(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記潤滑剤供給手段は、一定量の前記潤滑剤を前記噴霧ノズルに供給する定量供給装置を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の熱間鍛造方法。
前記噴霧ノズル移動手段は、エアシリンダと、アームとを有し、管路を介して前記不活性ガス供給手段と連結されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の熱間鍛造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の熱間鍛造では、金型の温度が機械油の引火点(150℃〜250℃)を超えているため、潤滑剤が金型に塗布された際に、発火現象を起こすという問題があった。また、潤滑剤が燃えてしまうと、潤滑性が無くなるため、鍛造品の離型が困難になるという問題があった。また、潤滑剤が燃えてしまうと、金型に塗布された黒鉛成分が均等に伸びず、成形性の低下や金型への黒鉛成分の堆積等が発生するため、製品の欠陥を招来し、ひいては金型の寿命が短くなるという問題があった。さらに、発火現象が起こると、鍛造装置周辺に飛び火する可能性があった。
【0006】
このような観点から、本発明は
、潤滑剤の発火を防止することができる熱間鍛造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決する本発明は、金属素材を熱間鍛造する金型と、前記金型に潤滑剤を塗布するための潤滑剤噴霧装置と、を含む熱間鍛造装置
を用いて金属素材を熱間鍛造する熱間鍛造方法であって、前記金型は、下型及び上型を備えており、前記下型は、キャビティを形成するための凹部を備えた母型を有し、
前記凹部は、素形材のフランジ部を成形する第一凹部と、前記第一凹部よりもさらに深く凹設され前記フランジ部に立設する渦巻壁部を成形する第二凹部とを有し、前記第一凹部の底面の外周に亘って前記金属素材の表面変質層を集約するための凹溝が形成されており、前記
第一凹部の底面は、表面粗さRz20μm〜40μmに粗面化されているとともに、前記
第一凹部の側壁と前記上型の外周に形成された窪みとで構成されたバリ形成用溝を有し、前記潤滑剤噴霧装置は、前記潤滑剤を供給する潤滑剤供給手段と、不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段と、前記金型に向けて前記不活性ガス及び前記潤滑剤の混合物を噴霧する噴霧ノズルと、前記金型に対して前記噴霧ノズルを前進又は後進させる噴霧ノズル移動手段と、
管路を介して前記不活性ガス供給手段に連結されており、前記下型と前記上型の間の空間及び前記金型の少なくとも一方に向けて不活性ガスを噴射する不活性ガス噴射手段と、
を有し、前記噴霧ノズルは、前記下型に向けて噴霧するための下型用噴霧ノズル及び前記上型に向けて噴霧するための上型用噴霧ノズルを備えており、前記上型用噴霧ノズル及び前記下型用噴霧ノズルの各混合部で混合された前記混合物を、前記上型及び前記下型にそれぞれ噴霧する噴霧工程と、前記下型に金属素材を配置する金属素材配置工程と、前記下型に対して前記上型を押圧する鍛造工程と、前記鍛造工程によって成形された素形材において、前記凹溝によって成形された凸部及び前記バリ形成用溝によって成形されたバリを切削する切削工程と、を含み、前記噴霧工程では、前記下型と前記上型とが離間した際に、前記噴霧ノズル移動手段が前記噴霧ノズルを前記下型と前記上型の間に移動させ、前記下型用噴霧ノズル及び前記上型用噴霧ノズル
からそれぞれ前記下型及び前記上型に対して潤滑剤と不活性ガスの混合物を噴射し、
前記噴霧工程が終わった後から前記鍛造工程を経て前記上型が上昇し終えるまで前記不活性ガス噴射手段によって不活性ガスを噴射して、前記下型の周りを継続的に不活性雰囲気にすることを特徴とする。
また、本願発明は、金属素材を熱間鍛造する金型と、前記金型に潤滑剤を塗布するための潤滑剤噴霧装置と、を含む熱間鍛造装置
を用いて金属素材を熱間鍛造する熱間鍛造方法であって、前記金型は、下型及び上型を備えており、前記下型は、キャビティを形成するための凹部を備えた母型を有し、
前記凹部は、素形材のフランジ部を成形する第一凹部と、前記第一凹部よりもさらに深く凹設され前記フランジに立設するスカートを成形する第二凹部とを有し、前記第一凹部の底面の外周に亘って前記金属素材の表面変質層を集約するための凹溝が形成されており、前記
第一凹部の底面は、表面粗さRz20μm〜40μmに粗面化されているとともに、前記
第一凹部の側壁と前記上型の外周に形成された窪みとで構成されたバリ形成用溝を有し、前記潤滑剤噴霧装置は、前記潤滑剤を供給する潤滑剤供給手段と、不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段と、前記金型に向けて前記不活性ガス及び前記潤滑剤の混合物を噴霧する噴霧ノズルと、前記金型に対して前記噴霧ノズルを前進又は後進させる噴霧ノズル移動手段と、
管路を介して前記不活性ガス供給手段に連結されており、前記下型と前記上型の間の空間及び前記金型の少なくとも一方に向けて不活性ガスを噴射する不活性ガス噴射手段と、
を有し、前記噴霧ノズルは、前記下型に向けて噴霧するための下型用噴霧ノズル及び前記上型に向けて噴霧するための上型用噴霧ノズルを備えており、前記上型用噴霧ノズル及び前記下型用噴霧ノズルの各混合部で混合された前記混合物を、前記上型及び前記下型にそれぞれ噴霧する噴霧工程と、前記下型に金属素材を配置する金属素材配置工程と、前記下型に対して前記上型を押圧する鍛造工程と、前記鍛造工程によって成形された素形材において、前記凹溝によって成形された凸部及び前記バリ形成用溝によって成形されたバリを切削する切削工程と、を含み、前記噴霧工程では、前記下型と前記上型とが離間した際に、前記噴霧ノズル移動手段が前記噴霧ノズルを前記下型と前記上型の間に移動させ、前記下型用噴霧ノズル及び前記上型用噴霧ノズル
からそれぞれ前記下型及び前記上型に対して潤滑剤と不活性ガスの混合物を噴射し、
前記噴霧工程が終わった後から前記鍛造工程を経て前記上型が上昇し終えるまで前記不活性ガス噴射手段によって不活性ガスを噴射して、前記下型の周りを継続的に不活性雰囲気にすることを特徴とする。
【0008】
かかる方法によれば、潤滑剤と不活性ガスの混合物を金型に塗布するため、金型に潤滑剤を塗布するとともに金型周りを不活性ガス雰囲気にすることができる。これにより、潤滑剤の発火を防止することができる。また、噴霧行程が終わった後も、金型周りを不活性ガス雰囲気にすることができるため、潤滑剤に起因する発火を防ぐことができる。また、機械油が発火することを防止できるため、燃焼した黒鉛成分の堆積等を抑制できる。これにより、製品の欠陥の発生を抑制するとともに金型の寿命を長くすることができる。また、凹溝に金属素材の表面変質層を逃がすことができるため、素形材の内部に表面変質層が混在し難い。また、凹部の底面を粗面化させてメタルの流動を抑えることで、底面の隅々までメタルを行きわたらせることができる。表面粗さがRz20μm未満であると、メタルの流動速度が速くなるため、隅部にメタルが行きわたらずにパイピング等の欠陥が生じる可能性がある。また、表面粗さがRz40μmより大きいと、メタルの流動速度が遅くなり、鍛造工程に要する時間が長くなる。
【0010】
また、前記母型の外周の側壁にヒーター挿入用穴が形成されていることが好ましい。かかる製造方法によれば、母型にヒーターを容易に設置することができる。
【0011】
また、前記下型は、前記母型に焼き嵌めされるリングを有していることが好ましい。かかる製造方法によれば、鍛造工程の際に下型の内側から外側へ作用する力に対抗することができるため、凹部のひび割れを防ぐことができる。
【0012】
また、前記凹部の底面に、空気を排気するエアベントを設けたことが好ましい。かかる製造方法によれば、キャビティ内の空気が効率よく外部に排気され、キャビティの隅々までメタルを行きわたらせることができる。
【0013】
また、前記潤滑剤供給手段は、一定量の前記潤滑剤を前記噴霧ノズルに供給する定量供給装置を備えていることが好ましい。かかる製造方法によれば、一定量の潤滑剤が金型に塗布されるため、安定した鍛造作業を行うことができる。
【0014】
また、前記噴霧ノズル移動手段は、エアシリンダと、アームとを有し、管路を介して前記不活性ガス供給手段と連結されていることが好ましい。
【0016】
また、前記不活性ガスは、窒素ガスであることが好ましい。かかる構成によれば、比較的安価にかつ容易に材料を調達することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係
る熱間鍛造方法によれば、潤滑剤の発火を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。本実施形態に係る鍛造装置1は、金型2と、金型2に向けて潤滑剤Jを噴霧する潤滑剤噴霧装置3とを有する。本実施形態では、この鍛造装置1を用いてアルミニウム合金製スクロールの素形材を成形する場合を例に説明する。スクロールは、例えば車両用エアーコンディショナーのコンプレッサーに用いられる部品である。まずは、金型2について説明する。
【0022】
金型(熱間鍛造用金型)2は、
図1に示すように、下型4と上型5とを備えている。上型5は、下型4に対して昇降可能に形成されるとともに所定の押圧力で下型4を押圧することができるように形成されている。
【0023】
下型4は、
図2に示すように、母型6と、母型6に焼き嵌めされるリング7とを有する。母型6は、工具鋼からなり、大径部8と、大径部8と同心で形成された中径部9と、中径部9と同心で形成された小径部10とを備えている。中径部9の側壁9aには、図示しないヒーターを挿入するためのヒーター挿入用穴11が形成されている。ヒーター挿入用穴11の設置数は特に制限されないが、本実施形態では二箇所に形成している。
【0024】
大径部8及び中径部9は、略円柱状を呈する。小径部10は、リング状を呈する。中径部9の上面9bと、小径部10の側壁10aとで段部12が形成されている。段部12は、小径部10の外周の全長に亘って形成されている。中径部9と小径部10の内部には、素形材を成形するための凹部13が形成されている。
【0025】
リング7は、リング状を呈する部材であって、母型6と同じ材料で形成されている。リング7は、リング7を加熱した後に、母型6の段部12に挿入される部材である。熱収縮によってリング7が熱収縮することにより、小径部10の外側から内側に向けて力を作用させることができる。
【0026】
リング7の内径は、常温時においては小径部10の外径よりも若干小さく形成されている。焼き嵌めを行う際の加熱温度や締め代については、特に制限されないが、本実施形態では、リング7を500℃で30分加熱して熱膨張させた後、小径部10に嵌めている。また、本実施形態では、締め代を0.2%に設定している。常温時のリング7の内径を内径D’とし、常温時の小径部10の外径を外径Dとすると、締め代={(D−D’)/D}×100(%)で求められる。
【0027】
図3の(a)及び(b)に示すように、凹部13は、素形材(アルミニウム合金製スクロール)のフランジ部を成形する第一凹部14と、第一凹部14よりもさらに深く凹設され素形材の渦巻壁部を成形する第二凹部15とを有する。第一凹部14は、小径部10の上面から所定の深さで略円柱状を呈するように凹設されている。第一凹部14には、底面14aと側壁14bとが形成されている。
【0028】
第二凹部15は、第一凹部14の底面14aから下方に所定の幅で渦巻き状に凹設されている。第二凹部15の底面15aには、大径部8の下面8aに連通するエアベント16が形成されている。エアベント16の個数は特に制限されないが、本実施形態では10個形成している。
【0029】
図4に示すように、第一凹部14の底面14aの外周の全長に亘って凹溝17が形成されている。凹溝17は、本実施形態では断面半円弧状を呈する。凹溝17は、後記する金属素材の表面変質層を逃がす部位である。また、鍛造工程の際に、金属素材のメタルフローを凹溝17で止めることができるため、いわゆるピン止め効果を奏することができる。凹溝17の形状や深さについては特に制限されるものではない。
【0030】
第一凹部14の底面14a(凹溝17の底面も含む)は、本実施形態では表面粗さRz20μm〜40μm、に粗面化されている。表面粗さとは、荒さ曲線の基準長さ毎の山頂の高い方から5点、谷底かの低い方から5点を選び、その平均高さで求められる。底面14aを粗面化させてメタルの流動を抑えることで、底面14aや凹溝17の隅々までメタルを行きわたらせることができる。表面粗さがRz20μm未満であると、メタルの流動速度が速くなるため、隅部にメタルが行きわたらずにパイピング等の欠陥が生じる可能性がある。また、表面粗さがRz40μmより大きいと、メタルの流動速度が遅くなり、鍛造工程に要する時間が長くなる。なお、第一凹部14の側壁14b、第二凹部15の底面15a及び側壁15bを粗面化させてもよい。表面粗さは、Rz25μm〜35μmに設定するのがより好ましい。
【0031】
上型5は、
図5に示すように、基部21と、基部21から下方に突出したポンチ部22とを有する。上型5は、工具鋼で形成されている。ポンチ部22は、下型4の第一凹部14に嵌る部位である。基部21の側壁28には、ヒーター挿入用穴29,29が形成されている。
【0032】
ポンチ部22の外径は、下型4の第一凹部14の外径と略同等に形成されている。ポンチ部22の下面22aには、素形材の筒状部を成形する凹部23が凹設されている。ポンチ部22の外周には、内側に凹んだ窪み24が形成されている。ポンチ部22の窪み24と下型4の第一凹部14の側壁14bとでバリ形成用溝26が形成される。バリ形成用溝26は、所定の幅で第一凹部14の全周に亘って形成されている。なお、下型4の凹部13と上型5の凹部23とで形成された空間をキャビティ27とも言う。
【0033】
本実施形態では、金型2を前記したように形成したが、形状や材料はこれに限定されるものではない。リング7の高さは、本実施形態では、第一凹部14の深さよりも大きく設定したが、下型4の大きさや焼き嵌めの締め代等を考慮して適宜設定すればよい。また、凹溝17は、本実施形態では、第一凹部14の全周に亘って形成したが、断続的に設けてもよい。
【0034】
次に、潤滑剤噴霧装置3について説明する。潤滑剤噴霧装置3は、
図1に示すように、不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段31と、潤滑剤Jを供給する潤滑剤供給手段32と、潤滑剤Jを噴霧する噴霧ノズル33と、噴霧ノズル33を移動させる噴霧ノズル移動手段34と、不活性ガス噴射手段35とを主に備えている。
【0035】
不活性ガス供給手段31は、エアコンプレッサー及び窒素ガス発生装置等を備えており、圧縮した窒素ガスを各装置に圧送可能に形成されている。不活性ガスは、本実施形態では窒素ガスを用いるが、二酸化炭素、アルゴン等の不活性ガスの単体又はこれらの混合ガスであってもよい。窒素を用いると、調達も容易であるし、比較的安価に供給することができる
【0036】
潤滑剤供給手段32は、本実施形態では、潤滑剤タンク36と、定量供給装置37とを有する。潤滑剤タンク36は、潤滑剤Jを貯留するタンクである。潤滑剤Jは、本実施形態では、黒鉛と機械油を混合して生成している。潤滑剤Jの種類は特に制限されるものではなく、溶媒である機械油、灯油、鉱物油等に対して、黒鉛、水ガラス、ステアリン酸、亜鉛等を溶解させたものであればよい。
【0037】
潤滑剤タンク36と不活性ガス供給手段31とは管路D1を介して連結されている。管路D1の端部は、潤滑剤タンク36の中空部に臨んでいる。潤滑剤タンク36と定量供給装置37とは管路D2を介して連結されている。管路D2の潤滑剤タンク36側の端部は潤滑剤Jの液中に臨んでいる。
【0038】
管路D1から潤滑剤タンク36の中空部に送気された不活性ガス(以下、単に「ガス」ともいう)は、潤滑剤Jの液面を押圧し、管路D2に潤滑剤Jを供給する。管路D1には電磁弁F1が配置されており、所定量のガスが潤滑剤タンク36内に供給されるように形成されている。電磁弁F1は、図示しない制御装置に接続されている。電磁弁F1は、本実施形態では、管路D2内に潤滑剤Jが常に満たされるように構成されている。
【0039】
定量供給装置37は、一定量の潤滑剤Jを噴霧ノズル33に供給する装置である。
図6に示すように、定量供給装置37は、本実施形態では、上型用噴霧ノズルに定量の潤滑剤Jを供給する上型用定量供給装置41と、下型用噴霧ノズルに定量の潤滑剤Jを供給する下型用定量供給装置42とを備えている。
【0040】
上型用定量供給装置41は、本体43の中に形成された油室44と、ピストン46を備えた空気室45と、空気室45内を移動するピストン46と、ピストン46の移動を調節するストッパピン50とを主に備えている。
【0041】
油室44は、所定量の潤滑剤Jが貯留される空間である。油室44は、管路D2を介して潤滑剤タンク36(
図1参照)に連結されている。管路D2には、これを開閉するための電磁弁F2が配置されている。電磁弁F2は、図示しない制御装置に接続されており、制御装置からの制御信号に基づいて、管路D2を潤滑剤Jが流通可能な開状態と、潤滑剤Jの流通を遮断する閉状態とに切り替える。電磁弁F2が潤滑剤Jを1回に供給する量は、本実施形態では、後記する1回の噴霧工程で上型5に対して塗布する量に設定されている。また、電磁弁F2は、油室44内の潤滑剤Jがピストン46で押し出された後に開弁して新たな潤滑剤Jを油室44内に供給するように構成されている。
【0042】
管路D2には油室44への流入のみを許容するチェックバルブ47を設けており、潤滑剤Jの逆流を防止している。油室44におけるピストン46と対向する壁には、上型用噴霧ノズル51(
図7参照)に通ずる管路D3が連通している。
【0043】
空気室45は、ピストン46の大径部によって第一気体室45aと第二気体室45bとに隔てられている。第一気体室45aは、管路D4を介して不活性ガス供給手段31に連結されている。管路D4には、電磁弁F3が配置されている。電磁弁F3は、図示しない制御装置に接続されており、制御装置からの制御信号に基づいて、管路D4をガスが流通可能な開状態と、ガスの流通を遮断する閉状態とに切り替える。電磁弁F3のガスの供給量は、本実施形態では、後記する1回の噴霧工程で上型5に対して供給する潤滑量Jの量と同等に設定されている。また、電磁弁F3は、上型5に対して潤滑剤J(潤滑剤Jと不活性ガスの混合物)を噴霧するときに開弁し、第一気体室45aへガスを供給するように構成されている。
【0044】
第二気体室45bには、外部と連通する連通孔49が形成されている。ピストン46が移動した際に、第二気体室45b内の空気が連通孔49を介して排出される。
【0045】
ピストン46は、T字状を呈し、管路D4から供給されるガスによって、油室44及び空気室45内を移動する。ピストン46の一端側は、油室44に臨んでいる。
【0046】
ストッパピン50は、周囲にネジ溝を備えており、本体43に螺合されている。ストッパピン50の先端は、ピストン46が後進した際に、ピストン46の他端側に当接する。ストッパピン50の位置を調節することで、ピストン46の移動量を調節することができる。
【0047】
次に、上型用定量供給装置41の作用について説明する。管路D1から潤滑剤タンク36内に供給されるガスで潤滑剤Jの圧力で液面が押されており、管路D2内は、潤滑剤Jで充満している。
【0048】
電磁弁F2を開弁すると、油室44内に所定量の潤滑剤Jが供給される。そして、第一気体室45aに管路D4からガスが供給されることで、ピストン46が油室44方向に移動し、油室44内の潤滑剤Jが管路D3(上型用噴霧ノズル51)に押し出される。
【0049】
油室44に、管路D2から新たな潤滑剤Jが供給されると、ピストン46がストッパピン50に当接する位置まで後進する。そして、第一気体室45aに管路D4からガスが供給されることで、ピストン46が移動し、再度油室44内の潤滑剤Jが管路D3(上型用噴霧ノズル51)に押し出される。以上の動作を繰り返すことで一定量の潤滑剤Jを上型用噴霧ノズル51へ供給することができる。
【0050】
下型用定量供給装置42は、一定量の潤滑剤Jを下型用噴霧ノズル52へ供給する装置である。下型用定量供給装置42は、上型用定量供給装置41と略同等の構成であるため、同じ部分については同一の符号を付して詳細な説明は省略する。なお、下型用定量供給装置42と不活性ガス供給手段31とを連結する流路を管路D6とし、下型用定量供給装置42と下型用噴霧ノズル52を連結する流路を管路D5とする。また、管路D2の下型用定量供給装置42に臨む部位に設けられた電磁弁を電磁弁F4とし、管路D6に設けられた電磁弁を電磁弁F5とする。
【0051】
噴霧ノズル33は、
図7に示すように、上型用噴霧ノズル51と下型用噴霧ノズル52とを有している。上型用噴霧ノズル51は、保持部53と、基体部54と、ノズル55とを有している。上型用噴霧ノズル51は、上型5に対して潤滑剤Jと不活性ガスの混合物を噴霧する。
【0052】
保持部53は、噴霧ノズル移動手段34に保持される部位である。保持部53の基端側は、潤滑剤Jを搬送する管路D3を介して定量供給装置37に連結されている。また、保持部53の基端側は、ガス(不活性ガス)を搬送する管路D7を介して不活性ガス供給手段31(
図1参照)に連結されている。管路D7には、電磁弁F7が配置されている。
【0053】
電磁弁F7は、図示しない制御装置に接続されており、制御装置からの制御信号に基づいて、管路D7をガスが流通可能な開状態と、ガスの流通を遮断する閉状態とに切り替える。電磁弁F7のガスの一回の供給量は、本実施形態では、後記する1回の噴霧工程で上型5に対して供給する量に設定されている。また、電磁弁F7は、後記する噴霧工程のときに上型用噴霧ノズル51へガスを供給するように構成されている。なお、管路D3及び管路D7は、少なくとも保持部53付近では可撓性部材で形成されている。
【0054】
基体部54は、保持部53とノズル55の間に形成される部位であって、内部に混合部56が形成されている。混合部56には、管路D3及び管路D7が連結されている。混合部56では管路D3から供給された潤滑剤Jと管路D7から供給されたガス(不活性ガス)とが混合される。混合部56で混合された混合物は、ノズル55を介して外部に噴霧される。
【0055】
下型用噴霧ノズル52は、下型4に対して潤滑剤Jと不活性ガスの混合物を噴霧する。下型用噴霧ノズル52は、上型用噴霧ノズル51と噴霧方向を除いて略同等であるため詳細な説明は省略する。なお、下型用噴霧ノズル52の保持部53の基端側は、潤滑剤Jを搬送する管路D5を介して定量供給装置37に連結されている。また、下型用噴霧ノズル52の保持部53の基端側は、ガスを搬送する管路D8(
図1参照)を介して不活性ガス供給手段31に連結されている。管路D8には、電磁弁F8が配置されている。電磁弁F8は、図示しない制御装置に接続されており、制御装置からの制御信号に基づいて、管路D8をガスが流通可能な開状態と、ガスの流通を遮断する閉状態とに切り替える。
【0056】
噴霧ノズル移動手段34は、
図7に示すように、エアシリンダ61と、アーム62とを有する。エアシリンダ61は、管路D9(
図1参照)を介して不活性ガス供給手段31と連結されている。管路D9には、電磁弁F9が配置されている。電磁弁F9は、図示しない制御装置に接続されており、制御装置からの制御信号に基づいて、管路D9をガスが流通可能な開状態と、ガスの流通を遮断する閉状態とに切り替える。
【0057】
アーム62は、上型用噴霧ノズル51及び下型用噴霧ノズル52の保持部53,53とエアシリンダ61とを連結している。アーム62は、管路D9から供給されるガスによって、エアシリンダ61に対して相対的に移動可能に形成されている。アーム62(噴霧ノズル33)は、下型4及び上型5が離間しているときに、噴霧ノズル33が下型4と上型5の間に位置するように前進し、噴霧工程を行った後、上型5の昇降に干渉しない位置まで後進するように構成されている。
【0058】
不活性ガス噴射手段35は、
図1に示すように、上型用不活性ガス噴射手段71及び下型用不活性ガス噴射手段72を有する。
【0059】
上型用不活性ガス噴射手段71は、上型5に対して不活性ガスを噴射する装置である。上型用不活性ガス噴射手段71は、基部73と、基部73に接続された供給管74と、供給管74の先端に形成された噴射部75とを有する。
【0060】
基部73は、管路D10を介して不活性ガス供給手段31に連結されている。管路D10には、電磁弁F10が配置されている。電磁弁F10は、図示しない制御装置に接続されており、制御装置からの制御信号に基づいて、電磁弁F10をガスが流通可能な開状態と、ガスの流通を遮断する閉状態とに切り替える。上型用不活性ガス噴射手段71の1回の噴射量は、本実施形態では、上型5のポンチ部22周りが不活性ガス雰囲気になる程度に設定されている。また、上型用不活性ガス噴射手段71は、後記する噴霧工程が終わった後から、上型5が上型用不活性ガス噴射手段71の噴射部75を通過するまで噴射するように構成されている。
【0061】
下型用不活性ガス噴射手段72は、下型4に対して不活性ガスを噴射する装置である。下型用不活性ガス噴射手段72は、基部73と、基部73に接続された供給管74と、供給管74の先端に形成された噴射部75とを有する。
【0062】
基部73は、管路D11を介して不活性ガス供給手段31に連結されている。管路D11には、電磁弁F11に配置されている。電磁弁F11は、図示しない制御装置に接続されており、制御装置からの制御信号に基づいて、電磁弁F11をガスが流通可能な開状態と、ガスの流通を遮断する閉状態とに切り替える。下型用不活性ガス噴射手段72は、後記する噴霧工程が終わった後から、鍛造工程を経て上型5が上昇し終えるまで連続的に噴射して、下型4の周りが不活性雰囲気になるように構成されている。
【0063】
潤滑剤噴霧装置3は、前記したように構成したが、これに限定されるものではない。各装置への潤滑剤J及びガスの供給量、タイミング等は適宜設定可能である。また、本実施形態では、不活性ガス噴射手段35によって不活性ガスを金型2に対して噴射するように形成したが、これに限定されるものではなく、金型2の下型4と上型5の間の空間及び金型2のいずれか一方に向けて不活性ガスを噴射するように構成すればよい。
【0064】
また、例えば上型用不活性ガス噴射手段71を上型5の昇降に追従して移動するように構成してもよい。これにより、上型5の動作中に上型5に対して不活性ガスを噴射し続けることができる。
【0065】
次に、前記した鍛造装置1の鍛造工程について説明する。鍛造工程は、本実施形態では図示しない制御装置によって実行される。
図8は、本実施形態に係る作業工程を示すフローである。当初、鍛造装置1の上型5は、下型4に対して上昇しているものとする。また、下型4及び上型5は図示しないヒーターによって300℃〜400℃に予め加熱されている。
【0066】
まず、ステップS1において、噴霧ノズル移動手段34によって噴霧ノズル33を前進させて下型4と上型5の間に配置させる。
【0067】
次に、ステップS2において、噴霧ノズル33によって潤滑剤Jと不活性ガスの混合物を上型5及び下型4に噴霧する(噴霧工程)。より詳しく説明すると、電磁弁F7,F8を開弁して不活性ガスを上型用噴霧ノズル51及び下型用噴霧ノズル52へ供給しつつ、電磁弁F3,F5を開弁して定量供給装置37から上型用噴霧ノズル51及び下型用噴霧ノズル52へ潤滑剤Jを供給する。上型用噴霧ノズル51及び下型用噴霧ノズル52の各混合部56で混合された混合物は、上型5及び下型4にそれぞれ噴霧される。
【0068】
次に、ステップS3において、噴霧ノズル移動手段34によって噴霧ノズル33を後進させて金型2から退避させる。
【0069】
次に、ステップS4において、
図9の(a)に示すように、下型4の凹部13に金属素材Kを配置する(金属素材配置工程)。金属素材Kは、400℃〜500℃に予め加熱されている。金属素材Kは、本実施形態ではアルミニウム合金を用いる。金属素材Kの表面には、金属素材Kの鋳造時の鋳型による冷却や、皮膜の巻き込み等によって、金属素材Kの内部と金属組織等が異なる表面変質層K1が形成されている。ここで、金属素材の表面変質層とは、具体的には例えばDC鋳造ビレットにおけるシェル層、チル層、1,2層あるいは偏析層と呼ばれ、金属素材の内部とは金属組織等が異なる層のことを意味する。
【0070】
次に、ステップS5において、不活性ガス噴射手段35によって下型4及び上型5に対して不活性ガスを噴射する。上型用不活性ガス噴射手段71は、金属素材配置工程後からステップS6で上型5が下降して上型5が噴射部75を通過するまで噴射を継続する。一方、下型用不活性ガス噴射手段72は、金属素材配置工程後からステップS8において上型5が上昇し終えるまで継続する。
【0071】
次に、ステップS6において、下型4に対して上型5を下降させる。
【0072】
次に、ステップS7において、
図9の(b)に示すように、下型4に対して上型5を押圧して鍛造を行う(鍛造工程)。上型5で金属素材Kを押圧すると、キャビティ27に沿って金属素材Kが流れ込み成形される。この際、表面変質層K1は、第一凹部14の底面14aの外周に形成された凹溝17に流れ込む。
【0073】
次に、ステップS8において、下型4に対して上型5を上昇させる。
【0074】
次に、ステップS9において、下型4から素形材を離型させる。
【0075】
次に、ステップS10において、素形材のバリ等を切削する(切削工程)。
ここで、
図10は、本実施形態に係る素形材(アルミニウム合金製スクロール素形材)を示す図であって、(a)は下側から見た斜視図、(b)は上側から見た斜視図である。
【0076】
図10の(a)及び(b)に示すように、下型4から離型させた素形材91は、フランジ部92と、フランジ部92に立設された渦巻壁部93と、フランジ部92に対して渦巻壁部93とは反対側に立設された外壁部94及び筒状部95を有する。外壁部94は、フランジ部92の外縁に立設され、筒状部95は、フランジ部92の中央に立設されている。
【0077】
図10の(a)に示すように、渦巻壁部93の先端には、複数の突起部97が形成されている。突起部97は、下型4のエアベント16に金属素材Kが入り込むことによって形成される部位である。また、フランジ部92の外周には、凸部96がリング状に形成されている。凸部96は、下型4の凹溝17に表面変質層K1が入り込むことによって形成される部位である。
【0078】
一方、
図10の(b)に示すように、外壁部94には、バリ98が形成されている。バリ98は、前記した金型2のバリ形成用溝26に金属素材Kが入り込むことによって形成される部位である。
【0079】
切削工程では、素形材91の凸部96、突起部97及びバリ98を切削し、アルミニウム合金製スクロールを完成させる。
【0080】
以上説明した鍛造装置1によれば、下型4にリング7を設けているため、リング7の収縮作用によって下型4の外側から内側への力を作用させることができる。これにより、鍛造工程の際に下型4の内側から外側へ作用する力に対抗することができるため、凹部13のひび割れを防ぐことができる。したがって、下型4の寿命を長くすることができる。
【0081】
また、凹部13の第一凹部14の底面14aの外周に亘って凹溝17を設けたため、この凹溝17に金属素材Kの表面変質層K1を逃がすことができる。これにより、熱間鍛造によって成形された素形材91の表面に、表面変質層K1で成形される部分を凸部96(バリ)として突出させることができる。言い換えると、素形材91の表面に、表面変質層K1で成形された部分を集約させるこができる。よって、表面変質層K1が素形材91の内部に巻き込まれないため、素形材91の内部に表面変質層が混在し難い。また、凸部96を切除することで、均一な性質からなるアルミニウム合金製スクロールを成形することができる。また、鍛造工程の際に、金属素材Kのメタルフローを凹溝17で止めることができるため、いわゆるピン止め効果を奏することができる。
【0082】
また、下型4には、ヒーター挿入用穴11が、上型5には、ヒーター挿入用穴29がそれぞれ形成されているため、このヒーター挿入用穴11,29にヒーターを挿入することで、ヒーターを容易に設置することができる。
【0083】
また、下型4の第一凹部14の側壁14bと上型5のポンチ部22の外周に形成された窪み24とで構成されたバリ形成用溝26によって余剰部分を予め成形することで、製品の隅部に欠肉等の欠陥が発生するのを防ぐことができる。
【0084】
また、下型4の第二凹部15の底面15aにエアベント16が形成されているため、キャビティ27内の空気が効率よく外部に排気され、キャビティ27の隅々までメタルを行きわたらせることができる。
【0085】
また、下型4の第一凹部14の底面14aや凹溝17は、表面粗さRz20μm〜40μmに粗面化されているため、底面14aや凹溝17周りのメタルの流動速度を抑えることができる。これにより、底面14aや凹溝17の隅々までメタルをより行きわたらせることができ、パイピング等の欠陥を防ぐことができる。
【0086】
また、本実施形態に係る潤滑剤噴霧装置3によれば、潤滑剤Jと不活性ガスの混合物を金型2に塗布するため、素形材91を離型させやすくなるとともに金型2の周りを不活性ガス雰囲気にすることができる。これにより、潤滑剤Jに起因する発火を防止することができる。
【0087】
また、噴霧ノズル33とは別に不活性ガス噴射手段35を備えているため、噴霧ノズル33が後進した後も、金型2の周りを不活性ガス雰囲気にすることができる。これにより、潤滑剤Jに起因する発火をより防ぐことができる。また、潤滑剤Jが発火すると金型2に、燃焼した黒鉛成分が堆積し、素形材91の欠陥の原因になったり金型2の寿命が短くなったりするという問題がある。しかし、本実施形態によれば、黒鉛成分の堆積を防ぐことができるため、素形材91の欠陥の発生を少なくすることができるとともに金型2の寿命を長くすることができる。なお、本実施形態に係る鍛造装置1を用いて鍛造を行ったところ、不活性ガスを噴霧あるいは噴射しない場合と比較して素形材の不良率の改善が見られた。
【0088】
また、潤滑剤供給手段32は、定量供給装置37を備えているため、一定量の潤滑剤Jを金型2に噴霧することができ、安定した鍛造作業を行うことができる。
【0089】
また、噴霧ノズル33は、上型用噴霧ノズル51及び下型用噴霧ノズル52を備えているため、下型4及び上型5に対して同時に潤滑剤Jを噴霧することができ、鍛造作業を迅速に行うことができる。
【0090】
また、噴霧ノズル移動手段34によれは、金型2の下型4と上型5とが離間した際に、噴霧ノズル33を下型4と上型5の間に配置できるため、下型4の凹部13の内部及び上型5のポンチ部22に均一に潤滑剤Jと不活性ガスの混合物を噴霧することができる。
【0091】
また、不活性ガスに、窒素ガスを用いることで、比較的安価にかつ材料を容易に調達することができる。
【0092】
本発明は、前記した実施形態に限定されずに発明の趣旨に反しない範囲において適宜設計変更が可能である。例えば、本実施形態では、アルミニウム合金製スクロールを作成したが、他の製品を成形してもよい。
【0093】
例えば、
図11に示すように、アルミニウム合金製ピストンを成形してもよい。このアルミニウム合金製ピストンを成形する金型は、キャビティの形状を除いて前記した実施形態と略同等であるため詳細な説明は省略する。
【0094】
素形材120は、
図11の(a)及び(b)に示すように、フランジ部121と、フランジ部121から立設されたスカート122とを有する。スカート122の先端には、複数の突起部123が成形されている。突起部123は、下型のエアベント(
図5参照)によって成形される部位である。フランジ部121の外周縁には、凸部124が成形されている。凸部124は、下型の凹溝(
図4参照)によって成形される部位である。
【0095】
また、
図11の(b)に示すように、フランジ部121の外周縁には、バリ125が成形されている。バリ125は、バリ形成用溝26(
図5参照)によって成形される部位である。切削工程では、素形材120の突起部123、凸部124及びバリ125を切削し、アルミニウム製ピストンを完成させる。
【0096】
また、不活性ガス噴射手段35によって不活性ガスを噴射するタイミングは、前記したタイミングに限定されるものではない。例えば、上型5が下降するとき、鍛造工程を行っているとき、又は、上型5が上昇するときのいずれかのときに噴射してもよい。金属素材は、本実施形態では、アルミニウム合金を用いたが他の金属であってもよい。