特許第5868628号(P5868628)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5868628
(24)【登録日】2016年1月15日
(45)【発行日】2016年2月24日
(54)【発明の名称】裏面保護シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20160210BHJP
   H01L 31/049 20140101ALI20160210BHJP
   C08F 210/02 20060101ALI20160210BHJP
   C08F 212/08 20060101ALI20160210BHJP
   C08F 212/36 20060101ALI20160210BHJP
【FI】
   B32B27/30 D
   H01L31/04 562
   B32B27/30 B
   C08F210/02
   C08F212/08
   C08F212/36
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2011-168438(P2011-168438)
(22)【出願日】2011年8月1日
(65)【公開番号】特開2012-81732(P2012-81732A)
(43)【公開日】2012年4月26日
【審査請求日】2014年6月26日
(31)【優先権主張番号】特願2010-204554(P2010-204554)
(32)【優先日】2010年9月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】荒井 亨
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 智夫
(72)【発明者】
【氏名】塚本 歩
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 絵梨
【審査官】 久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−091611(JP,A)
【文献】 特開2010−150442(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/128444(WO,A1)
【文献】 特表2010−530140(JP,A)
【文献】 特開2003−347570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C08F 6/00−246/00、301/00
H01L 31/04−31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、フッ素系樹脂からなる保護層とクロス共重合体系樹脂からなる支持層を、接着剤を介して接合させた太陽電池発電モジュール用裏面保護シート。
【請求項2】
接着剤が、2液ウレタン系接着剤、テルペン系ホットメルト接着剤及びシランカップリン剤から選択される請求項1に記載の太陽電池発電モジュール用裏面保護シート。
【請求項3】
クロス共重合体系樹脂に用いられるクロス共重合体が、芳香族ビニル化合物とオレフィンモノマーから構成されることを特徴とする請求項1または2記載の太陽光発電モジュ−ル用裏面保護シート。
【請求項4】
クロス共重合体系樹脂がクロス共重合体及び少なくとも1種以上の熱可塑性樹脂から構成され、クロス共重合体を40質量%以上含む樹脂組成物から構成されることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項記載の太陽光発電モジュ−ル用裏面保護シート。
【請求項5】
熱可塑性樹脂がポリフェニレンエーテル系樹脂であることを特徴とする請求項記載の太陽光発電モジュ−ル用裏面保護シート。
【請求項6】
フッ素系樹脂がポリビニリデンフルオライド(PVDF)系樹脂からなることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項記載の太陽光発電モジュ−ル用裏面保護シート。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項記載の太陽光発電モジュ−ル用裏面保護シートを構成要素として含む太陽光発電モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電モジュ−ル用の新規裏面保護シ−トであり、本シート部材を用いた太陽光発電モジュ−ルに関する。更に詳しくは、力学強度、耐熱性、耐候性、防湿性、防汚性等の諸特性に優れ、モジュールの信頼性と製造容易性に寄与する新規裏面保護シ−トである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止、持続可能なエネルギーへの要求や環境問題に対する意識の高まりから、太陽光発電、いわゆる太陽電池が注目され、これまでに種々の形態からなる太陽光発電モジュ−ルが提案されている。一般に、上記の太陽光発電モジュ−ルは、例えば、単結晶または多結晶シリコン発電素子を例に取ると、保護用強化ガラス、表面封止材層、太陽光発電素子、裏面封止材層、および、裏面保護シ−ト層等の順に積層し、真空下加熱圧着するラミネ−ション法等を利用して製造されている。
【0003】
裏面保護シートは、最表面の保護層、すなわち耐候性や耐汚染性に優れたフッ素樹脂層、その内側に必要に応じガスバリア層であるアルミニウム層またはバリア樹脂層を設け、さらに内側に力学強度、耐熱性を付与するための支持層(主に延伸PET樹脂からなる)、さらにその内側に、EVA封止材との接着性を保証するための接着層である低密度ポリエチレン層という複雑な多層構造をとっている。これら多層構造の裏面保護シートは、主にウレタン系接着剤を用いた複数のドライラミネーション工程で製造されており、その製造コスト、原料費の低減が太陽光発電装置の普及のための課題の一つとなっている。すなわち、力学強度、耐熱性、耐候性、防湿性、防汚性等の諸特性に優れ、モジュールの信頼性と製造容易性、製造コストがより低減できる、よりシンプルな新たなシ−ト構成が求められている。
以上のような課題を解決すべく、各種検討がなされており、例えばポリオレフィン系樹脂組成物層(特許文献1)、ポリスチレン系樹脂組成物層(特許文献2)やポリフェニレンエーテル樹脂組成物層(特許文献3)を含む裏面保護シートが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−306006、特開2010−226045
【特許文献2】特開2010−109348
【特許文献3】特開2010−245380
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の裏面保護シートに比べ、力学強度、耐熱性、耐候性、防湿性、防汚性等の諸特性に優れ、製造容易性、製造コストがより低減できる裏面保護シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の裏面保護シートは、少なくとも、フッ素系樹脂からなる保護層とクロス共重合体系樹脂からなる支持層から構成される裏面保護シートである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の裏面保護シートは、少なくとも、フッ素系樹脂からなる保護層とクロス共重合体系樹脂からなる支持層から構成される裏面保護シートである。本裏面保護シートは、力学強度、耐熱性、耐候性、防湿性、防汚性の諸特性に優れ、そのシンプルな構成と容易な製造方法故に製造コストがより低減できる可能性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の裏面保護シートは、少なくとも、フッ素系樹脂からなる保護層とクロス共重合体系樹脂からなる支持層から構成される裏面保護シートである。本裏面保護シートは、力学強度、耐熱性、耐候性、防湿性、防汚性の諸特性に優れ、そのシンプルな構成と容易な製造方法故に製造コストがより低減できる可能性を有する。本発明におけるシ−トはフィルムの概念を包含し、その厚さに特に制限はなく、一般的には10μmから3mmの範囲である。
【0009】
以下、本発明の裏面保護シートについて具体的に説明する。裏面保護シートは、一般に最外層であるA:保護層、B:任意に設けられる水蒸気等をバリアするガスバリア層、C:力学的強度を保持する支持層、D:任意に設けられる封止材との接着性を確保するための接着層から構成される多層シートである。ここで、A:保護層としては、耐候性、耐汚染性に優れるフッ素系樹脂からなるシ−トが用いられる。本保護層に用いられるフッ素系樹脂としては、ポリビニルフルオライド(PVF)やポリビニリデンフルオライド(PVDF)を主体とした共重合体が用いられる。このような共重合体とは、フッ化ビニルモノマー(VF)またはフッ化ビニリデンモノマー(VDF)から誘導されるユニットが樹脂全体の70質量%以上、好ましくは80質量%以上占める樹脂を示す。コモノマーとしては、VFが主体の場合はVDF、VDFが主体の場合はVF、その他共通のコモノマーとしてトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、1,2−ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、3,3,3−トリフルオロプロペンおよび/または2−トリフルオロメチル−3,3,3−トリフルオロ−1−プロペンの共重合体が例示できる。本明細書においてはそれぞれPVF系樹脂、PVDF系樹脂と記載する。さらにPVDF系樹脂とは、PVDF10質量%以上100質量%以下、好ましくは50質量%以上100質量%以下、メタクリル酸エステル樹脂、例えばポリメタクリル酸メチル等、0質量%以上90質量%以下、好ましくは0質量%以上50質量%以下からなる樹脂組成物である。本保護層の厚さは一般的に5μm〜50μmの範囲である。
本保護層には酸化チタン等の白色顔料など、適当な顔料を最大50質量%まで含むことができる。さらに本保護層には、通常裏面保護シートに添加することができる公知の老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等を含むことができる。
さらには本発明に用いられる裏面保護シートの保護層として、フッ素樹脂系の塗料を塗布してなる塗膜を用いることも可能である。この場合も、公知の顔料、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等を必要量含むことができる。
【0010】
従来は保護層の内側に第二層として水蒸気等の浸透を防ぐためのB:ガスバリア層が設けられる場合がある。本ガスバリア層にはアルミニウム箔やPET樹脂に無機酸化物からなる薄膜(蒸着膜)をコートしたバリア樹脂が用いられる。しかし、結晶シリコン系のセルを用いる場合等、過度の水蒸気バリア性を要求されない場合には、コストとの兼ね合いから本ガスバリア層は省略される場合がある。そのため本発明のある形態において第二層は支持層となるが、本支持層は一般的には厚さ40μm〜200μmであり、従来PET、PEN等のポリエステル樹脂が一般に用いられている。PET樹脂の場合、耐熱性を付与するため延伸させたシートを用いるが効果であり、また共押出による多層化が困難となっている。さらに支持層としてポリエステル系樹脂を用いる場合、保護層に用いられているフッ素系樹脂や封止材のEVA樹脂との接着性が悪い欠点がある。そのため、フッ素樹脂との接着にはウレタン系接着剤を用いたドライラミネーションが行われている。また、EVA樹脂からなる封止材と接着させるためのLDPEまたはLLDPE層を設ける場合がある。
【0011】
本発明ではC:支持層としてクロス共重合体を主体とした樹脂(以下クロス共重合体系樹脂)を用いる。本支持層は一般的には厚さ40μm〜400μm、好ましくは厚さ40〜200μmである。本クロス共重合体系樹脂を支持層として用いる場合、まず、その力学強度、弾性率や伸び、破断強度に優れ、その値を例えば、結晶シリコン型素子や薄膜型素子等の種類に応じて最適に調整できる点が挙げられる。また、樹脂の電気絶縁性、例えば絶縁破壊電圧や体積抵抗率が高く、水蒸気透過性は低く、モジュールの耐久性に寄与できる基本的性質を有している。さらに本クロス共重合体に適切な耐熱性熱可塑性樹脂を配合することで、上記性質を維持したまま、十分な耐熱性を付与することが出来る。
従来、支持層には延伸PET樹脂が用いられている。延伸PET樹脂は、その高い力学強度、耐熱性
が特徴であり広く本用途に用いられている。しかし、二軸延伸等に手間がかかること、さらに多層フィルムの製造において共押出法が採用できないこと等、当該分野のコストダウンの要求に答えることが困難である。
【0012】
本発明に用いられるクロス共重合体とは配位重合により得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体及び芳香族ビニル化合物モノマーの共存下でアニオン重合を行うことにより得られる共重合体であり、オレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体鎖(主鎖と記載される場合もある)と芳香族ビニル化合物重合体鎖(側鎖と記載される場合もある)を有する共重合体である。本クロス共重合体及びその製造方法はWO2000-37517、USP6559234、またはWO2007-139116に記載されており、芳香族ビニル化合物とオレフィンモノマーから誘導されるユニットの含量が全体の共重合体質量の70質量%以上、好ましくは90質量%以上、最も好ましくは99質量%以上占めるクロス共重合体を示す。本発明に用いられるクロス共重合体では、芳香族ポリエンから誘導されるユニットの含量は好ましくは共重合体質量の5質量%未満0.01質量%以上、さらに好ましくは1質量%未満0.01質量%以上である。
【0013】
芳香族ビニル化合物としては、スチレンおよび各種の置換スチレン、例えばp−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、o−t−ブチルスチレン、m−t−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−クロロスチレン、o−クロロスチレン等が挙げられる。工業的には好ましくはスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、特に好ましくはスチレンが用いられる。
オレフィンとしては、エチレン、炭素数3〜20のα−オレフィン、すなわちプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテンが挙げられる。本発明においてはオレフィンの範疇に環状オレフィンも含まれ、本環状オレフィンの例としては、ビニルシクロヘキサンやシクロペンテン、ノルボルネン等が挙げられる。好ましくは、エチレンまたはエチレンとα−オレフィンすなわちプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、または1−オクテン等の混合物が用いられ、更に好ましくは、エチレンが用いられる。
ここで芳香族ポリエンとは、10以上30以下の炭素数を持ち、複数の二重結合(ビニル基)と単数または複数の芳香族基を有し配位重合可能なモノマーであり、二重結合(ビニル基)の1つが配位重合に用いられて重合した状態において残された二重結合がアニオン重合可能な芳香族ポリエンである。好ましくは、オルトジビニルベンゼン、パラジビニルベンゼン及びメタジビニルベンゼンのいずれか1種または2種以上の混合物が好適に用いられる。さらにクロス共重合体のうち、好ましくは主鎖がエチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体であり、かつ側鎖がポリスチレン鎖であるクロス共重合体が最も好ましく用いられる。
【0014】
本条件を満足するクロス共重合体は、例えばWO2007−139116号公報、特開2009−120792号公報、特開2010−150442号公報にその組成、製造法及び全光線透過率、A硬度が記載されているので、当業者らはこれらを参考に若干の試行を行うことで容易に製造することが出来る。具体的に本条件を満足するクロス共重合体は、芳香族ビニル化合物がスチレン、オレフィンがエチレンである場合、以下の条件を満たすことで達成することが可能である。例えば、クロス共重合体の製造に用いられるエチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体のスチレン含量が5モル%以上40モル%以下、ジビニルベンゼン含量が0.01モル%以上3モル%以下、最終的に得られるクロス共重合体に占める本エチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体の質量割合が40質量%以上90質量%以下である。
太陽電池において、長期にわたる信頼性を確保する上で電気絶縁性は重要である。本クロス共重合体自体は、体積抵抗率1×1016Ω・cm以上、絶縁破壊電圧20kV/1mm以上を示すことができる。これは従来のPET系樹脂に比べ高いため、支持層の材料として好適である。さらに水蒸気の浸透を防ぐことは、腐食、絶縁不良等の電気的トラブルを防ぐために重要である。本クロス共重合体は、低い水蒸気透過率、具体的には5g/m・day(1mm厚さのフィルムとして)以下の低い水蒸気透過率を示すため好適である。本水蒸気透過率はJISZ0208カップ法、に従い、40℃、湿度90%の条件で求めた。
【0015】
支持層として用いる場合、耐熱性も重要となる。太陽電池は使用中、最高環境温度+50℃程度の耐熱性、すなわち120℃程度の耐熱性が求められる。さらに製造時の真空ラミネート時には最高150〜160℃で数十分の加熱条件にさらされる。支持層は、これらの条件下で、クリープ変形や溶融流動を起こさず封止材や保護層を力学的に保持すし、絶縁性を担保する厚みを均一に保つ必要がある。
【0016】
支持層に用いられるクロス共重合体系樹脂とはクロス共重合体及び少なくとも1種以上の熱可塑性樹脂から構成され、クロス共重合体を40質量%%以上含む樹脂組成物を示す。このような樹脂組成物としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエーテルスルホン(PES)、またはポリフェニレンサルファイド(PPS)等、耐熱150℃以上の熱可塑性樹脂とクロス共重合体からなる樹脂組成物が挙げられる。ここで耐熱とは結晶融点またはガラス転移温度の少なくとも1つ以上が150℃以上であることを示す。特に好適なのは、WO2009/128444号公報に記載されているポリフェニレンエーテル系樹脂とクロス共重合体からなる樹脂組成物である。クロス共重合体は系PPE樹脂と良く相溶し、その樹脂組成物は、クロス共重合体自身が有する高い電気絶縁特性(体積抵抗率、絶縁破壊電圧)を維持し、低い水蒸気透過率を維持しつつ、剛性(引っ張り試験における初期弾性率)及び耐熱性が高められ、裏面保護シートの支持層として好適である。またPPE系樹脂に由来する難燃性を有する点でも好ましい。
【0017】
本発明に用いるポリフェニレンエ−テル系樹脂(以下PPE系樹脂)は、実質的にポリフェニレンエ−テル単位から構成される樹脂であり、必要に応じて他に芳香族ビニル化合物系重合体を樹脂質量に対して80質量%まで、好ましくは50質量%まで含むことができる。
本ポリフェニレンエ−テル系樹脂は例えばSABIC Innovative Plastics社から製品名ノリルとして、また旭化成ケミカルズ社からは製品名ザイロンとして、三菱エンジニアリングプラスチックス社からは製品名ユピエースとして入手することができる。ポリフェニレンエ−テル樹脂の例としてはポリ(2,6−ジメチル−1、4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−n−ブチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−ヒドロキシエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテルポリ(2−エチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテル単位等の単独の繰り返し構造からなる重合体またはこれら単位の共重合体が挙げられる。ポリフェニレンエーテル共重合体は、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体あるいはo−クレゾールとの共重合体あるいは2,3,6−トリメチルフェノール及びo−クレゾールとの共重合体等、ポリフェニレンエーテル構造を主体としてなるポリフェニレンエーテル共重合体を含む。さらに、種々のフェニレンエーテルユニット、例えばアミノメチル基やN−フェニルアミノメチル基を有するフェニレンエーテル単位を全体の20重量%まで、その部分構造として共重合していても良い。
【0018】
本発明に用いるポリフェニレンエーテル系樹脂の分子量は、特に限定されることはないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算重量平均分子量で2,000〜300,000で、成形加工性を考慮した場合、その好ましい範囲は約5,000〜100,000である。
ポリフェニレンエーテル系樹脂に含まれる芳香族ビニル化合物系重合体としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン等の芳香族ビニル化合物の単独重合体またはこれらの共重合体等が挙げられる。芳香族ビニル化合物と共重合可能なモノマーとしては、ブタジエン、イソプレン、その他の共役ジエン類、アクリル酸、メタクリル酸、及びこれらのアミド誘導体やエステル誘導体、アクリロニトリル、無水マレイン酸及びその誘導体が挙げられる。芳香族ビニル化合物系重合体のポリスチレン換算重量平均分子量は、3万から50万の範囲である。また、これらの樹脂をポリブタジエン等のゴムで補強したいわゆるハイインパクトポリスチレン(HIPS)でも良い。芳香族ビニル化合物系重合体は、本発明に用いられるポリフェニレンエーテル系樹脂全質量に対して80質量%まで含むことができる。
【0019】
本裏面保護シ−トの支持層として用いられるクロス共重合体系樹脂の初期弾性率は概ね20MPa以上5GPa以下、好ましくは50MPa以上2GPa以下、特に好ましくは100MPa以上1GPa以下であり、破断点伸びは好ましくは10%以上300%以下、破断点強度は好ましくは10MPa以上100MPa以下である。また、120℃における樹脂の貯蔵弾性率が1×106Pa以上、好ましくは1×107Pa以上、かつ160℃における樹脂の貯蔵弾性率が1×105Pa以上、好ましくは1×106Pa以上である必要がある。本貯蔵弾性率は、公知の粘弾性測定装置を用いて簡便に求めることが出来る。以上のような耐熱性を満足させるためには、好ましくはクロス共重合体40〜80質量%、さらに好ましくは50〜80質量%、PPE樹脂はそれぞれ60〜20質量%、さらに好ましくは50〜20質量%である。
【0020】
さらに本裏面保護シ−トの支持層に用いられるクロス共重合体系樹脂の体積抵抗率は1×1016Ω・cm以上、絶縁破壊電圧は40kV/1mm以上を示すことが可能である。さらに水蒸気の浸透を防ぐことは、腐食、絶縁不良等の電気的トラブルを防ぐために重要である。本クロス共重合体系樹脂は、低い水蒸気透過率、具体的には5g/m・day(1mm厚さフィルムあたり)以下の低い水蒸気透過率を示すため、封止材として好適である。本水蒸気透過率はJISZ0208カップ法、に従い、40℃、湿度90%の条件で求めた。
原料樹脂であるクロス共重合体のMFR値(200℃、加重98N)は特に規定されることはないが、一般的に0.1g/10分以上300g/10分以下、実質的に非架橋状態での上記耐熱性を考慮すると0.1g/10分以上100g/10分以下である。クロス共重合体とPPE樹脂からなる樹脂組成物のMFRや溶融粘度、張力は、その配合組成や原料樹脂により任意に調整できる点がメリットであるが、例えば保護層の樹脂と支持層の樹脂からなる多層シートを、経済的に有利な共押出法により製造しようとする場合、スキルを有する当業者は両者のMFRや溶融粘度、張力を比較的近い適切な範囲に調整することが出来る。
【0021】
本発明の裏面保護シ−トの支持層には、光エネルギーを無害な熱エネルギーに変換する紫外線吸収剤と光酸化で生成するラジカルを捕捉するヒンダードアミン系光安定剤から構成される耐光剤を配合する。紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、蓚酸アニリド系、あるいはマロン酸エステル系が例示できる。紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤の質量比は1:100〜100:1の範囲で、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤の質量の合計量を耐光剤質量とし、その使用量は、樹脂質量100質量部に対し、0.05〜5質量部の範囲である。以上のような耐光剤は、例えば株式会社ADEKAよりアデカスタブLAシリーズとして、あるいは住化ケムテックス社よりスミソーブシリーズとして、入手することが出来る。
さらに本発明の裏面保護シ−トの支持層には、入射した光を効率よく反射または散乱し再度利用可能にするために白色の顔料を添加することも出来る。このような白色顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、酸化アルミニウム等の金属酸化物;炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の無機化合物のうちの1種類のみを単独で用いても良く、2種類以上を併用して用いても良い。本発明においては、なかでも酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウムを好ましく用いることができ、さらに好ましくは、少ない添加量で十分な光反射性や散乱性を示す酸化チタンを用いることができる。
【0022】
近年、太陽光発電装置の劣化促進要因のひとつとして、ホットスポットが注目されている。ホットスポットとは、配線の抵抗増大、またはセルの劣化による抵抗で他のセルの電力を消費し部分的に発熱する現象で、さらに封止材の加水分解等による劣化や腐食を促進しセルの最終的破損につながるとされている。たとえば裏面封止材に放熱性を持たせることで、初期の劣化による発熱を拡散、放熱しそれ以上の劣化を防ぐことが可能と考えられる。(DKK公開特許引用)本目的のため、裏面封止材に熱公知の熱伝導性無機フィラーを充填することができる。このような熱伝導性フィラーには、アルミナ、窒化ホウ素、酸化チタン、窒化アルミ等が例示できる。その充填量は、樹脂組成物質量に対し30〜80質量%程度、熱伝導率として0.1〜5W/m・K程度である。
本発明の樹脂あるいはそのシートを熱可塑性の太陽光発電装置用封止材として用いるには、封止材としての特性向上を目的として、必要に応じて下記「老化防止剤」を加える事ができる。
支持層に用いられるクロス共重合体系樹脂には老化防止剤を添加することができる。例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系熱安定剤、ラクトン系熱安定剤、ビタミンE系熱安定剤、イオウ系熱安定剤等が挙げられる。その使用量は、樹脂組成物100質量部に対して3量部以下である。
本裏面保護シ−トの支持層には、他に本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、通常の樹脂に用いられる添加剤、例えば帯電防止剤、着色剤、滑剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤等を添加しても良い。
【0023】
本発明の裏面保護シートの支持層と保護層の接着、多層化には公知の方法を用いることが出来る。この様な方法としてはドライラミネ−ト法、押出ラミネート法、共押出法が挙げられ、それぞれ接着性を付与するため、樹脂や接着剤からなる適当な接着層を用いる。
ドライラミネート法や押出ラミネ−ト法において用いる着剤層(接着剤)としては、例えば、ポリ酢酸ビニル系接着剤、ポリアクリル酸エステル系接着剤、反応型(メタ)アクリル系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、エチレンと酢酸ビニル、アクリル酸エチル、アクリル酸、メタクリル酸等のモノマーとの共重合体等からなるエチレン共重合体系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリイミド系接着剤、尿素樹脂またはメラミン樹脂等からなるアミノ樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリウレタン系接着剤、クロロプレンゴム、スチレンーブタジエンゴム等からなるゴム系接着剤、その他等の接着剤を使用することができる。上記の接着剤の組成系は、水性型、溶液型、エマルジョン型、分散型等のいずれの組成物形態でもよく、また、その性状は、フィルム・シート状、粉末状、固形状等のいずれの形態でもよく、更に、接着機構については、化学反応型、溶剤揮発型、熱溶融型、熱圧型等のいずれの形態でもよいものである。而して、上記の接着剤は、例えば、ロールコート法、グラビアロールコート法、キスコート法、その他等のコート法、あるいは、印刷法等によって施すことができ、そのコーティング量としては、0.1〜10g/m2 (乾燥状態)位が望ましい。
【0024】
共押出法に用いられる着剤層(接着用樹脂)としては、テルペン系やロジン系のホットメルト樹脂や無水マレイン酸変成ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル変性ポリオレフィン系樹脂、変性水添石油樹脂等が用いられる。この様な樹脂は、三井化学社より製品名アドマーとして、あるいは日油株式会社より製品名モディパーとして販売されている。また、フッ素樹脂として、PVDF系樹脂が用いられる場合、共重合や変性により他の樹脂との接着性を改良した樹脂を用いることができ、この様な場合、接着層を省略し、共押出により多層化することも可能である。この様な接着性改良PVDF系樹脂としては、例えば特表2010−500440号、特開2005−15793号、特開2005−162330号、EP0214880B1号、特開2008−239998号、特開2002−338713号の各公報記載の樹脂が例示できる。またKynar(登録商標)ADX120として、アルケマ社より購入可能である。
【0025】
他の接着法として、シランカップリング剤を樹脂に混練または樹脂シートに塗布する新規接着方法を本明細書で開示する。本発明においては公知のカップリング剤を用いることが出来る。このようなカップリング剤としてはシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、イソシアネート系カップリング剤が挙げられるが、好ましくはシランカップリング剤を用いる。このようなシランカップリング剤は信越化学工業株式会社やダウコーニング社、エボニック社から入手することができる。シランカップリング剤とは分子内に官能基と加水分解縮合性基を有するシラン化合物である。官能基としては、ビニル、メタクリロキシ、アクリロキシ、スチリル等のビニル基、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、ハロゲン等が例示できる。ガラスとの高い接着性を考慮すると、官能基として好ましくはビニル基、アミノ基、エポキシ基が好ましく、アミノ基、エポキシ基がさらに好ましく、アミノ基が最も好ましい。これらの官能基は、分子内に単数または複数有してもよい。これらのカップリング剤は1種または2種以上を用いることができる。
【0026】
官能基としてビニル基を有するシランカップリング剤としては、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが例示できる。官能基としてスチリル基を有するシランカップリング剤としては、p−スチリルトリメトキシシランが例示できる。官能基としてアクリロキシ基を有するシランカップリング剤としては、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランが例示できる。官能基としてメタクリロキシ基を有するシランカップリング剤としては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランが例示できる。官能基としてエポキシ基を有するシランカップリング剤としては3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが例示できる。官能基としてアミノ基を有するシランカップリング剤としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルエチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)アミン、N−(n−ブチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランが例示できる。
以上は加水分解縮合性基としてメトキシ基、エトキシ基を有する例であるが、トリイソプロポキシ基やアセトキシ基も使用できる。
シランカップリング剤の使用量に特に制限はないが、樹脂に混練等で添加する場合、一般的には樹脂に対し0.05質量%〜10質量%の範囲で用いられる。塗布する場合、一般的に0.1g/m2〜20g/m2の範囲で用いられる。
カップリング剤を添加または塗布し、必要に応じてさらにエネルギー線を照射することを特徴とする、支持層のクロス共重合体系樹脂シートと保護層のフッ素樹脂シ−トの新規接着方法は以下の通りである。
【0027】
クロス共重合体系樹脂及び/またはフッ素樹脂にカップリング剤を添加、混練する場合、その方法は通常樹脂に添加剤を添加するための公知の方法を用いることができる。工業的には例えば二軸押し出し機やバンバリ式の混合機、ロール成形機等を用いることが出来る。しかる後に、インフレーション成形、押し出し成形、Tダイ成形、カレンダ−成形、ロ−ル成形、プレス成形などの公知の成形法によりシ−ト化することができる。
クロス共重合体系樹脂及び/またはフッ素樹脂からなるシ−トにカップリング剤を塗布する場合、その塗布の方法は任意の公知の方法を用いることが出来る。塗布方法として例えばグラビアコーティング法、ロールコーティング法あるいはディップコーティング法、噴霧法等公知の方法が例示できる。この際、カップリング剤は適当な溶媒に希釈して用いても、希釈せずに用いても良い。
その後、必要に応じて、これらシ−トに対しエネルギー線を照射することができる。エネルギー線を照射することで、層間接着力が増加し、安定することが期待できる。エネルギー線の照射は、カップリング剤を添加混練、または塗布した方の樹脂シ−トに対して行う。
クロス共重合体系樹脂及び/またはフッ素樹脂にカップリング剤を添加、混練する場合、支持層のクロス共重合体系樹脂シートと保護層のフッ素樹脂シ−トの接着は、共押出法やカップリング剤を添加混練した樹脂の押出による押出ラミネート法で行うのが好ましく、特に共押出法で行うのが経済的に最も好ましい。また、クロス共重合体系樹脂及び/またはフッ素樹脂にカップリング剤を塗布する場合には、支持層のクロス共重合体系樹脂シートと保護層のフッ素樹脂シ−トの接着は熱ラミネーションまたはカップリング剤塗布樹脂シ−トに対する押出ラミネーションが好ましく、特に熱ラミネーションが好ましい。
【0028】
本発明に用いられるエネルギー線としては、電子線、ガンマ線、X線、紫外線、中性子線、α線、赤外線、可視光線等が挙げられる。これらのエネルギー線は、公知の装置を用いて照射することができる。本発明には好ましくは電子線が用いられる。電子線の加速電圧としては一般的には10keV〜5000keVの範囲が用いられ、照射線量は一般的には1kGy〜500kGyの範囲である。
本加速電圧は、シ−トの厚さ等により適切に制御する。本発明において、電子線処理による表面近傍の樹脂とカップリング剤間の相互作用強化による接着性付与を目的とする場合には、電子線の加速電圧は低い方が好ましく、好ましくは10keV〜250keV、さらに好ましくは10keV〜150keVである。ここで言う相互作用強化とは、例えば表面近傍の樹脂やカップリング剤間のグラフト、架橋、化学反応、分子鎖の絡み合い等、接着性強化に繋がる化学的あるいは物理的相互作用の強化を示す。エネルギー線の照射は、カップリング剤を樹脂に添加する場合、シ−トに塗布する場合共に同様に行われるが、樹脂方面近傍のみの相互作用強化が目的である場合、カップリング剤の利用効率の高さという観点からは、カップリング剤の塗布が好ましい。カップリング剤の塗布の場合、エネルギー線は塗布面に対し照射する。
【0029】
本発明においては、必要に応じて架橋助剤をさらに添加または塗布することができる。使用できる架橋助剤は公知の架橋助剤であり、例えばトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、N,N’−フェニレンビスマレイミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの架橋助剤は1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。架橋助剤を配合する場合、その含有量に特に制限はないが、通常、合計質量に対して0.01〜5質量%の範囲であるのが好ましい。
【0030】
本発明の裏面保護シートの支持層であるクロス共重合体系樹脂、特にクロス共重合体とポリフェニレンエーテル系樹脂からなるコンパウンドは、EVA封止材と良好な接着性を示す。すなわち、太陽電池の製造工程における真空ラミネート(EVA架橋)工程で、EVA封止材と容易に接着するので太陽電池の製造を容易にし、信頼性向上に寄与できる。広く支持層に用いられている延伸PET樹脂は、EVA封止材との接着性が十分ではないために、延伸PET樹脂にさらにLDPE等の接着層を設置する必要があるのに対し、本発明はよりシンプルな構造の裏面保護シートを提供することが可能である。
【0031】
以上に示されるシ−ト構成と製造方法により得られる本発明の裏面保護シートは、シンプルな層構成と製造の容易さに加え、高い電気絶縁性と水蒸気バリア性を有する。また本シ−トの縦方向(裏面保護層から封止材層まで)の絶縁破壊電圧は、実際のシート厚さあたり20kV以上、好ましくは25kV以上を示すことができる。本シ−トの縦方向(裏面保護層から封止材層まで)の水蒸気透過率は、具体的には10g/m・day以下(本シ−ト実厚さ当たり)の低い水蒸気透過率を示すため、太陽光発電モジュール裏面からの水蒸気の進入を防ぐことができるため好適である。本水蒸気透過率はJISZ0208カップ法、に従い、40℃、湿度90%の条件で求めた。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により、本発明を説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
<原料樹脂>
実施例、比較例に用いた原料樹脂は以下の通りである。
下記クロス共重合体は、WO2000/37517、またはWO2007/139116号公報記載の製造方法で製造したもので、下記組成は、同様にこれら公報記載の方法で求めた。これらのクロス共重合体は配位重合により得られるエチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体とスチレンモノマーの共存下でアニオン重合を行うことにより得られる、エチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体鎖とポリスチレン鎖を有する共重合体である。以下、クロス共重合体を規定するために、用いられるエチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体のスチレン含量、ジビニルベンゼン含量、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、クロス共重合体中のエチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体の含量、ポリスチレン鎖の分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)を示す。また、全スチレン含量は、クロス共重合体に含まれるエチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体鎖とポリスチレン鎖に含まれるスチレン含量を合計した含量である。
【0033】
<クロス共重合体A>
エチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体のスチレン含量25モル%、ジビニルベンゼン含量0.035モル%、Mw=90000、Mw/Mn=2.3
エチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体の含量67質量%、
ポリスチレン鎖のMw=44000、Mw/Mn=1.2
全スチレン含量70質量%
<クロス共重合体B>
エチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体のスチレン含量26モル%、ジビニルベンゼン含量0.035モル%、Mw=114000、Mw/Mn=2.3
エチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体の含量80質量%、
ポリスチレン鎖のMw=23000、Mw/Mn=1.2
全スチレン含量65質量%
<クロス共重合体C>
エチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体のスチレン含量16モル%、ジビニルベンゼン含量0.045モル%、Mw=90000、Mw/Mn=2.3
エチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体の含量80質量%、
ポリスチレン鎖のMw=26000、Mw/Mn=1.2
全スチレン含量53質量%
【0034】
<クロス共重合体/PPEコンパウンド1>
上記クロス共重合体Aを80質量部、PPE樹脂(PX−100L、三菱エンジニアリングプラスチック社製)20質量部、酸化防止剤Irganox1076、0.2質量部、紫外線吸収剤、光安定剤、それぞれLA36、LA77Y各0.3質量部を容量250mlバンバリー混練機(ラボプラストミル)で、250℃、10分間混練して得た。
<クロス共重合体/PPEコンパウンド2>
上記クロス共重合体Bを80質量部、PPE樹脂(PX−100L、三菱エンジニアリングプラスチック社製)20質量部、酸化防止剤Irganox1076、0.2質量部、紫外線吸収剤、光安定剤、それぞれLA36、LA77Y各0.3質量部を容量250mlバンバリー混練機(ラボプラストミル)で、250℃、10分間混練して得た。
<クロス共重合体/PPEコンパウンド3>
上記クロス共重合体Bを50質量部、PPE樹脂(PX−100F、三菱エンジニアリングプラスチック社製)50質量部、酸化防止剤Irganox1076、0.2質量部、紫外線吸収剤、光安定剤、それぞれLA36、LA77Y各0.3質量部を容量250mlバンバリー混練機で、250℃、10分間混練して得た。
<クロス共重合体/PPEコンパウンド4>
上記クロス共重合体Cを70質量部、PPE樹脂(PX−100F、三菱エンジニアリングプラスチック社製)30質量部、酸化防止剤Irganox1076、0.2質量部、紫外線吸収剤、光安定剤、それぞれLA36、LA77Y各0.3質量部を容量250mlバンバリー混練機で、250℃、10分間混練して得た。
【0035】
<PVDF系樹脂シート>
電気化学工業(株)製DXフィルム:PVDF(アルケマ社製カイナー740)80質量%、ポリメチルメタアクリレート樹脂(三菱レーヨン社製HBS000)20質量%、厚さ20μmを用いた。
【0036】
<添加剤等>
耐光剤はLA36(紫外線吸収剤)、LA77Y(光安定剤)いずれも株式会社ADEKA製を用いた。
酸化防止剤はチバ・ジャパン株式会社製Irganox1076を用いた。
【0037】
<接着剤、接着樹脂>
ウレタン系接着剤
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤(2.0重量%)を含有する2液硬化型のウレタン系ラミネ−ト用接着剤を用いた。
【0038】
<混練>
バンバリ式混練機(ラボプラストミル)を使用し、クロス共重合体とPPE樹脂、及び添加物の合計約250gを250℃、100rpm、10分間混練して樹脂組成物を作製した。
【0039】
<シート作成>
クロス共重合体及びコンパウンド1のサンプルシートは加熱プレス法で温度200℃、時間3分間、圧力50kg/cm2の条件下成形した。クロス共重合体コンパウンド2,3のサンプルシートは、温度250℃、時間3分間、圧力50kg/cm2の条件下成形した。
【0040】
<引張試験>
JIS K−6251に準拠し、得られたフィルムを2号1/2号型テストピース形状にカットし、島津製作所AGS−100D型引張試験機を用い、引張速度500mm/minにて初期引張弾性率、破断点伸び、破断強度を測定した。
【0041】
<A硬度>
硬度はJIS K−7215プラスチックのデュロメーター硬さ試験法に準じてタイプAのデュロメーター硬度を求めた。この硬度は瞬間値である。
【0042】
<多層シ−ト作成:加熱ラミネーション>
クロス共重合体/PPEコンパウンドは、幅100mm、長さ200mm、厚さ0.2mmのプレスシートを用いた。加熱ラミネーションは、150℃の金属ロ−ルと130℃のゴムロール、ロール圧力0.3MPa、に0.5m/minで通過させることで行った。接着層としてホットメルト樹脂を用いる場合、厚さ20μmのホットメルト樹脂シートを、接着用樹脂を用いる場合は厚さ30μmの樹脂シ−トを支持層と保護層シ−トの間に挟み、同様の条件で実施した。
<多層シ−ト作成:ウレタン接着剤使用>
一方、ウレタン系接着剤を用いる場合は、2液硬化型のウレタン系接着剤を使用し、これを、グラビアロールコート法により、一方のシート上に5g/m2 (乾燥状態)になるようにコーティングした。もう一方のシートと対面させ、上記50℃のロールと通過させドライラミネーションを行った。その後50℃で5日間エージングを行った。
【0043】
<層間接着力測定>
多層シートを幅15mm、長さ150mmの短冊状にカットし、島津製作所AGS−100D型引張試験機を用い、T型剥離法、引張速度100mm/minにて測定した。剥離強度8N/15mm以上を層間接着力合格(表中丸印)とした。
【0044】
<水蒸気透過率>
水蒸気透過率は、クロス共重合体/PPEコンパウンドは0.5mm厚さシートを用い、多層シートはそのままの厚さで、JISZ0208カップ法に従い、40℃、湿度90%の条件で100時間まで測定した。
【0045】
<体積抵抗率>
クロス共重合体/PPEコンパウンドは0.5mm厚さシートを用い、多層シートはそのままの厚さでJISK6911に従い、室温(23℃)で測定した。
【0046】
<絶縁破壊電圧>
クロス共重合体/PPEコンパウンドは0.5mm厚さシートを用い、多層シートはそのままの厚さでJISC2110に従い、室温(23℃)で測定した。
【0047】
<耐光性試験>
3.2mm厚さの強化ガラスに密着させた0.5mm厚さシートを用い、フェードメータ−(光源カ−ボンア−クランプJISD0205)、シャワー無し、ブラックパネル温度83℃、1000時間の条件で実施した。光はガラス面から照射した。
試験後のサンプルを短冊状に切断し、 JIS K−6251に準拠し島津製作所社製AGS−100D型引張試験機を用いて、引張速度500mm/minにて引っ張り試験を行った。耐候性試験前と比較し、破断点強度、破断点伸びの変化がプラスマイナス20%以下である場合、合格とした。
【0048】
<実施例1>
クロス共重合体/PPEコンパウンド1を用いて得られた0.2mm厚さの支持層シートと保護層であるPVDF系樹脂シートをウレタン系接着剤で接着した。50℃で5日間保持し、ウレタン接着層を安定化して裏面保護シートを得た。支持層と保護層界面の層間接着力測定を行ったところ、剥離強度約10N/15mm以上で、保護層シートが材料破壊した。
【0049】
<実施例2>
実施例1と同様にして、ただし支持層シ−トと保護層であるPVDF系樹脂シートの接着をホットメルト樹脂シートで用いて行った。すなわち、支持層シートとPVDF系樹脂シートの間にホットメルト樹脂シート厚さ20μmを挟み、上記の加熱ラミネーションにより多層化し裏面保護シートを得た。支持層と保護層界面の層間接着力測定を行ったところ、剥離強度約10N/15mm以上で、保護層シートが材料破壊した。
【0050】
<実施例3、4、5>
クロス共重合体/PPEコンパウンド2、3、4を用いて得られた0.30mm厚さの支持層シートと保護層であるPVDF系樹脂シートをウレタン系接着剤でラミネーションし接着した。50℃で5日間保持し、ウレタン接着層を安定化して裏面保護シートを得た。支持層と保護層界面の層間接着力測定を行ったところ、剥離強度約10N/15mm以上で、保護層シートが材料破壊した。
【0051】
<実施例6>
クロス共重合体/PPEコンパウンド2を用いて得られた0.30mm厚さの支持層シートに下記の様にしてシランカップリング剤を塗布した。
シクロヘキサンに対し、シランカップリング剤(エボニック社製1146)を25質量%の濃度で溶解し、塗布用の溶液を調整した。上記のシ−トに、バーコーターを用い上記シクロヘキサン溶液を開口厚さ4.6ミクロンで塗布した。その後ドラフト中で一昼夜乾燥した。
本シ−トと保護層であるPVDF系樹脂シート(コロナ処理済み)を上記加熱ラミネーションで接着して裏面保護シートを得た。支持層と保護層界面の層間接着力測定を行ったところ、剥離強度約10N/15mm以上で、保護層シートが材料破壊した。
【0052】
<実施例7>
クロス共重合体/PPEコンパウンド2を用いて得られた0.30mm厚さの支持層シートに下記の様にしてシランカップリング剤を塗布した。
シクロヘキサンに対し、シランカップリング剤:3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学KBE−903)を2質量%の濃度で溶解し、塗布用の溶液を調整した。上記のシ−トに、バーコーターを用い上記シクロヘキサン溶液を開口厚さ45.7ミクロンで塗布した。その後ドラフト中で一昼夜乾燥した。
得られたシ−トのカップリング剤塗布面に対し、加速電圧125kVで50kGyの電子線照射を1回行った。照射から数日後、本シ−トと保護層であるPVDF系樹脂シート(コロナ処理済み)を上記加熱ラミネーションで接着して裏面保護シートを得た。支持層と保護層界面の層間接着力測定を行ったところ、剥離強度約10N/15mm以上で、保護層シートが材料破壊した。
【0053】
<実施例8>
クロス共重合体/PPEコンパウンド2を用いて得られた0.30mm厚さの支持層シートと保護層であるPVDF系樹脂シートを接着用樹脂フィルム(日油株式会社製モデイパーA4100、厚さ30μm)を間に挟み、上記の加熱ラミネーションにより接着した。支持層と保護層界面の層間接着力測定を行ったところ、剥離強度約10N/15mm以上で、保護層シートが材料破壊した。
【0054】
<比較例1>
PVF(20ミクロン)/PET(250ミクロン)/PVF(20ミクロン)3層構成のバックシートを用い各種測定を行った。
【0055】
上記、実施例に用いたクロス共重合体、クロス共重合体/PPEコンパウンドの基本物性を表1に、0.5mm厚さのシートを用いて得られた貯蔵弾性率、電気絶縁性、水蒸気透過率、耐候性試験結果を表2に示す。各実施例で得られた裏面保護シートと比較例裏面保護シートの層間接着力、体積抵抗率、絶縁破壊電圧、水蒸気透過率を表3、4に示す。
【0056】
<実施例9>
クロス共重合体/PPEコンパウンド2を用いて得られた0.3mm厚さの支持層シートとEVA封止材シート(厚さ0.4mm)を重ね合わせ、NPC社製真空ラミネーター中で0.1MPaで150℃、30分間真空ラミネート処理を行い、封止材層を架橋した。その後支持層と封止材層界面の層間接着力測定を行ったところ、剥離強度約20N/15mm以上であることを確認した。
【0057】
本実施例の裏面保護シートは比較的シンプルな構成でありながら、優れた力学物性、耐熱性と共に高い絶縁性(体積抵抗率、絶縁破壊電圧)を示すことが解る。また、EVA封止材との接着性も良好である。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
【表4】