特許第5867082号(P5867082)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5867082
(24)【登録日】2016年1月15日
(45)【発行日】2016年2月24日
(54)【発明の名称】淡水の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20060101AFI20160210BHJP
   B01D 61/06 20060101ALI20160210BHJP
   B01D 61/12 20060101ALI20160210BHJP
   B01D 61/02 20060101ALI20160210BHJP
【FI】
   C02F1/44 G
   B01D61/06
   B01D61/12
   B01D61/02 500
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-517134(P2011-517134)
(86)(22)【出願日】2011年3月9日
(86)【国際出願番号】JP2011055538
(87)【国際公開番号】WO2011114967
(87)【国際公開日】20110922
【審査請求日】2014年2月17日
(31)【優先権主張番号】特願2010-57113(P2010-57113)
(32)【優先日】2010年3月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷口 雅英
(72)【発明者】
【氏名】高畠 寛生
(72)【発明者】
【氏名】前田 智宏
【審査官】 片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−126137(JP,A)
【文献】 特開2005−224651(JP,A)
【文献】 特開2008−100219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
B01D 61/00−71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶質濃度が異なる少なくとも2種類の原水を混合した後に半透膜ユニットに供給して淡水を得る淡水の製造方法であって、半透膜ユニットの淡水流量および半透膜ユニットの運転圧力が、所定の範囲内になるように、少なくとも2種類の原水の混合比率を制御する淡水の製造方法。
【請求項2】
少なくとも2種類の原水のうち、少なくとも1種類が海水であると共に、少なくとも他の1種類が河川水、地下水、下水、廃水、またはそれらの処理水である請求項に記載の淡水の製造方法。
【請求項3】
処理水が、他の半透膜ユニットを用いて淡水を取り出した後の濃縮水である請求項に記載の淡水の製造方法。
【請求項4】
半透膜ユニットの運転圧力が実質的に一定であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の淡水の製造方法。
【請求項5】
前記半透膜ユニットの濃縮水が有する圧力エネルギーを水車式もしくは逆転ポンプ式のエネルギー回収装置を用いて回収する請求項1〜4のいずれかに記載の淡水の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水と河川水、地下水又は廃水処理水との組合せのような複数種の原水から淡水を製造するための、半透膜ユニットを用いた淡水の製造方法及び淡水製造装置に関する。さらに詳しくは、複数種の原水から淡水を製造する淡水製造装置において、設備コストと運転コストを抑えることが可能な半透膜ユニットを用いた淡水の製造方法及び淡水製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年深刻化してきている水環境の悪化に伴い、これまで以上に水処理技術が重要になってきており、分離膜利用の水処理技術が非常に幅広く適用されてきている。海水淡水化の水処理技術として、従来、水資源が極端に少なく、かつ、石油による熱資源が非常に豊富である中東地域では蒸発法を中心に実用化されてきていたが、熱源が豊富でない中東以外の地域では所要動力が小さい半透膜(とくに逆浸透膜)を用いた淡水化プロセスが採用され、カリブ海諸島や地中海エリアなどで多数のプラントが建設され実用運転されている。
【0003】
とくに、近年は、淡水化で生じた圧力エネルギーを持った濃縮排水からエネルギーを高効率で回収する技術も適用されるようになり、さらに省エネルギーで海水から淡水を製造することが可能となっている。
【0004】
逆浸透膜淡水化設備では、一般に必要とする生産水量を常時得ることを目的とするため、原水の濃度や温度に応じて、半透膜ユニットの稼働数や半透膜ユニットの運転圧力を制御する運転を行う。具体的には、原水濃度が上がった場合は、浸透圧の増加分を補うために運転圧力を上げ、原水温度が上がった場合は、半透膜の透水性が上がるので運転圧力を下げることによって、所定の生産水量を維持する。
【0005】
さらに、上記のように生産水量を維持しようとすると、生産水質も変動し、例えば、原水温度が上がり、運転圧力を下げると、水質が大きく低下する。また、濃縮排水からエネルギーを回収する場合、エネルギー回収装置の適正圧力範囲は限られており、運転圧力変動によって設計圧力ポイントからずれると、エネルギー回収効率が低下するという問題があった。
【0006】
そこで、生産水質や運転圧力をある範囲内に維持するために、特許文献1にしめすように、原水温度が上がった場合は、半透膜の水透過性が上がるために、半透膜ユニットの稼働数を減らし運転圧力を維持する方法が提案,実用化されているが、稼働数を減らすと、半透膜面積あたりの負荷が大きくなり、膜へのダメージが生じやすくなるという問題を有している。これを解決する方法としては、特許文献2に示すように、原水と、同一原水から発電プラントの復水器に分岐させた高温原水とを適宜混合して、温度を一定に保つ方法が提案されている。
【0007】
一方、海水を原水とした半透膜による淡水製造は、蒸発法に比べるとエネルギー的に優れているとはいえ、海水の高い浸透圧に起因する高圧力プロセスであるため、河川水を原水とする上水製造プロセスに比べて必要とするエネルギーは大きい。そのため、最近は、下廃水を浄化処理して半透膜で回収再利用する淡水製造設備が実用化されている(非特許文献1)。さらに、海水と河川水を併用(非特許文献2)したり、海水と下廃水を併用(非特許文献3)したりしてエネルギーコストを下げるシステムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】日本国特開2001−239134号公報
【特許文献2】日本国実開平4−137795号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】A. J. von Gottbergら、”World’s Largest Membrane-based Water Reuse Project,” Proc. IDA World Congress, Bahama, 2003.
【非特許文献2】J. S. S. Chinら、”Increasing Water Resources through Desalination in Singapore: Planning for a Sustainable Future,” Proc. IDA World Congress, Dubai, 2009.
【非特許文献3】“神鋼環境ソら4者 経産省のモデル事業 周南市で実証実験”、[online]、平成21年3月5日、日本水道新聞、[平成21年7月2日検索]、インターネット<URL : http://www.suido-gesuido.co.jp/blog/suido/2009/03/post_2780.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、複数種類の原水を混合利用する半透膜を用いた淡水の製造方法において、運転制御範囲を小さく抑えることによって設備コスト、特に半透膜の高圧ポンプと濃縮水のエネルギー回収ユニットへの要求仕様を低減しながら、安定した生産水量と生産水質を維持可能な、低コストの淡水製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は以下の(1)〜()に関する。
(1)溶質濃度が異なる少なくとも2種類の原水を混合した後に半透膜ユニットに供給して淡水を得る淡水の製造方法であって、半透膜ユニットの淡水流量および半透膜ユニットの運転圧力が、所定の範囲内になるように、少なくとも2種類の原水の混合比率を制御する淡水の製造方法。
(2)少なくとも2種類の原水のうち、少なくとも1種類が海水であると共に、少なくとも他の1種類が河川水、地下水、下水、廃水、またはそれらの処理水である(1)に記載の淡水の製造方法。
(3)処理水が、他の半透膜ユニットを用いて淡水を取り出した後の濃縮水である()に記載の淡水の製造方法。
(4)半透膜ユニットの運転圧力が実質的に一定である(1)〜(3)のいずれかに記載の淡水の製造方法。
(5)前記半透膜ユニットの濃縮水が有する圧力エネルギーを水車式もしくは逆転ポンプ式のエネルギー回収装置を用いて回収する(1)〜(4)のいずれかに記載の淡水の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、複数種類の原水を混合利用する半透膜を用いた淡水の製造方法において、原水の濃度や温度に応じて、原水と濃度の異なる水を混合し、その混合比率を変化させることによって半透膜ユニットへ供給する高圧ポンプへの圧力負荷変動を抑えるとともに、エネルギー回収効率を高く維持することができ、設備コストを低減させるとともに小さなエネルギーで淡水を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に係る淡水の製造方法の一実施態様を示す概略フロー図である。
図2図2は、本発明に係る淡水の製造方法の別の一実施態様を示す概略フロー図である。
図3図3は、本発明に係る淡水の製造方法のさらに別の一実施態様を示す概略フロー図である。
図4図4は、本発明に係る淡水の製造方法のさらに別の一実施態様を示す概略フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の望ましい実施の形態を、図面を用いて説明する。ただし、本発明の範囲がこれらに限られるものではない。
【0015】
本発明を適用可能な淡水製造装置の一例を図1に示す。図1に示す淡水製造装置では、第1原水1aに対して、第2原水1bを混合供給できるラインを有し、必要に応じて原水1aに原水1bを混合できるようになっている。その後、原水タンク2を通して、原水供給ポンプ3で、前処理ユニット4に送られる。前処理水は中間タンク6にいったん貯留され、高圧ポンプ7にて半透膜ユニット8にて淡水を得る。得られた淡水は、淡水タンク10に貯留される。一方、半透膜ユニット8の濃縮水はエネルギー回収ユニット9にて動力回収された後、濃縮排水11として、系外に排出される。バルブ5aとバルブ5bは、それぞれ第1原水1aと第2原水1bの流量調節のために備えられている。
【0016】
つづいて、図1に示す淡水製造装置による本発明の適用について述べる。
【0017】
第1原水1aと第2原水1bは、それぞれの濃度が異なり、その混合比率によって混合後の濃度を調整する。なお、混合比率はその濃度や温度によって、0〜100%まで変動させることが可能である。すなわち、原水1aと原水1bを通常は単独で供給し、必要なときだけ混合することも差し支えない。混合された原水は前処理を経た後、半透膜ユニットで淡水と濃縮水に分けられるが、半透膜ユニット8で膜を透過して淡水として得られる水量や水質は、半透膜供給水(混合原水の前処理水)の温度、濃度によって変化する。半透膜における溶媒(水)と溶質の透過は一般に次式で表現される。
Jv=Lp(ΔP−π(Cm)) ・・・(1)
Js=P(Cm−Cp) ・・・(2)
(Cm−Cp)/(Cf−Cp)=exp(Jv/k) ・・・(3)
Cp=Js/Jv ・・・(4)
Lp=α×Lp25×μ25/μ ・・・(5)
P=β×P25×μ25/μ×(273.15+T)/(298.15) ・・・(6)
Cf :半透膜供給水濃度 [mg/l]
Cm :半透膜供給水膜面濃度 [mg/l]
Cp :透過水濃度 [mg/l]
Js :溶質透過流束 [kg/m/s]
Jv :水の透過流束 [m/m/s]
k :物質移動係数 [m/s]
Lp :純水透過係数 [m/m/Pa/s]
Lp25 :25℃での純水透過係数 [m/m/Pa/s」
P :溶質透過係数 [m/s]
25 :25℃での溶質透過係数 [m/m/Pa/s]
T :温度 [℃]
α :運転条件による変動係数 [−]
β :運転条件による変動係数 [−]
ΔP :運転圧力 [Pa]
μ :粘度 [Pa・s]
μ25 :25℃での粘度 [Pa・s]
π :浸透圧 [Pa]
【0018】
(1)式において、半透膜供給水膜面濃度Cmが高くなるほど浸透圧πが上昇し、例えば、非イオン性物質の場合、理論的にはπ=Cm/Mw×R×(273.15+T)から算出することができる。(ここで、Mwは分子量、R=気体定数である。)また、低温になるほど水の粘度μが上がる。これらによって純粋透過係数Lpが低下し、いずれも、水の透過流束Jvが減少する。また、半透膜供給水濃度Cfが上がることによって、また、温度上昇によって溶質透過流束Jsが増大し、生産水の水質(透過水濃度)Cpが悪化する。
【0019】
従来、これらに対処するために、半透膜供給水濃度Cf上昇時や水温低下時には、運転圧力ΔPを大きくしていた。これによって、Jvを増加させ、Cpを低下させていた。逆に半透膜供給水濃度Cf低下時や水温上昇時には、運転圧力ΔPを小さくしていた。
【0020】
本発明の運転方法においては、運転圧力ΔPを基本的には変化させず、原水の混合比率を変えて半透膜供給水濃度Cfを変化させることを特徴としている。すなわち、原水温度が低下したときには、半透膜供給水濃度Cfが低下するように原水の混合比率を変え、浸透圧πを低下させて温度低下で生じた粘度上昇に起因する透水性低下を、浸透圧π低減による有効圧力(ΔP−π)増加で補い、運転圧力ΔPを一定とし、生産水量を一定にするものである。
【0021】
さらに、半透膜ユニットの濃縮水は、運転圧力ΔPからユニット内での流動圧損(通常0.1〜0.5MPa程度)が低下した程度でほぼΔPに近い高圧エネルギーを有しているが、ここから圧力エネルギーを回収するための装置は、効率の高い圧力範囲がそれほど幅広くなく、例えば、5MPaで回収効率80%であっても、3MPaだと50%に低下してしまう。そのために、日本国特開2001−46842号公報に記載されているように、半透膜ユニットを透過側に圧力をかけて供給水側の圧力を高く維持し、エネルギー回収効率を高めるという技術も提案されているが、透過側に圧力をかけるという時点で、ある程度のエネルギーロスは避けられず、また透過側に耐圧性が必要となるという問題にもつながる。本発明の適用によってエネルギー回収圧力変動も小さくなり、常に安定した高いエネルギー回収効率を実現することが可能となる。
【0022】
なお、本発明の適用によって、設備コストの中で非常に大きな部分を占める高圧ポンプおよびエネルギー回収ユニットの設計圧力ポイントを狭めることができるとともに高圧ポンプの圧力制御システムであるインバーターを不要とすることが可能となり、設備コストを大幅に低減することが可能となる。
【0023】
本発明を適用するにあたって、第1原水および第2原水は、浸透圧に影響を与える濃度が異なれば特に制限はなく、たとえば、高濃度である海水や濃縮海水、海水よりも低濃度である河川水、地下水、下水、廃水、またそれらの処理水を用いることができる。処理水としては、ろ過水及び濃縮水が例示される。図3に例示するように、半透膜ユニット8bで生成した濃縮排水を原水の一つとして用いると、通常系外に排出される濃縮排水を有効活用することができるため、効果的である。この場合、濃縮排水が高濃度原水でも低濃度原水でも差し支えない。ただし、いずれの場合においても本発明の主旨である圧力変動を小さくするという観点から、濃度の差は大きい方が好ましい。
【0024】
具体的には、例えば日本近海における海水温度変化は10〜30℃程度であり、冬季(10℃)の粘度は夏季(30℃)の約1.6倍であり、半透膜の特性や運転条件にもよるが、半透膜に特性変化がない場合、夏季に有効圧力(運転圧力−浸透圧)5barで運転可能であれば、冬季に同じ造水量を得るためには有効圧力が8bar必要になる。ここで、増加した3barを補うように浸透圧を低減させれば、運転圧力変動を抑えることができる。具体的には、たとえば、夏季に、TDS(Total Dissolved Solid,全蒸発残留物)濃度3.5wt%(浸透圧=約28bar)の海水を第1原水のみで運転し、冬季には第2原水としてTDS濃度0.2wt%の河川水を10%程度混合すれば、浸透圧は約25bar程度に低減され、冬季の3barの増加分を補うことができる。
【0025】
さらに、第2原水が第1原水と温度が異なり、温度変化を緩和するように混合されることも好ましい。すなわち、例えば、発電所の冷却水や生物処理された下廃水処理水は、生物処理によって温度が上がっているため、第2原水として河川水の代わりに混合すれば、冬季の温度低下を補い、混合率を低減することができる。逆に、夏期の温度上昇を抑制するという観点では、第1原水を海水とし、第2原水を地下水や伏流水とすれば、温度上昇を抑えることができる。
【0026】
以上のように、本発明の適用によって、半透膜ユニットの運転圧力を一定にし、高圧ポンプへの負荷変動を抑えることができると共に、配管その他に対する耐圧性も抑制することが可能となる。
【0027】
さらに、前述のように半透膜ユニットの濃縮排水からエネルギー回収装置を用いて、圧力エネルギーを回収する場合、圧力エネルギー回収装置も設計最適圧力の近傍で運転することが可能となり、省エネルギーにも貢献することができる。
【0028】
なお、ここで適用されるエネルギー回収装置としては、とくに制限はなく、逆転ポンプ、水車式、ターボチャージャー、圧力交換式などいずれも用いることができるが、最適圧力範囲が狭い逆転ポンプやペルトン水車式のエネルギー回収装置を使用すると、本発明が特に効果的である。
【0029】
本発明に適用可能な半透膜ユニットとしては、特に制約はないが、取扱いを容易にするため中空糸膜状や平膜状の半透膜を筐体に納めて流体分離素子(エレメント)としたものを耐圧容器に装填したものを用いることが好ましい。流体分離素子は、平膜状半透膜で形成する場合、例えば、多数の孔を穿設した筒状の中心パイプの周りに、半透膜を流路材(ネット)とともに円筒状に巻回したものが一般的であり、市販製品としては、東レ(株)製逆浸透膜エレメントTM700シリーズやTM800シリーズを挙げることができる。これらの流体分離素子は1本で半透膜ユニットを構成するものでも、また、複数本を直列あるいは並列に接続して半透膜ユニットを構成するものでもよい。
【0030】
半透膜の素材には酢酸セルロース系ポリマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ビニルポリマーなどの高分子素材を使用することができる。またその膜構造は、膜の少なくとも片面に緻密層を持ち、緻密層から膜内部あるいはもう片方の面に向けて徐々に大きな孔径の微細孔を有する非対称膜や、非対称膜の緻密層の上に別の素材で形成された非常に薄い機能層を有する複合膜のどちらでもよい。
【0031】
半透膜ユニットにおいては、供給水が濃縮されるため、濃縮によるスケール析出を防止したりpH調整のためにそれぞれの半透膜ユニットの供給水に対してスケール防止剤や酸・アルカリを添加したりすることが可能である。なお、スケール防止剤添加は、その添加効果を発揮できるように、pH調整よりも上流側で実施することが好ましい。また、薬品添加の直後にはインラインミキサーを設けたり、添加口を供給水の流れに直接接触したりするなどして添加口近傍での急激な濃度やpH変化を防止することも好ましい。
【0032】
スケール防止剤とは、溶液中の金属、金属イオンなどと錯体を形成し、金属あるいは金属塩を可溶化させるもので、有機や無機のイオン性ポリマーあるいはモノマーが使用できる。有機系のポリマーとしてはポリアクリル酸、スルホン化ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリアリルアミンなどの合成ポリマーやカルボキシメチルセルロース、キトサン、アルギン酸などの天然高分子が、モノマーとしてはエチレンジアミン四酢酸などが使用できる。また、無機系のスケール防止剤としてはポリリン酸塩などが使用できる。これらのスケール防止剤の中では入手のしやすさ、溶解性など操作のしやすさ、価格の点から特にポリリン酸塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)が好適に用いられる。ポリリン酸塩とはヘキサメタリン酸ナトリウムを代表とする分子内に2個以上のリン原子を有し、アルカリ金属、アルカリ土類金属とリン酸原子などにより結合した重合無機リン酸系物質をいう。代表的なポリリン酸塩としては、ピロリン酸4ナトリウム、ピロリン酸2ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、ヘプタポリリン酸ナトリウム、デカポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、およびこれらのカリウム塩などがあげられる。
【0033】
一方、酸やアルカリとしては、硫酸や水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムが一般的に用いられるが、塩酸、シュウ酸、水酸化カリウム、重炭酸ナトリウム、水酸化アンモニウムなどを使用することもできる。但し、海水へのスケール成分の増加を防止するためには、カルシウムやマグネシウムは使用しない方がよい。
【0034】
本発明において、半透膜ユニット8供給前の原水の前処理ユニット4としては、それぞれの供給水の水質などに応じて、濁質成分の除去や殺菌などが行われる処理ユニットを適用することができる。
【0035】
例えば、供給水の濁質を除去する必要がある場合の前処理ユニット4としては、砂ろ過や精密ろ過膜、限外ろ過膜の適用が効果的である。このときバクテリアや藻類などの微生物が多い場合は、殺菌剤を添加することが好ましい。殺菌剤としては塩素を用いることが好ましく、たとえば塩素ガスや次亜塩素酸ナトリウムを遊離塩素として1〜5mg/lの範囲内となるように供給水に添加するとよい。なお、半透膜の種類によっては特定の殺菌剤に化学的な耐久性がない場合があるので、その場合は、なるべく供給水の上流側で添加し、さらに、半透膜ユニットの供給水入口側近傍にて殺菌剤を無害化することが好ましい。例えば、遊離塩素の場合は、その濃度を測定し、この測定値に基づいて塩素ガスや次亜塩素酸ナトリウムの添加量を制御したり、亜硫酸水素ナトリウムなどの還元剤を添加したりするとよい。
【0036】
また、供給原水が、濁質以外にバクテリアやタンパク質、天然有機成分などを含有する場合は、ポリ塩化アルミニウム、硫酸バンド、塩化鉄(III)などの凝集剤を加えることも効果的である。凝集させた供給水は、その後に斜向板などで沈降させた上で砂ろ過を行ったり、複数本の中空糸膜を束ねた精密ろ過膜や限外ろ過膜によるろ過を行ったりすることによって後段の半透膜ユニットを通過させるのに適した供給水とすることができる。とくに、凝集剤の添加にあたっては、凝集しやすいようにpHを調整することが好ましい。
【0037】
ここで、前処理に砂ろ過を用いる場合は、自然に流下する方式の重力式ろ過を適用することもできれば、加圧タンクの中に砂を充填した加圧式ろ過を適用することも可能である。充填する砂も、単一成分の砂を適用することが可能であるが、例えば、アンスラサイト、珪砂、ガーネット、軽石など、を組み合わせて、ろ過効率を高めることが可能である。精密ろ過膜や限外ろ過膜についても、特に制約はなく、平膜、中空糸膜、管状型膜、プリーツ型、その他いかなる形状のものも適宜用いることができる。膜の素材についても、特に限定されず、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフォン、ポリフェニレンスルフィドスルフォン、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、酢酸セルロースや、セラミック等の無機素材を用いることができる。また、ろ過方式にしても供給水を加圧してろ過する加圧ろ過方式や透過側を吸引してろ過する吸引ろ過方式のいずれも適用可能である。とくに、吸引ろ過方式の場合は、凝集沈殿槽や生物処理槽に精密ろ過膜や限外ろ過膜を浸漬してろ過する、いわゆる凝集膜ろ過や膜利用活性汚泥法(MBR)を適用することも好ましい。
【0038】
一方、供給水に溶解性の有機物が多く含まれている場合は、塩素ガスや次亜塩素酸ナトリウムの添加によってそれら有機物を分解することができるが、加圧浮上や活性炭ろ過を行うことによっても除去が可能である。また、溶解性の無機物が多く含まれている場合は、有機系高分子電解質やヘキサメタ燐酸ソーダなどのキレート剤を添加したり、イオン交換樹脂などを用いて溶解性イオンと交換したりするとよい。また、鉄やマンガンが可溶な状態で存在しているときは、曝気酸化ろ過法や接触酸化ろ過法などを用いることが好ましい。
【0039】
あらかじめ特定イオンや高分子などを除去し、本発明における淡水製造装置を高効率で運転することを目的として、前処理にナノろ過膜を用いることも可能である。
また、図1では、第1原水と第2原水の混合後に前処理ユニット4によって処理しているが、図2のように混合前の第1原水と第2原水を独立してそれぞれに適した前処理を施すことも好ましい態様である。
【実施例】
【0040】
<参考例>
図4にフローを示す淡水製造装置を用い、東レ(株)愛媛工場の近傍の海水(全溶質濃度3.4重量%、水温25℃、pH=8.0)を、第1原水タンク2aに貯留し、前処理ユニット4aとして、東レ製中空糸膜モジュールHFU−2020(有効膜面積72m)×1本を用い、流量3m/hでろ過し、中間タンク6に貯留した。このとき、第2原水タンク2bの供給バルブ5bは全閉し、第1原水のみが供給されるようにした。この中間タンク6から、2m/hを、東レ製逆浸透膜エレメントTM810×6本を直列に構成した半透膜ユニット8に供給し、回収率40%で淡水製造したところ、淡水造水量は、0.8m/h、運転圧力は60.3bar、透過水TDS濃度は115mg/lであった。
【0041】
<比較例>
海水水温が15℃である以外は参考例と同じ条件で図4に示す淡水製造装置を運転したところ、運転圧力は、71.9bar、透過水TDS濃度は73mg/lであり、運転圧力が参考例よりも上昇した。
【0042】
<実施例>
海水水温15℃において、半透膜ユニット8で得られた淡水を原水タンク2bに貯留し、本発明における第2原水を模擬した。参考例と同様に前処理した第1原水(前処理海水)1.6m/hと第二の原水0.4m/hを混合(このときの混合原水の濃度は、2.7重量%)し、半透膜ユニット8に供給し、参考例と同様に運転したところ、運転圧力は、61.3bar、透過水TDS濃度は53mg/lとなり、低温においても参考例と同じ圧力で運転することができた。
【0043】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本出願は、2010年3月15日出願の日本特許出願2010−057113に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の目的は、海水、河川水、地下水、排水処理水などの原水を利用する半透膜を用いた淡水の製造方法及び淡水製造装置に関するものであり、必要に応じて濃度の異なる水を混合することで運転制御範囲を小さく抑えることによって設備コスト、特に半透膜の高圧ポンプと濃縮水のエネルギー回収ユニットへの要求仕様を低減しながら、安定した生産水量と生産水質を維持可能な、低コストの淡水製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0045】
1a、1b及び1c:原水
2、2a、2b及び2c:原水タンク
3、3a、3b及び3c:原水供給ポンプ
4、4a、4b及び4c:前処理ユニット
5a及び5b:バルブ
6:中間タンク
7:高圧ポンプ
8:半透膜ユニット
9:エネルギー回収ユニット
10:淡水タンク
11:濃縮排水
図1
図2
図3
図4