特許第5869937号(P5869937)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5869937細胞培養液の液面高さの測定方法および測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5869937
(24)【登録日】2016年1月15日
(45)【発行日】2016年2月24日
(54)【発明の名称】細胞培養液の液面高さの測定方法および測定装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20160210BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20160210BHJP
【FI】
   C12M3/00 A
   C12M1/00 C
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-77791(P2012-77791)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-202031(P2013-202031A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年12月15日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成23年度、独立行政法人科学技術振興機構、内閣府最先端研究開発支援プログラムに係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大浦 光宏
(72)【発明者】
【氏名】久保 寛嗣
(72)【発明者】
【氏名】岡野 光夫
(72)【発明者】
【氏名】清水 達也
【審査官】 山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5681548(JP,B2)
【文献】 特開昭61−052274(JP,A)
【文献】 特公平06−034754(JP,B2)
【文献】 特開2002−257618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養器に収容された細胞培養液の液面高さを測定する方法であって、
前記細胞培養液は、
第1の吸収ピークを300〜800nmの波長領域内に有するウシ胎児血清または仔ウシ血清である第1の物質と、
pHによらず吸光度が一定値に収束する第1の収束点と第2の収束点を、前記波長領域内に有するフェノールレッド、ブロモフェノールブルー、ブロモチモールブルーのいずれかである第2の物質とを含んでおり、
互いに波長が異なる4種の光から選択された少なくとも2種の光を細胞培養液に照射し、
前記4種の光は、
前記第1の吸収ピークに対応する波長を有する光と、
前記第1の収束点に対応する波長を有する光と、
前記第2の収束点に対応する波長を有する光と、
前記第1物質と前記第2の物質の少なくとも一方の吸光度がpHによらず一定値に収束する波長を有する光とを含んでおり、
前記細胞培養液について、前記4種の光から選ばれた第1の光に対する第1の吸光度と前記4種の光から選ばれた第2の光に対する第2の吸光度を測定し、
前記第1の吸光度と前記第2の吸光度に基づいて前記細胞培養液の液面高さを特定する、測定方法。
【請求項2】
細胞培養器に収容された細胞培養液の液面高さを測定する方法であって、
前記細胞培養液は、
第1の吸収ピークを300〜800nmの波長領域内に有するウシ胎児血清または仔ウシ血清である第1の物質と、
第2の吸収ピークまたはpHによらず吸光度が一定値に収束する第1の収束点、および第3の吸収ピークまたはpHによらず吸光度が一定値に収束する第2の収束点を、前記波長領域内に有するフェノールレッド、ブロモフェノールブルー、ブロモチモールブルーのいずれかである第2の物質とを含んでおり、
互いに波長が異なる4種の光を前記細胞培養液に照射し、
前記4種の光は、
前記第1の吸収ピークに対応する波長を有する光と、
前記第2の吸収ピークまたは前記第1の収束点に対応する波長を有する光と、
前記第3の吸収ピークまたは前記第2の収束点に対応する波長を有する光と、
前記第1の物質と前記第2の物質の少なくとも一方の吸光度がpHによらず一定値に収束する波長を有する光とを含んでおり、
前記細胞培養液について前記4種の光の吸光度を測定することにより、前記細胞培養液の液面高さを特定する、測定方法。
【請求項3】
前記細胞培養液について前記4種の光の吸光度を測定することにより、前記細胞培養液のpHが特定される、請求項1または2に記載の測定方法。
【請求項4】
細胞培養器に収容された細胞培養液の液面高さを測定する装置であって、
互いに波長が異なる4種の光から選択された少なくとも2種の光を出射する発光部と、
前記細胞培養液を通過した前記少なくとも2種の光を受光する受光部と、
前記受光部が受光した前記少なくとも2種の光の強度に基づいて、前記細胞培養液の前記4種の光から選択された第1の光に対する第1の吸光度と前記4種の光から選択された第2の光に対する第2の吸光度を測定する測定部と、
前記第1の吸光度と前記第2の吸光度に基づいて前記細胞培養液の液面高さを特定する演算部とを備え、
前記細胞培養液は、
第1の吸収ピークを300〜800nmの波長領域内に有するウシ胎児血清または仔ウシ血清である第1の物質と、
pHによらず吸光度が一定値に収束する第1の収束点と第2の収束点を、前記波長領域内に有するフェノールレッド、ブロモフェノールブルー、ブロモチモールブルーのいずれかである第2の物質とを含んでおり、
前記4種の光は、
前記第1の吸収ピークに対応する波長を有する光と、
前記第1の収束点に対応する波長を有する光と、
前記第2の収束点に対応する波長を有する光と、
前記第1物質と前記第2物質の少なくとも一方の吸光度がpHによらず一定値に収束する波長を有する光とを含んでいる、
測定装置
【請求項5】
細胞培養器に収容された細胞培養液の液面高さを測定する装置であって、
互いに波長が異なる4種の光を出射する発光部と、
前記細胞培養液を通過した前記種の光を受光する受光部と、
前記受光部が受光した前記種の光の強度に基づいて、前記細胞培養液の前記4種の光の吸光度を測定する測定部と、
前記4種の光の吸光度に基づいて前記細胞培養液の液面高さを特定する演算部とを備え、
前記細胞培養液は、
第1の吸収ピークを300〜800nmの波長領域内に有するウシ胎児血清または仔ウシ血清である第1の物質と、
第2の吸収ピークまたはpHによらず吸光度が一定値に収束する第1の収束点、および第3の吸収ピークまたはpHによらず吸光度が一定値に収束する第2の収束点を、前記波長領域内に有するフェノールレッド、ブロモフェノールブルー、ブロモチモールブルーのいずれかである第2の物質とを含んでおり、
前記4種の光は、
前記第1の吸収ピークに対応する波長を有する光と、
前記第2の吸収ピークまたは前記第1の収束点に対応する波長を有する光と、
前記第3の吸収ピークまたは前記第2の収束点に対応する波長を有する光と、
前記第1物質と前記第2物質の少なくとも一方の吸光度がpHによらず一定値に収束する波長を有する光とを含んでいる、
測定装置。
【請求項6】
前記発光部は、前記細胞培養液に対して第1の側に配置されており、前記受光部は、前記第1の側と反対の第2の側に配置されている、請求項4または5に記載の測定装置。
【請求項7】
前記発光部から出射された光を反射する反射部をさらに備え、
前記発光部と前記受光部は、前記細胞培養液に対して第1の側に配置されており、前記反射部は、前記第1の側と反対の第2の側に配置されている、請求項4または5に記載の測定装置。
【請求項8】
前記発光部は前記4種の光を出射し、 前記演算部は、前記測定部が測定した前記4種の光の吸光度に基づいて前記細胞培養液のpHを特定する、請求項から7のいずれか一項に記載の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養器に収容された細胞培養液の液面高さを測定する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養器に所定の量の細胞培養液が分注されたかを判断する方法として、電子天秤を用いて細胞培養器の重量変化を測定する方法が知られている。また発光部と受光部からなる光センサを設け、液面が所定の高さに達したときに受光強度が変化することを利用する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−294514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子天秤は装置が大型かつ高価であり、測定する空間に生ずるわずかな気流によっても計測値が変化する。また光センサを用いる方法の場合、複数種の液面高さを検出するためには、その数の分だけ光センサを設ける必要がある。したがって測定装置の大型化や高コスト化が避けられない上に、検出できる液面の高さは離散的にならざるを得ない。
【0005】
よって本発明は、測定装置の大型化や高コスト化を回避しつつ、細胞培養液の液面高さを連続的に測定可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明がとりうる第1の態様は、細胞培養器に収容された細胞培養液の液面高さを測定する方法であって、
第1の波長を有する第1の光と第2の波長を有する第2の光を含む少なくとも2種の光を細胞培養液に照射し、
前記細胞培養液について、前記第1の光に対する第1の吸光度と前記第2の光に対する第2の吸光度を測定し、
前記第1の吸光度と前記第2の吸光度に基づいて前記細胞培養液の液面高さを特定する。
【0007】
このような構成によれば、測定した複数の吸光度より吸光に係る光路長(液面高さ)が求まるので、互いに異なる波長を有する複数種の光を細胞培養液に照射するのみで、液面高さについて連続的な測定値を得ることができる。また電子天秤のように測定空間に生じた気流等により測定値が変動してしまうこともない。したがって細胞培養器に分注された細胞培養液の量を正確かつ迅速に把握することができる。
【0008】
前記少なくとも2種の光は、前記細胞培養液の種類に応じて、互いに波長が異なる4種の光から選択すればよい。
【0009】
前記細胞培養液は、
第1の吸収ピークを300〜800nmの波長領域内に有する第1の物質と、
第2の吸収ピークまたはpHによらず吸光度が一定値に収束する第1の収束点、および第3の吸収ピークまたはpHによらず吸光度が一定値に収束する第2の収束点を、前記波長領域内に有する第2の物質とを含んでおり、
前記4種の光は、
前記第1の吸収ピークに対応する波長を有する光と、
前記第2の吸収ピークまたは前記第1の収束点に対応する波長を有する光と、
前記第3の吸収ピークまたは前記第2の収束点に対応する波長を有する光と、
前記第1の物質と前記第2の物質の少なくとも一方の吸光度がpHによらず一定値に収束する波長を有する光とを含んでおり、
前記細胞培養液について前記4種の光の吸光度を測定することにより、前記細胞培養液のpHが特定される構成とすることができる。
【0010】
この場合、細胞培養液のpHの測定と液面高さの測定を同時に行なうことができる。
【0011】
例えば、前記第1の物質としてはウシ胎児血清または仔ウシ血清を用いることができ、前記第2の物質としてはフェノールレッドを用いることができる。
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明がとりうる第2の態様は、細胞培養器に収容された細胞培養液の液面高さを測定する装置であって、
第1の波長を有する第1の光と第2の波長を有する第2の光を含む少なくとも2種の光を出射する発光部と、
前記細胞培養液を通過した前記少なくとも2種の光を受光する受光部と、
前記受光部が受光した前記少なくとも2種の光の強度に基づいて前記細胞培養液の前記第1の光に対する第1の吸光度と前記第2の光に対する第2の吸光度を測定する測定部と、
前記第1の吸光度と前記第2の吸光度に基づいて前記細胞培養液の液面高さを特定する演算部とを備える。
【0013】
このような構成によれば、測定した複数の吸光度より吸光に係る光路長(液面高さ)が求まるので、互いに異なる波長を有する複数種の光を細胞培養液に照射するのみで、液面高さについて連続的な測定値を得ることができる。また電子天秤のように測定空間に生じたわずかな気流等により測定値が変動してしまうこともない。したがって細胞培養器に分注された細胞培養液の量を正確かつ迅速に把握することができる。さらに一組の発光部と受光部を設けるのみで所望の測定値を得ることができるため、装置の大型化や高コスト化を回避することができる。
【0014】
前記発光部は、前記細胞培養液に対して第1の側に配置されており、前記受光部は、前記第1の側と反対の第2の側に配置されている構成とすることができる。あるいは、前記発光部から出射された光を反射する反射部をさらに備え、前記発光部と前記受光部は、前記細胞培養液に対して第1の側に配置されており、前記反射部は、前記第1の側と反対の第2の側に配置されている構成とすることができる。
【0015】
前記発光部は互いに波長の異なる4種の光を出射し、前記演算部は、前記測定部が測定した前記4種の光の吸光度に基づいて前記細胞培養液のpHを特定する構成とすることができる。
【0016】
この場合、発光部と受光部を細胞培養液の液面高さ測定とpH測定に兼用することができるため、装置の小型化や低コスト化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1の実施形態に係る測定装置の構成を示す機能ブロック図である。
図2】ウシ胎児血清(FBS)とフェノールレッドの吸光スペクトルを示す図である。
図3】558nm付近の波長の光に対するフェノールレッドの吸光係数とpHの関係を示す図である。
図4】本発明の第2の実施形態に係る測定装置の構成を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態を添付の図面を参照しつつ以下詳細に説明する。なお以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0019】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る測定装置10の構成を示す機能ブロック図である。測定装置10は、制御部11、発光部12、受光部13、測定部14、および演算部15を備えている。
【0020】
制御部11は、CPU等の演算素子、およびRAMやROM等のメモリを備える演算処理回路である。測定部14および演算部15としての機能は、回路素子等のハードウェアの動作、演算素子に格納されたプログラム等のソフトウェアの動作、あるいはこれらの組合せにより実現されうる。
【0021】
発光部12は、互いに波長の異なる4種の光を出射可能な発光ダイオードを備えている。発光部12は、制御部11より電力と駆動信号の供給を受けて所定の波長を有する光を順次出射する。波長の具体的な値については後述する。
【0022】
受光部13は、フォトダイオードを備えている。受光部13は、発光部12から順次出射された光を受光し、各波長ごとの受光強度に応じた信号を出力可能に構成されている。
【0023】
測定装置10においては、細胞培養液20が収容された細胞培養器30が、発光部12と受光部13の間に配置される。すなわち発光部12は細胞培養液20に対して第1の側に配置されており、受光部13は第1の側とは反対の第2の側に配置されている。発光部12と受光部13は、細胞培養液20を挟んで対向配置されているとも言える。
【0024】
発光部12から出射された各波長の光は、細胞培養液20を通過することにより吸収を受けて強度が変化する。測定部14は、発光部12が出射した光の強度と受光部13が受光した光の強度とに基づいて、各波長の光について細胞培養液20の吸光度を測定する。
【0025】
本実施形態の細胞培養液20は、第1の物質としてのウシ胎児血清(FBS)と、第2の物質としてのフェノールレッド(PR)を含んでいる。FBSは細胞を増殖させるための因子であり、PRは細胞培養液20のpHを検出するための指示薬である。
【0026】
発光部12が出射する第1の光の波長λ1は、本発明における第1の吸収ピークとしてのFBSの吸収ピーク(図2参照)に対応するように定められおり、具体的には411nmである。
【0027】
発光部12が出射する第2の光の波長λ2は、本発明における第2の吸収ピークとしてのPRの短波長側吸収ピーク(図2参照)に対応するように定められており、具体的には430nmである。
【0028】
発光部12が出射する第3の光の波長λ3は、本発明における第3の吸収ピークとしてのPRの長波長側吸収ピーク(図2参照)に対応するように定められており、具体的には558nmである。
【0029】
発光部12が出射する第4の光の波長λ4は、FBSおよびPRの吸光度が細胞培養液20のpHによらず一定値に収束する波長(図2参照)に対応するように定められており、具体的には700nmである。
【0030】
測定部14は、受光部13が備える4つの受光素子がそれぞれ受光した波長λ1〜λ4の光の強度に基づいて、当該4種の光に対する細胞培養液20の吸光度Aλ1、Aλ2、Aλ3、Aλ4を測定する。
【0031】
細胞培養液20の各波長の光に対する吸光度Aλ1、Aλ2、Aλ3、Aλ4は、式(1)に示すように、各波長におけるFBSの吸光度、PRの吸光度、および散乱等によるオフセット成分の和として示される。
【0032】
【数1】
【0033】
ここでαFBS_λnは、FBSの波長λnの光に対する吸光係数、αPR_λnは、PRの波長λnの光に対する吸光係数、CFBSはFBSの濃度、CPRはPRの濃度、Dは吸光に係る光路長(液面高さ)、Aoffset_λnは、波長λnの光に係るオフセット成分である。
【0034】
PRの波長λ1の光に対する吸光係数αPR_λ1と他の波長の光に対する吸光係数の関係は一次式で近似可能であることから、αPR_λ1を未知数として式(1)を次のように変形できる。
【0035】
【数2】
【0036】
ここでB0_λnは一次式の傾き、B1_λnは一次式の切片であり、S_λnは、波長λnの光についての係数である。
【0037】
式(2)は、次のように行列式で表すことができる。
【0038】
【数3】
【0039】
式(3)は、さらに次のように変形できる。
【0040】
【数4】
【0041】
演算部15は、上記の演算を通じ、4種の光に対する吸光度Aλ1、Aλ2、Aλ3、Aλ4に基づいて細胞培養液20の液面高さおよびpHを特定する。すなわち(4)式における左辺の3行目に現れるCPR・DにおいてCPRは既知であるため、吸光に係る光路長(液面高さ)Dを特定することができる。Dは細胞培養液20の液面高さに対応する値である。
【0042】
また(4)式の左辺の2行目に現れるαPR_λ1・CPR・DにおいてCPR・Dの値は上記のように特定されるため、吸光係数αPR_λ1の値が定まる。吸光係数αPR_λ1とpHは図3に示す関係にあるため、細胞培養液20のpHの値を特定することができる。
【0043】
特定された液面高さおよびpHの値はデータとして出力され、図示しない記憶部に格納される。あるいは図示しない表示部に表示される。
【0044】
以上より本実施の形態によれば、細胞培養液20に4種の波長λ1〜λ4を有する光を照射して各波長についての吸光度Aλ1〜Aλ4を求めることにより、細胞培養液20の液面高さを測定することができる。所定の液面高さに達したか否かを検出する従来のレベルセンサとは異なり、連続的な測定値を得ることができる。また電子天秤のように測定空間に生じた気流等により測定値が変動してしまうこともない。したがって細胞培養器30に分注された細胞培養液20の量を正確かつ迅速に把握することができる。
【0045】
4種の波長λ1〜λ4を有する光を出射可能な発光部12と、これに対応する受光部13を一組設けるのみで細胞培養液20の液面高さについて連続的な測定値を得ることができる。しかも発光部12と受光部13は細胞培養液20のpHの測定と兼用されるため、装置の大型化や高コスト化を伴うことがない。
【0046】
次に図4を参照しつつ、本発明の第2の実施形態に係る測定装置10Aについて説明する。第1の実施形態に係る測定装置10と同一または同等の構成要素には同一の参照番号を付与し、繰り返しとなる説明は割愛する。
【0047】
測定装置10Aにおいては、発光部12と受光部13が細胞培養器30の上方に配置されている。細胞培養器30は、発光部12から出射された光を反射する反射部としての鏡面16上に載置されている。すなわち発光部12と受光部13は細胞培養液20に対して第1の側に配置されており、鏡面16は第1の側とは反対の第2の側に配置されている。発光部12および受光部13と鏡面16とは、細胞培養液20を挟んで対向配置されているとも言える。
【0048】
発光部12から出射された各波長の光は、鏡面16により反射されつつ細胞培養液20を通過し、受光部13による受光に供されることとなる。
【0049】
このような構成によれば、発光部12と受光部13を測定空間の同じ側に隣接配置することができるため、駆動回路等をコンパクトにまとめることができ、さらなる装置の小型化に寄与する。
【0050】
上記の実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであって、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく変更・改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは明らかである。
【0051】
4種の光を用いる場合において、第2の波長λ2および第3の波長λ3は、PRの吸収ピークに対応する波長に限られない。これに代えて、PRの吸光度がpHによらず一定の値に収束する波長に対応する367nmおよび479nmの光を用いてもよい。
【0052】
発光部12が出射する光の波長の数は、4種に限られるものではない。細胞培養液20における未知のパラメータを減らすことにより、少なくとも2種の光によって本発明の測定方法を実現することができる。したがって測定対象の細胞培養液20の種類に応じて(既知のパラメータの種類に応じて)用いる少なくとも2種の光の波長を選定すればよい。
【0053】
例えば、PRの吸光度がpHによらず一定の値に収束する波長に対応する367nmまたは479nmの光と、FBSの吸光度がpHによらず一定の値に収束する波長に対応する700nmの光を用いることにより、pHを未知のパラメータから除外することができる。したがって、(3)式における未知のパラメータはDとAoffsetのみとなる。これらを求めるための演算式は以下のようになり、λ1(700nm)とλ2(367nmまたは479nm)の2波長のみを用いて液面高さの測定を行なうことができる。
【0054】
【数5】
【0055】
またこのことからも判るように、発光部12と受光部13は、必ずしもpHの測定と兼用されることを要しない。
【0056】
細胞培養液20に含まれる第1の物質と第2の物質は、それぞれFBSとPRに限られるものではない。第1の物質は吸収のピークを300〜800nmの波長領域内に有する物質であればよく、例えば仔ウシ血清を用いることができる。
【0057】
第2の物質は、吸収ピークまたはpHによらず吸光度が一定値に収束する点を各々2つ300〜800nmの波長領域内に有する物質であればよい。例えばBPB(ブロモフェノールブルー)やBTB(ブロモチモールブルー)などを用いることができる。
【0058】
複数種の光を出射する発光部12は、必ずしも単一の発光素子で構成されることを要しない。波長ごとに発光素子を設けてもよい。各発光素子から出射される光を受光する受光素子も発光素子ごとに設ける構成としてもよい。
【符号の説明】
【0059】
10:測定装置、12:発光部、13:受光部、14:測定部、15:演算部、16:鏡面、20:細胞培養液、30:細胞培養器、Aλ1〜Aλ4:吸光度、λ1〜λ4:発光部12より出射される光の波長
図1
図2
図3
図4