(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5868087
(24)【登録日】2016年1月15日
(45)【発行日】2016年2月24日
(54)【発明の名称】疎氷性コーティングを施したプロペラブレード
(51)【国際特許分類】
B64C 11/20 20060101AFI20160210BHJP
B64D 15/00 20060101ALI20160210BHJP
【FI】
B64C11/20
B64D15/00
【請求項の数】7
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2011-200363(P2011-200363)
(22)【出願日】2011年9月14日
(65)【公開番号】特開2012-62049(P2012-62049A)
(43)【公開日】2012年3月29日
【審査請求日】2014年9月8日
(31)【優先権主張番号】1015409.4
(32)【優先日】2010年9月15日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】509133300
【氏名又は名称】ジーイー・アビエイション・システムズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GE AVIATION SYSTEMS LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 俊久
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・フェドール・タウカン
【審査官】
黒田 暁子
(56)【参考文献】
【文献】
実公昭41−015727(JP,Y1)
【文献】
米国特許第02434208(US,A)
【文献】
特表2009−544807(JP,A)
【文献】
特表2006−521204(JP,A)
【文献】
特開2010−031871(JP,A)
【文献】
特表2002−516780(JP,A)
【文献】
特開2007−296511(JP,A)
【文献】
西独国特許出願公開第2640360(DE,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0126981(US,A1)
【文献】
JURASEK JOSEF, PROKOP JOSEF, ZAKOVCIK JAROSLAV,ANTI-ICING OF AIRSCREW SURFACE,旧チェコスロバキア国特許発明第209068号明細書,1981年10月30日,1-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 11/20
B64D 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブアセンブリを中心に回転する、ブレード翼根から翼端までの長さに沿って径方向を画成するプロペラブレードであって、
径方向内側領域と、
使用中に前記ブレードにかかる回転力が、コーティングされていないブレードから氷を除去するのに十分である前記ブレード翼根と前記ブレード翼端との間の位置に配置された径方向外側領域と、
少なくとも前記プロペラブレードの前縁に沿って配置され、疎氷性材料からなるコーティングと、
を有し、
前記コーティングは前記径方向内側領域から前記径方向外側領域まで前記プロペラブレードに沿って延び、
前記コーティングの凝集率が前記ブレードの前記長さに沿って径方向に変化する、
プロペラブレード。
【請求項2】
前記径方向外側領域が前記ブレードの前記長さに沿って約50%〜70%にわたって位置する、請求項1に記載のプロペラブレード。
【請求項3】
前記凝集率が半径の増大と共に上昇する、請求項1または2に記載のプロペラブレード。
【請求項4】
前記コーティングが、前記プロペラブレードの前記前縁から前記ブレードの翼弦長に沿って約25%延びる、請求項1から3のいずれかに記載のプロペラブレード。
【請求項5】
前記コーティングが複数の層からなる、請求項1から4のいずれかに記載のプロペラブレード。
【請求項6】
前記コーティングが第1、第2、第3、及び第4の層からなる、請求項5に記載のプロペラブレード。
【請求項7】
前記第1の層が接着性材料からなり、前記第2の層がポリマーからなり、前記第3の層が、前記第4の層を前記第2の層に接合するためのタイコートからなる、請求項6に記載のプロペラブレード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に氷の堆積を防止する手段を有する航空機のプロペラブレードに関する。
【背景技術】
【0002】
既知の着氷条件への航行を認可されている航空機に装着されるプロペラには、プロペラブレードへの受け入れられないレベルの氷の累積を防止する措置が講じられなければならない。プロペラブレードのエアフォイル部分への氷の堆積は、ブレードの航空力学的効率に影響を及ぼす。従って、航空力学的効率の損失を低減するため、ブレード上に累積することが許容される氷の量を制限することが望まれる。また、着氷条件での航空機胴体への損傷を防止するため、プロペラから剥離する氷塊のサイズを最小限にすることが望まれる。
【発明の概要】
【0003】
先行技術では、氷の剥離を制御するためにブレードを周期的に加熱するため、電気ヒーターシステムがタイマーによって制御される。ヒーターシステムは、各ブレード上の電気ヒーターブランケットと、ヒーターシステムを電源に接続するケーブル配線と、例えばスリップリングやカーボンブラシなどの、機体から回転プロペラへの給電を可能にする手段と、電子除氷タイマーとを含む。使用時、ヒーターは航空機の発電システムの電力をかなり消費する。また、ブレードが過度に加熱されると、溶けた氷が逆流し、電気によって除氷された領域の背後で再形成されることがある。これは、航空機にとって危険な状態である可能性がある。効果的に除氷するためには、このような電気ヒーターシステムには通常、ブレードごとに1200ワット以上の電力が必要である。電気ヒーターブランケットはプロペラの中央体の全体に延び、そのため航空機のナセルとの航空力学的な境界面が形成される。先行技術のヒーターシステムの別の欠点は、ヒーター素子への損傷が素子全体の機能を損なうことがあることである。
【0004】
本発明は、ハブアセンブリを中心に回転する、ブレード翼根から翼端までの長さに沿って径方向を画成するプロペラブレードであって、少なくとも前縁に沿って配置された疎氷性材料からなるコーティングを有し、該コーティングは径方向内側領域から径方向外側領域までブレードに沿って延び、径方向外側領域は、使用中にブレードにかかる回転力が、コーティングされていないブレードから氷を除去するのに十分であるブレード翼根とブレード翼端との間の位置に配置されるプロペラブレードを提供する。
【0005】
動作時、氷塊は、氷塊がプロペラの回転によって生じる氷への遠心力の作用で自己剥離するに十分な量になる時点までブレード上に累積する。氷塊によって加わる力は氷の重さにブレード上の氷の径方向位置と、プロペラの回転速度の二乗とを乗算した値に等しい。氷の遠心力が氷とブレードとの間の凝集接合強度を超えると、氷はブレード表面から剥離する。ブレードの長さ全体にわたって、半径(ひいては遠心力場)が変化すると、いずれかのブレード半径位置で累積して氷とブレードとの間の凝集接合を乗り越えるのに必要な氷の量も変化する。プロペラの先端近傍の遠心力は、疎氷性コーティングがなくても氷の実質的な累積を防止するのに十分に高い。
【0006】
一実施例では、プロペラブレードの回転速度は850rpm程度になる可能性があるので、1.39m(55インチ)の半径外の遠心力場によって、疎氷性コーティングがなくても氷をブレード表面から剥離するのに十分な力が加えられる。ブレードの回転による氷の増加が1100gを超えると、氷はコーティングなしでもブレードの表面から自己剥離する傾向がある。
【0007】
疎氷性コーティングは受動的なシステムであるため、例えば異物による衝撃によってコーティングが損傷した場合、その一部が破壊されたとしてもコーティングは機能し続ける。本発明はまた、プロペラから除氷するために電力を供給する航空機の電気系統に対する需要を低減する。システム内で必要な素子の数を減らすことは、技術的且つ商業的な利点をもたらし、信頼性と保全性を高め、更に初期取得コスト及び継続中の保守コストの両方を節減する。
【0008】
有利には、本発明は、氷とブレードとの間の凝集接合強度を低下させることで、ブレード上に累積した氷がその位置で自己剥離する半径が短縮する。更に有利には、本発明は、ブレードがスピナ又はナセルと交差するブレードの内側端部での凝集接合強度が、航空力学的及び胴体への衝撃の双方を考慮して氷の累積が最大許容量を超えないような強度であることを確実にする。従って、氷を剥離させるための電気、又はその他の形態の補助手段に依存する必要がなくなる。
【0009】
本発明によるコーティングが使用されても依然として疎氷性コーティング上に少量の氷が形成される余地はあるものの、形成された氷が受け入れられないサイズに達する前に自己剥離するのに十分な疎氷性であるようなコーティング材料が選択される。
【0010】
コーティングは製造時にブレードに被覆することもでき、又は既存のプロペラブレードに後付けすることもできる。
【0011】
本発明のコーティングに使用可能な疎氷性材料には、氷に対する凝集率が低い材料が含まれる。このような材料の一例はPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)である。
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を例示のみを目的として詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態によるブレードコーティングの層構造を示す概略断面図である。
【
図2】本発明を実施したプロペラブレードの概略断面図である。
【
図3】本発明を実施したプロペラブレードの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、プロペラブレード1に被覆されたコーティング6の層配置を示す。接着性の第1の層2はブレード表面1に直に隣接して設けられる。ポリマー層3は接着層2上に配置されることによって、ブレード表面にしっかり固着される。ポリマー層3はネオプレンなどの1つ以上のゴム材からなる。更に、ポリマー層3の厚さは、例えば0.5mm〜1.0mmである。ネオプレン層3上に、疎氷性材料の層5をコーティングに接合するのに適した表面を備えるためにタイコート4が配置される。タイコート4の厚さは1ミクロン程度である。疎氷性材料層5の厚さは約3mmである。ポリマー層3を着色して、疎氷性材料層5及びタイコート4が摩耗するとポリマー層を露出させ、疎氷性材料層5の摩耗を示すようにする。
【0015】
図2は、プロペラブレード1の前縁7に被覆されるコーティング6を示す。好ましい実施形態では、コーティング6はブレードの翼弦長の25%まで延び、この翼弦長はブレード1の前縁7から後端8までの距離として画定される。言い換えると、
図2に示す距離Aは距離Bの25%であることが好ましい。プロペラブレードの重さを軽減するためにコーティングのサイズをできるだけ最小限にし、同時に氷の累積を低減する目的でブレードを十分にカバーすることが望ましい。
【0016】
図3は、ブレード翼根から翼端までの長さに沿って径方向Cを画成するブレード1を示し、ブレードは少なくとも前縁7に沿って配置されたコーティング6を有する。コーティング6は、前縁ブレードに沿って径方向内側領域9から径方向外側領域10へと延びている。コーティング6の径方向範囲は、コーティングが必要な部分、すなわちブレードの径方向内側部分では氷に対する凝集性を低くし、他方では、径方向外側部分がコーティングされていないブレード表面から氷を自己剥離させるのに十分に大きい回転力を受けるように選択される。一実施形態では、回転力が半径の増大と共に増大する事実に照らして、コーティングは、ブレードの長さに沿って変化するような凝集率を有する。凝集率は半径の増大と共に高まる可能性があるため、径方向内側の領域は氷を剥離させる最大の傾向を有する。これは、コーティングに沿って異なる疎氷性材料を使用することによって達成可能である。このようにして、コストが高い疎氷性材料を径方向内側領域だけに使用することによって、コーティングのコストを削減することが可能である。