特許第5868811号(P5868811)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5868811
(24)【登録日】2016年1月15日
(45)【発行日】2016年2月24日
(54)【発明の名称】香味付与乃至増強剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/20 20160101AFI20160210BHJP
   A23L 27/26 20160101ALI20160210BHJP
   C07C 47/21 20060101ALI20160210BHJP
   A23L 2/00 20060101ALN20160210BHJP
   A23L 2/02 20060101ALN20160210BHJP
【FI】
   A23L1/226 D
   A23L1/231
   C07C47/21CSP
   !A23L2/00 B
   !A23L2/02 B
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-186092(P2012-186092)
(22)【出願日】2012年8月27日
(65)【公開番号】特開2014-43409(P2014-43409A)
(43)【公開日】2014年3月13日
【審査請求日】2014年5月21日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】増田 唯
(72)【発明者】
【氏名】坂巻 憲佐
(72)【発明者】
【氏名】原口 賢治
【審査官】 上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】 英国特許出願公開第01034352(GB,A)
【文献】 Journal of the Science of Food and Agriculture,1976年,Vol.27,p.721-725
【文献】 Phytochemistry,1977年,Vol.16,p.1831-1832
【文献】 日本食品工業学会誌,1990年,Vol.37, No.12,p.946-952
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/WPIDS/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される(Z)−ペンタデセナール
【化1】
(式中、・・・は単結合または二重結合を示し、いずれか1箇所が二重結合であり、それ以外は単結合を示す)からなる加熱調理肉様香味付与乃至増強剤であって、飲食品の重量を基準として、2×10−4ppb〜2×10ppbの濃度範囲で添加される加熱調理肉様香味付与乃至増強剤。
【請求項2】
下記式(1)で表される(Z)−ペンタデセナール
【化2】
(式中、・・・は単結合または二重結合を示し、いずれか1箇所が二重結合であり、それ以外は単結合を示す)を2×10−4ppm〜2×10ppm含有する加熱調理肉様香味付与乃至増強剤組成物。
【請求項3】
下記式(2)で表される(Z)−7−ペンタデセナール。
【化3】
【請求項4】
下記式(3)で表される(Z)−9−ペンタデセナール。
【化4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(Z)−ペンタデセナール(二重結合の位置が、7位〜10位のもの)からなる香味付与乃至増強剤に関する。更に詳しくは、(Z)−ペンタデセナール(二重結合の位置が、7位〜10位のもの)からなる加熱調理肉様香味付与乃至増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の嗜好性の多様化により、飲食品等に使用する香料においても天然感あふれる素材が求められており、従来の香料物質を組み合わせることではその要求に十分対応しきれないのが現状であり、従来にない新しい香料素材に対する要望が高くなっている。
【0003】
肉の加熱調理フレーバーについても、古くから、様々な研究がなされており、加熱調理した天然の肉類の香気分析や新たな香料化合物の応用などから様々な香料化合物が、有用であることが知られている。例えば、特定のピリジン及びピラジン誘導体はコーヒー、ココア、紅茶などの他、肉類にも有用な香料化合物であることが開示されている(特許文献1)。また、2−メチル−4−アセチルピリミジンなどのアシルピリミジン誘導体は食肉含有品の官能特性を改変する物質であることが開示されている(特許文献2)。また、1−ビニルピロリジンなどの1−アルケニルピロリジン類は、ローストミートなどのローストした香気に寄与する香料化合物であることが知られている(特許文献3)。また、ピロール類、ピリジン類、ピラジン類、オキサゾール類、オキサゾリン類、アミン類、チアゾール類、チアゾリン類、チアゾリジン類、チオール類、スルフィド類、チオエーテル類、含硫カルボン酸類、キノキサリン類、及びフラノン類、からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の香料を含有させることによりミート系フレーバー組成物を調製する方法が開示されている(特許文献4)。また、3−メルカプト−2−アルカノン類はミート系香料に天然感を付与できる香料化合物であることが開示されている(特許文献5)。また、3−メチルブテン−1−チオールなどの特定の1−アルケンチオール類(特許文献6)、2−メチル−1−プロペン−1−チオールなどの1−アルケンチオール類(特許文献7)、2−メチルブタン−1,1−ジチオールなどのα,α−ジチオール化合物(特許文献8)などは天然感のあるロースト感を付与することができる香料化合物であることが開示されている。
【0004】
しかしながら、天然物の香気成分は非常に多くの化合物から成り立っており、前記の化合物を様々に組み合わせても、まだまだ天然感の点で十分とはいえず、多様化している賦香製品に、天然感あふれるオイリー感を再現する香味を賦与する要望に十分対応できているとは言い難い。
【0005】
一方、(Z)−8−ペンタデセナールはキュウリの揮発性成分として分析により検出された報告(非特許文献1)があり、キュウリ中におけるこの化合物の生合成経路としてパルミトレイン酸に由来することが推定されている。しかしながら、その香気については非常に弱く、香気全体に貢献していないと推定されることが報告されている。また、10−ペンタデセナールについてはコリアンダーリーフの揮発性成分として見出された報告(ただし、E,Zのいずれであるかは不明;非特許文献2)や、(Z)−10−ペンタデセナールが昆虫フェロモンとしての作用を有する報告(非特許文献3〜5)がある。しかしながら、いずれにも、その香気特性や、香料としての用途については全く記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭48−1189号公報
【特許文献2】特開昭53−87374号公報
【特許文献3】特開2002−332493号公報
【特許文献4】特開2005−15683号公報
【特許文献5】WO2008/047771号
【特許文献6】特開2010−173963号公報
【特許文献7】特開2010−172250号公報
【特許文献8】特開2010−202608号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Phytochemistry(1997),16(11),1831−1832
【非特許文献2】Journal of Agricultural and Food Chemistry(1996),44(7),1824−6
【非特許文献3】Journal of Insect Physiology(1995),41(2),171−8
【非特許文献4】Journal of Agricultural and Food Chemistry(1982),30(2),367−71
【非特許文献5】Agricultural and Biological Chemistry(1979),43(7),1567−70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、飲食品、特に加熱調理肉の風味を有する飲食品に、焼き鳥、焼肉などの天然感あふれるオイリー感を賦与することができる香料化合物および該化合物を含有する新規な香味付与乃至増強剤、ならびに、香味付与乃至増強剤を含有させた香味付与乃至増強剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前述の課題を解決するために鋭意検討した結果、おどろくべきことにキュウリから検出された(Z)−8−ペンタデセナールが、ワキシー、オイリー、ファッティーな香気特性を有し、特に肉の加熱調理風味に対して、焼きたての天然感あふれるオイリー感やジューシーな脂感を付与乃至増強することを見出した。また、類縁化合物について検討したところ、二重結合の位置が8位と近い位置(7位から10位)の類縁体においても同様の香気特性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明は、以下のものを提供する。
(1)下記式(1)で表される(Z)−ペンタデセナール
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、・・・は単結合または二重結合を示し、いずれか1箇所が二重結合であり、それ以外は単結合を示す)からなる香味付与乃至増強剤。
(2)下記式(1)で表される(Z)−ペンタデセナール
【0013】
【化2】
【0014】
(式中、・・・は単結合または二重結合を示し、いずれか1箇所が二重結合であり、それ以外は単結合を示す)からなる加熱調理香味付与乃至増強剤。
(3)下記式(1)で表される(Z)−ペンタデセナール
【0015】
【化3】
【0016】
(式中、・・・は単結合または二重結合を示し、いずれか1箇所が二重結合であり、それ以外は単結合を示す)からなる加熱調理肉様香味付与乃至増強剤。
(4)下記式(1)で表される(Z)−ペンタデセナール
【0017】
【化4】
【0018】
(式中、・・・は単結合または二重結合を示し、いずれか1箇所が二重結合であり、それ以外は単結合を示す)を有効成分として含有することを特徴とする香味付与乃至増強剤組成物。
(5)下記式(1)で表される(Z)−ペンタデセナール
【0019】
【化5】
【0020】
(式中、・・・は単結合または二重結合を示し、いずれか1箇所が二重結合であり、それ以外は単結合を示す)を有効成分として含有することを特徴とする加熱調理香味付与乃至増強剤組成物。
(6)下記式(1)で表される(Z)−ペンタデセナール
【0021】
【化6】
【0022】
(式中、・・・は単結合または二重結合を示し、いずれか1箇所が二重結合であり、それ以外は単結合を示す)を有効成分として含有する加熱調理肉様香味付与乃至増強剤組成物。
(7)(1)〜(3)に記載の香味付与乃至増強剤を有効量添加したことを特徴とする飲食品。
(8)(4)〜(6)に記載の香味付与乃至増強剤組成物を添加したことを特徴とする飲食品。
(9)下記式(2)で表される(Z)−7−ペンタデセナール。
【0023】
【化7】
【0024】
(10)下記式(3)で表される(Z)−9−ペンタデセナール。
【0025】
【化8】
【発明の効果】
【0026】
本発明の(Z)−ペンタデセナール(二重結合の位置が、7位〜10位のもの)は焼き鳥、焼肉などの加熱調理肉の他、オレンジやレモンなどの柑橘系の風味を有する飲食品や、これらの飲食品の風味を再現した香味付与乃至増強剤組成物に極微量添加するだけで、これらの飲食品や香味付与乃至増強剤組成物に対し、天然感ふれるオイリー感やジューシーな脂感などの香気特性を付与乃至増強することができ、飲食品類などの他、香粧品類、保健・衛生・医薬品にも用いることができ、香味付与乃至増強剤として、また、香味付与乃至増強剤組成物の調合素材として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明で使用される(Z)−ペンタデセナール(二重結合の位置が、7位〜10位のもの)のうち(Z)−8−ペンタデセナールについては前述の通り天然界からキュウリの揮発性成分として見出されており、(Z)−10−ペンタデセナールについては前述の通り、コリアンダーリーフの揮発性成分や昆虫フェロモンとして知られている。しかしながら、(Z)−7−ペンタデセナールおよび(Z)−9−ペンタデセナールは今まで天然物から見出されておらず、また、合成例も見当たらず、新規化合物である。
【0028】
(Z)−10−ペンタデセナールは公知の方法で合成することができ、例えば、Tetrahedron(1987),43(12),2653−60に記載の方法に従って合成することができる。
【0029】
(Z)−7−ペンタデセナールは例えば、市販の末端アルキンである1−ノニン(東京化成株式会社)及び市販のブロモアルカノールである6−ブロモ−1−ヘキサノール(東京化成株式会社)を用いたカップリング反応、続くLindlar還元、IBX酸化といった工程を経て調製することができる。同様に(Z)−8−ペンタデセナールは1−オクチン(東京化成株式会社)、7−ブロモ−1−ヘプタノール(東京化成株式会社)を、(Z)−9−ペンタデセナールは1−ヘプチン(東京化成株式会社)、8−ブロモ−1−オクタノール(東京化成株式会社)をそれぞれ出発原料とすることで同様の工程にて調製することができる。
【0030】
上記の方法により得られる式(1)の化合物は、そのまま飲食品などに極微量配合することにより飲食品に天然感あふれるオイリー感を付与する他、ファッティー感、ワキシー感などの油脂のジューシーさやコク味を想起させる、嗜好性の高い風味を付与でき、香味付与乃至増強剤として用いることができる。特に、加熱調理肉風味を有する飲食品に微量配合した場合にその効果は顕著に表れ、焼き鳥をイメージさせるような天然感あふれるオイリー感やジューシーな脂感を増強することができる。また、他の成分と混合して香味付与乃至増強剤組成物を調製し、該香味付与乃至増強剤組成物を用いて飲食品などに肉の焼きたて感、肉の調理感、野菜の加熱調理感などを付与乃至増強できる他、柑橘フレーバーに対しては果皮をイメージさせるピーリーなフレッシュ感など嗜好性の高い香気を付与乃至増強することもできる。該香味付与乃至増強剤の前記式(1)の化合物と共に含有し得る他の香料成分としては、各種の合成香料、天然香料、天然精油、植物エキスなどを挙げることができる。
【0031】
本発明の香味付与乃至増強剤組成物における式(1)の化合物の含有量は、混合される他の香料成分により異なり一概にはいえないが、通常、該香味付与乃至増強剤組成物の質量を基準として2×10−4ppm〜2×10ppm、好ましくは2×10−3ppm〜2×10ppm、さらに好ましくは2×10−2ppm〜20ppmの濃度範囲とすることができる。式(1)の化合物の含有量が2×10−4ppm未満であれば香味増強乃至付与効果が得られず、2×10ppmを越える含有量であれば不快臭が強くなってしまい好ましくない。
【0032】
式(1)の化合物を含有する本発明の香料組成物には、必要に応じて、香味付与乃至増強剤組成物において通常使用されている、例えば、水、エタノール等の溶剤;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ヘキシルグリコール、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、ジエチルフタレート、ハーコリン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、中鎖脂肪酸ジグリセライド等の保留剤を含有させることができる。
【0033】
本発明の式(1)の化合物は、上記したようにそれ自体単独で香味付与乃至増強剤として、または、式(1)の化合物を含有する香味付与乃至増強剤組成物を調製して、各種の製品、例えば、飲食品などに天然感あふれるオイリー感などの嗜好性の高い香気を付与乃至増強できる。
【0034】
本発明の式(1)の化合物からなる香味付与乃至増強剤または式(1)の化合物を含有する香味付与乃至増強剤組成物によって、肉の焼きたて感、肉の調理感、野菜の加熱調理感などの他、柑橘の風味に対しては果皮をイメージさせるピーリーなフレッシュ感やジューシーな脂感など嗜好性の高い香気を付与乃至増強することもできる。
【0035】
本発明の式(1)の化合物からなる香味付与乃至増強剤または式(1)の化合物を含有する香味付与乃至増強剤組成物によって、天然感あふれるオイリー感を増強することができる飲食品の具体例としては、何ら限定されるものではなく、例えば、焼き鳥のたれ、焼肉のたれ、マヨネーズ、ドレッシングなどの調味料類;各種インスタント飲料類;袋入り即席ラーメン、カップ入り即席ラーメン、袋入り即席うどん、カップ入り即席うどん、袋入り即席そば、カップ入り即席そば、その他の即席麺などの各種インスタント食品類;和風スープ、洋風スープ、中華スープなどのスープ類;レトルト調味料、レトルトカレー、レトルトハヤシライス、レトルト具材、焼き鳥の缶詰、焼肉の缶詰などの加熱殺菌済み食品;ポテトチップス、クラッカー、ビスケット、クッキー、パイ、チョコレート、スナック、チューインガム、饅頭、羊羹、キャラメル、キャンディー、錠菓、などの菓子類;コーヒー飲料、茶類飲料、麦茶飲料、炭酸飲料、清涼飲料、果汁飲料類、果実酒類、乳飲料類、乳酸菌飲料類、ドリンク剤類、豆乳などの飲料類;アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓、ヨーグルト、プリン、ゼリー、デイリーデザートなどのデザート類;パン類;ジャム類;などを挙げることができる。上記した各種の製品への式(1)の化合物の添加量は、製品の種類や形態に応じて異なり一概にはいえないが、通常、製品の重量を基準として2×10−4ppb〜2×10ppb、好ましくは2×10−3ppb〜2×10ppb、さらに好ましくは2×10−2ppb〜20ppbの濃度範囲とすることができる。式(1)の化合物の含有量が2×10−4ppb未満であれば香味増強乃至付与効果が得られず、2×10ppbを越える含有量であれば不快臭が強くなってしまい好ましくない。以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0036】
実施例1((Z)−ペンタデセナールの調製)
下記一連の反応式にしたがって、表1に示す(7Z)、(8Z)、(9Z)および(10Z)−ペンタデセナールを合成した。
【0037】
【化9】
【0038】
【表1】
【0039】
カップリング(内部アルキンCの合成
末端アルキンA(2.2当量)のテトラヒドロフラン(A(g)×20)(ml)溶液を、窒素雰囲気下−40℃に冷却撹拌した。系内にn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(2.2等量)を滴下した。系内が−20℃になるまで1時間以上かけてゆるやかに昇温させた。再び冷却し、系内が−60℃以下になったらブロモアルカノールB(1.0当量)のテトラヒドロフラン(A(g)×20)(ml)及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(A(g)×2)(ml)混合溶液を滴下した。緩やかに室温まで昇温させながら終夜撹拌した。翌朝、系内に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え30分撹拌した後に分液操作を行い水層を酢酸エチルで抽出した。先の有機層と併せて2規定塩酸、飽和重曹水、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウム乾燥した。減圧濾過後濾液を減圧濃縮することで得られる残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(残渣(g)×100(g)、ヘキサン:酢酸エチル=3:1)で精製することで内部アルキンCを得た。
還元(内部オレフィンDの合成)
内部アルキンC、キノリン(C(g)×0.2)(g)、1−ヘキセン(C(mmol)×10)(ml)及びリンドラー触媒(C(g)×0.2)(g)を仕込み、室温、水素雰囲気下で1.0時間撹拌した。ガスクロマトグラフィーにて原料の消失を確認後、減圧濾過して触媒を除去した。反応溶液を2規定塩酸、飽和重曹水、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウム乾燥した。減圧濾過後濾液を減圧濃縮して得られる残渣をこれ以上の精製することなく次工程に使用した。
酸化(目的化合物の合成)
ナスフラスコに内部オレフィンD(1.0当量)及びジメチルスルホキシド(2−ヨードキシ安息香酸(g)×12)(g)を仕込み室温撹拌した。系内に2−ヨードキシ安息香酸(1.5当量)を加え室温で終夜撹拌した。原料の消失を確認後に系内にジエチルエーテル及び水道水を加えて30分撹拌した。減圧濾過後に濾液を分液処理後に水層をジエチルエーテルで抽出した。有機層を水、10%チオ硫酸ナトリム水溶液、飽和重曹水、飽和食塩水で洗浄した。減圧濾過後、濾液を減圧濃縮することで得た残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(残渣(g)×100(g)、ヘキサン:酢酸エチル=100:1)で精製して(Z)−ペンタデセナール((7Z)、(8Z)、(9Z)および(10Z))を得た。
(Z)−7−ペンタデセナールの物性データ
H−NMR(CDCl,400MHz):0.88(3H、t、J=6.4Hz)、1.26−1.37(14H、m)、1.64(2H、t、6.5Hz)、1.97−2.02(4H、m)、2.40−2.44(2H、m)、5.29−5.40(2H、m)、9.77(1H、s)
13C−NMR(CDCl、100MHz):14.098、21.986、22.661、26.933、27.211、28.771、29.208、29.267、29.436、29.734、31.860、43.880、129.322、130.305、202.823
MS(EI、70eV):224(M、1)、206(5)、180(1)、135(15)、121(30)、111(22)、98(40)、83(40)、67(60)、55(100)、41(85)、29(33)
(Z)−8−ペンタデセナールの物性データ
H−NMR(CDCl,400MHz):0.88(3H、t、J=6.4Hz)、1.26−1.40(14H、m)、1.58−1.65(2H、m)、1.95−2.04(4H、m)、2.38−2.45(2H、m)、5.28−5.41(2H、m)、9.76(1H、s)
13C−NMR(CDCl、100MHz):14.098、22.055、22.651、27.082、27.221、28.979、29.059、29.267、29.506、29.724、31.771、43.890、129.560、130.147、202.893
MS(EI、70eV):224(M、1)、206(5)、180(1)、135(15)、121(20)、111(20)、98(40)、81(50)、67(70)、55(100)、41(85)、29(35)
(Z)−9−ペンタデセナールの物性データ
H−NMR(CDCl,400MHz):0.88(3H、t、J=6.4Hz)、1.28−1.40(14H、m)、1.59−1.67(2H、m)、1.96−2.04(4H、m)、2.37−2.46(2H、m)、5.31−5.40(2H、m)、9.76(1H、s)
13C−NMR(CDCl、100MHz):14.078、22.065、22.572、27.132、27.181、29.039、29.128、29.248、29.436、29.655、31.522、43.910、129.700、130.047、202.932
MS(EI、70eV):224(M、1)、206(5)、180(1)、135(10)、121(20)、111(20)、98(35)、81(45)、69(60)、55(100)、41(80)、29(30)
(Z)−10−ペンタデセナールの物性データ
H−NMR(CDCl,400MHz):0.88(3H、t、J=6.4Hz)、1.26−1.40(14H、m)、1.61−1.64(2H、m)、1.95−2.03(4H、m)、2.37−2.46(2H、m)、5.32−5.40(2H、m)、9.76(1H、s)
13C−NMR(CDCl、100MHz):13.999、22.075、22.343、26.913、27.152、29、140、29.148、29.198、29.297、29.705、31.960、43.910、129.789、129.928、202.942
MS(EI、70eV):224(M、1)、206(5)、180(1)、135(10)、121(15)、111(15)、95(30)、81(45)、67(55)、55(100)、41(75)、28(45)
【0040】
実施例2
下記表2に示す成分からなるミート様基本調合香料組成物(比較品1)を調製した。
【0041】
【表2】
【0042】
比較品1のミート様基本調合香料組成物に(Z)−8−ペンタデセナールを表3に示す量添加混合して、本発明のミート様の調合香料組成物を調製した。
【0043】
【表3】
【0044】
官能評価
醤油1L、みりん1Lおよび酒1Lを混合し、鍋で煮詰めて全量を1Lとした。これを小分けし、比較品1〜3または本発明品1〜5を0.1%添加混合して、それぞれ焼き鳥のタレを調製した。
【0045】
一方、これとは別に、ブラジル産ブロイラーのもも肉と皮を剥離後、もも肉を広げ、約2.5cm角にカットし、皮も同様にカットした。カットしたもも肉とカットした皮を、1串につき、もも肉4切、皮2切を竹串に刺にした。串刺しにした鶏もも肉(皮を含む)をやや焦げ目が付くまでオーブンにて焼いた後、スチーム加熱を設定温度90℃とし、中心温度75℃以上、2分間維持した。常温まで放冷後、一串に対し、比較品および本発明品を配合した焼き鳥のタレを8gずつかけ、専門パネラー10人により比較した。
【0046】
焼き鳥の風味の採点基準:
コントロール(無配合):0点
コントロールと比べ、ごくわずかに天然感あふれるオイリー感が強い:2点
コントロールと比べ、わずかに、天然感あふれるオイリー感が強い:4点
コントロールと比べ、やや、天然感あふれるオイリー感が増強し、天然感が感じられる:6点
コントロールと比べ、天然感あふれるオイリー感が増強され、天然感が強く感じられる:8点
コントロールと比べ、天然感あふれるオイリー感が大幅に増強し、天然感が極めて強く感じられる:10点
コントロールと比べ、やや青臭く金属的な香気が感じられ、バランスがやや悪い:−2点
コントロールと比べ、青臭く金属的な香気が強すぎ、バランスが悪い:−4点
その平均的な香気評価結果を表4に示す。
【0047】
【表4】
【0048】
表4に示したとおり、焼き鳥のタレに(Z)−8−ペンタデセナールを0.0002ppb〜2000ppbの濃度範囲で配合した場合には、焼き鳥様の天然感あふれるオイリー感が付与乃至増強された。また、焼き鳥のタレ中への(Z)−8−ペンタデセナールの添加濃度が、0.00004ppbでは、焼き鳥のタレは、ほとんど無添加(無添加のミート様基本調合香料組成物である比較品1を添加した場合)と差が無いが、0.0002ppbでは、ややオイリー感が増強され、(Z)−8−ペンタデセナールの配合濃度の増加と共に、オイリー感が強まっていき、さらに天然感が良好に感じられるようになり、焼き鳥のタレ中0.02〜20ppbでは天然感が良好に感じられ、特に0.2〜2ppbにおいて天然感が極めて良好に感じされた。しかしながら、2000ppb配合では焼き鳥様のオイリー感は増強されているが、ややバランスが良くないという評価であった。また、さらに配合量を増やし、5000ppbでは(Z)−8−ペンタデセナール特有の風味が強く出すぎて香気全体としてあまりバランスが良くないとの評価であった。
【0049】
以上より、焼き鳥のタレ1質量部に対して(Z)−8−ペンタデセナールの配合量が0.0002ppb〜2000ppbの範囲(ミート様基本調合香料組成物に対し、0.0002ppm〜2000ppmの範囲)において、焼き鳥のタレ(ミート様基本調合香料組成物)に天然感あふれるオイリー感を付与乃至増強できることが判明した。
【0050】
実施例3
比較品1のミート様基本調合香料組成物に、下記表5に示す化合物をそれぞれ0.2ppmずつ(それぞれの0.02%エタノール溶液を0.1%)添加し、比較品1、4、5または本発明品4、9〜11のミート様香料組成物を調製した。
官能評価
醤油1L、みりん1Lおよび酒1Lを混合し、鍋で煮詰めて全量を1Lとした。これを小分けし、比較品1、4、5または本発明品4、9〜11を0.1%添加混合して、それぞれ焼き鳥のタレを調製した(焼き鳥のタレ中の本発明の化合物の濃度として0.2ppb)。
【0051】
この焼きトリのたれを、実施例2と同様に、焼き鳥にかけ、実施例2と同一の評価基準で、官能評価した。その結果を表5に示す。
【0052】
【表5】
【0053】
表5に示したとおり、焼き鳥のタレに(Z)−7−ペンタデセナール、(Z)−8−ペンタデセナール、(Z)−9−ペンタデセナールまたは(Z)−10−ペンタデセナールを0.2ppb配合した場合には、焼き鳥様の天然感あふれるオイリー感が付与乃至増強され、また、ファッティー、ワキシーな油脂のコク味を想起させる風味が付与され、極めて良好な風味となった。
【0054】
一方、本発明のこれらの化合物に替えて、香料として一般的に使用される、二重結合を有するアルデヒドである、(Z)−3−ヘキセノールまたは(Z)−6−ノネナールを配合した焼き鳥のタレは、鋭い青臭さや石鹸臭など、焼き鳥のタレとは違和感のある風味が付与されてしまい、良好ではないという結果であった。
【0055】
実施例4
下記表6に示す成分からなるオレンジ様基本調合香料組成物(比較品6)を調製した。
【0056】
【表6】
【0057】
比較品6のオレンジ様基本調合香料組成物に、下記表7に示す化合物をそれぞれ0.2ppmずつ(それぞれの0.02%エタノール溶液を0.1%)添加し、本発明品12〜15のオレンジ様香料組成物を調製した。
官能評価
果糖ぶどう糖液糖300g、クエン酸(結晶)1.5g、ビタミンC0.05gおよびバレンシアオレンジ果汁1000gを混合し、水にて全量を2000gとした。これを小分けし、比較品6または本発明品12〜15を0.1%添加混合して、それぞれオレンジ果汁飲料を調製した。
【0058】
これらのオレンジ果汁飲料を、専門パネラー10人により官能評価を行った。その平均的な風味評価結果を表7に示す。
【0059】
【表7】
【0060】
表7に示したとおり、オレンジ果汁飲料に本発明の(Z)−7−ペンタデセナール、(Z)−8−ペンタデセナール、(Z)−9−ペンタデセナールまたは(Z)−10−ペンタデセナールを0.2ppb配合した場合には、いずれもオレンジ果皮様のフレッシュで天然感あふれるピーリー感が付与乃至増強され、極めて良好な風味となった。