(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の強化ガラス基板は、その表面に圧縮応力層を有する。ガラス基板の表面に圧縮応力層を形成する方法には、物理強化法と化学強化法がある。本発明の強化ガラス基板は、化学強化法で圧縮応力層を形成することが好ましい。化学強化法は、ガラスの歪点以下の温度でイオン交換によりガラス基板の表面にイオン半径の大きいアルカリイオンを導入する方法である。化学強化法で圧縮応力層を形成すれば、ガラス基板の板厚が薄くても、良好に強化処理を施すことができ、所望の機械的強度を得ることができる。さらに、ガラス基板に圧縮応力層を形成した後にガラス基板を切断しても、風冷強化法等の物理強化法で強化されたガラス基板のように容易に破壊することがない。
【0032】
イオン交換の条件は、特に限定されず、ガラスの粘度特性等を考慮して決定すればよい。特に、KNO
3溶融塩中のKイオンをガラス基板中のNa成分とイオン交換すると、ガラス基板の表面に圧縮応力層を効率良く形成できるため好ましい。
【0033】
本発明の強化ガラス基板において、ガラス組成を上記範囲に限定した理由を以下に説明する。
【0034】
SiO
2は、ガラスのネットワークを形成する成分であり、その含有量は40〜71%、好ましくは40〜70%、40〜63%、45〜63%、50〜59%、特に55〜58.5%である。SiO
2の含有量が多くなり過ぎると、ガラスの溶融、成形が難しくなったり、熱膨張係数が小さくなり過ぎて、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。一方、SiO
2の含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなる。またガラスの熱膨張係数が大きくなり、ガラスの耐熱衝撃性が低下しやすくなる。
【0035】
Al
2O
3はイオン交換性能を高める成分である。またガラスの歪点およびヤング率を高くする効果もあり、その含有量は3〜21%である。Al
2O
3の含有量が多過ぎると、ガラスに失透結晶が析出しやすくなってオーバーフローダウンドロー法等による成形が困難になる。またガラスの熱膨張係数が小さくなり過ぎて周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなったり、ガラスの高温粘性が高くなり溶融し難くなる。Al
2O
3の含有量が少な過ぎると、十分なイオン交換性能を発揮できない虞が生じる。上記観点から、Al
2O
3の好適な範囲は上限が20%以下、19%以下、18%以下、17%以下、16.5%以下であることがより好ましい。また下限は、7.5%以上、8.5%以上、9%以上、10%以上、12%以上、13%以上、14%以上であることがより好ましい。
【0036】
Li
2Oは、イオン交換成分であるとともに、ガラスの高温粘度を低下させて溶融性や成形性を向上させる成分である。さらにLi
2Oは、ガラスのヤング率を向上させる成分である。またLi
2Oはアルカリ金属酸化物の中では圧縮応力値を高める効果が高い。しかしLi
2Oの含有量が多くなり過ぎると液相粘度が低下してガラスが失透しやすくなる。またガラスの熱膨張係数が大きくなり過ぎて、ガラスの耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなったりする。さらに、低温粘性が低下しすぎて応力緩和が起こりやすくなると、かえって圧縮応力値が低くなる場合がある。従ってLi
2Oの含有量は0〜3.5%であり、さらに0〜2%、0〜1%、0〜0.5%、0〜0.1%であることが好ましく、実質的に含有しないこと、つまり0.01%未満に抑えることが最も好ましい。
【0037】
Na
2Oは、イオン交換成分であるとともに、ガラスの高温粘度を低下させて溶融性や成形性を向上させる成分である。また、Na
2Oは、ガラスの耐失透性を改善する成分でもある。Na
2Oの含有量は7〜20%であるが、より好適な含有量は、10〜20%、10〜19%、12〜19%、12〜17%、13〜17%、特に14〜17%である。Na
2Oの含有量が多くなり過ぎると、ガラスの熱膨張係数が大きくなり過ぎて、ガラスの耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。また歪点が低下しすぎたり、ガラス組成のバランスを欠き、かえってガラスの耐失透性が悪化する傾向がある。一方、Na
2Oの含有量が少ないと、溶融性が悪化したり、熱膨張係数が小さくなりすぎたり、イオン交換性能が悪化する。
【0038】
K
2Oは、イオン交換を促進する効果があり、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力層の深さを深くする効果が高い。またガラスの高温粘度を低下させて溶融性や成形性を高めたりする効果のある成分である。また、K
2Oは、耐失透性を改善する成分でもある。K
2Oの含有量は0〜15%である。K
2Oの含有量が多過ぎると、ガラスの熱膨張係数が大きくなり、ガラスの耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。さらに歪点が低下しすぎたり、ガラス組成のバランスを欠き、かえってガラスの耐失透性が悪化する傾向があるため、上限を12%以下、10%以下、8%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下とすることが好ましい。
【0039】
アルカリ金属酸化物R
2O(RはLi、Na、Kから選ばれる1種以上)の合量が多くなり過ぎると、ガラスが失透しやすくなることに加えて、ガラスの熱膨張係数が大きくなり過ぎて、ガラスの耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。また、アルカリ金属酸化物R
2Oの合量が多くなり過ぎると、ガラスの歪点が低下し過ぎて、高い圧縮応力値が得られない場合がある。さらに液相温度付近の粘性が低下し、高い液相粘度を確保することが困難となる場合がある。それ故、R
2Oの合量は22%以下、20%以下、特に19%以下であることが好ましい。一方、R
2Oの合量が少な過ぎると、ガラスのイオン交換性能や溶融性が悪化する場合がある。それ故、R
2Oの合量は8%以上、10%以上、13%以上、特に15%以上であることが好ましい。
【0040】
また(Na
2O+K
2O)/Al
2O
3の値を0.7〜2、好ましくは0.8〜1.6、より好ましくは0.9〜1.6、更に好ましくは1〜1.6、もっとも好ましくは1.2〜1.6の範囲に設定することが望ましい。この値が2より大きくなると、低温粘性が低下しすぎてイオン交換性能が低下したり、ヤング率が低下したり、熱膨張係数が高くなり耐熱衝撃性が低下しやすくなる。また組成のバランスを欠いて、失透しやすくなる。一方、0.7より小さくなると、溶融性や失透性が悪化しやすくなる。
【0041】
またK
2O/Na
2Oの質量比の範囲は、0〜2であることが好ましい。K
2O/Na
2Oの質量比を変化させることで圧縮応力値の大きさと応力層の深さを変化させることが可能である。圧縮応力値を高く設定したい場合には、上記質量比が、0〜0.5、特に0〜0.3、0〜0.2となるように調整することが好ましい。一方、応力深さをより深くしたり、短時間で深い応力を形成したい場合には、上記質量比が、0.3〜2、特に0.5〜2、1〜2、1.2〜2、1.5〜2となるように調整することが好ましい。ここで上記質量比の上限を2に設定した理由は、2より大きくなるとガラスの組成のバランスを欠いて失透しやすくなるからである。
【0042】
本発明の強化ガラス基板においては、ガラス組成として、上記の基本成分のみから構成されてもよいが、ガラスの特性を大きく損なわない範囲で他の成分を添加することもできる。
【0043】
例えばアルカリ土類金属酸化物R’O(R’はMg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種以上)は、種々の目的で添加可能な成分である。しかし、アルカリ土類金属酸化物R’Oが多くなると、ガラスの密度や熱膨張係数が高くなったり、耐失透性が悪化したりすることに加えて、イオン交換性能が悪化する傾向がある。したがってアルカリ土類金属酸化物R’Oの合量は、好ましくは0〜9.9%、0〜8%、0〜6、0〜5%とすべきである。
【0044】
MgOは、ガラスの高温粘度を低下させて溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を向上させる効果が高い。MgOの含有量は0〜6%である。しかし、MgOの含有量が多くなると、ガラスの密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透しやすくなる。したがって、その含有量は、4%以下、3%以下、2%以下、1.5%以下が好ましい。
【0045】
CaOは、ガラスの高温粘度を低下させて溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を向上させる効果が高い。CaOの含有量は0〜6%である。しかし、CaOの含有量が多くなると、ガラスの密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透しやすくなったり、更にはイオン交換性能が悪化する場合がある。したがって、その含有量は、4%以下、3%以下が好ましい。
【0046】
SrO及びBaOは、ガラスの高温粘度を低下させて溶融性や成形性を向上させたり、歪点やヤング率を高める成分であり、その含有量は各々0〜3%であることが好ましい。SrOやBaOの含有量が多くなると、イオン交換性能が悪化する傾向がある。またガラスの密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透しやすくなる。SrOの含有量は、2%以下、1.5%以下、1%以下、0.5%以下、0.2%以下、特に0.1%以下であることが好ましい。またBaOの含有量は、2.5%以下、2%以下、1%以下、0.8%以下、0.5%以下、0.2%以下、特に0.1%以下であることが好ましい。
【0047】
またZnOは、ガラスのイオン交換性能を高める成分であり、特に、圧縮応力値を高くする効果が大きい。またガラスの低温粘性を低下させずに高温粘性を低下させる効果を有する成分であり、その含有量を0〜8%とすることができる。しかし、ZnOの含有量が多くなると、ガラスが分相したり、失透性が悪化したり、密度が高くなるため、その含有量は6%以下、4%以下、特に3%以下であることが好ましい。
【0048】
本発明においては、SrO+BaOの合量を0〜5%に制限することによって、より効果的にイオン交換性能を向上させることができる。つまりSrOとBaOは、上述の通り、イオン交換反応を阻害する作用があるため、これらの成分を多く含むことは、機械的強度の高い強化ガラスを得る上で不利である。SrO+BaOの好ましい範囲は0〜3%、0〜2.5%、0〜2%、0〜1%、0〜0.2%、特に0〜0.1%である。
【0049】
またR’Oの合量をR
2Oの合量で除した値が大きくなると、ガラスの耐失透性が悪化する傾向が現れる。それ故、質量分率でR’O/R
2Oの値を0.5以下、0.4以下、0.3以下に規制することが好ましい。
【0050】
またSnO
2はイオン交換性能、特に圧縮応力値を向上させる効果があるため、0.01〜3%、0.01〜1.5%、0.1〜1%含有することが好ましい。SnO
2の含有量が多くなるとSnO
2に起因する失透が発生したり、ガラスが着色しやすくなる傾向がある。
【0051】
またZrO
2はイオン交換性能を顕著に向上させると共にガラスのヤング率や歪点を高くし、高温粘性を低下させる効果がある。またガラスの液相粘度付近の粘性を高める効果があるため、所定量含有させることで、イオン交換性能と液相粘度を同時に向上させることができる。ただし、その含有量が多くなりすぎると、耐失透性が極端に悪化する場合がある。そのため、0.001〜10%、0.1〜9%、0.5〜7%、1〜5%、2.5〜5%含有させることが好ましい。
【0052】
またB
2O
3は、ガラスの液相温度、高温粘度および密度を低下させる効果を有するとともに、ガラスのイオン交換性能、特に圧縮応力値を向上させる効果のある成分であるため、上記成分と共に含有できるが、その含有量が多過ぎると、イオン交換によって表面にヤケが発生したり、ガラスの耐水性が悪化したり、液相粘度が低下する虞がある。また応力深さが低下する傾向にある。よってB
2O
3は、0〜6%、好ましくは0〜4%、さらには0〜3%である。
【0053】
またTiO
2はイオン交換性能を向上させる効果がある成分である。またガラスの高温粘度を低下させる効果がある。しかしその含有量が多くなりすぎると、ガラスが着色したり、失透性が悪化したり、密度が高くなる。特にディスプレイのカバーガラスとして使用する場合、TiO
2の含有量が高くなると、溶融雰囲気や原料を変更した時、ガラスの透過率が変化しやすくなる。そのため紫外線硬化樹脂等の光を利用してガラス基板をデバイスに接着する工程において、紫外線照射条件が変動しやすくなり、安定生産が困難となる。そのため10%以下、8%以下、6%以下、5%以下、4%以下、2%以下、0.7%以下、0.5%以下、0.1%以下、0.01%以下となるようにすることが好ましい。
【0054】
本発明においては、イオン交換性能向上の観点から、ZrO
2とTiO
2を上記範囲で含有させることが好ましいが、TiO
2源、ZrO
2源として試薬を用いても良いし原料等に含まれる不純物から含有させても良い。
【0055】
また耐失透性と高いイオン交換性能を両立する観点から、Al
2O
3+ZrO
2の含有量を以下のように定めることが好ましい。
【0056】
Al
2O
3+ZrO
2の含有量は12%超(好ましくは12.001%以上、13%以上、15%以上、17%以上、18%以上、19%以上)であればガラスのイオン交換性能をより効果的に向上させることが可能である。しかしAl
2O
3+ZrO
2の含有量が多くなりすぎると失透性が極端に悪化するため、28%以下(好ましくは25%以下、23%以下、22%以下、21%以下)とすることが好ましい。
【0057】
またP
2O
5は、ガラスのイオン交換性能を高める成分であり、特に、圧縮応力層の厚みを大きくする効果が大きいため、その含有量を0〜8%とすることができる。しかし、P
2O
5の含有量が多くなると、ガラスが分相したり、耐水性や耐失透性が低下しやすくするため、その含有量は5%以下、4%以下、3%以下、特に2%以下であることが好ましい。
【0058】
また清澄剤としてAs
2O
3、Sb
2O
3、CeO
2、F、SO
3、Clの群から選択された一種または二種以上を0.001〜3%含有させてもよい。ただし、As
2O
3及びSb
2O
3は環境に対する配慮から、使用は極力控えるべきであり、各々の含有量を0.1%未満、さらには0.01%未満に制限すべきであり、実質的に含有しないことが望ましい。またCeO
2は、ガラスの透過率を低下させる成分であるため、0.1%未満、好ましくは0.01%未満に制限すべきである。またFは、ガラスの低温粘性を低下させ、圧縮応力値の低下を招くおそれがあるため、0.1%未満、好ましくは0.01%未満に制限すべきである。従って本発明において好ましい清澄剤は、SO
3とClであり、SO
3とClの1者又は両者を、0.001〜3%、0.001〜1%、0.01〜0.5%、さらには0.05〜0.4%含有させることが好ましい。
【0059】
またNb
2O
5やLa
2O
3等の希土類酸化物は、ガラスのヤング率を高める成分である。しかし、原料自体のコストが高く、また多量に含有させると耐失透性が悪化する。それ故、それらの含有量は、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下に制限することが望ましい。
【0060】
尚、本発明において、Co、Ni等のガラスを強く着色するような遷移金属元素は、ガラス基板の透過率を低下させるため好ましくない。特に、タッチパネルディスプレイ用途に用いる場合、遷移金属元素の含有量が多いと、タッチパネルディスプレイの視認性が損なわれる。具体的には0.5%以下、0.1%以下、特に0.05%以下となるよう、原料あるいはカレットの使用量を調整することが望ましい。
【0061】
また、Pb、Bi等の物質は環境に対する配慮から、使用は極力控えるべきであり、その含有量を0.1%未満に制限すべきである。
【0062】
本発明の強化ガラス基板は、各成分の好適な含有範囲を適宜選択し、好ましいガラス組成範囲とすることができる。その具体例を以下に示す。
【0063】
(1)質量%でSiO
2 40〜71%、Al
2O
3 7.5〜21%、Li
2O 0〜2%、Na
2O10〜19%、K
2O 0〜15%、MgO 0〜6%、CaO 0〜6%、SrO 0〜3%、BaO 0〜3%、ZnO 0〜8%、SnO
2 0.01〜3%を含有するガラス組成。
【0064】
(2)質量%でSiO
2 40〜71%、Al
2O
3 7.5〜21%、Li
2O 0〜2%、Na
2O10〜19%、K
2O 0〜15%、MgO 0〜6%、CaO 0〜6%、SrO 0〜3%、BaO 0〜3%、ZnO 0〜8%、SnO
2 0.01〜3%、ZrO
2 0.001〜10%を含有するガラス組成。
【0065】
(3)質量%でSiO
2 40〜71%、Al
2O
3 8.5〜21%、Li
2O 0〜1%、Na
2O10〜19%、K
2O 0〜10%、MgO 0〜6%、CaO 0〜6%、SrO 0〜3%、BaO 0〜3%、ZnO 0〜8%、SnO
2 0.01〜3%を含有するガラス組成。
【0066】
(4)質量%でSiO
2 40〜71%、Al
2O
3 8.5〜21%、Li
2O 0〜1%、Na
2O10〜19%、K
2O 0〜10%、MgO 0〜6%、CaO 0〜6%、SrO 0〜3%、BaO 0〜3%、ZnO 0〜8%、SnO
2 0.01〜3%、ZrO
2 0.001〜10%を含有するガラス組成。
【0067】
(5)質量%でSiO
2 40〜71%、Al
2O
3 9〜19%、B
2O
3 0〜6%、Li
2O 0〜2%、Na
2O 10〜19%、K
2O 0〜15%、MgO 0〜6%、CaO 0〜6%、SrO 0〜3%、BaO 0〜3%、ZnO 0〜6%、ZrO
2 0.001〜10%、SnO
2 0.1〜1%であり、実質的にAs
2O
3及びSb
2O
3を含有しないガラス組成。
【0068】
(6)質量%でSiO
2 40〜71%、Al
2O
3 9〜18%、B
2O
3 0〜4%、Li
2O 0〜2%、Na
2O 11〜17%、K
2O 0〜6%、MgO 0〜6%、CaO 0〜6%、SrO 0〜3%、BaO 0〜3%、ZnO 0〜6%、SnO
2 0.1〜1%、ZrO
2 0.001〜10%であり、実質的にAs
2O
3及びSb
2O
3を含有しないガラス組成。
【0069】
(7)質量%でSiO
2 40〜63%、Al
2O
3 9〜17.5%、B
2O
3 0〜3%、Li
2O 0〜0.1%、Na
2O 10〜17%、K
2O 0〜7%、MgO 0〜5%、CaO 0〜4%、SrO+BaO 0〜3%、SnO
2 0.01〜2%であり、実質的にAs
2O
3及びSb
2O
3を含有せず、質量分率で(Na
2O+K
2O)/Al
2O
3の値が0.9〜1.6、K
2O/Na
2O 0〜0.4であるガラス組成。
【0070】
(8)質量%でSiO
2 40〜71%、Al
2O
3 3〜21%、Li
2O 0〜2%、Na
2O 10〜20%、K
2O 0〜9%、MgO 0〜5%、TiO
2 0〜0.5%、SnO
2 0.001〜3%を含有するガラス組成。
【0071】
(9)質量%でSiO
2 40〜71%、Al
2O
3 8〜21%、Li
2O 0〜2%、Na
2O 10〜20%、K
2O 0〜9%、MgO 0〜5%、TiO
2 0〜0.5%、SnO
2 0.001〜3%を含有し、実質的にAs
2O
3及びSb
2O
3を含有しないことを特徴とするガラス組成。
【0072】
(10)質量%でSiO
2 40〜65%、Al
2O
3 8.5〜21%、Li
2O 0〜1%、Na
2O 10〜20%、K
2O 0〜9%、MgO 0〜5%、TiO
2 0〜0.5%、SnO
2 0.001〜3%を含有し、質量分率で(Na
2O+K
2O)/Al
2O
3の値が0.7〜2であって、実質的にAs
2O
3、Sb
2O
3及びFを含有しないことを特徴とするガラス組成。
【0073】
(11)質量%でSiO
2 40〜65%、Al
2O
3 8.5〜21%、Li
2O 0〜1%、Na
2O 10〜20%、K
2O 0〜9%、MgO 0〜5%、TiO
2 0〜0.5%、SnO
2 0.01〜3%、MgO+CaO+SrO+BaO 0〜8%を含有し、質量分率で(Na
2O+K
2O)/Al
2O
3の値が0.9〜1.7であって、実質的にAs
2O
3、Sb
2O
3及びFを含有しないことを特徴とするガラス組成。
【0074】
(12)質量%でSiO
2 40〜63%、Al
2O
3 9〜19%、B
2O
3 0〜3%、Li
2O 0〜1%、Na
2O 10〜20%、K
2O 0〜9%、MgO 0〜5%、TiO
2 0〜0.1%、SnO
2 0.01〜3%、ZrO
2 0.001〜10%、MgO+CaO+SrO+BaO 0〜8%を含有し、質量分率で(Na
2O+K
2O)/Al
2O
3の値が1.2〜1.6であって、実質的にAs
2O
3、Sb
2O
3及びFを含有しないことを特徴とするガラス組成。
【0075】
(13)質量%でSiO
2 40〜63%、Al
2O
3 9〜17.5%、B
2O
3 0〜3%、Li
2O 0〜1%、Na
2O 10〜20%、K
2O 0〜9%、MgO 0〜5%、TiO
2 0〜0.1%、SnO
2 0.01〜3%、ZrO
2 0.1〜8%、MgO+CaO+SrO+BaO 0〜8%を含有し、質量分率で(Na
2O+K
2O)/Al
2O
3の値が1.2〜1.6であって、実質的にAs
2O
3、Sb
2O
3及びFを含有しないことを特徴とするガラス組成。
【0076】
(14)質量%でSiO
2 40〜59%、Al
2O
3 10〜15%、B
2O
3 0〜3%、Li
2O 0〜0.1%、Na
2O 10〜20%、K
2O 0〜7%、MgO 0〜5%、TiO
2 0〜0.1%、SnO
2 0.01〜3%、ZrO
2 1〜8%、MgO+CaO+SrO+BaO 0〜8%を含有し、質量分率で(Na
2O+K
2O)/Al
2O
3の値が1.2〜1.6であって、実質的にAs
2O
3、Sb
2O
3及びFを含有しないことを特徴とするガラス組成。
【0077】
本発明の強化ガラス基板は、上記ガラス組成を有するとともに、ガラス表面に圧縮応力層を有している。圧縮応力層の圧縮応力は、600MPa以上、800MPa以上が好ましく、1000MPa以上がより好ましく、1200MPa以上が更に好ましく、1300MPa以上が更に好ましい。圧縮応力が大きくなるにつれて、ガラス基板の機械的強度が高くなる。一方、ガラス基板表面に極端に大きな圧縮応力が形成されると、基板表面にマイクロクラックが発生し、かえってガラスの強度が低下する虞がある。また、ガラス基板に内在する引っ張り応力が極端に高くなる恐れがあるため、2500MPa以下とするのが好ましい。なお圧縮応力を大きくするには、Al
2O
3、TiO
2、ZrO
2、MgO、ZnO、SnO
2の含有量を増加させたり、SrO、BaOの含有量を低減すればよい。またイオン交換に要する時間を短くしたり、イオン交換溶液の温度を下げればよい。
【0078】
圧縮応力層の厚みは、10μm以上、15μm以上、20μm以上、30μm以上とするのが好ましい。圧縮応力層の厚みが大きい程、ガラス基板に深い傷がついても、ガラス基板が割れにくくなる。一方、ガラス基板が切断しにくくなったり、内部の引っ張り応力が極端に高くなって破損する虞れがあるため、圧縮応力層の厚みは500μm以下、100μm以下、80μm以下、60μm以下とするのが好ましい。なお圧縮応力層の厚みを大きくするには、K
2O、P
2O
5、TiO
2、ZrO
2の含有量を増加させたり、SrO、BaOの含有量を低減すればよい。またイオン交換に要する時間を長くしたり、イオン交換溶液の温度を高めればよい。
【0079】
またガラス基板内部の引っ張り応力は、200MPa以下(好ましくは150MPa以下、より好ましくは100MPa以下、更に好ましくは50MPa以下)である。この値が小さくなるほどガラス基板内部の欠陥によってガラスが破損にいたる恐れが少なくなるが、極端に小さくなると、ガラス基板表面の圧縮応力値の低下や、応力深さが低下するため、1MPa以上、10MPa以上、15MPa以上であることが好ましい。
【0080】
本発明の強化ガラス基板は、板厚が3.0mm、1.5mm以下、0.7mm以下、0.5mm以下、特に0.3mm以下であることが好ましい。ガラス基板の板厚が薄い程、ガラス基板を軽量化することできる。また、本発明の強化ガラス基板は、板厚を薄くしても、ガラス基板が破壊しにくい利点を有している。なおガラスの成形をオーバーフローダウンドロー法で行う場合、ガラスの薄肉化や平滑化を、研磨することなく達成できるため有利である。
【0081】
本発明の強化ガラス基板は、未研磨の表面を有することが好ましく、未研磨の表面の平均表面粗さ(Ra)は10Å以下、好ましくは5Å以下、より好ましくは4Å以下、さらに好ましくは3Å以下、最も好ましくは2Å以下である。尚、表面の平均表面粗さ(Ra)はSEMI D7−97「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法により測定すればよい。ガラスの理論強度は本来非常に高いが、理論強度よりも遥かに低い応力でも破壊に至ることが多い。これはガラス基板の表面にグリフィスフローと呼ばれる小さな欠陥がガラスの成形後の工程、例えば研磨工程等で生じるからである。それ故、強化ガラス基板の表面を未研磨とすれば、本来のガラス基板の機械的強度が損なわれ、ガラス基板が破壊し難くなる。また、ガラス基板の表面を未研磨とすれば、ガラス基板の製造工程で研磨工程を省略できるため、ガラス基板の製造コストを下げることができる。本発明の強化ガラス基板において、ガラス基板の両面全体を未研磨とすれば、ガラス基板が更に破壊し難くなる。また、本発明の強化ガラス基板において、ガラス基板の切断面から破壊に至る事態を防止するため、ガラス基板の切断面に面取り加工やエッチング処理等を行ってもよい。なお、未研磨の表面を得るためには、ガラスの成形をオーバーフローダウンドロー法で行えばよい。
【0082】
本発明の強化ガラス基板は、ガラスの液相温度が1200℃以下、1050℃以下、1030℃以下、1010以下、1000℃以下、950℃以下、900℃以下であることが好ましく、870℃以下が特に好ましい。液相温度を低下させるには、Na
2O、K
2O、B
2O
3の含有量を増加したり、Al
2O
3、Li
2O、MgO、ZnO、TiO
2、ZrO
2の含有量を低減すればよい。
【0083】
本発明の強化ガラス基板は、ガラスの液相粘度が、10
4.0dPa・s以上、10
4.3dPa・s以上、10
4.5dPa・s以上、10
5.0dPa・s以上、10
5.4dPa・s以上、10
5.8dPa.s以上、10
6.0dPa・s以上、10
6.2dPa・s以上が好ましい。液相粘度を上昇させるには、Na
2O、K
2Oの含有量を増加したり、Al
2O
3、Li
2O、MgO、ZnO、TiO
2、ZrO
2の含有量を低減すればよい。
【0084】
尚、液相粘度が高く、液相温度が低いほど、ガラスの耐失透性は優れるとともに、ガラス基板の成形性に優れている。そしてガラスの液相温度が1200℃以下で、ガラスの液相粘度は、10
4.0dPa・s以上であれば、オーバーフローダウンドロー法で成形可能である。
【0085】
本発明の強化ガラス基板は、ガラスの密度が2.8g/cm
3以下であることが好ましく、2.7g/cm
3以下がより好ましく、2.6g/cm
3以下が更に好ましい。ガラスの密度が小さい程、ガラス基板の軽量化を図ることができる。ここで、「密度」とは、周知のアルキメデス法で測定した値を指す。尚、ガラスの密度を低下させるには、SiO
2、P
2O
5、B
2O
3の含有量を増加させたり、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、ZrO
2、TiO
2の含有量を低減すればよい。
【0086】
本発明の強化ガラス基板は、30〜380℃の温度範囲におけるガラスの熱膨張係数が70〜110×10
−7/℃であることが好ましく、75〜110×10
−7/℃であることがより好ましく、80〜110×10
−7/℃であることが更に好ましく、85〜110×10
−7/℃であることが特に好ましい。ガラスの熱膨張係数を上記範囲とすれば、金属、有機系接着剤等の部材と熱膨張係数が整合しやすくなり、金属、有機系接着剤等の部材の剥離を防止することができる。ここで、「熱膨張係数」とは、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した値を指す。なお熱膨張係数を上昇させるには、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を増加さればよく、逆に低下させるには、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を低減すればよい。
【0087】
本発明の強化ガラス基板は、歪点が500℃以上であることが好ましく、540℃以上がより好ましく、550℃以上がさらに好ましく、560℃以上が最も好ましい。ガラスの歪点が高いほどガラスの耐熱性が優れることなり、強化ガラス基板に熱処理を施したとしても、強化層が消失しがたくなる。またガラスの歪点が高いとイオン交換中に応力緩和が起こりにくくなるため高い圧縮応力値を得ることが可能になる。ガラスの歪点を高くするためにはアルカリ金属酸化物の含有量を低減させたり、アルカリ土類金属酸化物、Al
2O
3、ZrO
2、P
2O
5の含有量を増加させればよい。
【0088】
本発明の強化ガラス基板は、ガラスの高温粘度10
2.5dPa・sに相当する温度が1650℃以下、1500℃以下、1450℃以下、1430℃以下、1420℃以下、1400℃以下であることが好ましい。ガラスの高温粘度10
2.5dPa・sに相当する温度は、ガラスの溶融温度に相当しており、ガラスの高温粘度10
2.5dPa・sに相当する温度が低いほど、低温でガラスを溶融することができる。従ってガラスの高温粘度10
2.5dPa・sに相当する温度が低い程、溶融窯等のガラスの製造設備への負担が小さくなる共に、ガラス基板の泡品位を向上させることができる。そのためガラスの高温粘度10
2.5dPa・sに相当する温度が低い程、ガラス基板を安価に製造することができる。なお10
2.5dPa・sに相当する温度を低下させるには、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B
2O
3、TiO
2の含有量を増加させたり、SiO
2、Al
2O
3の含有量を低減すればよい。
【0089】
本発明の強化ガラス基板は、ヤング率が70GPa以上、好ましくは73GPa以上、より好ましくは75GPa以上である。そのためディスプレイのカバーガラスとして使用する場合、ヤング率が高いほど、カバーガラスの表面をペンや指で押した際の変形量が小さくなるため、内部のディスプレイに与えるダメージが低減する。
【0090】
また本発明のガラスは、質量%でSiO
2 40〜71%、Al
2O
3 3〜21%、Li
2O 0〜3.5%、Na
2O 7〜20%、K
2O 0〜15%を含有することを特徴とし、好ましくは質量%でSiO
2 40〜71%、Al
2O
3 7.5〜21%、Li
2O 0〜2%、Na
2O 10〜19%、K
2O 0〜15%、MgO 0〜6%、CaO 0〜6%、SrO 0〜3%、BaO 0〜3%、ZnO 0〜8%、SnO
2 0.01〜3%を含有することを特徴とし、より好ましくは質量%でSiO
2 40〜71%、Al
2O
3 8.5〜21%、Li
2O 0〜1%、Na
2O 10〜19%、K
2O 0〜10%、MgO 0〜6%、CaO 0〜6%、SrO 0〜3%、BaO 0〜3%、ZnO 0〜8%、SnO
2 0.01〜3%、ZrO
2 0.001〜10%を含有することを特徴とする。本発明のガラスにおいて、ガラス組成を上記範囲に限定した理由および好ましい範囲は、既述の強化ガラス基板と同様であるため、ここではその記載を省略する。さらに、本発明のガラスは、当然のことながら、既述の強化ガラス基板の特性、効果を併有することができる。
【0091】
本発明のガラスは、各構成成分を上記範囲に規制しているため、イオン交換性能が良好であり、容易に表面の圧縮応力を600MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みを10μm以上とすることができる。
【0092】
本発明に係るガラスは、上記組成範囲内のガラス組成となるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入し、ガラス原料を1500〜1600℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で溶融ガラスを板状に成形し、徐冷することにより製造することができる。
【0093】
ガラスを板状に成形するには、オーバーフローダウンドロー法を採用することが好ましい。オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を成形すれば、未研磨で表面品位が良好なガラス基板を製造することができる。その理由は、オーバーフローダウンドロー法の場合、ガラス基板の表面となるべき面は桶状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形されることにより、無研磨で表面品位が良好なガラス基板を成形できるからである。ここで、オーバーフローダウンドロー法は、溶融状態のガラスを耐熱性の桶状構造物の両側から溢れさせて、溢れた溶融ガラスを桶状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス基板を製造する方法である。桶状構造物の構造や材質は、ガラス基板の寸法や表面精度を所望の状態とし、ガラス基板に使用できる品位を実現できるものであれば、特に限定されない。また、下方への延伸成形を行うためにガラス基板に対してどのような方法で力を印加するものであってもよい。例えば、充分に大きい幅を有する耐熱性ロールをガラス基板に接触させた状態で回転させて延伸する方法を採用してもよいし、複数の対になった耐熱性ロールをガラス基板の端面近傍のみに接触させて延伸する方法を採用してもよい。本発明のガラスは、耐失透性が優れるとともに、成形に適した粘度特性を有しているため、オーバーフローダウンドロー法による成形を精度よく実行することができる。なお、液相温度が1200℃以下、液相粘度が10
4.0dPa・s以上であれば、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を製造することができる。
【0094】
尚、本発明では、高い表面品位が要求されない場合には、オーバーフローダウンドロー法以外の方法を採用することができる。例えば、ダウンドロー法(スロットダウン法、リドロー法等)、フロート法、ロールアウト法、プレス法等の様々な成形方法を採用することができる。例えばプレス法でガラスを成形すれば、小型のガラス基板を効率良く製造することができる。
【0095】
本発明の強化ガラス基板を製造するには、まず上記ガラスを用意する。次いで強化処理を施す。ガラス基板を所定サイズに切断するのは、強化処理の前でもよいが、強化処理後に行う方が製造コストを低減できるため好ましい。強化処理は、イオン交換処理にて行うことが望ましい。イオン交換処理は、例えば400〜550℃の硝酸カリウム溶液中にガラス板を1〜8時間浸漬することによって行うことができる。イオン交換条件は、ガラスの粘度特性や、用途、板厚、ガラス内部の引っ張り応力等を考慮して最適な条件を選択すればよい。