【実施例】
【0010】
(1)W(C)−CeO
xの作製
市販のタングステン粉末(高純度化学研究所製のタングステンWWE08PB;SEM像は
図1、粒径(二次粒子)は約30〜80μm)と炭酸アンモニウム沈殿法により作成したCeO
2とを瑪瑙乳鉢を用いて混合した。混合比は、タングステン粉末:CeO
2:20:19(重量比)とした。その後、水素(10%)とHe(90%)との混合ガス流通下、500℃1時間加熱処理を行うことにより、W(C)−CeO
xを作製した。
【0011】
(2)W(HM)−CeO
xの作製
グローブボックス中でWCl
6とAl(モル比1:2)とを瑪瑙乳鉢で混合し、その後、水素(10%)とHe(90%)との混合ガス流通下、600℃1時間加熱処理して、タングステン金属の粉末(W(HM))を作製した。作製したW(HM)中にAlが残存していたため、1N HCl水溶液中での洗浄を2回行った。このようにして得られたW(HM)を、硫酸水溶液中で−03から0V vs.RHEの電位領域を走引速度50mV/秒で30サイクル走引することによって電気化学的処理を施した。電気化学的処理前のW(HM)のSEM像を
図2に示す。その粒径(二次粒子)は約1〜3μmであった。
【0012】
電気化学処理後のW(HM)と(1)の場合と同じく炭酸アンモニウム沈殿法により作成したCeO
2とを瑪瑙乳鉢で混合した。混合比は、タングステン粉末:CeO
2:20:19(重量比)とした。その後、水素(10%)とHe(90%)との混合ガス流通下、500℃1時間加熱処理を行うことにより、W(HM)−CeO
xを作製した。ここで、下記の条件を満足するCeO
2が好ましいことがわかった:
B.E.T.比表面積:55〜70m
2/g
吸着等温線:II型 マクロポア(50nm以上の細孔) 粒子形状:球形
上記特徴を有するCeO
2を作製するには、たとえば、炭酸アンモニウム水溶液に硝酸セリウムを滴下し、その後の熟成の際の温度を58℃に設定すればよい。なお、(1)のW(C)−CeO
xも同じCeO
2を使用して作製した。
【0013】
(3)W(C)−CeO
x及びW(HM)−CeO
xの評価
図1に示したW(C)のXRDパターンを
図3に示す。このXRDパターンから、W(C)に金属状態のタングステンが存在していることが確認できた。また、CeO
2を混合して熱処理することによって作製されたW(C)−CeO
xのXRDパターンを
図4に示す。両XRDパターンを比較することにより、作製されたW(C)−CeO
x中でも原料のW(C)中と同様の状態でタングステンが存在していることが確認できた。
【0014】
図2に示したW(HM)及びこれを使用して作製されたW(HM)−CeO
xについて、上と同様な測定を行った。
図5がHCl水溶液で洗浄した後のW(HM)のXRDパターン、
図6が上記洗浄後に電気化学的処理を行った後のW(HM)のXRDパターン、
図7が上記電気化学的処理後のW(HM)を使用して作製したW(HM)−CeO
xのXRDパターンである。これらのXRDパターンから、W(HM)−CEO
xとその直接の原料であるW(HM)の双方でタングステンが金属の状態で存在していることが確認できた。
【0015】
図8にW(HM)のサイクリックボルタモグラムを示す。これは電位の走引領域及びサイクル数を変化させて測定したものである。具体的には、走引の下限電位を−0.3V vs.RHEに固定し、上限電位を0から0.6V vs.RHEまで変えたときの1サイクル目(細線のグラフ)及び10サイクル目(太線のグラフ)のサイクリックボルタモグラムが
図8に示されている。これらのサイクリックボルタモグラムを見ると、電位の走引領域が−0.3から0.3V vs.RHEからは、1サイクル目の電流値が大きく、10サイクル目の電流値が小さくなっていることがわかる。これは、電位を走引することでタングステン表面が酸化しているためと考えられる。そのため、上述の電気化学的処理をW(HM)に施す際の条件を−0.3から0V vs.RHEとした。
図8によれば、このときの条件では1サイクル目と10サイクル目で酸化電流に差がなく、反対に還元電流には差が生じていたため、この条件で電位を走引すれば、W(HM)の表面に還元処理を施すことができると考えたためである。
【0016】
図9及び
図10にはそれぞれW(C)及びW(HM)のサイクリックボルタモグラムを示す。その測定条件は両者とも以下の通りである:
電極:Au
電解液:0.5M H
2SO
4
温度:28℃
掃引速度:50mV/秒
繰り返し数:30サイクル
【0017】
図9及び
図10を見るに、W(C)とW(HM)ともに、0.3〜0.4付近から1.5V vs.RHEの領域で半導体に起因すると考えられる電流が流れていることが分かった。この結果から、W(C)とW(HM)は何れも、硫酸水溶液中で電位を走引することで、表面が酸化物となると考えられる。これは、
図8に示す測定結果と一致する。
【0018】
図11は、W(C)−CeO
xとW(HM)−CeO
xについてそれぞれ2通りの走引条件((a):0〜1.0V vs.RHE、(b):0〜1.5V vs.RHE)の下でのサイクリックボルタモグラムを示す。なお、これ以外の共通する条件は以下の通りである:
電極:Au
電解液:0.5M H
2SO
4
温度:28℃
走引速度:50mV/秒
繰り返し数:30サイクル
【0019】
図11においては、W(HM)−CeO
xの0〜0.5V vs.RHEの電位領域に、W(C)−CeO
xではみられない、白金電極を使用した場合と同様なH
+の吸着離脱に起因すると考えられるピークが観測された。
【0020】
図12に、W(HM)−CeO
xの酸素還元反応活性をAuと比較して示す。ここで電位の走引領域を0〜1.5V vs.RHEとしたW(HM)−CeO
xは、約0.2V vs.RHEから酸素還元反応が始まっていることが分かった。
【0021】
図13から
図16は、W−CeOxに対して硫酸水溶液中で電位を走引(0〜1V vs.RHEと0〜1.5V vs.RHEの2通り)した前と後で硬X線光電子分光(hard X-ray XPS)を行うことにより、W(HM)−CeO
xとW(C)−CeO
xのそれぞれでその成分である金属状態のタングステン及びCeO
2が変化しているかどうかを確認した結果を示す。なお、
図15及び
図16において電位を走引する前の試料についてのグラフは走引の範囲を示さないことによって識別している。また、一部の測定ではW−CeO
xだけではなくタングステン粉末(
図13、
図15)やWO
3(
図13)についての測定結果を比較対照データとして示した。
【0022】
ここで
図13及び
図14における記法を説明すれば、実施例で作製したタングステン粉末W(HM)の後ろにwash electro. pre.を付したものは、「(2)W(HM)−CeO
xの作製」の項で説明したように、タングステン粉末を作成後にHCl水溶液で洗浄し、その後電気化学的処理したものであることを示す。また、単にwashを付したものはHCl水溶液で洗浄しただけで、その後の電気化学的処理を行っていないものを示す。
【0023】
図13から、W(HM)−CeO
x中のタングステンは、硫酸水溶液中で電位を走引した後でもW
0(金属状態)のものが存在していることが分かった。これに対して、
図14から、W(HM)−CeO
x中のCeO
2は硫酸水溶液中で電位を走引した後でもCeO
2であることが分かった。
【0024】
W(C)−CeO
xに対して
図13及び
図14と同じ測定を行った結果をそれぞれ
図15及び
図16に示す。
図15から、W(C)−CeO
x中のタングステンは、W(HM)−CeO
xの場合とは異なり、硫酸水溶液中で電位を走引した後(走引電位の範囲0-1.5Vあるいは0-1Vが付されている曲線)にはW
0(金属状態)が残らず、全てタングステン酸化物になっていることが分かった。一方、CeOx
2については硫酸水溶液中で電位を走引した後でもCeO
2のままであることが、
図16から分かった。
【0025】
この結果から、市販のタングステン粉末においてはその粒子表面はかなり酸化していたと考えられる。従って、本発明に使用するタングステン粉末は、表面が酸化しないように十分に注意して作製し、また電気化学的処理を行うことによって表面酸化物を除去するなどの処理を行うことで、金属タングステン表面とセリウム酸化物が十分に接触した海面を作製することが望ましい。