特許第5867929号(P5867929)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5867929
(24)【登録日】2016年1月15日
(45)【発行日】2016年2月24日
(54)【発明の名称】γ−2CaO・SiO2の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/24 20060101AFI20160210BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20160210BHJP
【FI】
   C01B33/24 101
   C04B22/08 A
【請求項の数】13
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-553790(P2012-553790)
(86)(22)【出願日】2012年1月20日
(86)【国際出願番号】JP2012051254
(87)【国際公開番号】WO2012099254
(87)【国際公開日】20120726
【審査請求日】2014年12月22日
(31)【優先権主張番号】特願2011-10964(P2011-10964)
(32)【優先日】2011年1月21日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-130285(P2011-130285)
(32)【優先日】2011年6月10日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-130361(P2011-130361)
(32)【優先日】2011年6月10日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-172226(P2011-172226)
(32)【優先日】2011年8月5日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-200645(P2011-200645)
(32)【優先日】2011年9月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 晃
(72)【発明者】
【氏名】山本 賢司
(72)【発明者】
【氏名】樋口 隆行
(72)【発明者】
【氏名】庄司 慎
(72)【発明者】
【氏名】富岡 茂
(72)【発明者】
【氏名】盛岡 実
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−017013(JP,A)
【文献】 国際公開第03/016234(WO,A1)
【文献】 盛岡実,他,工業原料を用いたγ-2CaO・SiO2のロ-タリ-キルンによる焼成,第61回セメント技術大会講演要旨,2007年 5月20日,Page.42-43
【文献】 山本賢司,他,γ-2CaO・SiO2の製造におけるエコロジカル評価,第63回セメント技術大会講演要旨,2009年 4月30日,Page.6-7
【文献】 盛岡実,他,γ-2CaO・SiO2を混和して炭酸化養生を行ったモルタルの塩化物遮蔽効果,コンクリート工学年次論文集,2004年 6月25日,Vol.26 No.1,Page.2079-2084
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/24
C04B 22/08
WPI
JSTPlus(JDreamII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaOとSiOを主成分とし、CaO/SiOモル比が1.8〜2.2であって、1000℃加熱後にAlとFeの合計の含有量が5質量%未満で、粒度を150μm通過率で90質量%以上とした原料を造粒し、造粒した原料を、マグネシア−スピネルレンガ、Al含有率が85質量%以上のアルミナ質レンガ、炭化ケイ素質レンガ、マグネシア−スピネルモルタル、およびAl含有率が85質量%以上のアルミナ質モルタルからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のレンガ又はモルタルを焼成帯の内面に使用したロータリーキルンにて、焼点温度1350〜1600℃で焼成する、40μm通過率が85%以上であるγ−2CaO・SiOの製造方法。
【請求項2】
上記ロータリーキルンが、焼成帯のレンガにマグネシア−スピネルレンガを使用する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記ロータリーキルンが、焼成帯のレンガにAl含有率が85質量%以上のアルミナ質レンガを使用する請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
上記ロータリーキルンが、焼成帯のレンガに炭化ケイ素質レンガを使用する請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
上記ロータリーキルンが、焼成帯のレンガにマグネシア−スピネルモルタルを塗布したレンガを使用する請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
上記ロータリーキルンが、焼成帯のレンガにAl含有率が85質量%以上のアルミナ質モルタルを塗布したレンガを使用する請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
原料のCaO/SiOのモル比が1.85〜2.15である請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
1000℃加熱後の原料が、2質量%未満のFeを含有する請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
原料が、100μm通過率で90質量%以上の粒度を有する請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
水/原料の質量比が(0.1〜0.3)/1の水を使用して造粒する請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
1400〜1500℃の焼点温度で焼成する請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
ロータリーキルンの焼成帯のレンガ表面のモルタルが、5〜10mmの厚みである請求項1、5〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
造粒した原料を、ロータリーキルンの焼成帯に連続的に供給しつつ、焼成物を連続的にロータリーキルンから取り出す請求項1〜12のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、セメント混和材として利用可能なγ−2CaO・SiOの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント・コンクリートの耐久性に関して、以前にも増して大きな関心を集めている。本発明者らは、セメント・コンクリートの耐久性を著しく向上させるために、γ−2CaO・SiOをセメント混和材として提案している(コンクリート工学年次論文集、vol.26、No.1,2004年)。γ−2CaO・SiOをセメント混和材として活用することで、コンクリート構造物の早期劣化を招く、中性化や塩害の抑制に大きな効果をもたらす。このため、γ−2CaO・SiOの利用に関して大きな期待が寄せられている。
【0003】
γ−2CaO・SiOを活用するためには、その工業的な製造方法を確立する必要がある。しかしながら、γ−2CaO・SiOの合成方法については、研究レベルでの知見はあるものの、工業的な製造方法についてはあまり検討が行われていないのが実状である。ましてや、大量に、しかも、連続的にγ−2CaO・SiOを製造する方法については皆無に等しい。
【0004】
これまで、γ−2CaO・SiOの製造方法としては、石灰質原料と珪酸質原料の混合物100重量部に対して、グラファイト粉末や無定形炭素粉末を0.5〜5重量部添加し、これを窯尻の酸素濃度を3%以下にしてロータリーキルンで焼成する方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、この方法は、原料に炭素を加えるため、焼成後の製造物に炭素が残存したり、焼成温度が高くなると石灰質原料と炭素との反応によりカルシウムカーバイドが副生するという課題があった。炭素が残存すると、セメント混和材として利用する場合に、減水剤や高性能減水剤を炭素が吸着し、流動性に悪影響を与える。カルシウムカーバイドが副生する場合は、水と接すると引火性のアセチレンガスを発生するために安全性の面で取り扱いが困難になる場合があった。
【0005】
また、特許文献1の方法では、γ−2CaO・SiOの生成の目安となるダスティング現象から判定されるγ−2CaO・SiOの純度もそれほど高くないものであった。具体的には、ダスティングの程度を表す指標として、40μmの通過率を測定しているが、最大でも80%程度であった。このように、特許文献1の方法はγ−2CaO・SiOの工業的製造方法として十分なものではなかった。
【0006】
最近では、γ−2CaO・SiOの製造方法に関して、より純度の高い、しかも、工業的に生産性が高く、安定した品質の製品が得られる合理的な方法の開発が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本特開昭61−256913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、γ−2CaO・SiOの製造方法に関して、より純度の高い、しかも、工業的に生産性が高く、安定した品質の製品が得られる合理的な方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは種々検討を重ねた結果、特定の原料を選定し、特定の粒度としたものを造粒し、特定のレンガや特定のモルタルを焼成帯に使用したロータリーキルンで焼成することにより、γ−2CaO・SiOが生成することを見出した。
【0010】
本発明は以下の構成を要旨とするものである。
(1)CaOとSiOを主成分とし、CaO/SiOモル比が1.8〜2.2であって、1000℃に加熱後のAlとFeの合計の含有量が5質量%未満であり、粒度を150μm通過率で90質量%以上とした原料を造粒し、造粒した原料を、マグネシア−スピネルレンガ、Al含有率が85質量%以上のアルミナ質レンガ、炭化ケイ素質レンガ、マグネシア−スピネルモルタル、およびAl含有率が85質量%以上のアルミナ質モルタルからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のレンガ又はモルタルを焼成帯の内面に使用したロータリーキルンにて、焼点温度1350〜1600℃で焼成する、40μm通過率が85%以上であるγ−2CaO・SiOの製造方法。
(2)上記ロータリーキルンが、焼成帯のレンガにマグネシア−スピネルレンガを使用する上記(1)に記載の製造方法。
(3)上記ロータリーキルンが、焼成帯のレンガにAl含有率が85質量%以上のアルミナ質レンガを使用する上記(1)に記載の製造方法。
(4)上記ロータリーキルンが、焼成帯のレンガに炭化ケイ素質レンガを使用する上記(1)に記載の製造方法。
(5)上記ロータリーキルンが、焼成帯のレンガにマグネシア−スピネルモルタルを塗布したレンガを使用する上記(1)に記載の製造方法。
(6)上記ロータリーキルンが、焼成帯のレンガにAl含有率が85質量%以上のアルミナ質モルタルを塗布したレンガを使用する上記(1)に記載の製造方法。
(7)原料のCaO/SiOのモル比が1.85〜2.2.15である上記(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法。
(8)1000℃加熱後の原料が、2質量%未満のFeを含有する上記(1)〜(7)のいずれかに記載の製造方法。
(9)原料が、100μm通過率で90質量%以上の粒度を有する上記(1)〜(8)のいずれかに記載の製造方法。
(10)水/原料の質量比が(0.1〜0.3)/1の水を使用して造粒する上記(1)〜(9)のいずれかに記載の製造方法。
(11)1400〜1500℃の焼点温度で焼成する上記(1)〜(10)のいずれかに記載の製造方法。
(12)ロータリーキルンの焼成帯のレンガ表面のモルタルが、5〜10mmの厚みである上記(1)、(5)〜(10)のいずれかに記載の製造方法。
(13)造粒した原料を、ロータリーキルンの焼成帯に連続的に供給しつつ、焼成物を連続的にロータリーキルンから取り出す上記(1)〜(12)のいずれかに記載の製造方法。

【発明の効果】
【0011】
本発明のγ−2CaO・SiOの製造方法によれば、純度が高く、しかも、工業的に生産性が高く、安定した品質のγ−2CaO・SiOを合理的に製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
本発明で云うγ−2CaO・SiOとは、CaOとSiOを主成分とする化合物のうち、ダイカルシウムシリケート(2CaO・SiO)の一種である。ダイカルシウムシリケートには、α型、αプライム型、γ型、γ型が存在する。本発明は、γ型のダイカルシウムシリケートに関する。
【0013】
本発明では、CaO原料とSiO原料を主成分として用いる。主成分とは、好ましくは原料中のCaOとSiOとの合計含有量が、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上であり、これ以外の成分の含有量はなるべく少ないことを意味する。
CaO原料としては、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、または酸化カルシウムを使用することができる。SiO原料としては、ケイ石微粉末、粘土、シリカフューム、フライアッシュ、非晶質シリカ、その他、各産業から副生するシリカ質の物質を選定できる。
本発明では、不純物の存在を限定することが好ましい。具体的には、CaO原料やSiO原料から混入するAlやFeの合計が、1000℃加熱後の原料で、5%未満である必要がある。AlやFeの合計が、4%未満であることがより好ましく、3%未満であることが最も好ましい。殊に、Feの含有量は、1000℃加熱後の原料で、2%未満であることが好ましく、1.5%未満であることがより好ましく、1%未満であることが最も好ましい。AlやFeの合計が、1000℃加熱後の原料に対して、5質量%未満でないと、β−2CaO・SiOが生成しやすく、γ−2CaO・SiOの純度が悪くなる。特に、Feの影響が大きいため、AlとFeの合計が、1000℃加熱後の原料に対して5質量%未満であることに加えて、Feの含有量は、1000℃加熱後の原料に対して、2質量%未満であることが好ましい。Feの含有量は、1000℃加熱後の原料に対して1.5質量%未満以下になると、格段に品質安定性が高まる。
【0014】
CaO原料とSiO原料の配合割合は、原料のCaO/SiOモル比が1.8〜2.2になるように調製する必要がある。原料のCaO/SiOモル比が1.8未満では、α型のワラストナイト若しくはランキナイトが副生し、γ−2CaO・SiOの含有率が低くなる。原料のCaO/SiOモル比が2.2を超えると、3CaO・SiOや遊離石灰が副生し、やはりγ−2CaO・SiOの含有率が低くなる。原料のCaO/SiOモル比は、1.85〜2.15が好ましい。
【0015】
CaO原料とSiO原料の粒度は、150μm通過率が90%以上、つまり、150μmの篩下が90%になるように調製する必要があり、100μm通過率が90%以上、つまり、100μmの篩下が90%になるように調製することがより好ましい。原料の粒度が前記範囲まで細かくないと、γ−2CaO・SiOの純度が悪くなる。具体的には、遊離石灰や不溶解残分が多くなる傾向となる。
【0016】
本発明では、γ−2CaO・SiOの生成を促すために調合した原料を造粒することが好ましい。造粒とは、調合した原料を団子状に成形する操作である。造粒は、粒度の範囲が好ましくは1〜50mm、好ましくは 10〜30mmになるように行われる。造粒の方法としては、円盤型の回転ドラムに原料と水とを投入して造粒する方法や、型に原料を入れて加圧成形する、いわゆるペレタイザーを用いる方法等が挙げられる。造粒の際に使用する水の使用量は、(水/原料)の質量比で(0.1〜0.3)/1が好ましく、(0.15〜0.25)/1がより好ましい。水の使用量が0.1/1未満では、造粒した原料が崩れやすく、ロータリーキルンでの焼成時に焼成反応が十分に進行しない場合がある。また、水の使用量が0.3/1を超えると、造粒した原料が水っぽくなり、やはり、崩れやすくなって、ロータリーキルンでの焼成時に焼成反応が十分に進行しない場合がある。原料に多くの水を含むため、これを蒸発させるために、焼成エネルギーを多く必要とするため不経済でもあり、また、環境負荷も大きくなるため好ましくない。
【0017】
本発明では、造粒後の原料をロータリーキルンにて焼成する。その温度は、焼点温度1350〜1600℃で焼成することが必要であり、1400〜1550℃がより好ましく、1400〜1500℃が特に好ましい。焼点温度が1350℃未満では、γ−2CaO・SiOの純度が悪くなる。具体的には、遊離石灰や不溶解残分が多くなる傾向にある。逆に、焼点温度が1600℃を超えると、溶融してキルン内にコーチングが付着して、操業が困難になる場合があり、エネルギー消費が大きく、不経済である。なお、本発明で言う焼点温度とは、キルン内の最高温度を意味する。通常、キルン内の最高温度はバーナーから伸びるフレーム(炎の形)の前方付近にある。
【0018】
ロータリーキルンの焼成帯の内面に用いるレンガやモルタルの材質は重要である。本発明では、下記の(1)〜(5)からなる群から選ばれる少なくとも1種以上のレンガ又はモルタルが使用される。
(1)マグネシア-スピネルレンガ
(2)JIS R 2305に規定されているアルミナ質レンガのうち、Al含有率が85%以上、好ましくは96%以上のアルミナ質レンガ
(3)JIS R 2011に規定されている炭化ケイ素質レンガ
(1)〜(3)以外のレンガでは安定してγ−2CaO・SiOを製造することが困難で、β−2CaO・SiOが混在する場合がある。
(4)マグネシア-スピネルモルタル
(5)Al含有率が85%以上、好ましくは96%以上のアルミナ質モルタル
【0019】
本発明において上記モルタルを焼成帯に使用する場合、上記の(4)または(5)以外のモルタルでは安定してγ−2CaO・SiOを製造することが困難で、β−2CaO・SiOが混在する場合がある。
これらのモルタルは、ロータリーキルンの焼成帯のレンガの表面に塗布して用いることが好ましい。レンガに塗布するモルタルの使用条件は、特に限定されるものではないが、モルタルの厚みは5〜10mmであるのが好ましい。水はモルタル成分に対して好ましくは(0.15〜0.2)/1である。
また、上記のレンガ及びモルタルは、いずれも、セメントロータリーキルン用でクロムフリーであることが好ましい。
【0020】
本発明において、ロータリーキルンでの焼成雰囲気は、酸素濃度が10〜21体積%の酸素/窒素の混合ガス中、大気中、又は10〜21体積%の酸素を含む燃焼ガス中が好ましく、12〜16体積%中がより好ましい。焼成時間は1〜5時間が好ましく、2〜4時間がさらに好ましい。ロータリーキルンの回転速度は400〜800rpmが好ましく、500〜700rpmがより好ましい。
本発明のγ−2CaO・SiOの製造方法は、バッチ焼成によるバッチ製造方法又は連続焼成による連続製造方法が好ましく、生産性の見地より、連続製造方法がさらに好ましい。ここで、連続製造方法とは、造粒した原料を、ロータリーキルンの焼成帯に連続的に供給しつつ、焼成物を連続的にロータリーキルンから取り出す製造方法を意味する。
連続製造方法においては、生産性の見地より、造粒した原料のロータリーキルンの最高温度帯における滞留時間は30〜180分であるのが好ましく50〜150分であるのが更に好ましい。
【0021】
本発明では、焼成後、冷却操作を行うが、冷却条件は特に限定されるものではなく、特殊な急冷操作を行わなければよい。具体的には、一般的なポルトランドセメントクリンカーの冷却条件に準じた方法で良く、ロータリーキルンで焼成後、大気環境下でクーラー等を通して冷却すればよい。
【0022】
本発明のγ−2CaO・SiOの製造方法によれば、ダスティング後の40μm通過率が85%以上、すなわち、純度の高いγ−2CaO・SiOを得ることができる。また、本発明のγ−2CaO・SiOの製造方法によれば、ダスティング後の40μm通過率が90%以上、さらには95%以上のものを得ることができる。
【実施例】
【0023】
次に、実施例及び比較例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定して解釈されるべきではない。
「実験例1」
下記のCaO原料、SiO原料、Al成分、およびFe成分を配合し、表1に示すようにCaO/SiOモル比が2.0で、1000℃加熱後のAl含有量とFe含有量が異なる様々な配合の原料を調製した。これら原料を造粒機(三菱重工業社製、目皿造粒機MG−180;目皿直径1800mm、深さ450mm)で、水/原料の質量比が0.2/1の条件で粒度が10〜40mmになるように造粒し、焼成帯内面の材質を表1に示すように変えたロータリーキルンにより1450℃で焼成した。焼成後のサンプルを評価した結果を表1に併記する。
【0024】
<ロータリーキルン>
実験例で用いたロータリーキルンは、内径1m、長さ20mの円筒状である。ロータリーキルンの焼成帯の内面の耐火物の材質は、下記の(1)〜(5)に記載されるレンガ(厚さ50mm)またはレンガの表面にモルタルを塗布したものを用いた。
焼成帯の材質(1):マグネシア-スピネルレンガ(市販品)
焼成帯の材質(2):Al含有率90%のアルミナ質レンガ(市販品)
焼成帯の材質(3):炭化ケイ素質レンガ(市販品)
焼成帯の材質(4):Al含有率60%、SiO含有率40%のシリカ−アルミナ質レンガの表面に、マグネシア−スピネルモルタルを、水/モルタル成分質量比が0.17/1で、厚み7mmで塗布したもの。
焼成帯の材質(5):Al含有率60%、SiO含有率40%のシリカ−アルミナ質レンガの表面に、Al含有率が90質量%のアルミナ質モルタルを、水/モルタル成分質量比が0.17/1で、厚み7mmで塗布したもの。
【0025】
<使用材料>
CaO原料:石灰石微粉末。CaOが55.4%、MgOが0.37%、Alが0.05%、Feが0.02%、およびSiOが0.10%であり、強熱減量(1000℃)が43.57%、炭素分は検出されず。150μm通過率が97.0%、100μm通過率が91.9%である。
SiO原料:ケイ石微粉末。CaOが0.02%、MgOが0.04%、Alが2.71%、Feが0.27%、SiOが95.83%、およびTiOが0.23%であり、炭素分は検出されず。強熱減量(1000℃)が0.51%、150μm通過率が95.1%、100μm通過率が90.3%である。
Al成分:工業用のアルミナ。純度99%以上である。
Fe成分:工業用の酸化第二鉄。純度99%以上である。
水:水道水
【0026】
<測定方法>
化合物の同定:粉末X線回折法により化合物を同定した。
化学成分の定量:Al成分、Fe成分、遊離石灰、不溶解残分をJIS R 5202によって分析した。
ダスティングの度合い:40μm通過率によって評価した。
【0027】
【表1】
【0028】
表1より、CaO原料やSiO2原料から混入するAl2O3やFe2O3の合計が、1000℃加熱後の原料に対して、5質量%(mass%)未満である必要があることがわかる。Al2O3やFe2O3の合計が、4質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが最も好ましい。殊に、Fe2O3の含有量は、1000℃加熱後の原料に対して、2質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが最も好ましい。Al2O3やFe2O3の合計が、1000℃加熱後の原料に対して、5質量%未満でないと、β-2CaO・SiO2が生成しやすく、γ-2CaO・SiO2の純度が悪くなる。また、焼成帯にマグネシア-スピネルレンガ、Al含有率90%のアルミナ質レンガ、炭化ケイ素質レンガ、マグネシア−スピネルモルタル、Al含有率が90質量%のアルミナ質モルタルを用いることにより、純度の高いγ−2CaO・SiOを安定的に製造できる。
【0029】
「実験例2」
原料のCaO/SiOモル比を2.0に、Fe含有量を0.3%に、Al含有量を1.7%に固定し、焼成帯のレンガやモルタルを、下記の(5)〜(12)に変えたこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0030】
<使用材料>
焼成帯の材質(5):Al含有率95%アルミナ質レンガ(市販品)
焼成帯の材質(6):Al含有率85%のアルミナ質レンガ(市販品)
焼成帯の材質(7):Al含有率60%、SiO含有率40%のシリカ−アルミナ質レンガの表面に、Al含有率95%のアルミナ質モルタル(ヨータイ社製M−AW)を、水/モルタル成分質量比が0.17/1、厚み7mmで塗布したもの
焼成帯の材質(8):Al含有率60%、SiO含有率40%のシリカ−アルミナ質レンガの表面に、Al含有率85%のアルミナ質モルタル(ヨータイ社製M−A)を、水/モルタル成分質量比が0.17/1、厚み7mmで塗布したもの
焼成帯の材質(9):Al含有率45%、SiO含有率55%のシリカ−アルミナ質レンガ(市販品)
焼成帯の材質(10):MgO含有率85%のマグネシアレンガ(市販品)
焼成帯の材質(11):Al含有率60%、SiO含有率40%のシリカ−アルミナ質レンガの表面に、Al含有率80%、SiO含有率20%のシリカ−アルミナ質モルタル(ヨータイ社製M−WAG)を水/モルタル成分質量比が0.17/1、厚み7mmで塗布したもの
焼成帯の材質(12):Al含有率60%、SiO含有率40%のシリカ−アルミナ質レンガの表面に、MgO含有率95%のマグネシアモルタルを水/モルタル成分質量比が0.17/1、厚み7mmで塗布したもの
【0031】
【表2】
【0032】
表2より、焼成帯にAl含有率が85質量%以上のアルミナ質レンガ、またはアルミナ質モルタルを用いることにより、純度の高いγ−2CaO・SiOを安定的に製造できることがわかる。本発明以外のレンガやモルタルを用いた場合、安定してγ−2CaO・SiOを製造することが困難で、β−2CaO・SiOが生成する。
【0033】
「実験例3」
原料のCaO/SiOモル比を2.0、Fe含有量を0.3%、Al含有量を1.7%に固定し、原料の粒度を表3に示すように変えたこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【0034】
【表3】
【0035】
表3より、CaO原料とSiO2原料の粒度は、150μm通過率が90%以上になるように調製する必要があり、100μm通過率が90%以上になるように調製することがより好ましいことがわかる。原料の粒度が前記範囲まで細かくないと、γ-2CaO・SiO2の純度が悪くなり、遊離石灰や不溶解残分が多くなる。
【0036】
「実験例4」
CaO原料とSiO原料のCaO/SiOモル比を表4に示すように変えたこと以外は実験例3と同様に行った。結果を表4に示す。
【0037】
【表4】
【0038】
表4より、CaO原料とSiO2原料の配合割合は、原料のCaO/SiO2モル比が1.8〜2.2になるように調製する必要があることがわかる。原料のCaO/SiO2モル比がこの範囲外では、γ-2CaO・SiO2の純度が悪くなる場合がある。
【0039】
「実験例5」
焼点温度を表5に示すように変えたこと以外は実験例3と同様に行った。結果を表5に示す。
【0040】
【表5】
【0041】
表5より、焼点温度で1350〜1600℃で焼成することが必要であり、1400〜1550℃がより好ましいことがわかる。焼点温度が1350℃未満では、γ-2CaO・SiO2の純度が悪くなる。逆に、焼点温度が1600℃を超えると、溶融してキルン内にコーチングが付着して操業が困難になり、β-2CaO・SiO2が混在する。
【0042】
「実験例6」
造粒の際の(水/原料)の質量比を表6に示すように変えたこと以外は実験例3と同様に行った。結果を表6に示す。
【0043】
【表6】
【0044】
表6より、造粒の際に使用する水の使用量は、水/原料比で10〜30質量%が好ましく、15〜25質量%がより好ましいことがわかる。水の使用量が10質量%未満では、造粒した原料が崩れやすく、ロータリーキルンでの焼成時に焼成反応が十分に進行しない。また、水の使用量が30質量%を超えると、造粒した原料が水っぽくなり、やはり、崩れやすくなって、ロータリーキルンでの焼成時に焼成反応が十分に進行しない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のγ−2CaO・SiOの製造方法は、純度が高く、しかも、工業的に生産性が高く、安定した品質の製品が得られるため広範に利用できる。
なお、2011年1月21日に出願された日本特許出願2011−010964号、2011年6月10日に出願された日本特許出願2011−130285号、2011年6月10日に出願された日本特許出願2011−130361号、2011年8月5日に出願された日本特許出願2011−172226号、及び2011年9月14日に出願された日本特許出願2011−200645号の明細書、特許請求の範囲、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。