(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
肥満は様々な疾病の原因となることが知られており、そのような疾病の一つとして糖尿病がある。肥満状態になると、脂肪細胞の肥大が認められ、脂肪細胞のみならず、筋肉細胞などのインスリンの標的細胞が細胞レベルでインスリン感受性の低下を起こす。結果として、糖忍容能が悪化し、最終的に糖尿病が発症する。
【0003】
糖尿病の治療にはインスリン投与がある。しかし、定期的なインスリン注射が必要であり、患者の負担はもとより、高い自己管理能力が求められる。
【0004】
インスリン注射を代替する手段として、経口糖尿病治療薬の服用がある。経口糖尿病治療薬としては、例えば、インスリンの分泌を促進させるスルホニルウレア剤、組織や細胞に働いて血糖値を降下させるインスリン抵抗性改善剤、腸管内での糖質の分解を阻害するα−グルコシダーゼ阻害剤などがある。しかし、これらの薬剤は、血糖値を過剰に降下させて低血糖を引き起こすことなどの副作用を生じせしめる。
【0005】
上記のような糖尿病の治療法は、侵襲方法による苦痛や副作用が生じるとしても、重篤な糖尿病罹患者に対しては有効である。しかし、軽度の糖尿病患者や糖尿病にまでは至らなくとも血糖値上昇に懸念がある者にとっては、到底有効であるとはいえない。
【0006】
そこで、糖尿病の予防や早期治療に有用な成分や組成物がこれまでに報告されている。例えば、本出願人は、大麦若葉末を摂取することにより、食後血糖値の上昇抑制効果があることを提案した(非特許文献1)。しかしながら、非特許文献1には単に大麦若葉末が血糖値上昇抑制作用を有することを記載しているに留まり、より良い効果を得るための大麦品種の探索が必要であった。
【0007】
一方、大麦の普及品種は収量、病虫害抵抗性の基準等に基づき変遷するため、種子の入手困難性やそれに基づく大麦の茎葉の安定供給の困難性等の問題が生じる。さらに、大麦には3万種以上の膨大な数の品種が知られており(非特許文献2)、前記課題を解決しうる特定の大麦品種の探索は容易ではなかった。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[1.大麦の茎及び/又は葉の粉砕末]
大麦の品種としては実に3万種以上の品種があることが知られているところ、本発明においては、シュンライ、ファイバースノウ及びシルキースノウ(特定品種)から選ばれる少なくとも1の品種の大麦の茎及び/又は葉の粉砕末を用いる。本明細書では、「茎及び/又は葉」を茎葉とよぶ場合がある。なお、茎葉は、葉や茎の一部であってもよいし、全部であってもよい。
【0017】
特定品種の大麦は、例えば精麦用として、具体的には、麦味噌、麦茶、焼酎、ビールなどの原料として一般的に用いられているものである。本発明においては、これらの品種のうち1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。大麦の茎葉の粉砕末は、大麦の葉、茎又はその両方であり、葉及び茎はそれぞれその一部又は全部であってもよい。
【0018】
特定品種の大麦の茎葉は、成熟期前、すなわち分けつ開始期から出穂開始前期に収穫されることが好ましい。大麦の茎葉は、収穫後、直ちに処理されることが好ましい。処理までに時間を要する場合、大麦の茎葉の変質を防ぐために低温貯蔵などの当業者が通常用いる貯蔵手段により貯蔵される。
【0019】
大麦の茎葉を粉砕末化するには従来公知の方法を用いることができる。そのような方法としては、大麦の茎葉に対して、乾燥処理及び粉砕処理を組み合わせた方法を用いることができる。乾燥処理及び粉砕処理はいずれを先に行ってもよいが、乾燥処理を先に行うことが好ましい。粉砕末化は、この方法に、さらに必要に応じブランチング処理、殺菌処理などの処理から選ばれる1種又は2種以上の処理を組み合わせてもよい。また、粉砕処理を行う回数は1回でも、2回以上の処理を組合せてもよいが、粗粉砕処理を行った後に、より細かく粉砕する微粉砕処理を組合せることが好ましい。
【0020】
ブランチング処理とは、茎葉の緑色を鮮やかに保つための処理であり、ブランチング処理の方法としては、熱水処理や蒸煮処理などが挙げられる。
【0021】
熱水処理としては、例えば、80〜100℃、好ましくは90〜100℃の熱水又は水蒸気中で、大麦の茎葉を60〜180秒間、好ましくは90〜120秒間処理する方法などが挙げられる。また、熱水処理に際して、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩や炭酸水素ナトリウムなどの炭酸水素塩を用いることが好ましく、炭酸水素の塩を熱水に溶解することにより、大麦の茎葉の緑色をより鮮やかにすることができる。
【0022】
蒸煮処理としては、常圧又は加圧下において、大麦の茎葉を水蒸気により蒸煮する処理と冷却する処理とを繰り返す間歇的蒸煮処理が好ましい。間歇的蒸煮処理において、水蒸気により蒸煮する処理は、例えば、20〜40秒間、好ましくは30秒間行われる。蒸煮処理後の冷却処理は、直ちに行われることが好ましく、その方法は特に限定されないが、冷水への浸漬、冷蔵、冷風による冷却、温風による気化冷却、温風と冷風とを組み合わせた気化冷却などが用いられる。このうち温風と冷風とを組み合わせた気化冷却が好ましい。このような冷却処理は、大麦の茎葉の品温が、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下、さらに好ましくは40℃以下となるように行われる。また、ビタミン、ミネラル、葉緑素などの栄養成分に富んだ大麦の茎葉の粉末を製造するためには、間歇的蒸煮処理を2〜5回繰り返すことが好ましい。
【0023】
殺菌処理は当業者に通常知られている処理であれば特に限定されないが、例えば、温度、圧力、電磁波、薬剤などを用いて物理的又は化学的に微生物を殺滅させる処理であるということができる。乾燥処理及び粉砕処理に追加してブランチング処理を行う場合、ブランチング処理は乾燥処理の前に行われることが好ましい。また乾燥処理及び粉砕処理に追加して殺菌処理を行う場合、殺菌処理は、乾燥処理の後か、粉砕処理の前又は後に行われることが好ましい。
【0024】
乾燥処理は特に限定されないが、例えば、大麦の茎葉の水分含量が10%以下、好ましくは5%以下となるように乾燥する処理が挙げられる。乾燥処理は、例えば、熱風乾燥、高圧蒸気乾燥、電磁波乾燥、凍結乾燥などの当業者に公知の任意の方法により行われ得る。加熱による乾燥は、例えば、40℃〜140℃、好ましくは80℃〜130℃にて加温により茎葉が変色しない温度及び時間で行われ得る。
【0025】
粉砕処理は特に限定されないが、例えば、クラッシャー、ミル、ブレンダー、石臼などの粉砕用の機器や器具などを用いて、当業者が通常使用する任意の方法により植物体を粉砕する処理が挙げられる。粉砕された大麦の茎葉は、必要に応じて篩にかけられ、例えば、30〜250メッシュを通過するものを大麦の茎葉の粉末として用いることが好ましい。粒径が250メッシュ通過のもの以下とすることで、さらなる加工時に大麦の茎葉の粉末が取り扱いやすくなり、粒径が30メッシュ通過以上のものとすることで、大麦の茎葉の粉末と他の素材との均一な混合が容易になる。
【0026】
具体的な粉砕末の製造方法としては、例えば、大麦の茎葉を切断した後、ブランチング処理を行い、次いで水分含量が10質量%以下、好ましくは5質量%以下となるように乾燥し、その後粉砕する方法が挙げられる(特開2004−000210号公報を参照)。この他にも、例えば、大麦の茎葉を切断した後、ブランチング処理を行い、次いで揉捻し、その後、乾燥し、粉砕する方法(特開2002−065204号公報、特許第3428956号公報を参照);大麦の茎葉を乾燥し、粗粉砕した後、110℃以上で加熱し、さらに微粉砕する方法(特開2003−033151号公報、特許第3277181号公報を参照)などが挙げられる。
【0027】
大麦の茎葉の粉砕末の特性は特に限定されないが、例えば、その安息角について、20°〜80°が好ましく、30°〜70°がより好ましく、40°〜60°がさらに好ましく、45°〜55°がなおさらに好ましい。なお、安息角の測定方法は、安息角測定器(アズワン、ASK−01)を用いて、サンプル約50gを高度12cmから半径4.3cmのシャーレ中央に落下させ、次いで山型に堆積したサンプルの高さを測定し、次いでシャーレの半径及び堆積したサンプルの高さから下記式にて安息角を算出できる。
安息角=tan−1(b/a)×180÷π(式中、a=シャーレ半径、b=堆積したサンプルの高さを表わす。)
【0028】
大麦の茎葉の粉砕末の別の特性として、例えばメディアン径が20μm未満であり、かつ、ロジン・ラムラー式による分布定数nが1.6以上であり、前記メディアン径が16μm未満であることが好ましい。特定の粒径とロジン・ラムラー式による分布定数nの組み合わせを有する大麦の茎葉の粉砕末を利用することにより、嗜好性に優れたものとできる。
【0029】
ここで、ロジン・ラムラー式による分布定数nは、粒度分布に関するロジン・ラムラー(Rosin−Rammler)式における定数nであり、粒度の均一性を表わす値である。
【0030】
ロジン・ラムラー式は、下記式(1)で表わされる。
R=100exp(−βDn) (1)
式中、Dは粒径を表し、RはD(粒径)より大きな粒子の全粒子に対する百分率(%)を表わし、βは粒度特性係数を表わし、nは分布定数を表わす。
【0031】
ここで、β=1/Denとおくと、上記式(1)は
R=100exp{−(D/De)n } (2)
のように書き換えられる。Deは粒度特性係数である。
【0032】
さらに、上記式(2)を書き換えると下記式(3)が得られる。
log{log(100/R)}=nlogD+C (3)
ただし、C=log(loge)−nlogDeである。
【0033】
上記式(3)から、x軸にlogD、y軸にlog{log(100/R)}の目盛をつけたロジン・ラムラー(RR)線図にそれらの関係をプロットするとほぼ直線となる。その直線の勾配(分布定数n)は粒度の均一性の度合いを表し、分布定数nの数値が大きいほど、粒子径範囲は狭く、粒子の大きさが揃っていることから、粒度の均一性に優れていると評価できる。
【0034】
本発明に用いられる特定品種の大麦の茎葉の粉砕末は、水不溶性食物繊維を含み得る。粉砕末に含まれる水不溶性食物繊維は、乾燥質量換算で20質量%以上、好ましくは30質量%以上含有することが好ましく、20〜80質量%、好ましくは30〜70質量%、より好ましくは35〜60質量%含有することがより好ましい。
【0035】
[2.血糖値上昇抑制剤]
本発明は、大麦の茎葉の粉砕末を含有する血糖値上昇抑制剤に関するものである。
【0036】
本発明の第1の態様である血糖値上昇抑制剤は、血糖値上昇抑制作用を有する物質として、シュンライ、ファイバースノウ及びシルキースノウ(特定品種)のいずれか1種又は2種以上の大麦の茎葉の粉砕末を少なくとも含有する。
【0037】
本発明の血糖値上昇抑制剤は、特定品種の大麦の茎葉の粉砕末を含有することによって、血糖値上昇抑制作用を有するだけでなく、色が鮮やかであることによる見た目の美しさと、風味の良好さとを両立することができるものである。
【0038】
本発明の血糖値上昇抑制剤は、上記した大麦の茎葉の粉砕末を含有することにより、血糖値上昇抑制作用に加えて、早期血糖値低下作用などを示し得る。ただし、これらの作用のうち、本発明の血糖値上昇抑制剤は、少なくとも血糖値上昇抑制作用を示すものであればよい。血糖値上昇抑制作用は、後述する実施例に記載の血糖値上昇抑制率により評価できる。本発明の血糖値上昇抑制剤が示す血糖値上昇抑制率は、例えば、約35%以上であり、好ましくは約40%以上であり、より好ましくは約45%以上である。本発明の血糖値上昇抑制剤は、該作用を得ることを目的とした種々の形態で利用され得る。例えば、特別な処理を加えることなく種々の目的に利用されてもよい。なお、本発明の血糖値上昇抑制剤は、同時的に使用した糖などの血糖値上昇成分の影響だけではなく、本発明の血糖値上昇抑制剤の使用の前又は後に使用した血糖値上昇成分の影響を緩和又は低減することが期待できる。
【0039】
本発明の血糖値上昇抑制剤の固形分中、大麦の茎葉の粉砕末の含有量は、乾燥質量で、下限値としては、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましく、10質量%以上がなおさらに好ましく、20質量%以上が特に好ましく、上限値としては、99.9質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。大麦の茎葉の粉砕末の含有量が0.1質量%より少ない場合、血糖値上昇抑制作用が十分に発揮されない場合がある。また、本発明の血糖値上昇抑制剤が糖などの血糖値上昇成分を多く含む場合は大麦の茎葉の粉砕末の使用量を多くし、大麦の茎葉の粉砕末とは異なるその他の血糖値上昇抑制成分をさらに含む場合は大麦の茎葉の粉砕末の使用量を減じることができる。
【0040】
本発明の血糖値上昇抑制剤の1日の使用量は特に限定されず、使用態様や使用者の使用内容や血糖値などに応じて適宜設定され得るが、例えば、大麦の茎葉の粉砕末の質量換算で、使用者の体重を基準として、1〜6000mg/kgであり、好ましくは1〜4000mg/kgであり、より好ましくは10〜3000mg/kgであり、さらに好ましくは10〜2000mg/kgである。本発明の血糖値上昇抑制剤の1回の使用量についても同様に特に限定されず、例えば、大麦の茎葉の粉砕末の質量換算で、使用者の体重を基準として、0.5〜3000mg/kgであり、好ましくは1〜2000mg/kgであり、より好ましくは5〜1000mg/kgである。
【0041】
また、本発明の血糖値上昇抑制剤の1回の使用量は、例えば、大麦の茎葉の粉砕末の質量換算で、0.01〜30g、好ましくは0.05〜20g、より好ましくは0.1〜10g、特に好ましくは0.3〜7gとすることができる。同様に、本発明の血糖値上昇抑制剤の1日の使用量は、例えば、大麦の茎葉の粉砕末の質量換算で、0.01〜100g、好ましくは0.05〜70g、より好ましくは0.5〜50g、特に好ましくは1〜30gとすることができる。
【0042】
本発明の血糖値上昇抑制剤は、大麦の茎葉の粉砕末のみを含むものであってもよいし、大麦の茎葉の粉砕末に加えて、その他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、例えば、種々の賦形剤、結合剤、滑沢剤、安定剤、希釈剤、増量剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、添加剤などを挙げることができる。その他の成分の含有量は、本発明の血糖値上昇抑制剤の利用形態などに応じて適宜選択することができる。
【0043】
本発明の血糖値上昇抑制剤は、血糖値上昇抑制作用を得ることを目的とした種々の形態で利用され得る。本発明の血糖値上昇抑制剤は、例えば、経口用又は非経口用の血糖値上昇抑制剤とすることができる。
【0044】
本発明の血糖値上昇抑制剤の形態は特に限定されず、任意の形態とすることができる。経口用の血糖値上昇抑制剤の形態としては、例えば、経口的な使用に適した形態、具体的には、粉末状、粒状、顆粒状、錠状、棒状、板状、ブロック状、固形状、丸状、液状、飴状、ペースト状、クリーム状、ハードカプセルやソフトカプセルのようなカプセル状、カプレット状、タブレット状、ゲル状、ゼリー状、グミ状、ウエハース状、ビスケット状、クッキー状、ケーキ状、チュアブル状、シロップ状、スティック状などの各形態が挙げられる。
【0045】
本発明の血糖値上昇抑制剤の包装形態は特に限定されず、剤形などに応じて適宜選択できるが、例えば、PTPなどのブリスターパック;ストリップ包装;ヒートシール;アルミパウチ;プラスチックや合成樹脂などを用いるフィルム包装;バイアルなどのガラス容器;アンプルなどのプラスチック容器などが挙げられる。
【0046】
本発明の血糖値上昇抑制剤は、粉末状(粉末、顆粒などの粉の形態)であって、水と混合した混合物を経口的に使用する形態であると、腐敗を防ぎ長期保存に適することから好ましい。また本発明の血糖値上昇抑制剤が粉末状やタブレット状などの固体の形態である場合、上述したように、これを水と混合して液状体となし、経口的に使用することができるが、使用者の好みなどに応じて、固体のまま経口的に使用してもよい。
【0047】
本発明の血糖値上昇抑制剤は血糖値上昇抑制作用や早期の血糖値低下作用を有することにより、これを使用することは、糖尿病罹患者、高血糖値や肥満の者及びそのリスクがある者に対しての健康維持に有用であり、特に糖尿病罹患者、空腹時血糖値が100mg/dl以上である者や肥満者の健康維持に非常に有用である。本明細書でいう肥満とは、BMI(BodyMassIndex;肥満指数)が25以上である状態や腹囲(へそを通るウエスト周囲径)が男性であれば85cm以上であり、女性であれば90cm以上である状態をいう。
【0048】
空腹時血糖値が100mg/dl以上であるような高血糖値が慢性的に持続するとインスリンの感受性低下が起こり、さらなる高血糖状態となる。また、肥満状態になると、脂肪細胞の肥大が認められ、脂肪細胞のみならず、筋肉細胞などのインスリンの標的細胞が細胞レベルでインスリン感受性の低下を起こす。これらの結果として、糖尿病が発症する。さらに、肥満やインスリンの感受性低下は、糖尿病と並んで三大生活習慣病といわれている脂質代謝異常症や高血圧症をもたらす。肥満やインスリンの感受性低下によって、中性脂肪が増加し、脂肪分解酵素の不活性化や肝臓機能の障害が生じせしめ、脂質代謝異常症が発症する。さらに、肥満やインスリンの感受性低下により、循環血液量が増えることや糖代謝が正常に行われなくなることによって、高血圧症が発症する。また、これらの三大生活習慣病の症状を二つ以上発症した状態がメタボリックシンドロームであり、脂質代謝異常により動脈硬化症が引き起こされることが知られている。以上の事項を鑑みれば、本発明の血糖値上昇抑制剤は、その血糖値上昇抑制作用や早期の血糖値低下作用によって、糖尿病や肥満に加えて、脂質代謝異常症、高血圧症、メタボリックシンドローム及び動脈硬化症、さらにはこれらに関連する生活習慣病である高脂血症、痛風、高体脂肪率、高血糖、高インスリン血症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、脂肪肝、心血管疾患、高尿酸血症などを予防及び治療することが期待できるものである。そこで、本発明の別の態様は、特定品種の大麦の茎葉の粉砕末を含有する、上記血糖値上昇に起因する疾患を予防及び治療するための医薬組成物である。
【0049】
また、本発明の血糖値上昇抑制剤は、従来の大麦の茎葉の粉砕末が有する血糖値上昇抑制作用に加えて、特定品種の大麦の茎葉の粉砕末に由来するビタミン類、ミネラル類などを多く含むことから、これらに基づく副次的な効果を奏し、使用者の健康維持に資する。
【0050】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例】
【0051】
シュンライ、ファイバースノウ及びシルキースノウの茎葉の粉砕末が、格別顕著な血糖値上昇抑制作用を示すことを以下のとおりに実証した。
【0052】
1.被験物質
実施例1〜3として、シュンライ、ファイバースノウ及びシルキースノウを用いた。また、比較例1としてイチバンボシを用いた。
【0053】
2.被験試料の調製
被験試料として、上記の実施例及び比較例の大麦の茎葉を用いた。これを水洗いし、付着した泥などを除去し、5〜10cm程度の大きさに切断する前処理を行った。前処理した茎葉を、90〜100℃の熱湯で90秒間〜120秒間、1回のみブランチング処理し、その後、冷水で冷却した。続いて、得られた茎葉を、水分量が5質量%以下となるまで、乾燥機中で、20分間〜180分間、80℃〜130℃の温風にて乾燥させた。乾燥した茎葉を、ミキサーを用いて、約1mmの大きさに粉砕処理した。得られた大麦の茎葉を、粉砕機を用いて、200メッシュ区分を90%以上が通過するように粉砕処理し、茎葉の粉砕末を得た。
【0054】
得られた茎葉の粉砕末とショ糖をそれぞれ200mg/mLとなるように純水に懸濁又は溶解して、被験試料とした。また、いずれの茎葉の粉砕末も用いずにショ糖のみを200mg/mLとなるように純水に溶解したものをコントロール試料とした。
【0055】
3.試験手順
まず、7週齢のSD系雄性ラット(九動株式会社)を16時間以上絶食させた。その後、各ラットの尾静脈より採血し、グルテストエースR(株式会社三和化学研究所)を用いて投与前(0分)の血糖値を測定した。投与前(0分)の血糖値ができるだけ均一となるように群分けした。
【0056】
次いで、各ラットに、各被験試料又はコントロール試料をそれぞれ10mL/kg体重(個体あたりの被験物質投与量が約0.4g程度)となるようにゾンデを用いて経口投与し、投与30分後に血糖値を測定した。コントロールの投与前(0分)及び30分後における血糖値を用いて、下記式を用いて実施例1〜3及び比較例1の血糖値上昇抑制率(%)を求めた。結果を
図1に示す。
血糖値上昇抑制率(%)={1−([被験試料投与30分後の血糖値]−[被験試料投与前(0分)の血糖値])/([コントロール試料投与30分後の血糖値]−[コントロール試料投与前(0分)の血糖値])}×100
【0057】
図1から、実施例1〜3のシュンライ、ファイバースノウ及びシルキースノウの茎葉の粉砕末を摂取したラットは、比較例1のイチバンボシの茎葉の粉砕末を摂取したラットに比べて、投与30分後における急激な血糖値の上昇が抑制されたことがわかる。このことは、シュンライ、ファイバースノウ及びシルキースノウの茎葉の粉砕末が、血糖値上昇抑制剤として有用であり、特にインスリン抵抗性によって特徴づけられる2型糖尿病の予防に効果があることが期待できる。