特許第5870187号(P5870187)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5870187磁気ディスク用ガラス基板、磁気ディスク、磁気ディスクドライブ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5870187
(24)【登録日】2016年1月15日
(45)【発行日】2016年2月24日
(54)【発明の名称】磁気ディスク用ガラス基板、磁気ディスク、磁気ディスクドライブ装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/73 20060101AFI20160210BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20160210BHJP
【FI】
   G11B5/73
   G11B5/84 Z
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-507585(P2014-507585)
(86)(22)【出願日】2013年2月28日
(86)【国際出願番号】JP2013055592
(87)【国際公開番号】WO2013146089
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2014年7月16日
(31)【優先権主張番号】特願2012-83043(P2012-83043)
(32)【優先日】2012年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506051762
【氏名又は名称】ホーヤ ガラスディスク フィリピン インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】輿水 修
(72)【発明者】
【氏名】大西 勝
(72)【発明者】
【氏名】兼子 祥治
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−293515(JP,A)
【文献】 特開2009−259377(JP,A)
【文献】 特開2010−131695(JP,A)
【文献】 特開平06−248451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/73
G11B 5/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転数が10000回転以上で動作する磁気ディスクドライブ装置に用いられ、一対の主表面と、内孔及び外形を構成する2つの側壁面と、主表面と側壁面との間の面取面とを有するドーナツ型の磁気ディスク用ガラス基板であって、
磁気ディスクドライブ装置に用いられたときにフラッタリングを生じない板厚を有し、
内孔を構成する側壁面は、凹み部を有することを特徴とする、
磁気ディスク用ガラス基板。
【請求項2】
一対の主表面と、内孔及び外形を構成する2つの側壁面と、主表面と側壁面との間の面取面とを有するドーナツ型の磁気ディスク用ガラス基板であって、
内孔を構成する側壁面は、円弧状の凹み部を有することを特徴とする、
磁気ディスク用ガラス基板。
【請求項3】
回転数が10000回転以上で動作する磁気ディスクドライブ装置に用いられ、一対の主表面と、内孔及び外形を構成する2つの側壁面と、主表面と側壁面との間の面取面とを有するドーナツ型の磁気ディスク用ガラス基板であって、
磁気ディスクドライブ装置に用いられたときにフラッタリングを生じない板厚を有し、
内孔を構成する側壁面は、円弧状の凹み部を有することを特徴とする、
磁気ディスク用ガラス基板。
【請求項4】
内孔を構成する側壁面は、前記主表面と直交する面を含むことを特徴とする、
請求項1〜3のいずれかに記載された磁気ディスク用ガラス基板。
【請求項5】
板厚が1.0mm以上であることを特徴とする、
請求項1〜4のいずれかに記載された磁気ディスク用ガラス基板。
【請求項6】
前記凹み部を含めた、内孔を構成する側壁面の板厚方向の長さは、0.7mm以上であることを特徴とする、
請求項1〜のいずれかに記載された磁気ディスク用ガラス基板。
【請求項7】
内孔を構成する側壁面のうち前記凹み部を除いた板厚方向の長さは、0.8mm以下であることを特徴とする、
請求項1〜のいずれかに記載された磁気ディスク用ガラス基板。
【請求項8】
前記凹み部の表面が鏡面となるように研磨されていることを特徴とする、
請求項1〜のいずれかに記載された磁気ディスク用ガラス基板。
【請求項9】
前記凹み部の凹みの最大深さが50μm以下であることを特徴とする、
請求項1〜のいずれかに記載された磁気ディスク用ガラス基板。
【請求項10】
前記凹み部は、前記側壁面の一周に亘って形成されていることを特徴とする、
請求項1〜のいずれかに記載された磁気ディスク用ガラス基板。
【請求項11】
請求項1〜10に記載された磁気ディスク用ガラス基板に対して、少なくとも磁性層が成膜されている、磁気ディスク。
【請求項12】
請求項11に記載された磁気ディスクと、前記磁気ディスクを固定するためのスピンドルと、磁気ヘッドとを備えた、磁気ディスクドライブ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク用ガラス基板、磁気ディスク、磁気ディスクドライブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、パーソナルコンピュータ、あるいはDVD(Digital Versatile Disc)記録装置等には、データ記録のためにハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)が内蔵されている。特に、ノート型パーソナルコンピュータ等の可搬性を前提とした機器に用いられるハードディスク装置では、ガラス基板に磁性層が設けられた磁気ディスクが用いられ、磁気ディスクの面上を僅かに浮上させた磁気ヘッドで磁性層に磁気記録情報が記録され、あるいは読み取られる。このときの磁気ディスクの回転数は、例えば5400rpm程度である。この磁気ディスクの基板として、金属基板(アルミニウム基板)等に比べて剛性が高く耐衝撃性に強いガラス基板が好適に用いられる。なお、磁気ディスク用ガラス基板の板厚は、例えば2.5インチサイズの磁気ディスクの場合、一般的に0.635mmあるいは0.8mmである。
【0003】
他方、ネットワークサーバ装置等の据え置き型のサーバ装置に使用される磁気ディスクに対しては、装置の落下等を考慮する必要がないため耐衝撃性に対する要請が高くなく、それゆえに従来から、安価なアルミニウム基板が使用されてきた。例えば、特許文献1には、板厚が0.635〜1.27mmの磁気ディスク用アルミニウム基板について開示されている。ところが近年、サーバ装置に使用される磁気ディスクドライブ装置では、アクセスタイムや転送速度のさらなる向上を目指して、磁気ディスクの回転数を従来の回転数(例えば、10000rpm)よりも高い回転数(例えば15000rpm以上)とする高速回転化が要請されている。例えば15000rpm以上の高速回転では、従来の磁気ディスク用アルミニウム基板では板厚を増加させたとしても剛性が不足し、フラッタリングが生じてしまう。そこで、アルミニウム基板に代えて剛性の高いガラス基板を採用することが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−145928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、フラッタリングが生じないように比較的板厚の大きいガラス基板を用いて磁気ディスクを作製し、サーバ装置向けの磁気ディスクドライブ装置を製造したところ、磁気ディスクからパーティクルが発生する場合があることが確認された。そこで、本発明は、高速回転時に磁気ディスクにフラッタリングが生ずることなく、かつ製造時にパーティクルが発生し難くなるようにした磁気ディスク用ガラス基板、磁気ディスク、磁気ディスクドライブ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、上記パーティクルの発生原因について鋭意調査したところ、サーバ装置向けの磁気ディスクドライブ装置の製造時におけるパーティクルの発生は、磁気ディスクを磁気ディスクドライブ装置のスピンドルから頻繁に脱着することに原因があることがわかった。すなわち、原因は以下のとおり考えられる。
【0007】
上述したようにサーバ装置は据え置き型であり、可搬性や省スペース性に対する要請が低い一方で大容量化への要請が高いため、1つの磁気ディスクドライブ装置に多くの枚数(例えば、5〜10枚程度)の磁気ディスクが搭載されている場合がある。また、磁気ディスクドライブ装置の製造時の歩留まりを上げるために、一度磁気ディスクドライブ装置を組み立てた後に、特性が良好でない磁気ディスクを手作業または機械で交換する作業(リペアあるいはリワーク)が行われており、このリペアは数回に亘って行われることもある。上述したように1台のサーバ装置に搭載される磁気ディスクの枚数が多い場合には、磁気ディスクを磁気ディスクドライブ装置のスピンドルから頻繁に脱着する必要がある。この磁気ディスクの脱着のときに磁気ディスクの内孔の側壁面がスピンドルに擦れることによってパーティクルが発生する。パーティクルの成分は、スピンドルの材料(アルミニウム、ステンレス鋼等)及び/又は、磁気ディスクのガラス材や膜材料である。ガラスは非常に硬質な材料であるため、スピンドルの表面を削る場合があり、また、ガラスは脆性材料であるためにスピンドルとの擦れによってカケが生ずる場合もある。
特に、例えば15000rpm以上の高速回転時にフラッタリングが生じないようにするために磁気ディスクの板厚を厚くする場合には、磁気ディスクの内孔の側壁面の板厚方向の長さが長くなるため、スピンドルへの磁気ディスクの組み付け、及び上記リペア時において、スピンドルと摺れが生じやすく、パーティクルが尚更発生しやすくなる。
【0008】
磁気ディスクの側壁面で発生したパーティクルが、後に磁気ディスクの主表面に移着し、磁気ディスクドライブ装置の動作が不良となる要因となる場合がある。この動作不良の原因は以下のように考えられた。すなわち、サーバ装置は基本的に常時動作させられるため、サーバ装置に搭載された磁気ディスクドライブ装置では、磁気ヘッドが常時シーク動作を行っている。この常時のシーク動作によって、磁気ディスクの主表面上のパーティクルは、磁気ディスクの潤滑剤や削れた保護膜等が少しずつ付着して主に基板面内方向へ成長し、直径数μm程度の大きさの平たい異物となる場合もあることがわかった。この大きな異物の存在によって、磁気ヘッド上にコンタミネーションが発生し、磁気ディスクの読み出し、及び/又は、書き込み不良となる。
なお、磁気ディスクの高速回転化により回転に伴う空気流と磁気ディスクの加速度が増加するため、磁気ディスクの側壁面で発生したパーティクルは磁気ディスクが低速回転する場合よりも磁気ディスクの主表面に移動しやすくなると考えられる。さらに磁気ディスクの高速回転化により、磁気ヘッドが磁気ディスクの主表面に移動したパーティクルと接触する際の相対速度(又は、衝突エネルギー)が増加するため、磁気ディスクの読み出し、及び/又は、書き込み不良は低速回転の場合よりも顕在化しやすいと考えられる。
【0009】
上述した点に鑑み、本願発明者がさらに鋭意研究した結果、磁気ディスク用ガラス基板の内孔を構成する側壁面に凹み部を設けることで、磁気ディスク用ガラス基板の内孔を構成する側壁面とスピンドルとの接触面積を低下させ、それによって、高速回転時にフラッタリングが生じないような所望の板厚を確保しつつ、磁気ディスクとスピンドルとの摺れを抑制することができることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の第1の観点は、一対の主表面と、内孔及び外形を構成する2つの側壁面と、主表面と側壁面との間の面取面とを有するドーナツ型の磁気ディスク用ガラス基板であって、内孔を構成する側壁面は、凹み部を有することを特徴とする、磁気ディスク用ガラス基板である。
【0011】
上記磁気ディスク用ガラス基板において、内孔を構成する側壁面は、前記主表面と直交する面を含んでもよい。
【0012】
上記磁気ディスク用ガラス基板において、板厚が1.0mm以上であることが好ましい。
【0013】
上記磁気ディスク用ガラス基板において、上記凹み部を含めた、内孔を構成する側壁面の板厚方向の長さは、0.7mm以上であることが好ましい。
【0014】
上記磁気ディスク用ガラス基板において、内孔を構成する側壁面のうち上記凹み部を除いた板厚方向の長さは、0.8mm以下であることが好ましい。
【0015】
上記磁気ディスク用ガラス基板において、上記凹み部の表面が鏡面となるように研磨されていることが好ましい。
【0016】
上記磁気ディスク用ガラス基板において、上記凹み部の凹みの最大深さが50μm以下であることが好ましい。
【0017】
上記磁気ディスク用ガラス基板において、上記凹み部は、上記側壁面の一周に亘って形成されていることが好ましい。
【0018】
本発明の第2の観点は、上記磁気ディスク用ガラス基板に対して、少なくとも磁性層が成膜されている、磁気ディスクである。
【0019】
本発明の第3の観点は、上記磁気ディスクと、磁気ディスクを固定するためのスピンドルと、磁気ヘッドとを備えた、磁気ディスクドライブ装置である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A】実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の形状を説明する図。
図1B図1AのX−X断面の拡大図。
図2】実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の内孔を構成する側壁面の凹み部の形成方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板及びその製造方法について詳細に説明する。
【0022】
[磁気ディスク用ガラス基板]
本実施形態における磁気ディスク用ガラス基板の材料として、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラスなどを用いることができる。特に、化学強化を施すことができ、また主表面の平坦度及び基板の強度において優れた磁気ディスク用ガラス基板を作製することができるという点で、アルミノシリケートガラスを好適に用いることができる。アモルファスのアルミノシリケートガラスとするとさらに好ましい。
【0023】
本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の組成を限定するものではないが、本実施形態のガラス基板は好ましくは、酸化物基準に換算し、モル%表示で、SiOを50〜75%、Alを1〜15%、LiO、NaO及びKOから選択される少なくとも1種の成分を含み合計で5〜35%、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOから選択される少なくとも1種の成分を含み合計で0〜20%、ならびにZrO、TiO、La、Y、Ta、Nb及びHfOから選択される少なくとも1種の成分を含み合計で0〜10%、有する組成からなるアモルファスのアルミノシリケートガラスである。
【0024】
図1A及び図1Bに、本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板Gの形状を示す。図1Aは、本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の平面図である。図1Bは、図1AのX−Xの拡大断面を示す図である。
図1Aに示すように、本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板Gは、円形の内孔が形成され、かつ環状の外形を備えたドーナツ型の形状を備えている。図1Bに示すように、本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板Gは、一対の主表面11p,12pと、内孔及び外形を構成する2つの側壁面とを有する。図1Bにおいて、内孔を構成する側壁面は側壁面10wであり、凹み部10hを有している。凹み部10hは、側壁面10wの一周に亘って形成されている。一対の主表面11p,12pと側壁面10wとの間には、それぞれ面取面11c,12cが形成されている。主表面11pと面取面11cの直線部とのなす角(面取り角度;θ)は、例えば40〜70度である。主表面12pと面取面12cの直線部とのなす角(面取り角度)も同様に、例えば40〜70度である。なお、面取面11c,12cは外側に凸形状のラウンド型であってもよい。
内孔を構成する側壁面10wは、一対の主表面11p,12pの各々と直交する面を含むことが好ましい。側壁面は外方に凸状の面から形成されてもよいが、主表面と直交する面を多く含む場合には、一般的に、磁気ディスクドライブ装置に搭載されたときにスピンドルと側壁面が擦れやすいと考えられるため、本発明の作用効果を奏する上で好適な構造である。
【0025】
図1Bの断面形状において、t1は、面取面11cの直線部を延ばした仮想線、及び側壁面10wの直線を延ばした仮想線の交点と、凹み部10hの曲線部を主表面11p側に延ばした仮想線、及び側壁面10wの直線を延ばした仮想線の交点と、を結ぶ直線の長さである。t2は、面取面12cの直線部を延ばした仮想線、及び側壁面10wの直線を延ばした仮想線の交点と、凹み部10hの曲線部を主表面12p側に延ばした仮想線、及び側壁面10wの直線を延ばした仮想線の交点と、を結ぶ直線の長さである。t3は、凹み部10hの曲線部を主表面11p側に延ばした仮想線、及び側壁面10wの直線を延ばした仮想線の交点と、凹み部10hの曲線部を主表面12p側に延ばした仮想線、及び側壁面10wの直線を延ばした仮想線の交点と、を結ぶ直線の長さである。
【0026】
本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板Gのサイズは問わないが、例えば、公称直径2.5インチであってよい。本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板Gは、好ましくは、サーバ装置向けの磁気ディスクドライブ装置に組み込まれる磁気ディスク用として用いられる。サーバ装置向けの磁気ディスクは例えば15000rpm以上の高速回転で動作させられるが、そのような高速回転時にフラッタリングが生じないような所望の板厚を確保することが求められ、例えば板厚は1.0mm以上である。また、凹み部10hを含めた側壁面10wの板厚方向の長さ(図1BのL)は、0.7mm以上である。
【0027】
図1Bに示すように、本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板Gの内孔を構成する側壁面10wに凹み部10hを設けることで、磁気ディスク用ガラス基板Gの内孔を構成する側壁面10wとスピンドルとの接触面積を低下させ、それによって、高速回転時にフラッタリングが生じないような所望の板厚を確保しつつ、磁気ディスクとスピンドルとの摺れを抑制することができる。磁気ディスクとスピンドルとの摺れを効果的に抑制するためには、磁気ディスク用ガラス基板Gの内孔を構成する側壁面10wのうち凹み部10hの長さ(図1Bのt3)が、0.1mm以上であることが好ましい。また、側壁面10wのうち凹み部10hを除いた板厚方向の長さ(図1Bのt1+t2)が0.8mm以下であることが好ましい。
凹み部10hの形状は、図1Bに示すように円弧状であってもよいが、コの字形状やV字形状であってもよい。また、凹み部は複数あってもよい。凹み部10hは、スピンドルと摺れることがないため、如何なる形状でも構わないが、円弧状とすると側壁面10wがカケにくくなるので好ましい。また、凹み部の形成時にカケ等が発生しにくいので好ましい。
【0028】
なお、側壁面を形成する複数の面のうち面取面に接する2つ面のそれぞれの板厚方向の長さ(図1Bのt1とt2)は、同じであることが好ましい。すなわち、図1Bにおいて、t1とt2は同じ長さであることが好ましい。t1とt2が同じ長さである場合には、本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板Gを基に作製される磁気ディスクを高速回転させたときに、磁気ディスクの回転バランスが良好となり、磁気ディスクの高速回転時のフラッタリングの発生を抑制することができる。
また、特に、凹み部10hを含めた側壁面10wの板厚方向の長さ(L)が0.3mm以下の場合は、凹み部10hの長さ(t3)の、上記(L)に対する割合(すなわち、t3/L)を0.5以下とすることが好ましい。t3/Lの値が0.5より大きいと、t1やt2が薄くなりすぎてカケが発生する恐れがある。
【0029】
凹み部10hの表面は鏡面となるように研磨されていることが好ましい。凹み部10hの表面を鏡面とすることで、磁気ディスク用ガラス基板上に成膜して磁気ディスクを製造する工程や、磁気ディスクをHDDに組み込む工程において、凹み部にパーティクルが付着し、あるいは凹み部にパーティクルが挟まって保持されることを防止し、凹み部の表面を清浄に保つことができる。そのため、凹み部が発塵源となって各工程の歩留まりを悪化させる恐れがない。
凹み部10hの表面の算術平均粗さRaは0.1μm以下であることが好ましい。凹み部10hの表面粗さは、例えばレーザ顕微鏡を用いて波長帯域を0.25μmから80μmに設定して側壁面10wを測定し、測定した範囲の中から50μm角の領域を選択して解析して得ることができる。
また、凹み部10hの表面を含む側壁面10wは化学強化されていることが好ましい。磁気ディスク用ガラス基板Gの板厚が小さい場合、及び/又は、凹み部10hの板厚方向の長さt3が大きい場合にはt1,t2の長さが短くなるが、その場合でも凹み部10hの表面を含む側壁面10wを化学強化することで、側壁面10w(特に、図1Bにおいてt1及びt2を構成する部分)においてカケが発生することを防止することができる。化学強化は特に、磁気ディスク用ガラス基板Gの板厚が0.635mm以下の薄板の基板において効果的である。
【0030】
[磁気ディスク用ガラス基板の製造方法]
以下、本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について、工程毎に説明する。ただし、各工程の順番は適宜入れ替えてもよい。
【0031】
(1)ガラス素板の成形工程
例えばフロート法によるガラス素板の成形工程では先ず、錫などの溶融金属の満たされた浴槽内に、例えば上述した組成の溶融ガラスを連続的に流し入れることで板状ガラスを得る。溶融ガラスは厳密な温度操作が施された浴槽内で進行方向に沿って流れ、最終的に所望の厚さ、幅に調整された板状ガラスが形成される。この板状ガラスから、磁気ディスク用ガラス基板の元となる所定形状のガラス素板が切り出される。浴槽内の溶融錫の表面は水平であるために、フロート法により得られるガラス素板は、その表面の平坦度が十分に高いものとなる。
また、ガラス素板の成形工程では、例えば、特開2011−207738号公報に記載されたプレス成形方法を用いてもよい。このプレス成形方法は、ガラス材料を一定の大きさのガラス塊に切り出し、そのガラス塊を鉛直方向に落下させ、落下中のガラス塊を、水平方向に動作する一対の型によって挟み込むことによって平板状のガラス素板を得る方法である。
なお、ガラス素板は、上述した方法に限らず、ダウンドロー法、リドロー法、フュージョン法などの公知の製造方法を用いて製造することができる。
【0032】
(2)スクライブ工程
次に、スクライブ工程について説明する。プレス成形工程の後、スクライブ工程では、成形されたガラス素板に対してスクライブが行われる。
ここでスクライブとは、成形されたガラス素板を所定のサイズのリング形状とするために、ガラス素板の表面に超鋼合金製あるいはダイヤモンド粒子からなるスクライバにより2つの同心円(内側同心円および外側同心円)状の切断線(線状のキズ)を設けることをいう。2つの同心円の形状にスクライブされたガラス素板は、部分的に加熱され、ガラス素板の熱膨張の差異により、外側同心円の外側部分および内側同心円の内側部分が除去される。これにより、円環状のガラス素板が得られる。
なお、ガラス素板に対してコアドリル等を用いて円孔を形成することにより円環状のガラス素板を得ることもできる。
【0033】
(3)形状加工工程
次に、形状加工工程について説明する。形状加工工程では、スクライブ工程後のガラス素板の端部に対する面取面(内孔側では、図(b)の面取面11c,12c)の形成チャンファリング加工を含む。チャンファリング加工は、スクライブ工程後のガラス素板の外周端部および内周端部において、ダイヤモンド砥石により面取りを施す形状加工である。面取り角度は、主表面に対して例えば40〜70度であり、代表的には45度である。
【0034】
(4)凹み部加工工程
凹み部加工工程は、円環状のガラス素板の内孔を構成する側壁面10wに対して凹み部10hを形成するための工程である。図2に、円環状のガラス素板の内孔を構成する側壁面の凹み部の形成方法を示す。凹み部加工工程では、凹み部10hの形状に対応して突出した突出部20jを備えた砥石20を、円環状のガラス素板の内孔に挿入し、ガラス素板の板厚方向の軸の回りで回動させて側壁面を加工する。加工は枚葉方式(1枚ごと)で行われ、好ましくは、ガラス素板を砥石20の回転方向とは逆方向に回転させながら行う。
砥石20は、例えば、ダイヤモンド砥粒SD#325〜800の粒度を用いた電着ボンドやレジンボンド、又は金属ボンドで構成される。
なお、凹み部加工工程を独立して設けずに、上記形状加工工程において、所望の形状に対応する総型砥石を用いることにより、面取面と凹み部を一度に形成してもよい。
【0035】
(5)固定砥粒による研削工程
固定砥粒による研削工程では、遊星歯車機構を備えた両面研削装置を用いて、ガラス素板の主表面に対して研削加工(機械加工)を行う。固定砥粒の粒子サイズは、例えば10μm程度である。両面研削装置は、上下一対の定盤(上定盤および下定盤)を有しており、上定盤および下定盤の間にガラス素板が狭持される。そして、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動操作させることで、ガラス素板と各定盤とを相対的に移動させることにより、このガラス素板の両主表面を研削することができる。なお、(5)の工程の変わりに、遊離砥粒による研削工程としてもよい。
【0036】
(6)端面研磨工程
次に、端面研磨工程について説明する。固定砥粒による研削工程後、端面研磨工程では、ガラス素板の端面研磨が行われる。
端面研磨では、ガラス素板の内周端面及び外周端面に対して、ブラシ研磨により鏡面仕上げを行う。このとき、酸化セリウムやジルコニア等の微粒子を遊離砥粒として含むスラリーが用いられる。また、側壁面と面取面と凹み部を同時に研磨することができる。端面研磨では、凹み部の表面の算術平均粗さRaが0.1μm以下となるように研磨することが好ましい。なお、側壁面についても同様に研磨することが好ましい。凹み部の表面粗さの測定には、例えばレーザ顕微鏡を用いて測定する波長帯域を0.25μmから80μmに設定して側壁面を測定し、測定した範囲の中から50μm角の領域を選択して解析して得ることができる。取り代は、ガラス素板の直径の変化量としてみた場合に、例えばφ10〜30μm程度である。端面研磨を行うことにより、ガラス素板の端面での塵等が付着した汚染、ダメージあるいはキズ等の損傷の除去を行うことにより、サーマルアスペリティの発生の防止や、ナトリウムやカリウム等のコロージョンの原因となるイオン析出の発生を防止することができる。
なお、端面研磨工程後において、凹み部の凹みの深さは、50μm以下であることが好ましい。凹みの深さが50μmより大きいと、内孔における基板(内孔の縁部)の強度が低下して、割れやすくなる恐れがある。
また、面取面と側壁面との境界部分においては、その曲率半径が0.1〜0.3mmの範囲内となっていることが好ましい。曲率半径がこの範囲より小さいと境界部分のエッジが尖り過ぎるため欠け易くなる上、スピンドルを傷つけやすくなる。逆に、曲率半径がこの範囲より大きいと側壁面において板厚方向に平坦な面が得られにくく、内径のばらつきが公差内に収まらなくなる恐れがある。
さらに、凹み部は、内周端面のブラシ研磨によって形成してもよい。こうすることで、鏡面研磨を実施しながらゆっくりと凹み部を形成することができるので、凹み部の形成時にカケが発生することがなく、安定して製造することが可能となる。なおこの場合、研磨ブラシをガラス基板の端面に押し付ける圧力やブラシの仕様、ブラシとガラス基板の回転数など種々の条件を変更することで凹み部の形状を変更することができる。ブラシ研磨では主に円弧状の凹み部を形成することができる。
【0037】
(7)第1研磨(主表面研磨)工程
次に、端面研磨工程後のガラス素板の主表面に第1研磨が施される。
第1研磨工程では、例えば、遊星歯車機構を備えた両面研磨装置を用いて、研磨液を与えながら研磨する。第1研磨工程では、固定砥粒による研削と異なり、固定砥粒の代わりにスラリーに混濁した遊離砥粒を用いる。第1研磨に用いる遊離砥粒として、例えば、スラリーに混濁させた酸化セリウム砥粒、あるいはジルコニア砥粒などが用いられる。両面研磨装置は、上下一対の定盤(上定盤および下定盤)を有しており、上定盤および下定盤の間にガラス素板が狭持される。なお、下定盤の上面及び上定盤の底面には、全体として円環形状の平板の研磨パッドが取り付けられている。そして、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動操作させることで、ガラス素板と各定盤とを相対的に移動させることにより、このガラス素板の両主表面を研磨することができる。
【0038】
(8)化学強化工程
次に、第1研磨工程後のガラス素板は化学強化される。
化学強化液として、例えば硝酸カリウム(60重量%)と硫酸ナトリウム(40重量%)の混合液等を用いることができる。化学強化工程では、化学強化液を例えば300℃〜400℃に加熱し、洗浄したガラス素板を予熱した後、ガラス素板を化学強化液中に、例えば3時間〜4時間浸漬する。この浸漬の際には、ガラス素板の両主表面全体が化学強化されるように、複数のガラス素板が端面で保持されるように、ホルダに収納した状態で行うことが好ましい。
【0039】
ガラス素板を化学強化液に浸漬することによって、ガラス素板の表層のリチウムイオン及びナトリウムイオンが、化学強化液中のイオン半径が相対的に大きいナトリウムイオン及びカリウムイオンにそれぞれ置換されることで表層部分に圧縮応力層が形成され、ガラス素板が強化される。
【0040】
(9)第2研磨(最終研磨)工程
次に、化学強化工程後のガラス素板に第2研磨が施される。第2研磨工程では、例えば、第1研磨工程で用いた両面研磨装置を用いる。このとき、第1研磨工程と異なる点は、遊離砥粒の種類及び粒子サイズが異なることと、樹脂ポリッシャの硬度が異なることである。
【0041】
第2研磨工程に用いる遊離砥粒として、例えば、スラリーに混濁させたコロイダルシリカ等の微粒子が用いられる。
研磨されたガラス素板を洗浄することで、磁気ディスク用ガラス基板が得られる。
第2研磨工程を実施することは必ずしも必須ではないが、ガラス素板の主表面の表面凹凸のレベルをさらに良好なものとすることができる点で実施することが好ましい。第2研磨工程を実施することで、主表面の粗さ(Ra)を0.15nm以下とすることができる。なお、主表面の粗さ(Ra)は、走査型プローブ顕微鏡(原子間力顕微鏡;AFM)で1μm×1μm角の測定エリアにおいて、256×256ピクセルの解像度で測定したときの算術平均粗さRaを用いることができる。
【0042】
[磁気ディスク]
磁気ディスクは、磁気ディスク用ガラス基板を用いて以下のようにして得られる。
磁気ディスクは、例えば磁気ディスク用ガラス基板(以下、単に「基板」という。)の主表面上に、主表面に近いほうから順に、少なくとも付着層、下地層、磁性層(磁気記録層)、保護層、潤滑層が積層された構成になっている。
例えば基板を、真空引きを行った成膜装置内に導入し、DCマグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、基板の主表面上に付着層から磁性層まで順次成膜する。付着層としては例えばCrTi、下地層としては例えばCrRuを用いることができる。磁性層としては、例えばCoPt系合金を用いることができる。また、L10規則構造のCoPt系合金やFePt系合金を形成して熱アシスト磁気記録用の磁性層とすることもできる。上記成膜後、例えばCVD法によりCを用いて保護層を成膜し、続いて表面に窒素を導入する窒化処理を行うことにより、磁気記録媒体を形成することができる。その後、例えばPFPE(パーフルオロポリエーテル)をディップコート法により保護層上に塗布することにより、潤滑層を形成することができる。
作製された磁気ディスクは、好ましくは、DFH(Dynamic Flying Height)コントロール機構を搭載した磁気ヘッドと、磁気ディスクを固定するためのスピンドルとを備えた、磁気記録再生装置としての磁気ディスクドライブ装置(HDD(Hard Disk Drive))に組み込まれる。
【0043】
[実施例、比較例]
本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法の効果を確認するために、製造した磁気ディスク用ガラス基板から2.5インチの磁気ディスクを作製し、LUL耐久試験を行って、ヘッドクラッシュ障害やサーマルアスペリティ障害等の不具合の発生有無を調べた。
製造した磁気ディスク用ガラス基板は、以下の組成からなるアモルファスのアルミノシリケートガラスである。
[ガラスの組成]
酸化物基準に換算し、モル%表示で、SiOを50〜75%、Alを1〜15%、LiO、NaO及びKOから選択される少なくとも1種の成分を合計で5〜35%、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜20%、ならびにZrO、TiO、La、Y、Ta、Nb及びHfOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜10%、有する組成からなるアモルファスのアルミノシリケートガラス
【0044】
本実施形態のガラス基板の製造方法の各工程を順序通りに行った。
ここで、
(1)のガラス素板の成形は、特開2011−207738号公報に記載される磁気ディスク用ガラス基板の製造方法で用いられるプレス成形方法を用いた。得られたガラス素板の板厚は表1に示すとおりであった。また、(3)の形状加工(チャンファリング加工)後の内孔を構成する側壁面の板厚方向の長さ(図1BのL)は、表1に示すとおりであった。
(3)の形状加工では、面取り角度を45度とした。
(4)凹み部加工では、ダイヤモンド砥粒SD#325〜800の粒度を用いた電着ボンド砥石を用いて凹み部を形成した。実施例において、内孔を構成する側壁面のうち凹み部を除いた板厚方向の長さ(t1+t2)は、表1に示したとおりであった。凹み部は板厚方向の断面において円弧状であり、側壁面からの深さは最も深いところで20μmであり、円周方向の全周にわたって形成した。
(5)の固定砥粒による研削では、ダイヤモンドシートを上定盤、下定盤に貼り付けた研削装置を用いて研削した。
(6)の端面研磨では、スペーサをガラス素板間に挟んで積層した複数のガラス素板を、粒径の平均値(D50)が1.0μmの酸化セリウムを遊離砥粒として用いて、研磨ブラシ
により研磨した。
(7)の第1研磨では、遊星歯車を備えた両面研磨装置を用いて酸化セリウム砥粒のスラリーにより60分間研磨した。
(8)の化学強化では、化学強化液として硝酸カリウム(60重量%)と硝酸ナトリウム(40重量%)の混合液等を用い、化学強化液の温度を350℃とし、予め予熱されたガラス素板を化学強化液内に4時間浸漬させた。
(9)の第2研磨では、第1研磨と同様の研磨装置を用いてコロイダルシリカの微粒子を混濁させたスラリーにより30分間研磨した。第2研磨後のガラス素板は、中性洗浄液及びアルカリ性洗浄液を用いて洗浄された。これにより、磁気ディスク用ガラス基板を得た。上記工程により、凹み部にも化学強化による圧縮応力層が形成された。また、凹み部の粗さを測定したところいずれもRaで0.1μm以下であった。
【0045】
【表1】
【0046】
得られた磁気ディスク用ガラス基板に磁性層を形成した磁気ディスクを作製した。その後、磁気ディスクを回転数が10000rpmのハードディスクドライブ(HDD)のスピンドルに10回脱着させた後に、その磁気ディスクをHDDに組み込みLUL耐久試験(60万回)を行って評価した。LUL耐久試験とは、磁気ディスクを搭載するハードディスクドライブ(HDD)を温度70℃、湿度80%の恒温恒湿に入れた状態で、ヘッドを、ランプとIDストッパーの間で動きを止めずに往復運動(シーク動作)させ、試験後のヘッドの汚れや磨耗等の異常発生を調査する試験のことである。8万回/日×7.5日=60万回のLUL試験の結果、ヘッドABS面を顕微鏡で拡大して目視し、コンタミネーションの付着や磨耗、カケが見られる場合は不合格として評価した。
【0047】
上記実施例及び比較例におけるLUL耐久試験では、実施例1〜7は合格であったが、比較例1は磁気ヘッドにコンタミネーションの付着が見られたため不合格であった。このコンタミネーションの組成分析を行ったところ、スピンドルか磁気ディスクの膜の材料と思われる金属成分が検出された。すなわち、磁気ディスクをスピンドルに脱着させたときの磁気ディスクとスピンドルとの摺れによって発生した異物が磁気ディスクの主表面に移着したことが、上記耐久試験の不合格の原因であることがわかった。これより、磁気ディスクの側壁面とスピンドルとの接触面積を低下させて両者を摺れ難くすることが、ヘッドクラッシュ障害やサーマルアスペリティ障害等の不具合を起こし難くすることがわかる。実施例1〜3のように比較的厚みのある磁気ディスクにおいても、側壁部に凹み部を設けることによって側壁面とスピンドルとの接触面積を少なくして上記LUL耐久試験を合格とすることができた。
なお、LUL耐久試験に先立ってHDDにてサーティファイテスト(磁気信号の書き込み/読み出し試験)を実施したが、実施例1〜7及び比較例1に特に異常は認められなかった。すなわち、フラッタリングによるエラーは発生しなかった。
【0048】
磁気ディスクの回転数を10000rpmからさらに高速にした場合、例えば、磁気ディスクが15000rpm以上の高速回転を前提とするサーバ装置に用いられた場合には、比較的薄い板厚の磁気ディスクについては剛性が不足しやすいためにサーティファイテストにおいてフラッタリングによるエラーが生じる恐れがある。
よって、高速回転時のフラッタリングの抑制と、側壁部に凹み部を設けることによる側壁面のスピンドルとの接触面積の抑制とを両立させるためには、磁気ディスクの板厚を1.0mm以上とすることが好ましい。また、内孔を構成する側壁面の板厚方向の長さが0.7mm以上であると好ましい。
【0049】
次に、表1に示した各実施例と同様にして、板厚=0.5mm、L=0.3mm、凹み部:あり、t1+t2=0.15mm、t3=0.15mmとなる磁気ディスク用ガラス基板を作製し(参考例1)、さらにこの磁気ディスク用ガラス基板に磁性層を形成した磁気ディスクを作製し、同様にLUL耐久試験を行ったところ、合格であった。また、LUL耐久試験後において内孔の側壁面を観察したところカケは認められなかった。
一方、t1+t2=0.10mm、t3=0.20mmとした以外は参考例1と同様にして磁気ディスク用ガラス基板を作製し(参考例2)、同様にLUL耐久試験を行ったところ、合格であったものの、試験後において内孔の側壁面を観察したところ1箇所カケが認められた。
すなわち、薄板の磁気ディスクである場合、例えばLが0.3mm以下の場合であっても、側壁面の板厚方向の長さにおいてスピンドルと接触する部位の長さが一定比率以上を占めるようにする(具体的には、t3/Lの値が0.5以下とする)ことで、カケが生じ難くなることが確認された。
なお、LUL耐久試験に先立ってHDDにてサーティファイテストを実施したが、作製した磁気ディスクに特に異常は認められなかった。すなわち、フラッタリングによるエラーは発生しなかった。
【0050】
以上、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのは勿論である。
図1A
図1B
図2