特許第5869932号(P5869932)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5869932鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物及び鍵盤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5869932
(24)【登録日】2016年1月15日
(45)【発行日】2016年2月24日
(54)【発明の名称】鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物及び鍵盤
(51)【国際特許分類】
   G10C 3/12 20060101AFI20160210BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20160210BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20160210BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20160210BHJP
【FI】
   G10C3/12 300
   C08L33/04
   C08L51/04
   C08L77/00
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-72162(P2012-72162)
(22)【出願日】2012年3月27日
(65)【公開番号】特開2013-203806(P2013-203806A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】399034220
【氏名又は名称】日本エイアンドエル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤原 隆祥
(72)【発明者】
【氏名】小阪 将太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 寛城
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−147146(JP,A)
【文献】 特開昭57−147539(JP,A)
【文献】 特開平01−315461(JP,A)
【文献】 特開昭62−158757(JP,A)
【文献】 特開2009−139512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10C 3/12
C08L 1/00 − 101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフト共重合体(A)と(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)を含む鍵盤用ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物であって、グラフト共重合体(A)はゴム状重合体の存在下に(メタ)アクリル酸エステル系単量体と必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られるグラフト共重合体であり、(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)は(メタ)アクリル酸エステル系単量体、必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られる重合体であり、ゴム強化熱可塑性樹脂組成物100重量部中にゴム状重合体が10〜25重量部含まれることを特徴とする鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
グラフト共重合体(A)のゴム状重合体とグラフト共重合する単量体に関して、(メタ)アクリル酸エステル系単量体20〜100重量%、その他の共重合可能な他のビニル系単量体0〜80重量%((メタ)アクリル酸エステル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体の合計は100重量%)の組成比率であって、(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)の単量体に関して、(メタ)アクリル酸エステル系単量体50〜100重量%、共重合可能な他のビニル系単量体0〜50重量%((メタ)アクリル酸エステル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体の合計は100重量%)の組成比率であることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかに記載のゴム強化熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して、ポリアミド樹脂(C)1〜30重量部を配合する事を特徴とする鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる鍵盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性、流動性等の物性バランスだけでなく、打鍵音の高級感と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物及び該樹脂組成物を用いた鍵盤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にピアノ、オルガン、アコーディオン等の鍵盤楽器の鍵盤素材としては、旧来、白鍵は象牙、黒鍵は黒檀を用いることがあった。白鍵に用いる象牙は、適度な吸湿性、適度な及び表面硬度と摩擦係数を有し、演奏時における指の感触が非常によいため、鍵盤コントロールがしやすい理想的な鍵盤素材とされていた。しかし近年、希少動植物の国際的な取引を規制するワシントン条約により象牙の輸入が禁止され、事実上使用困難となった。そのため現在は、樹脂素材の鍵盤が一般的に用いられている。
【0003】
樹脂製鍵盤は射出成形などによって効率的・合理的な生産が可能であり、用いる樹脂材料としては、一般的にアクリル樹脂やスチレン系樹脂(AS樹脂、ABS樹脂、PS樹脂など)が用いられているが、さらに従来の象牙のような高級感、タッチ感、演奏性、および吸水寸法変化に優れ、耐傷付き性、耐薬品性の高い鍵盤を得ることを目的に、例えば特許文献1〜3のような鍵盤、および鍵盤用樹脂素材が提案されている。
【0004】
しかし、これら素材で得られた鍵盤で演奏した場合、演奏者が打鍵した時に爪などが鍵盤表面に当たって発する音が旧来の象牙のような低く鈍い音ではなく、樹脂製鍵盤特有の甲高い音が耳障りで高級感が感じられないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−139512号公報
【0006】
【特許文献2】特開平8−179756号公報
【0007】
【特許文献3】特開2009−42663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、耐衝撃性、流動性等の物性バランスだけでなく、打鍵音の高級感と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物及び該樹脂組成物から得られた鍵盤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述の問題点を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定の構造を有するグラフト共重合体と共重合体を含有するゴム強化熱可塑性樹脂組成物とする事により、上記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明はグラフト共重合体(A)と(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)を含む鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物であって、グラフト共重合体(A)はゴム状重合体の存在下に(メタ)アクリル酸エステル系単量体と必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られるグラフト共重合体であり、(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)は(メタ)アクリル酸エステル系単量体、必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られる重合体であり、ゴム強化熱可塑性樹脂組成物100重量部中にゴム状重合体が10〜25重量部含まれることを特徴とする鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のゴム強化熱可塑性樹脂組成物を用いることで、鍵盤楽器の鍵盤において、演奏者が打鍵した時に爪などが鍵盤表面に当たって発する音を低音化することにより高級感を与えるだけでなく、傷が付きにくくかつ十分な強度を有する鍵盤を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物につき詳細に説明する。
本発明は、グラフト共重合体(A)と(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)を含むゴム強化熱可塑性樹脂組成物である。
【0013】
本発明において使用されるグラフト共重合体(A)とは、ゴム状重合体の存在下に(メタ)アクリル酸エステル系単量体と必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られるグラフト共重合体である。
【0014】
グラフト共重合体(A)に用いられるゴム状重合体としては、特に制限はないが、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)ブロックコポリマー、スチレン−(エチレン−ブタジエン)−スチレン(SEBS)ブロックコポリマー、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ブチルアクリレート−ブタジエン等のジエン系ゴム、アクリル酸ブチルゴム、ブタジエン−アクリル酸ブチルゴム、アクリル酸2−エチルヘキシル−アクリル酸ブチルゴム、メタクリル酸2−エチルヘキシル−アクリル酸ブチルゴム、アクリル酸ステアリル−アクリル酸ブチルゴム、ポリオルガノシロキサン−アクリル酸ブチル複合ゴム等のアクリル系ゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム等のポリオレフィン系ゴム重合体、ポリオルガノシロキサン系ゴム等のシリコン系ゴム重合体が挙げられ、これらは一種又は二種以上用いることができる。特に、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリル酸ブチルゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴムが好ましい。
【0015】
グラフト共重合体(A)に用いられる(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルフェニル、(メタ)アクリル酸ブロモフェニル、(メタ)アクリル酸ジブロモフェニル、(メタ)アクリル酸2,4,6−トリブロモフェニル、(メタ)アクリル酸モノクロルフェニル、(メタ)アクリル酸ジクロルフェニル、(メタ)アクリル酸トリクロルフェニル等を例示でき、一種又は二種以上用いることができる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体として、特にメタクリル酸メチルが好ましい。
【0016】
グラフト共重合体(A)に用いることが出来る共重合可能な他のビニル系単量体としては、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、マレイミド系単量体、アミド系単量体等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン及びジメチルスチレン等を例示でき、シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリル等を例示でき、マレイミド系単量体としてはN−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等を例示でき、アミド系単量体としてはアクリルアミド、メタクリルアミド等を例示できる。
【0017】
グラフト共重合体(A)に用いられるゴム状重合体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体、その他の共重合可能な他のビニル系単量体の構成割合については特に制限はないが、物性バランスの面から、グラフト共重合体(A)100重量部中にゴム状重合体が5〜70重量部含まれる事が好ましく、10〜60重量部含まれることがより好ましい。
【0018】
ゴム状重合体とグラフト共重合する単量体に関して、目的を損なわない範囲内において、(メタ)アクリル酸エステル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体の使用割合に特に制限はないが、物性バランスの面から、(メタ)アクリル酸エステル系単量体20〜100重量%、共重合可能な他のビニル系単量体0〜80重量%であることが好ましく、(メタ)アクリル酸エステル系単量体40〜100重量%、共重合可能な他のビニル系単量体0〜60重量%であることがより好ましい。
【0019】
共重合可能な他のビニル系単量体として芳香族ビニル系単量体を用いる場合は(メタ)アクリル酸エステル系単量体30〜95重量%、芳香族ビニル系単量体5〜70重量%、共重合可能な他のビニル系単量体0〜25重量%であることが好ましく、(メタ)アクリル酸エステル系単量体50〜85重量%、芳香族ビニル系単量体15〜50重量%、共重合可能な他のビニル系単量体0〜15重量%であることがより好ましい。
【0020】
グラフト共重合体(A)のグラフト共重合の際に(メタ)アクリル酸エステル系単量体を用いなかった場合は、低音化特性と耐傷性に劣る結果となる。
【0021】
グラフト共重合体(A)を構成するゴム状重合体の重量平均粒子径について特に制限はないが、物性バランスの面から0.05〜2.0μmであることが好ましく、0.1〜1.0μmであることがより好ましい。
【0022】
グラフト共重合体(A)のグラフト率(グラフト共重合体のアセトン可溶分量と不溶分量及びグラフト共重合体中のゴム状重合体の重量から求める。)、及びアセトン可溶分の還元粘度(0.4g/100cc、N,Nジメチルホルムアミド溶液として30℃で測定)に特に制限はなく、要求性能によって任意の構造のものを使用することができるが、物性バランスの面から、グラフト率は5〜150%であることが好ましく、還元粘度は0.2〜2.0dl/gであることが好ましい。
【0023】
グラフト共重合体(A)の重合方法については特に制限はなく、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合またはこれらの組み合わせにより製造することができる。
【0024】
本発明で用いられる(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)は、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合することで得られるが、用いられる単量体としては、グラフト共重合体(A)の項で例示した単量体と同様ものを使用することができる。
【0025】
(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)の組成比率について特に制限はないが、打鍵時の低音化特性と耐傷性の観点から、(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)を基準(100重量%)として(メタ)アクリル酸エステル系単量体が50〜100重量%、共重合可能な他のビニル系単量体0〜50重量%であることが好ましく、(メタ)アクリル酸エステル系単量体60〜100重量%、共重合可能な他のビニル系単量体0〜40重量%であることがより好ましい。芳香族ビニル系単量体を用いる場合は、(メタ)アクリル酸エステル系単量体50〜95重量%、芳香族ビニル系単量体5〜50重量%、共重合可能な他のビニル系単量体0〜25重量%であることが好ましく、(メタ)アクリル酸エステル系単量体60〜85重量%、芳香族ビニル系単量体15〜40重量%、共重合可能な他のビニル系単量体0〜15重量%であることがより好ましい。(メタ)アクリル酸エステル系単量体を用いなかった場合は低音化特性と耐傷性に劣る結果となる。
【0026】
(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)の重合方法については特に制限はなく、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合またはこれらの組み合わせにより製造することができる。
【0027】
本発明の鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物はグラフト共重合体(A)と(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)を含むが、鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物100重量部中にゴム状重合体が10〜25重量部含まれている限り、グラフト共重合体(A)と(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)の使用割合に制限は無い。つまり、グラフト共重合体(A)のグラフト共重合の際に副生成される(メタ)アクリル酸エステル系重合体が(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)と同様の役割を有する場合は(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)を用いなくても良い。ゴム状重合体が10重量部未満では耐衝撃性及び低音化特性に劣り、25重量部を超えると耐傷性に劣る。低音化特性の観点から、ゴム状重合体は13〜23重量部含まれていることが好ましく、15〜20重量部含まれていることがより好ましい。
【0028】
(メタ)アクリル酸エステル系重合体の還元粘度(0.4g/100cc、N,Nジメチルホルムアミド溶液として30℃で測定)について特に制限はないが、0.3〜1.2dl/gの範囲であることが好ましい。なお、還元粘度は、重合温度、単量体の添加方法、使用する開始剤および例えばt−ドデシルメルカプタン等の重合連鎖移動剤の種類および量により適宜調整することができる。
【0029】
本発明の鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物は該樹脂組成物100重量部に対してポリアミド樹脂(C)を1〜30重量部配合する事が出来る。ポリアミド樹脂(C)を配合する事で、吸湿性(吸汗性)が優れる結果となる。吸湿性(吸汗性)の面からポリアミド樹脂は10重量部以上用いる事が好ましく、物性バランスを考慮すると15〜25重量部用いる事がより好ましい。
【0030】
本発明で用いられるポリアミド樹脂(C)としては、ナイロン3、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン116、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6I、ナイロン6/66、ナイロン6T/6I、ナイロン6/6T、ナイロン66/6T、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ナイロン11T、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド等が挙げられる。なお、上記”I”はイソフタル酸成分、”T”はテレフタル酸成分を示す。これらのうち、特にナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12を用いる事が好ましい。
【0031】
本発明において、ポリアミド樹脂(C)を用いる場合はゴム強化熱可塑性樹脂組成物とポリアミド樹脂を相溶させるための相溶化剤として、不飽和カルボン酸変性共重合体を用いる事が出来る。不飽和カルボン酸変性共重合体とは、不飽和カルボン酸単量体、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を共重合することで得られる共重合体である。
【0032】
不飽和カルボン酸変性共重合体を構成する不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられ、一種又は二種以上使用できるが、特にメタクリル酸が好ましい。
【0033】
不飽和カルボン酸変性共重合体中に含まれる不飽和カルボン酸単量体の含有量に特に制限はないが、物性バランスの観点から不飽和カルボン酸変性共重合体100重量部中に1〜20重量部含まれていることが好ましく、3〜15重量部含まれていることがより好ましい。
【0034】
不飽和カルボン酸変性共重合体を構成する芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、共重合可能な他の単量体としては、グラフト共重合体(A)で用いられる単量体と同様のものを用いることができる。
【0035】
不飽和カルボン酸変性共重合体の製造においては公知の乳化重合法、塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法を採用することができる。不飽和カルボン酸変性共重合体の還元粘度(0.4g/100cc、N,Nジメチルホルムアミド溶液として30℃で測定)については特に制限はないが、0.2〜1.2dl/gであることが好ましい。
【0036】
ポリアミド樹脂(C)を用いる場合は、本発明のゴム強化熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して、不飽和カルボン酸変性共重合体を1〜10重量部用いる事が好ましい。
【0037】
本発明の鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて各種添加剤、例えば公知の酸化防止剤、光安定剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、着色剤、抗菌剤、難燃剤、艶消し剤及び充填剤等を適宜添加することができる。
【0038】
本発明の鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物は単独で使用できるが、目的を損なわない範囲において他の熱可塑性樹脂と混合して使用することもできる。このような他の熱可塑性樹脂として、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリ乳酸樹脂、ゴム強化ポリスチレン樹脂(HIPS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ポリブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル−エチレン・プロピレン−スチレン樹脂(AES樹脂)及びアクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン樹脂(AAS樹脂)等を例示できる。
【0039】
上記のとおり、本発明の鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物は必要に応じて各種添加剤及びその他の熱可塑性樹脂の成分を混合することで得ることができるが、混合するために、例えば、押出し機、ロール、バンバリーミキサー及びニーダー等の公知の混練装置を用いることができる。
【0040】
さらに、本発明の鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物は、公知の成形方法により成形することができ、本発明の鍵盤を得ることが出来る。
【0041】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。なお、実施例中にて示す部及び%は重量に基づくものである。
【実施例】
【0042】
−グラフト共重合体(A−1)の製造−
窒素置換した反応器にスチレン−ブタジエンゴムラテックス(スチレン5重量%、重量平均粒子径0.25μm)50部(固形分)、水150部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.1部、硫酸第1鉄0.001部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部を入れ、60℃に加熱後、スチレン15部、メタクリル酸メチル35部及びキュメンハイドロパーオキサイド0.2部からなる混合物を3時間に亘り連続的に添加し、更に60℃で2時間重合した。その後、塩析・脱水・乾燥後、グラフト共重合体(A−1)を得た。
【0043】
−グラフト共重合体(A−2)の製造−
窒素置換した反応器にスチレン−ブタジエンゴムラテックス(スチレン5重量%、重量平均粒子径0.25μm)50部(固形分)、水150部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.1部、硫酸第1鉄0.001部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部を入れ、60℃に加熱後、スチレン35部、アクリロニトリル15部及びキュメンハイドロパーオキサイド0.2部からなる混合物を3時間に亘り連続的に添加し、更に60℃で2時間重合した。その後、塩析・脱水・乾燥後、グラフト共重合体(A−2)を得た。
【0044】
−(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B−1)−
(メタ)アクリル酸エステル系重合体として、PMMA樹脂であるスミペックスLG2(住友化学株式会社製)を用いた。
【0045】
−(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B−2)の製造−
公知の塊状重合法により、メタクリル酸メチル75部、スチレン25部を共重合することで、(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B−2)を得た。
【0046】
−ポリアミド樹脂(C)−
ポリアミド樹脂として、ナイロン6 A1030BRL(ユニチカ株式会社製)を用いた。
【0047】
−スチレン系共重合体の製造−
公知の塊状重合法により、アクリロニトリル25重量部、スチレン75重量部を共重合することでスチレン系共重合体を得た。
【0048】
−不飽和カルボン酸変性共重合体の製造−
公知の乳化重合法により、メタクリル酸3部、スチレン67部、アクリロニトリル30部を共重合することで不飽和カルボン酸変性共重合体を得た。
【0049】
<実施例1〜6及び比較例1〜6>
表1に示す配合割合でグラフト共重合体(A)、(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)、ポリアミド樹脂(C)、不飽和カルボン酸変性共重合体、スチレン系共重合体を混合し、白色着色剤として酸化チタンを3.2重量部添加し、40mmφ単軸押出し機を用いて200〜230℃で溶融混練し、ペレットを得た。
得られたペレットにつきJSW社製J−150E−P射出成形機を用い、シリンダー設定温度220〜240℃にて各試験片を作成し、次の各評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0050】
耐衝撃性
ISO179に準じてノッチ付シャルピー衝撃強度を測定した。単位:kJ/m
【0051】
引張降伏ひずみ
ISO527に準じて引張降伏ひずみを測定した。単位:%
【0052】
流動性
ISO1133に準じてメルトボリュームレイトを測定した。
220℃×10kg、単位:cm/10min
【0053】
低音化特性
厚さ2mmの射出成形された板状試験片を用い、23℃、湿度50%RH下において、掴みしろを一定にして片持ち梁状に固定し、梁の先端中央部を金属棒で一定の力で叩いた際に発する音の低さ・鈍さを下記のように判定し、低音化の度合いを評価した。
極めて低く、鈍い音を発した:5点
比較的低く、鈍い音を発した:4点
比較的甲高く、鈍い音を発した:3点
より甲高く、響く音を発した:2点
極めて甲高く、響く音を発した:1点
【0054】
吸湿性
ISO62 A法に準じて吸水率を求めた。単位:%
【0055】
耐傷性
往復磨耗試験機(新東科学株式会社製、製品名 トライボギア TYPE:30S)を用い、先端部が直径27mmの圧子にかなきん3号(JIS L 0803準拠)の綿布をセットし、500g一定荷重下で、成形品表面を20往復(速度600mm/分)摩擦した。試験後、目視にて成形品の表面の傷を確認し、下記の判定により耐傷付き性の評価を行った。
傷が全く見られない:◎
傷がほとんど見られない:○
傷がかすかに見られる:△
傷が明確に見られる:×
【0056】
【表1】
【0057】
表1の実施例1〜6に示すように、本発明に関わるゴム強化熱可塑性樹脂組成物を用いた場合は、耐衝撃性、流動性等の物性バランスだけでなく低音化効果、耐傷性に優れていた。また、実施例5及び6に示すようにポリアミド樹脂を用いることで、吸湿性も優れたゴム強化熱可塑性樹脂組成物を得ることが出来た。
【0058】
グラフト共重合体を用いていない比較例1及び2は、耐衝撃性及び低音化特性に劣る結果であった。本発明に関わるグラフト共重合体(A)又は(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)を用いていない比較例3〜5は、耐傷性及び低音化特性に劣る結果であった。ゴム状重合体の含有量が25重量部を超える比較例6では、耐傷性に劣る結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上のとおり、本発明の鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物から得られた鍵盤は、演奏者が打鍵した際に爪などが鍵盤表面に当たって発する音を低音化することにより高級感を与え、かつ適正な製品強度を有しているため、鍵盤楽器としての付加価値が高い。