(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係る機械加工工具
及び機械加工方法について添付図面を参照して説明する。
【0011】
(構成および機能)
図1は本発明の実施形態に係る機械加工工具の構成を示す縦断面図である。また、
図2は
図1に示す機械加工工具1の左側面図である。
【0012】
機械加工工具1は、加工部2及びシャンク部3を有する。加工部2は硬質砥粒4を中空ではない柱状に固めることによって構成される。
図1及び
図2は、加工部2を中実の円柱状に構成した例を示す。硬質砥粒4としては、ダイヤモンド砥粒、CBN砥粒、酸化アルミニウム(Al
2O
3)を主体とするアルミナ系のA砥粒、炭化ケイ素SiCを主体とするC砥粒の他、タングステンカーバイド砥粒、柘榴石(ガーネット又は紅榴石とも呼ばれる)砥粒等の硬度が大きい無機材料の砥粒が挙げられる。
【0013】
硬質砥粒4を固める方法としては、熱硬化性樹脂を含むバインダー材に硬質砥粒4を混ぜて加熱することによって硬質砥粒4を焼き固める方法やニッケル等の熔融金属に砥粒を含有させて電流を流すことにより、硬質砥粒4を熔融金属に電着させる方法が挙げられる。尚、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂やガラス系樹脂等の樹脂が挙げられる。但し、他の公知の方法によって硬質砥粒4を固めるようにしてもよい。
【0014】
また、シャンク部3は加工部2に接続される。すなわち、固められた硬質砥粒4にシャンクを接続することによって機械加工工具1を製造することができる。シャンク部3の材料としては、工具ホルダにより保持することが可能な材料であれば任意の材料を用いることができる。典型的には、スチール等の金属によりシャンク部3が構成される。また、シャンク部3の形状は
図1に示すように通常円柱状とされる。
【0015】
更に、加工部2には、硬質砥粒4を補強するための金属の補強部材5を設けることができる。
図1は、硬質砥粒4を覆うための両端が開口する筒状の金属を補強部材5として加工部2に設けた例を示している。補強部材5の材料としてはスチール等の金属を用いることができる。
【0016】
そして、機械加工工具1は、シャンク部3とともに加工部2を回転させながら加工対象品に接触させ、硬質砥粒4を擦り減らしながら加工対象品を加工するように構成される
【0017】
(作用)
次に機械加工工具1の作用について説明する。
【0018】
図1及び
図2に示す機械加工工具1を穿孔盤、中ぐり盤、フライス盤、マイニングセンタ等の工作機械で使用することができる。すなわち、工作機械のホルダに機械加工工具1を取付けて使用することができる。
【0019】
具体的には、加工部2の硬質砥粒4を回転させながら加工対象品に接触させ、硬質砥粒4を擦り減らしながら加工対象品を削り取って加工することができる。特に、超硬合金、セラミックス、サーメット及びこれらを混合させた混合物等の加工が困難な材料であっても良好に加工することができる。また、近年注目されている炭素繊維強化炭素複合材(C/Cコンポジット: Carbon/Carbon Composites)、セラミック基複合材料(CMC: Ceramic Matrix Composite)及びカーボン・金属複合新素材(C/CMC: Carbon Carbon Metal Composite)等の難削材料であっても加工対象となり得る。
【0020】
ところで、研磨は、遊離した砥粒を用いて加工対象となる表面を磨くことによって表面粗さを向上させる加工と解することができる。一方、研削は、多刃を構成する固定砥粒を用いて加工対象となる表面を物理的に落として形を変え、所定の寸法の形状を得る加工と解することができる。また、切削は、単刃で材料を削る加工と解することができる。
【0021】
従って、機械加工工具1は、砥粒を用いて加工対象品を削り取るという観点から研削工具に分類することができる。但し、機械加工工具1は、硬質砥粒4が遊離しながら加工対象品を削り取るという点において従来の研削工具とは異なる。また、従来の研削加工は、対象表面の仕上げ加工を主目的とする加工である。これに対し、機械加工工具1によれば、回転速度及び送りを調整することによって、穿孔、バリ取り、面取り、フライス加工の粗加工、フライス加工の仕上げ加工等の様々な加工が可能である。
【0022】
従って、機械加工工具1による加工は、新規な加工法による加工と考えることができる。このような理由から、ここでは機械加工工具1による加工を単に加工又は機械加工と称している。以下、同様である。
【0023】
図3は、
図1に示す補強部材5の役割を説明する図である。
【0024】
上述したように機械加工工具1を回転方向Dに回転させることにより加工対象品10に対する穿孔やフライス加工等の加工を行うことができる。従って、機械加工工具1には、回転中にスラスト方向Tへの負荷がかかることになる。このため、圧縮、ねじれ、曲げ等の応力や力が加工部2に作用する。そこで、良好なじん性を有する金属で構成される補強部材5によって、硬質砥粒4の破損や崩れを防止することができる。
【0025】
図1に示す補強部材5は、硬質砥粒4の外表面を覆う筒状の金属である。従って、
図3に示すように補強部材5により特に硬質砥粒4の工具軸に垂直な方向への変形や崩れを抑止することができる。
【0026】
硬質砥粒4よりも硬度が小さい補強部材5は、加工対象品10を加工する際に加工対象品10との接触によって硬質砥粒4とともに擦り減ることとなる。但し、加工対象品10を削り取る主体は加工部2の硬質砥粒4である。従って、補強部材5は、硬質砥粒4の破損や崩れを抑止しつつ、加工対象品10や硬質砥粒4との摩擦によって容易に擦り減ることが望まれる。
【0027】
そこで、補強部材5となる金属の厚さを0.1mmから1mm程度の厚さとし、加工対象品10との摩擦によって補強部材5が容易に擦り減るようにすることが好適である。すなわち、加工対象品10と補強部材5との接触面積を小さくすることによって、補強部材5の摩耗を促進することができる。
【0028】
以上のような機械加工工具1は、工具の摩耗を低減させるという従来の発想を転換し、硬質砥粒4を多刃として、加工主体となる硬質砥粒4を擦り減らしながら加工対象品10を機械加工するようにしたものである。
【0029】
(効果)
このため、機械加工工具1によれば、超硬合金やセラミックス等の加工が困難な材料を良好に機械加工することができる。例えば、機械加工工具1を超難削材用の穿孔工具、エンドミル、バリ取り工具、面取り工具等の工具として使用することができる。
【0030】
(変形例)
(第1の変形例)
図4は、
図1に示す補強部材5を構成する金属の厚さ方向に複数の孔を設けた例を示す図である。
【0031】
図4は、円筒状の金属で構成される補強部材5を展開した図を示している。
図4に示すように、補強部材5には、板厚方向に多数の孔20を設けることができる。
図4は、2次元状に多数の孔20を配置した例を示している。特に、
図4に示す例では、孔20が規則的に配置されている。すなわち、スラスト方向Tに均等間隔の孔20の列が直線状に形成されている。更に、各孔20の中心位置は、機械加工工具1の回転方向Dに隣接する孔20の中心位置からスラスト方向Tにシフトしている。
【0032】
この結果、補強部材5の先端は、
図4の下部に示すように凹凸を有する形状となる。従って、補強部材5は、加工対象品10と断続的に接触する。すなわち、補強部材5を構成する金属の、加工対象品10に接触する部分の面積が小さくなる。これにより、補強部材5の円周方向における強度が低減される。従って、機械加工工具1を回転方向Dに回転させた場合に積極的に補強部材5を摩耗させることができる。
【0033】
一方、補強部材5を構成する金属は、筒状に閉じた曲面を形成している。すなわち補強部材5には加工対象品10に接触させる部分及びシャンク部3と接続する部分を除いて端部が存在しない。従って、補強部材5の直径方向における強度は維持される。この結果、補強部材5により加工部2の工具径方向におけるじん性を維持しつつ、加工対象品10に接触する補強部材5の部分を容易に擦り減らすことが可能となる。
【0034】
特に、
図4に示すように、補強部材5に孔20を規則的に設けることによって、補強部材5を均一に擦り減らすことができる。また、孔20の数を多くすることによって一層効果的に補強部材5を摩耗させることができる。
【0035】
尚、
図4に示す例の他、三角形状や四角形状等の任意の形状の打ち抜きを補強部材5に複数の孔20として設けてもよい。
【0036】
(第2の変形例)
図5は、
図1に示す補強部材5の構造例を示す図である。
【0037】
補強部材5は、
図1に例示した構造に限らず様々な構造とすることができる。
図5は、スラスト方向Tから見た補強部材5の断面形状のバリエーションを示している。
【0038】
例えば(A)に示すように、柱状の硬質砥粒4の外表面を保護する補強部材5に加え、硬質砥粒4の内部にも円筒状の補強部材5を設けることができる。(A)に示す補強部材5を設ければ、硬質砥粒4の補強効果を向上させることができる。このため、
図4に示すように補強部材5に孔20を設けることによって補強部材5の単位面積当たりの強度が低下しても、硬質砥粒4の補強効果を良好に維持することができる。
【0039】
また、補強部材5は、厚さ方向と回転方向Dとのなす角度が0度に近づく程、摩耗し易くなる。そこで、(B)に示すように、加工部2の直径方向を幅方向とする平板状の金属を、硬質砥粒4の内部における補強部材5として加工部2に設けることもできる。(B)は、複数の平板状の金属を放射状に配置した例を示している。(B)に示す補強部材5を設ければ、摩耗効果を良好にしつつ硬質砥粒4の補強効果を向上させることができる。
【0040】
同様に、(C)に示すように横断面が格子状となる金属を、硬質砥粒4の内部における補強部材5として加工部2に設けることもできる。この他、ハニカム状の金属を補強部材5として加工部2に設けるようにしてもよい。
【0041】
一方、(D), (E)及び(F)に示すように、硬質砥粒4の外表面に補強部材5を設けずに、硬質砥粒4の内部にのみ補強部材5を設けることもできる。(D), (E)及び(F)に示すように硬質砥粒4の内部にのみ補強部材5を設ければ、加工部2の強度及びじん性を向上させつつ硬質砥粒4の側面を用いた加工対象品10の機械加工が可能となる。また、
図1又は
図5の(A)に示すような硬質砥粒4の外表面をカバーする補強部材5の更に外表面に硬質砥粒4を固着することによっても同様な効果が得られる。
【0042】
上述の例の他、(G), (H)及び(I)に示すように、横断面が単一又は複数の多角形、線分、円等の曲線又はこれらの組合せとなるように補強部材5の構造を機械加工工具1の用途に応じて適切に決定することができる。
【0043】
このように、補強部材5は、硬質砥粒4を覆う筒状の金属及び長手方向を加工部2の軸方向に向けて硬質砥粒4内部に設けられる板状の金属の少なくとも一方で構成することができる。また、硬質砥粒4内外の補強部材5に、厚さ方向に
図4に示すような孔20を設けることによって、補強部材5の摩耗を促進することができる。
【0044】
(第3の変形例)
また、加工部2の形状を完全な柱状とせずに、機械加工工具1の用途に応じた適切な形状とすることができる。例えば、加工対象品10に接触させる加工部2の部分の形状を平面とせずに、機械加工工具1の用途に応じた適切な形状とすることができる。
【0045】
図6は、
図1に示す加工部2の先端を錐体形状とし、機械加工工具1を穿孔工具として構成した例を示す図である。
【0046】
図6(A)に示すように、加工部2の先端における形状を円錐状にすることができる。これにより、加工部2に芯出し機能を設けることができる。従って、機械加工工具1を穿孔工具として用いる場合において、加工部2の振れを低減させることができる。そして、良好な精度で孔を加工することができる。
【0047】
一方、
図6(B)に示すように、加工部2の先端における形状を円錐状に凹む形状とすることもできる。この場合においても、加工部2の先端が加工対象品10と面接触しないため、加工部2の振れを低減させることができる。加えて、硬質砥粒4が擦り減ったとしても、所定の直径を有する孔が得られる。従って、寸法精度を重視した穿孔加工が可能である。
【0048】
また、加工部2の先端部に限らず加工部2全体の形状を機械加工工具1の用途に応じた適切な形状とすることもできる。例えば、機械加工工具1を穿孔工具として用いる場合において、加工部2にバックテーパを設けることができる。これにより、加工部2の側面が加工対象品10に広範囲に接触することを回避することができる。
【0049】
特に硬質砥粒4が次第に擦り減るため、加工部2の直径の変化を考慮したバックテーパを設けることが望ましい。従って、通常の穿孔工具に設けられるバックテーパよりも傾斜角度が大きいバックテーパを加工部2に設けることが好適となる。
【0050】
この他、バリ取り、面取り或いは逆面取り用の工具として加工部2の形状を様々な形状にすることができる。
【0051】
更に、柱状の硬質砥粒4に切削油を供給するための油穴(オイルホール)を設けることもできる。これにより、切削油の供給によって、排熱を促進するとともに、脱落した硬質砥粒4及び加工対象品10を円滑に加工部から排除することができる。尚、切削油を供給するための油穴の直径は、加工部2の直径と比較すると十分に小さい。従って、油穴の存在による加工性への影響は無視でき、油穴を設けた硬質砥粒4は、実質的に中空ではない柱状と同視することができる。換言すれば、加工に寄与する硬質砥粒4の部分は、中空ではない柱状であると見做すことができる。
【0052】
但し、バリ取りや穴の直径の拡張等の加工目的に応じて、硬質砥粒4を中空の柱状に固めることによって加工部2を構成することもできる。
【0053】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。