特許第5867863号(P5867863)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5867863-高分子電解質およびその利用 図000019
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5867863
(24)【登録日】2016年1月15日
(45)【発行日】2016年2月24日
(54)【発明の名称】高分子電解質およびその利用
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/12 20060101AFI20160210BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20160210BHJP
   C08J 5/22 20060101ALI20160210BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20160210BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20160210BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20160210BHJP
【FI】
   C08G61/12
   C08G73/10
   C08J5/22 101
   C08J5/22CEZ
   H01M8/10
   H01M8/02 P
   H01B1/06 A
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-103781(P2012-103781)
(22)【出願日】2012年4月27日
(65)【公開番号】特開2013-231127(P2013-231127A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2015年3月25日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発/劣化機構解析とナノテクノロジーを融合した高性能セルのための基礎的材料研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮原 崇泰
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 政廣
(72)【発明者】
【氏名】宮武 健治
【審査官】 繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−65080(JP,A)
【文献】 特開2002−358978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 61、73
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
(式中、AはCO、SO、C(CH、C(CFまたは直接結合を示し、Xはプロトンまたは1価の金属イオンを示す。pは2以上の整数を示す。)
および下記式(2):
【化2】
(式中、Arは2価の芳香族基を示す。qは1以上の整数を示す。また複数あるArはそれぞれ異なっていてもよい。)
で示される構造を主鎖に有する高分子電解質。
【請求項2】
前記式(1)において、AがCOであることを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質。
【請求項3】
下記式(4):
【化3】
(式中、X、Ar、pおよびqは前記と同様である。Arは2価の芳香族基を示す。rは1以上の整数を示す。ArおよびArは同一であってもよい。複数あるArはそれぞれ異なっていてもよい。)
で示される構造を主鎖に有することを特徴とする請求項1または2に記載の高分子電解質。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の高分子電解質を含む、高分子電解質膜。
【請求項5】
請求項4に記載の高分子電解質膜を含む、膜−電極接合体。
【請求項6】
請求項4に記載の高分子電解質膜を含む、固体高分子形燃料電池。
【請求項7】
請求項5に記載の膜−電極接合体を含む、固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池に好適な高分子電解質、それを用いた高分子電解質膜、膜−電極接合体、並びに、これらを含む固体高分子形燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化等の環境問題等の観点から、高効率でクリーンなエネルギー源の開発が求められている。それに対する一つの候補として燃料電池が注目されている。燃料電池は、水素ガスやメタノール等の燃料と酸素等の酸化剤をそれぞれ電解質で隔てられた電極に供給し、一方で燃料の酸化を、他方で酸化剤の還元を行い、直接発電するものである。
【0003】
上述した燃料電池の材料のなかで、最も重要な部材の一つが電解質である。その電解質からなる燃料と酸化剤とを隔てる電解質膜としては、これまで様々なものが開発されているが、近年、特にスルホン酸基などのプロトン伝導性官能基を含有する高分子化合物から構成される高分子電解質の開発が盛んである。
【0004】
こうした高分子電解質は、固体高分子形燃料電池の他にも、例えば、湿度センサー、ガスセンサー、エレクトロクロミック表示素子などの電気化学素子の原料としても使用される。これら高分子電解質の利用法の中でも、特に、固体高分子形燃料電池は、新エネルギー技術の柱の一つとして期待されている。例えば、プロトン伝導性官能基を有する高分子化合物からなる電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池は、低温における作動、小型軽量化が可能などの特徴を有し、自動車などの移動体、家庭用コージェネレーションシステム、および民生用小型携帯機器などへの適用が検討されている。
【0005】
固体高分子形燃料電池に使用される電解質膜としては、1950年代に開発されたスチレン系の陽イオン交換膜があるが、燃料電池動作環境下における安定性に乏しく、充分な寿命を有する燃料電池を製造するには至っていない。一方、実用的な安定性を有する電解質膜としては、ナフィオン(Nafion)(登録商標)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸膜が広く検討されている。パーフルオロカーボンスルホン酸膜は、高いプロトン伝導性を有し、耐酸性、耐酸化性などの化学的安定性に優れているとされている。しかしながらナフィオン(登録商標)は、使用原料が高く、複雑な製造工程を経るため、非常に高価であるという欠点がある。また、電極反応で生じる過酸化水素やその副生物であるヒドロキシラジカルで劣化すると指摘されている。またその構造上、プロトン伝導基であるスルホン酸基の導入については限界がある。
【0006】
このような背景から、再び炭化水素系電解質膜の開発が期待されるようになってきた。その理由としては、炭化水素系電解質膜は化学構造の多様性を持たせやすく、スルホン酸基などのプロトン伝導基の導入の範囲が広く調整できる、他の材料との複合化、架橋の導入などが比較的容易であるという特徴があるからである。
【0007】
近年では電解質膜にスルホン酸基を多く導入することでプロトン伝導性を改善する例があるが、このような膜は含水状態での膨潤が大きく、含水状態と乾燥状態を繰り返すことで膜の強度が損なわれ、燃料電池用の電解質膜として使用するには問題であった。そこで電解質膜に剛直な構造を導入することで膜の強度を高める試みが行われている。
【0008】
また、プロトン伝導性の優れる膜を作るためには、膜内でミクロ相分離を形成して水の保持に有効な親水相をプロトンの伝導経路として作ることが有効であると言われている。このミクロ相分離を形成する方法として親水部と疎水部からなるブロック共重合体で膜を作成する方法がある。この場合、疎水部からなる相の強度が膜全体の強度に大きく反映されるため、この疎水部に剛直な構造を導入することが強度のある膜を得るためには必要であった。
【0009】
疎水部に用いることのできる剛直な構造として例えば、ポリイミド構造が挙げられる。ただしポリイミド構造を含みプロトン伝導性に優れるブロックポリマーを合成した例は数少ない。またそれらも分子量の低いポリマーである場合が多い。これらのようにポリイミド構造のような剛直な構造を含むポリマーは高分子量ポリマーを得ることが難しく、十分にポリイミド構造の特徴を引き出すことができていなかった。
【0010】
また、特許文献1及び特許文献2には、膜の強度改善を目的とした、ベンゾフェノン構造を含む芳香族ポリエーテルポリマーが開示されている。
【0011】
一方、エーテル結合を含まず、ベンゾフェノン構造を含むポリマーの例としては、特許文献3の参考合成例3で示されているようにポリ(4,4’−ベンゾフェノン)を部分的に含むランダム共重合体があるが、数平均分子量が12000程度のものしか得られておらず、高分子量化が難しいことが分かる。また、該文献の実施例2ではこのポリマーをスルホン化しているが、この方法ではスルホン酸基を導入することができるポリ(4,4’−ベンゾフェノン)構造が限られる。
【0012】
非特許文献1では、ポリ(4,4’−ベンゾフェノン)と同一組成のポリ(2,5−ベンゾフェノン)を合成し、それらの性質の比較を行っている。同一組成のポリマーであっても、結合部位が異なるため、ポリ(4,4’−ベンゾフェノン)はポリ(2,5−ベンゾフェノン)に比べると、より結晶性が高く、溶解性が低いため合成が困難であり、同様の方法では合成ができないことが示されている。そのため、ポリ(4,4’−ベンゾフェノン)を得るために、モノマーのカルボニル基をイミノ基へと変換して重合をし、重合後に加水分解することでカルボニル基へと戻すという工夫がなされている。このようにポリ(4,4’−ベンゾフェノン)は直接的な合成が難しいものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−59374号公報
【特許文献2】特開2009−200030号公報
【特許文献3】特開2001−192531号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Macromolecules 1994,27,2354−2356
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、加工性に優れ、かつ、プロトン伝導度、特に水分の少ない状況で優れたプロトン伝導度を持つ炭化水素系高分子電解質およびその膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、プロトン伝導度に有利なスルホン酸基を有し、かつ剛直なカルボニル構造を主鎖に有する特定の高分子電解質を使用することで、膜強度が高まり、かつ水分の少ない状況におけるプロトン伝導度が優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、下記式(1):
【0018】
【化1】
【0019】
(式中、AはCO、SO、C(CH、C(CFまたは直接結合を示し、Xはプロトンまたは1価の金属イオンを示す。pは2以上の整数を示す。)
および下記式(2):
【0020】
【化2】
【0021】
(式中、Arは2価の芳香族基を示す。qは1以上の整数を示す。また複数あるArはそれぞれ異なっていてもよい。)
で示される構造を主鎖に有する高分子電解質に関する。
【0022】
上記式(1)において、AはCOであることが好ましい。
【0023】
下記式(4):
【0024】
【化3】
【0025】
(式中、X、Ar、pおよびqは前記と同様である。Arは2価の芳香族基を示す。rは1以上の整数を示す。ArおよびArは同一であってもよい。複数あるArはそれぞれ異なっていてもよい。)
で示される構造を主鎖に有することが好ましい。
【0026】
また、本発明は上記高分子電解質を含む、高分子電解質膜に関する。
【0027】
また、本発明は上記高分子電解質膜を含む、膜−電極接合体または固体高分子形燃料電池に関する。
【0028】
また、本発明は上記膜−電極接合体を含む、固体高分子形燃料電池に関する。
【発明の効果】
【0029】
本発明の高分子電解質は、膜強度が高く、水分の少ない状況で優れたプロトン伝導度を有する高分子電解質膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の高分子電解質を使用した固体高分子形燃料電池の要部断面の構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の一実施形態について説明すれば以下の通りである。なお、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0032】
<1.高分子電解質>
本発明の高分子電解質は、親水性セグメントとして、下記式(1):
【0033】
【化4】
【0034】
(式中、AはCO、SO、C(CH、C(CFまたは直接結合を示し、Xはプロトンまたは1価の金属イオンを示す。pは2以上の整数を示す。)で示される構造を有する。ここで、上記1価の金属イオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。
【0035】
Xとしては、高分子電解質の溶媒溶解性の観点から、プロトンおよび1価の金属イオンの中でも、プロトン、ナトリウム又はカリウムが好ましいが、溶液の粘度や膜の強度を高めるために、2価あるいは多価の金属イオンを加えてもよい。
【0036】
また、疎水性セグメントとして、下記式(2):
【0037】
【化5】
【0038】
(式中、Arは2価の芳香族基を示す。qは1以上の整数を示す。また複数あるArはそれぞれ異なっていてもよい。)
で示される構造を有する。
【0039】
Arとしては、以下のものが挙げられる。
【0040】
【化6】
【0041】
(式中、Rはフッ素化されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基、または、フッ素化されていてもよい炭素数6〜10のフェニル基、フェノキシ基、ナフチル基もしくはナフチロキシ基を示し、BはO、S、CH、C(CH、C(CF、CO、SO、フルオレニリデンまたは直接結合を示し、それぞれ複数ある場合は異なっていてもよい。またaは0〜4の整数を示す。)
【0042】
上記の中でも、高分子電解質の溶媒溶解性の観点から、以下のものが好ましい。
【0043】
【化7】
【0044】
Arはスルホン酸基を有さないことが好ましい。
【0045】
上記式(1)で示される構造は、原料入手の容易さの点で、AがCOである下記式(3):
【0046】
【化8】
【0047】
(式中、Xおよびpは上記式(1)と同様。)
で示される構造であることが好ましい。
【0048】
また、疎水性セグメントは、下記式(5):
【0049】
【化9】
【0050】
(式中、Ar、qは前記と同様である。Arは2価の芳香族基を示す。rは1以上の整数を示す。ArおよびArは同一であってもよい。複数あるArはそれぞれ異なっていてもよい。)
で示される構造であることがより好ましい。
【0051】
Arとしては、以下のものが挙げられる。
【0052】
【化10】
【0053】
(式中、R、B、aは前記と同様である。)
【0054】
上記の中でも、合成の容易さの観点から、以下のものが好ましい。
【0055】
【化11】
【0056】
Arはスルホン酸基を有さないことが好ましい。
【0057】
さらに、合成の容易さから、本発明の高分子電解質は、下記式(4):
【0058】
【化12】
【0059】
(式中、X、Ar、Ar、p、qおよびrは前記と同様である。)
で示される構造を主鎖に有することが好ましい。
【0060】
本発明の高分子電解質は、上記構造を主鎖に有していればランダム共重合体であってもよいし、グラフト共重合体やブロック共重合体であってもよい。低加湿条件では高分子電解質膜の内部の水が少なくなるが、プロトン伝導を高めるためにはプロトン伝導の媒体となる水を有効に利用する必要があり、そのためにはミクロ相分離を形成し、水の多い相を作り出すことのできるブロック共重合体であることがさらに好ましい。
【0061】
ミクロ相分離を形成するブロック共重合体において、親水性の相と疎水性の相を相分離させることで親水性の相により多くの水を集めることが可能であることから、スルホン酸基を有する親水性セグメントとスルホン酸基を有さない疎水性セグメントとからなるブロック共重合体であることが好ましい。
【0062】
本発明の高分子電解質において、式(1)で示される構造の含有量は、5〜70重量%が好ましく、9〜50重量%がより好ましい。70重量%を超えると膜の機械強度が低下する傾向があり、5重量%未満ではプロトン伝導性が低くなりすぎる傾向がある。ここで、高分子電解質の全体の重量とは、高分子電解質を酸で処理した後の、ポリマー中のスルホン酸基をSOHの状態にしたものの乾燥重量である。高分子電解質に含まれる重量比について、スルホン酸基を有する成分とスルホン酸基を有さない成分の重量比は高分子電解質のイオン交換容量から求めることができる。スルホン酸基を有する成分がいくつかある場合、H−NMRスペクトルなどの分析手法から成分比を求めることができる。
【0063】
また、式(2)または式(5)で示される構造の含有量は、30〜95重量%が好ましく、50〜91重量%がより好ましい。95重量%を超えると膜のプロトン伝導性が低くなりすぎる傾向があり、30重量%未満では膜の機械強度が低下する傾向がある。
【0064】
<本発明の高分子電解質の合成>
本発明の高分子電解質は、一般的な重合反応(「実験化学講座第4版 有機合成VII 有機金属試薬による合成」p.353−366(1991)丸善株式会社)などを適用して合成することができる。
【0065】
重合に用いる材料として、脱離基を2箇所以上に有する化合物を用いることができ、ハロゲン基やスルホン酸エステル基などの脱離基を有する化合物を用いることができる。材料入手の点と反応性の点から、脱離基として塩素や臭素やヨウ素といったハロゲン基を2箇所に有する化合物であることが好ましい。
【0066】
材料の分子量はポリスチレン換算の数平均分子量(以下、特に述べない限り単に分子量と略す。)で50〜1000000であることが好ましく、とくにスルホン酸基を有する親水性セグメントを形成する材料の分子量は100〜50000が好ましく、またスルホン酸基を有さない疎水性セグメントを形成する材料の分子量は1000〜100000が好ましい。
【0067】
疎水性セグメントを形成する材料がポリマーである場合、分子量は1000〜100000であることが好ましい。
【0068】
これらの材料によって合成される本発明の高分子電解質の分子量は10000〜5000000が好ましく、より好ましくは20000〜1000000であることが高分子電解質膜を製造するための加工性と高分子電解質膜の強度が共に優れるため好ましい。
【0069】
重合反応は窒素ガス雰囲気下、アルゴン雰囲気下などの不活性ガス雰囲気下で行うことができるが、好ましくは窒素雰囲気下で行う。
【0070】
重合反応工程における溶媒としては、重合を禁止するものでなければ特に制限は無く、カーボネート化合物(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、複素環化合物(3−メチル−2−オキサゾリジノン、1−メチル−2−ピロリドン(以下NMP)、N,N−ジメチルイミダゾリジノン(以下DMI)等)、環状エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、鎖状エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル等)、ニトリル化合物(アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル等)、非プロトン極性物質(N,N−ジメチルアセトアミド(以下DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(以下DMF)、ジメチルスルホキシド(以下DMSO)、スルホラン等)、非極性溶媒(トルエン、キシレン等)等が列挙でき、中でも溶解度からDMAcやDMF、NMP、DMI、DMSO等が、ポリマーの溶解性が高いため好ましい。なかでもDMAcとDMSOがポリマーの溶解性が高いため好ましい。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、溶媒中に微量存在する水を除くため、ベンゼンやトルエン、キシレン、シクロヘキサンなどの共沸溶媒を添加して水を共沸により除くことが有効である。
【0071】
重合反応工程の反応温度は重合反応に応じて適宜設定すればよい。具体的には0℃〜200℃に設定すればよく、より好ましくは20℃〜170℃であり、さらに好ましくは40℃〜140℃である。0℃よりも低温であれば反応速度が遅く、200℃よりも高温であれば微量不純物などの影響を大きく受け、高分子の着色や望みとしない副反応などが起きることが懸念される。
【0072】
重合反応工程では停止操作を行うことが好ましく、これは冷却、希釈、重合禁止剤等の添加によって行うことができる。重合反応工程の後に生成した高分子を取り出してもよく、さらに精製工程を追加してもよい。
【0073】
本発明の高分子電解質をブロック共重合体として合成する場合、スルホン酸基を有する親水性セグメントを形成する材料として、脱離基を2箇所以上に有する化合物を用いることができる。脱離基としてはハロゲン基やスルホン酸エステル基などが挙げられる。好ましくは芳香環上に脱離基を有する化合物が好ましく、材料の入手の容易さからジクロロベンゾフェノン誘導体、ジクロロジフェニルスルホン誘導体がより好ましい。
【0074】
また、スルホン酸基を有さない疎水性セグメントを形成する材料として、モノマーあるいはオリゴマーを用いることができる。モノマーは、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物と脱離基を有する芳香族アミン化合物から合成することができる。また、オリゴマーは、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物との重合によって得られる酸無水物末端を有するオリゴマーにさらに脱離基を有する芳香族アミン化合物を反応させることで合成することができる。
【0075】
脱離基を有する芳香族アミン化合物としては
【0076】
【化13】
【0077】
(式中、R、B、aは前記と同様である。Yは塩素、臭素、ヨウ素、メタンスルホン酸エステル、トリフルオロメタンスルホン酸エステル、ベンゼンスルホン酸エステル、または、トルエンスルホン酸エステルを示す。)
が挙げられる。芳香族ジアミン化合物としては
【0078】
【化14】
【0079】
(式中、Rはフッ素化されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基、または、フッ素化されていてもよい炭素数6〜10のフェニル基、フェノキシ基、ナフチル基もしくはナフチロキシ基を示し、BはO、S、CH、C(CH、C(CF、CO、SO、フルオレニリデンまたは直接結合を示し、それぞれ複数ある場合は異なっていてもよい。またaは0〜4の整数を示す。)
が挙げられる。
【0080】
本発明の高分子電解質を合成する場合、親水性セグメントおよび疎水性セグメント材料に含まれるカルボニル基の一部、または全てを保護することで、剛直性を低下させ、より高分子量のポリマーを得ることもできる。
【0081】
カルボニル基の保護とは、有機合成で一般的に行われる方法であり、合成の過程において、カルボニル基が不利に働く場合に、一時的に性質の異なる官能基へと変換することである。通常、カルボニル基を保護したものは、脱保護によりカルボニル基へと変換することが可能である。
【0082】
カルボニル基の保護には、例えば一般的な方法(Theodora W. Greene著の「Protective Groups in Organic Synthesis Third Edition」p.293−368(1999)John Wiley & Sons, Inc.)を適用することができる。保護はモノマーの段階、オリゴマーの段階、ポリマーの段階のいずれで行うこともできる。
【0083】
カルボニル基の保護は、具体的な例としてはカルボニル基をアルコールと反応させることでアセタールまたはケタールへと変換する方法がある。例えば、特許文献1の方法などが挙げられる。他の例としてはカルボニル基をアミンと反応させてイミンまたはケチミンへと変換する方法がある。例えば、非特許文献1の方法などが挙げられる。いずれも脱保護の方法としては例示した文献記載の方法などを用いることができる。ここで挙げたアセタールやケタール、イミン、ケチミンは加水分解性があり、水を含む溶媒中で脱保護をすることができる。一般的には脱保護を加速するために酸性条件下で行う。
【0084】
具体的には、上記式(1)のカルボニル基を保護して、CR、またはC=NRへと変換する方法がある。R及びRはアルコキシ基あるいはアリーロキシ基を示し、CRは環状構造を成していてもよい。またRはアルキル基あるいはアリール基を示す。
【0085】
カルボニル基を脱保護する場合は、水または酸性水溶液に接触させて行うと容易に脱保護することができる。脱保護は加工の容易さの点から、フィルム形状で行うことが好ましい。
【0086】
カルボニル基の保護は、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれの段階で行ってもよいが、脱保護はポリマーの段階で行うことが好ましい。
【0087】
本発明の高分子電解質は、様々な産業上の利用が考えられ、その利用(用途)については、特に制限されるものではないが、高分子電解質膜、膜−電極接合体、燃料電池に好適である。
【0088】
<2.本発明の高分子電解質膜>
本発明にかかる高分子電解質膜は、上記高分子電解質を任意の方法で膜状に成型したものである。このような製膜方法としては、公知の方法が適宜使用され得る。上記公知の方法としては、例えば、ホットプレス法、インフレーション法、Tダイ法などの溶融押出成形、キャスト法、エマルション法などの溶液からの製膜方法が例示され得る。例えば溶液からの製膜方法としては、キャスト法が例示される。これは粘度を調整した高分子電解質の溶液を、ガラス板などの平板上に、バーコーター、ブレードコーターなどを用いて塗布し、溶媒を気化させて膜を得る方法である。工業的には溶液を連続的にコートダイからベルト上に塗布し、溶媒を気化させて長尺物を得る方法も一般的である。
【0089】
さらに、高分子電解質膜の分子配向などを制御するために、得られた高分子電解質膜に対して二軸延伸などの処理を施したり、結晶化度を制御するための熱処理を施したりしてもよい。また、高分子電解質膜の機械的強度を向上させるために各種フィラーを添加したり、ガラス不織布などの補強剤と高分子電解質膜とをプレスにより複合化させたりすることも、本発明の範疇である。
【0090】
高分子電解質膜の厚さは、用途に応じて任意の厚さを選択することができる。例えば、得られる高分子電解質膜の内部抵抗を低減することを考慮した場合、高分子電解質膜の厚みは薄い程よい。一方、得られた高分子電解質膜のガス遮断性やハンドリング性を考慮すると、高分子電解質膜の厚みは薄すぎると好ましくない場合がある。これらを考慮すると、高分子電解質膜の厚みは、1.2μm以上350μm以下であることが好ましい。上記高分子電解質膜の厚さが上記数値の範囲内であれば、取り扱いが容易であり、破損が生じ難いなどハンドリング性が向上する。また、得られた高分子電解質膜のプロトン伝導性も所望の範囲で発現させることができる。
【0091】
なお、本発明の高分子電解質膜の特性をさらに向上させるために、電子線、γ線、イオンビーム等の放射線を照射させることも可能である。これらにより、高分子電解質膜中に架橋構造などが導入でき、さらに性能が向上する場合がある。またプラズマ処理やコロナ処理などの各種表面処理により、高分子電解質膜表面の触媒層との接着性を上げるなどの特性向上を図ることもできる。
【0092】
本発明の高分子電解質膜は、イオン交換容量が0.4〜6.5meq/gであることが好ましく、0.5〜4.0meq/gであることがより好ましく、0.6〜3.0meq/gであることがさらに好ましい。0.4meq/g未満であるとプロトン伝導性が低くなりすぎる傾向があり、6.5meq/gを超えると水による膨潤で機械強度が著しく低下する傾向がある。
【0093】
<3.本発明にかかる膜−電極接合体、固体高分子形燃料電池>
本発明にかかる膜−電極接合体(以下、「MEA」と表記する)は、本発明の高分子電解質または高分子電解質膜を用いてなる。かかるMEAは、例えば、燃料電池、特に、固体高分子形燃料電池に用いることができる。
【0094】
MEAを作製する方法は、従来検討されている、パーフルオロカーボンスルホン酸からなる高分子電解質膜やその他の炭化水素系高分子電解質膜(例えば、スルホン酸化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン酸化ポリエーテルスルホン、スルホン酸化ポリスルホン、スルホン酸化ポリイミド、スルホン酸化ポリフェニレンサルファイドなど)で行われる公知の方法が適用可能である。
【0095】
上述した例以外にも、本発明にかかる高分子電解質は、例えば特開2006−179298号公報等で公知になっている固体高分子形燃料電池の電解質として、使用可能である。これらの公知の特許文献に基づけば、当業者であれば、本発明の高分子電解質を用いて容易に固体高分子形燃料電池を構成することができる。
【実施例】
【0096】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0097】
ポリマーの分子量、高分子電解質のイオン交換容量、プロトン伝導度、水膨潤による膜の面内方向の寸法変化率およびガス透過性の各測定方法は以下のとおりである。
【0098】
〔分子量の測定方法〕
GPC法により分子量を測定した。条件は以下の通り。
GPC測定装置:HLC−8220(東ソー株式会社製)
カラム:SuperAW4000及びSuperAW2500(昭和電工株式会社製)の2本を直列に接続
カラム温度:40℃
移動相溶媒:NMP(LiBrを10mmol/dmになるように添加)
溶媒流量:0.3mL/min
標準物質:TSK標準ポリスチレン(東ソー株式会社製)
以下、標準ポリスチレンで換算した数平均分子量をMnと表記し、標準ポリスチレンで換算した重量平均分子量をMwと表記する。
【0099】
〔イオン交換容量(以下IECと略す)の測定方法〕
対象となる高分子電解質(約100mg、十分に乾燥)を25℃での塩化ナトリウム飽和水溶液20mLに浸漬し、ウォーターバス中で60℃、3時間イオン交換反応させた。25℃まで冷却し、次いで膜をイオン交換水で充分に洗浄し、塩化ナトリウム飽和水溶液および洗浄水をすべて回収した。この回収した溶液に、指示薬としてフェノールフタレイン溶液を加え、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定し、IECを算出した。
【0100】
〔プロトン伝導度の測定方法〕
プロトン伝導度測定は恒温恒湿器(エスペック株式会社製、SH−221)を用いて温度と湿度を一定に保ち(約3時間)、インピーダンスアナライザー(日置電機株式会社製、3532−50)を用いて、電解質の抵抗を測定した。具体的にはインピーダンスアナライザーにより50kHz〜5MHzまでの周波数応答性を測定し、次式からプロトン伝導性を算出した。
プロトン伝導度(S/cm)=D/(W×T×R)
ここでDは電極間距離(cm)、Wは膜幅(cm)、Tは膜厚(cm)、Rは測定した抵抗値(Ω)である。本測定においては、D=1cm、W=1cmで行い、膜厚はそれぞれのサンプルについてマイクロメーターを用いて測定した値を用いた。温度と湿度はそれぞれ80℃、30%RHとした。
【0101】
〔水膨潤による膜の面内方向の寸法変化率の測定方法〕
乾燥した膜から直径2cmの円形サンプルを作成し、直径を測った。次に同じサンプルを25℃の水に24時間浸漬後、サンプルを取り出し手早く透明フィルムで挟み、直径を測った。寸法変化率は次式から求めた。
寸法変化率=(浸漬後の寸法−乾燥後の寸法)/乾燥後の寸法
【0102】
〔ガス透過性の測定方法〕
ガス透過測定はガス透過測定装置(20XAFK,GTR−Tech Inc.社製)を用いて行った。テストガスとして水素ガスと酸素ガスを、フローガスとしてそれぞれアルゴンとヘリウムを用いた。測定は等圧法で行った。測定条件は以下の通りである。
ガスを一定時間流した際の、フローガス中のテストガス濃度をガスクロマトグラフィーにより測定し、これとテスト膜面積、膜厚、ガス流通時間より、ガス透過係数[(cm(STP)・cm/cm・sec・cmHg)]を算出した。
なお、本実施例では、ガス透過係数の値は標準状態の値に換算している。
テストガス流量:20ml/min
フローガス流量:15ml/min
テスト膜面積 :7.065(cm
測定温度 :80℃
相対湿度 :95%RH
【0103】
〔合成例1〕
還流管とDeanStark管を取り付けた100mlナスフラスコにナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物6.70g、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン8.65g、NMP40mlおよびトルエン15mlを窒素雰囲気下混合し、180度に加熱した。トルエンを還流させて生成した水を除き、72時間後さらに4−クロロアニリンを2.0g追加し、18時間後室温まで冷却し、反応溶液をアセトンに加え、析出した固体をろ過し、乾燥させた後、固体をm−クレゾールに溶解し、得られたポリマー溶液をエタノールに加えて析出した固体をろ過、エタノールですすぎ、残渣として得られた固体を170℃で12時間乾燥することでポリマー(以下P1と呼ぶ)を得た。得られたP1の分子量は、Mn=6300、Mw=18800であった。
【0104】
〔合成例2〕
還流管とDeanStark管を取り付けた100mlナスフラスコにナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物6.03g、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン8.65g、NMP40mlおよびトルエン15mlを窒素雰囲気下混合し、180度に加熱した。トルエンを還流させて生成した水を除き、72時間後さらに4−クロロアニリンを1.0g追加し、18時間後室温まで冷却し、反応溶液をアセトンに加え、析出した固体をろ過し、乾燥させた後、固体をm−クレゾールに溶解し、得られたポリマー溶液をエタノールに加えて析出した固体をろ過、エタノールですすぎ、残渣として得られた固体を170℃で12時間乾燥することでポリマー(以下P2と呼ぶ)を得た。得られたP2の分子量は、Mn=11700、Mw=34400であった。
【0105】
〔合成例3〕
還流管とDeanStark管を取り付けた100mlナスフラスコにナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物5.70g、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン8.65g、NMP40mlおよびトルエン15mlを窒素雰囲気下混合し、180度に加熱した。トルエンを還流させて生成した水を除き、72時間後さらに4−クロロアニリンを1.0g追加し、18時間後室温まで冷却し、反応溶液をアセトンに加え、析出した固体をろ過し、乾燥させた後、固体をm−クレゾールに溶解し、得られたポリマー溶液をエタノールに加えて析出した固体をろ過、エタノールですすぎ、残渣として得られた固体を170℃で12時間乾燥することでポリマー(以下P3と呼ぶ)を得た。得られたP3の分子量は、Mn=17900、Mw=54400であった。
【0106】
〔合成例4〕
還流管とDeanStark管を取り付けた100mlナスフラスコに4,4’−ジクロロジフェニルスルホン5.59g、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン4.64g、炭酸カリウム3.33g、DMAc20mlおよびトルエン5mlを窒素雰囲気下混合し、180℃に加熱した。トルエンを還流させて生成した水を除き、40時間後さらに4,4’−ジクロロジフェニルスルホンを1.0g追加し、6時間後室温まで冷却後、反応溶液を水に加え、析出した固体をミキサーで細かく粉砕してろ過をした後80℃で12時間乾燥した。さらに固体をジクロロメタンに溶解し、メタノールに加え、析出した固体をろ過後80℃で12時間乾燥し、ポリマー(以下P4と呼ぶ)を得た。得られたP4の分子量はMn=7400、Mw=18600であった。
【0107】
〔合成例5〕
4,4’−ジクロロベンゾフェノン27gと30%発煙硫酸134gを窒素雰囲気下混合し、攪拌しながら130度に加熱した。20時間後室温まで冷却した後反応溶液を氷冷した水に加えた。NaOH水溶液を加えて中和した後、析出した白色固体をろ過により回収した。残渣を100度で減圧乾燥し、白色固体(以下S1と呼ぶ)を得た。
【0108】
〔合成例6〕
4,4’−ジクロロジフェニルスルホン120gと30%発煙硫酸505gを窒素雰囲気下混合し、攪拌しながら120度に加熱した。4時間後室温まで冷却した後反応溶液を氷冷した水に加えた。NaOH水溶液を加えて中和した後、析出した白色固体をろ過により回収した。残渣を100度で減圧乾燥し、白色固体(以下S2と呼ぶ)を得た。
【0109】
〔実施例1〕
還流管とDeanStark管を取り付けた100mlナスフラスコにP1(2.0g)とS1(3.0g)とDMSO40mlとトルエン15mlを窒素雰囲気下混合し、180度に加熱した。トルエンを還流させてフラスコ内の水分を除き、引き続きトルエンを除いてから冷却した。70℃で2,2’−ビピリジン3.0gとビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル5.0gを加え、メカニカルスターラーで攪拌した。5分後80℃に昇温し2時間後室温まで冷却した。反応溶液をDMSO10mlで希釈し、6N塩酸水溶液に加え、析出した固体をろ過により回収した。固体を80℃で減圧乾燥し、固体を細かく粉砕後6N塩酸水溶液中で6時間攪拌した。水洗しながらろ過をして100℃で減圧乾燥し、高分子電解質を得た。分子量は、Mn=25000、Mw=147500であった。
【0110】
得られた高分子電解質0.7gをDMSO20mlに溶解した後、溶液をガラス基板上に流延塗布し、80℃にて15時間真空乾燥した後、更に100℃にて18時間真空乾燥し、自己支持性のある高分子電解質膜(膜厚38μm)を得た。
【0111】
高分子電解質膜を6N塩酸水溶液に12時間浸漬し、その後純水に1時間ずつ2度浸漬した後、100℃で減圧乾燥した。得られた膜のイオン交換容量は1.16meq/gであった。低加湿条件においてプロトン伝導度を測定したところ3.7×10−3S/cmであった。また、水膨潤による膜の面内方向の寸法変化率は5.4%であった。
【0112】
〔実施例2〕
還流管とDeanStark管を取り付けた100mlナスフラスコにP2(2.0g)とS1(3.0g)とDMSO40mlとトルエン15mlを窒素雰囲気下混合し、180度に加熱した。トルエンを還流させてフラスコ内の水分を除き、引き続きトルエンを除いてから冷却した。70℃で2,2’−ビピリジン3.0gとビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル5.00gを加え、メカニカルスターラーで攪拌した。5分後80℃に昇温し2時間後室温まで冷却した。反応溶液をDMSO10mlで希釈し、6N塩酸水溶液に加え、析出した固体をろ過により回収した。固体を80℃で減圧乾燥し、固体を細かく粉砕後6N塩酸水溶液中で6時間攪拌した。水洗しながらろ過をして100℃で減圧乾燥し、高分子電解質を得た。分子量は、Mn=35000、Mw=87500であった。
【0113】
得られた高分子電解質0.7gをDMSO20mlに溶解した後、溶液をガラス基板上に流延塗布し、80℃にて15時間真空乾燥した後、更に100℃にて18時間真空乾燥し、自己支持性のある高分子電解質膜(膜厚35μm)を得た。
【0114】
高分子電解質膜を6N塩酸水溶液に12時間浸漬し、その後純水に1時間ずつ2度浸漬した後、100℃で減圧乾燥した。得られた膜のイオン交換容量は1.57meq/gであった。低加湿条件においてプロトン伝導度を測定したところ5.7×10−3S/cmであった。また、水膨潤による膜の面内方向の寸法変化率は6.2%であった。
また、ガス透過測定の結果、水素ガスは3.75×10−10cm(STP)・cm/cm・sec・cmHg、酸素ガスは1.01×10−10cm(STP)・cm/cm・sec・cmHgであった。
【0115】
〔実施例3〕
還流管とDeanStark管を取り付けた100mlナスフラスコにP3(2.0g)とS1(3.0g)とDMSO40mlとトルエン15mlを窒素雰囲気下混合し、180度に加熱した。トルエンを還流させてフラスコ内の水分を除き、引き続きトルエンを除いてから冷却した。70℃で2,2’−ビピリジン3.0gとビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル5.00gを加え、メカニカルスターラーで攪拌した。5分後80℃に昇温し2時間後室温まで冷却した。反応溶液をDMSO10mlで希釈し、6N塩酸水溶液に加え、析出した固体をろ過により回収した。固体を80℃で減圧乾燥し、固体を細かく粉砕後6N塩酸水溶液中で6時間攪拌した。水洗しながらろ過をして100℃で減圧乾燥し、高分子電解質を得た。分子量は、Mn=42000、Mw=180600であった。
【0116】
得られた高分子電解質0.7gをDMSO20mlに溶解した後、溶液をガラス基板上に流延塗布し、80℃にて15時間真空乾燥した後、更に100℃にて18時間真空乾燥し、自己支持性のある高分子電解質膜(膜厚32μm)を得た。
【0117】
高分子電解質膜を6N塩酸水溶液に12時間浸漬し、その後純水に1時間ずつ2度浸漬した後、100℃で減圧乾燥した。得られた膜のイオン交換容量は1.01meq/gであった。低加湿条件においてプロトン伝導度を測定したところ3.5×10−3S/cmであった。また、水膨潤による膜の面内方向の寸法変化率は4.9%であった。
また、ガス透過測定の結果、水素ガスは6.46×10−10cm(STP)・cm/cm・sec・cmHg、酸素ガスは1.96×10−10cm(STP)・cm/cm・sec・cmHgであった。
【0118】
〔実施例4〕
還流管とDeanStark管を取り付けた100mlナスフラスコにP3(2.0g)とS2(3.0g)とDMSO40mlとトルエン15mlを窒素雰囲気下混合し、180度に加熱した。トルエンを還流させてフラスコ内の水分を除き、引き続きトルエンを除いてから冷却した。70℃で2,2’−ビピリジン3.0gとビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル5.00gを加え、メカニカルスターラーで攪拌した。5分後80℃に昇温し2時間後室温まで冷却した。反応溶液をDMSO10mlで希釈し、6N塩酸水溶液に加え、析出した固体をろ過により回収した。固体を80℃で減圧乾燥し、固体を細かく粉砕後6N塩酸水溶液中で6時間攪拌した。水洗しながらろ過をして100℃で減圧乾燥し、高分子電解質を得た。分子量は、Mn=51000、Mw=224400であった。
【0119】
得られた高分子電解質0.7gをDMSO20mlに溶解した後、溶液をガラス基板上に流延塗布し、80℃にて15時間真空乾燥した後、更に100℃にて18時間真空乾燥し、自己支持性のある高分子電解質膜(膜厚37μm)を得た。
【0120】
高分子電解質膜を6N塩酸水溶液に12時間浸漬し、その後純水に1時間ずつ2度浸漬した後、100℃で減圧乾燥した。得られた膜のイオン交換容量は0.92meq/gであった。低加湿条件においてプロトン伝導度を測定したところ3.2×10−4S/cmであった。また、水膨潤による膜の面内方向の寸法変化率は6.6%であった。
【0121】
〔比較例1〕
実施例1においてP1の代わりにP4(1.5g)を用い、S1の代わりにS2(1.5g)を用い、DMSO50ml、トルエン16ml、2,2’−ビピリジン1.5gとビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル2.4gを使用したほかは同様の方法で合成を行った。ただし、ポリマーの洗浄工程において6N塩酸水溶液中で攪拌を行っているとポリマーが溶解してしまった。NaOH水溶液で中和し、濃縮することでポリマーを回収し、80℃で減圧乾燥し、乾燥した固体を水洗し、さらに80℃で3時間減圧乾燥、さらに100℃で10時間減圧乾燥することで高分子電解質を得た。分子量は、Mn=73000、Mw=124100であった。
【0122】
得られた高分子電解質0.7gをDMAc20mlに溶解した後、溶液をガラス基板上に流延塗布し、80℃にて15時間真空乾燥した後、更に100℃にて18時間真空乾燥し高分子電解質膜を得た。
【0123】
高分子電解質膜を6N塩酸水溶液に12時間浸漬したところ、膜は溶解してしまった。
【0124】
〔比較例2〕
ポリフェニレンサルファイド(DIC株式会社製、DIC−PPS LD10p11)のペレットを、スクリュー温度290℃、Tダイ温度290℃の条件で、2軸混練押出し機にTダイをセットした二軸押出機により、溶融押出成形し、高分子フィルムを得た。ガラス容器に1−クロロブタン634g及びクロロスルホン酸9gを秤量し、クロロスルホン酸溶液を調整した。上記高分子フィルムを1.5g秤量し、上記クロロスルホン酸溶液に25℃で20時間浸漬することで高分子電解質膜を得た。(クロロスルホン酸添加量は、高分子フィルムの重量に対して6倍量)。その後、高分子電解質膜を回収し、イオン交換水で中性になるまで洗浄し、100℃で18時間真空乾燥し、自己支持性のある高分子電解質膜を得た。
【0125】
得られた膜のイオン交換容量は1.33meq/gであった。低加湿条件においてプロトン伝導度を測定したところ5.8×10−5S/cmであった。
【0126】
実施例1〜4と、比較例1、2との比較から、本発明の高分子電解質は、プロトン伝導性に優れ、かつ良好な耐水性を有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の高分子電解質は固体高分子形燃料電池の材料として有用であり、特に高分子電解質膜として有用であることは明らかである。
【符号の説明】
【0128】
1 高分子電解質膜
2 触媒層
3 拡散層
4 セパレーター
5 流路
10 固体高分子形燃料電池
図1