【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも一方の表面に、多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを有し、第1の表面層と第2の表面層とを含む2層以上の熱可塑性樹脂と可塑剤とを含有する樹脂層が積層された合わせガラス用中間膜であって、合わせガラス用中間膜を23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後に、23℃、湿度30%RH下でミクロトームを用いて合わせガラス用中間膜を水平方向に、前記第1の表面層と該第1の表面層の内側に接する樹脂層との界面から第1の表面層側に80〜90μmの位置で切断し、次いで該切断面より更に第2の表面層側に50μmの位置で切断して得られた厚さ50μmの樹脂膜1について、切断後に温度23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後にJIS B−0601(1994)に準ずる方法により測定した表面粗さ(Rz)が2.5μm未満である合わせガラス用中間膜である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、2層以上の樹脂層が積層された合わせガラス用中間膜を用いた場合の光学歪みの発生の原因を検討した。その結果、製造時に積層体をロール間に通して圧延したときの圧力により、合わせガラス用中間膜中に残留する応力が原因であることを見出した。
【0009】
合わせガラスの製造工程においては、ガラスと合わせガラス用中間膜とを積層する際の脱気性が重要である。合わせガラス用中間膜の少なくとも一方の表面は、合わせガラス製造時の脱気性を確保する目的で、微細な凹凸を有する。このような凹凸を付与するためには、通常、積層体を加熱したエンボスロール間に通して圧延することにより、エンボスロール上の凹凸を積層体に転写することが行われる。このエンボスロール間を通過させる際の圧延処理により、得られる合わせガラス用中間膜中に応力が残留すると考えられる。
また、エンボス付与工程のほかにも、合わせガラス用中間膜の巾を広げる目的で、積層体を加熱したロール間に通して圧延することが行われる。このような操作によっても、得られる合わせガラス用中間膜中に応力が残留すると考えられる。
【0010】
本発明者らは、更に鋭意検討の結果、上記残留応力は特に合わせガラス用中間膜の表面層と該表面層の内側に接する樹脂層との界面付近に集中し、これが光学歪み発生の原因となっていること、合わせガラス用中間膜を水平方向に切断して得た特定部位の樹脂膜の界面側の表面粗さ(Rz)を測定することにより応力残留の程度を評価できること、及び、該樹脂膜の界面側の表面粗さ(Rz)を一定以下とすることにより、光学歪みの少ない合わせガラス用中間膜が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明の合わせガラス用中間膜は、少なくとも一方の表面に、多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを有する。本発明の合わせガラス用中間膜においては、上記凹部は、底部が連続した溝形状(刻線状)を有し、且つ、規則的に並列していることが好ましい。
また、本発明の合わせガラス用中間膜においては、上記凹部は、底部が連続した溝形状を有し、且つ、平行に並列していることが好ましい。また、本発明の合わせガラス用中間膜においては、上記凹部は、底部が連続した溝形状を有し、且つ、上記凹部が平行して規則的に並列していることが好ましい。
一般に、2枚のガラス板の間に合わせガラス用中間膜が積層された積層体を予備圧着及び本圧着するときの空気の抜け易さは、上記凹部の底部の連通性及び平滑性と密接な関係がある。
中間膜の少なくとも一方の面の凹凸の形状を、底部が連続した溝形状である凹部が規則的に並列している形状とすることにより、上部の底部の連通性はより優れ、予備圧着及び本圧着の際に著しく脱気性が向上する。また、中間膜の少なくとも一方の面の凹凸の形状を、底部が連続した溝形状である凹部が平行に並列している形状とすることにより、上部の底部の連通性はより優れ、予備圧着及び本圧着の際に著しく脱気性が向上する。また、中間膜の少なくとも一方の面の凹凸の形状を、底部が連続した溝形状である凹部が平行して規則的に並列している形状とすることにより、上部の底部の連通性は更により一層優れ、予備圧着及び本圧着の際に更により一層著しく脱気性が向上する。
なお、「規則的に並列している」とは、多数の微細な凹部と凸部とを有する中間膜の表面を観察した際に、一定の方向に周期的に底部が連続した溝形状である凹部が並列していることを意味する。また、「平行して並列している」とは、隣接する上記凹部が平行して等間隔に並列していてもよく、隣接する上記凹部が平行して並列しているが、すべての隣接する上記凹部の間隔が等間隔でなくともよいことを意味する。
図1及び
図2に、表面に底部が連続した溝形状である凹部が等間隔、かつ、隣接する凹部が平行して並列している合わせガラス用中間膜の一例を表す模式図を示した。
図3に、表面に底部が連続した溝形状である凹部が規則的に並列している合わせガラス用中間膜の表面を、3次元粗さ測定器(KEYENCE社製、「KS−1100」、先端ヘッド型番「LT−9510VM」)を用いて測定した3次元粗さの画像データを示した。
【0012】
上記多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを有する表面の粗さ(Rz)の好ましい下限は5μm、好ましい上限は90μmである。上記多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを有する表面の粗さ(Rz)をこの範囲内とすることにより、優れた脱気性を発揮することができる。
なお、本明細書において上記多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを有する表面の粗さ(Rz)は、JIS B−0601(1994)に準ずる方法により測定される。
【0013】
上記刻線状の凹部の粗さ(Rz)の好ましい下限は10μm、好ましい上限は90μmである。上記刻線状の凹部の粗さ(Rz)をこの範囲内とすることにより、優れた脱気性を発揮することができる。上記刻線状の凹部の粗さ(Rz)のより好ましい下限は20μm、より好ましい上限は80μmである。
なお、本明細書において刻線状の凹部の粗さ(Rz)は、JIS B−0601(1994)に準ずる方法により測定される。
【0014】
隣接する上記刻線状の凹部の間隔の好ましい下限は10μm、好ましい上限は500μmである。上記刻線状の凹部の間隔をこの範囲内とすることにより、優れた脱気性を発揮することができる。上記刻線状の凹部の間隔のより好ましい下限は50μm、より好ましい上限は300μmである。
なお、本明細書において刻線状の凹部の間隔は、光学顕微鏡(SONIC社製、「BS−8000III」)を用いて、合わせガラス用中間膜の第1の表面及び第2の表面(観察範囲20mm×20mm)を観察し、隣接する凹部の間隔を測定したうえで、隣接する凹部の最底部間の最短距離の平均値を算出することにより得られる。
【0015】
本発明の合わせガラス用中間膜は、第1の表面層と第2の表面層とを含む2層以上の樹脂層が積層された構造を有する。
本発明の合わせガラス用中間膜は、このような積層構造の合わせガラス用中間膜を23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後に、23℃、湿度30%RH下でミクロトームを用いて合わせガラス用中間膜を水平方向に、上記第1の表面層と該第1の表面層の内側に接する樹脂層との界面から第1の表面層側に80〜90μmの位置で切断し、次いで該切断面より更に第2の表面層側に50μmの位置で切断して得られた厚さ50μmの樹脂膜1について、切断後に温度23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後にJIS B−0601(1994)に準ずる方法により測定した表面粗さ(Rz)が2.5μm未満である。また、本発明の合わせガラス用中間膜は、23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後に、23℃、湿度30%RH下でミクロトームを用いて合わせガラス用中間膜を水平方向に、上記第2の表面層と該第2の表面層の内側に接する樹脂層との界面から第2の表面層側に80〜90μmの位置で切断し、次いで該切断面より更に第1の表面層側に50μmの位置で切断して得られた厚さ50μmの樹脂膜2について、切断後に温度23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後にJIS B−0601(1994)に準ずる方法により測定した表面粗さ(Rz)が2.5μm未満であることが好ましい。
樹脂膜1の界面側の表面粗さ(Rz)を2.5μm未満とすることにより、光学歪みの発生を抑制することができる。更に、樹脂膜1及び樹脂膜2の界面側の表面粗さ(Rz)を2.5μm未満とすることにより、光学歪みの発生を抑制することができる。上記樹脂膜1及び樹脂膜2の界面側の表面粗さ(Rz)は1.9μm以下であることが好ましく、1.0μm以下であることがより好ましく、0.9μm以下であることが更に好ましい。また、上記樹脂膜1及び樹脂膜2の界面側の表面粗さは異なっていてもよい。
【0016】
図4に、本発明の合わせガラス用中間膜が3層構造である場合を例に、上記樹脂膜1及び樹脂膜2の採取位置を説明する模式図を示した。
上記樹脂膜1は、第1の表面層と該第1の表面層の内側に接する樹脂層との界面から第1の表面層側に80〜90μmの位置で切断し、更に第2の表面層側に50μmの位置で切断して得る。このように2層の界面付近が最も残留応力を観察し易く、正確に光学歪みの発生を予測することができる。上記樹脂膜2についても同様である。なお、
図4においては3層構造である場合を例に挙げたが、本発明の合わせガラス用中間膜は2層であってもよく、4層以上の多層構造であってもよい。また、本発明の合わせガラス用中間膜が2層である場合には、第1の表面層と該第1の表面層の内側に接する樹脂層は第2の表面層であり、第2の表面層と該第2の表面層の内側に接する樹脂層は第1の表面層である。
合わせガラス用中間膜を水平方向に切断する方法は、例えば、ミクロトームを用いる方法が挙げられる。この際、ミクロトームの刃はできるだけ新しいものを用い、表面粗さ(Rz)の測定はミクロトームによる切創痕のない部分を評価する。上記ミクロトームの刃としては、Leica社製の819 Bladeを用いることが好ましい。
【0017】
合わせガラス用中間膜を水平方向に切断して得られた上記樹脂膜1及び樹脂膜2は、切断後、温度23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後に上記界面側の表面粗さ(Rz)を測定する。一定時間放置してから測定することにより、合わせガラス用中間膜中の残留応力によって樹脂膜の収縮等が起こり、その結果表面粗さとして現れる。
なお、測定は、温度23℃、湿度30%RH下に3時間放置した後、6時間以内に行うことが好ましい。6時間を超えてから測定すると、表面粗さが変動してしまい、得られる数値にバラツキが生じることがある。
【0018】
上記第1の表面層、第2の表面層、及びその他の層(中間層)を構成する樹脂層は、熱可塑性樹脂と可塑剤とを含有する。
上記熱可塑性樹脂として、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、ポリ三フッ化エチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセタール、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。なかでも、ポリビニルアセタール、又は、エチレン−酢酸ビニル共重合体を含有することが好ましく、ポリビニルアセタールを含有することがより好ましい。
【0019】
上記可塑剤としては、合わせガラス用中間膜に一般的に用いられる可塑剤であれば特に限定されず、例えば、一塩基性有機酸エステル、多塩基性有機酸エステル等の有機可塑剤や、有機リン酸化合物、有機亜リン酸化合物等のリン酸可塑剤等が挙げられる。
上記有機可塑剤として、例えば、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート、テトラエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、テトラエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート、ジエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、ジエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、ジエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート等が挙げられる。なかでも、上記樹脂層はトリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、又は、トリエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエートを含むことが好ましく、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエートを含むことがより好ましい。
【0020】
上記樹脂層は、接着力調整剤を含有することが好ましい。特に、合わせガラスを製造するときに、ガラスと接触する樹脂層は、上記接着力調整剤を含有することが好ましい。
上記接着力調整剤としては、例えば、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が好適に用いられる。上記接着力調整剤として、例えば、カリウム、ナトリウム、マグネシウム等の塩が挙げられる。
上記塩を構成する酸としては、例えば、オクチル酸、ヘキシル酸、2−エチル酪酸、酪酸、酢酸、蟻酸等のカルボン酸の有機酸、又は、塩酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。合わせガラスを製造するときに、ガラスと樹脂層との接着力を容易に調製できることから、ガラスと接触する第1の表面層及び第2の表面層は、接着力調整剤として、マグネシウム塩を含むことが好ましい。
【0021】
上記樹脂層は、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、接着力調整剤として変成シリコーンオイル、難燃剤、帯電防止剤、耐湿剤、熱線反射剤、熱線吸収剤等の添加剤を含有してもよい。
【0022】
本発明の合わせガラス用中間膜において、上記第1の表面層、第2の表面層の厚みの好ましい下限は200μm、好ましい上限は1000μmであり、上記第1の表面層と第2の表面層との間に配置される中間層の厚みの合計の好ましい下限は50μm、好ましい上限は300μmである。
【0023】
本発明の合わせガラス用中間膜は、少なくとも一方の表面に、多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを有する。これにより、合わせガラスの製造時における脱気性を確保することができる。上記凹凸は、一方の表面にのみ有してもよいが、より脱気性が向上することから、合わせガラス用中間膜の両面に有することが好ましい。
【0024】
本発明の合わせガラス用中間膜は、上記第1の表面層、第2の表面層と、これらの間に配置される中間層との屈折率差が0.05以下であることが好ましい。上記屈折率差が0.05以下であることにより、光学歪みがより一層抑えられる。
【0025】
本発明の合わせガラス用中間膜は、80℃におけるクリープ伸び率(80℃クリープ伸び率)が80%以下であることが好ましく、より好ましくは60%以下、更に好ましくは50%以下、特に好ましくは35%以下である。上記80℃クリープ伸び率が上記好ましい範囲であることにより、伸展による光学歪の悪化がより一層抑制される。上記80℃クリープ伸び率は、低いほど好ましいが、実質的な下限は10%である。
上記80℃クリープ伸び率は、多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを形成する前の合わせガラス用中間膜の80℃クリープ伸び率であることが好ましい。しかしながら、実際には多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを形成する前の合わせガラス用中間膜の80℃クリープ伸び率を直接測定することは困難である。そのため、直接測定する代わりに、例えば、以下の手順に従って合わせガラス用中間膜の80℃クリープ伸び率を測定する方法を用いることができる。
合わせガラス用中間膜を二枚のポリエチレンテレフタレート板(縦30cm×横30cm×厚さ0.1mm、以下、単に「PET板」ともいう)の間に挟み、更に、その外側からJIS R 3202(1996)に準拠した二枚のクリアガラス板(縦30cm×横30cm×厚さ2.5mm)で挟み、はみ出た部分を切り取り、厚さ方向にクリアガラス板/PET板/合わせガラス用中間膜/PET板/クリアガラス板の順に積層された構成体を得る。該構成体をオートクレーブ中に入れ、温度140℃、圧力1300kPaの条件下で10分間保持した後、50℃まで温度を下げ大気圧に戻す。その後、合わせガラス用中間膜をPET板から剥離する。剥離した合わせガラス用中間膜を25℃−25%RHの雰囲気下に24時間放置して調温調湿する。調温調湿後の合わせガラス用中間膜を長さ8cm、幅1cmに切り出し、クリープ弾性率試験片を作製する。クリープ弾性率試験片の長さ方向の中心から両端へ向かって2cmの部分に、それぞれ標線を引いた後、試験片の厚さを測定し、試験片の初期の断面積を求める。その後、クリープ弾性率試験片を80℃のオートクレーブ中に垂直に吊り下げた後、下端に20gの錘を取り付け、30分放置する。30分経過後、クリープ弾性率試験片を温度25℃、湿度25RH下に直ちに取り出し、試験片がオートクレーブを出た瞬間を0秒として、60秒後の試験片の2つの標線の距離(標線間距離)を測定する。2つの標線の距離の変化から、80℃クリープ伸び率を下式により算出する。
80℃クリープ伸び率(%)=100×(試験後の標線間距離(mm)−試験前の標線間距離(mm))/(試験前の標線間距離(mm))
【0026】
本発明の合わせガラス用中間膜は、80℃におけるクリープ弾性率(80℃クリープ弾性率)が0・030MPa以上であることが好ましく、より好ましくは0.035MPa以上、更に好ましくは0・040MPa以上、特に好ましくは0・05MPa以上である。上記80℃におけるクリープ弾性率が上記好ましい範囲であることにより、伸展による光学歪の悪化がより一層抑制される。上記80℃クリープ弾性率は、高いほど好ましいが、実質的な上限は0・25MPaである。
上記80℃クリープ弾性率は、試験片の初期の断面積、上述した方法により求めた80℃クリープ伸び率、及び、錘の荷重から、下式により算出される。
80℃クリープ弾性率(MPa)=(錘の荷重(N))/(試験片の初期の断面積(mm
2)×80℃クリープ伸び率(%)/100)
【0027】
上記樹脂膜1及び樹脂膜2の界面側の表面粗さ(Rz)を達成する手段は特に限定されないが、合わせガラス用中間膜中の残留応力は積層体をロール間に通して圧延する際に発生することから、該ロール間を通す際の条件を調整することより上記樹脂膜1及び樹脂膜2の界面側の表面粗さ(Rz)を低減させることができる。
具体的には、ロール間を通す直前の積層体の温度を低くし、ロール温度を高くする方法が挙げられる。このように積層体とロールとの温度差を大きくすることにより、中間膜の表層付近のみを変形させやすくできることから、上記樹脂膜1及び樹脂膜2の界面側の表面粗さ(Rz)を低減することができる。より具体的には、例えば、ロール温度を120℃から170℃にし、多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを形成する前の膜の温度を50℃から100℃にすることが好ましい。
【0028】
上記樹脂膜1及び樹脂膜2の界面側の表面粗さ(Rz)は、中間膜の物性等によっても影響される。例えば、80℃クリープ伸び率を低くすることにより、上記樹脂膜1及び樹脂膜2の界面側の表面粗さ(Rz)を低減することができる。
【0029】
上記樹脂膜1及び樹脂膜2の界面側の表面粗さ(Rz)は、上記ロール温度、上記多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを形成する前の膜の温度、及び、80℃クリープ伸び率を組み合わせることで、達成することができる。例えば、上記ロール温度を120℃から170℃に設定し、多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを形成する前の膜の温度を50℃から100℃に設定し、且つ、80℃クリープ伸び率を80%以下に設定することで達成できる。
【0030】
本発明の合わせガラス用中間膜を構成する3層以上の樹脂層の組み合わせとしては、例えば、合わせガラスの遮音性を向上させるために、上記第1の表面層及び第2の表面層を保護層とし、これらで遮音層を挟持した、優れた遮音性を有する合わせガラス用中間膜(以下、「遮音中間膜」ともいう。)が挙げられる。
本発明では、上記遮音層と保護層のように、性質が異なる樹脂層が積層されていても、光学歪みの発生を抑制できる。
以下、該遮音中間膜について、より具体的に説明する。
【0031】
上記遮音中間膜において、上記遮音層は遮音性を付与する役割を有する。
上記遮音層は、ポリビニルアセタールXと可塑剤とを含有することが好ましい。
上記ポリビニルアセタールXは、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することにより調製することができる。上記ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られる。
上記ポリビニルアルコールの重合度の好ましい下限は200、好ましい上限は5000である。上記ポリビニルアルコールの重合度を200以上とすることにより、得られる遮音中間膜の耐貫通性を向上させることができ、5000以下とすることにより、遮音層の成形性を確保することができる。上記ポリビニルアルコールの重合度のより好ましい下限は500、より好ましい上限は4000である。
【0032】
上記ポリビニルアルコールをアセタール化するためのアルデヒドの炭素数の好ましい下限は4、好ましい上限は6である。アルデヒドの炭素数を4以上とすることにより、充分な量の可塑剤を安定して含有させることができ、優れた遮音性能を発揮することができる。また、可塑剤のブリードアウトを防止することができる。アルデヒドの炭素数を6以下とすることにより、ポリビニルアセタールXの合成を容易にし、生産性を確保できる。
上記炭素数が4〜6のアルデヒドとしては、直鎖状のアルデヒドであってもよいし、分枝状のアルデヒドであってもよく、例えば、n−ブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド等が挙げられる。
【0033】
上記ポリビニルアセタールXの水酸基量の好ましい上限は30モル%である。上記ポリビニルアセタールXの水酸基量を30モル%以下とすることにより、遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることができ、可塑剤のブリードアウトを防止することができる。上記ポリビニルアセタールXの水酸基量のより好ましい上限は28モル%、更に好ましい上限は26モル%、特に好ましい上限は24モル%、好ましい下限は10モル%、より好ましい下限は15モル%、更に好ましい下限は20モル%である。
上記ポリビニルアセタールXの水酸基量は、水酸基が結合しているエチレン基量を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。上記水酸基が結合しているエチレン基量は、例えば、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により、上記ポリビニルアセタールXの水酸基が結合しているエチレン基量を測定することにより求めることができる。
【0034】
上記ポリビニルアセタールXのアセタール基量の好ましい下限は60モル%、好ましい上限は85モル%である。上記ポリビニルアセタールXのアセタール基量を60モル%以上とすることにより、遮音層の疎水性を高くして、遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることができ、可塑剤のブリードアウトや白化を防止することができる。上記ポリビニルアセタールXのアセタール基量を85モル%以下とすることにより、ポリビニルアセタールXの合成を容易にし、生産性を確保することができる。上記アセタール基量は、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により、上記ポリビニルアセタールXのアセタール基が結合しているエチレン基量を測定することにより求めることができる。
【0035】
上記ポリビニルアセタールXのアセチル基量の好ましい下限は0.1モル%、好ましい上限は30モル%である。上記ポリビニルアセタールXのアセチル基量を0.1モル%以上とすることにより、遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることができ、ブリードアウトを防止することができる。また、上記ポリビニルアセタールXのアセチル基量を30モル%以下とすることにより、遮音層の疎水性を高くして、白化を防止することができる。上記アセチル基量のより好ましい下限は1モル%、更に好ましい下限は5モル%、特に好ましい下限は8モル%、より好ましい上限は25モル%、更に好ましい上限は20モル%である。上記アセチル基量は、主鎖の全エチレン基量から、アセタール基が結合しているエチレン基量と、水酸基が結合しているエチレン基量とを差し引いた値を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。
【0036】
特に、上記遮音層に遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を容易に含有させることができることから、上記ポリビニルアセタールXは、上記アセチル基量が8モル%以上のポリビニルアセタール、又は、上記アセチル基量が8モル%未満、かつ、アセタール基量が68モル%以上のポリビニルアセタールであることが好ましい。
【0037】
上記遮音層における可塑剤の含有量は、上記ポリビニルアセタールX100質量部に対する好ましい下限が45質量部、好ましい上限が80質量部である。上記可塑剤の含有量を45質量部以上とすることにより、高い遮音性を発揮することができ、80質量部以下とすることにより、可塑剤のブリードアウトが生じて、合わせガラス用中間膜の透明性や接着性の低下を防止することができる。上記可塑剤の含有量のより好ましい下限は50質量部、更に好ましい下限は55質量部、より好ましい上限は75質量部、更に好ましい上限は70質量部である。
【0038】
上記遮音層の厚さの好ましい下限は50μmである。上記遮音層の厚さを50μm以上とすることにより、充分な遮音性を発揮することができる。上記遮音層の厚さのより好ましい下限は70μmであり、更に好ましい下限は80μmである。なお、上限は特に限定されないが、合わせガラス用中間膜としての厚さを考慮すると、好ましい上限は150μmである。
【0039】
上記保護層は、遮音層に含まれる大量の可塑剤がブリードアウトして、合わせガラス用中間膜とガラスとの接着性が低下するのを防止し、また、合わせガラス用中間膜に耐貫通性を付与する役割を有する。
上記保護層は、例えば、ポリビニルアセタールYと可塑剤とを含有することが好ましく、ポリビニルアセタールXより水酸基量が大きいポリビニルアセタールYと可塑剤とを含有することがより好ましい。
【0040】
上記ポリビニルアセタールYは、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することにより調製することができる。
上記ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られる。また、上記ポリビニルアルコールの重合度の好ましい下限は200、好ましい上限は5000である。上記ポリビニルアルコールの重合度を200以上とすることにより、合わせガラス用中間膜の耐貫通性を向上させることができ、5000以下とすることにより、保護層の成形性を確保することができる。上記ポリビニルアルコールの重合度のより好ましい下限は500、より好ましい上限は4000である。
【0041】
上記ポリビニルアルコールをアセタール化するためのアルデヒドの炭素数の好ましい下限は3、好ましい上限は4である。アルデヒドの炭素数を3以上とすることにより、合わせガラス用中間膜の耐貫通性が高くなる。アルデヒドの炭素数を4以下とすることにより、ポリビニルアセタールYの生産性が向上する。
上記炭素数が3〜4のアルデヒドとしては、直鎖状のアルデヒドであってもよいし、分枝状のアルデヒドであってもよく、例えば、n−ブチルアルデヒド等が挙げられる。
【0042】
また、本発明の合わせガラス用中間膜がポリビニルアセタールを含む場合、80℃クリープ伸び率及び80℃クリープ弾性率は、以下の方法によって調節することができる。
上記ポリビニルアルコールをアセタール化した後、ポリビニルアセタールが析出する。析出するポリビニルアセタールに、酸を添加後、熟成させる。熟成の際の酸、温度及び時間を特定の値の範囲とし、条件を組み合わせることで、所望の80℃クリープ伸び率及び80℃クリープ弾性率を達成することができる。
熟成に用いる酸は特に限定されないが、塩酸又は硝酸であることが好ましい。用いる酸の濃度が濃いほど、80℃クリープ伸び率は低下し、80℃クリープ弾性率は増加する。
熟成の温度としては、80℃クリープ伸び率及び80℃クリープ弾性率を上記好ましい範囲とする観点からは、60℃以上であることが好ましく、65℃以上であることがより好ましい。熟成の温度が高ければ高いほど、80℃クリープ伸び率は低下し、80℃クリープ弾性率は増加する。熟成の温度は特に限定されないが、100℃以下であることが好ましい。
熟成の時間としては、80℃クリープ伸び率及び80℃クリープ弾性率を上記好ましい範囲とする観点からは、1.5時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましい。熟成の時間が長ければ長いほど、80℃クリープ伸び率は低下し、80℃クリープ弾性率は増加する。
【0043】
上記ポリビニルアセタールYの水酸基量の好ましい上限は33モル%、好ましい下限は28モル%である。上記ポリビニルアセタールYの水酸基量を33モル%以下とすることにより、合わせガラス用中間膜の白化を防止することができる。上記ポリビニルアセタールYの水酸基量を28モル%以上とすることにより、合わせガラス用中間膜の耐貫通性が高くなる。
【0044】
上記ポリビニルアセタールYは、アセタール基量の好ましい下限が60モル%、好ましい上限が80モル%である。上記アセタール基量を60モル%以上とすることにより、充分な耐貫通性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることができる。上記アセタール基量を80モル%以下とすることにより、上記保護層とガラスとの接着力を確保することができる。上記アセタール基量のより好ましい下限は65モル%、より好ましい上限は69モル%である。
【0045】
上記ポリビニルアセタールYのアセチル基量の好ましい上限は7モル%である。上記ポリビニルアセタールYのアセチル基量を7モル%以下とすることにより、保護層の疎水性を高くして、白化を防止することができる。上記アセチル基量のより好ましい上限は2モル%であり、好ましい下限は0.1モル%である。なお、ポリビニルアセタールA、B、及び、Yの水酸基量、アセタール基量、及び、アセチル基量は、ポリビニルアセタールXと同様の方法で測定できる。
【0046】
上記保護層における可塑剤の含有量は、上記ポリビニルアセタールY100質量部に対する好ましい下限が20質量部、好ましい上限が45質量部である。上記可塑剤の含有量を20質量部以上とすることにより、耐貫通性を確保することができ、45質量部以下とすることにより、可塑剤のブリードアウトを防止して、合わせガラス用中間膜の透明性や接着性の低下を防止することができる。上記可塑剤の含有量のより好ましい下限は30質量部、更に好ましい下限は35質量部、より好ましい上限は43質量部、更に好ましい上限は41質量部である。合わせガラスの遮音性がよりいっそう向上することから、上記保護層における可塑剤の含有量は、上記遮音層における可塑剤の含有量よりも少ないことが好ましい。
【0047】
合わせガラスの遮音性がより一層向上することから、ポリビニルアセタールYの水酸基量はポリビニルアセタールXの水酸基量より大きいことが好ましく、1モル%以上大きいことがより好ましく、5モル%以上大きいことが更に好ましく、8モル%以上大きいことが特に好ましい。ポリビニルアセタールX及びポリビニルアセタールYの水酸基量を調整することにより、上記遮音層及び上記保護層における可塑剤の含有量を制御することができ、上記遮音層のガラス転移温度が低くなる。結果として、合わせガラスの遮音性がより一層向上する。
また、合わせガラスの遮音性がより一層向上することから、上記遮音層におけるポリビニルアセタールX100質量部に対する、可塑剤の含有量(以下、含有量Xともいう。)は、上記保護層におけるポリビニルアセタールY100質量部に対する、可塑剤の含有量(以下、含有量Yともいう。)より多いことが好ましく、5質量部以上多いことがより好ましく、15質量部以上多いことが更に好ましく、20質量部以上多いことが特に好ましい。含有量X及び含有量Yを調整することにより、上記遮音層のガラス転移温度が低くなる。結果として、合わせガラスの遮音性がより一層向上する。
【0048】
上記保護層の厚さとしての好ましい下限は200μm、好ましい上限は1000μmである。上記保護層の厚さを200μm以上とすることにより、耐貫通性を確保することができる。
上記保護層の厚みのより好ましい下限は300μm、より好ましい上限は700μmである。
【0049】
上記遮音中間膜を製造する方法としては特に限定されず、例えば、上記遮音層と保護層とを、押し出し法、カレンダー法、プレス法等の通常の製膜法によりシート状に製膜した後、積層する方法等が挙げられる。
【0050】
本発明の合わせガラス用中間膜が、一対のガラス板の間に積層されている合わせガラスもまた、本発明の1つである。
上記ガラス板は、一般に使用されている透明板ガラスを使用することができる。例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入りガラス、線入り板ガラス、着色された板ガラス、熱線吸収ガラス、熱線反射ガラス、グリーンガラス等の無機ガラスが挙げられる。また、ガラスの表面に紫外線遮蔽コート層が形成された紫外線遮蔽ガラスも用いることができる。更に、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリレート等の有機プラスチックス板を用いることもできる。
上記ガラス板として、2種類以上のガラス板を用いてもよい。例えば、透明フロート板ガラスと、グリーンガラスのような着色されたガラス板との間に、本発明の合わせガラス用中間膜を積層した合わせガラスが挙げられる。また、上記ガラス板として、2種以上の厚さの異なるガラス板を用いてもよい。
【0051】
本発明の合わせガラスの製造方法としては特に限定されず、従来公知の製造方法を用いることができる。