【実施例】
【0021】
図1に実施例と変形例及び従来例での液式鉛蓄電池の主要構成部分鉛直方向断面図を示し、表1,表2にその液式鉛蓄電池の性能を示す。
図1において、2は従来例の液式鉛蓄電池の、4は変形例の、6は実施例の主要構成部分である。8は負極板、9は正極板で、各々鉛−カルシウム−錫系あるいは鉛−カルシウム系の合金からなる一般的な格子に加えて、負極は海綿状鉛を含む活物質と、正極は二酸化鉛を含む活物質とで構成されている。各格子の製法は任意である。負極活物質はカーボンと、リグニン、合成樹脂繊維、硫酸バリウム等と鉛粉とから成る。カーボンの含有量である質量%は鉛粉の質量に対する比率である。正極活物質は二酸化鉛と合成樹脂繊維等から成る。正極活物質の組成は任意である。10はポリエチレン、あるいは抄紙等の微孔性セパレータ(微孔性の薄膜シート)で、材質は電解液である希硫酸に耐える耐酸性で、かつ耐酸化性に優れるものであれば任意である。また、12は多孔性の弾性シートで、例えばガラス繊維シートである。セパレータ10は袋状で、セパレータ10内に負極板8が収納されているが、袋状でなくても良く、また袋状で正極板9を収納していても良い。弾性シート12を欠き、負極板8に圧迫力を加えない蓄電池2が従来例で、弾性シート12が正極板9に当接する蓄電池4が変形例、弾性シート12が負極板8に当接する蓄電池6が実施例である。なお実施例と変形例は、セパレータ10と弾性シート12の配置以外は同じである。また弾性シート12は負極板8もしくは正極板9の表面に直接に接触し、圧迫力により極板8,9の表面の凹凸にフィットするように変形して密着している。極板8,9は厚さ方向に沿って対向し、極板8,9間に弾性シート12とセパレータ10とが有る。
【0022】
なおセパレータ10は正極板9に当接する図示しないリブを備えるのが通常であるが、備えていないものでも良い。また電解液は希硫酸から成るが、アルカリ金属イオン、アルミニウムイオン等を含有していても良い。
【0023】
変形例及び実施例では、負極活物質は導電性カーボン、例えばカーボンブラックを含有し、弾性シート12から負極板8と正極板9とに圧迫力が加わっている。
図1に主要構成を示した蓄電池はいずれも液式で、負極板8と正極板9とが十分な電解液に浸され、極板8,9の上部、側面及び底面と電槽との隙間等が、電解液が流動するスペースとなる。蓄電池の主要構成が実施例あるいは変形例と同じでも、負極板8へ圧迫力を加えていないものを比較例とする。
【0024】
鉛蓄電池の試作
PSOC寿命性能とカーボンの流出の有無とを評価するために、鉛蓄電池(従来例、比較例、変形例、実施例)を作製した。平均1次粒子径が40nmのカーボンブラックの含有量を0.3質量%から10質量%の範囲で変化させ、リグニン0.2質量%、硫酸バリウム0.5質量%、合成樹脂繊維0.1質量%を含有し、残部が鉛粉となるように、負極活物質原料を調製した。これに水と硫酸とを加えてペースト化し、鉛−カルシウム−錫系合金から成る負極格子に塗布して熟成及び乾燥させて、厚さ1.5mmの負極板とした。0.1質量%の合成樹脂繊維と99.9質量%の鉛粉とを混合し、水と硫酸とを加えてペースト化し、鉛−カルシウム−錫系合金から成る正極格子に塗布して熟成及び乾燥させて、厚さ1.7mmの正極板とした。実施例では、負極板の両面に厚さ0.8mmのガラス繊維シートから成る弾性シートが当接し、その外側を厚さ0.6mmのポリエチレンセパレータが取り囲むようにし、変形例では、正極板の両面に前記の弾性シートが当接し、負極板を前記のセパレータが取り囲むようにした。負極板5枚を互いにストラップにより溶接し、正極板4枚を互いにストラップにより溶接し、負極板と正極板とが互いにサンドイッチされるようにして極板群とし、電槽に収容した。この時、弾性シートが圧縮されて負極板に圧迫力が加わるようにし、圧迫力は負極板の中央部に取り付けた圧力センサ(ニッタ株式会社製 商品名FlexiForce)で測定し、製造後の圧迫力が目標値となるように組み立てた。極板群を収容した電槽に、化成後の比重が1.28となるように、電解液である希硫酸を注入し、電槽化成を行った。なお、電槽の材質としては、中の電解液が側面から観察できるように透明のアクリル樹脂板で構成したものとした。
【0025】
弾性シートは、例えば直径が10μm以上100μm以下のC級ガラスの繊維のマットで、電解液中で弾性変形可能であるととも、耐酸性を有している。また、弾性シートは、例えば、多孔度が90%より大きく95%以下で、平均孔径は100μm以上、厚さは0.35mm以上1mm以下が好ましい。実施例では多孔度が93%、平均孔径が120μm、厚さが0.5mm、繊維径が19μmとした。なお多孔度と平均孔径は島津製作所製の細孔分布測定装置”オートポア1119405”により測定し、繊維径は日本電子製の走査電子顕微鏡(JSM-T 330A)により100本の平均を上記繊維径として測定した。本発明の弾性シートに類似のものとして、制御弁式鉛蓄電池に用いるリテイナーマットがあり、これは繊維径が0.5μm以上5μm以下で、例えば0.8μmのガラス繊維を用い、多孔度が80%以上90%以下、最大孔径が30μm以下で平均孔径が5〜10μm、厚さが0.5mm以上1.2mm以下の緻密なマットである。本発明の弾性シートは、リテイナーマットに比べ多孔度が高く、かつ平均孔径が大きいので、弾性シート内での電解液の流動性が高い。従ってイオン伝導性に優れ、蓄電池の内部抵抗が小さい。またポリエチレンセパレータは、例えば多孔度が50%以上60%以下、最大孔径が1μm以下で、平均孔径が0.05μm以上1μm以下、厚さが0.15mm以上0.25mm以下のものを用いることができる。なおセパレータの厚さはリブ以外の部分の厚さである。セパレータを弾性シートに比べて薄くすることにより、蓄電池をコンパクトにすると共に、内部抵抗が増加しないようにし、平均孔径を小さくすることにより、正極板と負極板との短絡を防止する。さらにセパレータに比べて弾性があり変形しやすい弾性シートを負極板表面に直接に当接させることにより、弾性シートが負極板に密着する面積を増し、カーボンの流出をより確実に防止する。
【0026】
試験方法
従来例、比較例、変形例、実施例の蓄電池を、カーボン含有量、圧迫力毎に3個ずつ試作し、負極板に取り付けた圧力センサにより圧迫力を測定し、圧力センサを取り外してから以下の試験を行った。蓄電池を25℃の水槽に入れ、1時間率電流を1CAとし、最初に移行放電として1CA×6分間放電し、以降はサイクル充放電として、1CA×18分間の放電と1CA×18分間の充電とを繰り返し、18分間の放電中に出力電圧が1.0V以下となると寿命とし、寿命までのサイクル数を測定した。また寿命時の電解液の濁り具合を観察した。
【0027】
試験結果
試験結果を表1,表2に示し、寿命性能は3個の蓄電池の平均値で示し、カーボン含有量が0.3質量%で、弾性シートのない従来例を100とする相対値で示す。電解液の濁り具合は目視でかなり濁っているものを×とした。また濁りがあるが軽微で、電槽の側面から内部の極板群が視認でき、液面レベルが電槽の透明窓から視認できるものを○、ほとんど濁らないものを◎とした。そして総合判定では、濁り具合が○または◎で、寿命性能が120以上〜140未満のものを○とし、濁り具合が◎で、寿命性能が140以上のものを◎とした。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
負極板に圧迫力を加えることにより、電解液の濁り具合と寿命性能が改善される傾向があることが示された。また、圧迫力が大きくなるにしたがって、その傾向が顕著であることも示された。さらに、カーボン含有量が5.5質量%のものは、圧迫力を加えても濁りが見られたため、カーボン含有量は5.5質量%未満、さらには5%以下とするのが本発明の効果が顕著なので好ましい。また、カーボン含有量が10質量%以上のものについても、寿命性能が改善する傾向が見られた。そして、濁り具合の改善は、目視では確認できなかったが、寿命性能が改善したことから、カーボン流出は抑制されたと思われる。
【0031】
試料No.2〜5に示すように、カーボン含有量が0.5質量%未満の場合、圧迫力を加えたとしても寿命性能の向上レベルは0.5質量%以上の場合と比べて小さかった。寿命性能の向上はカーボン含有量が0.5質量%以上で著しくなったが(試料No.7〜11)、圧迫力が10kPa未満の場合は極く小さかった(試料No.6,19)。圧迫力とカーボン含有量とが同じでも、弾性シートが負極板に当接すると(試料No.13〜17等)、正極板に当接する場合(試料No.7〜11等)よりも寿命性能が高く、かつ濁り具合が少なかった。
【0032】
負極板に弾性シートが当接する場合、カーボン含有量が1.5質量%程度で寿命性能が最大となり(試料No.39〜43)、正極板に弾性シートが当接する場合、カーボン含有量が2.0質量%程度で寿命性能が最大となった(試料No.46〜50)。一方カーボン含有量を10質量%とすると、負極活物質が脆くなるため、圧迫力による変形または試験中の膨張収縮による崩壊が生じ、寿命性能は100以下に低下し、電解液の濁りも著しかった(試料No.71〜76、78〜82)。
【0033】
圧迫力は10kPa以上で効果が顕著であるが、20kPa以上100kPa以下がより好ましく、40kPa以上100kPa以下が特に好ましい。なお300kPaの圧迫力を加えると、電槽に割れが発生した。
【0034】
以上のように実施例では、負極板に圧迫力を加えることにより、カーボンが負極活物質から流出する現象が抑制された。これにより、従来よりも過剰のカーボンを加えることが可能になり、負極のサルフェーションを抑制して、PSOC用途での鉛蓄電池の寿命性能を向上させることができる。
【0035】
第2の変形例
図2に第2の変形例での液式鉛蓄電池の主要構成部分20を示し、
図1と同じ記号は同じものを表し、
図1の最適実施例に対して、弾性シート12’を微孔性セパレータ10と正極板9との間にも追加する。追加の弾性シート12’は正極板9に当接して、正極活物質が正極板9から脱落することを防止する。また追加の弾性シート12’は、充電時に正極活物質からの析出物が微孔性セパレータ10に接触することを防止することにより、微孔性セパレータ10の劣化を防止する。なお微孔性セパレータ10を、負極板8を収納する代わりに、図の鎖線10’で示すように変更し、正極板9を収納しても良い。
【0036】
電池システム
図3に実施例の電池システムを示し、矢印は信号の流れを、矢印の無い線は電力とエンジンの動力の伝達とを示す。電池システムはアイドリングストップ車等の、蓄電池をPSOCで使用する車両に適し、22は実施例の液式の鉛蓄電池、24は電池システムの制御装置、26はエンジン、28はエンジン26の駆動力により発電するオールタネータ、30は、電装品、点火プラグ、スタータモータ等の負荷、32はアイドリングストップ車全体を制御する主制御部である。そして鉛蓄電池22と制御装置24により、電池システムを構成する。主制御部32はエンジン26とオールタネータ28と負荷30とを制御し、制御装置24は鉛蓄電池22の充放電と負荷30への電力の供給とを制御する。自動車が走行を停止すると、主制御部32は自動的にエンジン26を停止させ、これに伴いオールタネータ28も停止する。オールタネータ28の停止時に、鉛蓄電池22の電力により負荷30を駆動し、エンジン26を再起動する場合、主制御部32は自動的にスタータモータを起動し、鉛蓄電池22から必要な電力をスタータモータと点火プラグに供給する。自動車が再走行し、オールタネータ28から充分な電力が得られるようになると、オールタネータ28の電力により鉛蓄電池22を充電すると共に、負荷30を駆動する。
【0037】
このような電池システムでは、鉛蓄電池22は放電される機会が増すと共に充電される機会が減少するので、優れたPSOC寿命性能が必要である。この一方で、過充電への耐久性は重要性が低下する。また液式の鉛蓄電池なので補水等のために、電解液の液面を識別できることが必要である。実施例の鉛蓄電池22では、PSOCでの寿命性能が高く、また電解液の濁りが少ないので、アイドリングストップ車に適した電池システムが得られる。また、このような電池システムでは、鉛蓄電池22は、過充電状態になる機会が少ない。そのため、正極板9に微孔性セパレータ10を接触させても、微孔性セパレータ10の酸化による劣化が抑制されるので、アイドリングストップ車に適した電池システムが得られる。