【実施例】
【0020】
粉末状物質としてローヤルゼリー粉末を使用し、構成脂肪酸組成の異なる油脂を使用して、表1に示す組成(質量%)の組成物R1,S1−1〜S1−6を調製した。ローヤルゼリー粉末としては、生ローヤルゼリーを凍結乾燥した粉末(かさ比重0.75g/ml)を使用し、組成物におけるローヤルゼリー粉末の含有率は、従来のソフトカプセルの充填用組成物におけるローヤルゼリーの含有率より高い62.5質量%とした。また、乳化剤(界面活性剤)として大豆レシチンを、安定化剤としてミツロウを添加した。何れの組成物においても、ローヤルゼリー粉末、油脂、乳化剤、安定化剤の質量%は同一であり、異なっているのは油脂の種類のみである。
【0021】
ここで、組成物R1の油脂は、従来のソフトカプセルにおいて粉末状物質の分散媒として多用されているサフラワー油であり、構成脂肪酸のほとんど全てが炭素数16〜18の長鎖脂肪酸である。これに対し、組成物S1−1〜S1−6は本実施形態の充填用組成物であり、何れも、油脂の構成脂肪酸に占める炭素数8の脂肪酸と炭素数10の脂肪酸との和の割合は70質量%〜100質量%である。ここで、組成物S1−1〜S1−5の油脂の構成脂肪酸は、ほとんど全て(98質量%〜100質量%)が炭素数8,10の中鎖脂肪酸である。一方、組成物S1−6の油脂の構成脂肪酸は、炭素数8,10の中鎖脂肪酸のほか、炭素数6の中鎖脂肪酸を約2質量%、炭素数12の中鎖脂肪酸を約20質量%含有し、残りは炭素数14以上の長鎖脂肪酸である。
【0022】
【表1】
【0023】
調製された上記の組成物R1,S1−1〜S1−6について、次のように、充填性、及び、分散安定性の評価を行った。その結果を、表1に合わせて示す。
【0024】
<充填性の評価>
充填用組成物の粘度を測定し、ロータリーダイ式のソフトカプセル成形においてカプセル皮膜に充填用組成物を充填しやすい流動性を考慮し、粘度が10000mPa・s以下の場合を「◎」(極めて良好)、10000mPa・sを超えるが15000mPa・s以下の場合を「○」(良好)、15000mPa・sを超えるが20000mPa・s以下の場合を「△」(実用的ではあるが充填性の良好さにやや劣る)、20000mPa・sを超える場合を「×」(不良)と評価した。ここで、粘度は、B型粘度計を使用し(No.4ローター,回転速度6rpm)、温度25℃で測定した。
【0025】
<分散安定性の評価>
充填用組成物10gを、20mlのサンプル瓶に入れ、40℃に保持した恒温槽内で100時間放置し、ローヤルゼリー粉末と油脂相とが分離する相分離の有無を目視で観察した。相分離が全く観察されなかった場合を「○」、高さ1mm未満の油脂相の分離が確認された場合を「△」、高さ1mm以上の油脂相の分離が確認された場合を「×」として評価した。
【0026】
表1に示すように、従来のソフトカプセルで多用されているサフラワー油を分散媒とした組成物R1では、ローヤルゼリー粉末の含有率を62.5質量%とすると、粘度が著しく高くなり、カプセル皮膜への充填性は不良であった。これに対し、本実施形態の組成物S1−1〜S1−6は、何れも実用的な充填性を備えており、分散安定性も良好であった。そのうち、油脂の構成脂肪酸に占める炭素数8の脂肪酸と炭素数10の脂肪酸との和の割合が98質量%以上であり、炭素数8の脂肪酸の割合が66質量%以上である組成物S1−1〜S1−5は、充填性が極めて良好であった。
【0027】
次に、ローヤルゼリーの含有率をどこまで高めることができるかを、表2に示す組成の組成物S2−1〜S2−4を用いて検討した。ここでは、分散媒として、組成物S1−3と同一の油脂、すなわち、構成脂肪酸に占める炭素数8の脂肪酸の割合が99質量%で、炭素数10の脂肪酸の割合が9質量%である油脂を使用した。また、上記と同一の乳化剤及び安定化剤を、同一の割合(質量%)で添加した。なお、組成物S2−1からS2−4までローヤルゼリー粉末の含有率を高めており、これに伴い油脂の含有率を低下させている。また、組成物S2−1は組成物S1−3と同一である。
【0028】
【表2】
【0029】
調製した組成物S2−1〜S2−4について、上記と同様の方法で、充填性、及び、分散安定性の評価を行った。その結果を、表2に合わせて示す。
【0030】
表2に示すように、ローヤルゼリー粉末の含有率が67質量%を越える組成物S2−4は粘度が高過ぎ、カプセル充填用組成物として適していなかったものの、組成物S2−1〜S2−3は何れも充填性、分散安定性ともに良好であり、ローヤルゼリー粉末の含有率を65.6質量%まで高めることが可能であった。特許文献1に関して上述したように、ローヤルゼリーを内容物とする従来のソフトカプセルでは、ローヤルゼリー粉末の含有率が60質量%でも、それ以前の従来製品と比べれば十分に高含有率と言えるものであった。そして、ソフトカプセルの技術分野において、目的物質の含有率をより高めることが常に要請され続けているとはいえ、1質量%であっても含有率を高めることは非常に困難なことである。従って、構成脂肪酸の組成が特定の範囲内にある油脂を分散媒とする上記構成とすることにより、充填用組成物におけるローヤルゼリー粉末の含有率を65.6質量%まで高めることができたことは、極めて意義が高い。
【0031】
ところで、ローヤルゼリーを内容物とするソフトカプセルは、冷蔵保存することが推奨される場合がある。そこで、上記の組成物S1−1〜S1−6、及び、S2−1〜S2−3について、次の方法で低温安定性を評価した。
【0032】
<低温安定性の評価>
充填用組成物をソフトカプセル皮膜に充填したソフトカプセルを、10℃の温度下で100時間静置した。その後、ソフトカプセルの外観を肉眼で観察し、結晶化による油脂の白濁が少しでも観察された場合を「×」で、そのような白濁が全く観察されなかった場合を「○」で評価した。その結果を、表3及び表4に示す。
【0033】
【表3】
【0034】
【表4】
【0035】
表3及び表4から明らかなように、構成脂肪酸のほとんどが炭素数8の脂肪酸である油脂を分散媒とした組成物S1−1(炭素数8の脂肪酸99質量%)、及びS1−2(炭素数8の脂肪酸97質量%)では、低温保存によって油脂が結晶化することが認められた。そして、その他の組成物ではそのような結晶化は観察されなかったことから、少なくとも構成脂肪酸に占める炭素数8の脂肪酸の割合が90質量%以下であれば、低温保存によって油脂が結晶化しない充填組成物とできることが確認された。従って、ローヤルゼリーを内容物とする場合など、冷蔵保存が推奨されるカプセルを提供する場合、或いは、外観が重視されるソフトカプセルとする場合は、充填用組成物の分散媒として、構成脂肪酸に占める炭素数8の脂肪酸の割合が90質量%以下である油脂を使用することが望ましい。
【0036】
次に、粉末状物質としてブルーベリー粉末を使用し、構成脂肪酸組成の異なる油脂を使用して、表5に示す組成(質量%)の組成物R3、S3−1〜S3−5を調製した。ブルーベリー粉末としては、ブルーベリーエキスを真空乾燥した粉末(かさ比重0.40g/ml)を使用し、組成物におけるブルーベリーの含有率は50.0質量%とした。また、上記と同様に、乳化剤(界面活性剤)として大豆レシチンを、安定化剤としてミツロウを添加した。何れの組成物においても、ブルーベリー粉末、油脂、乳化剤、安定化剤の質量%は同一であり、異なっているのは油脂の種類のみである。
【0037】
また、組成物R3の油脂は、従来のソフトカプセルにおいて粉末状物質の分散媒として多用されているサフラワー油(構成脂肪酸のほとんど全てが炭素数16〜18の長鎖脂肪酸)である。これに対し、組成物S3−1〜S3−5は本実施形態の充填用組成物であり、何れも、油脂の構成脂肪酸に占める炭素数8の脂肪酸と炭素数10の脂肪酸との和の割合は70質量%〜100質量%である。ここで、組成物S3−1〜S3−4の油脂の構成脂肪酸は、ほとんど全て(98質量%〜100質量%)が炭素数8,10の中鎖脂肪酸である。一方、組成物S3−5の油脂は上記の組成物S1−6の油脂と同一であり、構成脂肪酸は、炭素数8,10の中鎖脂肪酸のほか、炭素数6の中鎖脂肪酸を約2質量%、炭素数12の中鎖脂肪酸を約20質量%含有し、残りは炭素数14以上の長鎖脂肪酸である。
【0038】
【表5】
【0039】
調製された組成物R3、S3−1〜S3−5について、上記と同様の方法で充填性、及び、分散安定性の評価を行った。その結果を、表5に合わせて示す。
【0040】
表5に示すように、従来のソフトカプセルで多用されているサフラワー油を分散媒とした組成物R3では、ブルーベリー粉末の含有率を50.0質量%とすると、粘度が著しく高くなり、カプセル皮膜への充填性は不良であった。これに対し、本実施形態の組成物S3−1〜S3−5は、何れも実用的な充填性を備えていると共に、分散安定性も良好であった。そのうち、構成脂肪酸に占める炭素数8の脂肪酸と炭素数10の脂肪酸との和の割合が98質量%以上であり、且つ、炭素数8の脂肪酸の割合が66質量%以上である組成物S3−1〜S3−4は、充填性が極めて良好であった。
【0041】
この結果は、ローヤルゼリー粉末を粉末状物質とした組成物R1、及びS1−1〜S1−6による上記の検討結果と、同一の傾向を示している。従って、粉末状物質の相違によって含有させられる割合は異なるとしても、分散媒として構成脂肪酸に占める炭素数8の脂肪酸と炭素数10の脂肪酸との和の割合が70質量%〜100質量%である油脂を使用することにより、サフラワー油など長鎖脂肪酸を構成脂肪酸とする油脂を分散媒とした従来の充填用組成物より、難油溶性の粉末状物質を多く含有させても、実用的な充填性を備えると共に分散安定性も良好な充填用組成物とすることができること、及び、構成脂肪酸に占める炭素数8の脂肪酸と炭素数10の脂肪酸との和の割合が98質量%以上であり、且つ、炭素数8の脂肪酸の割合が66質量%以上である油脂を使用することにより、充填性が極めて良好な充填用組成物とすることができることは、粉末状物質の相違によらない共通の傾向であると考えられた。
【0042】
次に、ブルーベリー粉末の含有率をどこまで高めることができるかを、表6に示す組成の組成物S4−1〜S4−4を用いて検討した。分散媒としては、組成物S1−3、及び、S2−1〜S2−4と同一の油脂を使用した。また、上記と同一の乳化剤及び安定化剤を同一の割合(質量%)で添加した。なお、組成物S4−1からS4−4までブルーベリー粉末の含有率を高めており、これに伴い油脂の含有率を低下させている。
【0043】
【表6】
【0044】
調製した組成物S4−1〜S4−4について、上記と同様の方法で、充填性、及び、分散安定性の評価を行った。その結果を、表6に合わせて示す。
【0045】
表6に示すように、ブルーベリー粉末の含有率が64.5質量%を越える組成物S4−4は粘度が高過ぎ、カプセル充填用組成物として適していなかったものの、組成物S4−1〜S4−3は何れも充填性、分散安定性ともに良好であり、ブルーベリー粉末の含有率を62.5質量%まで高めることが可能であった。この含有率は、ブルーベリー粉末のかさ比重がかなり小さいこと、サフラワー油を分散媒とした従来の充填用組成物では、50.0質量%のブルーベリー粉末を懸濁させることが不可能であった事実を考慮すると、極めて高い含有率である。
【0046】
上記のように、本実施形態のカプセル充填用組成物によれば、難油溶性の粉末状物質を、従来に比べて非常に高い含有率で、分散安定性よく懸濁させ、且つ、ソフトカプセル皮膜に充填性よく充填できるカプセル充填用組成物を提供することができる。
【0047】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0048】
例えば、上記の実施形態では、充填用組成物をソフトカプセル皮膜に充填する場合を例示したが、これに限定されず、ハードカプセル皮膜に充填しても構わない。また、カプセル皮膜の基剤は特に限定されず、ゼラチンを基剤とするものの他、本出願人を含め種々提案されている、非ゼラチンの基剤を使用したカプセル皮膜に、本発明の充填用組成物を充填することができる。