特許第5869915号(P5869915)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5869915
(24)【登録日】2016年1月15日
(45)【発行日】2016年2月24日
(54)【発明の名称】マルチングシート材
(51)【国際特許分類】
   A01G 13/00 20060101AFI20160210BHJP
【FI】
   A01G13/00 302Z
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-41835(P2012-41835)
(22)【出願日】2012年2月28日
(65)【公開番号】特開2013-176314(P2013-176314A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2014年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】302064762
【氏名又は名称】株式会社日本総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100125645
【弁理士】
【氏名又は名称】是枝 洋介
(72)【発明者】
【氏名】古賀 啓一
【審査官】 木村 隆一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−000166(JP,A)
【文献】 特開2001−000053(JP,A)
【文献】 特開2006−158346(JP,A)
【文献】 特開2001−245577(JP,A)
【文献】 特開2002−291352(JP,A)
【文献】 特開平07−041762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水田の土壌を被覆するために、当該水田に敷設されるマルチングシート材において、
前記水田に散布される農薬を吸着する農薬吸着剤と、前記農薬と反応し、可視光の吸収率が変化する化学物質とを含有することを特徴とする
マルチングシート材。
【請求項2】
前記農薬吸着剤は、多孔質材料を主成分とする、
請求項1に記載のマルチングシート材。
【請求項3】
前記多孔質材料は、活性炭、低温焼成石炭灰、及びこれらの混合物の何れかである、
請求項2に記載のマルチングシート材。
【請求項4】
植物の生育に必要な波長の光を遮断する遮光性を有する、
請求項1乃至3の何れかに記載のマルチングシート材。
【請求項5】
遮光率が70%以上100%以下である、
請求項4に記載のマルチングシート材。
【請求項6】
前記水田に湛水された水を透過させる水透過性を有する、
請求項1乃至5の何れかに記載のマルチングシート材。
【請求項7】
高強度プラスチックを主材とする、
請求項1乃至の何れかに記載のマルチングシート材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬による水質汚染等の環境汚染を防ぐためのマルチングシート材及びそのマルチングシート材を土壌に敷設するマルチングシート材敷設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
田畑等の農地において作物を栽培するときに、雑草の繁茂、土壌の飛散及び肥料の流芒の防止、土壌温度及び土壌湿度の維持、並びに作物の病害の予防等を目的として、農地の土壌表面を紙、プラスチックフィルム、又は藁等により被覆するマルチングが行われている。従来、このマルチングは畑等の湛水しない農地において行われてきた。しかし、近年では、水田に対してマルチングを行うための技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、脂肪族エステル構造と脂肪族アミド構造とを含有するポリエステルアミド系樹脂を主成分とするマルチングシート材、及びそのマルチングシート材を使用した田植え方法が開示されている。このマルチングシート材の主成分として用いられている樹脂材料は湿潤環境における柔軟性、引張強度、及び伸び等が優れている。このため、このマルチングシート材を水田の土壌表面に敷設した場合に、その後に田植え等のためにマルチングシート材が踏みつけられたとしても、破れること等によって破損してしまう事態を回避することができる。また、上記の材料は生分解性を有しているため、収穫後等においてマルチングシート材を回収する作業は不要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−000053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、水田での稲作等において農薬を使用した場合、水田に湛水された水が農薬に汚染されることになる。この湛水された水に含まれる農薬は、水田の土壌に生息する微生物による分解等の作用により減少する。しかし、湛水された水に含まれる農薬の全てが分解されるわけではない。このため、この水が排水されると当該水に残留する農薬により、水田の近隣の河川又は海等の水質が汚染されることがあり得る。
【0006】
上記の従来技術のように、マルチングシート材で水田の土壌を被覆した場合でも、苗の植え付け部分とマルチングシート材との隙間から雑草が繁茂したり、病害虫が繁殖したりすること等を防止するために、農薬を散布する必要がある。しかしながら、マルチングシート材によって水中と土壌とが分離されることになるため、上述したような土壌に生息する微生物による農薬の分解が阻害されてしまう。このため、湛水された水が農薬をより多く含んだまま排水されてしまい、近隣の河川又は海等の水質がより一層汚染されてしまうという問題が生じる。
【0007】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、上記課題を解決することができるマルチングシート材及びマルチングシート材敷設方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明の一の態様のマルチングシート材は、水田の土壌を被覆するために、当該水田に敷設されるマルチングシート材において、前記水田に散布される農薬を吸着する農薬吸着剤と、前記農薬と反応し、可視光の吸収率が変化する化学物質とを含有することを特徴とする。
【0009】
この態様において、前記農薬吸着剤は、多孔質材料を主成分とすることが好ましい。
【0010】
この態様において、前記多孔質材料は、活性炭、低温焼成石炭灰、及びこれらの混合物の何れかであってもよい。
【0011】
この態様において、植物の生育に必要な波長の光を遮断する遮光性を有していてもよい。
【0012】
この態様において、遮光率が70%以上100%以下であってもよい。
【0013】
この態様において、前記水田に湛水された水を透過させる水透過性を有していてもよい。
【0015】
この態様において、高強度プラスチックを主材としてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るマルチングシート材及びマルチングシート材敷設方法によれば、農薬の散布による水質汚染等の環境汚染を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態に係る敷設機の構成を模式的に示す側面図。
図2】本発明の実施の形態に係るマルチングシート材を敷設した土壌の断面を示す断面図。
図3】本発明の実施の形態に係るマルチングシート材を敷設した土壌の斜視図。
図4】本発明の実施の形態に係るマルチングシート材の回収方法の概略を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施の形態を説明する。なお、以下に示す実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための方法及び装置を例示するものであって、本発明の技術的思想は下記のものに限定されるわけではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0020】
本実施の形態に係るマルチングシート材は、水田の土壌全面を被覆するために用いられる。このマルチングシート材は、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート、又はポリアセタール等のプラスチック材料を主材としている。水田の土壌をマルチングシート材で被覆した場合、その後の田植え及び農薬散布等の際に、敷設されたマルチングシート材が田植機等の農業機械及び人等に踏みつけられる事態が生じ得る。その結果、主材に用いられるプラスチック材料によっては破れてしまうおそれがある。マルチングシート材が破れてしまうと、マルチングシート材を敷設することにより得られる地温の調節及び雑草の繁殖抑制等の効果が低下することになる。このため、上述したような破れ等のマルチングシート材の破損を防ぐために、本実施の形態のマルチングシート材では、プラスチック材料の中でも、ポリアミド、ポリカーボネート、又はポリアセタール等の高強度プラスチック材料を主材として用いることが好ましい。
【0021】
また、本実施の形態のマルチングシート材には、粉末化した活性炭、木炭、竹炭、オガ炭、又は低温焼成石炭灰等が配合されている。これらの材料は多孔質体であり、化学物質を吸着する性質を有している。このため、本実施の形態のマルチングシート材を水田に敷設することで、その水田に散布される農薬を当該マルチングシート材に吸着させることができる。これにより、水田に張られた水における農薬の含有量を低減させることができ、この水を排水することによる周辺水域の水質汚染を低減することができる。ここで、上記の材料の中でも活性炭及び低温焼成石炭灰は多種多量の化学物質を吸着できることが知られている。また、活性炭及び低温焼成石炭灰は環境負荷が低いことも知られており、これらの材料を用いることで、マルチングシート材を廃棄する際の環境への影響等を低減することができる。これらの理由から、マルチングシート材に配合する材料は、活性炭又は低温焼成石炭灰であることが好ましい。なお、本実施の形態では、農薬等の化学物質を吸着することができるのであれば、上記の材料の他に、ケイ酸塩等の多孔質体材料、又は特定の化学物質を吸着する性質を有する化合物等を用いてもよい。
【0022】
また、本実施の形態のマルチングシート材は、円形で直径が1μm前後の貫通孔がその全面にわたって略等間隔に複数設けられている。このような複数の貫通孔を有することで、本実施の形態のマルチングシート材は水浸透性を有することになる。これにより、このマルチングシート材を水田の土壌に敷設しても、当該マルチングシート材を介して水分が土壌に与えられるため、土壌の乾燥を防ぐことができる。また、土壌から蒸発する水分もマルチングシート材を介して大気中等に放出されるため、土壌の湿度を適正に保つことができる。なお、水田に張られた水を土壌に浸透させることができるのであれば、セロハンのような水浸透性を有する材料を用いる等、他の手段を用いて水透過性を有するようにしてもよい。
【0023】
また、本実施の形態のマルチングシート材には、遮光性の黒色塗料が配合されている。このため、このマルチングシート材は、土壌に対して照射される光を遮断する。これにより、当該土壌における雑草等の生育が阻害されるため、除草を目的とする農薬の散布回数を減らすこと等が可能となる。ここで、植物の光合成に利用される可視光(波長が360nmから830nmまでの光)に対する遮光率が100%であれば、当該土壌に対して光がまったく当たらなくなるため、雑草等が発生しなくなる。なお、遮光率が90%以上であれば、植物が光合成するために必要な光量が得られなくなるため、雑草等の発生を防止することができる。また、遮光率が70%以上であれば、植物が生育するために必要な光量が得られなくなるため、雑草等の生育を阻害することができる。このため、雑草等の生育を阻害することを目的とする場合、遮光率が70%以上であることが好ましく、さらには遮光率が90%以上であることがより好ましい。また、本実施の形態のマルチングシート材は黒色であるため、太陽等からの輻射熱を吸収する。このため、マルチングシート材により被覆された土壌の地温を上昇させることができる。
【0024】
なお、マルチングシート材の色は、栽培する農作物、栽培する場所、栽培する季節、及びマルチングの目的等によっては白色又は銀色等の別の色であってもよく、遮光性の低い透明であってもよい。ここで、マルチングシート材の色を白色とした場合、黒色よりも遮光率は低下するが、黒色よりも高い光反射率を有する。光が反射すると、光が当たりづらい農作物の下葉に対しても光が当たるため、光合成を促し、当該農作物の生育を促進させることができる。また、当該光の反射により、害虫の発生を抑制することができる。マルチングシート材の色を銀色とした場合では、白色よりもさらに高い光反射率を有する。このため、光反射による葉焼けが発生しやすくなるが、害虫の発生を大幅に抑制することができる。また、照射される光のほとんどを反射するため、太陽等からの輻射熱も反射する。このため、地温の上昇を抑制することができる。色を透明とした場合、ほとんどの光が遮断されず、土壌に照射されるため、雑草等が生育しやすくなるが、土壌が太陽等からの輻射熱を直接受けるために、地温を大幅に上昇させることができる。
【0025】
次に、上述したように構成されたマルチングシート材を水田に敷設する方法を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施の形態においてマルチングシート材を敷設するために用いられる敷設機1の概略を模式的に示す側面図である。敷設機1は、乗用型田植機を改良した装置であって、自走車体11と、この自走車体11に連結されたシート材敷設装置12及び苗植付装置13とを備えている。シート材敷設装置12は、ロール状に巻回された本実施の形態のマルチングシート材MSを回転自在に支持するシート材支持部12aと、シート材支持部12aによって支持されたマルチングシート材MSを引き出して土壌に押し付けるシート材押付ローラー12bとを具備している。また、苗植付装置13は、稲等の栽培対象となる作物の苗を搭載するための苗搭載部13aと、苗搭載部13aに搭載された苗を土壌に植え付ける植付爪13bとを具備している。ここで、シート材敷設装置12は、自走車体11の進行方向後方に配設されており、苗植付装置13はさらにその後方に配設されている。
【0026】
上述したように構成された敷設機1を用いることにより、本実施の形態のマルチングシート材を敷設しながら、苗の植え付けを行うことが可能となる。以下、この作業について詳述する。作業者は、水田内で自走車体11を走行させながら、シート材敷設装置12及び苗植付装置13を動作させる。この場合、自走車体11の後方に設けられたシート材敷設装置12では、シート材支持部12aに支持されたマルチングシート材MSがシート材押付ローラー12bによって引き出され、その後土壌表面に押し付けられながら敷設される。そして、このシート材敷設装置12の後方に設けられた苗植付装置13では、植付爪13bが、苗搭載部13aに搭載された苗を、シート材敷設装置12により敷設されたマルチングシート材MSの上方からそのマルチングシート材MSを突き破って土壌に植え付ける。このように、本実施の形態では、マルチングシート材の敷設及び苗の植え付けを連動して行うことができるため、作業工程数を減らすことができ、作業効率を向上させることができる。
【0027】
また、上述したように、シート材敷設装置12が自走車体11の走行方向後方に設けられているため、シート材敷設装置12によって敷設されたマルチングシート材を自走車体11が踏みつけることはない。これにより、敷設されたマルチングシート材の破損を防止することができるため、苗を植え付けた後に、マルチングシート材の破れ等を確認したり、その結果破れが見つかった場合に補修をしたり等の作業は不要となる。そのため、このような破れ等の確認作業及びは破損部分の補修作業等を行う場合と比べて、作業効率を格段に向上させることができる。
【0028】
本実施の形態では、上述のような構成の敷設機1を用いて、代掻きがなされ、湛水された水田に対して、マルチングシート材MSを敷設する。敷設機1を用いてマルチングシート材MSを敷設し、苗を植え付けた水田の断面を図2に示す。上述のように敷設機1は、マルチングシート材MSを水田の土壌に押付ながら敷設するように構成されている。このため、図2に示すように、マルチングシート材MSは、水田の土壌Eと湛水された水Wとを仕切るように敷設される。ここで、マルチングシート材MSは上述したように水浸透性を有している。このため、上述したようにマルチングシート材MSを土壌Eに敷設した場合、マルチングシート材MSを介して水Wが土壌Eに徐々に浸透していく。これにより、土壌Eには適度な水分が与えられるため、土壌Eの乾燥等を防ぐことができる。また、上述したように、マルチングシート材MSは農薬等の化学物質を吸着する性質を有しているため、農薬等の化学物質により土壌Eが汚染することを防ぐことができる。
【0029】
また、図3は敷設機1を用いてマルチングシート材MS,MS,…を敷設し、苗を植え付けた水田の斜視図である。図3に示すように、本実施の形態では、水田の土壌全面をマルチングシート材で被覆するために、複数のマルチングシート材MS,MS,…が幅方向に平行に並べて敷設される。ここで、隣り合うマルチングシート材MS,MS,…の幅方向の端部が数cm程度重なるようにして敷設される。また、マルチングシート材MS,MS,…は、水田の底部だけでなく、畝部分も被覆するように敷設される。このようにマルチングシート材MS,MS,…を敷設することで、水田の土壌全面がマルチングシート材MS,MS,…により隙間なく被覆されることになる。これにより、農薬等の化学物質による土壌汚染を確実に防ぐことができる。
【0030】
農薬の散布は、マルチングシート材の敷設後から湛水された水を排水する1週間前程度までの間に数回行われる。このように、マルチングシート材の敷設前には農薬を散布しないことで、農薬による水田の土壌汚染を防止することができる。また、排水の1週間前程度で農薬の散布を終了することで、散布された農薬のほとんどを敷設されているマルチングシート材に吸着させることができるため、農薬による周辺水域等の水質汚染をより確実に防止することができる。
【0031】
次に、上述したようにして敷設されたマルチングシート材MSの回収方法を、図面を参照しながら説明する。図4は、収穫後におけるマルチングシート材MSの回収の方法を示す模式図である。本実施の形態では、水田に湛水された水を排水し、農作物を収穫した後、図4に示すように、マルチングシート材MSを端から捲り上げ、巻き取るようにして土壌Eから回収する。このように回収した後、赤外分光法を用いて、マルチングシート材MSの農薬の吸着量を同定する。具体的には、作業者が回収したマルチングシート材MSを広げ、マルチングシート材MSに複数の領域を設定し、それらの領域毎に赤外分光法を用いて農薬の吸着量を同定する。ここで、ある領域において予め定められた量以上の農薬が吸着していたことが判明した場合、当該領域を切除し、その領域に新たなマルチングシート材を貼り付けることにより補修する。また、回収されたマルチングシート材MSに破れ等があった場合も、同様に補修する。このように、回収したマルチングシート材MSを補修することで、農薬吸着効果の低減を抑制しながらマルチングシート材MSを複数回繰り返し使用することができるため、農業廃棄物を減らすことができる。
【0032】
なお、農薬の含有量を同定する方法として、上記の方法以外のものを採用することも可能である。例えば、農薬として用いられる有機リン系化合物、有機塩素系化合物、有機窒素系化合物、カーバメート系化合物、ピレスロイド系化合物、又はトリアジン系化合物等の化学物質と反応し、可視光の吸収率が変化する化学物質をマルチングシート材MSに配合しておく。ここで、物質の可視光の吸収率が変化すると、当該物質の可視光の反射率も変化する。このため、可視光の吸収率が変化した物質は、当該変化の前後において変色することになる。このように、可視光の吸収率の変化に応じて生じるマルチングシート材MSの変色によって農薬の含有量を同定することができる。
【0033】
上述した化学物質が配合されたマルチングシート材MSを用いた場合、そのマルチングシート材MSに配合されている活性炭等の農薬吸着剤に吸着された農薬と前記化学物質とが反応するため、マルチングシート材MSの農薬が吸着された部分において可視光の吸収率が変化し、当該部分が変色する。このため、赤外分光法等のような分析方法を用いなくとも、マルチングシート材MSにどの程度農薬が吸着したかを目視により判定することができる。また、目視により農薬の吸着量の多寡を判定することができるため、切除及び補修すべき範囲を容易に判断することができる。
【0034】
また、上述のような農薬の吸着量の同定、並びに一定量以上吸着した部分の切除及び補修は、回収されたマルチングシート材だけでなく、敷設されているマルチングシート材について行われてもよい。具体例を以下に説明する。例えば、稲作においては、田植え直後、梅雨入り前後、出穂前後、及び収穫の1ヶ月前等の時期に農薬が散布される。ここで、農薬が散布され、1週間程度経過した後に、水田に敷設されているマルチングシート材について農薬の吸着量の同定を行い、所定の量以上の農薬が吸着している部分を切除し、補修を行う。このように、農薬が散布される毎に敷設されているマルチングシート材について農薬の吸着量の同定、並びに一定量以上吸着した部分の切除及び補修を行うことで、敷設から回収までの間にマルチングシート材の農薬の吸着性能の喪失、又は大幅な低下等を防ぐことができる。また、本例では、農薬が散布されてから1週間程度の期間を設けて農薬の吸着量の同定、並びに一定量以上吸着した部分の切除及び補修を行っている。農薬の散布直後にこれらの作業を行った場合、農薬のほとんどが水に含まれたままであるため、マルチングシート材を切除した際に、その切除部分から当該水が土壌に浸透してしまい、土壌が農薬により汚染されてしまう。一方で、本例では、農薬の散布後、一定期間を設けているために、当該期間中に散布された農薬がマルチングシート材に吸着される。このため、上述のような土壌の汚染を生じることなく、敷設されているマルチングシート材の切除及び補修を行うことができる。
【0035】
なお、敷設されているマルチングシート材について農薬の吸着量の同定、並びに一定量以上吸着した部分の切除及び補修を行う場合、上述したように、農薬に含まれる化学物質と反応して変色する化学物質をマルチングシート材に配合し、そのマルチングシート材の変色によって農薬の吸着量を同定する方法を用いることが好ましい。これは、水田に敷設されたマルチングシート材については、赤外分光法等の分析方法を適用することが難しいためである。また、変色する化学物質を用いた場合であれば、マルチングシート材を敷設したままであっても、当該マルチングシート材について、農薬が一定量以上吸着している部分を目視により判定することができるため、補修が必要な部分を容易に特定することができる。
【0036】
(その他の実施の形態)
なお、上記の実施の形態におけるマルチングシート材は、水田の土壌を被覆するために用いられているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、陸田等のような他の農地において、当該農地の土壌を被覆するために用いられてもよい。
【0037】
また、上記の実施の形態において、マルチングシート材は、プラスチックを主材として構成されているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、シート状の材料であって、土壌表面を被覆することができるのであれば、紙又は布等のような繊維材料を用いてもよい。また、藁等の材料を水田の土壌表面に敷き詰めることで、土壌を被覆するようにしてもよい。
【0038】
また、上記の実施の形態において、マルチングシート材は遮光性塗料を当該マルチングシート材に配合することで遮光性を有するように構成されているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、遮光性のフィルムを基材に重ねること等により、遮光性を有するようにしてもよい。
【0039】
また、上記の実施の形態において、敷設機1は乗用型田植機にシート材敷設装置12を搭載したものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、歩行型田植機を改良し、シート材敷設装置12を搭載したものであってもよい。
【0040】
また、上記の実施の形態において、マルチングシート材の敷設及び苗の植え付けにおいては、苗植付装置13の植付爪13bがマルチングシート材を突き破ることで苗を植え付けるように構成されているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、苗植付装置13による苗の植付間隔に対応してマルチングシート材に予め複数の貫通孔を設けておき、苗植付装置13がマルチングシート材を突き破ることなくそれらの貫通孔を通じて苗を植え付けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のマルチングシート材及びマルチングシート材敷設方法は、水田の土壌を被覆するためのマルチングシート材及びマルチングシート材敷設方法等として有用である。
【符号の説明】
【0042】
1 敷設機
11 自走車体
12 シート材敷設装置
13 苗植付装置
MS マルチングシート材
E 土壌
W 水
図1
図2
図3
図4