(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
成分(a−1)のスルホン酸基と重合性ビニル基を有するモノマーが、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸、2−ソジウムスルホエチル(メタ)アクリレートおよび2−スルホエチル(メタ)アクリレートよりなる群から選ばれたものである請求項1記載の複合導電性高分子溶液。
成分(a−3)の芳香族基または脂環族基と重合性ビニル基を有するモノマーが、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリル酸安息香酸エステル、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、o−フェニルフェノールグリシジルエーテル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ビニルピリジンおよび(メタ)アクリロイルモルホリンよりなる群から選ばれたものである請求項1または2記載の複合導電性高分子溶液。
【背景技術】
【0002】
π共役系高分子における高い導電性付与にはドーパントによるドーピングが必須である。しかし、本来π共役が発達した高分子は、高分子鎖の平面性が高く、π結合の親和力による高分子鎖間の結晶性(スタッキング性)が高い構造となっている。しかも、ドーパントにより、ドーピングされたπ共役系高分子は、更に平面性およびπ共役による親和力が高くなり、スタッキング性が更に顕著となる。このため、π共役系高分子の溶解(熱または溶剤による)と電気伝導度の両立は難しい課題であった。
【0003】
そこで、π共役系高分子の側鎖へアルキル基やアルコキシル基等を導入した高分子が提案されているが(特許文献1)、実際に十分導電体と言える10のマイナス5乗s・m以下まで電気伝導度を上げるためには、ドーピングが必要となる。そして、このドーピングを行うと、この結果として、導電性高分子の平面性発達とπ共役親和性の発達により、十分な溶剤可溶性が得られなくなってしまうという問題があった。
【0004】
導電性高分子の利用を考えた場合、取り扱いの容易さからは、溶剤による溶解や、熱による溶融が可能で、且つ成型成膜後は十分な電気伝導度を有する自立膜や自立形成体が得られることが望まれており、従来、これら導電性ポリマーの使用の際には、直接導電性を付与したい基体上で電解重合や蒸気暴露、酸化剤と導電性ポリマー前躯体モノマー溶液に浸漬後加熱等による薄膜重合を行い、その後ドーピングする等の処理を行っている。
【0005】
しかしこの場合、電解重合では基体が半導体若しくは導電体である必要が有り、また、電解液への耐腐食性も求められる為、使用される基体が制限される。また、直接蒸気による薄膜重合では、重合場となる薄膜に酸化剤を均質に存在させる必要があり、成膜制御の面では十分と言えず、また、これら手法で用いられるポリマーコンデンサー用途では、表面積を大きくする為に微細な凹凸を形成しており、十分均質な表面への導電性ポリマー形成は困難であった。
【0006】
そこで、導電性ポリマーを有機溶媒に溶解させる試みがなされ、そのための手段がいくつか提案されている。特許文献2には、3,4−ジ置換チオフェンを無機第2鉄塩類および酸化剤を用いて重合させるポリ(3,4ージ置換チオフェン)の製造法が開示されており、また、特許文献3には、主に繰り返しチオフェン単位を有するポリマーTおよび少なくとも1個の他のポリアニオンポリマーPを有する水分散性粉末が開示されている。しかし、特許文献2の方法は、粉末物を得る手法若しくは直接対象被着体表面で酸化重合する方法であって、本手法では得られた重合物を溶剤若しくは水等へ溶解させることは不可能であり、また特許文献3のものも、水分散性良好な分散体でしかなく、有機溶剤に対し分子可溶するようなものではない。
【0007】
また、より直接的な溶剤ナノ分散化の手段として各種検討がされており、特許文献4では、本質的に溶剤に可溶しないポリアニリンを、ナノサイズレベルまで粉砕微粉化しポリアニリンおよび溶剤に親和性の高いSDS(ドデシルベンゼンスルホン酸)やPTS(パラトルエンスルホン酸)等のスルホン酸アニオン乳化剤を分散剤として用いながら溶剤に共分散させ、ナノレベルでの微分散体溶液の提供を開示しているが、実質的に溶剤に可溶している訳ではないので、塗工膜の表面は凸凹としており、また、ポリアニリンのみでの自立膜(均質膜ともいう。単独でピンホールなどを生じずに膜化したものを意味する)とすることは出来ないため、バインダーなどと組み合わせない限りコーティング後に成膜化させることは不可能である。
【0008】
更に、特許文献5には、疎水性の大きなアニオン性界面活性剤の存在下において、アニリン、もしくはアニリン誘導体を、有機酸や無機酸を含む溶媒中で酸化重合して析出、単離、精製した後、水と混和しない有機溶媒で抽出して有機溶液を形成することが開示されている。
【0009】
この特許文献で使用されている乳化剤は低分子スルホン酸系であり、重合前にアニリンを塩酸塩化し、その後スルホン酸系乳化剤によりアニリン塩置換を行っているが、実際には十分な塩交換は起こり難く、また、本特許文献の合成法により得られるポリアニリンは実際には溶剤に溶解せず、微分散状態の溶剤分散液しか得られないという問題がある。更には、用いる界面活性剤の疎水性を大きくしている為に、得られたポリアニリンは、水素結合性の強いアルコールやケトン類の極性溶媒に対して溶解や安定な微分散を示さず、これら極性溶剤類に対してはポリアニリンの結晶性を促進させてしまう。
【0010】
また更に特許文献6では、(A)スルホン酸官能基とラジカル重合性官能基とを有するモノマーおよび(B)アニリンまたはその誘導体からなるモノマーを水もしくは有機溶剤に溶解した溶液を乳化し、(B)のモノマー中に(A)のモノマーに由来するスルホン酸構造を導入した後、重合開始剤下記の共存下に(A)および(B)のモノマーを重合して、(B)の重合体と(A)の重合体とが絡み合った状態の導電性ポリマーを作製する方法が開示されている。
【0011】
しかし、この特許文献の方法では、水系酸化剤兼ラジカル開始剤として過硫酸アンモニウム塩を使用している為、実際には本明細に書かれているような理想的なビニル系ポリマーとポリアニリンの相互網目状構造は困難である。従って、この特許文献方法では、実際には、PANIを含まないビニルポリマーが相当数存在したり、逆にビニルポリマーに取り込まれないドープモノマーがPANI中で存在したりして、非常に不均一且つ不安定な物となるという問題がある。
【0012】
また、特許文献7には、実質的に水と混和しない有機溶剤に溶解している、(a)プロトネーションされた置換または未置換ポリアニリン複合体、および(b)フェノール性水酸基を有する化合物を含む導電性ポリアニリン組成物が開示されている。
【0013】
しかしこの特許文献では、溶剤/水/モノマー/乳化剤の重合場において、水溶性酸化剤を用いてポリアニリンの合成を行っている為、本質的には水溶アニリンモノマーが重合しながら乳化剤を介してトルエンに分散する系でポリアニリンとなり、実質トルエン以外に水に対して幾分溶解するような溶剤への展開は不可能であり、特にアルコールもしくはケトン類の溶剤を用いた場合、導電性ポリマー重合場における酸化剤のレドックスポテンシャルが著しく変化し、十分なポリアニリンの重合度を得られないだけでなくポリアニリンへのドーパントの挿入が起こらないため、得られたポリアニリンは十分な電気特性を示さず、また、収率として著しく低くなってしまう。このことは本発明者らの追試で確認がされている。また、本特許文献の発明で、実際に使用しているジイソオクチルスルホコハク酸ナトリウム(AOT)では、ポリアニリンのスタッキングを十分に抑制することが出来ない為、フェノール類(クレゾール)等の併用が必須となっている。これは、明細書の記載は十分ではないが非特許文献1に記載されている技術であり、ポリアニリン被膜中におけるドナー強度の調整により、フェノール性化合物の親和性が顕著にあり、ポリアニリン被膜における導電性向上に有用であると開示されている。これは、つまりフェノール類の様にトルエンに対し溶解性が良好でポリアニリンへの相溶性が良好な不揮発性添加剤を混合することで、乾燥塗膜の導電性を向上させるだけでなく、トルエン可溶中のポリアニリン同士のスタックをフェノール類が抑制していると考えられ、これら添加剤が無い場合はAOTのような立体障害性でのポリアニリンの結晶性制御では十分な可溶性の安定化が不可能であり、更には、アルコールもしくはケトン系溶剤中においては、ポリアニリンとフェノール性化合物が、むしろ局在化することにより、微凝集化してしまい最終的には完全に溶剤から分離沈降してしまう。これらも本発明者らの追試でも確認されている。
【0014】
最も合理的な手法として特許文献5では、分子量2,000〜500,000の範囲の分子量を有する、ポリスチレンスルホン酸のポリ陰イオンの存在下で酸化化学重合されたポリチオフェンと、分子量2,000〜500,000の、ポリスチレンスルホン酸由来のポリ陰イオンを水または水と水混和性有機溶媒の混合溶媒中に含んでなるポリチオフェンの溶液が開示されている。
【0015】
この特許文献は、ポリスチレンスルホン酸(PSS)と酸化剤共存下での酸化重合で、水またはアルコール溶剤へ溶解または分散可能なポリ(エチレンジオキサイド置換チオフェン)(PEDOT)の製造法の提案であるが、ここで得られるPEDOT/PSSは水に分散はされているが、完全な溶解はされておらず、部分的なPEDOT間のスタッキングを抑えることは難しく、導電性ポリマーを溶解するには不十分なものであった。また、用いたポリスチレンスルホン酸の構造では、イオン解離能を有す水や極性溶媒への相溶性を示すことは可能であるが、ポリチオフェンの結晶性を制御する為にはポリスチレンスルホン酸のみ構造では極めて困難であり、更には、実質的に水分を含まないケトン類に対しては溶解性および相溶性を有す骨格を付帯しない限り溶解させることは極めて困難である。
【0016】
一方、導電性ポリマー組成物を用いた用途として、色素増感型太陽電池用対極や帯電防止フィルムがある。特許文献9には、透明導電層を設けられたプラスチックフィルムに導電性高分子層を設けてなる色素増感型太陽電池の対極が開示されている。
【0017】
しかし、この特許文献では、導電性高分子を含む分散液を塗布し、溶媒を除去して導電性高分子層を形成しているが、導電性高分子は微粒子の分散膜であるため、透明導電層に対する密着性が悪く、予めプラズマ処理などを行い透明導電層の表面エネルギーを高める必要がある。また、この特許文献の実施例において、分散剤にポリスチレンスルホン酸を用いていることが記載されているが、この場合は導電性高分子のドープに寄与しないフリーのスルホン酸が存在することとなり、溶媒は水溶液となる為にフィルム基板上に塗工する場合に溶媒とフィルム基板表面の選択性が非常に大きく、導電性高分子塗膜の不均一性に由来するピンホールが発生し易いこと、残存スルホン酸基により塗膜の極性が高いことから電解質溶液で一般的に使用されるアセトニトリルやイオン性液体等への耐久性が悪く塗膜の剥がれが発生し易いこと、等を原因として透明導電膜が電解液中のヨウ素により腐食される問題が挙げられることから、対極としての長期的な安定性に問題があることで白金対極を置き換えるには不十分であった。
【0018】
また、特許文献10には、ポリチオフェン系化合物、酸性ポリマーおよび糖アルコールを含有する帯電防止材料を熱可塑性樹脂フィルムに塗布した帯電防止フィルムが開示されている。
【0019】
しかし、この特許文献では、帯電防止材料として糖アルコールを必須成分とすることにより、得られる帯電防止フィルムの透明性や帯電防止性は良好であるが、ポリチオフェン系化合物へのドーピング剤としてポリスチレンスルホン酸などの酸性ポリマーのみを使用しているため、帯電防止膜が経時で吸湿することによって、密着性および帯電防止性が低下する問題がある。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明において使用される高分子化合物(A)は、常法に従って成分(a−1)のスルホン酸基と重合性ビニル基を有するモノマー、成分(a−2)の親水性基と重合性ビニル基を有する極性モノマーおよび成分(a−3)の芳香族基または脂環族基と重合性ビニル基を有するモノマーを、重合開始剤の存在下で重合させることにより製造される。
【0033】
成分(a−1)のスルホン酸基と重合性ビニル基を有するモノマーは、スチレンスルホン酸基や、スルホエチル基等のスルホン酸基を有するモノマーであり、この例としては、スチレンスルホン酸やスチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸カリウム、スチレンスルホン酸カルシウム等のスチレンスルホン酸塩、(メタ)アクリル酸エチル2−スルホン酸や、(メタ)アクリル酸エチル2−スルホン酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸エチル2−スルホン酸カリウム、(メタ)アクリル酸エチル2−スルホン酸カルシウム等の(メタ)アクリル酸エチル2−スルホン酸塩が挙げられる。
【0034】
また、成分(a−2)の親水性基と重合性ビニル基を有する極性モノマーは、室温でのpH7.0の蒸留水に対し0.1mmol/lで溶解させたときに、その溶液のpHが5.5を超え8.0未満(5.5<pH<8.0)を示すことが可能なものであり、その具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸、(無水)マレイン酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート等が挙げられる。
【0035】
更に、成分(a−3)の芳香族基または脂環族基と重合性ビニル基を有するモノマーの例としては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸エチル2−フタル酸メチルエステル、(メタ)アクリル酸エチル2−フタル酸エチルエステル、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート
、(メタ)アクリレートモルホリン、スチレン、ジメチルスチレン、ナフタレン(メタ)アクリレート、ビニルナフタレン、N−ビニルカルバゾール、ビニルn−エチルカルバゾール、ビニルフルオレン等が挙げられる。
【0036】
本発明で用いる高分子化合物(A)の製造に当たっては、モノマー(a−1)、モノマー(a−2)およびモノマー(a−3)のモル比が重要である。すなわち、本発明の高分子化合物は、芳香族基または脂環族基による疎水性と、スルホン酸基および親水性基による親水性を適宜バランスさせることにより、導電性高分子組成物に作用し、これを溶剤中に溶解可能とするためである。
【0037】
本発明の高分子化合物(A)を製造するための、成分(a−1)の配合量は、20〜60mol%であり、好ましくは、25〜50mol%である。また、成分(a−2)の配合量は、20〜60mol%であり、好ましくは、25〜55mol%である。更に、成分(a−3)の配合量は、20〜35mol%であり、好ましくは、25〜30mol%である。
【0038】
本発明の高分子化合物には、上記モノマー(a−1)、(a−2)および(a−3)以外の重合性成分を含有させることもできる。この重合性成分の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、nープロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、テトラフルフリル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、ビニルピリジン、(メタ)アクリロイルモルホリン等が挙げられ、配合させる場合の配合量は、0〜20mol%程度である。
【0039】
上記成分(a−1)、成分(a−2)、成分(a−3)および必要により加える重合性成分の重合反応は、公知の方法で行うことができる。例えば、これら各成分を混合した後、これに重合開始剤を添加し、加熱、光照射等により重合を開始することで製造することができる。
【0040】
上記高分子化合物(A)を製造するために採用可能な重合法は、モノマー混合物から成分(a−3)が分離状態とならない状態で実施可能な方法であれば特に限定されず、例えば、溶液重合法、塊状(バルク)重合法、析出重合法等が採用される。
【0041】
また、重合反応に使用される重合開始剤は、上記各成分や、反応時に使用する溶媒に溶解可能なものであれば、特に限定されるものではない。この重合開始剤の例としては、過酸化ベンゾイル(BPO)等の油溶性過酸化物系熱重合開始剤、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等の油溶性アゾ系熱重合開始剤、アゾビスシアノ吉草酸(ACVA)等の水溶性アゾ系熱重合開始剤等が挙げられる。また、溶液重合の溶媒中の水割合が多い場合は、過硫酸アンモニウムや過硫酸カリウム等の水溶性過酸化物系熱重合開始剤、過酸化水素水等も使用することができる。さらに、フェロセンやアミン類等のレドックス剤の組み合わせも可能である。
【0042】
これらの重合開始剤の使用範囲は、上記化合物1モルに対し0.001〜0.1モルの範囲で任意に使用することができ、一括投入、滴下投入、逐次投入のいずれの方法も利用できる。また、塊状重合や少量(モノマーに対して50wt%以下)の溶剤を使用した溶液重合の場合は、メルカプタンとメタロセンの組み合わせによる重合方法(特許文献8)も可能である。
【0043】
更に、上記重合反応に用いる溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル等のグリコール系溶剤、乳酸メチル、乳酸エチル等の乳酸系溶剤等を挙げることができる。
【0044】
更にまた、重合時には重合開始剤以外にも連鎖移動剤を併用しても良く、分子量を調整したい場合は、適宜使用可能である。使用できる連鎖移動剤としては、上記モノマーや溶剤に溶解する物であれば何れの化合物も使用可能であり、例えば、ドデシルメルカプタンやヘプチルメルカプタン等のアルキルチオール、メルカプトプロピオン酸(BMPA)の様な極性基を有する水溶性チオール、αスチレンダイマー(ASD)等の油性ラジカル抑止剤等も適宜使用可能である。
【0045】
また更に、この重合反応は、使用する溶剤(バルク重合の場合を除く)の沸点以下で行うのが好ましく、例えば、65℃〜80℃程度が好ましい。但し、バルク重合やメルカプタンとメタロセンで行う特許文献9の様な重合を行う際は、25℃〜80℃で行うことが好ましい。
【0046】
かくして得られる重合物は、必要により精製し、高分子化合物(A)とすることができる。この精製方法の例としては、単純に重合溶媒に析出する導電性高分子重合体を濾別し、イオン交換水により数回洗浄し水系不純物を取り除き、その後ヘキサン等の油性貧溶媒を使用し、油性低分子不純物および残存モノマー、低分子不純物を取り除く方法が挙げられる。また、精製方法の別の例としては 高分子化合物(A)の重合後に重合場へアセトニトリル等のイオン解離性水性溶媒の添加により重合媒のイオン解離定数を調整したり、飽和食塩水などの添加で重合溶媒中のイオン濃度を増加させたり、または塩酸水等のプロトン放出性の酸性水溶液の添加により重合媒のpHを調整することにより、重合終了後の重合溶媒から導電性高分子を析出させ、これにヘキサンなどの油性貧溶媒を添加し分液抽出することにより油性低分子不純物および残存モノマー、低分子不純物を取り除き、その後、イオン交換水により水系不純物、残存物を取り除く方法を挙げることができる。
【0047】
このように精製することが好ましい理由は、高分子化合物(A)は、導電性高分子組成物中へドープ剤として導入され、スタック抑止剤、かつ溶剤可溶剤として作用するため、重合後の残存物としてそれ以外の重合開始剤残物、モノマー、オリゴマー、不均一組成物等が残存すると導電性高分子組成物の機能低下が問題となるので、これらを除去する必要が有るのである。そして、このように精製する結果、特許文献7の様な不均一なラジカル重合物が混在せず、均一な導電性高分子組成物の組成と高分子化合物(A)の組成が一様に相溶化したような可溶状態を発現できるのである。
【0048】
以上のようにして得られる高分子化合物(A)は、そのGPC換算重量平均分子量が、3,000〜150,000であることが好ましい。重量平均分子量が3,000に満たない場合は、高分子化合物としての機能が不十分である。逆に15万を超えると、導電性ポリマー合成時の重合場(酸性水溶液)への溶解性が十分でない場合があり、また、高分子化合物自身の溶剤溶解性が悪くなり、導電性ポリマーの可溶化性に著しく悪い影響を与えることがある。
【0049】
本発明の複合導電性高分子組成物は、上記のようにして得られた高分子化合物(A)を用い、次のようにして製造される。すなわち、上記高分子化合物(A)を電解性基質溶媒に溶解し、次いでこの溶液中に、π共役系高分子(β)の原料となる前記式(I)ないし(III)で表される化合物を添加し、更にこれを酸化剤により酸化することにより、前記式(I)ないし(III)で表される化合物をモノマー構成成分とするπ共役系高分子(β)に前記高分子化合物(A)がドーピングされた、複合導電性高分子組成物を得ることができる。
【0050】
原料である化合物のうち、式(I)で表される化合物は、置換基が水素原子またはアルキル基であるアニリンである。この化合物の具体例としては、アニリン、o−トルイジン、m−トルイジン、3,5−ジメチルアニリン、2,3−ジメチルアニリン、2,5−ジメチルアニリン、2,6−ジメチルアニリン、2−エチルアニリン、3−エチルアニリン、2−イソプロピルアニリン、3−イソプロピルアニリン、2−メチル−6−エチルアニリン、2−n−プロピルアニリン、2−メチル−5−イソプロピルアニリン、2−ブチルアニリン、3−ブチルアニリン、5,6,7,8−テトラヒドロ−1−ナフチルアミン、2,6−ジエチルアニリン等を挙げることができる。
【0051】
また、式(II)で表される化合物は、置換基が水素またはアルキル基のチオフェンであり、その具体例としては、チオフェン、3−メチルチオフェン、3−エチルチオフェン、3−プロピルチオフェン、3−ブチルチオフェン、3−ペンチルチオフェン、3−ヘキシルチオフェン、3−ヘプチルチオフェン、3−n−オクチルチオフェン等を挙げることができる。
【0052】
更に、式(III)で表される化合物は、置換基が水素またはアルキル基のピロールであり、その具体例としては、ピロール、3−メチルピロール、3−ヘプチルピロール、3−n−オクチルピロール等を挙げることができる。
【0053】
本発明方法により複合導電性高分子組成物を製造する具体的方法の一例としては、まず、電解性基質溶媒としてのイオン交換水を、必要により酸性とした後、この中に、前記のようにして得た高分子化合物(A)を添加し、次いでこの中に原料である式(I)ないし(III)の化合物の1種または2種以上を加え、更に酸化剤を加えて酸化重合させる方法を挙げることができる。なお、高分子化合物(A)のイオン交換水への溶解性により、適宜アセトン、メチルエチルケトン等ケトン系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等アルコール系溶剤、アセトニトリル等の親水性の高い有機溶剤を併用しても良い。
【0054】
上記反応において電解性基質溶媒を酸性とするために使用される酸性成分としては、塩酸、硫酸、過塩素酸、過ヨウ素酸、塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)等が挙げられ、その量は、式(I)〜(III)の化合物1molに対し、0.5〜3.0mol程度とすればよい。
【0055】
また、反応に使用する酸化剤も複合導電性高分子組成物を形成する芳香族化合物(モノマー)のレドックスポテンシャルによって適宜調整が必要であるが、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、テトラフルオロホウ酸鉄(III)、ヘキサフルオロ燐酸鉄(III)、硫酸銅(II)、塩化銅(II)、テトラフルオロホウ酸銅(II)、ヘキサフルオロ燐酸銅(II)等が使用可能である。
【0056】
また、反応における高分子化合物(A)と化合物(I)ないし(III)との割合は、最終的に得られる複合導電性高分子組成物の性質にもよるため、単純に決定できるものではないが、たとえば、好ましい範囲の例は、高分子化合物(A)中のスルホン酸基の数と、使用する化合物(I)〜(III)のモル比により次のように示すことができる。
【0057】
すなわち、式(I)〜(III)から選ばれる化合物1モルに対し、高分子化合物(A)を、当該化合物中のスルホン酸基のモル比が0.2〜1.5となる量で共存せしめればよい。
【0058】
更に、酸化剤の使用量は、通常化合物(I)ないし(III)1モルに対し1.5〜2.5モル(1価換算)程度使用するが、系内の酸化度(酸性度)によっては、モノマー1モルに対し1モル以下でも十分重合は可能である。
【0059】
更にまた、複合導電性高分子組成物を得るための重合反応の温度は、酸化反応後の発熱量や水素引き抜かれ易さが化合物(I)ないし(III)の種類により異なるため、好適な温度範囲が異なる。
【0060】
一般的には、化合物(I)を利用する場合は、40℃以下が好ましく、化合物(II)の場合は、90℃以下、化合物(III)の場合は、20℃以下とすることが好ましい。
【0061】
また更に、複合導電性高分子組成物を高分子量化したい場合は、反応温度を相対的に低くし、反応時間を相対的に長めにすれば良く、低分子量化する場合は、この逆とすれば良い。
【0062】
このようにして得られた重合物は、必要により更に洗浄等を行った後、目的物である複合導電性高分子組成物とすることができる。このものは、後記するように従来の導電性高分子組成物が溶解しなかったアルコール系や、ケトン系の溶剤中で、安定に溶解するものである。
【0063】
かくして得られた本発明の複合導電性高分子組成物の利用方法の例としては、これをアルコール系や、ケトン系の溶剤中に均質状態で溶解させた複合導電性高分子組成物溶液を挙げることができる。この複合導電性高分子組成物溶液は、これを導電性皮膜の形成が求められる部分に塗布し、次いで乾燥等の手段により当該組成物中の溶剤を揮発させることにより、目的部分に均一な導電性皮膜を形成することができる。
【0064】
上記複合導電性高分子組成物溶液を調製するには、好ましくは、複合導電性高分子組成物をメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、メチルセロソル
ブ等のアルコール系溶媒や、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒に0.1〜10質量%程度で溶解させたものである。
【0065】
また、上記の複合導電性高分子組成物溶液には、更に、溶液の安定性向上および塗膜状態での導電性向上を目的として、ベンジルアルコール、フェノール、m−クレゾール、o−クレゾール、2−ナフタノール、1−ナフタノール、グアイコール、2,6−ジメチルフェノール等のヒドロキシル基を有する芳香族化合物を加えることができる。これらの化合物は、複合導電性高分子組成物溶液の溶剤量100重量部に対し、0.01〜45重量部程度加えることが好ましい。
【0066】
また、上記の複合導電性高分子組成物溶液には、更に、帯電防止塗料としての自立膜の導電性の向上および太陽電池用対極材としての触媒性能の向上を目的として、銅、銀、アルミニウム、白金等の金属、酸化チタン、酸化インジウムスズ、フッ素ドープ酸化スズ、アルミナ、シリカ等の金属酸化物、導電性ポリマー組成物、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン、カーボンブラック等の炭素粉末、または分散体をフィラー成分として含むことができる。これらの粉末または分散体は複合導電性高分子組成物溶液の固形分100重量部に対し、固形分0.01〜50重量部程度加えることが好ましい。
【0067】
さらに、上記複合導電性高分子組成物は色素増感型太陽電池用対極に用いることができる。この色素増感型太陽電池用対極は、透明性が要求される場合には透明基板の片面に上記複合導電性高分子組成物を積層する、または透明基板の一方の面に光透過性電極を配置し、その光透過性電極に上記複合導電性高分子組成物を積層することにより形成することができる。また、透明性が要求されない場合には、金属箔等に積層することで形成することができる。この複合導電性高分子組成物の厚さは通常は0.01〜100μm、好ましくは0.1〜50μmの範囲内にある。
【0068】
本発明の色素増感上記で用いる透明基板としては、光透過率が通常は50%以上、好ましくは80%以上のフィルムまたは板を使用することができる。このような透明基板の例としては、ガラス等の無機透明基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエステルスルホン、ポリアルキル(メタ)アクリレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリシクロオレフィン等の高分子透明基板等を挙げることができる。また、金属箔としては、金、白金、銀、錫、銅、アルミ、ステンレス、ニッケル等の金属箔を挙げることができる。
【0069】
これら透明基板の厚さは、無機透明基板の場合には、通常は200〜7000μmの範囲内であり、高分子透明基板の場合には、通常は20〜4000μm、好ましくは20〜2000μmの範囲内にある。金属箔基板の場合には、0.1μm〜1000μm、好ましくは1μm〜500μmの範囲内にある。この範囲内の厚さの高分子透明基板および金属箔基板は、得られる色素増感太陽電池に可撓性を付与することができる。
【0070】
また、上記透明基板の一方の面には必要に応じて光透過性電極を配置してもよい。ここで用いる光透過性電極としては、膜状導電性金属電極、メッシュ状導電性金属電極などを挙げることができる。
【0071】
上記膜状導電性金属電極は酸化錫、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)などを膜状に形成させたものである。この膜状導電性金属電極は透明基板の表面に、酸化錫、ITO、FTOなどを蒸着あるいはスパッタリングなどすることにより形成することができる。 この膜状導電性金属電極の厚さは、通常は0.01〜1μm、好ましくは0.01〜0.5μmの範囲内にある。
【0072】
一方、メッシュ状導電性金属電極は、銅、ニッケル、アルミニウムなどの導電性金属をメッシュ状に形成させたものである。具体的にメッシュ状導電性金属電極は、銅、ニッケル、アルミニウムなどの導電性金属を用いて、例えばフォトリソグラフ法により、線幅が通常は10〜70μm、好ましくは10〜20μmであり、ピッチ幅が通常は50〜300μm、好ましくは50〜200μmのメッシュとなるようにエッチングすることにより形成することができる。このときのメッシュ状導電性金属電極の導線の厚さは、使用する導電性金属の厚さと略同一になり、通常は8〜150μm、好ましくは8〜15μmの範囲内にある。 このメッシュ状導電性金属電極は、透明基板の表面に粘着剤などを用いて貼着することができる。
【0073】
上記色素増感型太陽電池用対極を製造するにあたり、複合導電性高分子組成物を上記透明基板の片面または透明基板の一方の面に配置した光透過性電極に積層する方法としては、例えば、上記透明基板の片面または透明基板の一方の面に配置した光透過性電極に上記複合導電性高分子組成物溶液を塗布し、溶液中の溶媒を除去することを1ないし複数回行う方法が挙げられる。
【0074】
上記複合導電性高分子組成物溶液の塗布は、ディップコーター、マイクロバーコーター、ロールコーター、コンマコーター、ダイコーター、グラビアコーターなど公知のコーターを適用できる。
【0075】
また、溶媒の除去は、放置による自然乾燥、熱風・赤外線による加熱条件下での強制乾燥などの方法を適用できる。
【0076】
上記色素増感型太陽電池用対極は、これに用いる上記複合導電性高分子組成物が、有機溶剤に可溶であるため、従来の複合導電性高分子組成物を水性媒体で分散された分散液に比べ、塗布工程が容易であり、生産性に優れている。また、酸性水溶液に由来する対極作製段階での金属の腐食劣化を抑制することができる。
【0077】
また、上記色素増感型太陽電池用対極は、これに用いる上記複合導電性高分子組成物が、上記成分(a−1)、成分(a−2)および成分(a−3)を所定範囲で共重合させた得られる高分子化合物(A)を用いることにより、上記透明基板や光透過性電極や金属箔に対する密着性に優れているので、長期間使用できる。
【0078】
更に、上記色素増感型太陽電池用対極は、これに用いる上記複合導電性高分子組成物が、上記成分(a−1)、成分(a−2)および成分(a−3)を所定範囲で共重合させて得られる酸性度が抑えられた高分子化合物(A)を用いることにより、光透過性電極(導電性金属)が腐食されにくくなる上、電解液に対する耐久性が向上するので、長期間使用できる。
【0079】
また更に、上記色素増感型太陽電池用対極は、従来電解液に対する耐酸化性を有する電極として用いられていた高価な白金電極に対して、均一な耐酸化性膜として導電性高分子膜が作用することで各種金属が使用可能となる為に廉価に提供できる。
【0080】
また、上記複合導電性高分子組成物を用いてなる帯電防止フィルムは、上記複合導電性高分子組成物単独で、塗工・乾燥を行い自立膜として成膜可能である為に低抵抗の帯電防止フィルムが加工できる。また、必要に応じて複合導電性高分子組成物と熱可塑性樹脂および/または熱硬化性樹脂とを混合する場合には、(1)押出機やエクストルーダーなどで溶融混練したものをTダイなどを用いて成膜する方法、(2)熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、およびガラス製のフィルムの片面または両面に上記複合導電性高分子組成物溶液を塗布し、溶液中の溶媒を除去して帯電防止層を形成する方法などによって得ることができる。
【0081】
上記帯電防止フィルムで用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリアクリロニトリルスチレン、ポリメタクリル、ポリアクリル、飽和ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ変性フェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミドなどが挙げられ、これらの熱可塑性樹脂のポリマーアロイや熱可塑性エラストマーも含まれる。
【0082】
本発明の上記帯電防止フィルムで用いられる熱硬化性樹脂としては、ポリフェノール、ポリエポキシ、不飽和ポリエステル、ポリウレタン、ポリイミド、ポリ尿素、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、アルキド樹脂などが挙げられる。
【0083】
また、上記帯電防止フィルムは、上記成分(a−1)、成分(a−2)および成分(a−3)を所定範囲で共重合させて得られる高分子化合物(A)を用いることにより、各種高湿低湿環境条件下での性能バラツキが少なく、高い透過性を有した帯電防止膜の形成が可能となる。
【実施例】
【0084】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制約されるものではない。なお、本実施例中における分子量および表面抵抗値は下記方法により測定した。
【0085】
< 分子量 >
下記条件でのGPCにより測定した。
装置名:HLC−8120(東ソー(株)製)
カラム:GF−1G7B+GF−510HQ(Asahipak:登録商標、
昭和電工(株)製)
基準物質:ポリスチレンおよびポリスチレンスルホン酸ナトリウム
サンプル濃度:1.0mg/ml
溶離液:50ミリモル塩化リチウム水溶液/CH
3CN=60/40wt
流量:0.6ml/min
カラム温度:30℃
検出器:UV254nm
【0086】
< 表面抵抗 >
(株)ダイアインスツルメンツ製の、低抵抗率計ロレスタGP、PSPタイププローブを用い、四端子四探針法により測定した。
【0087】
合 成 例 1
高分子化合物の合成(2−NaSEMA/BzMA/HEMA=40/25/35)
撹拌機、窒素ガス導入管、環流冷却器、投入口および温度計を備えた容量1000cm
3の四つ口フラスコに、2−ソジウムスルホエチルメタクリレートを68.9g、ベンジルメタクリレートを35.7g、2−ヒドロキシエチルメタクリレートを36.9g、イオン水を150gおよびイソプロピルアルコールを300g投入した。
【0088】
フラスコ内に窒素ガスを導入しながら、フラスコ内の混合物をリフラックス温度まで昇温した。次いで、アゾビスイソブチロニトリルを0.7gフラスコ内に投入し、リフラックス状態を保ち、18時間重合反応を行ってポリマー溶液(A−1)を得た。
【0089】
得られたポリマー溶液(A−1)の全量を、2000cm
3のビーカーに移し、スターラーにより撹拌しながらヘキサンを500g添加し、その後1時間静置して不純物を含む油層を除去した。水層側の溶液を乾燥機を用い、100℃にて24時間乾燥した。得られた固形物を、減圧下、100℃で24時間乾燥した後、乳鉢で粉砕して高分子化合物の粉体(AP−1)を得た。
【0090】
得られた高分子化合物(AP−1)をゲルパーミュエーションクロマトグラフ(GPC)で測定したところ、重量平均分子量(Mw)=58,000であった。
【0091】
合成例 2、4〜5、参考合成例 3 および 比較合成例 6〜9
モノマーを表1に示す配合とし、合成例1と同様の方法で高分子化合物の粉体(AP−2〜9)を得た。得られた高分子化合物(AP−2〜9)のMwおよび水に対する溶解性を表1に示す。
なお、高分子化合物(AP−3)は参考合成例である。
【0092】
【表1】
【0093】
実 施 例 1
(1)ポリアニリン重合と精製:
撹拌機、窒素ガス導入管、環流冷却器、投入口および温度計を備えた容量500cm
3の四つ口フラスコに、合成例1で得られた高分子化合物(AP−1)10.9g、イオン交換水100gおよび35%塩酸水溶液6gを投入し、次いで60℃に加熱し、3時間撹拌を行い、均一な乳化剤水溶液を得た。更に、この乳化剤水溶液に25℃飽和食塩水100gを添加し、60℃で1時間撹拌を行った後、25℃まで冷却した。フラスコ内の乳化剤溶液は、均一なものであった。
【0094】
ついで、この乳化剤溶液にアニリン4.65gを投入し、攪拌して均一な乳化液とした。10gのペルオキソ二硫酸アンモニウムをイオン交換水30gに溶解したものを、0℃に保ったフラスコ内に2時間かけて滴下した。滴下終了後、室温(25℃)に戻し、48時間重合反応を続けた。
【0095】
重合反応終了後の重合溶液を濾別し、得られた固形物を水に再分散して攪拌洗浄を行い、再度濾別を行った。前記洗浄を4回繰り返して得た水を含んだ固形物を取り出し、減圧下、40℃にて96時間乾燥して複合導電性高分子組成物(E−1)を得た。この導電性高分子組成物の揮発分を測定したところ、2%以下だった。なお揮発分は、導電性高分子組成物を105℃の熱風循環式乾燥機に3時間投入し、その前後の質量減量率から求めた(以下同じ)。
【0096】
(2)塗膜評価:
ビーカーに、上記で得た複合導電性高分子組成物(E−1)5g、シクロペンタノン60gおよびメチルエチルケトン35gを投入し、室温で撹拌溶解して複合導電性高分子組成物溶液を得た。この溶液の外観は、透明感のある緑色であった。
【0097】
ついで、その複合導電性高分子組成物溶液を、ドクターブレードを用い、乾燥後の厚みが10μmとなるようガラス基板上に塗工し、乾燥を行ったところ、緑色の均一な塗膜が得られた。その塗膜の表面抵抗値は、200kΩ/□であった。
【0098】
参考例2
(1)ポリピロール重合と精製:
撹拌機、窒素ガス導入管、環流冷却器、投入口および温度計を備えた容量500cm
3の四つ口フラスコに、合成例2で得られた高分子化合物(AP−2)10.6g、イオン交換水200gおよび35%塩酸水溶液6gを投入し、次いで60℃に加熱し、3時間撹拌を行った後、25℃まで冷却した。フラスコ内の乳化剤溶液は、均一なものであった。
【0099】
ついで、この乳化剤溶液にピロール3.35gを投入し、攪拌して均一な乳化液とした。58gの硫酸第二鉄をイオン交換水30gに溶解したものを、0℃に保ったフラスコ内に2時間かけて滴下した。滴下終了後、室温(25℃)に戻し、73時間重合反応を続けた。
【0100】
重合反応終了後の重合溶液を濾別し、得られた固形物を水に再分散して攪拌洗浄を行い、再度濾別を行った。前記洗浄を4回繰り返して得た水を含んだ固形物を取り出し、減圧下40℃にて96時間乾燥して複合導電性高分子組成物(E−2)を得た。この複合導電性高分子組成物の揮発分を測定したところ、2%以下だった。
【0101】
(2)塗膜評価:
ビーカーに、上記で得た複合導電性高分子組成物5g、メチルエチルケトン45gおよびメチルアルコール50gを投入し、室温で撹拌溶解して複合導電性高分子組成物溶液を得た。この溶液の外観は、黒色であった。
【0102】
ついで、その複合導電性高分子組成物溶液を、ドクターブレードを用い、乾燥後の厚みが10μmとなるようガラス基板上に塗工し、乾燥を行ったところ、黒色の均一な塗膜が得られた。その塗膜の表面抵抗値は、60kΩ/□であった。
【0103】
参考例3
(1)ポリチオフェン重合と精製:
撹拌機、窒素ガス導入管、環流冷却器、投入口および温度計を備えた容量500cm
3の四つ口フラスコに、
参考合成例3で得られた高分子化合物(AP−3)11.6g、イオン交換水200gおよび35%塩酸水溶液6gを投入し、60℃に加熱し、3時間撹拌を行った後、25℃まで冷却した。フラスコ内の乳化剤溶液は、均一なものであった。
【0104】
ついで、この乳化剤溶液にチオフェン4.2gを投入し、攪拌して均一な乳化液とした。16.5gの塩化第二鉄をイオン交換水30gに溶解したものを、80℃に保ったフラスコ内に2時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃に保ったまま、58時間重合反応を続けた。
【0105】
重合反応終了後の重合溶液を濾別し、得られた固形物を水に再分散して攪拌洗浄を行い、再度濾別を行った。前記洗浄を4回繰り返して得た水を含んだ固形物を取り出し、減圧下40℃にて96時間乾燥して複合導電性高分子組成物(E−3)を得た。この複合導電性高分子組成物の揮発分を測定したところ、2%以下だった。
【0106】
(2)塗膜評価:
ビーカーに、上記で得た複合導電性高分子組成物(E−3)5g、メチルエチルケトン50gおよびイソプロピルアルコール45gを投入し、室温で撹拌溶解して複合導電性高分子組成物溶液を得た。この溶液の外観は、透明感のある濃緑色であった。
【0107】
ついで、その複合導電性高分子組成物溶液を、ドクターブレードを用い、乾燥後の厚みが10μmとなるようガラス基板上に塗工し、乾燥を行ったところ、黒緑色の均一な塗膜が得られた。その塗膜の表面抵抗値は、30kΩ/□であった。
【0108】
実 施 例 4
(1)ポリアニリン重合と精製:
撹拌機、窒素ガス導入管、環流冷却器、投入口および温度計を備えた容量500cm
3の四つ口フラスコに、合成例2で得られた高分子化合物(AP−2)13.3g、イオン交換水200gおよび35%塩酸水溶液6gを投入し、60℃に加熱し、3時間撹拌を行った後、25℃まで冷却した。フラスコ内の乳化剤溶液は、均一なものであった。
【0109】
ついで、この乳化剤溶液にアニリン4.65gを投入し、攪拌して均一な乳化液とした。58gの硫酸鉄(III)をイオン交換水100gに溶解したものを、30℃に保ったフラスコ内に2時間かけて滴下した。滴下終了後、50℃に昇温し、48時間重合反応を続けた。
【0110】
重合反応終了後の重合溶液を濾別し、得られた固形物を水に再分散して攪拌洗浄を行い、再度濾別を行った。前記洗浄を4回繰り返して得た水を含んだ固形物を取り出し、減圧下40℃にて96時間乾燥して複合導電性高分子組成物(E−4)を得た。この複合導電性高分子組成物の揮発分を測定したところ、2%以下だった。
【0111】
(2)塗膜評価:
ビーカーに、上記で得た複合導電性高分子組成物(E−4)5g、シクロペンタノン50gおよびイソプロピルアルコール45gを投入し、室温で撹拌溶解して複合導電性高分子組成物溶液を得た。この溶液の外観は、透明感のある緑色であった。
【0112】
ついで、その複合導電性高分子組成物溶液を、ドクターブレードを用い、乾燥後の厚みが10μmとなるようガラス基板上に塗工し、乾燥を行ったところ、緑色の均一な塗膜が得られた。その塗膜の表面抵抗値は、300kΩ/□であった。
【0113】
実 施 例 5
(1)ポリアニリン重合と精製:
高分子化合物(AP−2)13.3gを高分子化合物(AP−4)14.6gに変更した以外は実施例4と同様にして、複合導電性高分子組成物(E−5)を得た。この複合導電性高分子組成物の揮発分を測定したところ、2%以下であった。
【0114】
(2)塗膜評価:
ビーカーに、上記で得た複合導電性高分子組成物(E−5)5g、シクロペンタノン65gおよびメチルエチルケトン30gを投入し、室温で撹拌溶解して複合導電性高分子組成物溶液を得た。この溶液の外観は、透明感のある緑色であった。
【0115】
ついで、その複合導電性高分子組成物溶液を、ドクターブレードを用い、乾燥後の厚みが10μmとなるようガラス基板上に塗工し、乾燥を行ったところ、緑色の均一な塗膜が得られた。その塗膜の表面抵抗値は、550kΩ/□であった。
【0116】
実 施 例 6
(1)ポリアニリン重合と精製:
高分子化合物(AP−2)13.3gを高分子化合物(AP−5)13.7gに変更した以外は実施例4と同様にして、複合導電性高分子組成物(E−6)を得た。この複合導電性高分子組成物の揮発分を測定したところ、2%以下であった。
【0117】
(2)塗膜評価:
ビーカーに、上記で得た複合導電性高分子組成物(E−6)5g、シクロペンタノン65gおよびイソプロピルアルコール30gを投入し、室温で撹拌溶解して複合導電性高分子組成物溶液を得た。この溶液の外観は、透明感のある黒緑色であった。
【0118】
ついで、その複合導電性高分子組成物溶液を、ドクターブレードを用い、乾燥後の厚みが10μmとなるようガラス基板上に塗工し、乾燥を行ったところ、緑色の均一な塗膜が得られた。その塗膜の表面抵抗値は、150kΩ/□であった。
【0119】
比 較 例 1
(1)ポリアニリン重合と精製:
高分子化合物(AP−2)13.3gを高分子化合物(AP−6)37.9gに変更した以外は実施例4と同様にして、導電性高分子組成物(EC−1)を得た。この導電性高分子組成物の揮発分を測定したところ、2%以下であった。
【0120】
(2)塗膜評価:
ビーカーに、上記で得た導電性高分子組成物(EC−1)5gおよびメチルエチルケトン95gを投入し、室温で撹拌溶解して導電性高分子組成物溶液を得た。この溶液の外観は、不均質な緑色であった。
【0121】
ついで、その導電性高分子組成物溶液を、ドクターブレードを用い、乾燥後の厚みが10μmとなるようガラス基板上に塗工し、乾燥を行ったところ、緑色の不均一な塗膜が得られた。その塗膜の表面抵抗値は、8MΩ/□であった。
【0122】
比 較 例 2
(1)ポリアニリン重合と精製:
高分子化合物(AP−2)13.3gを高分子化合物(AP−7)15.4gに変更した以外は実施例4と同様にして、導電性高分子組成物(EC−2)を得た。この導電性高分子組成物の揮発分を測定したところ、2%以下であった。
【0123】
(2)塗膜評価:
ビーカーに、上記で得た導電性高分子組成物(EC−2)5gおよびシクロペンタノン95gを投入し、室温で撹拌溶解して導電性高分子組成物溶液を得た。この溶液の外観は、不均質な緑色であった。
【0124】
ついで、その導電性高分子組成物溶液を、ドクターブレードを用い、乾燥後の厚みが10μmとなるようガラス基板上に塗工し、乾燥を行ったところ、緑色の不均一な塗膜が得られた。その塗膜の表面抵抗値は、1MΩ/□であった。
【0125】
比 較 例 3
(1)ポリアニリン重合と精製:
高分子化合物(AP−2)13.3gを高分子化合物(AP−8)7.2gに変更した以外は実施例4と同様にして、導電性高分子組成物(EC−3)を得た。この導電性高分子組成物の揮発分を測定したところ、2%以下であった。
【0126】
(2)塗膜評価:
ビーカーに、上記で得た導電性高分子組成物(EC−3)5gおよびメタノール95gを投入し、室温で撹拌溶解して導電性高分子組成物溶液を得た。この溶液の外観は、やや不均質な緑色であった。
【0127】
ついで、その導電性高分子組成物溶液を、ドクターブレードを用い、乾燥後の厚みが10μmとなるようガラス基板上に塗工し、乾燥を行ったところ、緑色の不均一な塗膜が得られた。その塗膜の表面抵抗値は、5MΩ/□であった。
【0128】
比 較 例 4
(1)ポリアニリン重合と精製:
高分子化合物(AP−2)13.3gを高分子化合物(AP−9)5.15gに変更した以外は実施例4と同様にして、導電性高分子組成物(EC−4)を得た。この導電性高分子組成物の揮発分を測定したところ、2%以下であった。
【0129】
(2)塗膜評価:
ビーカーに、上記で得た導電性高分子組成物(EC−4)5gおよびメタノール95gを投入し、室温で撹拌溶解して導電性高分子組成物溶液を得た。この溶液の外観は、やや不均質な緑色であった。
【0130】
ついで、その導電性高分子組成物溶液を、ドクターブレードを用い、乾燥後の厚みが10μmとなるようガラス基板上に塗工し、乾燥を行ったところ、緑色の不均一な塗膜が得られた。その塗膜の表面抵抗値は、12MΩ/□であった。
【0131】
比 較 例 5
(1)ポリアニリン重合と精製:
高分子化合物(AP−2)13.3gを高分子化合物(AP−9)20.6gに、35%塩酸水溶液6gを10gに変更した以外は実施例4と同様にして、導電性高分子組成物(EC−5)を得た。この導電性高分子組成物の揮発分を測定したところ、2%以下であった。
【0132】
(2)塗膜評価:
ビーカーに、上記で得た導電性高分子組成物(EC−5)5gおよびイオン交換水95gを投入し、室温で撹拌溶解して導電性高分子組成物溶液を得た。この溶液の外観は、透明感のある緑色であった。
【0133】
ついで、その導電性高分子組成物溶液を、ドクターブレードを用い、乾燥後の厚みが10μmとなるようガラス基板上に塗工し、乾燥を行ったところ、緑色の均一な塗膜が得られた。その塗膜の表面抵抗値は、3MΩ/□であった。
【0134】
比 較 例 6
(1)ポリピロール重合と精製:
撹拌機、窒素ガス導入管、環流冷却器、投入口および温度計を備えた容量500cm
3の四つ口フラスコに、合成例2で得られた高分子化合物(AP−2)10.6g、イオン交換水200g、35%塩酸水溶液6gを投入し、60℃に加熱し3時間撹拌を行った後、25℃まで冷却した。フラスコ内の乳化剤溶液は、均一なものであった。
【0135】
ついで、この乳化剤溶液に、ピロール3.35gを投入し、攪拌して均一な乳化液とした。16.5gの塩化第二鉄をイオン交換水30gに溶解したものを、0℃に保ったフラスコ内に2時間かけて滴下した。滴下終了後、室温(25℃)に戻し、43時間重合反応を続けた。
【0136】
重合反応終了後の重合溶液を濾別し、得られた固形物を水に再分散して攪拌洗浄を行い、再度濾別を行った。前記洗浄を4回繰り返して得た水を含んだ固形物を取り出し、減圧下40℃にて96時間乾燥して導電性高分子組成物(EC−6)を得た。この導電性高分子組成物の揮発分を測定したところ、2%以下だった。
【0137】
(2)塗膜評価:
ビーカーに、上記で得た導電性高分子組成物(EC−6)5gおよびメチルエチルケトン95gを投入し、室温で撹拌溶解して導電性高分子組成物溶液を得た。この溶液の外観は、不均質な黒色であった。
【0138】
ついで、その導電性高分子組成物溶液を、ドクターブレードを用い、乾燥後の厚みが10μmとなるようガラス基板上に塗工し、乾燥を行ったところ、凹凸のある黒色塗膜が得られた。その塗膜の表面抵抗値は、20MΩ/□以上であった。また、塗膜の表面を指でこすると粉状物が剥離した。
【0139】
比 較 例 7
(1)ポリチオフェン重合と精製:
高分子化合物(AP−3)11.6gを高分子化合物(AP−8)4.3gに変更した以外は
参考例3と同様にして、導電性高分子組成物(EC−7)を得た。この導電性高分子組成物の揮発分を測定したところ、2%以下であった。
【0140】
(2)塗膜評価:
ビーカーに、上記で得た導電性高分子組成物(EC−
7)5gおよびメタノール95gを投入し、室温で撹拌溶解して導電性高分子組成物溶液を得た。この溶液の外観は、やや不均質な黒緑色であった。
【0141】
ついで、その導電性高分子組成物溶液を、ドクターブレードを用い、乾燥後の厚みが10μmとなるようガラス基板上に塗工し、乾燥を行ったところ、黒緑色の不均一な塗膜が得られた。その塗膜の表面抵抗値は、2MΩ/□であった。