特許第5868919号(P5868919)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5868919
(24)【登録日】2016年1月15日
(45)【発行日】2016年2月24日
(54)【発明の名称】4輪駆動車の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/02 20060101AFI20160210BHJP
   B60W 10/18 20120101ALI20160210BHJP
   B60K 17/344 20060101ALI20160210BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20160210BHJP
   B60W 30/182 20120101ALI20160210BHJP
   B60W 30/09 20120101ALI20160210BHJP
   B60W 30/12 20060101ALI20160210BHJP
【FI】
   B60W10/00 124
   B60K17/344 B
   B60T7/12 C
   B60T7/12 F
   B60W30/182
   B60W10/02
   B60W10/18
   B60W30/09
   B60W30/12
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-187549(P2013-187549)
(22)【出願日】2013年9月10日
(65)【公開番号】特開2015-54552(P2015-54552A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2014年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】松野 浩二
【審査官】 ▲高▼木 真顕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−293173(JP,A)
【文献】 特開2012−188095(JP,A)
【文献】 特開平09−317864(JP,A)
【文献】 実開昭59−083128(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 − 50/16
B60K 17/28 − 17/36
B60T 7/12 − 8/1769
B60T 8/32 − 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前軸と後軸のどちらか一方の主駆動軸から他方の副駆動軸へ動力伝達軸を介して駆動力を伝達すると共に、上記主駆動軸と上記動力伝達軸との間に第1のクラッチ手段を設け、上記動力伝達軸と上記副駆動軸との間に第2のクラッチ手段を設けて上記動力伝達軸を停止自在にした4輪駆動車において、
前方の道路情報を認識する前方情報認識手段と、
上記前方情報認識手段からの前方情報に基づき減速度指示値を設定して自動ブレーキを作動させる自動ブレーキ制御手段と、
上記第1のクラッチ手段と上記第2のクラッチ手段の締結と開放を制御する駆動力制御手段とを有し、
上記駆動力制御手段は、4輪駆動状態としていない場合に、上記自動ブレーキ制御手段が上記前方情報に基づき上記自動ブレーキを作動させる際は、上記第1のクラッチ手段を締結すると共に、
上記主駆動軸と上記動力伝達軸との回転同期で生じる減速度を算出し、該減速度で上記自動ブレーキ制御手段の上記減速度指示値を補正する減速度補正手段と、
を備えたことを特徴とする4輪駆動車の制御装置。
【請求項2】
上記駆動力制御手段は、4輪駆動状態としていない場合で、且つ、上記自動ブレーキ制御手段が上記自動ブレーキを作動させる対象を通過後、所定時間経過した場合は、上記第1のクラッチ手段と上記第2のクラッチ手段とを開放状態とすることを特徴とする請求項1記載の4輪駆動車の制御装置。
【請求項3】
上記減速度補正手段は、上記主駆動軸と上記動力伝達軸との回転同期の状態と、上記第1のクラッチ手段の締結トルクに応じて上記主駆動軸と上記動力伝達軸との回転同期で生じる減速度を算出することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の4輪駆動車の制御装置。
【請求項4】
上記自動ブレーキ制御手段は、前方障害物と前方カーブの少なくとも一方に応じて自動ブレーキを作動させることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の4輪駆動車の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前方の障害物や急カーブに応じて自動ブレーキを作動させる自動ブレーキ制御装置を搭載したプロペラシャフトを停止自在な4輪駆動車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、主駆動軸から停止自在なプロペラシャフトを介して副駆動軸に駆動力を伝達する4輪駆動車では、走行抵抗を低減するためにプロペラシャフトの回転を止めた2WD状態から、走行中に4WD状態へ切り換える際は、プロペラシャフトにトルクを加えて車輪と先ず回転同期させる必要がある。このプロペラシャフトへの回転同期トルクは駆動系に対しては制動トルクとして作用するため、この同期トルクが大きくなると車両に不快・不要な減速感やショック(前後ジャーク)が発生してしまう。この制動トルクの発生を抑制しようとすると、2WD状態から4WD状態に素早く移行できず、切換時間短縮とのトレードオフが大きな課題となっている。このような、2WD状態から4WD状態へ切換える4輪駆動車の技術として、例えば、特開2010−100280号公報(以下、特許文献1)では、自動車の補助アクスルへ駆動トルクの可変な部分を伝達するための第1のクラッチと、第1のクラッチが開かれているときに、第1のクラッチと第2のクラッチとの間に配されたプロペラシャフトを無効化するための第2のクラッチとを有し、主アクスルにおいて検出されたホイールスリップに基づいて第2のクラッチが閉じられ、第2のクラッチの係合前に無効化状態のプロペラシャフトが加速される技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−100280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1に開示される4輪駆動車のように、プロペラシャフトの如何にスムーズな回転同期を実現しても、車両の走行(運動)エネルギや新たな燃料を消費してプロペラシャフトの回転を加速する動作は、停止自在なプロペラシャフトを採用して燃費の向上を図るという静止機構本来の狙いと相反するエネルギロスであることには変わりは無い。
【0005】
ところで、近年、車両においては、安全性の向上やドライバの負担を軽減することを目的として様々な自動ブレーキ制御装置が開発・実用化されており、このような自動ブレーキ制御装置は4輪駆動車においても積極的に採用されている。上述のようなプロペラシャフトを停止自在な4輪駆動車で、主駆動軸とプロペラシャフトを同期させるときに必要なエネルギを、こうした自動ブレーキ制御装置が吸収し、消費しなければならない運動エネルギから転用・利用できれば、何等かの形で消費しなければならない車両の運動エネルギの有効利用となり望ましい。また、障害物への衝突や路外逸脱防止として自動ブレーキが作動する状況では、タイヤグリップの限界に近づく可能性が高いので、予め4WD状態に切り換えておくことは安全上も有効である。更に、回転同期によって車両に加わる減速度を加味して主ブレーキの作動を緩めることができれば、ブレーキへの熱負荷も軽減できる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、前方の障害物や急カーブに応じて自動ブレーキを作動させる自動ブレーキ制御装置を搭載したプロペラシャフトを停止自在な4輪駆動車において、主駆動軸とプロペラシャフトを同期させるときに必要なエネルギを、自動ブレーキ制御装置が吸収し、消費しなければならないエネルギから転用・有効利用し、また、障害物への衝突や路外逸脱防止が予測される状態では予め4WD状態へと移行して安全性を向上し、更に、自動ブレーキ制御装置の作動で生じる主ブレーキの熱負荷も軽減することができる4輪駆動車の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の4輪駆動車の制御装置の一態様は、前軸と後軸のどちらか一方の主駆動軸から他方の副駆動軸へ動力伝達軸を介して駆動力を伝達すると共に、上記主駆動軸と上記動力伝達軸との間に第1のクラッチ手段を設け、上記動力伝達軸と上記副駆動軸との間に第2のクラッチ手段を設けて上記動力伝達軸を停止自在にした4輪駆動車において、前方の道路情報を認識する前方情報認識手段と、上記前方情報認識手段からの前方情報に基づき減速度指示値を設定して自動ブレーキを作動させる自動ブレーキ制御手段と、上記第1のクラッチ手段と上記第2のクラッチ手段の締結と開放を制御する駆動力制御手段とを有し、上記駆動力制御手段は、4輪駆動状態としていない場合に、上記自動ブレーキ制御手段が上記前方情報に基づき上記自動ブレーキを作動させる際は、上記第1のクラッチ手段を締結すると共に、上記主駆動軸と上記動力伝達軸との回転同期で生じる減速度を算出し、該減速度で上記自動ブレーキ制御手段の上記減速度指示値を補正する減速度補正手段とを備えた。
【発明の効果】
【0008】
本発明による4輪駆動車の制御装置によれば、前方の障害物や急カーブに応じて自動ブレーキを作動させる自動ブレーキ制御装置を搭載したプロペラシャフトを停止自在な4輪駆動車において、主駆動軸とプロペラシャフトを同期させるときに必要なエネルギを、自動ブレーキ制御装置が吸収し、消費しなければならないエネルギから転用・有効利用し、また、障害物への衝突や路外逸脱防止が予測される状態では予め4WD状態へと移行して安全性を向上し、更に、自動ブレーキ制御装置の作動で生じる主ブレーキの熱負荷も軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の一形態による、車両の概略構成を示す説明図である。
図2】本発明の実施の一形態による、制御ユニットの機能ブロック図である。
図3】本発明の実施の一形態による、制御ユニットで実行される制御のフローチャートである。
図4】本発明の実施の一形態による、クラッチ開放判定部で実行される処理のフローチャートである。
図5】本発明の実施の一形態による、自車両と制御対象との相対速及びラップ率とブレーキ介入距離との関係を示す3次元マップである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は車両前部に配置されたエンジンを示し、このエンジン1による駆動力は、エンジン1後方の自動変速装置(トルクコンバータ等も含んで図示)2からトランスミッション出力軸2aを経てトランスファ3に伝達される。
【0011】
このトランスファ3に伝達された駆動力は、リヤドライブ軸4、プロペラシャフト5、ドライブピニオン軸部6を介して後輪終減速装置7に入力される一方、リダクションドライブギヤ8、リダクションドリブンギヤ9、ドライブピニオン軸部となっているフロントドライブ軸10を介して前輪終減速装置11に入力される。ここで、自動変速装置2、トランスファ3および前輪終減速装置11等は、一体にケース12内に設けられている。
【0012】
後輪終減速装置7に入力された駆動力は、後輪左ドライブ軸13rlを経て左後輪14rlに、更に、後輪右ドライブ軸13rrを経て右後輪14rrに伝達自在に構成されている。
【0013】
また、前輪終減速装置11に入力された駆動力は、前輪左ドライブ軸13flを経て左前輪14flに、前輪右ドライブ軸13frを経て右前輪14frに伝達される。
【0014】
トランスファ3は、リダクションドライブギヤ8側に設けたドライブプレート15aとリヤドライブ軸4側に設けたドリブンプレート15bとを交互に重ねて構成したトルク伝達容量可変型クラッチである湿式多板クラッチ(トランスファクラッチ)15と、このトランスファクラッチ15の締結力を可変自在に付与するピストン16とにより構成されている。
【0015】
また、後輪終減速装置7は、差動機構を有すること無く、後輪左ドライブ軸13rlには、駆動力の伝達を継断自在な左ホイールクラッチ17lが介装される一方、後輪右ドライブ軸13rrには、駆動力の伝達を継断自在な右ホイールクラッチ17rが介装されている。これら左右のホイールクラッチ17l,17rは、それぞれのドライブ軸13rl,13rr間を継断するにあたり、公知の回転数の同期がとられて実行されるように構成されている。
【0016】
従って、本実施の4輪駆動車では、トランスファクラッチ15と左右のホイールクラッチ17l,17rが全て開放された状態では、プロペラシャフト5が停止される状態となり、前輪左ドライブ軸13flと前輪右ドライブ軸13frで主駆動軸が構成され、後輪左ドライブ軸13rlと後輪右ドライブ軸13rrで副駆動軸が構成され、プロペラシャフト5が動力伝達軸として設けられ、トランスファクラッチ15が第1のクラッチ手段として設けられ、左右のホイールクラッチ17l,17rが第2のクラッチ手段として設けられている。そして、ピストン16による押圧力でトランスファクラッチ15を制御することにより、プロペラシャフト5に対して回転トルクが付与されてプロペラシャフト5と主駆動軸との回転同期が制御され、また、車両の前後駆動力配分制御が行われる。
【0017】
ここで、ピストン16の押圧力は、複数のソレノイドバルブ等を擁した油圧回路で構成するトランスファクラッチ駆動部31trcで与えられる。このトランスファクラッチ駆動部31trcを駆動させる制御信号(トランスファクラッチトルクTm)は、後述する制御ユニット30から出力される。また、左右のホイールクラッチ17l,17rは、それぞれ複数のソレノイドバルブ等を擁した油圧回路で構成する左右のホイールクラッチ駆動部31wcl,31wcrにより作動される。そして、これら左右のホイールクラッチ駆動部31wcl,31wcrを駆動させる制御信号は、後述する制御ユニット30から出力される。
【0018】
一方、符号32は車両のブレーキ駆動部を示し、このブレーキ駆動部32には、ドライバにより操作される、図示しないブレーキペダルと接続されたマスターシリンダが接続されており、ドライバがブレーキペダルを操作する(踏み込む)とマスターシリンダにより、ブレーキ駆動部32を通じて、4輪14fl,14fr,14rl,14rrの各ホイールシリンダ(左前輪ホイールシリンダ18fl,右前輪ホイールシリンダ18fr,左後輪ホイールシリンダ18rl,右後輪ホイールシリンダ18rr)にブレーキ圧が導入され、これにより4輪にブレーキがかかって制動される。
【0019】
ブレーキ駆動部32は、加圧源、減圧弁、増圧弁等を備えたハイドロリックユニットで、制御部30等からの入力信号に応じて、各ホイールシリンダ18fl,18fr,18rl,18rrに対して、それぞれ独立にブレーキ圧を導入自在に形成されている。
【0020】
次に、制御ユニット30について説明する。
制御ユニット30には、前方認識装置21、各車輪14fl,14fr,14rl,14rrの車輪速度センサ(左前輪車輪速度センサ22fl,右前輪車輪速度センサ22fr,左後輪車輪速度センサ22rl,右後輪車輪速度センサ22rr)、プロペラシャフト回転速度センサ23、その他、図示しない、操舵角センサ、ヨーレートセンサ、アクセルペダルセンサ、ブレーキペダルセンサ、エンジン制御ユニット(ECU)、トランスミッション制御ユニット(TCU)等が接続され、自車両前方の立体物データや白線データ等の前方情報、各車輪14fl,14fr,14rl,14rrの車輪速度(左前輪車輪速度ωfl,右前輪車輪速度ωfr,左後輪車輪速度ωrl,右後輪車輪速度ωrr)、プロペラシャフト回転速度ωd、操舵角、ヨーレート、アクセルペダル踏み込み量、ブレーキペダル踏み込み量、エンジン回転数、吸入空気量、トランスミッションギヤ比等が入力される。尚、本実施の形態では、主駆動軸の回転速度ωmとして左前輪車輪速度ωflと右前輪車輪速度ωfrの平均回転速度を採用し、副駆動軸の回転速度ωsとして左後輪車輪速度ωrlと右後輪車輪速度ωrrの平均回転速度を採用する。
【0021】
ここで、前方認識装置21は、例えば、ステレオカメラ21aで撮像した画像を基に前方の道路情報を認識するように構成されている。ステレオカメラ21aは、例えば、電荷結合素子(CCD)等の固体撮像素子を用いた左右1組のCCDカメラで構成されている。これら1組のCCDカメラは、それぞれ車室内の天井前方に一定の間隔を持って取り付けられ、車外の対象を異なる視点からステレオ撮像して画像情報を出力する。
【0022】
前方認識装置21には、ステレオカメラ21aから画像情報が入力されるとともに自車両から自車速(例えば、4輪車輪速度の平均速度)V等が入力される。そして、前方認識装置21は、ステレオカメラ21aからの画像情報に基づいて自車両前方の立体物データや白線データ等の前方情報を認識し、これら認識情報等に基づいて自車走行路を推定する。また、前方認識装置21は、自車走行路上に障害物や先行車等の立体物が存在するか否かを調べ、存在する場合には、直近のものを制動制御の制御対象(障害物)として認識する。
【0023】
前方認識装置21は、ステレオカメラ21aからの画像情報の処理を、例えば以下のように行う。先ず、ステレオカメラ21aで自車進行方向を撮像した1組のステレオ画像対に対し、距離情報を生成する。そして、この距離情報に対して周知のグルーピング処理を行い、グルーピング処理した距離情報を予め設定しておいた三次元的な道路形状データや立体物データ等と比較することにより、白線データ、道路に沿って存在するガードレール、縁石等の側壁データ、車両等の立体物データ等を抽出する。尚、これら認識された各データは、それぞれ固有のIDナンバーが付されメモリーされる。また、前方認識装置21は、白線データや側壁データ等に基づいて自車走行路を推定し、自車走行路前方に存在する障害物や先行車等の立体物を自動ブレーキ制御の制御対象(障害物)として検出する。そして、障害物を検出した場合には、その障害物の情報として、自車両1と障害物との相対距離d、障害物の移動速度Vf(=(相対距離dの変化の割合)+自車速V))、障害物の減速度af(=障害物の移動速度Vfの微分値)等を演算する。このように、本実施形態において、前方認識装置21は、ステレオカメラ21aと共に、前方情報認識手段として設けられている。
【0024】
そして、制御ユニット30は、上述の各入力信号に基づいて、前方障害物や急カーブ等の前方情報に基づき障害物との衝突を防止するための、或いは、車線(自車走行路)逸脱を防止するための減速度指示値Gを設定して自動ブレーキを作動させる。この自動ブレーキを作動させる際、トランスファクラッチ15を締結すると共に、主駆動軸とプロペラシャフト5との回転同期で生じる減速度ΔGωを算出し、この減速度ΔGωで減速度指示値Gを補正し、この補正した減速度指示値Gに応じたブレーキ液圧Pbをブレーキ駆動部32に出力する。また、4WD状態ではない場合で、且つ、自動ブレーキの対象となる障害物やカーブを通過後、所定時間経過した場合には全てのクラッチ15、17l,17rを開放状態とする。
【0025】
このため、制御ユニット30は、図2に示すように、4輪駆動制御部30a、自動ブレーキ制御部30b、減速度指示値補正、ブレーキ液圧算出・出力部30c、クラッチ開放判定部30dから主要に構成されている。
【0026】
4輪駆動制御部30aは、4輪車輪速度センサ22fl,22fr,22rl,22rrから各輪の車輪速度ωfl,ωfr,ωrl,ωrrが入力され、また、図示しない操舵角センサから操舵角が入力され、ヨーレートセンサからヨーレートが入力され、ECUからエンジン回転数、吸入空気量が入力され、TCUからトランスミッションギヤ比が入力され、更に、自動ブレーキ制御部30bから前方情報(障害物や急カーブ)に基づく自動ブレーキが作動したか否かの信号が入力され、クラッチ開放判定部30dから全てのクラッチ15、17l,17rの開放指示に関する信号等が入力される。
【0027】
そして、4輪駆動制御部30aは、通常の4輪駆動制御として、例えば、車両のアンダーステア傾向を抑制するヨーモーメントを目標ヨーモーメントとして算出し、前軸の左右輪の平均車輪速((ωfl+ωfr)/2)が後軸の旋回外輪の車輪速を越えている場合には、車両に上述の目標ヨーモーメントを付加する際に、後軸の旋回外輪側のホイールクラッチを締結すると共に、旋回内輪側のホイールクラッチを開放し、目標ヨーモーメントに基づいてトランスファクラッチ15の締結力を制御する。
【0028】
また、4輪駆動制御部30aは、プロペラシャフト5を停止して上述の4輪駆動制御をしていない2WD走行の状態で、自動ブレーキ制御部30bから前方情報(障害物や急カーブ)に基づく自動ブレーキを作動する信号が入力された際、トランスファクラッチ15を締結する。
【0029】
更に、4輪駆動制御部30aは、4輪駆動制御状態ではない場合に、クラッチ開放判定部30dから全てのクラッチ15、17l,17rの開放指示が入力された場合は、全てのクラッチ15、17l,17rを開放する。
【0030】
また、4輪駆動制御部30aは、上述の各クラッチ15、17l,17rへの信号(締結・開放)に加え、4輪駆動制御の作動状態をクラッチ開放判定部30dに出力し、トランスファクラッチ15の締結トルクTmの値を減速度指示値補正、ブレーキ液圧算出・出力部30cに出力する。このように、4輪駆動制御部30aは駆動力制御手段として設けられている。
【0031】
自動ブレーキ制御部30bは、前方認識装置21から自車両前方の立体物データや白線データ等の前方情報が入力され、4輪車輪速度センサ22fl,22fr,22rl,22rrから各車輪速度ωfl,ωfr,ωrl,ωrrが入力され、また、図示しない、操舵角センサから操舵角が入力され、ヨーレートセンサからヨーレートが入力され、アクセルペダルセンサからアクセルペダル踏み込み量が入力され、ブレーキペダルセンサからブレーキペダル踏み込み量が入力される。本実施の形態の自動ブレーキ制御部30bは、障害物との衝突を防止する衝突防止機能と、急カーブにおいて速度を適切に抑制する車線逸脱防止機能を有して構成されている。
【0032】
自動ブレーキ制御部30bの衝突防止機能としては、例えば、特開2009−262701号公報に記載される方法により、自車両と障害物との衝突防止制御を実行する。具体的には、ブレーキ介入距離として、例えば、予め設定しておいた、図5に示すようなマップを参照して、障害物を基準とする第1,第2のブレーキ介入距離D1,D2を設定する。
【0033】
ここで、第1のブレーキ介入距離D1は、障害物との衝突回避が制動によっても操舵によっても困難となる限界距離(衝突回避限界距離)であり、例えば、予め実験やシミュレーション等に基づいて設定されている。この衝突回避限界距離は、例えば、自車両と障害物との相対速Vrelに応じて変化し、更に、自車両と障害物との相対速Vrel及びラップ率Rlによって変化する。また、第2のブレーキ介入距離D2は、第1のブレーキ介入距離D1よりも所定に長い距離に設定される。具体的には、第2のブレーキ介入距離D2は、例えば、予め実験やシミュレーション等に基づいて設定されるもので、相対速Vrelに応じた所定距離だけ衝突回避限界距離よりも自車両側に延長された距離が設定されている。
【0034】
そして、自動ブレーキ制御部30bは、自車両と障害物との相対距離dが第1のブレーキ介入距離D1以下となったとき、自動ブレーキの介入によるブレーキ制御(以下、本格制動制御ともいう)を実行する。この本格制動制御において、自動ブレーキ制御部30bは、例えば、自動ブレーキにより発生すべき減速度(目標減速度Gt)、及び、この目標減速度Gtを発生させる際に許容する減速度の変化量(減速度変化量ΔG1)として予め設定された固定値をそれぞれセットし、これらに基づいて減速度指示値Gを演算する。そして、自動ブレーキ制御部30bは、演算した減速度指示値Gを減速度指示値補正、ブレーキ液圧算出・出力部30cに出力する。
【0035】
また、自動ブレーキ制御部30bは、自車両と障害物との相対距離dが第1のブレーキ介入距離D1よりも大きく、且つ、第2のブレーキ介入距離D2以下であるとき、本格制動制御に先立ち、自動ブレーキの介入による制動制御(以下、拡大制動制御ともいう)を実行する。この拡大制動制御において、自動ブレーキ制御部30bは、例えば、目標減速度Gt及び減速度変化量ΔG1をそれぞれ可変設定し、これらに基づいて減速度指示値Gを演算する。そして、自動ブレーキ制御部30bは、演算した減速度指示値Gを減速度指示値補正、ブレーキ液圧算出・出力部30cに出力する。
【0036】
また、自動ブレーキ制御部30bの車線逸脱防止機能としては、例えば、左白線と右白線との中心を目標コースとし、この目標コースの旋回半径ρを2次近似等により時々刻々算出し、旋回半径ρが予め設定しておいた閾値よりも小さくなる目標コース部分を抽出し、この抽出した目標コース部分の直近部分の旋回半径ρを制御対象として、予め実験・演算等により設定しておいた旋回半径ρと限界速度Vlimとのマップを参照して限界速度Vlimを求め、現在の自車速Vが限界速度Vlimより高い場合には、抽出したコース部分までの距離を基に、現在の自車速Vを限界速度Vlimに減速するのに必要な減速度指示値Gを算出し、この演算した減速度指示値Gを減速度指示値補正、ブレーキ液圧算出・出力部30cに出力する。
【0037】
また、自動ブレーキ制御部30bは、上述の自動ブレーキの作動状態を4輪駆動制御部30aに出力すると共に、自動ブレーキを作動させる制御対象となった、障害物やカーブをIDナンバー等で、クラッチ開放判定部30dに出力する。このように、自動ブレーキ制御部30bは、自動ブレーキ制御手段として設けられている。
【0038】
減速度指示値補正、ブレーキ液圧算出・出力部30cは、4輪車輪速度センサ22fl,22fr,22rl,22rrから各輪の車輪速度ωfl,ωfr,ωrl,ωrrが入力され、プロペラシャフト回転速度センサ23からプロペラシャフト回転速度ωdが入力され、4輪駆動制御部30aからトランスファクラッチ15の締結トルクTmの値が入力され、自動ブレーキ制御部30bから演算した減速度指示値Gが入力される。
【0039】
そして、主駆動軸とプロペラシャフト5との回転速度差Δωmd(=ωm・Gf−ωd:Gfはファイナルギヤ比)を算出し、この回転速度差の絶対値|Δωmd|と予め実験、演算等により設定しておいた閾値Sdとを比較し、回転速度差の絶対値|Δωmd|が閾値Sdより大きい場合には、主駆動軸とプロペラシャフト5との同期が完了しておらず回転同期トルクTsmとしてトランスファクラッチ15の締結トルクTmを設定し、回転速度差の絶対値|Δωmd|が閾値Sd以下の場合には、主駆動軸とプロペラシャフト5との同期が完了したとして回転同期トルクTsmとして0を設定する。
【0040】
こうして設定した回転同期トルクTsmを用い、例えば、以下の(1)式により、主駆動軸とプロペラシャフト5とを回転同期させる回転同期による車両減速度ΔGωを算出する。
ΔGω=(Tsm・Gf/Rt)・(1/m) …(1)
ここで、Rtはタイヤ径、mは車両質量である。
【0041】
そして、例えば、以下の(2)式により、減速度指示値Gを補正し、この補正した減速度指示値Gを用いて、以下の(3)式によりブレーキ液圧Pbを算出してブレーキ駆動部32に出力する。
G=G−ΔGω …(2)
Pb=Cb・G …(3)
ここで、Cbはブレーキ諸元で決まる定数である。
【0042】
このように、減速度指示値補正、ブレーキ液圧算出・出力部30cは、減速度補正手段として設けられている。
【0043】
クラッチ開放判定部30dは、前方認識装置21から自車両前方の立体物データや白線データ等の前方情報が入力され、4輪駆動制御部30aから4輪駆動制御の作動状態が入力され、自動ブレーキ制御部30bから自動ブレーキを作動させる制御対象となった、障害物やカーブがIDナンバー等で入力される。そして、4輪駆動状態としていない場合で、且つ、自動ブレーキ制御部30bが上述の自動ブレーキを作動させる制御対象(障害物やカーブ)を通過後、所定時間経過した場合は、全クラッチ15、17l,17rを開放状態とする信号を4輪駆動制御部30aに出力する。
【0044】
次に、上述の制御ユニット30で実行される制御を、図3のフローチャートで説明する。
まず、ステップ(以下、「S」と略称)S101で、4輪駆動制御部30aで、4WD作動中か否か判定し、4WD作動中の場合は、そのままルーチンを抜け、4WD作動中ではない場合は、S102に進む。
【0045】
S102では、自動ブレーキ制御部30bで、前方情報に基づく衝突回避やカーブ前減速の自動ブレーキが作動したか否か判定され、自動ブレーキが作動されていない場合は、そのままルーチンを抜け、自動ブレーキが作動された場合は、S103に進んで、4輪駆動制御部30aはトランスファクラッチ15を締結させる。
【0046】
その後、S104に進み、減速度指示値補正、ブレーキ液圧算出・出力部30cで、主駆動軸とプロペラシャフト5との回転速度差Δωmd(=ωm・Gf−ωd)を算出する。
【0047】
次いで、S105に進んで、回転速度差の絶対値|Δωmd|と予め実験、演算等により設定しておいた閾値Sdとを比較し、回転速度差の絶対値|Δωmd|が閾値Sdより大きい場合(|Δωmd|>Sdの場合)には、主駆動軸とプロペラシャフト5との同期が完了していないと判定し、S106に進み、回転同期トルクTsmとしてトランスファクラッチ15の締結トルクTmを設定する。
【0048】
逆に、回転速度差の絶対値|Δωmd|が閾値Sd以下の場合(|Δωmd|≦Sdの場合)には、主駆動軸とプロペラシャフト5との同期が完了したと判定し、S107に進み、回転同期トルクTsmとして0を設定する。
【0049】
S106、或いは、S107で回転同期トルクTsmを設定した後は、S108に進み、回転同期による車両減速度ΔGωを、前述の(1)式により算出する。
【0050】
そして、S109に進み、前述の(2)式により、減速度指示値Gを補正し、この補正した減速度指示値Gを用いて、前述の(3)式によりブレーキ液圧Pbを算出してブレーキ駆動部32に出力して、プログラムを抜ける。
【0051】
次に、上述のクラッチ開放判定部30dで実行される、クラッチ開放判定の処理のプログラムを図4のフローチャートで説明する。
まず、S201で、4輪駆動制御部30aで、4WD作動中か否か判定し、4WD作動中の場合は、そのままルーチンを抜け、4WD作動中ではない場合は、S202に進む。
【0052】
S202では、自動ブレーキ制御部30bで制御対象とした障害物やカーブを通過後、所定時間経過したか否か判定される。
【0053】
この判定の結果、障害物やカーブを通過後、所定時間経過していない場合は、そのままルーチンを抜け、所定時間経過している場合は、S203に進み、障害物やカーブに対する自動ブレーキの作動が無いと判定し、全てのクラッチ15、17l,17rを開放状態とする信号を4輪駆動制御部30aに出力してプログラムを抜ける。
【0054】
このように、本発明の実施の形態によれば、前方障害物や急カーブ等の前方情報に基づき障害物との衝突を防止するための、或いは、車線逸脱を防止するための減速度指示値Gを設定して自動ブレーキを作動させる。この自動ブレーキを作動させる際、トランスファクラッチ15を締結すると共に、主駆動軸とプロペラシャフト5との回転同期で生じる減速度ΔGωを算出し、この減速度ΔGωで減速度指示値Gを補正し、この補正した減速度指示値Gに応じたブレーキ液圧Pbをブレーキ駆動部32に出力する。また、4WD状態ではない場合で、且つ、自動ブレーキの対象となる障害物やカーブを通過後、所定時間経過した場合には全てのクラッチ15、17l,17rを開放状態とする。このため、前方の障害物や急カーブに応じて自動ブレーキを作動させる自動ブレーキ制御装置を搭載したプロペラシャフトを停止自在な4輪駆動車において、主駆動軸とプロペラシャフトを同期させるときに必要なエネルギを、自動ブレーキ制御装置が吸収し、消費しなければならないエネルギから転用・有効利用することができる。また、障害物への衝突や路外逸脱防止が予測される状態では予め4WD状態へと移行して安全性を向上することができる。更に、自動ブレーキ制御装置の作動で生じる主ブレーキの熱負荷も軽減することが可能となる。
【0055】
尚、本実施の形態では、前方情報認識手段としてステレオカメラ21aを利用する例を説明したが、これに限ること無く、例えば、単眼カメラ、レーダー、レーザー、又は、これらを組み合わせるものであっても良い。また、道路形状は、ナビゲーションシステムの地図情報から得られるものであっても良い。更に、本実施の形態では、自動ブレーキ制御部30bは、障害物との衝突を防止する衝突防止機能と急カーブにおいて速度を適切に抑制する車線逸脱防止機能の両方を有するものを例に説明したが、これら両方ではなく、どちらかのみ有するものであっても良い。また、本実施の形態では、左右のホイールクラッチ17l,17rを第2のクラッチ手段として設けた例で説明したが、この構成に限ることなく、例えば、ドライブピニオン軸部6にプロペラシャフト5からの駆動力を継断するクラッチを介装し、このクラッチを第2のクラッチ手段として用いる車両であっても本発明が適用できることは云うまでも無い。
【符号の説明】
【0056】
1 エンジン
2 自動変速装置
3 トランスファ
4 リヤドライブ軸
5 プロペラシャフト(動力伝達軸)
6 ドライブピニオン軸部
7 後輪終減速装置
8 リダクションドライブギヤ
9 リダクションドリブンギヤ
10 フロントドライブ軸
11 前輪終減速装置
13fl、13fr 前輪ドライブ軸(主駆動軸)
13rl、13rr 後輪ドライブ軸(副駆動軸)
14fl、14fr 前輪
14rl、14rr 後輪
15 トランスファクラッチ(第1のクラッチ手段)
17l、17r ホイールクラッチ(第2のクラッチ手段)
18fl、18fr、18rl、18rr ホイールシリンダ
21 前方認識装置(前方情報認識手段)
21a ステレオカメラ(前方情報認識手段)
22fl、22fr、22rl、22rr 車輪速度センサ
23 プロペラシャフト回転速度センサ
30 制御ユニット
30a 4輪駆動制御部(駆動力制御手段)
30b 自動ブレーキ制御部(自動ブレーキ制御手段)
30c 減速度指示値補正、ブレーキ液圧算出・出力部(減速度補正手段)
30d クラッチ開放判定部(駆動力制御手段)
31trc トランスファクラッチ駆動部
31wcl、31wcr ホイールクラッチ駆動部
32 ブレーキ駆動部
図1
図2
図3
図4
図5