【0012】
本発明では、CaO原料とSiO
2原料を主成分として用いる。主成分とは、好ましくは原料中のCaOとSiO
2との合計含有量が、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上であり、これ以外の成分の含有量はなるべく少ないことを意味する。
CaO原料としては、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウムなどを使用することができる。
SiO
2原料としては、ケイ石微粉末、粘土、シリカフューム、フライアッシュ、非晶質シリカ、その他、各産業から副生するシリカ質の物質などを選定できる。
ただし、本発明では、不純物の存在を限定する必要がある。具体的には、CaO原料やSiO
2原料から混入するAl
2O
3やFe
2O
3の合計が、1000℃加熱後の原料で、5%未満である必要がある。Al
2O
3やFe
2O
3の合計が、4%未満であることがより好ましく、3%未満であることが最も好ましい。
殊に、Fe
2O
3の含有量は、1000℃加熱後の原料で、2%未満であることが好ましく、1.5%未満であることがより好ましく、1%未満であることが最も好ましい。
また、その他の成分として、ホウ素、リン、バリウム、ストロンチウム、およびモリブデンの合計の含有量が酸化物換算で0.5%未満であることが好ましく、0.3%以下がより好ましい。前記範囲内でないと、白色度、有害物質の含有、セメントの硬化阻害の観点から好ましくない場合がある。
【0017】
ロータリーキルンの焼成帯に用いるレンガやモルタルの材質は重要である。本発明では下記の(1)〜(4)からなる群から選ばれるレンガ又はモルタルの少なくとも1種以上が使用される。
(1)JIS R 2305で規定されている高アルミナ質耐火レンガのうち、Al
2O
3の含有率が45〜80%、好ましくは55〜70%、SiO
2の含有率が20〜55%、好ましくは30〜45%のシリカ−アルミナ質レンガ。
(2)JIS R 2302で規定されているマグネシアレンガのうち、MgOの含有率が85%以上、好ましくは90%以上のマグネシアレンガ。
上記以外のレンガを使用した場合、β−2CaO・SiO
2の生成率が低くなったり、レンガが溶融して原料と反応しコーチングが生成してしまう場合がある。レンガの形状や厚みは、特に限定されるものではなく、ロータリーキルン径に応じて適切なサイズのものを選定することが望ましい。
(3)MgOの含有率が85%以上、好ましくは90%以上のマグネシア耐火モルタル。
(4)JIS R 2501で規定されている粘土質耐火モルタルおよび高アルミナ質耐火モルタルのうち、Al
2O
3の含有率が25〜80%、好ましくは35〜70%、SiO
2の含有率が20〜75%、好ましくは30〜65%のシリカ−アルミナ質モルタル。
本発明において上記モルタルを焼成帯に使用する場合、これらのモルタルは、ロータリーキルンの焼成帯のレンガの表面に塗布して用いることが好ましい。
塗布するモルタルの使用条件は、特に限定されるものではないが、通常、モルタルの厚みは5〜10mm、好ましくは6〜9mmである。塗布に使用する水の量は、モルタルの種類によって異なるが、モルタル成分に対して好ましくは15〜35%である。なかでも、塗布に使用する水の量は、シリカ−アルミナ質モルタルでは、30〜35%が好ましく、マグネシアモルタルでは15〜20%が好ましい。前記範囲外ではβ−2CaO・SiO
2の含有率が低くなったり、レンガが溶融して原料と反応しコーチングが生成してしまう場合がある。また、レンガ、モルタルともに、セメントロータリーキルン用でクロムフリーであることが好ましい。
【実施例】
【0020】
次に、実施例及び比較例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定して解釈されるべきではない。
「実験例1」
下記のCaO原料、SiO
2原料、Al
2O
3成分、およびFe
2O
3成分を、振動ポットミル(中央化工機社製)を用いて配合し、表1に示すようなCaO/SiO
2モル比が2.0で、1000℃加熱後のAl
2O
3含有量とFe
2O
3含有量が異なる様々な配合の原料を調製した。これら原料を造粒機(装置;小型パン型造粒機、三井インダストリー社製)で、水/原料の質量比が0.2/1の条件で粒度が10〜30mmになるように造粒し、焼成帯内面の材質を表1に示すように変えたロータリーキルンにより1450℃で焼成した。得られた生成物のサンプルを評価し、結果を表1に併記する。
【0021】
<ロータリーキルン>
本発明の実験例で用いたロータリーキルンは、内径1m、長さ20mの円筒状であり、ロータリーキルンの焼成帯の内面の耐火物には、レンガ(厚さ120mm)またはレンガの表面にモルタル(厚さ7mm)を塗布したものである。
<焼成帯の材質(焼成帯の内面の耐火物の材質>
焼成帯の材質(1):Al
2O
3含有率60%、SiO
2含有率40%のシリカ−アルミナ質レンガ(市販品)。
焼成帯の材質(2):MgO含有率91%のマグネシアレンガ(市販品)。
焼成帯の材質(3):上記(1)のレンガの内面に、マグネシア耐火モルタル(ヨータイ社製、商品名ヨータイヒートセットM、最大粒径0.6mm)を、水/モルタルの質量比率が0.17にて、厚み7mmで塗布したもの。
焼成帯の材質(4):上記(1)のレンガの内面に、Al
2O
3含有率60%、SiO
2含有率40%のシリカ−アルミナ質耐火モルタルを、水/モルタルの質量比率が0.33にて、厚み7mmで塗布したもの。
【0022】
<使用材料>
CaO原料:石灰石微粉末。CaOが55.4%、MgOが0.37%、Al
2O
3が0.05%、Fe
2O
3が0.02%、およびSiO
2が0.10%であり、強熱減量(1000℃)が43.57%であり、炭素分は検出されず。150μm通過率;97.0%、100μm通過率;91.9%。
SiO
2原料:ケイ石微粉末。CaOが0.02%、MgOが0.04%、Al
2O
3が2.71%、Fe
2O
3が0.27%、SiO
2が95.83%、およびTiO
2が0.23%であり、炭素分は検出されず。強熱減量(1000℃)が0.51%であり、150μm通過率;95.1%、100μm通過率;90.3%。
Al
2O
3成分:工業用のアルミナ、純度99%以上。
Fe
2O
3成分:工業用の酸化第二鉄、純度99%以上。
水:水道水。
【0023】
<測定方法>
焼成後に得られた生成物についての各種の特性の評価は次のようにして行った。
化合物の同定:粉末X線回折法(装置;粉末X線回折装置(マルチフレックス)、リガク社製)により化合物を同定した。
化学成分の定量:Al
2O
3成分、Fe
2O
3成分をJIS R 5202に準じて分析し、定量した。
色の観察:目視により白色の程度を判定した。200ルクスの照度の部屋で観察し、ブレーン比表面積で3000±100cm
2/gに調製した粉末の白色程度を観察した。白い場合は○、黄色い場合は△、褐色の場合は×とした。
凝結時間および圧縮強度:普通ポルトランドセメント90部に対して、β−2CaO・SiO
2やγ−2CaO・SiO
2をそれぞれ10部加えてセメント組成物とした。このセメント組成物を用いて、JIS R 5201に準じてモルタルを調製し、凝結の終結時間を測定した。また、材齢1日の圧縮強度も測定した。
【0024】
【表1】
【0025】
「実験例2」
原料のCaO/SiO
2モル比を2.0、Fe
2O
3含有量を0.3%、およびAl
2O
3含有量を1.4%に固定し、焼成帯のレンガやモルタルの化学組成を変えたこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0026】
<焼成帯の材質>
焼成帯の材質(5):Al
2O
3含有率45%、SiO
2含有率55%のシリカ−アルミナ質レンガ(市販品)。
焼成帯の材質(6):Al
2O
3含有率80%、SiO
2含有率20%のシリカ−アルミナ質レンガ(市販品)。
焼成帯の材質(7):MgO含有率85%のマグネシアレンガ(市販品)。
焼成帯の材質(8):MgO含有率95%のマグネシアレンガ(市販品)。
焼成帯の材質(9):Al
2O
3含有率95%、SiO
2含有率5%の高純度アルミナ質レンガ(市販品)。
焼成帯の材質(10):スピネル質レンガ(市販品)。
焼成帯の材質(11):上記(1)のレンガの内面に、マグネシア−スピネル耐火モルタル(ヨータイ社製、商品名ヨータイヒートセットM、最大粒径0.6mm)を、水/モルタルの質量比率が0.17にて、厚み7mmで塗布したもの。
焼成帯の材質(12):上記(1)のレンガの内面に、ハイアルミナ質モルタルAl
2O
390%以上(ヨータイ社製、商品名ヨータイヒートセットM、最大粒径0.5mm)を、水/モルタルの質量比率が0.17にて、厚み7mmで塗布したもの。
焼成帯の耐火モルタル(13):上記(1)のレンガの内面に、Al
2O
3含有率25%、SiO
2含有率75%のシリカ−アルミナ質モルタルを、水/モルタルの質量比率が0.33にて、厚み7mmで塗布したもの。
焼成帯の耐火モルタル(14):上記(1)のレンガの内面に、Al
2O
3含有率45%、SiO
2含有率55%のシリカ−アルミナ質モルタルを、水/モルタルの質量比率が0.33にて、厚み7mmで塗布したもの。
焼成帯の耐火モルタル(15):上記(1)のレンガの内面に、Al
2O
3含有率80%、SiO
2含有率20%のシリカ−アルミナ質モルタルを、水/モルタルの質量比率が0.33にて、厚み7mmで塗布したもの。
焼成帯の耐火モルタル(16):上記(1)のレンガの内面に、Al
2O
3含有率90%、SiO
2含有率10%の高純度アルミナ質耐火モルタルを、水/モルタルの質量比率が0.33にて、厚み7mmで塗布したもの。
焼成帯の耐火モルタル(17):上記(1)のレンガの内面に、Al
2O
3含有率96%、SiO
2含有率4%の高純度アルミナ質耐火モルタルを、水/モルタルの質量比率が0.33にて、厚み7mmで塗布したもの。
【0027】
表2中の材質の表示においては、例えば「Al45」は、Al
2O
3の含有率が45%の焼成帯の材質を意味し、「Mg85」は、MgOの含有率が85%の焼成帯の材質を意味する。他についても、同様の例示の仕方である。
【0028】
【表2】
【0029】
「実験例3」
従来技術との比較を行った。表3に示すように、従来からβ−2CaO・SiO
2を安定化させる元素として知られる、Fe
2O
3、Al
2O
3、BO
3、BaO、P
2O
5、SrO、またはMoO
3を表3に示す割合で配合した以外は、実験例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【0030】
【表3】
【0031】
「実験例4」
CaO原料とSiO
2原料のCaO/SiO
2モル比を表4に示すように変化したこと以外は、実験例1と同様に行った。結果を表4に示す。
【0032】
【表4】
【0033】
「実験例5」
熱処理温度を表5に示すように変化したこと以外は、実験例1と同様に行った。結果を表5に示す。
【0034】
【表5】
【0035】
「実験例6」
造粒の際の水比を表6に示すように変化したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表6に示す。
【0036】
【表6】