(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のフィラー、絶縁層形成用組成物、絶縁層形成用フィルムおよび基板を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明の基板の実施形態を示す断面図、
図2は、
図1に示す基板の絶縁層を模式的に示す部分拡大断面図、
図3は、
図1に示す基板の製造方法を説明するための図、
図4は、
図1に示す基板を用いた電子回路の一例を示す概略図である。なお、以下では、説明の便宜上、
図1ないし
図4中の上側を「上」、下側を「下」とも言う。また、各図では、説明の便宜上、基板およびその各部を誇張して模式的に図示しており、基板およびその各部の大きさおよびその比率は実際とは大きく異なる。
【0027】
まず、本発明の基板について説明する。
(基板)
図1に示す基板1は、金属板2と、導体層3と、絶縁層4とを有し、金属板2と導体層3とが絶縁層4を介して接合されている。すなわち、基板1は、金属板2、絶縁層4および導体層3がこの順で積層されている。
【0028】
このような基板1は、導体層3側からの熱を、絶縁層4を介して金属板2に伝達し、金属板2で放熱を行うことができる。
【0029】
以下、基板1を構成する各部を順次詳細に説明する。
金属板2は、導体層3を支持する機能を有する。また、金属板2は、後述するように基板1を電子回路に用いたときに、基板1に搭載された電子部品からの熱を逃す放熱部としての機能も有する。
このような金属板2は、金属材料で構成されている。
【0030】
かかる金属材料としては、特に限定されないが、アルミニウムまたはアルミニウム合金を用いるのが好ましい。アルミニウムまたはその合金で金属板2を構成することにより、金属板2の熱伝導性を優れたものとすることができる。その結果、基板1の放熱性を優れたものとすることができる。
【0031】
また、金属板2の厚さは、導体層3を支持することができれば、特に限定されないが、例えば、1〜5mmであるのが好ましく、1〜2mmであるのがより好ましい。金属板2の厚さをこのような数値範囲に設定することにより、基板1の必要な機械的強度を確保しつつ、基板1の薄型化を図ることができる。
このような金属板2の一方の面には、導体層3が絶縁層4を介して接合されている。
【0032】
導体層3は、絶縁層4の金属板2とは反対側の面上に設けられ、後述するように基板1を電子回路に用いるときに、エッチング等の加工により所定形状にパターニングされることにより配線や電極等となるものである。すなわち、導体層3は、絶縁層4の全面に亘って一様に形成された導体箔であって、パターニングされることにより導体パターンとなるものである。
【0033】
このような導体層3は、導電性を有する材料で構成されている。具体的には、導体層3の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、金属材料が好適に用いられ、特に、電気抵抗が小さく、また、安価であるとの理由から、銅または銅合金を用いるのが好ましい。
【0034】
また、導体層3の厚さは、特に限定されないが、例えば、10〜200μmであるのが好ましく、18〜70μmであるのがより好ましい。
【0035】
絶縁層4は、金属板2と導体層3との間に設けられ、これらを接着(接合)する機能を有する。また、絶縁層4は、絶縁性を有する。これにより、金属板2と導体層3との絶縁状態が確保されている。
【0036】
さらには、本発明では、絶縁層4は、優れた熱伝導性を発揮するように構成されている。これにより、絶縁層4は、導体層3側の熱を金属板2に伝達することができる。このような絶縁層4の熱伝導率は、高いほどよく、具体的には、1W/m・K以上であるのが好ましく、3W/m・K以上であるのがより好ましい。これにより、絶縁層4が導体層3側の熱を金属板2に効率よく伝達することができる。
【0037】
絶縁層4の厚さ(平均厚さ)は、特に限定されないが、10μm〜200μm程度であるのが好ましく、20μm〜150μm程度であるのがより好ましい。これにより、絶縁層4の絶縁性を確保しつつ、絶縁層4の熱伝導性を向上させることができる。
【0038】
上記のような機能を有する絶縁層4は、
図2に示すように、樹脂材料を主材料として構成された樹脂部41内にフィラー42が分散された構成をなしている。
【0039】
樹脂部41は、フィラー42同士を結合させるバインダーとしての機能を有する。また、フィラー42は、樹脂部41の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有している。このように絶縁層4を、樹脂部41とフィラー42とを備える構成とすることにより、絶縁層4の熱伝導率を高めることができる。
【0040】
このような絶縁層4は、後述するように、樹脂材料(バインダー)と、本発明のフィラーとを含む、絶縁層形成用組成物を硬化または固化させることにより形成される。すなわち、絶縁層4は、かかる絶縁層形成用組成物を層状に成形した硬化物または固化物で構成されている。
【0041】
なお、本発明のフィラーおよび絶縁層形成用組成物については、以下の基板1の製造方法の説明において、詳述する。
【0042】
(基板の製造方法)
次に、
図3に基づいて、前述したような基板1の製造方法について説明する。
【0043】
[1]
まず、
図3(a)に示すように、導体層3を用意する。より具体的には、例えば、導体層3として銅箔のような導体箔を用意する。
【0044】
[2]
次に、
図3(b)に示すように、導体層3上に絶縁層形成層4Aを形成する。これにより、絶縁層形成用フィルム(本発明の絶縁層形成用フィルム)10が得られる。
【0045】
この絶縁層形成層4Aは、絶縁層形成用組成物を層状に成形したものである。そして、この絶縁層形成層4Aは、後述する工程[3]において硬化または固化されることにより、絶縁層4となるものである。
【0046】
ここで、導体層3は、絶縁層形成用フィルム10において、絶縁層形成層4Aを支持する支持層を構成する。このように絶縁層形成層4Aを導体層3で支持することにより、絶縁層形成用フィルム10の取り扱い性を向上させることができる。
【0047】
また、このように支持層を構成する導体層3は、上述した銅箔のような導体箔(金属箔)であるのが好ましい。これにより、絶縁層形成層4Aを導体層3で安定的に支持することができる。そのため、絶縁層形成用フィルム10の取り扱い性を向上させることができる。また、導体層3の導電性および加工性を優れたものとすることができる。そのため、導体層3を加工することにより優れた特性を有する導体パターンを得ることができる。
【0048】
かかる絶縁層形成用組成物は、主として樹脂材料と、本発明のフィラーとを含んで構成されている。
【0049】
絶縁層形成用組成物に含まれる樹脂材料としては、特に限定されず、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の各種樹脂材料を用いることができる。
【0050】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリアミド(例:ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6−12、ナイロン6−66)、熱可塑性ポリイミド、芳香族ポリエステル等の液晶ポリマー、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、フェノキシ樹脂のようなポリヒドロキシポリエーテル、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0051】
一方、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル(不飽和ポリエステル)樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0052】
これらのなかでも、絶縁層形成用組成物に用いる樹脂材料としては、熱硬化性樹脂を用いるのが好ましく、さらに、入手の容易性からエポキシ樹脂を用いるのがより好ましい。これにより、得られる絶縁層4の耐熱性を優れたものとすることができる。また、絶縁層4を介して金属板2と導体層3とを強固に接合することができる。そのため、得られる基板1の耐久性および信頼性を優れたものとすることができる。
【0053】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ジメチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノン、レゾルシン、メチルレゾルシン、ビフェノール、テトラメチルビフェノール、ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシジフェニルエーテル、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールノボラック樹脂などの各種エポキシ樹脂が挙げられる。
【0054】
また、後述するように、本発明では、フィラーとして、メチルエチルケトン溶剤中で測定したゼータ電位の絶対値が5.0mV以下であるもの、すなわちゼータ電位の絶対値が小さいものが用いられる。かかる構成とすることから、樹脂材料は、疎水性樹脂であるのが好ましい。これにより、絶縁層形成用組成物中におけるフィラーの分散性が向上するため、絶縁層形成用組成物のフロー率が低下するのを的確に抑制または防止することができる。
【0055】
疎水性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、エステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン樹脂、ポリエチレン、フッ素樹脂、アルキド樹脂、ポリブタジエン系、等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
また、前記樹脂材料の含有量は、絶縁層形成用組成物全体(溶剤を除く)の、30体積%以上70体積%以下であるのが好ましく、40体積%以上60体積%以下であるのがより好ましい。これにより、得られる絶縁層4の機械的強度および熱伝導性を優れたものとすることができる。
【0057】
これに対し、かかる含有量が前記下限値未満であると、樹脂材料がフィラー同士を結合するバインダーとしての機能を十分に発揮することができず、得られる絶縁層4の機械的強度が低下する傾向を示す。また、絶縁層形成用組成物の構成材料によっては、絶縁層形成用組成物の粘度が高くなりすぎて、絶縁層形成用組成物(ワニス)の濾過作業や層状成形(コーティング)が困難となったり、絶縁層形成用組成物のフローが小さくなりすぎて、得られる絶縁層4にボイドが発生してしまったりする場合がある。
【0058】
一方、かかる含有量が前記上限値を超えると、得られる絶縁層4の絶縁性を確保しつつ、絶縁層4の熱伝導性を優れたものとするのが難しい。
【0059】
また、かかる絶縁層形成用組成物には、前述した樹脂材料の種類等によっては、必要に応じて、硬化剤が含まれる。
【0060】
硬化剤としては、特に限定されず、例えば、ジシアンジアミド、脂肪族ポリアミド等のアミド系硬化剤や、ジアミノジフェニルメタン、メタンフェニレンジアミン、アンモニア、トリエチルアミン、ジエチルアミン等のアミン系硬化剤や、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、p−キシレン−ノボラック樹脂などのフェノール系硬化剤や、酸無水物類等を挙げることができる。
【0061】
また、絶縁層形成用組成物は、さらに硬化触媒(硬化促進剤)を含んでいてもよい。これにより、絶縁層形成用組成物の硬化性を向上させることができる。
【0062】
硬化触媒としては、例えば、イミダゾール類、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン等アミン系触媒、トリフェニルホスフィン等リン系触媒等が挙げられる。これらの中でもイミダゾール類が好ましい。これにより、特に、絶縁層形成用組成物の速硬化性および保存性を両立することができる。
【0063】
イミダゾール類としては、例えば1−ベンジル−2メチルイミダゾール、1−ベンジル−2フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−ウンデシルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−ビニル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ビニル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物等が挙げられる。これらの中でも2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールまたは2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールが好ましい。これにより、絶縁層形成用組成物の保存性を特に向上させることができる。
【0064】
また、硬化触媒の含有量は、特に限定されないが、樹脂材料100質量部に対して0.01〜30質量部程度であるのが好ましく、特に0.5〜10質量部程度であるのがより好ましい。かかる含有量が前記下限値未満であると、絶縁層形成用組成物の硬化性が不十分となる場合があり、一方、かかる含有量が前記上限値を超えると、絶縁層形成用組成物の保存性が低下する傾向を示す。
【0065】
また、硬化触媒の平均粒子径は、特に限定されないが、10μm以下であることが好ましく、特に1〜5μmであることがより好ましい。かかる平均粒子径が前記範囲内であると、特に硬化触媒の反応性に優れる。
【0066】
また、絶縁層形成用組成物は、さらにカップリング剤を含むことが好ましい。これにより、フィラー、導体層3および金属板2に対する樹脂材料の密着性をより向上させることができる。
【0067】
かかるカップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等が挙げられる。これらの中でもシラン系カップリング剤が好ましい。これにより、絶縁層形成用組成物の耐熱性をより向上させることができる。
【0068】
このうち、シラン系カップリング剤としては、例えばビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンなどが挙げられる。
【0069】
カップリング剤の含有量は、特に限定されないが、樹脂材料100質量部に対して0.01〜10質量部程度であるのが好ましく、特に0.5〜10質量部程度であるのがより好ましい。かかる含有量が前記下限値未満であると、前述したような密着性を高める効果が不十分となる場合があり、一方、かかる含有量が前記上限値を超えると、絶縁層4を形成する際にアウトガスやボイドの原因になる場合がある。
【0070】
また、絶縁層形成用組成物中のフィラー(本発明のフィラー)は、主として酸化アルミニウム(アルミナ、Al
2O
3)で構成された粒状体であり、メチルエチルケトン溶剤中で測定したゼータ電位の絶対値が5.0mV以下のものである。
【0071】
なお、絶縁層形成用組成物に用いるフィラーとして、メチルエチルケトン溶剤中で測定したゼータ電位の絶対値が5.0mV以下となるものを用いる点については後に詳述する。
【0072】
かかる構成のフィラー(フィラー42)は、樹脂部41の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有している。このフィラーが絶縁層形成用組成物中に分散していることにより、絶縁層4の熱伝導率を高めることができる。
【0073】
フィラーの含有量は、絶縁性樹脂組成物全体(溶剤を除く)の、30体積%以上70体積%以下であるのが好ましく、40体積%以上60体積%以下であるのがより好ましい。かかる範囲のように絶縁性樹脂組成物におけるフィラーの含有率を高くすることにより、得られる絶縁層4の熱伝導性を優れたものとすることができる。
【0074】
これに対し、かかる含有量が前記下限値未満であると、得られる絶縁層4の絶縁性を確保しつつ、絶縁層4の熱伝導性を優れたものとするのが難しい。一方、かかる含有量が前記上限値を超えると、絶縁層形成用組成物の構成材料によっては、絶縁層形成用組成物の粘度が高くなりすぎて、ワニスの濾過作業や層状への成形(コーティング)が困難となったり、絶縁層形成用組成物のフローが小さくなりすぎて、得られる絶縁層4にボイドが発生してしまったりする場合がある。
【0075】
なお、絶縁層形成用組成物におけるフィラーの含有率を、上記の範囲のように高く設定したとしても、絶縁層形成用組成物に含まれるフィラーとしてメチルエチルケトン溶剤中で測定したにおけるゼータ電位の絶対値が5.0mV以下となるものを用いることにより、絶縁層形成用組成物(ワニス)の粘度およびフロー性を適度なものとすることができる。
【0076】
また、このフィラーの含水量は、0.10質量%以上0.30質量%以下であるのが好ましく、0.10質量%以上0.25質量%以下であるのがより好ましく、0.12質量%以上0.20質量%以下であるのがさらに好ましい。これにより、フィラーの含有量を多くしても、より適度な粘度およびフロー性を有するものとなる。そのため、得られる絶縁層4中にボイドが発生するのを防止しつつ、熱伝導性に優れた絶縁層4を形成することができる。すなわち、優れた熱伝導性および絶縁性を有する絶縁層4を形成することができる。
【0077】
ここで、酸化アルミニウム(アルミナ)は吸湿性を有する材料であるため、本発明者は、かかる点に着目し、酸化アルミニウムで構成されたフィラーに対し、適宜吸湿処理や乾燥処理を施すことにより、含水量の異なる複数種のフィラーを用意し、フィラーの含水量と絶縁層形成用組成物のフロー性との関係を調べた。その結果、フィラーの含水量が多くなるほど、絶縁層形成用組成物のフロー性が高まり、得られる絶縁層4の耐電圧性が高まるという知見を得た。なお、得られる絶縁層4の耐電圧性が高まるのは、絶縁層形成用組成物のフロー性が高まることにより、絶縁層4内のボイドの発生が防止されるためと考えられる。
【0078】
これに対し、かかる含水量が低すぎると、絶縁層形成用組成物のフロー性が低下し、絶縁層4内のボイドが発生して、絶縁層4の耐電圧性が低下する傾向を示す。一方、かかる含水量が多くなりすぎると、絶縁層形成用組成物のフロー性が過剰に高くなり、絶縁層4の所望の厚さを確保することが難しくなり、その結果、絶縁層4の耐電圧性が低くなってしまう場合がある。また、かかる含水量が多すぎると、その水分が絶縁層形成用組成物中の樹脂材料の硬化性に悪影響を及ぼすとともに、絶縁層形成用組成物を加熱加圧して絶縁層4を形成する際に、絶縁層形成用組成物内で水蒸気が放散することによって、得られる絶縁層4内のボイドが増加する傾向を示す。
【0079】
なお、硬化または固化する前の絶縁層形成用組成物中のフィラーの含水量は、その絶縁層形成用組成物の硬化物または固化物、すなわち絶縁層4中のフィラーの含水量とほぼ等しい。
【0080】
また、酸化アルミニウムは、通常、水酸化アルミニウムを焼成することにより得られる。得られる酸化アルミニウムの粒状体は、複数の一次粒子で構成されるが、その一次粒子の平均粒径は、その焼成の条件に応じて設定することができる。
【0081】
また、その焼成後に何ら処理されていない酸化アルミニウムは、一次粒子同士が固着により凝集した凝集体(二次粒子)で構成されている。
【0082】
そのため、その一次粒子同士の凝集を粉砕により必要に応じて解くことにより、最終的なフィラーが得られる。最終的なフィラーの平均粒径は、その粉砕の条件(例えば時間)に応じて設定することができる。
【0083】
その粉砕の際、酸化アルミニウムは極めて高い硬度を有するため、一次粒子同士の固着が解かれていくだけで、一次粒子自体は殆ど破壊されず、一次粒子の平均粒径は粉砕後においてもほぼ維持されることとなる。
【0084】
したがって、粉砕時間が長くなるに従い、フィラーの平均粒径は、一次粒子の平均粒径に近づくことになる。そして、粉砕時間が所定時間以上となると、フィラーの平均粒径は、一次粒子の平均粒径に等しくなる。すなわち、フィラーは、粉砕時間を短くすると主として二次粒子で構成され、粉砕時間を長くするにしたがって一次粒子の含有量が多くなり、最終的に所定時間以上とすると、主として一次粒子で構成されることとなる。
【0085】
また、例えば、前述したように水酸化アルミニウムを焼成することにより得られた酸化アルミニウムの一次粒子は、球形ではなく、鱗片状のような平坦面を有する形状をなしている。そのため、フィラー同士の接触面積を大きくすることができる。その結果、得られる絶縁層4の熱伝導性を高めることができる。
【0086】
また、フィラー42の平均粒径としては、特に限定されないが、0.1μm〜25μm程度であるのが好ましく、0.25μm〜20μm程度であるのがより好ましい。これにより、絶縁層形成用組成物の粘度およびフロー性を適度なものとし、得られる絶縁層4の熱伝導性および絶縁性を優れたものとすることができる。
【0087】
また、フィラー42の粒子径の変動係数(すなわち、粒度分布の狭さ;CV値)は、特に限定されないが、30%以下であるのが好ましく、20%以下であるのがより好ましく、10%以下であるのがさらに好ましい。
【0088】
また、フィラーの比表面積(BET比表面積)は、0.5m
2/g以上3.0m
2/g以下であるのが好ましく、0.7m
2/g以上2.5m
2/g以下であるのがより好ましい。
【0089】
フィラーの平均粒径が大きくなるほど、フィラーの比表面積が小さくなり、一方、フィラーの平均粒径が小さくなるほど、フィラーの比表面積が大きくなる。また、フィラーの一次粒子の平均粒径が大きくなるほど、フィラーの比表面積が小さくなり、一方、フィラーの一次粒子の平均粒径が小さくなるほど、フィラーの比表面積が大きくなる。
【0090】
このように、フィラーの平均粒径および一次粒子の平均粒径と、フィラーの比表面積とは、互いに相関関係を有している。
【0091】
なお、絶縁層形成用組成物は、上述した成分に加え、本発明の目的を損なわない範囲でレベリング剤、消泡剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0092】
また、絶縁層形成用組成物は、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、トルエン、ジメチルホルムアルデヒド等の溶剤を含む。これにより、絶縁層形成用組成物は、樹脂材料等が溶剤に溶解することにより、ワニスの状態となる。
【0093】
このようなワニス状態の絶縁層形成用組成物を、コンマコーター、ダイコーター、グラビアコーター等を用いて、導体層3上に塗工し、乾燥することで絶縁層形成層4Aが得られる。
【0094】
この際、ワニス状態の絶縁層形成用組成物の粘度は、3.0Pa・s以下であるのが好ましく、2.0Pa・s以下であるのがより好ましい。これにより、絶縁層形成用組成物の濾過作業およびコーティングが可能となる。
【0095】
さて、本発明では、上述したように、絶縁層形成用組成物に用いられるフィラーとして、主として酸化アルミニウムで構成された粒状体であり、メチルエチルケトン溶剤(pKa14.7)中で測定したゼータ電位の絶対値が5.0mV以下となるものが用いられる。
【0096】
ここで、本発明者の検討により、メチルエチルケトン溶剤中で測定したゼータ電位の絶対値が大きいフィラーを絶縁層形成用組成物に用いると、絶縁層形成用組成物のフロー性が低下するため、形成される絶縁層内にボイドが発生し、これに起因して、絶縁層4の熱伝導性および耐電圧性が低下する傾向を示すことが判っている。
【0097】
これは、メチルエチルケトン溶剤中で測定したゼータ電位の絶対値が大きくなることに起因して、絶縁層形成用組成物(樹脂材料)中でのフィラーの分散性に変化が生じることによると推察される。
【0098】
かかる点に本発明者は着目し、さらなる検討を行なった結果、メチルエチルケトン溶剤中におけるゼータ電位の絶対値を5.0mV以下となるフィラーを用いることにより、絶縁層形成用組成物中におけるフィラーの分散度が適切なものとなり、その結果、前記問題点が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0099】
また、ゼータ電位の測定は、一般的には、電気泳動と光散乱を組合せた方法が用いられる。具体的には、粒子(フィラー)に電場をかけることで粒子を移動(電気泳動)させ、さらに、移動する粒子にレーザー照射して、照射光と散乱光の周波数の変化から電気泳動速度を計算することによりゼータ電位を算出することができる。
【0100】
ところで、主として酸化アルミニウムで構成された粒状体であるフィラーのメチルエチルケトン溶剤中で測定したゼータ電位の絶対値は、通常、5.0mV超となる。このことは、かかる構成からなるフィラーには、水酸化ナトリウムが付着していることに起因すると考えられる。これは、前述したように、主として酸化アルミニウムで構成された粒状体(二次粒子または一次粒子)は、通常、水酸化アルミニウムを焼成することにより得られ、そのため、水酸化アルミニウム生成の過程において、水酸化ナトリウムが水酸化アルミニウムに付着し、その結果、焼成して得られる粒状体に付着した状態となっていることによると考えられる。
【0101】
したがって、本発明では、メチルエチルケトン溶剤中で測定したゼータ電位の絶対値を5.0mV以下として、水酸化ナトリウムの付着が的確に抑制または防止された、主として酸化アルミニウムで構成された粒状体を用いることとする。フィラーとしてこのような粒状体を用いることにより、絶縁層形成用組成物のフロー性を高めることができ、その結果、得られる絶縁層4の熱伝導性および耐電圧性が高まることとなる。
【0102】
なお、主として酸化アルミニウムで構成された粒状体を、メチルエチルケトン溶剤中で測定したゼータ電位の絶対値が5.0mV以下のものとする方法としては、特に限定されないが、例えば、I:前記粒状体を水洗する方法、II:前記粒状体を弱酸性水溶液で中和した後に水洗する方法、III:前記粒状体に付着している水酸化ナトリウムを二酸化炭素と反応させる方法、IV:前記粒状体を1400℃以上で加熱し、付着している水酸化ナトリウムを除去する方法等が挙げられるが、中でも、IおよびIIの方法が好ましい。かかる方法によれば、容易かつ確実にメチルエチルケトン溶剤中で測定したフィラーのゼータ電位の絶対値を前記範囲内に設定することができる。
【0103】
したがって、以下では、IおよびIIの方法を用いて得られた本発明のフィラーを用いて、絶縁層形成用組成物を得る方法を一例に説明する。
【0104】
すなわち、以下に説明する絶縁層形成用組成物の製造方法は、主として酸化アルミニウムで構成された粒状体を用意し、該粒状体を水洗して前記フィラーを得る水洗工程と、前記フィラーと前記樹脂材料とを混合して前記絶縁層形成用組成物を得る混合工程とを有する。
【0105】
(水洗工程)
まず、本工程において、主として酸化アルミニウムで構成された粒状体を用意し、この粒状体を水洗する。
【0106】
これにより、前記粒状体のメチルエチルケトン溶剤中で測定したゼータ電位の絶対値を5.0mV以下とする。ゼータ電位の絶対値をかかる範囲内とすれば、次工程で得られる絶縁層形成用組成物を、優れたフロー性を有するものとすることができる。そのため、得られる絶縁層4中にボイドが発生するのを確実に防止して、熱伝導性に優れた絶縁層4を形成することができる。
【0107】
Iの方法を用いる場合、水洗に用いる液体としては、特に限定されないが、特に、RO水、脱イオン水、蒸留水のような純水が好ましく用いられる。純水によれば、他の不純物が粒状体に付着することなく、粒状体から水酸化ナトリウムを確実に除去することができる。
【0108】
また、IIの方法を用いる場合、洗浄工数(洗浄回数)を減らし効率よく洗浄するために、前記液体として、弱酸性水溶液が用いられる。弱酸性水溶液に含まれる酸としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、塩酸、硝酸の他、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、サリチル酸、没食子酸、安息香酸、フタル酸、ケイ皮酸、メリト酸、 シュウ酸、クエン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、乳酸、リンゴ酸、マロン酸、酒石酸、アコニット酸、アジピン酸、グルタル酸等の有機酸が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0109】
なお、IIの方法を用いた場合、すなわち、前記液体として弱酸性水溶液を用いた場合には、弱酸性水溶液による水洗の後(弱酸性水洗後)は、さらに、前記液体として純水を用いた水洗(置換水洗)を、上澄液のpHが6.0に到達するまで行なうようにする。すなわち、粒状体を弱酸性水溶液で中和(水洗)した後に、純水で水洗する。
【0110】
また、前記液体として純水を用いた置換水洗を容易にするために限定はされないが何れの酸を用いても1.0質量%以下水溶液として使用するのが好ましい。さらに、弱酸性水溶液に含まれる酸としては、水への溶解性も良い短鎖脂肪酸であるギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸がより好ましい。
【0111】
また、水洗する方法としては、特に限定されず、例えば、I.粒状体が収納された容器中に液体を供給した後、この液体を撹拌し、次いで、所定の時間静置した後に上澄液を除去する方法、II.粒状体を、フィルターを備えるカラム内に充填し、その後、フィルターを介して液体を粒状体に接触(通過)させる方法等が挙げられる。
【0112】
なお、かかる方法による粒状体の水洗は、単数回であってもよいが、複数回施すようにするのが好ましい。これにより、粒状体から水酸化ナトリウムをより確実に除去することができる。
【0113】
なお、メチルエチルケトン溶剤中で測定したゼータ電位の絶対値は、5.0mV以下であればよいが、3.0mV以下であるのが好ましい。これにより、絶縁層形成用組成物のフロー性をより確実に高めることができる。
【0114】
(混合工程)
次いで、本工程において、前記水洗工程を経ることにより得られたフィラーと、樹脂材料とを混合して絶縁層形成用組成物を得る。
【0115】
このフィラーと樹脂材料との混合は、例えば、予め、前述した溶剤に樹脂材料を溶解してワニス状とした後、このワニス中にフィラーを混合することにより行うことができる。
【0116】
また、混合に用いる混合機としては、特に限定されないが、例えば、ディスパーザー、複合羽根型撹拌機、ビーズミルおよびホモジナイザー等が挙げられる。
【0117】
なお、ワニス中にフィラーを混合する際の温度は、樹脂材料の構成材料によって若干異なるが、25〜80℃程度であるのが好ましく、40〜60℃程度であるのがより好ましい。これにより、ワニスの粘度を確実に低下させて、絶縁層形成用組成物中におけるフィラーの分散率をより確実に向上させることができる。また、撹拌による熱で、樹脂材料に硬化反応が起こるのを防止することができる。
以上のようにして、絶縁層形成用組成物を製造することができる。
【0118】
このような絶縁層形成用組成物によれば、フィラーの含有量を前述した範囲のようにたとえ高くしたとしても、優れたフロー性を有する絶縁層形成用組成物とすることができる。そのため、得られる絶縁層4中にボイドが発生するのを確実に防止して、熱伝導性に優れた絶縁層4を形成することができる。
【0119】
[3]
次に、絶縁層形成層4Aと金属板2とを貼り合わせた後に、金属板2と導体層3とが互いに接近するように加圧するとともに加熱する。
【0120】
これにより、絶縁層形成層4Aが硬化または固化することで絶縁層4となり、
図3(c)に示すような、絶縁層4を介して金属板2と導体層3とが接合された基板1が得られる。
【0121】
かかる工程における加熱および加圧の条件は、特に限定されないが、例えば、以下のように設定される。すなわち、加熱温度は、好ましくは80〜200℃程度、より好ましくは170〜190℃程度に設定される。
【0122】
また、金属板2と導体層3とを加圧する圧力は、好ましくは2〜14MPa程度、より好ましくは6〜12MPa程度に設定される。
【0123】
さらに、加熱および加圧する時間は、30〜240分程度であるのが好ましく、60〜120分程度であるのがより好ましい。
以上のような工程を経て、基板1が製造される。
【0124】
(基板の応用例)
次に、
図4に基づいて、前述した基板1の応用例について説明する。
【0125】
図4に示す制御装置100は、自動車20に搭載され、その前方に向かって光を照射するヘッドライト(光源)201の駆動を制御するものである。本実施形態では、ヘッドライト201は、複数の発光ダイオード素子(LED)202が配置されたものである。
【0126】
制御装置100は、基板1Aと、基板1A上に設けられた半導体素子51、52およびコネクタ53とを有している。
【0127】
基板1Aは、金属板2と、導体層3Aと、絶縁層4とを有し、金属板2と導体層3Aとが絶縁層4を介して接合されている。
【0128】
ここで、導体層3Aは、前述した基板1の導体層3をエッチング等によりパターンニングして形成された導体パターンである。すなわち、基板1Aは、基板1の導体層3をパターンニングすることにより得られるものである。
【0129】
このような基板1Aの導体層3A上には、半導体素子51、52およびコネクタ53等が設けられ、これらが回路6を形成している。
【0130】
本実施形態では、絶縁層4の上面には、導体層3Aが形成されていない部分を覆う被覆層(ソルダーレジスト層)7が設けられている。これにより、導体層3を保護することができ、回路6の劣化やショートを防止することができる。被覆層7の構成材料は、絶縁性を有していれば特に限定されず、例えば、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、フェノール樹脂等の各種樹脂材料を用いることができる。なお、被覆層7は、省略してもよい。
【0131】
半導体素子51、52は、その内部に、銅等の導電性金属材料で構成される配線パターンが設けられている。この配線パターンは、下面から突出した複数の端子に電気的に接続されている。そして、各端子がそれぞれ導体層3Aと接合され、これにより、半導体素子51、52が導体層3Aと電気的に接続される。各端子は、例えば半田、銀ろう、銅ろう、燐銅ろうのような各種ろう材を主材料として構成することができる。
【0132】
なお、半導体素子51、52の外装部を構成するモールド部512、522は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のような熱硬化性樹脂で構成されている。
【0133】
コネクタ53は、中継ケーブル204を介して、ヘッドライト201に接続されている。なお、中継ケーブル204のヘッドライト201と反対側の端部には、コネクタ53と接続されるコネクタ205が設置されている。
【0134】
コネクタ53は、いわゆる「オス側」のコネクタであり、複数のピン(端子)531と、これらのピン531を一括して収納するハウジング532とを有している。各ピン531は、それぞれ、銅等の導電性金属材料で構成され、導体層3Aに電気的に接続されている。そして、各ピン531と、いわゆる「メス側」のコネクタ205の各端子(図示せず)とが嵌合により接続される。
【0135】
ハウジング532は、筒体で構成され、基板1Aに対し立設している。そして、ハウジング532に収納された各ピン531も基板1Aに対し垂直方向に、すなわち、鉛直上方に向かって起立している。これにより、コネクタ53に中継ケーブル204のコネクタ205を接続する際、コネクタ205を上方から差し込むことができ、その接続作業を容易に行なうことができる。
【0136】
ハウジング532の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、半導体素子51、52のモールド部512、522の構成材料と同様の熱硬化性樹脂が用いることができる。
【0137】
さらに、制御装置100は、導体層3や半導体素子51、52、特に導体層3と半導体素子51、52との接続部を覆う保護部材8を有している。
【0138】
保護部材8は、硬質の樹脂材料で構成され、層状に設けられている。これにより、半導体素子51、52や、コネクタ53を一括して固定することができる。従って、自動車20が走行しているときにその振動が制御装置100に伝達したとしても、当該振動による半導体素子51、52やコネクタ53の離脱を確実に防止することができる。また、例えば、ケーシングで制御装置100を覆わなくとも、半導体素子51、52等を保護することができる。また、半導体素子51、52等が保護部材8に埋設された状態となるため、これらに対する防水・防塵機能を発揮することができる。
【0139】
保護部材8を構成する硬質の樹脂材料としては、特に限定されないが、例えば、半導体素子51、52のモールド部512、522やハウジング532の構成材料と同様の熱硬化性樹脂を用いることができ、特にエポキシ樹脂、フェノール樹脂が好ましい。
【0140】
ここで、保護部材8を構成する樹脂材料には、アルミナ等の金属酸化物、窒化ホウ素等の窒化物に代表される電気絶縁性かつ高熱伝導性フィラーを充填されているのが好ましい。これにより、保護部材8を介して、通電によって半導体素子51、52等が発した熱の放熱が促進される。そして、この放熱と、金属板2を介しての放熱とが相まって、制御装置100は、全体として放熱性に極めて優れたものとなる。
【0141】
以上、本発明のフィラー、絶縁層形成用組成物、絶縁層形成用フィルムおよび基板を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0142】
例えば、本発明のフィラー、絶縁層形成用組成物、絶縁層形成用フィルムおよび基板を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0143】
さらに、本発明の基板の製造方法が適用された基板の用途は、前述した実施形態のものに限定されるものでないことはいうまでもなく、放熱性を要する各種装置に用いる基板として好適に用いることができる。例えば、前記基板はLED発光素子を搭載する基板として用いることができる。
【実施例】
【0144】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0145】
1.基板の製造
以下のようにして基板を製造した。
【0146】
(実施例1)
[1]まず、ビスフェノールF/ビスフェノールAフェノキシ樹脂(三菱化学製、4275、重量平均分子量6.0×10
4、ビスフェノールF骨格とビスフェノールA骨格の比率=75:25)40.0質量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC製、850S、エポキシ当量190)55.0質量部、2−フェニルイミダゾール(四国化成製2PZ)3.0質量部、シランカップリング剤としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン製KBM−403)2.0質量部を秤量し、これらをシクロヘキサノン400質量部に溶解・混合させ、高速撹拌装置を用い撹拌することで、樹脂材料を含むワニスを得た。
【0147】
[2]次に、アルミナ(日本軽金属製、平均粒径A3.2μm、一次粒径B3.6μm、平均粒径A/一次粒径B=0.9の市販品(Lot No. Z401))800gを秤量し、純水1300mLが収納されたプラスチック製容器内に投入した後、直径50mmの羽根を備えるディスパーザー(特殊機化工業社製、「製品番号R94077」)を用いて、回転数5000rpm×攪拌時間15分間の条件で撹拌することにより、アルミナを水洗した。
【0148】
その後、アルミナの一部を採取し、180℃で300分間乾燥したのち、そのゼータ電位を、メチルエチルケトン溶剤中でゼータ電位測定装置(Malvern社製、「Zetasizer Nano ZS90」)を用いて測定し、その測定値が−0.8mVとなるまで、上澄液をデカンテーションで除去した後に、前記水洗を複数回行なった。
【0149】
[3]次に、水洗が施されたアルミナを、20分間放置した後に、上澄液をデカンテーションで除去し、その後、アセトン1000mLを投入して、前記ディスパーザーを用いて、回転数800rpm×攪拌時間5分間の条件で撹拌した。
そして、12時間放置した後に、上澄液を除去した。
【0150】
[4]次に、上澄液が除去された後のアルミナをステンレスバットに広げ、これを、全排気型箱型乾燥機(タバイ社製、「PHH−200」)を乾燥温度40℃×乾燥時間1時間の条件で乾燥することで洗浄アルミナ(フィラー)を得た。
【0151】
その後、この洗浄アルミナを、200℃×24時間の条件で乾燥させた後、85℃×85%RHの条件で放置することで、洗浄アルミナの含水率を0.18質量%とした。
【0152】
なお、このアルミナの含水量は、示差熱天秤装置(TG-DTA)を用いて測定した25℃と500℃における質量の差により計算した。
【0153】
[5]次に、前記工程[1]で予め用意した樹脂材料を含むワニスに、洗浄アルミナ(505.0質量部)を、直径50mmの羽根を備えるディスパーザー(特殊機化工業社製、「R94077」)を用いて、回転数1000rpm×攪拌時間120分間の条件で混合することにより、アルミナの樹脂固形分比83.5重量%(60.0体積%)の絶縁層形成用組成物を得た。
【0154】
1.2絶縁層形成用フィルムの作製
金属箔(導体層)として、縦500mm×横250mm×厚さ35μmの銅箔(古河サーキットホイル製、GTSMP)を用い、その銅箔の粗化面に、上記1.1で得られた絶縁層形成用組成物をコンマコーターにて塗布し、100℃で3分、150℃で3分加熱乾燥し、絶縁層形成用組成物の厚さ100μmの絶縁層形成用フィルム(絶縁層形成用組成物付き銅箔)を得た。
【0155】
1.3基板の作製
上記1.2で得られた絶縁層形成用フィルムと、金属板として縦530mm×横300mm×厚さ1mmのアルミニウム板を張り合わせ、真空プレスを用いて、プレス圧9.7MPaで80℃30分、200℃90分の条件下でプレスし、基板を得た。
【0156】
(実施例2、3)
前記工程[2]において、水洗後のアルミナのゼータ電位が、それぞれ、−3.0mV、−4.9mVとなるまで、アルミナの水洗を複数回行った以外は、前記実施例1と同様にして、絶縁層形成用組成物および基板を得た。
【0157】
(実施例4)
前記工程[2]において、実施例1で使用した同じアルミナを同様に800gを秤量し、0.1質量%の酢酸水溶液1300mLが収納されたプラスチック製容器内に投入した後、直径50mmの羽根を備えるディスパーザー(殊機化工業社製、「R94077」)を用いて、回転数5000rpm×攪拌時間15分間の条件で撹拌することにより、アルミナを水洗した。
【0158】
その後、15分間静置し、スポイトで採取した上澄液50mLのろ過液のpHを測定し、そのpH値が6.0以上になるまで、上澄液をデカンテーションで除去した後に、純水で複数回置換水洗を行なった。
それ以外の工程は実施例1と全く同様にして、絶縁層形成用組成物および基板を得た。
【0159】
(実施例5)
洗浄アルミナの量を787.0質量部に変え、アルミナの樹脂固形分比88.7重量%(70.0体積%)とした以外は実施例1と同様にして、絶縁層形成用組成物および基板を得た。
【0160】
(比較例1)
前記工程[2]〜[4]におけるアルミナの水洗を省略したこと以外は、前記実施例1と同様にして、絶縁層形成用組成物および基板を得た。
【0161】
(比較例2)
前記工程[2]〜[4]におけるアルミナの水洗を省略したこと以外は、前記実施例5と同様にして、絶縁層形成用組成物および基板を得た。
【0162】
2.評価
各実施例および各比較例により得られた絶縁層形成用組成物および基板について、次の各評価を行った。
【0163】
2.1絶縁層形成用組成物の粘度
各実施例および各比較例の絶縁層形成用組成物について、E型粘度計を用いて、温度25℃、せん断速度5.0rpmの条件で粘度を測定した。
【0164】
2.2絶縁層形成用組成物のフロー率
各実施例および各比較例の絶縁層形成用組成物について、それぞれ、金属箔として、縦500mm×横250mm×厚さ35μmの銅箔(古河サーキットホイル製、GTSMP)を2つ用意し、これら同士の間に、絶縁層形成用組成物をコンマコーターを用いて供給した後、金属箔同士を、真空プレスを用いて、プレス圧9.7MPaで190℃×5分の条件下でプレスし、フロー率測定用のサンプルを得た。
【0165】
そして、各実施例および各比較例の絶縁層形成用組成物から得られたサンプルについて、それぞれ、その重さAを測定し、その後、金属箔の端部から突出している絶縁層を取り除いた後のサンプルの重さBを測定して、B/A×100(%)を求めることでフロー率を算出した。
【0166】
2.3外観
各実施例および各比較例の基板について、銅箔(導体層)をエッチングにより除去し、絶縁層の外観を目視で観察し、ボイドやカスレの有無を評価した。
【0167】
2.4半田耐熱性
各実施例および各比較例の基板について、50mm×50mmにグラインダーソーでカットした後に、その銅箔を1/4だけ残すようにエッチングにより除去することにより、試料を作製し、JIS C 6481に準拠して半田耐熱性を評価した。かかる評価は、前処理をしない場合と、121℃、100%、(PCT処理)を4時間行った後の場合において、それぞれ、288℃の半田槽に30秒間浸漬した後の外観の異常の有無に基づいて、下記の評価基準により行った。
【0168】
評価基準:異常なし(フクレの箇所がない)
:膨れあり(全体的にフクレの箇所がある)
【0169】
2.5絶縁破壊電圧
各実施例および各比較例の基板について、100mm×100mmにグラインダーソーでカットした後に、その端縁部から約30mmの位置から外側部分の銅箔をエッチングにより除去することにより、試料を作製し、絶縁破壊電圧を評価した。かかる評価は、耐電圧試験器(MODEL7473、EXTECH Electronics社製)を用いて、銅箔と金属板に電極を接触せしめて、両電極に1kV/秒の速度で電圧を上昇させていきながら交流電圧を印加し、絶縁層が破壊したときの電圧を絶縁破壊電圧とした。
【0170】
2.6熱伝導率
各実施例および各比較例の絶縁層形成用フィルム(絶縁層形成用組成物付き銅箔)二枚を絶縁層が向かい合うように重ね、真空プレスを用いて、プレス圧9.7MPaで190℃×5分の条件下でプレスし、両面金属箔つき絶縁板を得た。得られた両面金属箔つき絶縁板の両面をエッチングし、Cステージ状態の絶縁層を取り出し、レーザーフラッシュ法によりJIS R 1611に従い熱伝導率を求めた。
これらの評価結果を表1に示す。
【0171】
【表1】
【0172】
表1に示す評価結果から明らかなように、各実施例では、粒状体を水洗することにより、メチルエチルケトン溶剤中で測定した際のゼータ電位の絶対値を5.0mV以下に設定することができ、その結果、樹脂層形成用組成物のフロー率が向上し、これに起因して、半田耐熱性に優れ、絶縁破壊電圧値が十分に高く、また、高い熱伝導率を有するものが得られる結果となった。
【0173】
これに対して、各比較例では、メチルエチルケトン溶剤中で測定したゼータ電位の絶対値が5.0mV超となっていることで、各実施例と比較して、外観、半田耐熱性または絶縁破壊電圧値に劣る結果となった。