特許第5867810号(P5867810)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5867810広帯域の光を捕捉するための垂直積層プラズモン金属ディスクアレイ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5867810
(24)【登録日】2016年1月15日
(45)【発行日】2016年2月24日
(54)【発明の名称】広帯域の光を捕捉するための垂直積層プラズモン金属ディスクアレイ
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/054 20140101AFI20160210BHJP
【FI】
   H01L31/04 620
【請求項の数】20
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-279027(P2011-279027)
(22)【出願日】2011年12月20日
(65)【公開番号】特開2013-232444(P2013-232444A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2014年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】ジュンスブ ウィ
(72)【発明者】
【氏名】長尾 忠昭
(72)【発明者】
【氏名】マスッド ラナ
【審査官】 井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−008990(JP,A)
【文献】 特開2001−350126(JP,A)
【文献】 Jung-Sub Wi et al.,Porous gold nanodisks with multiple internal hot spots,Phys. Chem. Chem. Phys,2012年,Vol.14 ,PP.9131-9136
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02−31/078、31/18−31/20、
51/42−51/48
H02S 10/00−50/15
G02F 1/00
G02B 5/20
G02B 5/26
G02B 5/28
IEEE Xplore
CiNii
ACS PUBLICATIONS
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の異なるサイズを有することにより異なる表面プラズモン共鳴周波数を有するディスクの積層であって、基板上へ配置され、前記ディスクはプラズモン金属で構成されるとともに、前記基板から離れるにつれてディスクサイズが小さくなるように前記基板に垂直方向に積層され、かつ前記ディスクが相互に垂直方向に積層され、前記ディスクの各隣接ペア間には絶縁材からなるスペーサーが設けられている、積層。
【請求項2】
前記プラズモン金属はAu、Ag、Al、Cu、およびPtで構成されるグループから選択される、請求項1に記載の積層。
【請求項3】
前記絶縁材はSiOである、請求項1又は2に記載の積層。
【請求項4】
1つの層が前記ディスクと前記スペーサーとの間の各界面に配置され、それらの間の接着性を増加させる、請求項1乃至3のいずれかに記載の積層。
【請求項5】
前記層はCrで構成される、請求項4に記載の積層。
【請求項6】
前記ディスクの直径は1nmないし1000nmである、請求項1乃至5のいずれかに記載の積層。
【請求項7】
前記ディスクの厚さは1nmないし500nmである、請求項1乃至6のいずれかに記載の積層。
【請求項8】
前記ディスクのうち隣接するディスク間の分離距離は、1nmないし500nmである、請求項1乃至7のいずれかに記載の積層。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載された前記複数の異なるサイズのディスクの積層からなるアレイ
【請求項10】
前記積層のピッチは1nmないし10000nmである、請求項9に記載のアレイ。
【請求項11】
絶縁材からなるスペーサーを差し込んで複数の異なるサイズのプラズモン金属からなり、前記複数の異なるサイズを有することにより異なる表面プラズモン共鳴周波数を有するディスクの積層を作製する方法であって、以下のステップを含む方法。
(a)1つの孔を持つポリマーの薄膜を基板上へ配置する;
(b)前記ディスクの材料および前記スペーサーの材料をスパッタリングおよび/または蒸着することによって、所定数の前記ディスクおよび前記スペーサーがスパッタリングされるまで、前記薄膜上及び前記孔の縁へ、並びに前記孔を介して前記基板上へ繰り返し堆積する;
(c)前記薄膜を剥離して、スペーサーを差し込んで複数の異なるサイズのディスクの積層を前記孔のなかへ堆積したものを後へ残す。
【請求項12】
前記プラズモン金属は、Au、Ag、Al、Cu、およびPtで構成されるグループのから選択される、請求項11に記載の方法
【請求項13】
前記絶縁材はSiOである、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記ディスクと前記スペーサーとの間の各界面に1つの層を堆積して、それらの間の接着性を増加させるために、他の材料をスパッタリングおよび/または蒸着するステップをさらに含む、請求項11乃至13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記ディスクの前記材料はAu、前記スペーサーの前記材料はSiO、前記他の材料はCrである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
その後に行うイオンミリングのための硬質マスクの材料を堆積するステップをさらに含む、請求項11乃至15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記イオンミリングはArイオンミリングである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記硬質マスクの前記材料はCrである、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
等方的エッチングという方法によって部分的に前記スペーサーを除去するステップをさらに含む、請求項11乃至18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記スペーサーはSiOから作製し、前記等方的エッチングは希釈したフッ化水素酸を用いた湿式エッチングである、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面プラズモン共鳴を利用して広帯域の光を捕捉するための垂直積層プラズモン金属(例えばAu)ディスクアレイ、および、そのようなディスクアレイを作製する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光を電力に変換するための太陽光発電(PV)セルは、我々が今世紀に直面しているエネルギーおよび環境問題を解決するために最も有望な選択肢の1つである。Si太陽電池の普及を促進するに当たって、考慮すべき大きな問題であるエネルギー変換効率およびシリコン(Si)消費の観点から太陽光スペクトルのうち600−1100nmのスペクトル帯域の成分の光がとりわけ重要である。何故なら、太陽光スペクトルのうち、このスペクトル帯域の光に対するSiの吸収性が低いからである。Atwaterらの最近の論文において良く説明されている通り(非特許文献1および2を参照)、これまでのSi太陽電池は、波長600−1100nmの光を捕捉するためには、200−300μm厚のSi薄膜を必要としていた。一方、この太陽光スペクトルの残余部分は、僅かおよそ2μm厚のSi薄膜を通しても吸収され得る。高効率の太陽電池を安価に作製するためには、厚いSi薄膜を必要とする太陽電池は非実用的である。
【0003】
プラズモン金属ナノ構造を太陽電池と組み合わせて光の吸収を増加させ、Si厚を最小化する方法は、過去2、3年間に広範に研究されてきた(非特許文献1−6を参照)。金属ナノ構造による光の吸収増加は、表面プラズモンポラリトンとして知られる「光」と「金属表面における自由電子の集団振動」とのハイブリダイゼーション(結合)によって誘起される。このプラズモン相互作用は、金属ナノ構造と励起光の特定波長との寸法共鳴(dimensional resonance)によって大きく影響される故に、球、ディスク、あるいはロッドといった特定の形状を持つ単一のナノ構造は、それ自体の表面プラズモン共鳴波長(あるいは、表面プラズモン共鳴周波数)を持つ。従って、単一タイプのナノ構造(すなわち、単一の形状、サイズ、および材料)のみで構成された物体は、単一の共鳴波長の近傍の波長をもつ光を捕捉するために有効である。一般に、光の吸収増加は主として共鳴波長より長い波長において観察される。そのスペクトル幅は、およそ100nmである(非特許文献7−9を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、類似タイプのナノ構造よりも高い入射光利用効率をもって、より広い波長範囲の光を捕捉する表面プラズモン共鳴を利用して、改良されたナノ構造を提供すると共に、その製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、基板上へ配置された複数の異なるサイズのディスクの積層が提供される。それらのディスクは金属で構成されている。隣接する2つのディスクの間には、それぞれスペースが配置される。
前記金属ディスクは、Au、Ag、Al、Cu、およびPtで構成されるグループのなかから選択してもよい。
前記スペースは、少なくとも部分的には絶縁材で充填してもよい。
前記絶縁材は、SiOであってよい。
1つの層が前記ディスクと絶縁材との間の各界面に配置され、それらの間の接着性を増加させてもよい。
前記層は、Crで構成してもよい。
前記ディスクの直径は、1nmないし1000nmであってよい。
前記ディスクの厚さは、1nmないし500nmであってよい。
隣接する前記ディスク間の分離距離は、1nmないし500nmであってよい。
本発明の別の態様によれば、上に示したような複数の異なるサイズのディスクの積層のアレイが提供される。
この積層は、1nmないし10000nmであってよい。
本発明の別の態様によれば、スペーサーを差し込んで複数の異なるサイズのディスクの積層を作製する方法が提供される。この作製法は、以下のステップで構成される。
(a)1つの孔を持つポリマーの薄膜を基板上へ配置する;
(b)前記ディスクの材料および前記スペーサーの材料をスパッタリングおよび/または蒸着することによって、所定数の前記ディスクおよび前記スペーサーがスパッタリングされるまで、前記薄膜上へ繰り返し堆積する;
(c)前記薄膜を剥離して、スペーサーを差し込んだ複数の異なるサイズのディスクの積層を前記孔のなかへ堆積したものを残す。
前記ディスクの前記材料は、金属であり、前記スペーサーの前記材料は、絶縁材であってよい。
前記金属は、Au、Ag、Al、Cu、およびPtで構成されるグループのなかから選択してもよい。
前記絶縁材は、SiOであってよい。
この方法は、前記ディスクと前記スペーサーとの間の各界面に1つの層を堆積して、それらの間の接着性を増加させるために、他の材料をスパッタリングおよび/または蒸着するステップをさらに含んでもよい。
前記ディスクの前記材料はAu、前記スペーサーの前記材料はSiO、前記他の材料はCrであってよい。
この方法は、その後に行うイオンミリングのための硬質マスクの材料を堆積するステップをさらに含んでもよい。
前記イオンミリングは、Arイオンミリングであってよい。
前記硬質マスクの前記材料は、Crであってよい。
この方法は、等方的にエッチングすることによって部分的に前記スペーサーを除去するステップをさらに含んでもよい。
前記スペーサーは、SiOから作製することができ、前記アイソメトリック(等方的)エッチングは、希釈したフッ化水素酸を用いた湿式エッチングであることができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によって、より少量のSi消費で高効率の太陽電池を提供することができる。より具体的には、本発明は ナノメートル台以下の極めて薄い区域に集光することができる光増強材料を実現する。本発明の材料を例えば太陽電池に組み込むことによって、より少量の原材料を使用しつつ高効率の太陽電池が得られる。更に、本発明の材料を使用する太陽電池の厚さを引き下げることができる。そのようなデバイスは柔軟なものになる傾向がある。本発明の更なる利点は、本発明による材料の光増強性を利用することによって、感度の高いCCDデバイスなどの光電デバイスを提供することができることである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】(a)直径が80、140、および200nmで20nm厚の単一Auディスクにおける正規化された吸収(一点鎖線)、散乱(点線)、および消散(実線)断面積に関する3次元有限差分時間領域法(FDTD)によるシミュレーションの結果、(b)これと同じサイズで20nm厚のSiO中間層を持つ垂直積層Auディスクにおける対応する結果、(c)波長590nm(左)および820nm(右)の入射光に対する3層Auディスクにおける局所電場振幅の二乗強度の分布に関するFDTDシミュレーション結果。入射光および偏光の方向は、それぞれ一方向の矢印、二方向の矢印で表す。
図2】(a)本発明による作製プロセスの模式図。複数層のCr、Au、およびSiOがリソグラフィでパターン形成したポリマーの孔のアレイ上へ堆積された。剥離した後、ディスクの端面に残った金属残渣は、Arプラズマによってイオンミリングされた。次いで、頂部表面のCrおよびディスク周辺部のSiOが湿式化学溶液でエッチングされた。(b)〜(f)直径が(b)250(底部)/170(中間部)/90(頂部)nm、(c)200/140/80nm、(d)180/110/40nm、(e)160/90/<10nmの3層AuディスクのSEMイメージ。(f)図2(b)の低倍率イメージ。Auディスクのピッチは1μm。
図3】(a)裸のSiウェハと対比して図2(f)の3層Auディスクアレイの散乱強度比を示す図。連続太線は目視上のガイドであり、挿入図は散乱特性を分析するためのビーム経路を示すものである。(b)Si基板上の3層、2層、および単層のディスクにおけるシミュレートされた散乱スペクトルを示す図。何れも裸のSiウェハにおけるシミュレートされた散乱スペクトルで除した値である。3層Auディスクの諸元は図1(b)と同一である。他の2つのナノ構造をモデル化するために、3層ディスクの同一構成要素が使用された。すなわち、単層Auディスクに関しては底部Au層、2層ディスクに関しては隣接する2つのAu層を持つ下部SiO層である。(c)波長が620nm(上)および890nm(下)の入射光に対する単位体積当たりの吸収損失を示す図。入射光および偏光の方向は、それぞれ一方向の矢印、二方向の矢印で表す。左側および右側のイメージは、それぞれSi基板上の3層および単層のAuディスクを示す。
図4】タッピングモードの原子間力顕微鏡(AFM)から得られた3層Auディスクのトポグラフィのイメージを示す図。AFMイメージのなかの尺度バーは1μm(左)および200nm(右)である。
図5】3層に垂直配置された異なるサイズのAuディスクの積層を作製するプロセスを示す図。そのような積層は、単一電子ビームリソグラフィ、および、それに引き続くスパッタリング堆積によって簡単に生成される。これで、近接した単一共鳴波長を持つ内部ディスクの個別的なスペクトルのウィンドウを併合して、複数の共鳴波長を包含する1つの広帯域ウィンドウにすることによって、プラズモン励起のためのスペクトルのウィンドウを拡大する。図5の下部は、図5の上部に示されたプロセスによって作製された各種サイズの積層を上から見たところを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、近接した単一共鳴波長から複数の共鳴波長を包含するものへとプラズモン励起のためのスペクトルのウィンドウを拡大する簡単な構造を提供する。これは、Au、Ag、Al、Cu、およびPtを含むあらゆる種類のプラズモン共鳴を示す金属から作製され、僅かにスペースを空けて配置した幾つかのディスクで構成されるプラズモンナノ構造を創り出すことによって行われる。以下においてはAuのみがプラズモン金属として言及されているが、Auは単にプラズモン金属の典型的な一例であり、他の何れのプラズモン金属によっても代替することができることに注意しなければならない。また、本発明において「ディスク」とは円形のディスクに制限されるものではなく、如何なる形状のものでも良いことにも注意しなければならない。当発明者が知る限りにおいて、本発明は、一般に使用されている2次元形態を採用する代わりに、入射太陽光との広帯域における相互作用のために複数の異なるサイズのAuディスクの垂直積層が配置されているという点で、新規のものである。本発明は、3つのAuディスクを持つ特定の積層によって、一般性を失うことなく説明される。
【0009】
Auディスクを積層する効果を評価するための第1ステップとして行った、3次元有限差分時間領域法(FDTD)によるシミュレーションの結果が示されている。このシミュレーションのために使用されたツールとセットアップは、明細書の末尾近くで説明されている。図1(a)は、直径が80、140、および200nmで20nm厚の単一Auディスクにおける正規化された吸収(一点鎖線)、散乱(点線)、および消散(実線)断面積を示す。図1(a)に示された鋭いピークによって明白に確認される通り、入射光と単一Auディスク間のプラズモン相互作用は、それらの共鳴波長の近傍に制限されている。本発明においては、そのような単一ディスクを相互に近接して配置することによって、それぞれの個別的なスペクトルのウィンドウを併合して、1つの広帯域ウィンドウにする。図1(b)のなかの挿入図は積層Au複数層ディスクを例示している。個別的な内部ディスクの諸元は、図1(a)に示された単一ディスクと同一である。隣接するディスクは、例えば20nm厚のSiO中間層といったスペーサーによって分離されている。SiO以外の材料も、それらが光に対して透明で電気絶縁特性を持っている限り、スペーサーとして使用することができる。図1(b)の3層Auディスクの消散曲線は、3つの顕著なピークを波長580、680、および840nmにおいて明白に示している。密に積層したディスクの近接場電磁カップリングの故に、3つの散乱ピークの位置は孤立した単一ディスクにおける当初位置から若干、赤側へシフトしている。同じ理由から、2つの吸収ピークが波長580および820nmにおいて発現している。図1(c)に示された|E/Eのマップにおいて、EおよびEは、それぞれ入射電場および増強電場の振幅を表しているが、このマップは、局所増強電場が隣接したAuディスク間にあることを示している。これはプラズモン増強センサーにおける応用に役立つ可能性がある(非特許文献10−13を参照)。また、有機分子によるプラズモン支援光電流の発生における応用にも役立つであろう(非特許文献14および15を参照)。
【0010】
Auディスク間のプラズモンカップリングは、隣接ディスク間のスペースの取り方を変えることによって調整することができる。SiO層の厚さを増加させることによって、Auディスク間のカップリングが次第に切り離される。それに伴って、吸収ピークの強度および散乱ピークのシフトは、表1に示した通り、何れも低下する。この表は、各種の中間SiO層を持つ3層Auディスクにおける散乱ピークの位置を示している。中間SiO層の厚さは、15から40nmにまで変化した。Auディスク自体の諸元は変更していない(直径=80(頂部)、140(中間)、200(底部)nm、何れも厚さ=20nm)。表1は、何故に散乱ピークがシフトするのかを理解するために挿入されたものである。この現象は、光の吸収におけるスペクトルの範囲を調整するために利用することができる。ディスク径、ディスク厚、およびディスク分離の望ましい範囲は、それぞれ1nmから1000nm、1nmから500nm、および1nmから500nmであろう。
【0011】
【表1】
【0012】
このようなシミュレーション結果を基にして、3層Auディスクは、単一ディスクよりも広範なスペクトル帯域の光と相互作用するものと期待される。加えて、太陽電池表面における金属ナノ構造の面積密度に関しても、垂直積層Auディスクは、横方向に分散配置したディスクよりも望ましい。これは、余りに数多くの金属ナノ構造を太陽電池上に設けると、シャドウイングの問題が発生する故である(非特許文献8を参照)。
【0013】
複数層Auナノ構造を形成するためには、図2(a)に示された作製プロセスを使用することができる。図2(a)に示された通り、スパッタリングプロセスによる薄膜堆積においては常に、パターン形成されたポリマー孔の周辺にオーバーハング構造が発展する。これはスパッタリングされた原子の一部が途中で散乱して垂直方向以外の方向からも入射してくる故である。このため、金属剥離プロセスにおいては一般に、スパッタリングプロセスの代わりに、電子ビームあるいは熱蒸着が使用される。これは、リソグラフィによって形成されたパターンの当初の形状とサイズを維持するためである。本発明においては、異なるサイズを持つAuディスクの垂直積層を形成するために、オーバーハング構造によるパターン形成孔の連続的な収縮が意図的に採用された。この目的のために、図2(a)に示された通り、Au、SiO、およびCrの複数層がスパッタリングによって堆積された。20nm厚のAuおよびSiOが真空破壊を行うことなく、交互に堆積された。Auの接着を改善するために、2nm厚のCr層もAuとSiO層間の各界面へ組み込まれた。Crは金属ナノ構造の光学特性を劣化させると知られているので(非特許文献16および17を参照)、界面Crの厚さは最小化した。しかしながら、頂部表面においては、10nm厚のCrが堆積された。これは、その後に行うArイオンミリングのための硬質マスクとして使用するためである。このArイオンミリングは、スパッタリング堆積が行なわれ、更に剥離が行なわれた後、Auディスクの周辺に残った金属残渣を取り除くために実施されるものである。スパッタリング堆積が行なわれている間、スパッタリング堆積される原子の蒸気相における散乱および表面拡散によって、薄膜堆積という形態で金属残渣が生成される。それはパターン形成された呼称直径を超えて伸長する(非特許文献13および18を参照)。このプロセスの詳細は、明細書の末尾近くで説明されている。
【0014】
言うまでもないが、図2(a)に示された基板は特別の構造を持たない単純な基板として描かれてはいるが、これは単に説明の単純化のためである。もしも本発明のAuディスクの積層が太陽電池に適用されたとすれば、基板は太陽電池に適した構造を持っている筈である。もしもAuディスクの積層が他の用途で使用されたとすれば、そのような用途に応じた構造を基板は持つことになる。加えて、上の説明においてはスパッタリングプロセスが層を堆積するために使用されているが、図2(a)に示されたようなオーバーハング構造が当該プロセスにおいて成長する限り、蒸着など他のプロセスも、スパッタリングプロセスの代わりに、あるいは、それと組み合わせて使用することができる。
【0015】
図2(b)〜(f)に示された走査電子顕微鏡(SEM)イメージは、Arイオンミリングを行い、更にCrおよびSiOの湿式化学エッチングを行った後で観察されたものである。このイメージは、階段状およびテラス状の3層Auディスクが成功裏に生成されたことを示している。中間SiOの周辺は、希釈したフッ化水素(HF)酸(1%の水溶液)を用いたエッチングで削り取られている。これはAuディスクの端面が明瞭に表れていることで確認される通りである。しかしながら、サンプルが長時間(30分を超える)にわたってエッチングされない限り、SiOの中央部は残って、隣接したAuディスク間において所定の分離を維持する。そのような中間SiOの部分的エッチングは、このSiO層が極めて薄いため、HF酸への暴露が制限され、エッチング速度が低下する故であろうと考えられる。
【0016】
加えて、図2(a)はただ1つのディスクを示しているに過ぎないが、図2(f)に示された低倍率のSEMイメージは、数多くの垂直積層ディスクのアレイが1つの基板上へ配置されているところを示している。積層ディスク間の好ましい空きスペースの範囲は、積層ディスクの横幅の0.1ないし10倍である。図2(c)に示された特定の例においては、好ましいスペース設定の範囲は20nmから2000nmである。より一般的に述べると、望ましいスペース設定の範囲は1nmから10000nmである。
【0017】
図4に示されている通り、原子間力顕微鏡(AFM)から得られたトポグラフィのデータは、各階層の段差がAu、SiO、およびCr層の厚さの合計と良く適合していることを示している。ここで提案している作製プロセスにおいては、各内部ディスクの中心軸は自己整合される。この点で、すべての基板のパターンを整合させるためには細心の注意を払って行うステップを必要とする電子ビームによるリソグラフィの一般的なプロセスとは大きく異なる。
【0018】
更に、図2(b)〜(e)にある一連のSEMイメージに示されている通り、Auナノ構造の諸元を変えて、例えばSi 太陽電池へのSi反射防止層の挿入などのような周辺の誘電条件の変化に共鳴周波数を適合させることが可能である。それは単に、底部ディスクの直径を規定するレジスト孔のサイズを調整することで実行することができる。
【0019】
入射光との広域相互作用に関する3層Auディスクアレイの有用性を実証するために、図2(f)に示されたナノ構造のサンプルから得られた散乱スペクトルが分析された。UV−NIR光源を用いる共焦点顕微鏡を使用して、散乱強度を観察した。サンプルは、図3(a)の挿入図に示されている通り、過度に強い反射光を排除するために、入射光の方向に対して斜めに(およそ30°)傾けて搭載した。Auナノ構造の効果を分離するために、3層Auディスクアレイから得られた散乱スペクトルは、Auディスクの面積比(全表面積の約4%)でウエイトを付けた上で、裸のSi表面からの散乱スペクトルによって除された。結果は、図3(a)に示されている通りである。
【0020】
第1に、図3(a)は明白に、本発明によるAuナノ構造においては、裸のSiに比して、より強い散乱が広い波長範囲にわたって得られることを示している。加えて、図3(a)に示された3つの顕著なピークは、図1(b)に示されたシミュレーションによる散乱スペクトルにおける3つの極大値に対応している。但し、かなり大きな赤側へのシフトがあるが、これはSi基板が高指数である故である。周辺の誘電条件の影響は、Si基板上の3層Auディスクのアレイをモデル化した別のFDTDシミュレーションによって確認された(シミュレーションの詳細は実験のセクションにおいて示す)。図3(b)に示されている通り、Si基板上の3層Auディスクから得られた散乱曲線は、上と同じく裸のSi表面の散乱スペクトルで除した形にすると、3つの特徴的なピークを示している。そのようなピークの位置は、図3(a)の実験データに極めて近い。図3(b)の他の2つの曲線は、Si基板上の2層および単層のAuディスクに関するシミュレーションによって得られた散乱スペクトルを表す。それは、ピークの個数および位置は内部Auディスクの個数と諸元によって決定されることを示している。また、2層および3層ディスクの散乱強度は単一ディスクに比して大幅に改善されることは注目に値する。
【0021】
図3(a),(b)に見られる実験データとシミュレーションデータ間の残余の差異は、恐らく残存Crの影響、イオンミリングプロセスで粗になった金属表面、および、不正確なSiO量の見積りに起因するものであろうと信じられる。FDTDシミュレーションのモデルにおいては、SiOの直径は当該SiO層の直ぐ上にあるAuディスクの直径の45%であると想定された。残存Crおよび粗になった表面が影響を与える可能性は何れもモデルにおいては考慮されなかった。これは複雑さを制限し、過剰な調整パラメータの個数を減らすためである。
【0022】
最後に、図3(a),(b)に示された測定上および計算上の散乱強度は、何れも空気中でモニターされたものであり、すべての散乱のうちの僅かな部分のみを表すものであることに注意するべきである。何故なら、プラズモン型のナノ構造によって散乱される光子は選択的に高指数基板の方向へ向きが変えられるからである(非特許文献1および4を参照)。これは疑問の余地なく、光のエネルギーの効率的な吸収にとって有利なことである。目に見える実例として、単位体積当たりの吸収損失に関する2次元プロットが図3(c)に示されている。これはポインティング・ベクトル(Poynting vector)の発散から計算されたものであり(非特許文献19を参照)、入射光はAuナノ構造の下にあるSiのなかへ集中的に吸収されることを実証している。更に、複数層構造(図3(c)の左側のイメージ)の方が単層プラズモン構造(図3(c)の右側のイメージ)よりも、光をより大きな範囲へと送り込む故に、光のエネルギー吸収のために、より効果的であることは明白である。これはまた、図3(b)に関連して上で検討した散乱強度とも整合している。そのような事実は明白に、旧来の2次元パターンに比して、3次元積層プラズモン構造を使用する利点を指し示すものである。具体的な設計要素、例えばAuナノ構造の面積密度や諸元、あるいは、実用太陽電池において、それらを配置する位置などは、高効率で光を捕集するために更なる最適化が可能であろう。
【実施例】
【0023】
リソグラフィとスパッタリング堆積というシンプルなステップを踏むことで3層Auディスクを作るこの作製プロセスの実施例を以下で説明する。Au/SiOの複数層のスパッタリング堆積、および、それがオーバーハングしているという構造は、Auディスクの直径の自己調整を可能にする。また、それらの中心軸の自己整合をも可能にする。単一プラズモン型のナノ構造に比して、3層Auディスクは、広帯域のスペクトル帯域を持つ光との強い相互作用を示す。これは数値的な電磁シミュレーションによって検証されている。また、それは、図1および3に示したような相対的な散乱特性の直接観察によっても検証されている。そのような結果を考慮すると、本発明によるAuナノ構造は、広帯域の光を収穫することを通じて、高効率のSi太陽電池にとって有用なものになると期待される。
【0024】
[3層Auディスクの作製]
2層のレジスト積層を作るために、100nm厚のポリメチルグルタルイミド(polymethylglutarimide)(PMGI、MicroChem)がSi基板上へスピンコートされ、180℃で3分間、焼き付けられた。次いで、50nm厚のZEP(ZEP520A、日本ゼオン株式会社)というレジストが、そのPMGI上へスピンコートされ、180℃で3分間、焼き付けられた。電子ビーム露光が、ビーム加速電圧50 KeVで、実施された。このZEPというレジスト(ZED−N50、日本ゼオン株式会社)が商業的開発会社によって開発された後は、サンプルはアルカリ水溶液(NMD−3、JSR Micro)のなかへ5秒間、浸漬され、そこでPMGIのアンダーカット断面形状が形成された。次いで、10nm Cr(頂部)/(20nm Au/2nm Cr/20nm SiO/2nm Cr)x2/20nm Au/2nm Cr(底部)という構造を持つ複数層が、パターン形成されたポリマーのテンプレート上へ、10−7Paを下回るベース圧力を持つマグネトロン・スパッタリングによって堆積された。アセトンのなかで剥離し、PMGIをNMD−3のなかで除去した後、Auディスク近傍の金属残渣をArプラズマでエッチングした。最後に、Cr層およびSiO2層がCrエッチング溶液(HClOと(NH[Ce(NO]の混合液)および希釈したフッ化水素酸(1%のHF水溶液)を用いて化学的に除去された。Si基板上へ作り込まれたAuディスクアレイは、走査顕微鏡(SU−8000,Hitachi)およびタッピンモードの原子間力顕微鏡(L−tracell、Sll NanoTechnology Inc.)で確認された。
【0025】
[散乱スペクトルの分析]
散乱スペクトルの測定は、共焦点顕微鏡(alpha300S、WITec)、UV−NIR光源(DH−2000−BAL、Ocean Optics)、およびスペクトロメーター(Acton SP2300、Princeton Instruments)を用いて実施された。サンプルからの散乱光の強度は1秒間、集積された。それを120回、繰り返して、平均値を得た。
【0026】
[電磁シミュレーション]
電磁シミュレーションは、3次元有限差分時間領域法のソフトウェア(Lumerical FDTD solution 6.5)を用いて実施された。図1に示された吸収および散乱シミュレーションのために、グリッドは1.0nmの立方体格子に設定された。完全適合層(perfectly matched layers、PML)が境界条件として使用された。孤立したナノ構造が空気の均一媒質のなかへ配置され、線形偏光平面波を用いて上から照射された。Auナノ構造を包み込む3次元モニターボックスが散乱および吸収パワーを計算するために使用された。図3に示されたSi基板上のAuナノ構造からの吸収損失および散乱スペクトルを計算するためには、周期的境界条件が横方向に使用されて、アレイ構造がモデル化された。垂直方向にはPML条件が使用された。上記のモデルと同一の光源が使用され、サンプルから空気中への散乱パワーを得るための2次元モニター装置がSi表面から200nm上方へ配置された。
【産業上の利用可能性】
【0027】
詳細に説明されている通り、本発明の垂直プラズモン型のディスク積層は、以下のものを含む広範な種類のデバイスにおいて使用することができるが、以下のものに限定されない。
(1)フレキシブルな薄膜タイプの太陽電池;
(2)CCD(電荷結合素子、charge−coupled device)を用いたイメージセンサーなどの光電デバイス;
(3)SERS(表面増強ラマン散乱、surface enhanced Raman scattering)を基にしたセンサー;
(4)SEIRA(表面増強赤外吸収、surface−enhanced Infrared absorption)センサー。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0028】
【非特許文献1】H.A.Atwater,A.Polman,Nat. Mater.2010,9,205−213.
【非特許文献2】V.E.Ferry,J.N.Munday,H.A. Atwater,Adv.Mater.2010,22,4794−4808.
【非特許文献3】S.−S.Kim,S.−l.Na,J.Jo,D.−Y.Kim,Y.−C.Nah,Appl.Phys.Lett.2008, 93,073307.
【非特許文献4】K.R.Catchpole,A.Polman,Appl.Phys.Lett.2008,93,191113.
【非特許文献5】R.A.Pala,J.White,E.Barnard,J.Liu,M.L.Brongersma,Adv.Mater.2009,21,3504−3509.
【非特許文献6】A.Aubry,D.Y.Lei,A.I.Fernndez−Dom?nguez,Y.Sonnefraud,S.A.Maier,J.B.Pendry,NanoLett.2010,10,2574−2579.
【非特許文献7】S.H.Urn,W.Mar,P.Matheu,D. Derkacs,E.T.Yu,J.Appl.Phys.2007,101, 14309.
【非特許文献8】C.Rockstuhl,S.Fahr,F.Lederer,J.Appl.Phys.2008,104,123102.
【非特許文献9】C.Rockstuhl,F.Lederer,Appl.Phys.Lett.2009,94,213102.
【非特許文献10】J.N.Anker,W.P.Hall,O.Lyandres,N.C.Shah,J.Zhao,R.P.Van Duyne, Nat.Mater.2008,7,442−453.
【非特許文献11】S.Nie,S.R.Emory,Science 1997,275,1102−1106.
【非特許文献12】J.F.Li,Y.F.Huang,Y.Ding, Z.L.Yang,S.B.Li,X.S.Zhou,F.R.Fan,W. Zhang,Z.Y.Zhou,D.Y.Wu,B.Ren,Z.L.Wang,Z.Q.Tian,Nature 2010,464,392−395.
【非特許文献13】J.−S.Wi,E.S.Barnarad,R.J. Wilson,M.Zhang,M.Tang,M.L.Brongersma,S.X.Wang,ACS Nano 2011,5,6449−6457.
【非特許文献14】M.D.Brown,T.Suteewong,R. S.S.Kumar,V.Dlnnocenzo,A.Petrozza,M. M.Lee,U.Wiesner,H.J.Snaith,Nano Lett.2011,11,438−445.
【非特許文献15】K.Ikeda,K.Takahashi,T.Masuda,K.Uosaki,Angew.Chem.Int.Ed.2011,50,1280−1284.
【非特許文献16】X.Jiao,J.Goeckeritz,S.Blair,M.Oldham,Plasmonics2009,4,37−50.
【非特許文献17】H.Aouani,J.Wenger,D.Gerard,H.Rigneault,E.Devaux,T.W.Ebbesen, F.Mahdavi,T.Xu,S.Blair,ACS Nano 2009,3,2043−2048.
【非特許文献18】W.Hu,R.J.Wilson,L.Xu,S.−J.Han,S.X.Wang,J.Vac.Sci.Technol.B 2007,25,1294−1297.
【非特許文献19】http://docs.lumerical.com/en/fdtd/user_guide_loss_per_unit_volume.html
図1
図2
図3
図4
図5