特許第5866484号(P5866484)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5866484
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】合わせガラス用中間膜及び合わせガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20160204BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20160204BHJP
【FI】
   C03C27/12 D
   B32B27/00 B
   B32B27/00 Z
   C03C27/12 F
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-518490(P2015-518490)
(86)(22)【出願日】2015年3月31日
(86)【国際出願番号】JP2015060258
【審査請求日】2015年8月26日
(31)【優先権主張番号】特願2014-74810(P2014-74810)
(32)【優先日】2014年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 章吾
(72)【発明者】
【氏名】中山 和彦
(72)【発明者】
【氏名】岩本 達矢
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−286049(JP,A)
【文献】 特開平09−241045(JP,A)
【文献】 特開平09−295839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/12
B32B 17/10
B32B 27/00
E06B 3/66
B60J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の表面に、多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを有し、
第1の表面層と第2の表面層とを含む2層以上の熱可塑性樹脂と可塑剤とを含有する樹脂層が積層された合わせガラス用中間膜であって、
合わせガラス用中間膜を23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後に、
23℃、湿度30%RH下でミクロトームを用いて合わせガラス用中間膜を水平方向に、前記第1の表面層と該第1の表面層の内側に接する樹脂層との界面から第1の表面層側に80〜90μmの位置で切断し、次いで該切断面より更に第2の表面層側に50μmの位置で切断して得られた厚さ50μmの樹脂膜1について、切断後に温度23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後にJIS B−0601(1994)に準ずる方法により測定した表面粗さ(Rz)が2.5μm未満である
ことを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
請求項1記載の合わせガラス用中間膜であって、
合わせガラス用中間膜を23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後に、
前記第2の表面層と該第2の表面層の内側に接する樹脂層との界面から第2の表面層側に80〜90μmの位置で切断し、次いで該切断面より更に第1の表面層側に50μmの位置で切断して得られた厚さ50μmの樹脂膜2について、切断後に温度23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後にJIS B−0601(1994)に準ずる方法により測定した表面粗さ(Rz)が2.5μm未満である
ことを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【請求項3】
請求項1又は2記載の合わせガラス用中間膜であって、
合わせガラス用中間膜を23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後に、
23℃、湿度30%RH下でミクロトームを用いて合わせガラス用中間膜を水平方向に、前記第1の表面層と該第1の表面層の内側に接する樹脂層との界面から第1の表面層側に80〜90μmの位置で切断し、次いで該切断面より更に第2の表面層側に50μmの位置で切断して得られた厚さ50μmの樹脂膜1について、切断後に温度23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後にJIS B−0601(1994)に準ずる方法により測定した表面粗さ(Rz)が1.9μm以下である
ことを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【請求項4】
請求項2又は3記載の合わせガラス用中間膜であって、
合わせガラス用中間膜を23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後に、
前記第2の表面層と該第2の表面層の内側に接する樹脂層との界面から第2の表面層側に80〜90μmの位置で切断し、次いで該切断面より更に第1の表面層側に50μmの位置で切断して得られた厚さ50μmの樹脂膜2について、切断後に温度23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後にJIS B−0601(1994)に準ずる方法により測定した表面粗さ(Rz)が1.9μm以下である
ことを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【請求項5】
80℃におけるクリープ弾性率が0.030MPa以上であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項6】
80℃におけるクリープ伸び率が80%以下であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5又は6記載の合わせガラス用中間膜が、一対のガラス板の間に積層されていることを特徴とする合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2層以上の多層構造を有しながら光学歪みの小さい合わせガラス用中間膜、及び、該合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
2枚のガラス板の間に、可塑化ポリビニルブチラールを含有する合わせガラス用中間膜を挟み、互いに接着させて得られる合わせガラスは、自動車、航空機、建築物等の窓ガラスに広く使用されている。
【0003】
合わせガラス用中間膜は、ただ1層の樹脂層により構成されているだけではなく、2層以上の樹脂層の積層体により構成されていてもよい。第1の表面層と第2の表面層とを含む2層以上の樹脂層を積層し、かつ、各々の樹脂層が異なる性質を有するものとすることにより、1層だけでは実現が困難であった種々の性能を有する合わせガラス用中間膜を提供することができる。
例えば特許文献1には、遮音層と該遮音層を挟持する2層の保護層とからなる3層構造の合わせガラス用中間膜が開示されている。特許文献1の合わせガラス用中間膜では、可塑剤との親和性に優れるポリビニルアセタールと大量の可塑剤とを含有する遮音層を有することにより優れた遮音性を発揮する。一方、保護層は、遮音層に含まれる大量の可塑剤がブリードアウトして中間膜とガラスとの接着性が低下することを防止している。
【0004】
しかしながら、このような2層以上の樹脂層が積層された合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスでは、光学歪みが生じることがあった。特に、合わせガラス用中間膜をガラス板の曲面形状(例えば自動車のフロントガラスの曲面形状)に合うように、加熱して伸展させた場合、得られる合わせガラスの光学歪みが増大してしまうという問題があった。なお、合わせガラスの光学歪みとは、合わせガラスを通して物体を観測した際に、物体がゆがんで見える現象を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−331959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、2層以上の多層構造を有しながら光学歪みの小さい合わせガラス用中間膜、及び、該合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも一方の表面に、多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを有し、第1の表面層と第2の表面層とを含む2層以上の熱可塑性樹脂と可塑剤とを含有する樹脂層が積層された合わせガラス用中間膜であって、合わせガラス用中間膜を23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後に、23℃、湿度30%RH下でミクロトームを用いて合わせガラス用中間膜を水平方向に、前記第1の表面層と該第1の表面層の内側に接する樹脂層との界面から第1の表面層側に80〜90μmの位置で切断し、次いで該切断面より更に第2の表面層側に50μmの位置で切断して得られた厚さ50μmの樹脂膜1について、切断後に温度23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後にJIS B−0601(1994)に準ずる方法により測定した表面粗さ(Rz)が2.5μm未満である合わせガラス用中間膜である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、2層以上の樹脂層が積層された合わせガラス用中間膜を用いた場合の光学歪みの発生の原因を検討した。その結果、製造時に積層体をロール間に通して圧延したときの圧力により、合わせガラス用中間膜中に残留する応力が原因であることを見出した。
【0009】
合わせガラスの製造工程においては、ガラスと合わせガラス用中間膜とを積層する際の脱気性が重要である。合わせガラス用中間膜の少なくとも一方の表面は、合わせガラス製造時の脱気性を確保する目的で、微細な凹凸を有する。このような凹凸を付与するためには、通常、積層体を加熱したエンボスロール間に通して圧延することにより、エンボスロール上の凹凸を積層体に転写することが行われる。このエンボスロール間を通過させる際の圧延処理により、得られる合わせガラス用中間膜中に応力が残留すると考えられる。
また、エンボス付与工程のほかにも、合わせガラス用中間膜の巾を広げる目的で、積層体を加熱したロール間に通して圧延することが行われる。このような操作によっても、得られる合わせガラス用中間膜中に応力が残留すると考えられる。
【0010】
本発明者らは、更に鋭意検討の結果、上記残留応力は特に合わせガラス用中間膜の表面層と該表面層の内側に接する樹脂層との界面付近に集中し、これが光学歪み発生の原因となっていること、合わせガラス用中間膜を水平方向に切断して得た特定部位の樹脂膜の界面側の表面粗さ(Rz)を測定することにより応力残留の程度を評価できること、及び、該樹脂膜の界面側の表面粗さ(Rz)を一定以下とすることにより、光学歪みの少ない合わせガラス用中間膜が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明の合わせガラス用中間膜は、少なくとも一方の表面に、多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを有する。本発明の合わせガラス用中間膜においては、上記凹部は、底部が連続した溝形状(刻線状)を有し、且つ、規則的に並列していることが好ましい。
また、本発明の合わせガラス用中間膜においては、上記凹部は、底部が連続した溝形状を有し、且つ、平行に並列していることが好ましい。また、本発明の合わせガラス用中間膜においては、上記凹部は、底部が連続した溝形状を有し、且つ、上記凹部が平行して規則的に並列していることが好ましい。
一般に、2枚のガラス板の間に合わせガラス用中間膜が積層された積層体を予備圧着及び本圧着するときの空気の抜け易さは、上記凹部の底部の連通性及び平滑性と密接な関係がある。
中間膜の少なくとも一方の面の凹凸の形状を、底部が連続した溝形状である凹部が規則的に並列している形状とすることにより、上部の底部の連通性はより優れ、予備圧着及び本圧着の際に著しく脱気性が向上する。また、中間膜の少なくとも一方の面の凹凸の形状を、底部が連続した溝形状である凹部が平行に並列している形状とすることにより、上部の底部の連通性はより優れ、予備圧着及び本圧着の際に著しく脱気性が向上する。また、中間膜の少なくとも一方の面の凹凸の形状を、底部が連続した溝形状である凹部が平行して規則的に並列している形状とすることにより、上部の底部の連通性は更により一層優れ、予備圧着及び本圧着の際に更により一層著しく脱気性が向上する。
なお、「規則的に並列している」とは、多数の微細な凹部と凸部とを有する中間膜の表面を観察した際に、一定の方向に周期的に底部が連続した溝形状である凹部が並列していることを意味する。また、「平行して並列している」とは、隣接する上記凹部が平行して等間隔に並列していてもよく、隣接する上記凹部が平行して並列しているが、すべての隣接する上記凹部の間隔が等間隔でなくともよいことを意味する。
図1及び図2に、表面に底部が連続した溝形状である凹部が等間隔、かつ、隣接する凹部が平行して並列している合わせガラス用中間膜の一例を表す模式図を示した。図3に、表面に底部が連続した溝形状である凹部が規則的に並列している合わせガラス用中間膜の表面を、3次元粗さ測定器(KEYENCE社製、「KS−1100」、先端ヘッド型番「LT−9510VM」)を用いて測定した3次元粗さの画像データを示した。
【0012】
上記多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを有する表面の粗さ(Rz)の好ましい下限は5μm、好ましい上限は90μmである。上記多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを有する表面の粗さ(Rz)をこの範囲内とすることにより、優れた脱気性を発揮することができる。
なお、本明細書において上記多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを有する表面の粗さ(Rz)は、JIS B−0601(1994)に準ずる方法により測定される。
【0013】
上記刻線状の凹部の粗さ(Rz)の好ましい下限は10μm、好ましい上限は90μmである。上記刻線状の凹部の粗さ(Rz)をこの範囲内とすることにより、優れた脱気性を発揮することができる。上記刻線状の凹部の粗さ(Rz)のより好ましい下限は20μm、より好ましい上限は80μmである。
なお、本明細書において刻線状の凹部の粗さ(Rz)は、JIS B−0601(1994)に準ずる方法により測定される。
【0014】
隣接する上記刻線状の凹部の間隔の好ましい下限は10μm、好ましい上限は500μmである。上記刻線状の凹部の間隔をこの範囲内とすることにより、優れた脱気性を発揮することができる。上記刻線状の凹部の間隔のより好ましい下限は50μm、より好ましい上限は300μmである。
なお、本明細書において刻線状の凹部の間隔は、光学顕微鏡(SONIC社製、「BS−8000III」)を用いて、合わせガラス用中間膜の第1の表面及び第2の表面(観察範囲20mm×20mm)を観察し、隣接する凹部の間隔を測定したうえで、隣接する凹部の最底部間の最短距離の平均値を算出することにより得られる。
【0015】
本発明の合わせガラス用中間膜は、第1の表面層と第2の表面層とを含む2層以上の樹脂層が積層された構造を有する。
本発明の合わせガラス用中間膜は、このような積層構造の合わせガラス用中間膜を23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後に、23℃、湿度30%RH下でミクロトームを用いて合わせガラス用中間膜を水平方向に、上記第1の表面層と該第1の表面層の内側に接する樹脂層との界面から第1の表面層側に80〜90μmの位置で切断し、次いで該切断面より更に第2の表面層側に50μmの位置で切断して得られた厚さ50μmの樹脂膜1について、切断後に温度23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後にJIS B−0601(1994)に準ずる方法により測定した表面粗さ(Rz)が2.5μm未満である。また、本発明の合わせガラス用中間膜は、23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後に、23℃、湿度30%RH下でミクロトームを用いて合わせガラス用中間膜を水平方向に、上記第2の表面層と該第2の表面層の内側に接する樹脂層との界面から第2の表面層側に80〜90μmの位置で切断し、次いで該切断面より更に第1の表面層側に50μmの位置で切断して得られた厚さ50μmの樹脂膜2について、切断後に温度23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後にJIS B−0601(1994)に準ずる方法により測定した表面粗さ(Rz)が2.5μm未満であることが好ましい。
樹脂膜1の界面側の表面粗さ(Rz)を2.5μm未満とすることにより、光学歪みの発生を抑制することができる。更に、樹脂膜1及び樹脂膜2の界面側の表面粗さ(Rz)を2.5μm未満とすることにより、光学歪みの発生を抑制することができる。上記樹脂膜1及び樹脂膜2の界面側の表面粗さ(Rz)は1.9μm以下であることが好ましく、1.0μm以下であることがより好ましく、0.9μm以下であることが更に好ましい。また、上記樹脂膜1及び樹脂膜2の界面側の表面粗さは異なっていてもよい。
【0016】
図4に、本発明の合わせガラス用中間膜が3層構造である場合を例に、上記樹脂膜1及び樹脂膜2の採取位置を説明する模式図を示した。
上記樹脂膜1は、第1の表面層と該第1の表面層の内側に接する樹脂層との界面から第1の表面層側に80〜90μmの位置で切断し、更に第2の表面層側に50μmの位置で切断して得る。このように2層の界面付近が最も残留応力を観察し易く、正確に光学歪みの発生を予測することができる。上記樹脂膜2についても同様である。なお、図4においては3層構造である場合を例に挙げたが、本発明の合わせガラス用中間膜は2層であってもよく、4層以上の多層構造であってもよい。また、本発明の合わせガラス用中間膜が2層である場合には、第1の表面層と該第1の表面層の内側に接する樹脂層は第2の表面層であり、第2の表面層と該第2の表面層の内側に接する樹脂層は第1の表面層である。
合わせガラス用中間膜を水平方向に切断する方法は、例えば、ミクロトームを用いる方法が挙げられる。この際、ミクロトームの刃はできるだけ新しいものを用い、表面粗さ(Rz)の測定はミクロトームによる切創痕のない部分を評価する。上記ミクロトームの刃としては、Leica社製の819 Bladeを用いることが好ましい。
【0017】
合わせガラス用中間膜を水平方向に切断して得られた上記樹脂膜1及び樹脂膜2は、切断後、温度23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後に上記界面側の表面粗さ(Rz)を測定する。一定時間放置してから測定することにより、合わせガラス用中間膜中の残留応力によって樹脂膜の収縮等が起こり、その結果表面粗さとして現れる。
なお、測定は、温度23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後、6時間以内に行うことが好ましい。6時間を超えてから測定すると、表面粗さが変動してしまい、得られる数値にバラツキが生じることがある。
【0018】
上記第1の表面層、第2の表面層、及びその他の層(中間層)を構成する樹脂層は、熱可塑性樹脂と可塑剤とを含有する。
上記熱可塑性樹脂として、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、ポリ三フッ化エチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセタール、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。なかでも、ポリビニルアセタール、又は、エチレン−酢酸ビニル共重合体を含有することが好ましく、ポリビニルアセタールを含有することがより好ましい。
【0019】
上記可塑剤としては、合わせガラス用中間膜に一般的に用いられる可塑剤であれば特に限定されず、例えば、一塩基性有機酸エステル、多塩基性有機酸エステル等の有機可塑剤や、有機リン酸化合物、有機亜リン酸化合物等のリン酸可塑剤等が挙げられる。
上記有機可塑剤として、例えば、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート、テトラエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、テトラエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート、ジエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、ジエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、ジエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート等が挙げられる。なかでも、上記樹脂層はトリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、又は、トリエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエートを含むことが好ましく、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエートを含むことがより好ましい。
【0020】
上記樹脂層は、接着力調整剤を含有することが好ましい。特に、合わせガラスを製造するときに、ガラスと接触する樹脂層は、上記接着力調整剤を含有することが好ましい。
上記接着力調整剤としては、例えば、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が好適に用いられる。上記接着力調整剤として、例えば、カリウム、ナトリウム、マグネシウム等の塩が挙げられる。
上記塩を構成する酸としては、例えば、オクチル酸、ヘキシル酸、2−エチル酪酸、酪酸、酢酸、蟻酸等のカルボン酸の有機酸、又は、塩酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。合わせガラスを製造するときに、ガラスと樹脂層との接着力を容易に調製できることから、ガラスと接触する第1の表面層及び第2の表面層は、接着力調整剤として、マグネシウム塩を含むことが好ましい。
【0021】
上記樹脂層は、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、接着力調整剤として変成シリコーンオイル、難燃剤、帯電防止剤、耐湿剤、熱線反射剤、熱線吸収剤等の添加剤を含有してもよい。
【0022】
本発明の合わせガラス用中間膜において、上記第1の表面層、第2の表面層の厚みの好ましい下限は200μm、好ましい上限は1000μmであり、上記第1の表面層と第2の表面層との間に配置される中間層の厚みの合計の好ましい下限は50μm、好ましい上限は300μmである。
【0023】
本発明の合わせガラス用中間膜は、少なくとも一方の表面に、多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを有する。これにより、合わせガラスの製造時における脱気性を確保することができる。上記凹凸は、一方の表面にのみ有してもよいが、より脱気性が向上することから、合わせガラス用中間膜の両面に有することが好ましい。
【0024】
本発明の合わせガラス用中間膜は、上記第1の表面層、第2の表面層と、これらの間に配置される中間層との屈折率差が0.05以下であることが好ましい。上記屈折率差が0.05以下であることにより、光学歪みがより一層抑えられる。
【0025】
本発明の合わせガラス用中間膜は、80℃におけるクリープ伸び率(80℃クリープ伸び率)が80%以下であることが好ましく、より好ましくは60%以下、更に好ましくは50%以下、特に好ましくは35%以下である。上記80℃クリープ伸び率が上記好ましい範囲であることにより、伸展による光学歪の悪化がより一層抑制される。上記80℃クリープ伸び率は、低いほど好ましいが、実質的な下限は10%である。
上記80℃クリープ伸び率は、多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを形成する前の合わせガラス用中間膜の80℃クリープ伸び率であることが好ましい。しかしながら、実際には多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを形成する前の合わせガラス用中間膜の80℃クリープ伸び率を直接測定することは困難である。そのため、直接測定する代わりに、例えば、以下の手順に従って合わせガラス用中間膜の80℃クリープ伸び率を測定する方法を用いることができる。
合わせガラス用中間膜を二枚のポリエチレンテレフタレート板(縦30cm×横30cm×厚さ0.1mm、以下、単に「PET板」ともいう)の間に挟み、更に、その外側からJIS R 3202(1996)に準拠した二枚のクリアガラス板(縦30cm×横30cm×厚さ2.5mm)で挟み、はみ出た部分を切り取り、厚さ方向にクリアガラス板/PET板/合わせガラス用中間膜/PET板/クリアガラス板の順に積層された構成体を得る。該構成体をオートクレーブ中に入れ、温度140℃、圧力1300kPaの条件下で10分間保持した後、50℃まで温度を下げ大気圧に戻す。その後、合わせガラス用中間膜をPET板から剥離する。剥離した合わせガラス用中間膜を25℃−25%RHの雰囲気下に24時間放置して調温調湿する。調温調湿後の合わせガラス用中間膜を長さ8cm、幅1cmに切り出し、クリープ弾性率試験片を作製する。クリープ弾性率試験片の長さ方向の中心から両端へ向かって2cmの部分に、それぞれ標線を引いた後、試験片の厚さを測定し、試験片の初期の断面積を求める。その後、クリープ弾性率試験片を80℃のオートクレーブ中に垂直に吊り下げた後、下端に20gの錘を取り付け、30分放置する。30分経過後、クリープ弾性率試験片を温度25℃、湿度25RH下に直ちに取り出し、試験片がオートクレーブを出た瞬間を0秒として、60秒後の試験片の2つの標線の距離(標線間距離)を測定する。2つの標線の距離の変化から、80℃クリープ伸び率を下式により算出する。
80℃クリープ伸び率(%)=100×(試験後の標線間距離(mm)−試験前の標線間距離(mm))/(試験前の標線間距離(mm))
【0026】
本発明の合わせガラス用中間膜は、80℃におけるクリープ弾性率(80℃クリープ弾性率)が0・030MPa以上であることが好ましく、より好ましくは0.035MPa以上、更に好ましくは0・040MPa以上、特に好ましくは0・05MPa以上である。上記80℃におけるクリープ弾性率が上記好ましい範囲であることにより、伸展による光学歪の悪化がより一層抑制される。上記80℃クリープ弾性率は、高いほど好ましいが、実質的な上限は0・25MPaである。
上記80℃クリープ弾性率は、試験片の初期の断面積、上述した方法により求めた80℃クリープ伸び率、及び、錘の荷重から、下式により算出される。
80℃クリープ弾性率(MPa)=(錘の荷重(N))/(試験片の初期の断面積(mm)×80℃クリープ伸び率(%)/100)
【0027】
上記樹脂膜1及び樹脂膜2の界面側の表面粗さ(Rz)を達成する手段は特に限定されないが、合わせガラス用中間膜中の残留応力は積層体をロール間に通して圧延する際に発生することから、該ロール間を通す際の条件を調整することより上記樹脂膜1及び樹脂膜2の界面側の表面粗さ(Rz)を低減させることができる。
具体的には、ロール間を通す直前の積層体の温度を低くし、ロール温度を高くする方法が挙げられる。このように積層体とロールとの温度差を大きくすることにより、中間膜の表層付近のみを変形させやすくできることから、上記樹脂膜1及び樹脂膜2の界面側の表面粗さ(Rz)を低減することができる。より具体的には、例えば、ロール温度を120℃から170℃にし、多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを形成する前の膜の温度を50℃から100℃にすることが好ましい。
【0028】
上記樹脂膜1及び樹脂膜2の界面側の表面粗さ(Rz)は、中間膜の物性等によっても影響される。例えば、80℃クリープ伸び率を低くすることにより、上記樹脂膜1及び樹脂膜2の界面側の表面粗さ(Rz)を低減することができる。
【0029】
上記樹脂膜1及び樹脂膜2の界面側の表面粗さ(Rz)は、上記ロール温度、上記多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを形成する前の膜の温度、及び、80℃クリープ伸び率を組み合わせることで、達成することができる。例えば、上記ロール温度を120℃から170℃に設定し、多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを形成する前の膜の温度を50℃から100℃に設定し、且つ、80℃クリープ伸び率を80%以下に設定することで達成できる。
【0030】
本発明の合わせガラス用中間膜を構成する3層以上の樹脂層の組み合わせとしては、例えば、合わせガラスの遮音性を向上させるために、上記第1の表面層及び第2の表面層を保護層とし、これらで遮音層を挟持した、優れた遮音性を有する合わせガラス用中間膜(以下、「遮音中間膜」ともいう。)が挙げられる。
本発明では、上記遮音層と保護層のように、性質が異なる樹脂層が積層されていても、光学歪みの発生を抑制できる。
以下、該遮音中間膜について、より具体的に説明する。
【0031】
上記遮音中間膜において、上記遮音層は遮音性を付与する役割を有する。
上記遮音層は、ポリビニルアセタールXと可塑剤とを含有することが好ましい。
上記ポリビニルアセタールXは、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することにより調製することができる。上記ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られる。
上記ポリビニルアルコールの重合度の好ましい下限は200、好ましい上限は5000である。上記ポリビニルアルコールの重合度を200以上とすることにより、得られる遮音中間膜の耐貫通性を向上させることができ、5000以下とすることにより、遮音層の成形性を確保することができる。上記ポリビニルアルコールの重合度のより好ましい下限は500、より好ましい上限は4000である。
【0032】
上記ポリビニルアルコールをアセタール化するためのアルデヒドの炭素数の好ましい下限は4、好ましい上限は6である。アルデヒドの炭素数を4以上とすることにより、充分な量の可塑剤を安定して含有させることができ、優れた遮音性能を発揮することができる。また、可塑剤のブリードアウトを防止することができる。アルデヒドの炭素数を6以下とすることにより、ポリビニルアセタールXの合成を容易にし、生産性を確保できる。
上記炭素数が4〜6のアルデヒドとしては、直鎖状のアルデヒドであってもよいし、分枝状のアルデヒドであってもよく、例えば、n−ブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド等が挙げられる。
【0033】
上記ポリビニルアセタールXの水酸基量の好ましい上限は30モル%である。上記ポリビニルアセタールXの水酸基量を30モル%以下とすることにより、遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることができ、可塑剤のブリードアウトを防止することができる。上記ポリビニルアセタールXの水酸基量のより好ましい上限は28モル%、更に好ましい上限は26モル%、特に好ましい上限は24モル%、好ましい下限は10モル%、より好ましい下限は15モル%、更に好ましい下限は20モル%である。
上記ポリビニルアセタールXの水酸基量は、水酸基が結合しているエチレン基量を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。上記水酸基が結合しているエチレン基量は、例えば、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により、上記ポリビニルアセタールXの水酸基が結合しているエチレン基量を測定することにより求めることができる。
【0034】
上記ポリビニルアセタールXのアセタール基量の好ましい下限は60モル%、好ましい上限は85モル%である。上記ポリビニルアセタールXのアセタール基量を60モル%以上とすることにより、遮音層の疎水性を高くして、遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることができ、可塑剤のブリードアウトや白化を防止することができる。上記ポリビニルアセタールXのアセタール基量を85モル%以下とすることにより、ポリビニルアセタールXの合成を容易にし、生産性を確保することができる。上記アセタール基量は、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により、上記ポリビニルアセタールXのアセタール基が結合しているエチレン基量を測定することにより求めることができる。
【0035】
上記ポリビニルアセタールXのアセチル基量の好ましい下限は0.1モル%、好ましい上限は30モル%である。上記ポリビニルアセタールXのアセチル基量を0.1モル%以上とすることにより、遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることができ、ブリードアウトを防止することができる。また、上記ポリビニルアセタールXのアセチル基量を30モル%以下とすることにより、遮音層の疎水性を高くして、白化を防止することができる。上記アセチル基量のより好ましい下限は1モル%、更に好ましい下限は5モル%、特に好ましい下限は8モル%、より好ましい上限は25モル%、更に好ましい上限は20モル%である。上記アセチル基量は、主鎖の全エチレン基量から、アセタール基が結合しているエチレン基量と、水酸基が結合しているエチレン基量とを差し引いた値を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。
【0036】
特に、上記遮音層に遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を容易に含有させることができることから、上記ポリビニルアセタールXは、上記アセチル基量が8モル%以上のポリビニルアセタール、又は、上記アセチル基量が8モル%未満、かつ、アセタール基量が68モル%以上のポリビニルアセタールであることが好ましい。
【0037】
上記遮音層における可塑剤の含有量は、上記ポリビニルアセタールX100質量部に対する好ましい下限が45質量部、好ましい上限が80質量部である。上記可塑剤の含有量を45質量部以上とすることにより、高い遮音性を発揮することができ、80質量部以下とすることにより、可塑剤のブリードアウトが生じて、合わせガラス用中間膜の透明性や接着性の低下を防止することができる。上記可塑剤の含有量のより好ましい下限は50質量部、更に好ましい下限は55質量部、より好ましい上限は75質量部、更に好ましい上限は70質量部である。
【0038】
上記遮音層の厚さの好ましい下限は50μmである。上記遮音層の厚さを50μm以上とすることにより、充分な遮音性を発揮することができる。上記遮音層の厚さのより好ましい下限は70μmであり、更に好ましい下限は80μmである。なお、上限は特に限定されないが、合わせガラス用中間膜としての厚さを考慮すると、好ましい上限は150μmである。
【0039】
上記保護層は、遮音層に含まれる大量の可塑剤がブリードアウトして、合わせガラス用中間膜とガラスとの接着性が低下するのを防止し、また、合わせガラス用中間膜に耐貫通性を付与する役割を有する。
上記保護層は、例えば、ポリビニルアセタールYと可塑剤とを含有することが好ましく、ポリビニルアセタールXより水酸基量が大きいポリビニルアセタールYと可塑剤とを含有することがより好ましい。
【0040】
上記ポリビニルアセタールYは、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することにより調製することができる。
上記ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られる。また、上記ポリビニルアルコールの重合度の好ましい下限は200、好ましい上限は5000である。上記ポリビニルアルコールの重合度を200以上とすることにより、合わせガラス用中間膜の耐貫通性を向上させることができ、5000以下とすることにより、保護層の成形性を確保することができる。上記ポリビニルアルコールの重合度のより好ましい下限は500、より好ましい上限は4000である。
【0041】
上記ポリビニルアルコールをアセタール化するためのアルデヒドの炭素数の好ましい下限は3、好ましい上限は4である。アルデヒドの炭素数を3以上とすることにより、合わせガラス用中間膜の耐貫通性が高くなる。アルデヒドの炭素数を4以下とすることにより、ポリビニルアセタールYの生産性が向上する。
上記炭素数が3〜4のアルデヒドとしては、直鎖状のアルデヒドであってもよいし、分枝状のアルデヒドであってもよく、例えば、n−ブチルアルデヒド等が挙げられる。
【0042】
また、本発明の合わせガラス用中間膜がポリビニルアセタールを含む場合、80℃クリープ伸び率及び80℃クリープ弾性率は、以下の方法によって調節することができる。
上記ポリビニルアルコールをアセタール化した後、ポリビニルアセタールが析出する。析出するポリビニルアセタールに、酸を添加後、熟成させる。熟成の際の酸、温度及び時間を特定の値の範囲とし、条件を組み合わせることで、所望の80℃クリープ伸び率及び80℃クリープ弾性率を達成することができる。
熟成に用いる酸は特に限定されないが、塩酸又は硝酸であることが好ましい。用いる酸の濃度が濃いほど、80℃クリープ伸び率は低下し、80℃クリープ弾性率は増加する。
熟成の温度としては、80℃クリープ伸び率及び80℃クリープ弾性率を上記好ましい範囲とする観点からは、60℃以上であることが好ましく、65℃以上であることがより好ましい。熟成の温度が高ければ高いほど、80℃クリープ伸び率は低下し、80℃クリープ弾性率は増加する。熟成の温度は特に限定されないが、100℃以下であることが好ましい。
熟成の時間としては、80℃クリープ伸び率及び80℃クリープ弾性率を上記好ましい範囲とする観点からは、1.5時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましい。熟成の時間が長ければ長いほど、80℃クリープ伸び率は低下し、80℃クリープ弾性率は増加する。
【0043】
上記ポリビニルアセタールYの水酸基量の好ましい上限は33モル%、好ましい下限は28モル%である。上記ポリビニルアセタールYの水酸基量を33モル%以下とすることにより、合わせガラス用中間膜の白化を防止することができる。上記ポリビニルアセタールYの水酸基量を28モル%以上とすることにより、合わせガラス用中間膜の耐貫通性が高くなる。
【0044】
上記ポリビニルアセタールYは、アセタール基量の好ましい下限が60モル%、好ましい上限が80モル%である。上記アセタール基量を60モル%以上とすることにより、充分な耐貫通性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることができる。上記アセタール基量を80モル%以下とすることにより、上記保護層とガラスとの接着力を確保することができる。上記アセタール基量のより好ましい下限は65モル%、より好ましい上限は69モル%である。
【0045】
上記ポリビニルアセタールYのアセチル基量の好ましい上限は7モル%である。上記ポリビニルアセタールYのアセチル基量を7モル%以下とすることにより、保護層の疎水性を高くして、白化を防止することができる。上記アセチル基量のより好ましい上限は2モル%であり、好ましい下限は0.1モル%である。なお、ポリビニルアセタールA、B、及び、Yの水酸基量、アセタール基量、及び、アセチル基量は、ポリビニルアセタールXと同様の方法で測定できる。
【0046】
上記保護層における可塑剤の含有量は、上記ポリビニルアセタールY100質量部に対する好ましい下限が20質量部、好ましい上限が45質量部である。上記可塑剤の含有量を20質量部以上とすることにより、耐貫通性を確保することができ、45質量部以下とすることにより、可塑剤のブリードアウトを防止して、合わせガラス用中間膜の透明性や接着性の低下を防止することができる。上記可塑剤の含有量のより好ましい下限は30質量部、更に好ましい下限は35質量部、より好ましい上限は43質量部、更に好ましい上限は41質量部である。合わせガラスの遮音性がよりいっそう向上することから、上記保護層における可塑剤の含有量は、上記遮音層における可塑剤の含有量よりも少ないことが好ましい。
【0047】
合わせガラスの遮音性がより一層向上することから、ポリビニルアセタールYの水酸基量はポリビニルアセタールXの水酸基量より大きいことが好ましく、1モル%以上大きいことがより好ましく、5モル%以上大きいことが更に好ましく、8モル%以上大きいことが特に好ましい。ポリビニルアセタールX及びポリビニルアセタールYの水酸基量を調整することにより、上記遮音層及び上記保護層における可塑剤の含有量を制御することができ、上記遮音層のガラス転移温度が低くなる。結果として、合わせガラスの遮音性がより一層向上する。
また、合わせガラスの遮音性がより一層向上することから、上記遮音層におけるポリビニルアセタールX100質量部に対する、可塑剤の含有量(以下、含有量Xともいう。)は、上記保護層におけるポリビニルアセタールY100質量部に対する、可塑剤の含有量(以下、含有量Yともいう。)より多いことが好ましく、5質量部以上多いことがより好ましく、15質量部以上多いことが更に好ましく、20質量部以上多いことが特に好ましい。含有量X及び含有量Yを調整することにより、上記遮音層のガラス転移温度が低くなる。結果として、合わせガラスの遮音性がより一層向上する。
【0048】
上記保護層の厚さとしての好ましい下限は200μm、好ましい上限は1000μmである。上記保護層の厚さを200μm以上とすることにより、耐貫通性を確保することができる。
上記保護層の厚みのより好ましい下限は300μm、より好ましい上限は700μmである。
【0049】
上記遮音中間膜を製造する方法としては特に限定されず、例えば、上記遮音層と保護層とを、押し出し法、カレンダー法、プレス法等の通常の製膜法によりシート状に製膜した後、積層する方法等が挙げられる。
【0050】
本発明の合わせガラス用中間膜が、一対のガラス板の間に積層されている合わせガラスもまた、本発明の1つである。
上記ガラス板は、一般に使用されている透明板ガラスを使用することができる。例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入りガラス、線入り板ガラス、着色された板ガラス、熱線吸収ガラス、熱線反射ガラス、グリーンガラス等の無機ガラスが挙げられる。また、ガラスの表面に紫外線遮蔽コート層が形成された紫外線遮蔽ガラスも用いることができる。更に、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリレート等の有機プラスチックス板を用いることもできる。
上記ガラス板として、2種類以上のガラス板を用いてもよい。例えば、透明フロート板ガラスと、グリーンガラスのような着色されたガラス板との間に、本発明の合わせガラス用中間膜を積層した合わせガラスが挙げられる。また、上記ガラス板として、2種以上の厚さの異なるガラス板を用いてもよい。
【0051】
本発明の合わせガラスの製造方法としては特に限定されず、従来公知の製造方法を用いることができる。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、2層以上の多層構造を有しながら光学歪みの小さい合わせガラス用中間膜、及び、該合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】表面に底部が連続した溝形状である凹部が等間隔、かつ、隣接する凹部が平行して並列している合わせガラス用中間膜の一例を表す模式図である。
図2】表面に底部が連続した溝形状である凹部が等間隔、かつ、隣接する凹部が平行して並列している合わせガラス用中間膜の一例を表す模式図である。
図3】表面に底部が連続した溝形状である凹部が規則的に並列している合わせガラス用中間膜の表面を、3次元粗さ測定器(KEYENCE社製、「KS−1100」、先端ヘッド型番「LT−9510VM」)を用いて測定した3次元粗さの画像データである。
図4】本発明の合わせガラス用中間膜が3層構造である場合の樹脂膜1及び樹脂膜2の採取位置を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
(1)遮音層用樹脂組成物の調製
平均重合度が2300のポリビニルアルコールをn−ブチルアルデヒドでアセタール化することにより得られたポリビニルブチラール(アセチル基量12.5モル%、ブチラール基量64.5モル%、水酸基量23.0モル%)100質量部に対して、可塑剤としてトリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)60質量部を添加し、ミキシングロールで充分に混練し、遮音層用樹脂組成物を得た。
【0056】
(2)保護層用樹脂の合成
撹拌装置を備えた反応器に、イオン交換水2700mL、平均重合度1700、けん化度99モル%のポリビニルアルコールを300g投入し、撹拌しながら加熱溶解し、溶液を得た。次に、この溶液に触媒として60重量%硝酸を、硝酸濃度が0.4重量%となるように添加し、温度を15℃に調整した後、撹拌しながらn−ブチルアルデヒド23gを添加した。その後、n−ブチルアルデヒド140gを添加したところ、白色粒子状のポリビニルブチラールが析出した。ポリビニルブチラールが析出してから15分後に、60重量%硝酸を、硝酸濃度が1.6重量%となるように添加し、65℃に加熱し、65℃で2時間熟成させた。次いで、溶液を冷却し、中和した後、ポリビニルブチラールを水洗し、乾燥させることにより、ポリビニルブチラールを得た。
【0057】
(3)保護層用樹脂組成物の調製
上記「(2)保護層用樹脂の合成」で最終的に得られたポリビニルブチラール100質量部に対して、可塑剤としてトリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)40質量部を添加し、ミキシングロールで充分に混練し、保護層用樹脂組成物を得た。
【0058】
(4)合わせガラス用中間膜の作製
(4−1)積層体の作製
得られた遮音層用樹脂組成物と保護層用樹脂組成物を、共押出機を用いて共押出することにより、保護層用樹脂組成物からなる厚さ340μmの第1の表面層(保護層)、遮音層用樹脂組成物からなる厚さ100μmの中間層(遮音層)及び保護層用樹脂組成物からなる厚さ370μmの第2の表面層(保護層)がこの順に積層された3層構造の積層体を得た。
【0059】
(4−2)凹部及び凸部の形成
多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とが形成された一対のエンボスロールを微細凹凸転写装置として用い、得られた積層体をこのエンボスロールに通し、多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とが形成された積層体を得た。
更に三角形斜線型ミルを用いて表面にミル加工を施した金属ロールと45〜75のJIS硬度を有するゴムロールとからなる一対のエンボスロールを凹凸形状転写装置として用い、得られた多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とが形成された積層体をこのエンボスロールに通し、積層体の第1の表面層の表面及び第2の表面層の表面に、底部が連続した溝形状(刻線状)である凹部が平行して等間隔に形成された、表面粗さ(Rz)31μmの凹凸を付与し、合わせガラス用中間膜を得た。なお、上記表面粗さRzはJIS B−0601(1994)に準拠した方法によって測定した。溝形状(刻線状)である凹部を形成する際の転写条件として、積層体の温度を95℃、ロール温度を130℃、プレス圧を500kPaとした。
【0060】
(5)合わせガラスの製造
得られた合わせガラス用中間膜を用いて、合わせガラス用中間膜の伸展率がそれぞれ1倍、1.2倍である2種類の合わせガラスを作製した。
まず、合わせガラス用中間膜の伸展率が1倍である合わせガラスを下記の手順に従って作製した。
「(4)合わせガラス用中間膜の作製」で得られた合わせガラス用中間膜をJIS R 3202(1996)に準拠した二枚のクリアガラス板(縦30cm×横30cm×厚さ2.5mm)の間に挟み、はみ出た部分を切り取り、合わせガラス構成体を得た。得られた合わせガラス構成体をゴムバッグ内に移し、ゴムバッグを吸引減圧機に接続し、加熱すると同時に−60kPa(絶対圧力16kPa)の減圧下で10分間保持し、合わせガラス構成体の温度(予備圧着温度)が70℃となるように加熱した後、大気圧に戻して予備圧着を終了した。予備圧着された合わせガラス構成体をオートクレーブ中に入れ、温度140℃、圧力1300kPaの条件下で10分間保持した後、50℃まで温度を下げ大気圧に戻すことにより本圧着を終了して、合わせガラスを得た。
次に、合わせガラス用中間膜の伸展率が1.2倍である合わせガラスを下記の手順に従って作製した。
「(4)合わせガラス用中間膜の作製」で得られた合わせガラス用中間膜の膜表面温度が120℃になるようにギアオーブンで加熱した。その後、加熱前の長さの1.2倍になるように5cm〜15cm/sの速度で伸展し、1.2倍伸展が維持されるように治具で固定した後、25℃の水にて冷却した。冷却した膜を固定した状態で、温度25℃、湿度30%RHの環境下に12時間静置し、乾燥させた。乾燥後の合わせガラス用中間膜をJIS R 3202(1996)に準拠した二枚のクリアガラス板(縦30cm×横30cm×厚さ2.5mm)の間に挟み、はみ出た部分を切り取り、合わせガラス構成体を得た。得られた合わせガラス構成体をゴムバッグ内に移し、ゴムバッグを吸引減圧機に接続し、加熱すると同時に−60kPa(絶対圧力16kPa)の減圧下で10分間保持し、合わせガラス構成体の温度(予備圧着温度)が70℃となるように加熱した後、大気圧に戻して予備圧着を終了した。予備圧着された合わせガラス構成体をオートクレーブ中に入れ、温度140℃、圧力1300kPaの条件下で10分間保持した後、50℃まで温度を下げ大気圧に戻すことにより本圧着を終了して、合わせガラスを得た。
【0061】
(実施例2)
「(4−2)凹部及び凸部の形成」において、溝形状(刻線状)である凹部を形成する際の積層体の温度及びエンボスの粗さを表1に示したようにしたこと以外は、実施例1と同様にして合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを得た。
【0062】
(実施例3)
「(2)保護層用樹脂の合成」において、65℃で2時間の熟成時間を65℃で2時間15分に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリビニルブチラールを得た。「(3)保護層用樹脂組成物の調製」において、得られたポリビニルブチラールを用いて保護層用樹脂組成物を調製し、「(4−2)凹部及び凸部の形成」において、溝形状(刻線状)である凹部を形成する際の積層体の温度及びエンボスの粗さを表1に示したようにしたこと以外は、実施例1と同様にして合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを得た。
【0063】
(実施例4)
「(4−2)凹部及び凸部の形成」において、溝形状(刻線状)である凹部を形成する際の積層体の温度及びエンボスの粗さを表1に示したようにしたこと以外は、実施例1と同様にして合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを得た。
【0064】
(実施例5)
「(4−2)凹部及び凸部の形成」において、多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを形成する際のエンボスの粗さ、並びに、溝形状(刻線状)である凹部を形成する際の積層体の温度及びエンボスの粗さを表1に示したようにしたこと以外は、実施例1と同様にして合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを得た。
【0065】
(実施例6)
「(4−2)凹部及び凸部の形成」において、多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを形成する際のエンボスの粗さを表1に示したようにしたこと以外は、実施例1と同様にして多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とが形成された積層体を作製し、得られた多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とが形成された積層体に溝形状(刻線状)である凹部を形成せずに合わせガラス用中間膜とした。得られた合わせガラス用中間膜を用いて、実施例1と同様にして合わせガラスを得た。
【0066】
(実施例7)
「(4−1)積層体の作製」において、各樹脂層の厚みを表1に示したようにしたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。得られた積層体を用い、「(4−2)凹部及び凸部の形成」において、多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを形成する際のエンボスの粗さを表1に示したようにしたこと以外は、実施例1と同様にして多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とが形成された積層体を作製し、得られた多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とが形成された積層体に溝形状(刻線状)である凹部を形成せずに合わせガラス用中間膜とした。得られた合わせガラス用中間膜を用いて、実施例1と同様にして合わせガラスを得た。
【0067】
(実施例8)
実施例1の「(1)遮音層用樹脂組成物の調製」の手順を以下のように変更した。
(1)遮音層用樹脂組成物の調製
平均重合度が2300のポリビニルアルコールをn−ブチルアルデヒドでアセタール化することにより得られたポリビニルブチラール(アセチル基量0.5モル%、ブチラール基量81.1モル%、水酸基量18.5モル%)100質量部に対して、可塑剤としてトリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)60質量部を添加し、ミキシングロールで充分に混練し、遮音層用樹脂組成物を得た。
実施例1の「(2)保護層用樹脂の合成」の手順を以下のように変更した。
(2)保護層用樹脂の合成
撹拌装置を備えた反応器に、イオン交換水2700mL、平均重合度1700、けん化度99モル%のポリビニルアルコールを300g投入し、撹拌しながら加熱溶解し、溶液を得た。次に、この溶液に触媒として60重量%硝酸を、硝酸濃度が0.4重量%となるように添加し、温度を15℃に調整した後、撹拌しながらn−ブチルアルデヒド23gを添加した。その後、n−ブチルアルデヒド140gとグルタルアルデヒド6mgを添加したところ、白色粒子状のポリビニルブチラールが析出した。ポリビニルブチラールが析出してから15分後に、60重量%硝酸を、硝酸濃度が1.6重量%となるように添加し、64℃に加熱し、64℃で2時間熟成させた。次いで、溶液を冷却し、中和した後、ポリビニルブチラールを水洗し、乾燥させることにより、ポリビニルブチラールを得た。
実施例1の「(3)保護層用樹脂組成物の調製」の手順を以下のように変更した。
(3)保護層用樹脂組成物の調製
上記「(2)保護層用樹脂の合成」で最終的に得られたポリビニルブチラール100質量部に対して、可塑剤としてトリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)40質量部を添加し、ミキシングロールで充分に混練し、保護層用樹脂組成物を得た。
実施例1の「(4−1)積層体の作製」の手順を以下のように変更した。
(4−1)積層体の作製
「(1)遮音層用樹脂組成物の調製」及び(3)保護層用樹脂組成物の調製で得られた遮音層用樹脂組成物と保護層用樹脂組成物を、共押出機を用いて共押出することにより、保護層用樹脂組成物からなる厚さ345μmの第1の表面層(保護層)、遮音層用樹脂組成物からなる厚さ100μmの中間層(遮音層)及び保護層用樹脂組成物からなる厚さ350μmの第2の表面層(保護層)がこの順に積層された3層構造の積層体を得た。共押出しの際の条件を以下の条件に設定することで、メルトフラクチャーを制御することにより、多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とが形成された積層体を得た。具体的には、金型巾400mmで押し出し量を70kg/hr・m、金型のリップ間隙を0.7mm、金型から出た直後の膜表面温度を190℃と設定した。
更に、「(4−2)凹部及び凸部の形成」において、溝形状(刻線状)である凹部を形成する際の積層体の温度及びエンボスの粗さを表1に示したようにしたこと以外は、実施例1と同様にして合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを得た。
【0068】
(実施例9)
実施例1の「(1)遮音層用樹脂組成物の調製」の手順を以下のように変更した。
(1)遮音層用樹脂組成物の調製
平均重合度が2300のポリビニルアルコールをn−ブチルアルデヒドでアセタール化することにより得られたポリビニルブチラール(アセチル基量7.6モル%、ブチラール基量68.1モル%、水酸基量24.3モル%)100質量部に対して、可塑剤としてトリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)60質量部を添加し、ミキシングロールで充分に混練し、遮音層用樹脂組成物を得た。
実施例1の「(4−1)積層体の作製」の手順を以下のように変更した。
(4−1)積層体の作製
「(1)遮音層用樹脂組成物の調製」及び(3)保護層用樹脂組成物の調製で得られた遮音層用樹脂組成物と保護層用樹脂組成物を、共押出機を用いて共押出することにより、保護層用樹脂組成物からなる厚さ337μmの第1の表面層(保護層)、遮音層用樹脂組成物からなる厚さ107μmの中間層(遮音層)及び保護層用樹脂組成物からなる厚さ382μmの第2の表面層(保護層)がこの順に積層された3層構造の積層体を得た。共押出しの際の条件を以下の条件に設定することで、メルトフラクチャーを制御することにより、多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とが形成された積層体を得た。具体的には、金型巾400mmで押し出し量を70kg/hr・m、金型のリップ間隙を0.7mm、金型から出た直後の膜表面温度を190℃と設定した。
更に、「(4−2)凹部及び凸部の形成」において、溝形状(刻線状)である凹部を形成する際の積層体の温度及びエンボスの粗さを表1に示したようにしたこと以外は、実施例1と同様にして合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを得た。
【0069】
(実施例10)
実施例1の「(1)遮音層用樹脂組成物の調製」の手順を以下のように変更した。
(1)遮音層用樹脂組成物の調製
平均重合度が2300のポリビニルアルコールをn−ブチルアルデヒドでアセタール化することにより得られたポリビニルブチラール(アセチル基量7.6モル%、ブチラール基量68.1モル%、水酸基量24.3モル%)100質量部に対して、可塑剤としてトリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)60質量部を添加し、ミキシングロールで充分に混練し、遮音層用樹脂組成物を得た。
実施例1の「(4−1)積層体の作製」の手順を以下のように変更した。
(4−1)積層体の作製
「(1)遮音層用樹脂組成物の調製」及び(3)保護層用樹脂組成物の調製で得られた遮音層用樹脂組成物と保護層用樹脂組成物を、共押出機を用いて共押出することにより、保護層用樹脂組成物からなる厚さ337μmの第1の表面層(保護層)、遮音層用樹脂組成物からなる厚さ107μmの中間層(遮音層)及び保護層用樹脂組成物からなる厚さ382μmの第2の表面層(保護層)がこの順に積層された3層構造の積層体を得た。共押出しの際の条件を以下の条件に設定することで、メルトフラクチャーを制御することにより、多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とが形成された積層体を得た。具体的には、金型巾400mmで押し出し量を70kg/hr・m、金型のリップ間隙を0.7mm、金型から出た直後の膜表面温度を185℃と設定した。
更に、「(4−2)凹部及び凸部の形成」において、溝形状(刻線状)である凹部を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを得た。
【0070】
(比較例1)
「(2)保護層用樹脂の合成」において、65℃で2時間の熟成時間を65℃で1時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリビニルブチラールを得た。「(3)保護層用樹脂組成物の調製」において、得られたポリビニルブチラールを用いて保護層用樹脂組成物を調製し、「(4−1)積層体の作製」において、各樹脂層の厚みを表1に示したようにし、「(4−2)凹部及び凸部の形成」において、溝形状(刻線状)である凹部を形成する際の積層体の温度及びエンボスの粗さを表1に示したようにしたこと以外は、実施例1と同様にして合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを得た。
【0071】
(比較例2)
「(2)保護層用樹脂の合成」において、65℃で2時間の熟成時間を65℃で30分に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリビニルブチラールを得た。「(3)保護層用樹脂組成物の調製」において、得られたポリビニルブチラールを用いて保護層用樹脂組成物を調製し、「(4−2)凹部及び凸部の形成」において、溝形状(刻線状)である凹部を形成する際の積層体の温度及びエンボスの粗さを表1に示したようにしたこと以外は、実施例1と同様にして合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを得た。
【0072】
(評価)
実施例、比較例で得られた合わせガラス用中間膜について、以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0073】
(1)中間膜から採取した樹脂膜1及び樹脂膜2の表面粗さ(Rz)の評価
得られた合わせガラス用中間膜を23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後に、平坦なアクリル板に接着剤(セメダイン社製、「3000 GOLD Liquid」)を使用して第2の表面層の外側の表面がアクリル板と接するように接着し、23℃にて24時間乾燥した。次いで、23℃、湿度30%RH下で3時間放置した後に、ミクロトーム(Leica社製、「RM2265」、刃のグレード「Leica 819 Blade」)を用いて、23℃、湿度30%RH下で、合わせガラス用中間膜を水平方向に切断して複数の樹脂膜に分割した。切断方向は製膜時の流れ方向と平行とした。
ここで、第1の表面層と中間層との界面から第1の表面層側に80〜90μmの位置で切断し、次いで該切断面より更に第2の層の表面層側に50μmの位置で切断して、厚さ50μmの樹脂膜1を得た。
平坦なアクリル板に接着する面を、第2の表面層の外側の表面から第1の表面層の外側の表面が接するように変更したこと以外は同様にして、第2の表面層と中間層との界面から第2の表面層側に80〜90μmの位置で切断し、次いで該切断面より更に第1の層の表面層側に50μmの位置で切断して、厚さ50μmの樹脂膜2を得た。
【0074】
得られた樹脂膜1及び樹脂膜2を切断後、温度23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後、3次元粗さ測定器(KEYENCE社製、「KS−1100」、先端ヘッド型番「LT−9510VM」)を用いて界面側の表面粗さ(Rz)を測定した。測定条件は測定範囲(X軸12500μm、Y軸5000μm)、測定ピッチ(X軸・Y軸ともに10μm)、移動速度(1000μm/秒)と設定し、温度23℃、湿度30%RH下で測定した。解析ソフト(KEYENCE社製、「KS−Analyzer」を用いて、JIS B−0601(1994)に準ずる方法により界面側の表面粗さ(Rz)を算出した。表面粗さを測定する際カットオフ2.5mmとした。表面粗さ(Rz)はミクロトームによる切創傷や異物、発泡等がない部分を評価し、3点の平均値を採用した。なお、測定は360分以内に完了した。
【0075】
(2)中間膜の屈折率差の測定
保護層用樹脂組成物を二軸スクリュー式押出機に供給して溶融混錬し、Tダイに導入して拡幅したのち開口部から吐出させ、直ちに冷却固化し厚さ760μmの熱可塑性樹脂膜を得た。上記熱可塑性樹脂膜を23℃、30%RH下で3時間放置した。上記熱可塑性樹脂膜の幅方向中央部分より幅10mm、長さ30mmの採寸で切出したシート片を得た。得られたシート片について、アッベ屈折計(株式会社アタゴ製「NAR−1T SOLID」)を用いて、JIS K7142に準拠し、25℃で、D線(波長589.3nm)により屈折率nDを測定した。屈折率nDを、保護層用樹脂組成物の屈折率、すなわち、第1の表面層の屈折率及び第2の表面層の屈折率とした。また、同様の方法により、遮音層用樹脂組成物の屈折率nDを測定し、中間層の屈折率とした。
【0076】
(3)中間膜の80℃クリープ伸び率及び80℃クリープ弾性率の測定
温度25℃、湿度25%RH下に24時間放置して調温調湿した所定の断面積(8.1mm)を有する合わせガラス用中間膜を、その下端に所定の荷重の錘(20g)を吊り下げた状態で、所定の温度(80℃)下に30分間放置した後、合わせガラス用中間膜の伸びを測定し、下式により80℃クリープ伸び率(%)を算出した。
80℃クリープ伸び率(%)=(試験後の長さ(cm)−試験前の長さ(cm))/試験前の長さ(cm)×100
また、得られた80℃クリープ伸び率を用いて、下式により80℃クリープ弾性率(MPa)を算出した。
80℃クリープ弾性率(MPa)=(錘の荷重(N))/(試験片の初期の断面積(mm)×80℃クリープ伸び率(%)/100)
【0077】
(4)合わせガラスの光学歪みの評価
実施例及び比較例で得られた、合わせガラス用中間膜の伸展率が1倍である合わせガラス及び合わせガラス用中間膜の伸展率が1.2倍である合わせガラスに、光源(ハロゲンランプ)からスリットを透過させた光を当て、スクリーンに写った投影歪みをセンサー(カメラ)にて受信し、コンピュータにてデータ処理を行い、光学歪み値とした。光学歪み値が高いほど光学歪み(像のゆがみ)が大きいといえる。
以下に、光学歪み値の測定方法の詳細を述べる。特開平7−306152号公報に記載された装置、即ち、透光性を有する被検査物に向けて照明光を照射する光源ユニットと、スリットと、被検査物を透過した該照明光を投影する投影面と、投影面を撮像して濃淡画像を生成する画像入力部と、画像入力部で得られた濃淡画像の濃淡レベルのばらつきの度合いに基づいて歪の有無を判定する画像処理部とを有する光学的歪検査装置を用いて、光学歪み値を測定した。具体的には、光源として岩崎電気社製のEYE DICHO−COOL HALOGEN(15V100W)を用い、JIS R 3211(1988)での可視光線透過率(A光Y値、A−Y(380〜780nm))が88%(日立ハイテクテクノロジー社製、「U4100」を使用)の単層膜から構成される合わせガラスの光学歪み値が1.14、ガラスなしの状態の光学歪み値が1.30になるように光源の照度、光学歪み像が投影されるスクリーンの角度、カメラの角度を調整して光学歪み値を評価した。光学歪みの評価は合わせガラス温度が25℃の条件下で行った。光学歪み値として、縦と横の値が算出されるが、数値の低い方を採用した。なお、温度計として接触式温度計を使用した。
なお、自動車用フロントガラスとして用いるためには、伸展率1倍での光学歪みが1.8未満であること、及び、伸展率1倍での光学歪みに対する伸展率1.2倍での光学歪みの比(伸展率1.2倍での光学歪み/伸展率1倍での光学歪み)が1.2以下であることが求められる。それ以外の用途、例えば、建築用合わせガラスとして用いるためには、伸展率1倍での光学歪みが3以下であり、伸展率1.2倍での光学歪が5以下であることが好ましい。
【0078】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、2層以上の多層構造を有しながら光学歪みの小さい合わせガラス用中間膜、及び、該合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスを提供することができる。
【要約】
本発明は、2層以上の多層構造を有しながら光学歪みの小さい合わせガラス用中間膜、及び、該合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスを提供することを目的とする。
本発明は、少なくとも一方の表面に、多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを有し、第1の表面層と第2の表面層とを含む2層以上の熱可塑性樹脂と可塑剤とを含有する樹脂層が積層された合わせガラス用中間膜であって、合わせガラス用中間膜を23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後に、23℃、湿度30%RH下でミクロトームを用いて合わせガラス用中間膜を水平方向に、前記第1の表面層と該第1の表面層の内側に接する樹脂層との界面から第1の表面層側に80〜90μmの位置で切断し、次いで該切断面より更に第2の表面層側に50μmの位置で切断して得られた厚さ50μmの樹脂膜1について、切断後に温度23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後にJIS B−0601(1994)に準ずる方法により測定した表面粗さ(Rz)が2.5μm未満である合わせガラス用中間膜である。
図1
図2
図4
図3