(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
COを主成分とする転炉ガスを回収フードから回収する際に、転炉炉口と上記回収フードとの空隙部をシールガスにてシールする転炉ガス回収におけるシールガス吹込運転方法において、
転炉ガス回収中のシールガスの流れの変化として、転炉の防熱板を境に内部から外部への風向きが変化した時のシールガス供給流量に対する集塵ダクト吸込流量の比を求め、
上記シールガス供給流量に対する集塵ダクト吸込流量の比が所定値よりも低下した際に、上記シールガスの供給量を低下させるか、または上記シールガスの供給を停止させることを特徴とする転炉ガス回収におけるシールガス吹込運転方法。
上記シールガスの流れの変化を、上記転炉の炉前側に設置されている防熱板の内部観察窓部に風向センサを取り付けて検知する請求項1に記載の転炉ガス回収におけるシールガス吹込運転方法。
上記シールガスの流れの変化を、上記転炉の炉前側に設置されている防熱板の裏側隙間部に風向センサを取り付けて検知する請求項1に記載の転炉ガス回収におけるシールガス吹込運転方法。
集塵ダクトの内部圧力を流量に換算することにより上記集塵ダクト吸込流量を求め、シールガス供給流量に対する上記集塵ダクト吸込流量の比がしきい値よりも低下した場合に、シールガス供給路のゲート弁を調整することによりそのしきい値以上を維持できるまでシールガス供給量を低下させるかまたはシールガス供給路の遮断弁を閉じることによりシールガスの供給を停止させる請求項1に記載の転炉ガス回収におけるシールガス吹込運転方法。
シールガスの供給開始が指令された際にタイマーを起動し、所定の時間を計時し終えるまでに次のシールガスの供給開始指令が与えられない場合に、シールガス供給路の遮断弁を閉じ、上記シールガスの供給を停止させる請求項1〜4のいずれか1項に記載の転炉ガス回収におけるシールガス吹込運転方法。
【背景技術】
【0002】
転炉吹錬過程で大量に発生するCOガス(転炉ガス)は燃焼性が良好であり、通常、2,000Kcal/nm
3程度の潜熱を有しているため、ボイラ、圧延工場、石灰焼成炉等の燃料ガスとして利用されている。
【0003】
転炉ガスを回収する転炉ガス回収装置では、転炉炉口と回収フードとの隙間をできるだけ小さくして転炉ガスの漏出または外気の流入を防止する必要があるため、通常、スカート部が設けられており、さらに、上記転炉炉口と上記回収フードとの隙間はシールガスでシールするようになっている。
【0004】
このような転炉炉口と回収フードとの隙間をシールガスにてシールするに際し、シールガスとしてCO
2を使用し、そのシールガスを積極的に上記転炉ガス回収装置に吸引するシール方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
上記シール方法において、回収される転炉ガス中に対し外気のN
2が全く混入しないようにするためには、どうしても過剰のCO
2を導入してシールを行わなければならず、長期間にわたって大量のCO
2シールを行うと、CO
2は空気よりも比重が重いことから作業床上にCO
2がたちこむことになり換気が不可欠となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、シールガスを吹き込んでシールを行う方法では、シールガスがCO
2、N
2、或いはその他のガスであれ、呼吸に適した濃度の酸素が含まれていない限り少なからず酸素欠乏の危険性が生じてくる。ところが、上記危険性を回避し得る安全なシールガス吹込運転方法はこれまで提案されていない。
【0008】
回収フード内に吸引されてCOと燃焼反応を起こす空気を、CO
2やN
2等の対CO不活性ガスで置換することを目的とした装置は多数提案されている。
【0009】
しかしながら、その吹込み用の不活性ガスは、転炉から発生する転炉ガスの体積流量に対して0.25倍の体積流量が必要となること、また、不活性ガスの吹き込みを行わずに回収フード内でCOと空気由来の酸素が燃焼反応を起こしたとしても回収フードに排熱回収ボイラを設けることで、熱を幾分回収することができることから、現実にはシールガスの安全な吹込運転方法について議論されることはなかった。
【0010】
本願発明者らは、数値解析および模型実験を行うことにより回収フード内に吸引されて転炉ガスと燃焼反応を起こす空気を、N
2やCO
2等の対CO不活性ガスで置換することを目的とする装置の開発を行ってきたが、この装置の開発過程において、過剰な量の不活性ガス吹込みを行った際、不活性ガスが防熱板の観察窓や防熱板裏の隙間を通って、転炉側から作業床側に向かって吹き出す、逆流の発生することを確認している。
【0011】
この不活性ガスの逆流が継続的に生じた場合、転炉周囲の作業環境もその不活性ガスによって置換されてしまい、作業環境の酸素濃度が低下すると酸素欠乏を招くおそれがある。
【0012】
本発明は以上のような従来のシールガス吹込運転方法における課題を考慮してなされたものであり、シールガスとして過剰な不活性ガスを吹き込んでも、また、シールガスが回収フード内に吸引されない事態が発生しても作業環境の酸素濃度低下を防止することができるシールガス吹込運転方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、COを主成分とする転炉ガスを回収フードから回収する際に、転炉炉口と上記回収フードとの空隙部をシールガスにてシールする転炉ガス回収におけるシールガス吹込運転方法において、
転炉ガス回収中のシールガスの流れの変化を検知するか、またはシールガス供給流量に対する集塵ダクト吸込流量を求め、
上記シールガスの流れが変化した際、またはシールガス供給流量に対する集塵ダクト吸込流量が所定値よりも低下した際に、上記シールガスの供給量を低下させるかまたは上記シールガスの供給を停止させる転炉ガス回収におけるシールガス吹込運転方法である。
【0014】
上記シールガスの流れの変化とは、例えば、シールガスの流れる方向が、転炉の防熱板を境として内部から外部へと逆流した場合を意味する。
【0015】
本発明において、上記シールガスの流れの変化は、上記転炉の炉前側に設置されている防熱板の内部観察窓部に風向センサを取り付けることにより検知することができる。
【0016】
また、上記シールガスの流れの変化は、上記転炉の炉前側に設置されている防熱板の裏側隙間部に風向センサを取り付けることによっても検知することができる。
【0017】
本発明において、集塵ダクトの内部圧力を流量に換算することにより上記集塵ダクト吸込流量を求め、シールガス供給流量に対する上記集塵ダクト吸込流量の比がしきい値よりも低下した場合に、シールガス供給路のゲート弁を調整することによりそのしきい値以上を維持できるまでシールガス供給量を低下させるかまたはシールガス供給路の遮断弁を閉じることによりシールガスの供給を停止させることができる。
【0018】
上記のシールガス吹込運転方法において、シールガスの供給開始が指令された際にタイマーを起動し、所定の時間を計時し終えるまでに次のシールガスの供給開始指令が与えられない場合に、シールガス供給路の遮断弁を閉じ、上記シールガスの供給を停止させることができる。
【0019】
なお、本発明において、上記シールガスとしては、上記転炉の吹錬に使用する酸素を空気から分離する際に副生される窒素ガスまたは酸素等の不純物をわずかに含む窒素ガスを使用することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、シールガスとして過剰な不活性ガスを吹き込んでも、また、シールガスが回収フード内に吸引されない事態が発生してもシールガスの吹き込みを安全かつ確実に制御することができるという長所を有する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に示した実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0023】
転炉設備は、傾動可能に構成された転炉、その周囲に設けられた付帯設備、例えば、酸素ガス吹込み用ランス、計測用サブランス、転炉の傾動装置、回収フード等を有しており、これらの転炉設備は建屋内に設置されている。
【0024】
また、建屋の炉前側には開閉式扉型防熱板が設けられており、建屋内において転炉の炉前左右両側と、炉裏左右両側または回収フードの周囲にはそれぞれ集塵ダクトが配設されている。
【0025】
図1(a)は本発明に係るシールガス吹込運転方法を実現するにあたって転炉設備を1/20のスケールで再現した転炉設備模型であり、同図(b)はその転炉設備模型内に収容される転炉、およびその転炉から転炉ガスを回収するための回収フードを示している。
【0026】
両図において、転炉1の炉口1aと転炉ガス回収装置の回収フード2とが対向しており、回収フード2の周囲にはスカート部3が設けられている。
【0027】
なお、上記スカート部3は、円周上等間隔に配設された4本の油圧シリンダ3aによって昇降可能に構成されている。また、転炉1の炉前側には防熱板4が配置されており、この防熱板4には吹錬の状態を監視するための内部観察用窓部(以下、窓部と略称する)4aが二か所設けられている。なお、図中、符号5は集塵ダクトの一部である。
【0028】
転炉1より発生する転炉ガス(LDG)を回収することを想定し、炉口1aと回収フード2との間の大気開放部分にシールガスとしての不活性ガスを吹き込むようになっている。
【0029】
上記転炉設備模型において、転炉を囲んでいる遮蔽壁の隙間部分にタフト(流れの方向を可視化するための吹き流し)を取り付け、上記隙間部分を通過するガスの流れを観測した。
【0030】
1.タフトの計測位置
上記タフトによる計測位置を
図2〜5に示す。
【0031】
図2は第一の計測位置として、炉前側開閉扉型防熱板に設けられている左右の窓部(図中、a、b参照)を示している。
【0032】
図3は第二の計測位置として、防熱板裏(図中c参照)および左右側壁点検窓(図中e参照)を示している。
【0033】
図4は第三の計測位置として、炉前側フロアと転炉胴体との隙間(図中、d参照)および炉裏側フロアと転炉胴体との隙間(図中g参照)を示している。
【0034】
図5は第四の計測位置として、炉裏側の遮蔽壁に設けられている炉裏扉窓(図中、f参照)を示している。
【0035】
第一〜第四の計測位置にてタフトの動きを観察しながら、吹き込む不活性ガス流量(m
3/h)を増加させていき、転炉側(建屋内)から転炉外部(建屋外)の作業空間に向かう方向へと風向きが変化した時の不活性ガス流量(m
3/h)を求めた。
【0036】
この時の不活性ガス流量に対する集塵流量の流量比を取ると、その流量比は不活性ガス流量および集塵流量の絶対値に拘わらずほぼ一定になる。
【0037】
次に、転炉側から転炉外部の作業空間に向かう方向へと風向きが変化する時の状況について説明する。
【0038】
風向きの変化は、安定して転炉側へ吸い込まれていた流れ(内向き)が、ある流量条件から急に転炉側から転炉外部の作業空間に向かう方向(外向き)へと安定して吹き出すように変化するのはなく、安定して転炉側へ吸い込まれていた流れが、ある流量条件からタフトの向きが内向きと外向きとに短い周期で交互に切り替る状態となり、さらに、不活性ガス流量を増加させると、安定して外向きに吹き出すようになる。
【0039】
不活性ガスが逆流を開始する条件を求める今回の試験では、タフトの向きがわずかでも内向きと外向きとの間で交互に切り替る状態になった時の最小の不活性ガス流量を求めた。
【0040】
この試験結果を、不活性ガス流量に対する集塵流量の比で表したものを表1に示す。
【0042】
表1中の符号a〜gは、
図2〜5中に示した計測位置a〜gと対応している。
【0043】
ただし、表1において、aおよびbはともに防熱板の窓であるが、aは両方の防熱板の窓部が開いている場合とし、bは片側の防熱板の窓部が開いているものとする。
【0044】
また、タフトが逆流を示した時の最小炉前集塵流量/不活性ガス流量の比から分かるように、a防熱板の窓部における最小炉前集塵流量/不活性ガス流量の比は4.28であるのに対し、bでは同じく4.06であり、防熱板の窓部の片側のみ開いている場合は、両側の窓部が開いている場合に比べ、逆流が発生しにくくなる。
【0045】
このように、表1に示した最小炉前集塵流量/不活性ガス流量の比は、表1の上から順に吹き出しが発生しやすいことを表している。
【0046】
したがって、最初に不活性ガスが逆流する兆候を捉えるためには、防熱板の窓部の位置(aおよびb参照)にて常時、風向計測と吹き流しによる目視観察を行うことが最適であり、次に、防熱板裏側の隙間部(c参照)で常時、風向計測と吹き流しによる目視観察を行うことが好ましい。
【0047】
また、上述したように、転炉側から転炉外部の作業空間に向かう方向へと風向きが変化した時の不活性ガス流量(シールガス供給流量)を求めると、この時の不活性ガス流量に対する集塵流量(集塵ダクト吸込流量)の比は、不活性ガス流量および集塵流量の絶対値に拘わらずほぼ一定になることから、不活性ガス流量に対してある一定倍率(比率)の集塵流量を確保しておくことが安全対策の本質になる。
【0048】
図6〜
図8は、不活性ガス流量に対する炉前集塵流量の比と、計測位置における平均酸素濃度との関係を測定したグラフである。
【0049】
各グラフにおいて、横軸は炉前集塵流量/不活性ガス流量の比を示し、縦軸は平均酸素濃度(%)を示している。
【0050】
図6のグラフは、防熱板における左右両方の窓部について、
図7のグラフは防熱板右側窓部と左防熱板裏側の隙間部について、
図8のグラフは左防熱板裏側および右防熱板裏側の各隙間部について流量比と酸素濃度の関係を示している。
【0051】
これらのグラフから判断すると、吹き込む不活性ガス流量に対し不活性ガス吹込装置の近くにある炉前集塵ダクト流量が4.1倍以上であれば、転炉側から作業床側へ不活性ガスが吹き出す、逆流の発生しないことが分かる。
【0052】
このように集塵流量を確保することがシールガス吹込運転において重要であることが分かる。したがって、集塵流量の低下を検知し、集塵流量が低下した際に不活性ガス吹込流量を低下させるか、若しくは不活性ガスの吹込みを停止することがシールガスを安全に吹き込む上で有効な手段になる。
【0053】
2.実際の転炉設備への適用
図9は本発明のシールガス吹込運転方法が適用される転炉設備の系統概略図を示したものである。
【0054】
同図において、正立状態にある転炉6の炉口6aに対向して回収フード7が設けられ、この回収フード7はダクト8を介して集塵機9に接続されている。
【0055】
酸素吹錬を行う際は、深冷式空気分離装置10にて原料空気から分離された酸素を、酸素供給路L1の上流側から順番に設けられている酸素圧縮機11、酸素タンク12を介して酸素ランス13に供給するようになっている。
【0056】
また、深冷式空気分離装置10からは、酸素を空気から分離する際に副生される純度の低い廃窒素ガスをシールガス用として取り出すようになっており、シールガス供給路L2の上流側から順に設けられているシールガス圧縮機14、シールガスタンク15、遮断弁16、ゲート弁17を介し、吹込みダクト18にシールガスとして供給するようになっている。
【0057】
上記吹込みダクト18は、上記炉口6aと回収フード7の近くに配置されており、上記隙間の大気開放部分にシールガスを吹き込んで不活性ガス雰囲気に置換するようになっている。
【0058】
上記遮断弁16およびゲート弁17は、吹込運転を行う制御部19によって開閉が制御されるようになっており、上記ゲート弁17によってシールガスの供給量を調整することができ、上記遮断弁16によってシールガスを供給または供給停止することができる。
【0059】
3.シールガス吹込運転方法
3.1 第一のシールガス吹込運転方法
炉前側開閉式扉型防熱板の窓部と炉前側開閉式扉型防熱板の裏とに取り付ける風向計として超音波風向風速センサを使用する。
【0060】
超音波風向風速センサは、風見鶏式風向計と比較して風向変化に対する追従性が極めて速く、計測装置における風向変化時に動く慣性質量がゼロであるために実質的に時定数ゼロで風向変化に対応できるという利点がある。
【0061】
したがって、パタパタと数Hzで風がはためく状況から、数百Hzの速い変動まで十分に追従して吹き出しの兆候を捉えることができる。
【0062】
図10は超音波風向風速センサ20の具体例を示したものである。
【0063】
本実施形態では株式会社セネコム製超音波風向風速センサ 形式SE−8371UMを使用した。その仕様は、風速レンジ:0〜75m/S、分解能:0.1m/s、風向レンジ:0〜360°である。
【0064】
なお、超音波風向風速センサ20から出力される風向信号情報および風速信号情報は、図示しないケーブルを介して運転室の制御システムに送信され、処理されるようになっている。
【0065】
また、
図11は超音波風向風速センサ20の取付位置を示した説明図である。
【0066】
同図において、炉前側開閉式扉型防熱板21には、左側窓部21aと右側窓部21bが設けられており、左側窓部21aと右側窓部21bの上部(符号h参照)に上記構成を有する超音波風向風速センサ20を設置する。
【0067】
上記したように、炉前側開閉式扉型防熱板21の窓部(左側窓部21aと右側窓部21b)に超音波風向風速センサ20を取り付け、風向きが転炉側から転炉外部の溶銑装入用クレーン側に吹き出す方向に変化したことを検知した際に、制御部19はこれをトリガとして警報を報知するとともに、シールガス供給路L2におけるゲート弁17(
図9参照)を閉じる方向に調整し、シールガスの供給量を低下させる。または、遮断弁16を閉じてシールガスの供給そのものを停止させる。それにより、シールガスの吹き込みを安全かつ確実に制御することができる。
【0068】
また、超音波風向風速センサ20は、上記実施形態では炉前側開閉式扉型防熱板の窓部に設置したが、上記したように、炉前側開閉式扉型防熱板21の裏の隙間部分についても最初に吹き出しの兆候を捉えることができるため、超音波風向風速センサ20をその炉前側開閉式扉型防熱板21の裏に設置することもできる。
【0069】
3.2 第二のシールガス吹込運転方法
次に、上記超音波風向風速センサ20に代えて、集塵ダクトの流量やダクト内部圧力の変化に基づいてシールガスの供給を制御する方法について説明する。
【0070】
集塵ダクトの流量は流量計によって計測できるが、本実施形態では流量に換算できるダクト内部圧力の情報として、鉛直方向に配置された集塵ダクトの上流と下流の間で発生する差圧を計測し、その計測値を流量に換算している。
【0071】
集塵ダクト内の流量計測としては、多点ピトー管計測、多点熱線風速計計測、オリフィス流量計計測等、多くの計測方法がある。しかし、集塵ダストが多いためにピトー管では全圧孔が閉塞してしまい、熱線風速計ではフィラメントにダストが簡単に付着して計測誤差が増加してしまい、また、オリフィス流量計ではオリフィス部にダストが堆積する可能性が高い。
【0072】
したがって、本実施形態ではダスト堆積のおそれが極めて少ない鉛直方向に流れる集塵ダクト部の上流と下流の圧力差を計測して集塵ダクトの流量に換算する手法を採用している。
【0073】
ダクト上流下流管の圧力差ΔPは、A:ダクト断面積、D:ダクト相当直径、L:ダクト長さ、ρ:集塵空気密度、U:集塵空気ダクト内平均流速、Q:集塵空気堆積流量=AU を用いると、下記式(1)で表される。
【0075】
式(1)において、λはダクト表面の粗さによって決まる比例定数(摩擦損失係数)である。
【0076】
実際のダクトには凹凸などがあるため、圧力損失のメカニズムは摩擦のみではなくダクト断面変化などによる渦の発生に基づく圧力損失も生じる。
【0077】
この渦の発生の効果も式(1)と同じように流速の二乗に比例すると考えることができるため、ここでの比例定数λは、摩擦と渦発生による両方の圧力損失が合わさった効果を示す比例定数として捉えておく。
【0078】
このように、集塵ダクトの流量を計測する流量計や流量へと換算できる集塵ダクト内部圧力の情報を基に、不活性ガス流量に対する集塵ダクト流量の流量比を求め、その流量比が所定のしきい値よりも低下した場合に、制御部19は警報を報知するとともに、そのしきい値以上を維持できるまでゲート弁17を閉じる方向に調整することで、シールガスの供給量を下げる。または、シールガス供給路L2の遮断弁16を閉じシールガスの供給を停止させる。それにより、シールガスの吹き込みを安全かつ確実に制御することができる。
【0079】
なお、上記しきい値は、
図6、
図7、
図8に示した集塵流量と作業環境における酸素濃度との関係を示すグラフに基づいて、“4.1”に決定される。
【0080】
3.3 第三のシールガス吹込運転方法
第三のシールガス吹込運転方法は、計測器故障を考慮したものである。
【0081】
大規模災害が発生した場合、計測器の故障により超音波風向風速センサ20からの信号情報および集塵ダクト流量計からの信号情報が正常値を示したまま正規の計測位置から脱落してしまうなどの異常計測状態に陥ることが想定される。
【0082】
このような状況、あるいは想定外の事態についても安全策を講じるためには、自動的にシールガス吹込みが停止するような制御を行うことが好ましい。
【0083】
具体的には、転炉での吹錬工程の開始・停止および酸素流量の調整等の操作を行う操作作業員が、常に一定時間毎に、シールガス吹込開始および吹込継続の指令を操作盤上のボタン操作によって行わない限り、制御部19がシールガスの吹込みを停止させるという運転方法である。
【0084】
シールガスの吹込停止は遮断弁16を閉じるだけでなく、シールガス圧縮機14への電力供給をも遮断してシールガスを送る能力を本質的になくすことがより好ましい。なお、シールガスの吹込みが停止しても転炉ガスの回収量が低下するだけであり安全上は全く問題がない。
【0085】
第三のシールガス吹込運転方法では、転炉の吹錬操作作業員が、異常が無い限り、例えば15秒毎にシールガス吹込みボタンを押下することでシールガス吹込運転が継続されるよう運転のプログラムが組まれている。
【0086】
そのために、シールガスの供給開始が指令された際に吹込運転を行う制御部19は、タイマーを起動し、所定の時間を計時し終えるまでに次のシールガスの供給開始指令が与えられない場合には、シールガス供給路L2の遮断弁16を閉じ、上記シールガスの供給を停止させるようにしている。
【0087】
15秒間に吹き込まれるシールガス量の典型値は400m
3になる。この量は炉前側開閉式扉型防熱板、転炉左右の側壁、炉裏壁、回収フード周辺の天井壁およびフロアに囲まれた転炉遮蔽空間容積600m
3〜1,000m
3の40〜67%に相当する。すなわち、転炉遮蔽空間内部だけにシールガスを充満させて外部への漏出を抑えられる流量に相当する。
【0088】
なお、転炉遮蔽空間内は不活性ガス雰囲気になっているため、作業員が立ち入ることはないが、速やかに集塵装置を稼働させ、集塵ダクトを介してその不活性ガスを排出する必要がある。
【0089】
また、上記本実施形態ではシールガス吹込運転方法を個別に説明したが、各シールガス吹込運転方法を組み合わせた運転方法を採用することもできる。
【0090】
例えば、風向きが変化して警報が発せられた際に、集塵ダクトにおける不活性ガス流量に対する集塵ダクト流量の比を求め、求めた流量比がしきい値以上を維持できるまでゲート弁17を閉じる方向に調整し、しきい値以上を維持できない場合、または流量比が正常であってもシールガス吹込みボタンが15秒を超えて押下されない場合に遮断弁16を閉じるように制御することもできる。
【0091】
このシールガス吹込運転方法によれば、シールガス吹込運転転炉ガス回収におけるシールガス吹込運転を最も安全に実施することが可能になる。