【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の通り、戸建住宅等の小規模建築物の不同沈下、地盤の液状化による傾きや倒壊を抑制すべく、ソイルセメント壁による地下囲い込み壁を設けた基礎構造は数多く知られている。中には、強固なソイルセメント壁を形成するためにH型鋼等による芯材を設けたものもあるが、住宅密集地では施工が難しく、戸建住宅向きではない。
【0011】
また、昨今の都市部における戸建住宅等の小規模建築物では、敷地形状や住宅デザインとの関係で平面形状が単純な矩形のものが少なく凹凸のある不整形、多角形等の様々な異形のものが多く、また、商店街、住宅密集地域では建築物同士が隣接しているので、建築物の基礎構造は隣接建築物の荷重による伝播地中応力の影響を受ける。
【0012】
したがって、不同沈下による前記小規模建築物の傾きを効果的に抑制するためには、基礎構造は、これら小規模建築物の平面形状や隣接建築物の荷重による伝播地中応力の影響を考慮して構築されなければならないが、従来のものではほとんど考慮されていない。
【0013】
特に問題が表面化するのは、隣接建築物の荷重による伝播地中応力の影響を受けている状態で液状化が発生した場合であり、小規模建築物を支える地盤が液状化の進行に伴って支持機能を失い、この結果、前記小規模建築物はただ沈下するだけではなく、隣接建築物の影響を受けて隣接建築物側に大きく不同沈下するもので、東日本大震災で多くの実例が見られた。
【0014】
本願発明は、上述のような課題の解決を図ったものであり、小規模建築物の平面形状が単純な正方形や長方形でなくても、あるいは、隣接建築物があり基礎構造が隣接建築物の荷重による伝播地中応力の影響を受けるものであっても、簡便に不同沈下による前記小規模建築物の傾きを抑制できる小規模建築物の基礎構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願の請求項1に係る発明は、ソイルセメント壁を用いた小規模建築物の基礎構造であって、前記小規模建築物下及びその近傍の地盤の表層部に形成された上部床版と、前記小規模建築物の周囲を囲む形で前記上部床版の下方にその縁に沿って前記上部床版と一体的に形成されたソイルセメント壁による囲い込み壁とを備え、前記囲い込み壁は、その全体の重心位置が上方の前記小規模建築物の重心位置のほぼ下にくるように平面図において略一致させて構築されて
おり、前記上部床版の厚みが0.5〜2.0mであり、また、前記囲い込み壁においては、前記ソイルセメント壁におけるソイルセメントの設計基準強度が500〜1000kN/m2であり、ソイルセメント壁がソイルセメント柱列壁であってソイルセメント柱の直径が600〜1200mmであり、囲い込み壁の深度が4〜10mであることを特徴とする小規模建築物の基礎構造である。
【0016】
本願発明で言う小規模建築物とは、木造の戸建住宅、鉄骨造あるいは鉄筋コンクリート造の集合住宅や集会施設などで、建築物の幅に比べて建築物の高さが2倍程度しかない建築物である。本願発明の基礎構造は、上部床版とその下方に上部床版の縁に沿って上部床版と一体的に形成されたソイルセメント壁による囲い込み壁とからなる構造を基本構造とする。必要に応じて、囲い込み壁全体の平面形状がシンメトリーな格子状、井桁状あるいはハニカム状になるように、囲い込み壁による囲い込み内部に支持力を負担できるソイルセメント壁やソイルセメント柱、梁部等を設けて補強してもよい。
【0017】
上部床版は、地盤改良によるソイルセメント版とするのが一般的であるが、鉄筋コンクリート版としてもよく、その敷面積(平面積)が小規模建築物の建築面積より広くなるようにするのが好ましい。広くすることによって、不同沈下に対してできる限り安定性を増大させるといった効果が得られる。小規模建築物に接続される設備配管類の設置は、上記上部床版の上でも下でもよく、また、この中間でもよい。このように設置した設備配管類は、液状化の発生時であっても、上記上部床版の内側にある範囲については小規模建築物と上記上部床版を含む基礎構造が一体的に安定挙動することから、損壊を確実に防止できることになる。
【0018】
上記上部床版の下方には、その縁に沿って上部床版と一体的に形成されたソイルセメント壁による囲い込み壁を設ける。概して、上部床版はその敷面積(平面積)が小規模建築物の建築面積より広くなるようにして設けられることから、囲い込み壁の位置はこの殆どが小規模建築物の直下ではなく少し離れた外周の地中となり、四方を取り囲む構造となる。
【0019】
なお、この殆どとは、囲い込み壁の一部が小規模建築物の直下に配置される場合も有り得ることを示すものであり、この場合には、囲い込み壁の一部が小規模建築物の荷重の一部を負担することになる。このような基礎構造にするのは、浮体構造物の安定性確保の考え方と同じように、上部床版と囲い込み壁との一体化構造物に平面的な広がりを持たせることで、不同沈下に対してできる限り安定性を増大させたいからである。
【0020】
また、小規模建築物が敷地いっぱいに建てられているような場合や基礎構造の施工コストを最小限に抑えたい場合、上部床版をその敷面積(平面積)が小規模建築物の建築面積より狭くなるように設けることもある。このようにすることによって、囲い込み壁の位置はこの殆どが小規模建築物の直下となって四方を取り囲む構造となる。この場合には、囲い込み壁と、必要に応じて囲い込み壁による囲い込み内部に設けられるソイルセメント壁やソイルセメント柱等が小規模建築物の荷重を負担することになる。このような基礎構造にすると、上部床版の敷面積(平面積)が小規模建築物の建築面積より広くなるようにした場合に比べて不同沈下に対する安定性はある程度低下するが、従来の不同沈下抑制技術による基礎構造と比べればはるかに高い安定性が確保される。
【0021】
ソイルセメント壁は、ソイルセメント柱列壁を使用するのが一般的である。このソイルセメント柱列壁は、従来から構造物の基礎や外周壁として用いられているものであり、単軸オーガや多軸オーガにより、複数のソイルセメント柱の隣接柱同士を10cm程度オーバーラップさせて連続壁とするものである。この連続壁の一体性については、隣接柱の施工を5日以内に行えば隣接柱同士の一体性が確保可能であることが過去の知見から知られており、上記ソイルセメント柱列壁の施工が1〜2日で終了することから、この点に関する問題は無い。
【0022】
上記上部床版と上記囲い込み壁とは一体的に形成される。このような構造にすることによって、上記囲い込み壁は、一体としない場合に比べて水平剛性を高めることができ、特に地盤の液状化時における側方流動圧に対して、効果を発揮することとなる。両者の一体化の方法は特に限定されないが、上記のソイルセメント柱同士の一体化と同じように行うのが一般的であり、上部床版としてのソイルセメント版の施工は囲い込み壁築造直後、半日〜1日で実施されるもので、施工法は、ソイルセメント柱列壁の施工と同様のラップ施工でもよく、表層地盤改良による施工でもよい。
【0023】
本願発明では、上記囲い込み壁は、その全体の重心位置が上方の上記小規模建築物の重心位置のほぼ下にくるように平面図において略一致させて構築する。このように小規模建築構造物の重心位置を求め、その重心位置に重心を合せて囲い込み壁を構築すれば、たとえ軟弱地盤上であっても建物荷重の偏心による不同沈下の恐れがなくなるので、小規模建築物の平面形状が単純な正方形や長方形でなくても、簡便に不同沈下の抑制効果を向上させることができる。
【0024】
重心位置の合わせ方は、例えば、先ず上記小規模建築物の重心位置を計算によって求め、次に上記囲い込み壁のレイアウトを敷地を考慮しつつ定めて重心位置を求め、その後に両者の重心を重ね合わせるようにすればよい。
【0025】
本願の請求項2に係る発明は、前記上部床版と前記囲い込み壁全体の平面形状が正方形または長方形であり、前記小規模建築物の平面形状が正方形や長方形とは異なる形状であることを特徴とする請求項1に記載の小規模建築物の基礎構造である。
【0026】
本願発明では、上記上部床版と上記囲い込み壁全体の平面形状を正方形または長方形にするのが好ましい。これらの形状にすれば、住宅街や商店街等の繁華街で隣接建築物があるところでも比較的容易に施工ができる。また、地盤の液状化に対しても対応できる。
【0027】
また、本願発明は、平面形状が正方形や長方形とは異なる形状の小規模建築物に効果的に適用できる。昨今の戸建住宅等の小規模建築物は、敷地形状や住宅デザインとの関係で平面形状が単純な矩形のものが少なく凹凸のある不整形、多角形等の様々な異形のものが多くなっているが、従来のソイルセメント壁による不同沈下抑制技術では、これらの小規模建築物に対して簡便かつ効果的な対応はできない。
【0028】
本願発明では、上記の通り、上記上部床版と上記囲い込み壁全体の平面形状を小規模建築物の平面形状に左右されず正方形または長方形に限定するとともに、囲い込み壁の構築に際して新たに重心位置の技術思想を取り入れたので、特に平面形状が単純な矩形ではない平面形状が複雑な小規模建築物に対して、従来法より簡便かつ効果的に不同沈下を抑制できる。
【0029】
本願の請求項3に係る発明は、前記小規模建築物の隣に隣接建築物が存在する場合の請求項1又は2に記載の小規模建築物の基礎構造であって、前記両者間での荷重による伝播地中応力の重ね合わせの影響を低減すべく、前記囲い込み壁を前記隣接建築物による伝播地中応力の影響を受けない範囲まで、あるいは前記隣接建築物による伝播地中応力の影響を遮断する範囲に設けたことを特徴とする小規模建築物の基礎構造である。
【0030】
都市部や都市周辺部における住宅地域では、一つの戸建住宅に近接して隣の戸建住宅が建てられているのが常態である。このような場合には、基礎構造を構築するに際し隣接建築物の荷重による伝播地中応力の重ね合わせの影響も考慮する必要があるが、従来の不同沈下抑制技術による基礎構造では、この点はほとんど考慮されていない。
【0031】
特に問題が表面化するのは、隣接建築物の荷重による伝播地中応力の影響を受けている状態で液状化が発生した場合であり、小規模建築物を支える地盤が液状化の進行に伴って支持機能を失い、この結果、前記小規模建築物はただ沈下するだけではなく、隣接建築物の影響を受けて隣接建築物側に大きく不同沈下するもので、東日本大震災で多くの実例が見られた。
【0032】
上記本願発明の小規模建築物の基礎構造は、隣接建築物が存在する場合にも適用可能であり、その場合は、上記囲い込み壁を前記隣接建築物による伝播地中応力の影響を受けない範囲まで、あるいは前記隣接建築物による伝播地中応力の影響を遮断する範囲に設けておくのが好ましい。ここで言う「伝播地中応力の影響を受けない範囲」とは、地盤を弾性体とした場合、深さ方向に対して建築物側面で建物幅の1.5倍程度、周辺方向に対して建物幅の0.5倍程度となる範囲であり、地盤の液状化に対しても、この程度の範囲を設定しておくことが目安となるが、実際には対象となる液状化地盤の層厚や敷地面積の広さに応じて個別に決定することになる。
【0033】
また、ここで言う「伝播地中応力の影響を遮断する範囲」とは、隣接建築物が近接していたり敷地面積に余裕がない場合などで、上記囲い込み壁を隣接建築物による伝播地中応力の影響を受けない範囲に設けることができない場合に採用するようなケースであり、上記囲い込み壁の平面的な位置と深度を実際のプラン上に落とし込んで決定するものである。この時、上記囲い込み壁に必要な仕様は、上記囲い込み壁に作用する伝播地中応力の水平成分、液状化時における囲い込み壁・周辺地盤(液状化地盤)・隣接建築物を含む全体系の安定、上記小規模建築物から伝達される荷重などに対して検討する。実際には、対象となる液状化地盤の層厚や敷地面積の広さに応じて個別に決定することになる。
【0034】
本願の請求項4に係る発明は、
前記囲い込み壁は、全体がまたは殆どが前記小規模建築物の直下から離れた外周の地中の、前記小規模建築物の四周を取り囲んだ位置にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の小規模建築物の基礎構造である。
【0035】
なお、本願発明において、上部床版は、材質、強度等によっても異なるが、その厚みを0.5〜2.0mとするのが好ましい。この範囲にすることによって
、囲い込み壁との一体化による剛性の確保が可能になるとともに、支持力確保上の一部を担う他、下部支持力部材への伝達機構としての役割を果たすことができる。
【0036】
また、上記囲い込み壁においては、ソイルセメント壁におけるソイルセメントの設計基準強度を500〜1000kN/m
2とするのが好ましい。500kN/m
2未満では、地盤の液状化時における側方流動圧に対して効果を発揮することができなくなるとともに、小規模建築物から伝達される荷重を負担することができないことになる。また、1000kN/m
2を超えると、上記小規模建築物の施工管理上からは強度コントロールが難しい領域になる。したがって、上記囲い込み壁は、この強度の範囲内で具体的な設計を行うことになる。ソイルセメント壁をソイルセメント柱列壁とする場合、ソイルセメント柱の直径は600〜1200mmとするのが好ましい。この範囲にすることによって、上記のソイルセメント強度と合せて必要な剛性を確保することができ、住宅密集地のような狭い敷地での施工も可能となる。
【0037】
本願発明では、囲い込み壁の下端は、支持地盤まで到達させずに液状化し易い軟弱層中にあることを原則とする。囲い込み壁の深度は、小規模建築物の荷重、隣接建築物の荷重、囲い込み壁の縦横長さ、軟弱層の土質、層厚等によって異なるので限定されないが、少なくとも建物幅の0.5〜1.5倍あるいは軟弱層厚の0.9倍以下とするのが好ましく、より好ましくは建物幅の0.5〜1.0倍である。具体的には、概して、4〜10m程度である。この程度の深度であれば、基礎構造を構築し易く、小規模建築物の平面形状が不整形であったり隣接建築物が存在しても、不同沈下の抑制効果が得られる。