の
第一の参考実施形態である
銅合金薄板は、Fe;1.5質量%以上2.7質量%以下、P;0.008質量%以上0.15質量%以下、Zn;0.01質量%以上0.5質量%以下を含み、残部がCu及び不可避不純物とされており、不可避不純物として含まれるCの含有量が5質量ppm未満、Crの含有量が7質量ppm未満、Moの含有量が5質量ppm未満、Wの含有量が1質量ppm未満、Vの含有量が1質量ppm未満、Nbの含有量が1質量ppm未満とされている。
以下に、これらの元素の含有量を前述の範囲に設定した理由について説明する。
【0021】
(Fe)
FeはCuの母相中に固溶するとともに、Pを含有した析出物(Fe―P化合物)を生成する。このFe―P化合物がCuの母相中に分散されることにより、導電率を低下させることなく、強度及び硬さが向上する。
ここで、Feの含有量が1.5質量%未満では、強度向上の効果等が十分でない。一方、Feの含有量が2.7質量%を超えると、大きな晶出物が生成して表面の清浄性を損なうおそれがある。さらに導電率および加工性の低下をもたらすおそれがある。
したがって、本実施形態においては、Feの含有量を1.5質量%以上2.7質量%以下に設定している。なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、Feの含有量を1.8質量%以上2.6質量%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0022】
(P)
Pは、脱酸作用を有する元素である。また、上述のように、FeとともにFe―P化合物を生成する。このFe―P化合物がCuの母相中に分散されることより、導電率を低下させることなく、強度及び硬さが向上する。
ここで、Pの含有量が0.008質量%未満では、強度向上の効果等が十分でない。一方、Pの含有量が0.15質量%を超えると、導電率および加工性の低下をもたらすことになる。
したがって、本実施形態においては、Pの含有量を0.008質量%以上0.15質量%以下に設定している。なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、Pの含有量を0.01質量%以上0.05質量%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0023】
(Zn)
Znは、Cuの母相中に固溶し、はんだ耐熱剥離性を向上させる作用を有する元素である。
ここで、Znの含有量が0.01質量%未満では、はんだ耐熱剥離性を向上させる作用効果を十分に奏功せしめることができない。一方、Znの含有量が0.5質量%を超えてもその効果が飽和することになる。
したがって、本実施形態においては、Znの含有量を0.01質量%以上0.5質量%以下に設定している。なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、Znの含有量を0.05質量%以上0.35質量%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0024】
(C、Cr、Mo、W、V、Nb)
C、Cr、Mo、W、V、Nbは不可避不純物として、上述の銅合金中に含有されるものである。ここで、C、Cr、Mo、W、V、Nbの含有量が多い場合、銅合金薄板の表面欠陥が大幅に増加することになる。この表面欠陥の一例を光学顕微鏡観察した結果を
図1に示す。
EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)での解析の結果、本実施形態において観察される表面欠陥は、Cr、Mo、W、V、Nbのうちの少なくとも1種以上とFeとCとを含有する鉄合金粒子が起因となっている。
【0025】
通常、上述の銅合金を溶解鋳造する際に、Fe元素はCuを主成分とする液相中に溶解した状態で存在する。しかし、C、Cr、Mo、W、V、Nbが一定量以上存在する場合、銅合金溶湯は、Cuを主成分とする液相と、Feを主成分としCとCr、Mo、W、V、Nbのうちの少なくとも1種以上を含有する液相とに分離され、結果としてCr、Mo、W、V、Nbのうちの少なくとも1種以上とFeとCとを含有する粗大な晶出物が鋳塊内に存在することになる。その後、鋳塊を圧延することにより、鉄合金粒子が銅合金薄板の表面に露出し、上述の表面欠陥が発生すると考えられる。また、この鉄合金粒子に起因してプレス加工、エッチング加工又は銀めっきを行った際に、形状不良が発生することになる。
【0026】
したがって、C、Cr、Mo、W、V、Nb元素を低減することにより、鉄合金粒子に起因する表面欠陥及び製品の形状不良を抑制することが可能となる。そこで、本実施形態においては、Cの含有量を5質量ppm未満、Crの含有量を7質量ppm未満、Moの含有量を5質量ppm未満、Wの含有量を1質量ppm未満、Vの含有量を1質量ppm、Nbの含有量を1質量ppm未満に制限しているのである。上述の表面欠陥及び製品の形状不良の抑制を確実に奏功せしめるためには、Cの含有量を4質量ppm未満とすることが好ましい。さらに好ましくは3ppm、より好ましくは2ppm以下である。Moの含有量を1質量ppm未満、さらに0.6質量ppm未満とすることが望ましい。また、Crの含有量を5質量ppm未満、Wの含有量を0.6質量ppm未満、Vの含有量を0.6質量ppm未満、Nbの含有量を0.6質量ppm未満とすることが好ましい。
【0027】
なお、C、Cr、Mo、W、V、Nb以外の不可避不純物としては、Ni、Sn、Mg、Ca、Sr、Ba、希土類元素、Zr、Si、Al、Be、Ti、H、Li、B、N、O、F、Na、S、Cl、K、Mn、Co、Ga、Ge、As、Se、Br、Rb、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sb、Te、I、Cs、Hf、Ta、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi等が挙げられる。これらの不可避不純物は、総量で0.3質量%以下であることが望ましい。
【0028】
次に、本実施形態である銅合金の製造方法について、
図2に示すフロー図を参照して説明する。
【0029】
<溶解工程S01>
銅原料、純鉄、ZnまたはCu−Zn母合金、PまたはCu−P母合金を溶解して銅合金溶湯を生成する。なお、銅原料は、純度が99.99質量%以上とされたいわゆる4NCu、純鉄は、純度が99.9質量%以上とされたいわゆる3NFeもしくは99.99質量%以上の4NFe、雰囲気はArとすることが好ましい。溶解中の温度は、例えば1100〜1300℃である。
【0030】
<高温保持工程S02>
次に、得られた銅合金溶湯を1300℃以上に昇温して保持する。銅合金溶湯を高温で保持することにより、銅合金溶湯における液相分離を抑制することが可能となる。なお、この高温保持工程S02においては、温度を1300℃以上1500℃以下、保持時間を1min以上24h以下の範囲内とすることが好ましい。
【0031】
<鋳造工程S03>
そして、1300℃以上銅合金溶湯を、高温保持した状態から金型に注湯して鋳塊を製出する。このようにして、本実施形態である銅合金の鋳塊が製出されることになる。
ここで、鋳造時の冷却速度は速い方が好ましく、例えば1300℃から900℃までの冷却速度は、5℃/s以上、さらに10℃/s以上が望ましい。
【0032】
得られた鋳塊に対して、熱間圧延を実施した後、冷間圧延と熱処理とを適宜繰り返すことにより、所定厚さの銅合金薄板が製出される。
この銅合金薄板においては、Cr、Mo、W、V、Nbのうちの少なくとも1種以上とFeとCとを含有する鉄合金粒子が表面に露出することによって形成された長さ200μm以上の表面欠陥が、5個/m
2以下とされている。望ましくは、長さ200μm以上の表面欠陥が2個/m
2以下とする。さらには1個/m
2以下が望ましい。
【0033】
以上のような構成とされた本実施形態によれば、Cの含有量が5質量ppm未満、Crの含有量が7質量ppm未満、Moの含有量が5質量ppm未満、Wの含有量が1質量ppm未満、Vの含有量が1質量ppm未満、Nbの含有量が1質量ppm未満とされているので、鋳塊内に粗大な晶出物が生成することを抑制できる。よって、この粗大な晶出物を起因とする鉄合金粒子の形成を抑制することができ、表面欠陥の発生を大幅に低減することができる。また、製品の形状不良を抑制することができる。
さらに、本実施形態においては、前記銅合金溶湯を1300℃以上の高温に保持する高温保持工程S02と、1300℃以上に保持した銅合金溶湯を鋳型に供給して鋳塊を製造する鋳造工程S03とを備えているので、Cr、Mo、W、V、Nbのうちの少なくとも1種以上とFeとCとを含有する粗大な晶出物の生成を抑制することが可能となる。
【0034】
以下に、本発明の
第二の参考実施形態である
銅合金薄板について説明する。
本発明の
第二の参考実施形態であ
る銅合金薄板は、Fe;1.5質量%以上2.7質量%以下、P;0.008質量%以上0.15質量%以下;Zn;0.01質量%以上0.5質量%以下を含有するとともに、Ni;0.003質量%以上0.5質量%以下、Sn;0.003質量%以上0.5質量%以下のいずれか一方または双方を含有し、さらに、Mg、Ca、Sr、Ba、希土類元素、Zr、Si、Al、Be、Ti、Coのうちの少なくとも1種または2種以上を0.0007質量%以上0.5質量%以下の範囲で含有し、残部がCu及び不可避不純物とされており、前記不可避不純物として含まれるCの含有量が5質量ppm未満、Crの含有量が7質量ppm未満、Moの含有量が5質量ppm未満、Wの含有量が1質量ppm未満、Vの含有量が1質量ppm未満、Nbの含有量が1質量ppm未満とされている。
以下に、これらの元素の含有量を前述の範囲に設定した理由について説明する。なお、
第一の参考実施形態と同一の元素については説明を省略する。
【0035】
(Ni)
Niは、Cuの母相中に固溶し、強度および耐リード曲げ疲労特性(耐繰り返し曲げ疲労特性)を向上させる作用がある。
ここで、Niの含有量が0.003質量%未満では、上述の効果を十分に奏功せしめることができない。一方、Niの含有量が0.5質量%を超えると、導電率が著しく低下することになる。
したがって、本実施形態においては、Niの含有量を0.003質量%以上0.5質量%以下に設定している。なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、Niの含有量を0.008質量%以上0.2質量%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0036】
(Sn)
Snは、Cuの母相中に固溶し、強度およびはんだ付け性を向上させる作用がある。
ここで、Snの含有量が0.003質量%未満では、上述の効果を十分に奏功せしめることができない。一方、Snの含有量が0.5質量%を超えると、導電率が著しく低下することになる。
したがって、本実施形態においては、Snの含有量を0.003質量%以上0.5質量%以下に設定している。なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、Snの含有量を0.008質量%以上0.2質量%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0037】
(Mg、Ca、Sr、Ba、希土類元素、Zr、Si、Al、Be、Ti、Co)
Mg、Ca、Sr、Ba、希土類元素、Zr、Si、Al、Be、Ti、Coは銅の母相中に固溶あるいは、析出物、晶出物として存在してCu−Fe−P系合金の強度をある程度向上させる作用を有し、さらに耐打抜き金型摩耗性を向上させる作用も有する。
ここで、Mg、Ca、Sr、Ba、希土類元素、Zr、Si、Al、Be、Ti、Coの含有量が0.0007質量%未満では、上述の効果を十分に奏功せしめることができない。一方、Mg、Ca、Sr、Ba、希土類元素、Zr、Si、Al、Be、Ti、Coの含有量が0.5質量%を超えると、導電率が低下するととともに、大きな酸化物や析出物や晶出物が生成しやすくなり、さらに表面の清浄性を損なうおそれがある。
したがって、本実施形態においては、Mg、Ca、Sr、Ba、希土類元素、Zr、Si、Al、Be、Ti、Coの含有量を0.0007質量%以上0.5質量%以下に設定しているのである。なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、Mg、Ca、Sr、Ba、希土類元素、Zr、Si、Al、Be、Ti、Coの含有量を0.005質量%以上0.15質量%以下の範囲内とすることが好ましい。
ここで、希土類元素とは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luである。
【0038】
なお、C、Cr、Mo、W、V、Nb以外の不可避不純物としては、H、Li、B、N、O、F、Na、S、Cl、K、Mn、Ga、Ge、As、Se、Br、Rb、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sb、Te、I、Cs、Hf、Ta、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi等が挙げられる。これらの不可避不純物は、総量で0.3質量%以下であることが望ましい。
【0039】
この第二の実施形態である銅合金は、上述の第一の実施形態と同様に、溶解工程S01、溶湯の高温保持工程S02、鋳造工程S03によって製造される。溶解工程S01では、Ni、Sn、Mg、Ca、Sr、Ba、希土類元素、Zr、Si、Al、Be、Ti、Coの添加に、金属元素単体あるいは上記元素を含む母合金を使用する。
【0040】
以上のような構成とされた本実施形態によれば、Ni、Snを含有していることから、固溶硬化によって強度向上を図ることが可能となる。
また、Mg、Ca、Sr、Ba、希土類元素、Zr、Si、Al、Be、Ti、Coのうちの少なくとも1種または2種以上を0.0007質量%以上0.5質量%以下の範囲で含んでいるので、Cu−Fe−P系合金のさらなる高強度化を図ることができるとともに、耐打ち抜き金型摩耗性の向上を図ることができる。
【0041】
そして、Cの含有量が5質量ppm未満、Crの含有量が7質量ppm未満、Moの含有量が5質量ppm未満、Wの含有量が1質量ppm未満、Vの含有量が1質量ppm未満、Nbの含有量が1質量ppm未満とされているので、Cr、Mo、W、V、Nbのうちの少なくとも1種以上とFeとCとを含有する鉄合金粒子の形成を抑制することができ、表面欠陥の発生を大幅に低減することが可能となる。また、製品の形状不良を抑制することができる。
【0042】
以下に、本発明の第三の実施形態である銅合金について説明する。
本発明の第三の実施形態である銅合金は、Fe;1.5質量%以上2.7質量%以下、P;0.008質量%以上0.15質量%以下、Zn;0.01質量%以上0.5質量%以下を含み、残部がCu及び不可避不純物とされており、不可避不純物として含まれるCの含有量が5質量ppm未満、Crの含有量が7質量ppm未満、Moの含有量が5質量ppm未満、Wの含有量が1質量ppm未満、Vの含有量が1質量ppm未満、Nbの含有量が1質量ppm未満、Mnの含有量が20質量ppm以下、Taの含有量が1質量ppm以下とされている。
以下に、これらの元素の含有量を前述の範囲に設定した理由について説明する。なお、第一の実施形態と同一の元素については説明を省略する。
【0043】
(Mn、Ta)
Mn、Taは不可避不純物として、上述の銅合金中に含有されるものである。
通常、上述の銅合金を溶解鋳造する際に、Fe元素はCuを主成分とする液相中に溶解した状態で存在する。しかし、C、Cr、Mo、W、V、Nbが一定量以上存在する場合、銅合金溶湯は、Cuを主成分とする液相と、Feを主成分としCとCr、Mo、W、V、Nbのうちの少なくとも1種以上を含有する液相とに分離される。ここで、Mn、Taは、銅合金溶湯が上述のように液相分離した際に、Feを主成分としCとCr、Mo、W、V、Nbのうちの少なくとも1種以上を含有する液相に含有され、液相分離を促進するおそれがある元素である。
【0044】
このため、C、Cr、Mo、W、V、Nb元素を低減するとともに、Mn、Taの含有量を低減することにより、銅合金溶湯の液相分離を抑制して粗大な晶出物の生成を抑え、鉄合金粒子に起因する表面欠陥および形状不良を抑制することが可能となる。そこで、本実施形態においては、Cの含有量を5質量ppm未満、Crの含有量を7質量ppm未満、Moの含有量を5質量ppm未満、Wの含有量を1質量ppm未満、Vの含有量を1質量ppm未満、Nbの含有量を1質量ppm未満、Mnの含有量を20質量ppm以下、Taの含有量を1質量ppm以下に制限しているのである。上述の表面欠陥及び製品の形状不良の抑制を確実に奏功せしめるためには、Cの含有量を4質量ppm未満とすることが好ましい。さらに好ましくは3ppm、より好ましくは2ppm以下である。Moの含有量を1質量ppm未満、さらに0.6質量ppm未満とすることが望ましい。また、Crの含有量を5質量ppm未満、Wの含有量を0.6質量ppm未満、Vの含有量を0.6質量ppm未満、Nbの含有量を0.6質量ppm未満とすることが好ましい。また、Mnの含有量を15質量ppm未満、Taの含有量を0.7質量ppm未満とすることが好ましい。
【0045】
なお、C、Cr、Mo、W、V、Nb、Mn、Ta以外の不可避不純物としては、Ni、Sn、Mg、Ca、Sr、Ba、希土類元素、Zr、Si、Al、Be、Ti、H、Li、B、N、O、F、Na、S、Cl、K、Co、Ga、Ge、As、Se、Br、Rb、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sb、Te、I、Cs、Hf、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi等が挙げられる。これらの不可避不純物は、総量で0.3質量%以下であることが望ましい。
【0046】
この第三の実施形態である銅合金は、上述の第一の実施形態及び第二の実施形態と同様に、溶解工程S01、溶湯の高温保持工程S02、鋳造工程S03によって製造される。溶解工程S01では、Mn及びTaの含有量の少ない原料を用いることが好ましい。特に、Mn元素は、鉄系原料等から混入する可能性が高いことから、鉄系原料を厳選して使用することが好ましい。好ましくは、Mnを0.1質量%以下、Taを0.005質量%以下のFe原料を用いる。
【0047】
以上のような構成とされた本実施形態によれば、不可避不純物として含まれるCの含有量が5質量ppm未満、Crの含有量が7質量ppm未満、Moの含有量が5質量ppm未満、Wの含有量が1質量ppm未満、Vの含有量が1質量ppm未満、Nbの含有量が1質量ppm未満、Mnの含有量が20質量ppm以下、Taの含有量が1質量ppm以下とされているので、銅合金溶湯の液相分離を抑制し、鉄合金粒子の形成を抑制することができ、表面欠陥の発生を大幅に低減することが可能となる。また、製品の形状不良を抑制することができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態である銅合金、銅合金薄板、銅合金の製造方法について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、銅原料を溶解して銅溶湯を生成し、この銅溶湯に、各種元素を添加するものとして説明したが、これに限定されることはなく、スクラップ原料等を溶解して、成分調製を行ってもよい。
【0049】
また、本実施形態では、溶湯の高温保持工程S02を備えたものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の手段によってCr、Mo、W、V、Nbのうちの少なくとも1種以上とFeとCとを含有する粗大な晶出物の含有量を低減してもよい。例えば、使用する原料を厳選することにより、C、Cr、Mo、W、V、Nb元素の混入を防止してもよい。C、Cr、Mo、W、V、Nb元素は、鉄系原料等から混入する可能性が高いことから、鉄系原料を厳選して使用することが好ましい。
【0050】
さらに、第三の実施形態においては、Ni;0.003質量%以上0.5質量%以下、Sn;0.003質量%以上0.5質量%以下のいずれか一方または双方を含有してもよいし、さらに、Mg、Ca、Sr、Ba、希土類元素、Zr、Si、Al、Be、Ti、Coのうちの少なくとも1種または2種以上を0.0007質量%以上0.5質量%以下の範囲で含有してもよい。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0052】
(実施例1)
純度99.99質量%以上、C含有量が1質量ppm以下の無酸素銅(ASTM B152 C10100)からなる銅原料を準備し、これをアルミナ坩堝内に装入して、Arガス雰囲気とされた高周波溶解炉にて、溶解した。
【0053】
得られた銅溶湯内に、原料として、純鉄、Fe−C母合金、Fe−Cr母合金、Fe−Mo母合金、Fe−W母合金、Fe−V母合金、Fe−Nb母合金、Cu−Zn母合金、Cu−Ni母合金、Cu−Sn母合金、Cu−P母合金、および、Mg、Ca、Sr、Ba、希土類元素、Zr、Si、Al、Be、Ti、Coの原料又は母合金を必要に応じて添加し、Ar雰囲気中にて1200℃で溶解し、表1、2に示す成分組成に調製し、水冷銅鋳型に注湯して鋳塊を製出した。なお、各原料のC含有量は10質量ppm以下である。製出した鋳塊の大きさは、厚さ約30mm×幅約150mm×長さ約200mmとした。なお、
参考例1−27においては、鉄原料として高純度鉄(純度99.99質量%)を使用した。
また、
参考例23−26においては、得られた溶湯を1200℃から1300℃に一度昇温し、その後に鋳塊を製出した。
また、比較例1−4においては、C粉末を添加して、溶湯と接触させることにより、C量を増加させた。比較例5−9においては、Mo、Cr、V、W、Nbを添加して成分調整した。
上記の溶湯温度を1300℃にしたときの1300℃から900℃までの冷却速度、および、溶湯温度を1200℃にしたときの1200℃から900℃までの冷却速度は、約10℃/s以上とした。
【0054】
得られた鋳塊を、950℃に加熱し、厚さ5.0mmまでの熱間圧延を実施した。この熱間圧延後、酸化被膜を除去するために表面研削を実施し、厚さ4.0mmとした。
その後、粗圧延を実施して厚さ0.4mmとした。次に、550℃×1時間の加熱工程を実施し、さらに冷間圧延を実施して厚さを0.2mmとした。
次に、450℃×1時間の加熱工程を実施し、最終冷間圧延を実施して厚さ約0.1mm×幅約150mmの条材を製出した。
そして、最終焼鈍として250℃×1時間の加熱工程を実施し、得られた条材を特性評価用条材とした。ここで、上記のすべての熱処理はAr雰囲気中で実施した。
【0055】
得られた特性評価用条材を用いて、以下の特性評価を実施した。
【0056】
(Fe、P、Zn、その他の添加元素及び不純物含有量の測定方法)
表1の組成は、Fe、P、Zn、その他の添加元素、Cr、Mo、W、V、Nbはグロー放電質量分析装置(GD−MS)、Cは赤外吸収法を用いて測定した。
【0057】
(機械的特性)
特性評価用条材からJIS Z 2241に規定される13B号試験片を採取し、オフセット法により、0.2%耐力を測定した。
なお、試験片は、引張試験の引張方向が特性評価用条材の圧延方向に対して平行になるように採取した。
【0058】
(欠陥個数)
特性評価用条材から0.2m
2の銅条25枚について、異物が表面に露出したことにより形成される長さ200μm以上の表面欠陥個数を検査した。欠陥の長さは、異物が表面に露出した表面傷の圧延方向の最大長さとした。上記の評価方法によって、平均欠陥個数(個/m
2)を算出した。
【0059】
評価結果を表1,2に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
不可避不純物であるC、Cr、Mo、W、V、Nbの含有量が本発明の範囲を超える比較例1―9においては、欠陥個数が7.8個/m
2以上と非常に多くなっている。
これに対して、不可避不純物であるC、Cr、Mo、W、V、Nbの含有量が本発明の範囲内とされた
参考例1−27においては、欠陥個数がいずれも4.5個/m
2以下と、比較例に比べて大幅に低減していることが確認された。
【0063】
また、Ni、Sn、Mg、Ca、Sr、Ba、希土類元素、Zr、Si、Al、Be、Ti、Coを添加した
参考例8−22、24−26においては、0.2%耐力が500MPa程度とされており、強度特性の向上が認められる。
さらに、銅合金溶湯を1300℃で保持した後に、鋳塊を製出し、溶湯の高温保持を実施した
参考例23−26においては、欠陥個数がさらに低減している。このことから、銅合金溶湯の高温保持を実施することにより、銅合金薄板の表面欠陥をさらに抑制できることが確認された。
【0064】
(実施例2)
純度99.99質量%以上、C含有量が1質量ppm以下、Mn含有量が0.1質量ppm以下、Ta含有量が0.1質量ppm以下の無酸素銅(ASTM B152 C10100)からなる銅原料を準備し、これをアルミナ坩堝内に装入して、Arガス雰囲気とされた高周波溶解炉にて、溶解した。
【0065】
得られた銅溶湯内に、原料として、純鉄、Fe−C母合金、Fe−Cr母合金、Fe−Mo母合金、Fe−W母合金、Fe−V母合金、Fe−Nb母合金、Fe−Mn母合金、Fe−Ta母合金、Cu−Zn母合金、Cu−Ni母合金、Cu−Sn母合金、Cu−P母合金、および、Mg、Ca、Sr、Ba、希土類元素、Zr、Si、Al、Be、Ti、Coの原料又は母合金を必要に応じて添加し、実施例1と同様の方法で、表3に示す成分組成の鋳塊(厚さ約30mm×幅約150mm×長さ約200mm)を製出した。なお、本発明例49−51においては、得られた溶湯を1200℃から1300℃に一度昇温し、その後に鋳塊を製出した。
この鋳塊を用いて、実施例1と同様の方法により、厚さ約0.1mm×幅約150mmの特性評価用条材を製出した。
【0066】
得られた特性評価用条材を用いて、以下の特性評価を実施した。
なお、欠陥個数については、実施例1より詳細に評価するため、特性評価用条材から0.2m
2の銅条50枚の表裏両面を観察し、異物が表面に露出することによって形成される長さ200μm以上の表面欠陥個数を検査した。欠陥の長さは、異物が表面に露出した表面傷の圧延方向の最大長さとした。上記の評価方法によって、平均欠陥個数(個/m
2)を算出した。
【0067】
(Fe、P、Zn、Mn、Taその他の添加元素及び不純物含有量の測定方法)
Fe、P、Znは、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)を用いて測定した。Mn、Ta、その他の添加元素、Cr、Mo、W、V、Nbはグロー放電質量分析装置(GD−MS)を用いて測定した。
Cは、赤外吸収法を用いて測定した。
【0068】
評価結果を表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
不可避不純物であるMnの含有量が20質量ppm以下、Taの含有量が1質量ppm以下に規定された本発明例40−51においては、平均欠陥個数がさらに低減している。このことから、不可避不純物であるMnの含有量を20質量ppm以下、Taの含有量を1質量ppm以下とすることにより、銅合金薄板の表面欠陥をさらに抑制できることが確認された。