【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の空気入りタイヤは、複数のコードを備えたタイヤ構成要素を有し、その複数のコードは個別にディップされ、個別に粘着性を付与され、個別にタイヤ構成要素に取り付けられている。タイヤ構成要素は、例えば、空気入りタイヤの高速性能と製作性を改良するトレッド補強構造であってよい。
【0009】
本発明の他の態様によれば、複数のコードは複数の単フィラメントまたは撚られた複数の糸である。
【0010】
本発明の一態様において、複数のコードは400〜3500Dtexの複数のアラミドコードである。Dtexは、1500〜1800Dtexの範囲、例えば1670Dtex〜1680Dtexが好ましい。
【0011】
本発明の一態様において、複数のコードは4から7の範囲の、好ましくは5と6の撚り係数を有している。「撚り係数」は、コード内の1本または2本以上の糸がコードの長さ方向の軸線に対してなすらせん角度の指標となる数を指す。本明細書で使用される場合、コードの撚り係数(TM)は、繊維技術ではよく知られた以下の式によって求められる。
TM=0.0137CT×(CD)
1/2
ここで、TMは撚り係数(twist multiplier)、CTはコード長1インチ(2.54cm)当たりの巻数、CDは1本以上の糸、及び/または、コードの糸のサブグループのデニールの総和であり、糸のサブグループについては撚られる前の糸を基準とする。コードの撚り係数は、引張り強度、弾性係数、伸び及び疲労などの、コードの物理的特性を特徴付ける。
【0012】
本発明のさらに他の態様によれば、トレッド補強構造は複数のコードを備え、複数のコードは個別にディップされ粘着性が付与され、空気入りタイヤの円周方向に対して−5°から+5°の範囲の角度に向けられている。
【0013】
本発明のさらに他の態様によれば、複数のコードはそれぞれ、1本、2本、3本、または4本以上の撚られたアラミド糸で構成されている。
【0014】
本発明のさらに他の態様によれば、タイヤ構成要素は、ベルト構造、カーカス、オーバーレイ、アンダートレッド及びエイペックスからなる群から選択される。
【0015】
本発明のさらに他の態様によれば、ディップ工程中またはディップ工程後に、コードに対して粘着性を付与する仕上げが施される。
【0016】
本発明のさらに他の態様によれば、タイヤ構成要素は、半径方向にみて、トレッドと、少なくとも1つのブレーカと、少なくとも1つのカーカスプライとの間の少なくともいずれかに配置されているオーバーレイである。
【0017】
本発明のさらに他の態様によれば、粘着性が付与された複数のコードは、未硬化の空気入りタイヤの製造プロセス中に、カーカス構造に直接取り付けられる。
【0018】
本発明のさらなる他の態様によれば、複数のコードは、アラミド、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PVA(ポリビニルアルコール)、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)、POK(ポリオレフィンケトン)、レーヨン、ナイロン、カーボン及びガラス繊維の1つから形成されている。
【0019】
本発明の方法により空気入りタイヤを形成することができる。本方法は、第1に、個々のコードを第1の溶液すなわちエマルジョンにディップすることによって、個々のコードを事前処理するステップと、第2に、個々のコードを乾燥させるステップと、第3に、ディップされ乾燥された個々のコードの表面に、第2の溶液すなわちエマルジョンで粘着性を付与するステップと、第4に、粘着性が付与された個々のコードを未硬化のタイヤ構成要素の表面に取り付けるステップと、を有することが好ましい。
【0020】
本発明の他の態様によれば、粘着性が付与された個々のコードは、タイヤ構築ドラム上で未硬化のタイヤ構成要素に取り付けられる。
【0021】
本発明のさらに他の態様によれば、未硬化のタイヤ構成要素は、カーカス、ベルト構造、オーバーレイ、アンダートレッド及びトレッド緩衝層からなる群から選択される。
【0022】
本発明のさらに他の態様によれば、第2の溶液すなわちエマルジョンは、溶剤に溶解しているゴム化合物を有している。溶剤はトルエンなどの石油誘導体を有していることが好ましい。
【0023】
本発明のさらに他の態様によれば、上記の取り付けるステップは、個々のコードをゴム引きせずに行われる。
【0024】
本発明のさらに他の態様によれば、ディップすることは、個々のコードを第1の溶液すなわちエマルジョンにディップすることと、乾燥するステップの前に、接着促進剤を適用するステップとディップされた個々のコードを別の溶液すなわちエマルジョンにディップすることの少なくとも一方を行うことと、を有する。
【0025】
本発明のさらに他の態様によれば、別の溶液すなわちエマルジョンは、レソルシノールホルムアルデヒド(RFL)樹脂を含むゴムラテックスを有する水性エマルジョンである。
【0026】
開示された本発明においては、以下の定義が優先的に適用される。
【0027】
「エイペックス」は、半径方向にみてビードコアの上方でかつプライとプライ折り返し部との間に位置しているエラストマのフィラー要素を意味する。
【0028】
「環状の」は、輪のように構成されていることを意味する。
【0029】
「アスペクト比」は、断面幅に対する断面高さの比を意味する。
【0030】
「軸線方向の」及び「軸線方向に」は、本明細書では、タイヤの回転軸に平行なラインまたは方向を指す。
【0031】
「ビード」は、環状の引張り部材を有するタイヤの一部分を意味する。プライコードに覆われ、設計リムに嵌められる形状に作られている。フリッパ、チッパ、エイペックス、トウガード及びチェーファー等の他の補強部材を有することもあれば、有しないこともある。
【0032】
「ベルト構造」は、織られまたは織られていない平行なコードで構成された、少なくとも2つの環状層または環状プライを意味する。ベルト構造はトレッドの下方に位置し、ビードに固定されておらず、タイヤの赤道面に対して傾斜したコードを有している。ベルト構造は、比較的小さい角度で傾斜した平行なコードで構成された複数のプライを有していることもあり、このようなプライは拘束層として機能する。
【0033】
「バイアスタイヤ」(クロスプライ)は、カーカスプライの補強コードが、タイヤの赤道面に対して約25°〜65°の角度でビードからビードへタイヤを斜めに横切って延びているタイヤを意味する。複数のプライが存在する場合、プライコードは、層毎に交互に、互いに反対の角度で延びている。
【0034】
「ブレーカ」は、互いに平行に延びる補強コードで構成された、少なくとも2つの環状層または環状プライであって、補強コードがタイヤの赤道面に対して、カーカスプライの平行な補強コードと同じ角度を有している環状層または環状プライを意味する。ブレーカは通常、バイアスタイヤと組み合わされる。
【0035】
「ケーブル」は、2本以上の撚り糸を1本に撚り合わせて構成されたコードを意味する。
【0036】
「カーカス」は、プライ上のベルト構造、トレッド、アンダートレッド及びサイドウォールのゴムとは別に設けられたタイヤ構造を意味し、ビードを含む。
【0037】
「周方向」は、赤道面(EP)に平行かつ軸線方向と垂直に環状タイヤの表面の周囲に沿って延びるラインまたは方向を意味する。
【0038】
「コード」は、撚られた糸の集合体などの、1本または2本以上の撚られた糸または撚られていない糸を意味する。「コード」は、タイヤのプライを構成する補強用素線の1つとして呼ばれることもある。
【0039】
「コード角度」は、赤道面に対してコードが形成する、タイヤの平面図における左右の鋭角を意味する。「コード角度」は硬化され膨張させられていないタイヤで計測される。
【0040】
「デニール」は、9000メートル当たりのグラム数で表される重量(線密度を表すための単位)を意味する。Dtexは、10000メートル当たりのグラム数で表される重量を意味する。
【0041】
「エラストマ」は、変形後に大きさと形状を回復可能な弾力性のある物質を意味する。
【0042】
「赤道面(EP)」は、タイヤの回転軸に垂直でトレッドの中心を通る平面を意味する。
【0043】
「織物」は、実質的に1方向に延びているコードで形成された網状体を意味し、コードは撚られていてもよく、高弾性係数材料のフィラメント(同様に撚られていてもよい)からなっていてもよい。
【0044】
「繊維」は、フィラメントの基本要素を構成している天然物または人工物の単位である。直径または幅の少なくとも100倍の長さを有していることによって特徴づけられる。
【0045】
「フィラメントカウント」は、糸を構成しているフィラメントの本数を意味する。例えば、1000デニールのポリエステルは約190本のフィラメントを有している。
【0046】
「高張力鋼(HT)」は、0.20mmのフィラメント直径で引張り強さが少なくとも3400MPaの炭素鋼を意味する。
【0047】
「内側」はタイヤの内側に向かうことを意味し、「外側」はタイヤの外側に向かうことを意味する。
【0048】
「LASE」は、特定の伸びでの負荷である。
【0049】
「横方向」は、軸線方向を意味する。
【0050】
「撚り長さ」は、撚られているフィラメントまたは素線が他のフィラメントまたは素線の周りを360度回転するときに進む距離を意味する。
【0051】
「メガ張力鋼(MT)」は、0.20mmのフィラメント直径で引張り強さが少なくとも4500MPaの炭素鋼を意味する。
【0052】
「半径方向の」及び「半径方向に」は、タイヤの回転軸に向けて、または回転軸から離れるように、半径方向に向かう方向を意味する。
【0053】
「サイドウォール」は、トレッドとビードとの間のタイヤの部分を意味する。
【0054】
「スーパー張力鋼(ST)」は、0.20mmのフィラメント直径で引張り強さが少なくとも3650MPaの炭素鋼を意味する。
【0055】
「テナシティ」は、歪の生じていない試料の単位線密度当たりの力として表される応力(gm/texまたはgm/デニール)であり、繊維で使用される。
【0056】
「引張り強度」は力/断面積で表される応力である。強度(単位:psi)=12800×比重×デニール当たりテナシティ(単位:グラム)である。
【0057】
「トレッド」は、型で作られ、押出成形され、または形成されたゴム要素を意味し、タイヤケーシングに接合された際に、タイヤの通常空気圧下で常用荷重が作用しているときに路面と接触するタイヤの部分を含む。
【0058】
「ウルトラ張力鋼(UT)」は、0.2mmのフィラメント直径で引張り強さが少なくとも4000MPaの炭素鋼を意味する。
【0059】
「糸」は、織物繊維またはフィラメントの連続素線に対する一般的な用語である。糸は1)1つに撚られた多数の繊維、2)撚らずにまとめられた多数のフィラメント、3)ある程度撚られてまとめられた多数のフィラメント、4)撚られているかいないかに拘わらず1本のフィラメント(単フィラメント)、または5)撚られているかいないかに拘わらず狭い帯状の材料、のいずれかの形態で生じる。
【0060】
本発明のさらなる態様は、添付の模式的な図面及び以下の実施形態の説明から明らかになろう。