特許第5866596号(P5866596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5866596
(24)【登録日】2016年1月15日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】電流センサ
(51)【国際特許分類】
   G01R 15/20 20060101AFI20160204BHJP
【FI】
   G01R15/20 C
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-250507(P2012-250507)
(22)【出願日】2012年11月14日
(65)【公開番号】特開2014-98629(P2014-98629A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2014年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】310014322
【氏名又は名称】アルプス・グリーンデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】三ツ谷 真司
【審査官】 荒井 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−156390(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0121827(US,A1)
【文献】 特開2006−078316(JP,A)
【文献】 特開2001−153895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の腕部と当該一対の腕部を連結する連結部とを有する筐体と、
前記筐体に内蔵され、一対の前記腕部間を長軸又は短軸が通る仮想楕円上に、前記長軸及び短軸に対して線対称に、且つ前記長軸及び前記短軸以外の異なる位置に配置された複数の前記磁電変換素子と、
一対の前記腕部間を通る前記長軸又は短軸から一方の前記腕部側にずれた位置であって、一対の前記腕部間に位置する前記仮想楕円の中心を視点として、前記長軸方向又は短軸方向から斜め方向の位置に設けられた固定部と、
前記腕部間に固定される電線の外周に巻き付けられると共に一部が前記固定部に引掛けられ、前記電線の中心を前記固定部側に引き寄せて固定するバンドと、
を具備し、
前記仮想楕円は、長軸の長さが短軸の長さよりも長い楕円であることを特徴とする電流センサ。
【請求項2】
前記固定部は、前記仮想楕円内において前記電線の中心が前記仮想楕円の中心から位置ずれすることによる感度変化が、前記電線の中心が前記仮想楕円の長軸方向又は短軸方向に同じ距離だけ位置ずれする場合に比べて相対的に小さくなる方向に延びる直線上に、前記電線の中心が位置するように当該電線を固定することを特徴とする請求項1記載の電流センサ。
【請求項3】
前記固定部は、一対の前記腕部間を通る前記仮想楕円の長軸方向又は短軸方向を0°として、一方の前記腕部側に前記仮想楕円の中心から45°方向となる斜め方向に設けられたことを特徴とする請求項2記載の電流センサ。
【請求項4】
一対の腕部と当該一対の腕部を連結する連結部とを有する筐体と、
前記筐体に内蔵され、一対の前記腕部間を長軸又は短軸が通る仮想楕円上に、前記長軸及び短軸に対して線対称に、且つ前記長軸及び前記短軸以外の異なる位置に配置された複数の前記磁電変換素子と、
前記一対の腕部の間に配置される固定片とを備え、
前記仮想楕円は、長軸の長さが短軸の長さよりも長い楕円であり、
前記筐体は、一方の前記腕部の内壁に設けられた第1の電線固定部と、前記連結部の内壁に設けられた第2の電線固定部とを有し、
前記固定片は、一方の腕部側から他方の腕部側に向けて直線状に延在し当該固定材の挿入方向に対して傾斜した傾斜面を有していることを特徴とする電流センサ。
【請求項5】
前記第1の電線固定部と、前記第2の電線固定部と、前記傾斜面とは、前記仮想楕円内において前記電線の中心が前記仮想楕円の中心から位置ずれすることによる感度変化が、前記電線の中心が前記仮想楕円の長軸方向又は短軸方向に同じ距離だけ位置ずれする場合に比べて相対的に小さくなる方向に延びる直線上に、前記電線の中心が位置するように当該電線を固定することを特徴とする請求項4記載の電流センサ。
【請求項6】
前記第1の電線固定部と前記第2の電線固定部と前記傾斜面とに接する円の中心が、一対の前記腕部間を通る前記仮想楕円の長軸方向又は短軸方向を0°として、一方の前記腕部側に前記仮想楕円の中心から45°方向となる斜め方向となるように、前記前記第1の電線固定部と、前記第2の電線固定部と前記傾斜面とが設けられたことを特徴とする請求項5記載の電流センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線に通流する被測定電流を測定する電流センサに関し、例えば、磁気検知素子を備えた電流センサに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッドカー等におけるモータ駆動技術分野では、比較的大きな電流が取り扱われるため、これら大電流を非接触で測定可能な電流センサが求められている。このような電流センサとして、被測定電流によって生じる磁界の変化を複数の磁気センサによって検出する電流センサが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1記載の電流センサは、中央部に円形の挿通孔が設けられ挿通孔の一方が開放するように切り欠かれた基板と、この挿通孔に挿入された電線の周囲を囲むように間隔を開けて配置される4つの磁気インピーダンス素子とを有する。この電流センサにおいては、挿通孔に挿入された電線を流れる被測定電流からの誘導磁界に応じて変化する各磁気インピーダンス素子から出力される出力信号の合計値に基づいて被測定電流を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−322706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電線に対する電流センサの取り付け位置がずれると、センサ位置での磁束密度が大きくずれる。このため、磁気インピーダンス素子を利用した電流センサは、電線に対する電流センサの取り付け位置がずれると、センサ出力が大きく変化してしまう。そこで、電流センサをしっかりと電線に固定する必要がある。特許文献1の電流センサの場合、電線を挿通孔の内壁に押し当てることで位置決めして固定している。
【0006】
しかしながら、特許文献1の電流センサのように、電線を筐体(挿通孔の内壁)に押し当てる構造は、径が異なる電線では固定状態での電線中心位置がずれるため、前述の出力変化が発生する問題が生じる。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、電線の径に応じた位置ずれによる出力変化を抑え、さまざまな電線径に対応することが可能な電流センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電流センサは、一対の腕部と当該一対の腕部を連結する連結部とを有する筐体と、前記筐体に内蔵され、一対の前記腕部間を長軸又は短軸が通る仮想楕円上に、前記長軸及び短軸に対して線対称に、且つ前記長軸及び前記短軸以外の異なる位置に配置された複数の前記磁電変換素子と、一対の前記腕部間を通る前記長軸又は短軸から一方の前記腕部側にずれた位置であって、一対の前記腕部間に位置する前記仮想楕円の中心を視点として、前記長軸方向又は短軸方向から斜め方向の位置に設けられた固定部と、前記腕部間に固定される電線の外周に巻き付けられると共に一部が前記固定部に引掛けられ、前記電線の中心を前記固定部側に引き寄せて固定するバンドと、を具備し、前記仮想楕円は、長軸の長さが短軸の長さよりも長い楕円であることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、被測定電流が流れる電線を一対の腕部間に案内した状態で、バンドによって固定部に電線を固定した際に、電線が電流センサの一方の腕部側に偏って固定される。これにより、径が異なる複数種の電線をバンドによって固定した際に、電線の中心が仮想楕円の長軸又は短軸に対して斜め方向にずれる。この結果、仮想楕円上に設けられた複数の磁電変換素子の長軸方向の配線位置ずれによる感度変化と短軸方向の配線位置ずれによる感度変化とが相殺されるので、異なる電線径に応じた位置ずれによる感度変化が小さく抑えられる。
【0010】
上記電流センサにおいて、前記固定部は、前記仮想楕円内において前記電線の中心が前記仮想楕円の中心から位置ずれすることによる感度変化が、前記電線の中心が前記仮想楕円の長軸方向又は短軸方向に同じ距離だけ位置ずれする場合に比べて相対的に小さくなる方向に延びる直線上に、前記電線の中心が位置するように当該電線を固定することを特徴とする。
【0011】
これにより、径が異なる電線を取り付ける際にも、電線中心が、電流センサの感度変化が最も変化しにくい直線上に位置するので、感度変化が抑えられ、電線を流れる被測定電流の測定精度が向上する。
【0012】
上記電流センサにおいて、前記固定部は、一対の前記腕部間を通る前記仮想楕円の長軸方向又は短軸方向を0°として、一方の前記腕部側に前記仮想楕円の中心から45°方向となる斜め方向に設けられたことを特徴とする。
【0013】
これにより、径が異なる電線を取り付ける際の電線中心の配線位置ずれに対して、電流センサの感度変化を最も効果的に抑制できる。
【0014】
本発明の電流センサは、一対の腕部と当該一対の腕部を連結する連結部とを有する筐体と、前記筐体に内蔵され、一対の前記腕部間を長軸又は短軸が通る仮想楕円上に、前記長軸及び短軸に対して線対称に、且つ前記長軸及び前記短軸以外の異なる位置に配置された複数の前記磁電変換素子と、前記一対の腕部の間に配置される固定片とを備え、前記仮想楕円は、長軸の長さが短軸の長さよりも長い楕円であり、前記筐体は、一方の前記腕部の内壁に設けられた第1の電線固定部と、前記連結部の内壁に設けられた第2の電線固定部とを有し、前記固定片は、一方の腕部側から他方の腕部側に向けて直線状に延在し当該固定材の挿入方向に対して傾斜した傾斜面を有していることを特徴とする。
【0015】
この構成においても、径が異なる複数種の電線をバンドによって固定した際に、電線の中心が仮想楕円の長軸又は短軸に対して斜め方向にずれる。この結果、仮想楕円上に設けられた複数の磁電変換素子の長軸方向の配線位置ずれによる感度変化と短軸方向の配線位置ずれによる感度変化とが相殺されるので、異なる電線径に応じた位置ずれによる感度変化が小さく抑えられる。
【0016】
上記電流センサにおいて、前記第1の電線固定部と、前記第2の電線固定部と、前記傾斜面とは、前記仮想楕円内において前記電線の中心が前記仮想楕円の中心から位置ずれすることによる感度変化が、前記電線の中心が前記仮想楕円の長軸方向又は短軸方向に同じ距離だけ位置ずれする場合に比べて相対的に小さくなる方向に延びる直線上に、前記電線の中心が位置するように当該電線を固定することを特徴とする。

【0017】
これにより、径が異なる電線を取り付ける際にも、電線中心が、電流センサの感度変化が最も変化しにくい直線上に位置するので、感度変化が抑えられ、電線を流れる被測定電流の測定精度が向上する。
【0018】
上記電流センサにおいて、前記第1の電線固定部と前記第2の電線固定部と前記傾斜面とに接する円の中心が、一対の前記腕部間を通る前記仮想楕円の長軸方向又は短軸方向を0°として、一方の前記腕部側に前記仮想楕円の中心から45°方向となる斜め方向となるように、前記前記第1の電線固定部と、前記第2の電線固定部と前記傾斜面とが設けられたことを特徴とする。

【0019】
これにより、径が異なる電線を取り付ける際の電線中心の配線位置ずれに対して、電流センサの感度変化を最も効果的に抑制できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電線の径に応じた位置ずれによる出力変化を抑え、さまざまな電線径に対応することが可能な電流センサを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】一実施の形態に係る電流センサの外観斜視図である。
図2】上記実施の形態に係る電流センサの分解斜視図である。
図3】磁電変換素子の楕円配置を示す模式図である。
図4図1に示す電流センサの第2面の模式的な平面図である。
図5】配線位置ずれ量と出力変動との関係を示す図である。
図6】電流センサの腕部間に電線を案内した状態を示す図である。
図7】シミュレーションに用いた磁電変換素子の3つの配置例を示す図である。
図8図7の配置例に対する配線位置ずれ量と出力変動のシミュレーション結果を示す図である。
図9】電線の配線位置ずれが斜め方向になる変形例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は本実施の形態に係る電流センサの外観斜視図であり、図2図1に示す電流センサの分解斜視図である。図1Aは電流センサをコネクタ取り出し側(以後、第1面という)から見た斜視図であり、図1Bは電流センサをコネクタ取り出し側とは反対側(以後、第2面という)から見た斜視図である。
【0023】
本実施の形態に係る電流センサ1は、外形がU字型をなす筐体で構成されており、同一方向へ延びる一対の腕部11a,11bと、U字型のつなぎ部分に相当し腕部11a,11bの一端部を連結する連結部11cと、を有する。電流センサ1の第1面1aには、腕部11a,11bの先端部を筐体下端として、連結部11cの筐体上端付近に配線コード接続用のコネクタ部12が設けられている(図1A参照)。電流センサ1の第2面1bには一方の腕部11bと連結部11cとが交差する交差部に電線固定用のバンド通し部13aを有する固定部13が設けられている(図1B参照)。固定部13が設けられる交差部の位置については後述する。
【0024】
図2に示すように、外形がU字型をなす筐体で構成された電流センサ1は、U字型の外形に対応した収容空間20aを有する筐体部20と、この筐体部20の収容空間20aに配置されるセンサ基板30と、筐体部20の収容空間20aの開口部(第1面1a)を塞ぐ蓋体40とを有する。筐体部20は、第2面1bを構成する外壁部21と、外壁部21の外周縁から収容空間20aの厚さだけ垂直に立ち上がるように形成された側壁部22と、を有する。収容空間20aは、筐体部20の外壁部21及び側壁部22と、蓋体40とで囲まれた空間で形成される。筐体部20の外壁部21(第2面1b)に固定部13が設けられている。外壁部21には蓋体40を取り付けるための複数の係合孔23aから23dが形成されている。センサ基板30には、被測定電流が流れる電線からの誘導磁界により出力信号を出力する複数の磁電変換素子31(31aから31h)が設けられている。また、センサ基板30の上端部には、磁電変換素子31からの出力信号を外部に取り出すコネクタ部12が設けられている。このコネクタ部12に配線コードを接続することにより、電線を流れる被測定電流からの出力信号を外部に取り出すことが可能となる。蓋体40は、第1面1aを構成する外壁部41と、筐体部20の係合孔23aから23dに対応して設けられた複数の係合片42a、42b(及び外壁部41で隠れた係合片42c、42d)と、を有する。蓋体40の係合片42a、42b等を、筐体部20の外壁部21に形成した係合孔23aから23dに挿入して蓋体40を筐体部20に取り付け固定する。
【0025】
図3にセンサ基板30の平面図を示す。センサ基板30は、筐体部20の収容空間20aにはめ込めるように、収容空間20aの平面形状に合わせたU字型の外形を有している。センサ基板30は、電流センサ1の一対の腕部11a,11b及び連結部11cに相当する領域に延在し、それらの位置に磁電変換素子31が設けられる。本実施の形態に係る電流センサ1においては、一対の腕部11a,11b及び連結部11cを通る仮想楕円E上に8つの磁電変換素子31a〜31hが設けられている。仮想楕円Eの長軸は一対の腕部11a,11bの間を通っており、図示する例では腕部11aと腕部11bとの中間線上を仮想楕円Eの長軸が通るように複数の磁電変換素子31a〜31hを楕円配置している。
【0026】
固定部13の形成位置は、次のように規定することができる。複数の磁電変換素子31a〜31hが仮想楕円E上に設けられ、仮想楕円Eの長軸が一対の腕部11a、11b間を通ることを前提として、一対の腕部11a、11b間に案内されて固定される電線の中心から見て、一対の腕部11a、11b間を通る長軸から一方の腕部11b側に傾いた斜め方向の位置が、固定部13の形成位置である。なお、仮想楕円Eの短軸が一対の腕部11a、11b間を通る場合は、一対の腕部11a、11b間に案内されて固定される電線の中心から見て、一対の腕部11a、11b間を通る短軸から一方の腕部11b側に傾いた斜め方向の位置が、固定部13の形成位置である。
【0027】
また、固定部13の形成位置は、次のように規定することもできる。上記した通り、固定部13は、電流センサ1の外壁部21(第2面1b)における腕部11bと連結部11cとが交差する交差部に設けられている。図4に示すように、仮想楕円Eの長軸方向における腕部11bの範囲をD1、連結部11cの範囲をD2とすれば、腕部11bの内壁に沿った長軸方向の直線L1と連結部11cの下面に沿った短軸方向の直線L2との交点Pが、交差部の中心となる。本実施の形態のように、腕部11a、11bの直線部の内壁14,15の先端から半円状の内壁16が連続形成されている場合、内壁14,15の形成された直線部の範囲D11を腕部11a、11bとし、半円状の内壁16を含む範囲D22を連結部11cと規定することもできる。このように規定した場合は、固定部13の形成位置は、連結部11cにおいて半円状の内壁16に沿った位置であって腕部11b側に偏った場所ということができる。
【0028】
図5に本発明者等が配線位置ずれ距離と電流センサ1の出力変化との関係を検証した検証データが示されている。磁電変換素子31a〜31hが仮想楕円E上に配置され、仮想楕円Eの長軸方向を垂直方向とし、短軸方向を水平方向とし、仮想楕円Eの長軸方向の中心軸を0°とする(図3参照)。配線位置(電線中心)を垂直方向へずらした際の出力変化は、三角マークの出力変化曲線である。位置ずれ0の位置を中心として上に凸の放物線状に出力変化が生じている。配線位置(電線中心)を水平方向へずらした際の出力変化は、菱形マークの出力変化曲線である。位置ずれ0の位置を中心として下に凸の放物線状に出力変化が生じている。垂直方向及び水平方向共に配線位置(電線中心)ずれにより大きく出力変化していることが判る。配線位置(電線中心)を45°方向へずらした際の出力変化は、四角マークの出力変化曲線である。配線位置(電線中心)を45°方向へずらした際の出力変化は、配線位置(電線中心)を垂直方向(長軸方向)又は水平方向(短軸方向)へずらした場合に比べて大幅に出力変化が小さいことが確認された。配線位置(電線中心)を垂直方向と水平方向の中間である45°方向に動かした場合、感度の変化方向が逆方向となるので感度変化が相殺し合い、上下左右に動かした場合よりも感度変化は小さくなることが要因であると考えられる。
【0029】
固定部13の構造について詳しく説明する。ここでは、説明の便宜上、仮想楕円Eの長軸方向における腕部11a、11bの範囲をD1、連結部11cの範囲をD2とする(図4参照)。図1Bに示すように、腕部11b(及び11a)の内壁15(及び14)は平面部であり、連結部11cの内壁16は、腕部11a、11bの平面部からなる内壁14,15の先端から連続形成される半円状の曲率面となる。固定部13は、第2面1b上であって、連結部11cの半円状の曲率面の中心を通る仮想楕円Eの長軸に対して45°の傾き方向に配置されている。固定部13は、連結部11cの半円状の内壁16に沿って一方の側壁から他方の側壁に掛けて貫通するバンド通し部13aを有する。バンド通し部13aはバンドが引掛けられる構造であれば良く、貫通孔である必要はない。また、固定部13は、筐体側の電線押し当て面となる連結部11cの内壁16と同一面状に連続する押し当て面部13bを有する。このように、固定部13の押し当て面部13bにより筐体側の電線の押し当て面が電線中軸方向に拡張されるので、後述するバンドで電線を固定部13側に引き付けて固定する際に、拡張された押し当て面により安定して強固に固定することが可能になる。また、連結部11cの内壁16(及び固定部13の押し当て面部13b)に対して電線が押し当てられるが、内壁16の半円状の曲率面の直径は、予想される同線の最大径よりも大きくなるように設定する。これにより、電線径の違いで電線の中心が動く距離が短くなり、感度変化がより小さくなる。
【0030】
図6には電流センサ1の腕部間に電線を案内した状態が示されている。本例では電線60の中心軸を固定部13側に引き寄せて固定するバンドとして結束バンド50が用いられている。結束バンド50は、ロック機構を有するヘッド部51と、一端部がヘッド部51に接続されたバンド部52と、バンド部52の他端に形成されたテール部53とを有している。テール部53を固定部13のバンド通し部13aに通し、バンド通し部13aから出たバンド部52を、連結部11cの内壁16及び固定部13の押し当て面部13bに押し当てられる電線60の外周に回し、テール部53をヘッド部51に通す。そして、テール部53を強く引くことにより、固定部13のバンド通し部13aを基点にしてバンド部52が電線60(電線中心)を固定部13側引き寄せるように締め付ける。ヘッド部51のロック機構が働いてバンド部52が緩み方向に移動するのを規制するため、電線60(電線中心)は固定部13側引き寄せられた状態で固定される。
【0031】
本実施の形態は、仮想楕円E上に磁電変換素子31a〜31hが配置された場合に、電線中心が仮想楕円Eの長軸方向にずれる場合と短軸方向にずれる場合とで、電流センサ1の感度の増減が逆になることを利用している。電線中心が仮想楕円Eの長軸に対して斜め方向にずれる場合には感度の変化を小さく抑えることができる。
【0032】
本実施の形態のように、固定部13及びバンド部52で電線60を斜め方向(仮想楕円Eの長軸と端軸とのなす角度範囲内)に引っ張って固定することで、外径の違いによって電線60の固定位置が斜めにずれるので、径の異なる電線60に取り付けた場合であっても感度の変化を小さくでき、電線60を流れる被測定電流を精度よく測定できる。
【0033】
本発明者等は、電流センサ1の8つの磁電変換素子31a〜31hの仮想楕円配置を変更した3つの電流センサを作製し、作製した3つの電流センサにおける配線位置ずれ量と磁電変換素子31a〜31hとの関係を調べた。以下、本発明者等が調べた内容について説明する。
【0034】
図7A及び図7Bは2種類の縦長の仮想楕円上に磁電変換素子31a〜31hを配置したケースであり、図7Cは横長の仮想楕円上に磁電変換素子31〜31hを配置したケースである。図8A,B,Cは、図7A,B,Cの楕円配置において、0°(縦軸方向)、45°、90°(横軸方向)のそれぞれの方向に配線位置(電線中心)をずらした場合の電流センサの出力変動(感度変化)を示している。シミュレーションしたものは、感度変化が最小となる角度は、45°であった。この結果、楕円配置では45°の方向への配線位置ずれにより感度変化が最も小さいことが判る。但し、センサ個数が少なく、センサ配置が円形に近づくと、センサの配置角度の影響が強くなることが予想され、センサの配置位置によって、感度変化が最小となる角度が45°からずれることもあり得る。
【0035】
以上の説明では、筐体部20の第2面1bを構成する外壁部21に設けた固定部13と結束バンド50とで電線60を斜め方向に引っ張って固定したが、電線径に基づく配線位置ずれを斜め方向に導く構成は固定部13と結束バンド50を用いた構成に限定されない。
【0036】
図9Aに示す変形例では、腕部11a,11bの内壁14、15は仮想楕円の長軸と平行な平面からなり、連結部11cの内壁16は内壁14、15に対して垂直な平面からなる。少なくとも片側の腕部11bの内壁15と連結部11cの内壁16とは垂直に交差している。一方の腕部11bの内壁15の交差部領域には平らな押し当て面となる第1の電線固定部15aを有し、連結部11cの内壁16の交差部領域には平らな押し当て面となる第2の電線固定部16aを有する。一方、一対の腕部11a,11bの開口部より電線60を固定する固定片70が挿入される。固定片70の挿入端部は、一方の腕部11a側から他方の腕部11b側に向けて傾斜した傾斜面70aが形成される。固定片70の太さ(直径)は一対の腕部11a,11bの間隔よりも僅かに小さく設定されており、一対の腕部11a,11bの内壁14,15が固定片70をガイドする働きをしている。なお、固定片70は弾性部材によって連結部11c側へ付勢するように構成するこができる。このため、第1の電線固定部15aと、第2の電線固定部16aと、傾斜面70aとは、電線の位置ずれに対する感度変化が仮想楕円の長軸方向又は短軸方向に比べて相対的に小さくなる直線上に電線の中心を配置するように当該電線を固定する。
【0037】
この構成においても、径が異なる複数種の電線をバンドによって固定した際に、電線の中心が仮想楕円の長軸又は短軸に対して斜め方向にずれる。この結果、仮想楕円上に設けられた複数の磁電変換素子の長軸方向の配線位置ずれによる感度変化と短軸方向の配線位置ずれによる感度変化とが相殺されるので、異なる電線径に応じた位置ずれによる感度変化が小さく抑えられる。
【0038】
固定片70が連結部11cの方向に押し込まれると、傾斜面70aが電線60を第1の電線固定部15aと第2の電線固定部16aの交差位置方向へ向けて押圧する。すなわち、電線60の電線中心を仮想楕円の長軸方向(又は短軸方向)から45°だけ傾いた傾き方向に押し当てる力が作用する。電線60の径が異なった場合であっても同様に、45°だけ傾いた方向に押し当てる力が作用し、電線60の電線中心が45°の方向に配線位置すれするので、電流センサ1の感度変化を小さく抑えることができる。
【0039】
図9Bに示す変形例では、片側の腕部11bの内壁15と連結部11cの内壁16とは垂直よりも小さい角度となる鋭角に交差している。同図では、連結部11cの内壁16を腕部11b側から腕部11a側に向けて下がるように傾けることで、鋭角の交差部を形成している。一方の腕部11bの内壁15の交差部領域には平らな押し当て面となる第1の電線固定部15aを有し、連結部11cの内壁16の交差部領域には平らな押し当て面となる第2の電線固定部16aを有する。そして、一対の腕部11a,11bの開口部より電線60を固定する固定片70が挿入される。本例では電線60を、第1の電線固定部15aと第2の電線固定部16aのなす角度が鋭角であるので、押圧片70で押された電線60は径の大きさに応じて、図9Aに示す例に比べて、やや奥向き(交差部方向)に移動する。
【0040】
なお、第1の電線固定部15aと第2の電線固定部16aのなす角度を垂直よりも大きい鈍角に設定すれば、電線60は径の大きさに応じて、図9Aに示す例に比べて、やや横向きに移動する。
【0041】
図9A図9Bに示す変形例において、固定片70の傾斜面70aは、第1の電線固定部15aと第2の電線固定部16aの成す角の二等分線と直交することが望ましい。電線60を押さえつける力が、第1の電線固定部15a側と第2の電線固定部16a側に均等に加わるので、電線60が動きにくくなり、安定的な固定が実現される。
【0042】
また、図9A図9Bに示す変形例において、固定片70を、固定部側となる基部と、可動側となり傾斜面70aを有する先端部とに分けて構成し、基部が一対の腕部11a,11bに固定され、先端部と基部との間に弾性部材(バネ等)を設けた構成としても良い。
【0043】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0044】
例えば、本実施の形態に係る電流センサにおいて、磁電変換素子としては、電流線を通流する被測定電流からの誘導磁界により出力信号を出力するものであれば特に限定されず、GMR素子、TMR素子などの各種磁気抵抗効果素子、ホール素子などの各種磁気検知素子を用いることが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 電流センサ
1a 第1面
1b 第2面
11a,11b 腕部
11c 連結部
12 コネクタ部
13 固定部
13a バンド通し部
13b 押し当て面部
14,15,16 内壁
20 筐体部
20a 収容空間
21,41 外壁部
22 側壁部
30 センサ基板
31,31a〜31h 磁電変換素子
40 蓋体
50 結束バンド
51 ヘッド部
52 バンド部
53 テール部
60 電線
70 固定片
70a 傾斜面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9