【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各物性の測定条件は次の通りである。
【0061】
A.イオン酸基密度
下記手順を5回行い、最大値と最小値を除いた3点の平均値をイオン酸基密度(mmol/g)とする。濃度の単位は重量%、重量の単位はgである。
(1)作製した電解質膜を5cm×5cmに切り取り真空乾燥機にて80℃12時間以上減圧乾燥後、重量(Wm)を正確(小数点下4桁)に測定した。
(2)蓋付きのサンプル瓶に約0.2wt%のKCl水溶液約30ml準備し、KCl水溶液の重量(Wk)とKイオン濃度(C
1)を測定した。Kイオン濃度は大塚電子製キャピラリー電気泳動装置”CAPI-3300”で測定した。測定条件は下記の通りである。
【0062】
測定方式:落差法(25mm)
泳動液:大塚電子製 陽イオン分析用泳動液5(α-CFI105)
測定電圧:20kV
(3)重量とKイオン濃度既知のKCl水溶液に上記電解質膜を2時間浸漬した。
(4)該KCl水溶液のKイオン濃度(C
2)を再度キャピラリー電気泳動装置で測定した。測定した値から、下記式に従いスルホン酸基密度を算出した。
スルホン酸基密度(mmol/g)=〔{Wk×(C
1−C
2)×1000}/39〕/Wm
B.繊維径の測定方法
光学顕微鏡または走査形電子顕微鏡(SEM)で芳香族炭化水素系ポリマー不織布を観察し、画面上の任意繊維の直径を20箇所計測した平均値で示した。また繊維径が計測困難な場合や複合化高分子電解質膜は下記方法で観察した。
【0063】
60℃で24時間減圧乾燥した複合化高分子電解質膜をカッターで切り出し、電顕用エポキシ樹脂(日新EM社製Quetol812)で包埋し、60℃のオーブン中で48時間かけて該エポキシ樹脂を硬化させた後、ウルトラミクロトーム(ライカ社製Ultracut S)で厚さ約100nmの超薄切片を作製した。
【0064】
作製した超薄切片を応研商事社製100メッシュのCuグリッドに搭載して、日立製透過型電子顕微鏡H-7100FAを使用し加速電圧100kVでTEM観察を行い、繊維径を測定した。
【0065】
C.膜厚
ミツトヨ製グラナイトコンパレータスタンドBSG−20にセットしたミツトヨ製ID−C112型を用いて測定した。
【0066】
D.LOI値
JIS−K7201(限界酸素指数)に基づき測定した。
【0067】
E.複合化高分子電解質寸法変化率
電解質膜を6cm×1cmの短冊状に切り出し、長尺側の両端から約5mmのところに標線を記入した(標線間距離5cm)。前記サンプルを温度23℃、湿度45%の恒温槽に2h放置後、素早く2枚のスライドガラスに挟み込み標線間距離(L
1)をノギスで測定した。さらに、同サンプルを80℃の熱水に2h浸漬後、素早く2枚のスライドガラスに挟み込み標線間距離(L
2)をノギスで測定し下記式に従い寸法変化率を算出した。
【0068】
寸法変化率(%)=(L
2−L
1)/L
1×100
F.複合化高分子電解質膜の湿潤時の引っ張り強度
JIS K7127に基づいてサンプル片はダンベル2号形の1/2サイズ(試料幅:3.0mm、試料長:16.5mm、つかみ具間40mm)を用い、装置としては恒温恒湿槽付き島津製作所製オートグラフAG-IS 100Nを使用し、200mm/minの速度で試験を行った。測定雰囲気としては80℃相対湿度94%で測定を行った。
【0069】
G.複合化高分子電解質膜を使用した膜電極複合体(MEA)の発電評価
(1)水素透過電流の測定
市販の電極、BASF社製燃料電池用ガス拡散電極“ELAT(登録商標)LT120ENSI”5g/m
2Ptを5cm角にカットしたものを1対準備し、燃料極、酸化極として複合化高分子電解質膜を挟むように対向して重ね合わせ、150℃、5MPaで3分間加熱プレスを行い、評価用MEAを得た。
【0070】
このMEAを英和(株)製 JARI標準セル“Ex−1”(電極面積25cm
2)にセットし、セル温度:80℃、一方の電極に燃料ガスとして水素、もう一方の電極に窒素ガスを供給し、加湿条件:水素ガス90%RH、窒素ガス:90%RHで試験を行った。OCVで0.2V以下になるまで保持し、0.2〜0.7Vまで1mV/secで電圧を掃引し電流値の変化を調べた。本実施例においては下記の起動停止試験の前後で測定し0.6V時の値を調べた。膜が破損した場合、水素透過量が多くなり透過電流が大きくなる。また、この評価はSolartron製電気化学測定システム(Solartron 1480 Electrochemical InterfaceおよびSolartron 1255B Frequency ResponseAnalyzer)を使用して実施した。
【0071】
(2)耐久性試験
上記セルを使用し、セル温度:80℃、燃料ガス:水素、酸化ガス:空気、ガス利用率:水素70%/酸素40%、加湿条件:水素ガス60%RH、空気:50%RHの条件で試験を行った。条件としては、OCVで1分間保持し、1A/cm
2の電流密度で2分間発電し、最後に水素ガスおよび空気の供給を停止して2分間発電を停止し、これを1サイクルとして繰り返す耐久性試験を実施した。耐久性試験前と3000サイクル後に上記水素透過電流の測定を実施しその差を調べた。また、この試験の負荷変動は菊水電子工業社製の電子負荷装置“PLZ664WA”を使用して行った。
【0072】
(3)低加湿下での発電評価
上記燃料電池セルをセル温度80℃、燃料ガス:水素、酸化ガス:空気、ガス利用率:水素70%/酸素40%、加湿条件;アノード側30%RH/カソード30%RH、背圧0.1MPa(両極)において電流−電圧(I−V)測定した。電流−電圧曲線の電流と電圧の積が最高になる点を電極面積で割った値を出力密度とした。
【0073】
〔合成例1;可溶性付与基を有するモノマー〕
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン(G1)の合成
モンモリロナイトクレイK10(150g)、ジヒドロキシベンゾフェノン99gをエチレングリコール242mL/オルトギ酸トリメチル99mL中、生成する副生成物を蒸留させながら110℃で反応させた。18h後、オルトギ酸トリメチルを66g追加し、合成48h反応させた。反応溶液に酢酸エチル300mLを追加し、濾過後、2%炭酸水素ナトリウム水溶液で4回抽出を行った。さらに、濃縮後、ジクロロエタンで再結晶する事により目的の2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソランを得た。
【0074】
〔合成例2;イオン性基を有するモノマー〕
ジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン(G2)の合成
4,4’−ジフルオロベンゾフェノン109.1g(アルドリッチ試薬)を発煙硫酸(50%SO3)150mL(和光純薬試薬)中、100℃で10h反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、ジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを得た。
【0075】
〔参考例1;高分子電解質溶液Aの製造例〕
撹拌機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた5Lの反応容器に、合成例1で合成した可溶性付与基を有するモノマー2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン129g、4,4’−ビフェノール93g(アルドリッチ試薬)、および合成例2で合成したイオン性基を含有するモノマーであるジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン422g(1.0mol)を入れ、窒素置換後、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)3000g、トルエン450g、重合安定剤として18−クラウン−6 232g(和光純薬試薬)を加え、モノマーが全て溶解したことを確認後、炭酸カリウム304g(アルドリッチ試薬)を加え、環流しながら160℃で脱水後、昇温してトルエン除去し、200℃で1時間脱塩重縮合を行った。得られたポリマーのイオン性基密度は3.52mmol/gで、重量平均分子量は32万であった。
【0076】
次に重合原液の粘度が0.5Pa・sになるようにNMPを添加して希釈し、久保田製作所製インバーター・コンパクト高速冷却遠心機(型番6930にアングルローターRA−800をセット、25℃、30分間、遠心力20000G)で重合原液の直接遠心分離を行った。沈降固形物(ケーキ)と上澄み液(塗液)がきれいに分離できたので上澄み液を回収した。次に、撹拌しながら80℃で減圧蒸留し、ポリマー濃度が20重量%になるまでNMPを除去し、さらに5μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製フィルターで加圧濾過して高分子電解質溶液Aを得た。
【0077】
〔参考例2;耐炎化ポリアクリロニトリルの不織布の製造例〕
アルドリッチ社製のポリアクリロニトリル試薬(平均分子量150000)100gをジメチルホルムアミド450gとアセトン50gの混合溶媒に溶解し紡糸原液とした。次ぎに、カトーテック社製エレクトロスピニングユニットを使用し、電圧35kV、シリンジポンプ吐出速度0.05cc/min、トラバース速度50mm/min、ドラム式ターゲット(直径100mm)の周速度0.8m/min、シリンジとターゲット間の距離100mmの条件で電解紡糸を実施した。
【0078】
得られたポリアクリロニトリル繊維の直径の平均は400nmであり、ターゲット上に繊維を捕集し厚み20μmのポリアクリロニトリル不織布を得た。
【0079】
このポリアクリロニトリル不織布を空気雰囲気下の熱風オーブン中で230℃、1時間の熱処理を行い、厚み15μmの耐炎化ポリアクリロニトリル不織布を得た。この耐炎化ポリアクリロニトリル不織布のLOI値は50であった。
【0080】
〔参考例3;耐炎化ポリアクリロニトリルの多孔質フィルムの製造例〕
アルドリッチ社製のポリアクリロニトリル試薬(平均分子量150000)50gをジメチルスルホキシド380gと水70gの混合溶媒に90℃加熱しながら溶解し、冷えないように90℃に加熱した硝子板上に流延塗布した。
【0081】
次ぎに硝子板ごと20℃まで冷却後、析出したフィルム状物を水で洗浄し、100℃で乾燥して厚み20μmのポリアクリロニトリルの多孔質フィルムを得た。
【0082】
このポリアクリロニトリル多孔質フィルムを空気雰囲気下の熱風オーブン中で250℃、1時間の熱処理を行い、厚み15μmの耐炎化ポリアクリロニトリル多孔質フィルムを得た。この耐炎化ポリアクリロニトリル多孔質フィルムのLOI値は55であった。
【0083】
実施例1
参考例1の高分子電解質溶液Aを基材である125μmのPETフィルム(東レ製“ルミラー(登録商標)”)上に流延塗布し、その上に、参考例2で得た耐炎化ポリアクリロニトリルの不織布を貼り合わせて、耐炎化ポリアクリロニトリルの空隙に高分子電解質溶液Aを含浸させた。耐炎化ポリアクリロニトリルの不織布は高分子電解質溶液Aに溶解することなく原型を保ったままであった。次ぎに熱風乾燥機に投入し100℃で10分間、150℃で20分間、溶媒を乾燥除去した。次ぎに、PET基材にはりついたままの状態で40℃の10重量%の硫酸水溶液に30分間浸漬し高分子電解質のプロトン交換と可溶性付与基を除去し、洗浄水が中性を示すまで水洗を繰り返し、60℃で再乾燥後、PET基材から剥離し、複合化高分子電解質膜Aを得た。
【0084】
この複合化高分子電解質膜Aのイオン性基密度は2.7mmol/gであった。この複合化高分子電解質膜Aを使用し寸法変化率を測定したところ1.5%であり、湿潤時の引っ張り破断強度は50MPaであった。また、複合化高分子電解質膜Aを使用した燃料電池の低加湿下での出力は600mW/cm
2であり、発電耐久性評価試験前後の水素透過電流を測定したところ、評価前が0.70mA/cm
2で評価後は0.91mA/cm
2であり耐久性が良好であった。
【0085】
実施例2
参考例1の高分子電解質溶液Aを基材である125μmのPETフィルム(東レ製“ルミラー(登録商標)”)上に流延塗布し、その上に、参考例3で得た耐炎化ポリアクリロニトリルの多孔質フィルムを貼り合わせて、耐炎化ポリアクリロニトリルの多孔質フィルムの空隙に高分子電解質溶液Aを含浸させた。耐炎化ポリアクリロニトリルの多孔質フィルムは同じ溶媒を含む高分子電解質溶液Aに溶解することなく原型を保ったままであった。次ぎに熱風乾燥機に投入し100℃で10分間、150℃で20分間、溶媒を乾燥除去した。次ぎに、PET基材にはりついたままの状態で60℃の10重量%の硫酸水溶液に30分間浸漬し高分子電解質のプロトン交換と可溶性付与基を除去し、洗浄水が中性を示すまで水洗を繰り返し、60℃で熱風乾燥後PET基材から剥離し、複合化高分子電解質膜Bを得た。
【0086】
この複合化高分子電解質膜Bのイオン性基密度は2.5mmol/gであった。この複合化高分子電解質膜Bを使用し寸法変化率を測定したところ1.0%であり、湿潤時の引っ張り破断強度は60MPaであった。また、複合化高分子電解質膜Bを使用した燃料電池の低加湿下での出力は590mW/cm
2であり、発電耐久性評価試験前後の水素透過電流を測定したところ、評価前が0.45mA/cm
2で評価後は0.60mA/cm
2であり耐久性が良好であった。
【0087】
実施例3
デュポン(DuPont)社製20%“ナフィオン(登録商標)”n−プロパノール溶液を基材である125μmのPETフィルム(東レ製“ルミラー(登録商標)”)上に流延塗布し、その上に、参考例2で得た耐炎化ポリアクリロニトリルの不織布を貼り合わせて、耐炎化ポリアクリロニトリルの空隙にNafion溶液を含浸させた。
【0088】
次ぎに熱風乾燥機に投入し100℃で10分間予備乾燥した後、さらにNafion溶液を流延塗布し、100℃で10分間、130℃で20分間乾燥し、複合化高分子電解質膜Cを得た。
【0089】
この複合化高分子電解質膜Cのイオン性基密度は0.9mmol/gであった。この複合化高分子電解質膜Bを使用し寸法変化率を測定したところ1.0%であり、湿潤時の引っ張り破断強度は20MPaであった。また、複合化高分子電解質膜Cを使用した燃料電池の低加湿下での出力は550mW/cm
2であり、発電耐久性評価試験前後の水素透過電流を測定したところ、評価前が1.4mA/cm
2で評価後は1.8mA/cm
2であった。
【0090】
比較例1
実施例1において参考例2で得た耐炎化ポリアクリロニトリルの不織布を貼り合わさなかった以外は実施例1同様に行い、耐炎化ポリアクリロニトリルが複合化されていない高分子電解質を得た。この高分子電解質膜のイオン性基密度は3.6mmol/gであった。この高分子電解質膜を使用し寸法変化率を測定したところ53.0%であり、湿潤時の引っ張り破断強度は測定できなかった。また、高分子電解質膜を使用した燃料電池の低加湿下での出力は780mW/cm
2であり、発電耐久性評価試験前後の水素透過電流を測定したところ、評価前が0.8mA/cm
2で評価後は73.3mA/cm
2であり、耐久性が不十分であった。
【0091】
比較例2
実施例2においてポリアクリロニトリルの多孔質フィルムを使用した以外は実施例2と同様に行い、ポリアクリロニトリルの多孔質フィルムが複合化された複合化高分子電解質膜Dを得た。
【0092】
しかし、ポリアクリロニトリルの多孔質フィルムの一部が高分子電解質溶液Aに溶解し白濁が発生した。Tこの複合化高分子電解質膜Dのイオン性基密度は2.8mmol/gであり、寸法変化率を測定したところ1.0%であり、湿潤時の引っ張り破断強度は48MPaであった。しかしながら、複合化高分子電解質膜Dを使用した燃料電池の低加湿下での出力は120mW/cm
2であり、複合化高分子電解質膜Dの膜中にポリアクリロニトリルの多孔質が溶解したプロトン伝導性が低い層ができていた。
【0093】
比較例3
実施例1において耐炎化ポリアクリロニトリルの不織布の代わりに平均繊維径300nmポリビニルアルコール不織布を使用し、実施例1と同様に複合化高分子電解質膜Eを得た。この複合化高分子電解質膜Eのイオン性基密度は2.7mmol/gであった。この複合化高分子電解質膜Dを使用し寸法変化率を測定したところ1.0%であり、湿潤時の引っ張り破断強度は45MPaであった。また、複合化高分子電解質膜Eを使用した燃料電池の低加湿下での出力は350mW/cm
2であり、発電耐久性評価試験前後の水素透過電流を測定したところ、評価前が0.55mA/cm
2で評価後は60.5mA/cm
2であり耐久性が不良であった。ポリビニルアルコールが褐色に変色しており酸化劣化が大きかった。
【0094】
実施例4
アルドリッチ社製のポリアクリロニトリル試薬(平均分子量150000)100gをジメチルホルムアミド450gとアセトン50gの混合溶媒に溶解しポリフェニレンスルフィド(東レ製“トレリナ(登録商標)”)の微粒子(平均粒子径1μm)を10g配合し紡糸原液とした。次ぎに、カトーテック社製エレクトロスピニングユニットを使用し、電圧35kV、シリンジポンプ吐出速度0.05cc/min、トラバース速度50mm/min、ドラム式ターゲット(直径100mm)の周速度0.8m/min、シリンジとターゲット間の距離100mmの条件で電解紡糸を実施した。
【0095】
得られたポリアクリロニトリル繊維の直径の平均は420nmであり、ターゲット上に繊維を捕集し厚み20μmのポリフェニレンスルフィド配合ポリアクリロニトリル不織布を得た。
【0096】
このポリアクリロニトリル不織布を空気雰囲気下の熱風オーブン中で260℃、1時間の熱処理を行い、厚み15μmのポリフェニレンスルフィド配合耐炎化ポリアクリロニトリル不織布を得た。このポリフェニレンスルフィド配合耐炎化ポリアクリロニトリル不織布はポリフェニレンスルフィドが溶融し繊維同士が溶融した粒子部分でつながっていた。
【0097】
次に参考例1の高分子電解質溶液Aを基材である125μmのPETフィルム(東レ製“ルミラー(登録商標)”)上に流延塗布し、その上に、上記ポリフェニレンスルフィド配合耐炎化ポリアクリロニトリルの不織布を貼り合わせて、ポリフェニレンスルフィド配合耐炎化ポリアクリロニトリルの空隙に高分子電解質溶液Aを含浸させた。ポリフェニレンスルフィド配合耐炎化ポリアクリロニトリルの不織布は高分子電解質溶液Aに溶解することなく原型を保ったままであった。次ぎに熱風乾燥機に投入し100℃で10分間、150℃で20分間、溶媒を乾燥除去した。次ぎに、PET基材にはりついたままの状態で40℃の10重量%の硫酸水溶液に30分間浸漬し高分子電解質のプロトン交換と可溶性付与基を除去し、洗浄水が中性を示すまで水洗を繰り返し、60℃で再乾燥後、PET基材から剥離し、複合化高分子電解質膜Fを得た。
【0098】
この複合化高分子電解質膜Fのイオン性基密度は2.7mmol/gであった。この複合化高分子電解質膜Fを使用し寸法変化率を測定したところ0.8%であり、湿潤時の引っ張り破断強度は60MPaであった。また、複合化高分子電解質膜Fを使用した燃料電池の低加湿下での出力は600mW/cm
2であり、発電耐久性評価試験前後の水素透過電流を測定したところ、評価前が0.50mA/cm
2で評価後は0.65mA/cm
2であり耐久性が良好であった。
【0099】
実施例5
参考例4の紡糸原液組成をアルドリッチ社製のポリアクリロニトリル試薬(平均分子量150000)100gをジメチルホルムアミド700gとアセトン100gの混合溶媒に溶解しポリフェニレンスルフィド(東レ製“トレリナ(登録商標)”)の微粒子(平均粒子径1μm)の配合量を200gに変更した以外は実施例4と同様に行い、複合化高分子電解質膜Gを得た。
【0100】
この複合化高分子電解質膜Gのイオン性基密度は2.5mmol/gであった。この複合化高分子電解質膜Gを使用し寸法変化率を測定したところ0.5%であり、湿潤時の引っ張り破断強度は650MPaであった。また、複合化高分子電解質膜Gを使用した燃料電池の低加湿下での出力は570mW/cm
2であり、発電耐久性評価試験前後の水素透過電流を測定したところ、評価前が0.45mA/cm
2で評価後は0.55mA/cm
2であり耐久性が良好であった。
【0101】
実施例6
参考例2の得られたポリアクリロニトリル不織布を加熱ニップロール(80℃、0.5MPa)で加熱プレスした後、参照例2と同様に耐炎化ポリアクリロニトリルの不織布を得た。この加熱プレス耐炎化ポリアクリロニトリル不織布は繊維同士が融着しており厚みが8μmであった。次に参考例1の高分子電解質溶液Aを基材である125μmのPETフィルム(東レ製“ルミラー(登録商標)”)上に流延塗布し、その上に、上記加熱プレス耐炎化ポリアクリロニトリル不織布を貼り合わせて、該不織布の空隙に高分子電解質溶液Aを含浸させた。次ぎに熱風乾燥機に投入し100℃で10分間、150℃で20分間、溶媒を乾燥除去した。次ぎに、PET基材にはりついたままの状態で40℃の10重量%の硫酸水溶液に30分間浸漬し高分子電解質のプロトン交換と可溶性付与基を除去し、洗浄水が中性を示すまで水洗を繰り返し、60℃で再乾燥後、PET基材から剥離し、複合化高分子電解質膜Hを得た。この複合化高分子電解質膜の厚みは10μmであり薄膜であった。
【0102】
この複合化高分子電解質膜Hのイオン性基密度は2.7mmol/gであった。この複合化高分子電解質膜Fを使用し寸法変化率を測定したところ1.0%であり、湿潤時の引っ張り破断強度は70MPaであった。また、複合化高分子電解質膜Hを使用した燃料電池の低加湿下での出力は700mW/cm
2であり、発電耐久性評価試験前後の水素透過電流を測定したところ、評価前が0.80mA/cm
2で評価後は0.96mA/cm
2であり耐久性が良好であった。