(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一対の電極とその間に挟まれた、燐光性の発光材料を含有する発光層と少なくとも一層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、上記一般式(1)で表されるビピリジル基とオルトターフェニル構造を有する化合物が、該発光層中に、少なくとも一つの構成材料として用いられていることを特徴とする請求項5または6記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子は自己発光性素子であるので、液晶素子にくらべて明るく視認性に優れ、鮮明な表示が可能であるため、活発な研究がなされてきた。
【0003】
近年、素子の発光効率を上げる試みとして、燐光発光体を用いて燐光を発生させる、すなわち三重項励起状態からの発光を利用する素子が開発されている。励起状態の理論によれば、燐光発光を用いた場合には、従来の蛍光発光の約4倍の発光効率が可能になるという、顕著な発光効率の向上が期待される。
1993年にプリンストン大学のM.A.Baldoらは、イリジウム錯体を用いた燐光発光素子によって8%の外部量子効率を実現させた。
【0004】
燐光発光体は濃度消光を起こすため、一般的にホスト化合物と称される、電荷輸送性の化合物にドープさせることによって担持される。担持される燐光発光体はゲスト化合物と称される。このホスト化合物としては、下記式で表される4,4’−ジ(N−カルバゾリル)ビフェニル(以後、CBPと略称する)が一般に用いられてきた(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
【化1】
【0006】
しかし、CBPはガラス転移点(Tg)が62℃と低く、結晶性が強いため、薄膜状態における安定性に乏しいことが指摘されていた。そのため高輝度発光など、耐熱性が必要とされる場面において、満足できる素子特性が得られていなかった。
【0007】
燐光発光素子の研究が進むとともに、燐光発光体とホスト化合物の間のエネルギー移動過程の解明が進み、発光効率を高めるためにはホスト化合物の励起三重項レベルが燐光発光体の励起三重項レベルよりも高くなくてはならないことが明らかとなった。
【0008】
下記式で表される青色燐光発光材であるFIrpicを前記CBPにドープして発光層のホスト化合物とした場合、燐光発光素子の外部量子効率は6%程度に留まっている。これはFIrpicの励起三重項レベルが2.67eVであるのに対し、CBPの励起三重項レベルが2.57eVと低いことから、FIrpicによる三重項励起子の閉じ込めが不十分であるからと考えられた。このことは、FIrpicをCBPにドープした薄膜のフォトルミネッセンス強度が温度依存性を示すことによって実証されている。(非特許文献2参照)
【0009】
【化2】
【0010】
CBPよりも励起三重項レベルの高いホスト化合物としては、下記で示される1,3−ビス(カルバゾール−9−イル)ベンゼン(以後、mCPと略称する)が知られているが、mCPもガラス転移点(Tg)が55℃と低く、結晶性が強いため、薄膜状態における安定性に乏しい。そのため高輝度発光など、耐熱性が必要とされる場面において、満足できる素子特性が得られていなかった。(非特許文献2参照)
【0011】
【化3】
【0012】
また、より高い励起三重項レベルを有するホスト化合物を検討する中から、電子輸送性もしくはバイポーラー輸送性のホスト化合物にイリジウム錯体をドープした場合、高い発光効率が得られることが分かってきている。(例えば、非特許文献3)
【0013】
このように、実用的な場面での燐光発光素子の発光効率を高めるため、励起三重項レベルが高く、薄膜安定性の高い、発光層のホスト化合物が必要とされてきている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、高効率の有機エレクトロルミネッセンス素子用の材料として、高い励起三重項レベルを有し、燐光発光体の三重項励起子を完全に閉じ込めることができる、発光層のホスト化合物を提供し、さらにこの化合物を用いて、高効率、高輝度の有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することにある。本発明が提供しようとする有機化合物が具備すべき物理的な特性としては、(1)励起三重項レベルが高いこと、(2)バイポーラ輸送性を有すること、(3)薄膜状態が安定であること、をあげることができる。また、本発明が提供しようとする有機エレクトロルミネッセンス素子が具備すべき物理的な特性としては、(1)発光効率が高いこと、(2)発光輝度が高いこと、(3)実用駆動電圧が低いことをあげることができる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
そこで、本発明者らは上記の目的を達成するために、ビピリジル構造が電子輸送性能力を有していること、などに着目して、エネルギー準位を指標に化合物を設計して化学合成し、実際に仕事関数を測定することによって化合物が有するエネルギー準位を確認し、燐光発光素子に適した特性を有する新規なビピリジル基とオルトターフェニル構造を有する化合物を見出した。そして、該化合物を用いて種々の有機エレクトロルミネッセンス素子を試作し、素子の特性評価を行なった結果、本発明を完成するに至った。
【0017】
1)すなわち本発明は、一般式(1)で表されるビピリジル基とオルトターフェニル構造を有する化合物である。
【0018】
【化4】
(1)
【0019】
(式中、R
1、R
2、R
9〜R
20は、同一でも異なってもよく水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、R
3〜R
8は、同一でも異なってもよく置換もしくは無置換の芳香族複素環基を表し、n1、n2は、同一でも異なってもよく2または3を表す。ここで、複数個存在するR
3〜R
8はそれぞれ互いに同一でも異なってもよい。)
【0020】
2)また、本発明は、下記一般式(1)で表されるビピリジル基とオルトターフェニル構造を有する化合物である。
【0021】
【化5】
(1)
【0022】
(式中、R
1〜R
16は、同一でも異なってもよく水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、R
17〜R
20は、同一でも異なってもよく置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、n1、n2は、同一でも異なってもよく2または3を表す。ここで、複数個存在するR
3〜R
8はそれぞれ互いに同一でも異なってもよい。)
【0023】
3)また本発明は、下記一般式(1’)で表されるビピリジル基とオルトターフェニル構造を有する化合物である。
【0024】
【化6】
(1’)
【0025】
(式中、R
1、R
2、R
9〜R
20は、同一でも異なってもよく水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、R
3〜R
8は、同一でも異なってもよく置換もしくは無置換の芳香族複素環基を表し、n1、n2は、同一でも異なってもよく2または3を表す。ここで、複数個存在するR
3〜R
8はそれぞれ互いに同一でも異なってもよい。)
【0026】
4)また本発明は、下記一般式(1’)で表されるビピリジル基とオルトターフェニル構造を有する化合物である。
【0027】
【化7】
(1’)
(式中、R
1〜R
16は、同一でも異なってもよく水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、R
17〜R
20は、同一でも異なってもよく置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、n1、n2は、同一でも異なってもよく2または3を表す。ここで、複数個存在するR
3〜R
8はそれぞれ互いに同一でも異なってもよい。)
【0028】
5)また本発明は、下記一般式(1’’)で表されるビピリジル基とオルトターフェニル構造を有する化合物である。
【0029】
【化8】
(1’’)
【0030】
(式中、R
1、R
2、R
9〜R
20は、同一でも異なってもよく水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、R
3〜R
8は、同一でも異なってもよく置換もしくは無置換の芳香族複素環基を表し、n1、n2は、同一でも異なってもよく2または3を表す。ここで、複数個存在するR
3〜R
8はそれぞれ互いに同一でも異なってもよい。)
【0031】
6)また本発明は、下記一般式(1’’)で表されるビピリジル基とオルトターフェニル構造を有する化合物である。
【0032】
【化9】
(1’’)
【0033】
(式中、R
1〜R
16は、同一でも異なってもよく水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、R
17〜R
20は、同一でも異なってもよく置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、n1、n2は、同一でも異なってもよく2または3を表す。ここで、複数個存在するR
3〜R
8はそれぞれ互いに同一でも異なってもよい。)
【0034】
7)また本発明は、一対の電極とその間に挟まれた少なくとも一層の有機層を有する有機EL素子において、前記有機層の少なくとも一層が前記一般式(1)、一般式(1’)または一般式(1’’)で表されるビピリジル基とオルトターフェニル構造を有する化合物を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0035】
8)また本発明は、前記した有機層が発光層であり、前記一般式(1)、一般式(1’)または一般式(1’’)で表されるビピリジル基とオルトターフェニル構造を有する化合物が、該発光層中に、少なくとも一つの構成材料として用いられていることを特徴とする上記7)記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0036】
9)また本発明は、一対の電極とその間に挟まれた、燐光性の発光材料を含有する発光層と少なくとも一層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記一般式(1)、一般式(1’)または一般式(1’’)で表されるビピリジル基とオルトターフェニル構造を有する化合物が、該発光層中に、少なくとも一つの構成材料として用いられていることを特徴とする上記7)記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0037】
10)また本発明は、前記した燐光性の発光材料がイリジウムまたは白金を含む金属錯体である上記7)〜9)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0038】
一般式(1)、一般式(1’)または一般式(1’’)中のR
1〜R
20で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」における「アルキル基」としては、具体的に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基などをあげることができる。
【0039】
一般式(1)、一般式(1’)または一般式(1’’)中のR
1〜R
20で表される「置換基を有する炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」における「置換基」としては、具体的に、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基で置換されたジアルキルアミノ基、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、テトラキスフェニル基、スチリル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ピリジル基、ビピリジル基、トリアジル基、ピリミジル基、キノリル基、イソキノリル基、インドリル基、ピリドインドリル基、カルバゾリル基、キノキサリル基、ピラゾリル基のような基をあげることができ、これらの置換基はさらに置換されていてもよく、これらの置換基同士が互いに結合し、環を形成していてもよい。
【0040】
一般式(1)、一般式(1’)または一般式(1’’)中のR
1〜R
20で表される、「置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基」、「置換もしくは無置換の芳香族複素環基」または「置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基」における「芳香族炭化水素基」、「芳香族複素環基」または「縮合多環芳香族基」としては、具体的にフェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、テトラキスフェニル基、スチリル基、ナフチル基、アントリル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ピリジル基、ビピリジル基、トリアジル基、ピリミジル基、フラニル基、ピロリル基、チエニル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリドインドリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、ナフチリジニル基、フェナントロリニル基、アクリジニル基のような基をあげることができる。
ここで、R
1〜R
8で表される、「置換もしくは無置換の芳香族複素環基」として、置換もしくは無置換のピリジル基が好ましく、電子輸送性の向上が期待できる。
【0041】
一般式(1)、一般式(1’)または一般式(1’’)中のR
1〜R
20で表される、「置換芳香族炭化水素基」、「置換芳香族複素環基」または「置換縮合多環芳香族基」における「置換基」としては、具体的に、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基で置換されたジアルキルアミノ基、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、テトラキスフェニル基、スチリル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ピリジル基、ビピリジル基、トリアジル基、ピリミジル基、キノリル基、イソキノリル基、インドリル基、ピリドインドリル基、カルバゾリル基、キノキサリル基、ピラゾリル基のような基をあげることができ、これらの置換基はさらに置換されていてもよい。
【0042】
本発明の一般式(1)、一般式(1’)または一般式(1’’)で表される、ビピリジル基とオルトターフェニル構造を有する化合物は新規な化合物であり、発光層のホスト化合物として好適なエネルギー準位を有し、三重項励起子を閉じ込める優れた能力を有している。
【0043】
本発明の一般式(1)、一般式(1’)または一般式(1’’)で表される、ビピリジル基とオルトターフェニル構造を有する化合物は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以後、有機EL素子と略称する。)の発光層または正孔阻止層の構成材料として使用することができる。従来の材料に比べてバイポーラ輸送性に優れている本発明の化合物を用いることにより、電力効率の向上や、実用駆動電圧の低下という効果を有している。
【発明の効果】
【0044】
本発明のビピリジル基とオルトターフェニル構造を有する化合物は、有機EL素子の正孔阻止性の化合物、あるいは発光層のホスト化合物として有用であり、該化合物を用いて有機EL素子を作製することにより、高効率、高輝度、低駆動電圧の有機EL素子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明のビピリジル基とオルトターフェニル構造を有する化合物は、新規な化合物であり、これらの化合物は例えば、以下のように合成できる。まず、相当するオルトターフェニレン化合物のジハライドをビス(ピナコラート)ジボロンなどによるボロン酸エステル化を行うことによって、相当するボロン酸エステル体を合成し(例えば、非特許文献4参照)、さらに、この相当するボロン酸エステル体と種々の置換基を有するハロゲノビピリジンとをSuzukiカップリングなどのクロスカップリング反応(例えば、非特許文献5参照)を行うことによって、ビピリジル基とオルトターフェニル構造を有する化合物を合成することができる。
一方、種々の置換基を有するハロゲノビピリジンをビス(ピナコラート)ジボロンなどによるボロン酸エステル化を行うことによって、種々の置換基を有するビピリジンのボロン酸エステル体を合成し、さらに、この種々の置換基を有するビピリジンのボロン酸エステル体と相当するオルトターフェニレン化合物のジハライドとをSuzukiカップリングなどのクロスカップリング反応を行うことによって、ビピリジル基とオルトターフェニル構造を有する化合物を合成することができる。
【0047】
一般式(1)、一般式(1’)または一般式(1’’)で表されるビピリジル基とオルトターフェニル構造を有する化合物の中で、好ましい化合物の具体例を以下に示すが、本発明は、これらの化合物に限定されるものではない。
【0087】
これらの化合物の精製はカラムクロマトグラフによる精製、シリカゲル、活性炭、活性白土などによる吸着精製、溶媒による再結晶や晶析法などによって行った。化合物の同定は、NMR分析によって行なった。物性値として、融点、ガラス転移点(Tg)と仕事関数の測定を行った。融点は蒸着性の指標となるものであり、ガラス転移点(Tg)は薄膜状態の安定性の指標となるものであり、仕事関数は発光ホスト材料としてのエネルギー準位の指標となるものである。
【0088】
融点とガラス転移点(Tg)は、粉体を用いて高感度示差走査熱量計(ブルカー・エイエックスエス製、DSC3100S)によって測定した。
【0089】
また仕事関数は、ITO基板の上に100nmの薄膜を作製して、大気中光電子分光装置(理研計器製、AC−3型)を用いて測定した。
【0090】
本発明の有機EL素子の構造としては、基板上に順次に、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、電子阻止層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、陰極からなるもの、また、電子輸送層と陰極の間にさらに電子注入層を有するものがあげられる。これらの多層構造においては有機層を何層か省略することが可能であり、例えば基板上に順次に、陽極、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極とすることや、陽極、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、陰極とすることもできる。
【0091】
前記発光層、前記正孔輸送層、前記電子輸送層においては、それぞれが2層以上積層された構造であってもよい。
【0092】
本発明の有機EL素子の陽極としては、ITOや金のような仕事関数の大きな電極材料が用いられる。本発明の有機EL素子の正孔注入層として、銅フタロシアニンに代表されるポルフィリン化合物のほか、ナフタレンジアミン誘導体、スターバースト型のトリフェニルアミン誘導体、分子中にトリフェニルアミン構造を3個以上、単結合またはヘテロ原子を含まない2価基で連結した構造を有するアリールアミン化合物などのトリフェニルアミン3量体および4量体、ヘキサシアノアザトリフェニレンのようなアクセプター性の複素環化合物や塗布型の高分子材料を用いることができる。これらの材料は蒸着法の他、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことができる。
【0093】
本発明の有機EL素子の正孔輸送層として、m−カルバゾリルフェニル基を含有する化合物のほか、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(m−トリル)−ベンジジン(以後、TPDと略称する)やN,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(α−ナフチル)−ベンジジン(以後、NPDと略称する)、N,N,N’,N’−テトラビフェニリルベンジジンなどのベンジジン誘導体、1,1−ビス[(ジ−4−トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン(以後、TAPCと略称する)、種々のトリフェニルアミン3量体および4量体やカルバゾール誘導体などを用いることができる。これらは、単独で成膜してもよいが、他の材料とともに混合して成膜した単層として使用してもよく、単独で成膜した層同士、混合して成膜した層同士、または単独で成膜した層と混合して成膜した層の積層構造としてもよい。また、正孔の注入・輸送層として、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(以後、PEDOTと略称する)/ポリ(スチレンスルフォネート)(以後、PSSと略称する)などの塗布型の高分子材料を用いることができる。これらの材料は蒸着法の他、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことができる。
【0094】
また、正孔注入層あるいは正孔輸送層において、該層に通常使用される材料に対し、さらにトリスブロモフェニルアミンヘキサクロルアンチモンをPドーピングしたものや、TPDの構造をその部分構造に有する高分子化合物などを用いることができる。
【0095】
本発明の有機EL素子の電子阻止層として、4,4’,4’’−トリ(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン(以後、TCTAと略称する)、9,9−ビス[4−(カルバゾール−9−イル)フェニル]フルオレン、1,3−ビス(カルバゾール−9−イル)ベンゼン(以後、mCPと略称する)、2,2−ビス(4−カルバゾール−9−イルフェニル)アダマンタン(以後、Ad−Czと略称する)などのカルバゾール誘導体、9−[4−(カルバゾール−9−イル)フェニル]−9−[4−(トリフェニルシリル)フェニル]−9H−フルオレンに代表されるトリフェニルシリル基とトリアリールアミン構造を有する化合物などの電子阻止作用を有する化合物を用いることができる。これらは、単独で成膜してもよいが、他の材料とともに混合して成膜した単層として使用してもよく、単独で成膜した層同士、混合して成膜した層同士、または単独で成膜した層と混合して成膜した層の積層構造としてもよい。これらの材料は蒸着法の他、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことができる。
【0096】
本発明の有機EL素子の発光層として、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(以後、Alq
3と略称する)をはじめとするキノリノール誘導体の金属錯体の他、各種の金属錯体、アントラセン誘導体、ビススチリルベンゼン誘導体、ピレン誘導体、オキサゾール誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体などを用いることができる。また、発光層をホスト材料とドーパント材料とで構成してもよく、ホスト材料として本発明の一般式(1)で表されるビピリジル基とオルトターフェニル構造を有する化合物、mCP、チアゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ポリジアルキルフルオレン誘導体などを用いることができる。またドーパント材料としては、キナクリドン、クマリン、ルブレン、アントラセン、ペリレンおよびそれらの誘導体、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、アミノスチリル誘導体などを用いることができる。これらは、単独で成膜してもよいが、他の材料とともに混合して成膜した単層として使用してもよく、単独で成膜した層同士、混合して成膜した層同士、または単独で成膜した層と混合して成膜した層の積層構造としてもよい。
【0097】
また、発光材料として燐光性の発光材料を使用することも可能である。燐光性の発光体としては、イリジウムや白金などの金属錯体の燐光発光体を使用することができる。Ir(ppy)
3などの緑色の燐光発光体、FIrpic、FIr6などの青色の燐光発光体、Btp
2Ir(acac)などの赤色の燐光発光体などが用いられ、このときのホスト材料としては正孔注入・輸送性のホスト材料として、CBPやTCTA、mCPなどのカルバゾール誘導体などを用いることができる。電子輸送性のホスト材料として、p−ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン(以後、UGH2と略称する)や2,2’,2’’−(1,3,5−フェニレン)−トリス(1−フェニル−1H−ベンズイミダゾール)(以後、TPBIと略称する)などを用いることができる。
【0098】
燐光性の発光材料のホスト材料へのドープは濃度消光を避けるため、発光層全体に対して1〜30重量パーセントの範囲で、共蒸着によってドープすることが好ましい。
【0099】
これらの材料は蒸着法の他、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことができる。
【0100】
また、本発明の化合物を用いて作製した発光層に、仕事関数の異なる化合物をホスト材料として用いて作製した発光層を隣接させて積層した構造の素子を作製することができる(例えば、非特許文献6参照)。
【0101】
本発明の有機EL素子の正孔阻止層として、本発明の一般式(1)で表されるビピリジル基とオルトターフェニル構造を有する化合物のほか、バソクプロイン(以後、BCPと略称する)などのフェナントロリン誘導体や、アルミニウム(III)ビス(2−メチル−8−キノリナート)−4−フェニルフェノレート(以後、BAlqと略称する)などのキノリノール誘導体の金属錯体のほか、各種の希土類錯体、オキサゾール誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体など、正孔阻止作用を有する化合物を用いることができる。これらの材料は電子輸送層の材料を兼ねてもよい。これらは、単独で成膜してもよいが、他の材料とともに混合して成膜した単層として使用してもよく、単独で成膜した層同士、混合して成膜した層同士、または単独で成膜した層と混合して成膜した層の積層構造としてもよい。これらの材料は蒸着法の他、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことができる。
【0102】
本発明の有機EL素子の電子輸送層として、Alq
3、BAlqをはじめとするキノリノール誘導体の金属錯体のほか、各種金属錯体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、カルボジイミド誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、シロール誘導体などを用いることができる。これらは、単独で成膜してもよいが、他の材料とともに混合して成膜した単層として使用してもよく、単独で成膜した層同士、混合して成膜した層同士、または単独で成膜した層と混合して成膜した層の積層構造としてもよい。これらの材料は蒸着法の他、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことができる。
【0103】
本発明の有機EL素子の電子注入層として、フッ化リチウム、フッ化セシウムなどのアルカリ金属塩、フッ化マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩、酸化アルミニウムなどの金属酸化物などを用いることができるが、電子輸送層と陰極の好ましい選択においては、これを省略することができる。
【0104】
さらに、電子注入層あるいは電子輸送層において、該層に通常使用される材料に対し、さらにセシウムなどの金属をNドーピングしたものを用いることができる。
【0105】
本発明の有機EL素子の陰極として、アルミニウムのような仕事関数の低い電極材料や、マグネシウム銀合金、マグネシウムインジウム合金、アルミニウムマグネシウム合金のような、より仕事関数の低い合金が電極材料として用いられる。
【0106】
以下、本発明の実施の形態について、実施例により具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0107】
<3,3’’−ビス(2,2’−ビピリジン−5−イル)−1,1’:2’,1’’−ターフェニル(化合物2)の合成>
窒素置換した反応容器に、2,5−ジブロモピリジン19.5g、2−ピリジルジンクブロマイド150ml、テトラヒドロフラン90ml、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)4.33gを加えて冷却し、0℃で2時間攪拌した後、さらに室温で3時間攪拌した。反応溶液を10%エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム水溶液に加えて6時間攪拌した後、クロロホルム300mlを加え、分液操作を行うことによって有機層を採取した。有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮することによって粗製物を得た。粗製物をカラムクロマトグラフ(担体:シリカゲル、溶離液:トルエン)によって精製し、5−ブロモ−2,2’−ビピリジンの白色粉末11.1g(収率63%)を得た。
【0108】
一方、窒素置換した反応容器に、1,2−ジヨードベンゼン24.4g、3−トリメチルシリルフェニルボロン酸30g、水酸化ナトリウム8.8g、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)4.3g、ジエチレングリコールジメチルエーテル160ml、水40mlを加えて加熱し、95℃で15時間撹拌した。室温まで冷却した後、水100mlを加え、分液操作を行うことによって有機層を採取した。有機層を水100mlで2回洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで脱水し、濃縮することによって粗製物を得た。粗製物をカラムクロマトグラフ(担体:シリカゲル、溶離液:n−ヘキサン)によって精製し、3,3’’−ビス(トリメチルシリル)−1,1’:2’,1’’−ターフェニルの白色粉末23.3g(収率84%)を得た。
【0109】
得られた3,3’’−ビス(トリメチルシリル)−1,1’:2’,1’’−ターフェニル23g、臭素12.6ml、クロロホルム180mlを窒素置換した反応容器に加えて冷却し、−5℃で3時間攪拌した後、さらに室温で4時間撹拌した。飽和亜硫酸ナトリウム水溶液90mlを加え、分液操作を行うことによって有機層を採取した。有機層を水100mlで2回洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで脱水し、濃縮することによって粗製物を得た。粗製物に対しエタノールを用いた再結晶による精製を行った後、メタノール洗浄することによって、3,3’’−ジブロモ−1,1’:2’,1’’−ターフェニルの白色粉末15.4g(収率65%)を得た。
【0110】
得られた3,3’’−ジブロモ−1,1’:2’,1’’−ターフェニル5.0g、ビス(ピナコラート)ジボロン6.9g、酢酸カリウム3.8g、予めモレキュラーシーブス4Aで脱水した1,4−ジオキサン50ml、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリド−ジクロロメタン錯体(1:1)0.3gを窒素置換した反応容器に加えて加熱し、80℃で11時間攪拌した。50℃まで冷却した後、クロロホルム100mlを加え、30分攪拌した。ろ過によって不溶物を除き、濃縮することによって粗製物を得た。粗製物をカラムクロマトグラフ[担体:シリカゲル、溶離液:酢酸エチル/n−ヘキサン=1/20(v/v)によって精製し、3,3’’−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−1,1’:2’,1’’−ターフェニルの白色粉末3.8g(収率61%)を得た。
【0111】
得られた3,3’’−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−1,1’:2’,1’’−ターフェニル1.8g、および、前記5−ブロモ−2,2’−ビピリジン1.8g、2M炭酸カリウム水溶液5.8ml、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)0.2g、トルエン40ml、エタノール10mlを窒素置換した反応容器に加えて加熱し、攪拌しながら20時間還流した。室温まで冷却した後、水30ml、クロロホルム100mlを加え、分液操作を行うことによって有機層を採取した。有機層を水100mlで洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで脱水し、濃縮することによって粗製物を得た。粗製物をカラムクロマトグラフ[担体:NHシリカゲル、溶離液:酢酸エチル/n−ヘキサン=1/5(v/v)]によって精製し、3,3’’−ビス(2,2’−ビピリジン−5−イル)−1,1’:2’,1’’−ターフェニル(化合物2)1.5g(収率80%)の白色粉末を得た。
【0112】
得られた白色粉末についてNMRを使用して構造を同定した。
1H−NMR測定結果を
図1に示した。
【0113】
1H−NMR(CDCl
3)で以下の26個の水素のシグナルを検出した。δ(ppm)=8.65−8.66(2H)、8.51−8.53(2H)、8.31−8.33(2H)、8.08(2H)、7.99−8.01(2H)、7.71−7.79(4H)、7.59−7.61(2H)、7.54−7.56(2H)、7.50−7.52(2H)、7.34−7.38(2H)、7.25−7.28(4H)。
【実施例2】
【0114】
<3,3’’−ビス(2,2’−ビピリジン−6−イル)−1,1’:2’,1’’−ターフェニル(化合物3)の合成>
窒素置換した反応容器に、2,6−ジブロモピリジン19.5g、2−ピリジルジンクブロマイド150ml、テトラヒドロフラン90ml、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)4.33gを加えて冷却し、0℃で2時間攪拌した後、さらに室温で3時間攪拌した。反応溶液を10%エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム水溶液に加えて6時間撹拌した後、クロロホルム300mlを加え、分液操作を行うことによって有機層を採取した。有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮することによって粗製物を得た。粗製物をカラムクロマトグラフ(担体:シリカゲル、溶離液:トルエン)によって精製し、6−ブロモ−2,2’−ビピリジンの白色粉末11.1g(収率63%)を得た。
【0115】
得られた6−ブロモ−2,2’−ビピリジン1.8g、および、実施例1で合成した3,3’’−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−1,1’:2’,1’’−ターフェニル1.8g、2M炭酸カリウム水溶液5.8ml、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)0.2g、トルエン40ml、エタノール10mlを窒素置換した反応容器に加えて加熱し、攪拌しながら8時間還流した。室温まで冷却した後、水30ml、トルエン40mlを加え、分液操作を行うことによって有機層を採取した。有機層を水30mlで洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで脱水し、濃縮することによって粗製物を得た。粗製物をカラムクロマトグラフ[担体:NHシリカゲル、溶離液:酢酸エチル/n−ヘキサン=1/5(v/v)]によって精製し、3,3’’−ビス(2,2’−ビピリジン−6−イル)−1,1’:2’,1’’−ターフェニル(化合物3)の白色粉末1.5g(収率75%)を得た。
【0116】
得られた白色粉末についてNMRを使用して構造を同定した。
1H−NMR測定結果を
図2に示した。
【0117】
1H−NMR(CDCl
3)で以下の26個の水素のシグナルを検出した。δ(ppm)=8.66−8.68(4H)、8.35−8.40(4H)、7.79−7.83(2H)、7.69−7.72(2H)、7.45−7.58(8H)、7.35−7.39(4H)、7.28−7.31(2H)。
【実施例3】
【0118】
<4,4’’−ビス(2,2’−ビピリジン−5−イル)−1,1’:2’,1’’−ターフェニル(化合物10)の合成>
窒素置換した反応容器に、1,2−ジヨードベンゼン20g、4−トリメチルシリルフェニルボロン酸25g、水酸化ナトリウム7.4g、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)3.6g、ジエチレングリコールジメチルエーテル240ml、水60mlを加えて加熱し、95℃で15時間撹拌した。室温まで冷却した後、水100mlを加え、分液操作を行うことによって有機層を採取した。有機層を水100mlで2回洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで脱水し、濃縮することによって粗製物を得た。粗製物をカラムクロマトグラフ(担体:シリカゲル、溶離液:n−ヘキサン)によって精製し、4,4’’−ビス(トリメチルシリル)−1,1’:2’,1’’−ターフェニルの白色粉末21.1g(収率93%)を得た。
【0119】
得られた4,4’’−ビス(トリメチルシリル)−1,1’:2’,1’’−ターフェニル21g、臭素11.5ml、クロロホルム150mlを窒素置換した反応容器に加えて冷却し、−5℃で3時間攪拌した後、さらに室温で4時間撹拌した。飽和亜硫酸ナトリウム水溶液90mlを加え、分液操作を行うことによって有機層を採取した。有機層を水100mlで2回洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで脱水し、濃縮することによって粗製物を得た。粗製物に対しエタノールを用いた再結晶による精製を行った後、メタノール洗浄することによって、4,4’’−ジブロモ−1,1’:2’,1’’−ターフェニルの白色粉末14.9g(収率68%)を得た。
【0120】
得られた4,4’’−ジブロモ−1,1’:2’,1’’−ターフェニル5.0g、ビス(ピナコラート)ジボロン7.2g、酢酸カリウム3.8g、予めモレキュラーシーブス4Aで脱水した1,4−ジオキサン50ml、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリド−ジクロロメタン錯体(1:1)0.3gを窒素置換した反応容器に加えて加熱し、80℃で10時間攪拌した。50℃まで冷却した後、クロロホルム150mlを加え、30分攪拌した。ろ過によって不溶物を除き、濃縮することによって粗製物を得た。粗製物をカラムクロマトグラフ[担体:シリカゲル、溶離液:酢酸エチル/n−ヘキサン=1/5(v/v)]によって精製し、4,4’’−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−1,1’:2’,1’’−ターフェニルの白色粉末3.5g(収率56%)を得た。
【0121】
得られた4,4’’−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−1,1’:2’,1’’−ターフェニル3.0g、および、実施例1で合成した5−ブロモ−2,2’−ビピリジン3.1g、2M炭酸カリウム水溶液9.3ml、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)0.4g、トルエン32ml、エタノール8mlを窒素置換した反応容器に加えて加熱し、攪拌しながら9時間還流した。室温まで冷却した後、水100mlを加え、分液操作を行うことによって有機層を採取した。有機層を水100mlで2回洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで脱水し、濃縮することによって粗製物を得た。粗製物をカラムクロマトグラフ(担体:シリカゲル、溶離液:クロロホルム)によって精製した後、トルエンによる再結晶を行うことによって、4,4’’−ビス(2,2’−ビピリジン−5−イル)−1,1’:2’,1’’−ターフェニル(化合物10)の白色粉末1.6g(収率74%)を得た。
【0122】
得られた白色粉末についてNMRを使用して構造を同定した。
1H−NMR測定結果を
図3に示した。
【0123】
1H−NMR(CDCl
3)で以下の26個の水素のシグナルを検出した。δ(ppm)=8.93(2H)、8.69(2H)、8.43(4H)、8.02(2H)、7.81(2H)、7.57(4H)、7.50(4H)、7.26−7.35(6H)。
【実施例4】
【0124】
<4,4’’−ビス(2,2’−ビピリジン−6−イル)−1,1’:2’,1’’−ターフェニル(化合物11)の合成>
実施例3で合成した4,4’’−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−1,1’:2’,1’’−ターフェニル2.0g、実施例2で合成した6−ブロモ−2,2’−ビピリジン2.0g、2M炭酸カリウム水溶液6.0ml、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)0.2g、トルエン32ml、エタノール8mlを窒素置換した反応容器に加えて加熱し、攪拌しながら9時間還流した。室温まで冷却した後、水100mlを加え、分液操作を行うことによって有機層を採取した。有機層を水100mlで2回洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで脱水し、濃縮することによって粗製物を得た。粗製物をカラムクロマトグラフ(担体:シリカゲル、溶離液:クロロホルム)によって精製した後、トルエンによる再結晶を行うことによって、4,4’’−ビス(2,2’−ビピリジン−6−イル)−1,1’:2’,1’’−ターフェニル(化合物11)の白色粉末1.6g(収率74%)を得た。
【0125】
得られた白色粉末についてNMRを使用して構造を同定した。
1H−NMR測定結果を
図4に示した。
【0126】
1H−NMR(CDCl
3)で以下の26個の水素のシグナルを検出した。δ(ppm)=8.67(2H)、8.60(2H)、8.33(2H),8.06(4H)、7.78−7.86(4H)、7.74(2H)、7.53−7.48(4H)、7.36(4H)、7.30−7.28(2H)。
【実施例5】
【0127】
本発明の化合物について、高感度示差走査熱量計(ブルカー・エイエックスエス製、DSC3100S)によって融点とガラス転移点を求めた。
融点 ガラス転移点
本発明実施例1の化合物 182℃ 73℃
本発明実施例2の化合物 203℃ 72℃
【実施例6】
【0128】
本発明の化合物を用いて、ITO基板の上に膜厚50nmの蒸着膜を作製して、大気中光電子分光装置(理研計器製、AC−3型)で仕事関数を測定した。
仕事関数
本発明実施例1の化合物 6.50eV
本発明実施例2の化合物 6.49eV
本発明実施例3の化合物 6.10eV
本発明実施例4の化合物 6.10eV
CBP 6.00eV
【0129】
このように本発明の化合物は、発光層のホスト化合物として一般的に用いられているCBPと比較して、好適なエネルギー準位を有している。
【実施例7】
【0130】
本発明の化合物と緑色燐光発光体Ir(ppy)
3を、蒸着速度比が本発明の化合物:Ir(ppy)
3=94:6となる蒸着速度で二元蒸着を行い、膜厚50nmとなるように共蒸着膜を形成した。作製した共蒸着膜について、蛍光量子収率測定装置(浜松フォトニクス社製)を用い、励起光を照射して蛍光量子収率を測定した。
蛍光量子収率
本発明実施例1の化合物/Ir(ppy)
3 71.5%
本発明実施例2の化合物/Ir(ppy)
3 67.3%
CBP /Ir(ppy)
3 79.2%
【0131】
この結果より、本発明の化合物は一般的に緑色燐光発光ホストとして用いられているCBPと同等の三重項エネルギーを閉じ込める能力を有している。
【実施例8】
【0132】
有機EL素子は、
図5に示すように、ガラス基板1上に透明陽極2としてITO電極をあらかじめ形成したものの上に、正孔輸送層3、発光層4、電子輸送層6、電子注入層7、陰極(アルミニウム電極)8の順に蒸着して作製した。
【0133】
具体的には、膜厚100nmのITOを成膜したガラス基板1を有機溶媒で洗浄した後に、UVオゾン処理にて表面を洗浄した。その後、このITO電極付きガラス基板を真空蒸着機内に取り付け0.001Pa以下まで減圧した。続いて、透明陽極2を覆うように正孔輸送層3として、下記構造式の化合物41を蒸着速度2Å/sで膜厚50nmとなるように形成した。この正孔輸送層3の上に、発光層4として本発明実施例1の化合物(化合物2)と緑色燐光発光体Ir(ppy)
3を、蒸着速度比が化合物2:Ir(ppy)
3=94:6となる蒸着速度で二元蒸着を行い、膜厚20nmとなるように形成した。この発光層4の上に、電子輸送層6としてAlq
3を蒸着速度2Å/sで膜厚30nmとなるように形成した。この電子輸送層6の上に、電子注入層7としてフッ化リチウムを蒸着速度0.1Å/sで膜厚1nmとなるように形成した。最後に、アルミニウムを膜厚100nmとなるように蒸着して陰極8を形成した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。
【0134】
本発明の実施例1の化合物(化合物2)を使用して作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表1にまとめて示した。
【0135】
【化46】
(化合物41)
【実施例9】
【0136】
実施例8における発光層4の材料を本発明実施例2の化合物(化合物3)に代え、実施例8と同様の条件で有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表1にまとめて示した。
【実施例10】
【0137】
実施例8における発光層4の材料を本発明実施例3〜4の化合物(化合物10、化合物11)に代え、実施例8と同様の条件で有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したとき、良好な発光特性が得られた。
【0138】
[比較例1]
比較のために、実施例8における発光層4の材料をCBPに代え、実施例8と同様の条件で有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表1にまとめて示した。
【0139】
[比較例2]
有機EL素子は、
図6に示すように、ガラス基板1上に透明陽極2としてITO電極をあらかじめ形成したものの上に、正孔輸送層3、発光層4、正孔阻止層5、電子輸送層6、電子注入層7、陰極(アルミニウム電極)8の順に蒸着して作製した。
【0140】
具体的には、膜厚100nmのITOを成膜したガラス基板1を有機溶媒で洗浄した後に、UVオゾン処理にて表面を洗浄した。その後、このITO電極付きガラス基板を真空蒸着機内に取り付け0.001Pa以下まで減圧した。続いて、透明陽極2を覆うように正孔輸送層3として、前記構造式の化合物41を蒸着速度2Å/sで膜厚50nmとなるように形成した。この正孔輸送層3の上に、発光層4としてCBPと緑色燐光発光体Ir(ppy)
3を、蒸着速度比がCBP:Ir(ppy)
3=94:6となる蒸着速度で二元蒸着を行い、膜厚20nmとなるように形成した。この発光層4の上に、正孔阻止層5としてBCPを蒸着速度2Å/sで膜厚10nmとなるように形成した。この正孔阻止層5の上に、電子輸送層6としてAlq
3を蒸着速度2Å/sで膜厚30nmとなるように形成した。この電子輸送層6の上に、電子注入層7としてフッ化リチウムを蒸着速度0.1Å/sで膜厚1nmとなるように形成した。最後に、アルミニウムを膜厚100nmとなるように蒸着して陰極8を形成した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。
【0141】
【表1】
【0142】
表1に示す様に、電流密度10mA/cm
2時における外部量子効率は、発光層の材料としてCBPを用いた比較例1の5.5%に対して実施例8では11.75%、実施例9では11.89%と高効率化した。さらに、発光層の材料としてCBPを用い、BCPを用いた正孔阻止層を追加した素子構成を有する比較例2の10.89%よりも高い外部量子効率を示した。
【0143】
これらの結果から明らかなように、本発明のビピリジル基とオルトターフェニル環構造を有する化合物を用いた有機EL素子は、一般的な発光ホスト材料であるCBPと比較して、外部量子効率の向上を達成でき、さらに、一般的な正孔阻止層の材料であるBCPを用いた正孔阻止層を追加した素子構成を有する有機EL素子と比較しても、外部量子効率の向上を達成できることがわかった。
【0144】
以上のように、本発明の化合物は好適なエネルギー準位を有しており、また、好適な三重項エネルギーを閉じ込める能力を有している。