(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記コントロールケーブル用プロテクターを構成するマトリックス樹脂と、前記アウターケーシングの外周面を構成するマトリックス樹脂とが、同種の樹脂である請求項3に記載のコントロールケーブル用管状積層部材。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るコントロールケーブル用プロテクター(以下、単に「発泡プロテクター」あるいは「プロテクター」と記す場合がある。)並びにそれを用いたコントロールケーブル用管状積層部材及びコントロールケーブルについて具体的に説明する。
【0015】
<コントロールケーブル用プロテクター>
本発明に係るコントロールケーブル用プロテクターは、オレフィン系熱可塑性樹脂又は塩化ビニル系樹脂から選ばれたマトリックス樹脂と、ニトリル系熱可塑性樹脂の外殻を有する熱膨張性マイクロカプセル(以下、「ニトリル系熱膨張性マイクロカプセル」と言う場合がある。)とを配合した樹脂組成物を加熱して管状に成形するとともに前記熱膨張性マイクロカプセルを膨張させたものである。
【0016】
本発明者らは、本発明の完成に先立ち、オレフィン系熱可塑性樹脂は柔軟性があり、しかもエンジンルーム内においても使用に耐えられる耐熱性を有する材料であり、これを発泡すればケーブル保護用の発泡プロテクターとして使用することができ、さらにポリプロピレン(PP)系の材料で形成したアウターコートなどとのヒートシールによる熱溶着も容易であると考えた。そこで、アゾジカーボンアミドやクエン酸系発泡剤など各種の化学発泡剤を用いた押出発泡をいろいろな条件で検討し、試みた。
しかし、得られる発泡体の発泡倍率はせいぜい1.2倍程度で硬いため打音防止が不十分であり、且つ表面は大きな凸凹が存在する状態で外観が極めて悪かった。その理由として、化学発泡剤が分解することでガスが発生するが、オレフィン系熱可塑性エラストマーがその発生ガスを保持できるほど粘調でなく、発生したガスが原料から放出されて有効に発泡せず、しかも製品表面には発泡ガスの逃げた痕が残って凸凹が生じたと考えられる。
【0017】
そこで、本発明者らは、発泡剤として熱膨張性マイクロカプセルを用いて実験を重ねたとこころ、オレフィン系熱可塑性樹脂又は塩化ビニル系樹脂から選ばれたマトリックス樹脂と、ニトリル系熱可塑性樹脂の外殻を有する熱膨張性マイクロカプセルとを配合した樹脂組成物を加熱して管状に成形するとともに熱膨張性マイクロカプセルを膨張させることで、発泡倍率が1.2倍を超える良好な発泡構造が形成され、打音を効果的に抑制するとともに、表面には目立つような凹凸がなく外観に優れたコントロールケーブル用プロテクターが得られることを見出した。
【0018】
(マトリックス樹脂)
本発明の発泡プロテクターを構成するマトリックス樹脂は、ニトリル系熱膨張性マイクロカプセルの発泡によって形成された発泡構造を支持する樹脂であり、オレフィン系熱可塑性樹脂又は塩化ビニル系樹脂を用いる。
オレフィン系熱可塑性樹脂は、ガラス転移点が室温以下に存在し、室温で可とう性の材料である。A硬度が30〜70の範囲にあるものが好適である。一例として、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)と呼称されている、硬質相がポリオレフィン系樹脂であるポリプロピレンであり、軟質相がゴム類やエチレン−αオレフィン(プロピレンなどの)共重合体の非晶相である樹脂が柔軟であり好ましい。
更に、リアクターTPOと呼ばれるプロピレン重合体中に非晶性のエチレン-プロピレン共重合体が混在しているようなものが例示できる。また、エチレンと1-ブテン、1-オクテンなどの共重合体単独、又はそれらがポリプロピレンに混合されているものなども例示できる。更に、水添スチレン-ブタジエン樹脂や水添スチレン-イソプレン樹脂をポリプロピレンに混合したものも柔軟で発泡倍率が向上し好ましい。
【0019】
一方、塩化ビニル系樹脂としては、例えば、DOP(フタル酸ジオクチル)やDINP(フタル酸ジイソノニル)などの可塑剤が配合された軟質ポリ塩化ビニルが挙げられ、重合度が1000〜4000程度のものが好ましく用いられ、特に重合度が2000〜4000のものを用いると発泡倍率と復元性が高まるため、より好ましい。また、液状の可塑剤の代わりに、ニトリルゴム、ウレタンエラストマーなど固体の柔軟成分を配合した塩化ビニル樹脂も用いる事ができる。
【0020】
(熱膨張性マイクロカプセル)
熱膨張性マイクロカプセルは、一般的に、熱可塑性樹脂からなる外殻と、外殻に内包され且つ加熱することによって気化する内包成分とから構成されており、本発明では、ニトリル系単量体を含む重合性成分を重合して得られるニトリル系熱可塑性樹脂の外殻を有する熱膨張性マイクロカプセル(ニトリル系熱膨張性マイクロカプセル)を用いる。
【0021】
一般的に、熱膨張性マイクロカプセルの外殻を構成する熱可塑性樹脂は重合性成分を重合することによって得られる。
重合性成分は、エチレン性不飽和結合を1つ有する単量体成分を必須とし、エチレン性不飽和結合を2つ以上有する重合性単量体(架橋剤)を含んでいてもよい成分である。
ニトリル系単量体は、単量体成分の一種であり、ニトリル基を有する単量体であれば特に限定はないが、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル等のニトリル系単量体が挙げられる。
単量体成分としては、ニトリル系単量体のほか、例えば、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル系単量体;塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル系単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体等が挙げられる。なお、(メタ)アクリレートは、アクリレートまたはメタクリレートを意味し、(メタ)アクリルは、アクリルまたはメタクリルを意味する。
【0022】
本発明者らがオレフィン系熱可塑性樹脂又は塩化ビニル系樹脂をマトリックス樹脂として各種熱膨張性マイクロカプセルを用いて実験を重ねたところ、ニトリル系熱可塑性樹脂以外の熱可塑性樹脂の外殻を有する熱膨張性マイクロカプセルを用いた場合では、打音抑制と外観性の両立する発泡構造を有する発泡プロテクターが得られず、ニトリル系熱可塑性樹脂の外殻を有する熱膨張性マイクロカプセルを用いた場合に限り、打音抑制と外観性が両立する発泡構造を有する発泡プロテクターが得られた。
【0023】
本発明で用いる熱膨張性マイクロカプセルの外殻を構成するニトリル系熱可塑性樹脂は、単量体成分の一種であるニトリル系単量体を必須とし、架橋剤を含むことがある重合性成分を(好ましくは重合開始剤存在下で)重合することによって得られる。
【0024】
熱膨張性マイクロカプセルの外殻を構成するニトリル系熱可塑性樹脂は、上記のようなニトリル系単量体を含む重合性成分を重合又は共重合することによって得られる重合体から構成されるが、ガスバリア性を向上させるため、重合性成分に占めるニトリル系単量体の質量割合は、95質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることが特に好ましい。重合成分におけるニトリル系単量体の質量割合が95質量%以上であれば、外殻を形成する熱可塑性樹脂が極めて高いガスバリア性を有し、本発明の発泡プロテクターを押出成形によって製造する場合に、マトリックス樹脂中に漏出した内包成分が溜まってボイドとなり、樹脂切れが発生して表面性が悪化することをより確実に防ぐことができる。なお、重合性成分におけるニトリル系単量体の質量割合の上限は100質量%である。
【0025】
ニトリル系熱膨張性マイクロカプセルの外殻を形成するための重合性成分は、上記ニトリル系単量体以外に、重合性二重結合を2個以上有する重合性単量体(架橋剤)を含んでいてもよい。架橋剤を用いて重合させることにより、熱膨張時に外殻に内包さている内包成分の保持率(内包保持率)の低下が抑制され、効果的に熱膨張させることができる。
架橋剤としては、特に限定はないが、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、PEG#200ジ(メタ)アクリレート、PEG#600ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスルトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスルトールヘキサ(メタ)アクリレート等の化合物等を挙げることができる。これらの架橋剤は、1種または2種以上を併用してもよい。
架橋剤の配合量については、特に限定はないが、重合性成分に占める架橋剤の質量割合は、好ましくは0.01〜5質量%、さらに好ましくは0.1〜1質量%、特に好ましくは0.15〜0.8質量%である。
【0026】
本発明で用いるニトリル系熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法は限定されないが、重合開始剤を含有する油性混合物を用いて、重合性成分を重合開始剤の存在下で重合させることが好ましい。
重合開始剤としては、特に限定はないが、過酸化物やアゾ化合物等を挙げることができる。
【0027】
過酸化物としては、例えば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート;t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート等のパーオキシエステル;カプロイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド等を挙げることができる。
アゾ化合物としては、例えば、2,2′−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)等を挙げることができる。
上記重合開始剤のなかでも、パーオキシジカーボネートが好ましい。
【0028】
これらの重合開始剤は、1種または2種以上を併用してもよい。重合開始剤としては、重合性成分に対して可溶な油溶性の重合開始剤が好ましい。
重合開始剤の配合量については、特に限定はないが、前記重合性成分100質量部に対して0.3〜8.0質量部であることが好ましい。
【0029】
本発明で用いる熱膨張性マイクロカプセルの外殻に内包される内包成分(気化成分)は、加熱して気化する化合物であれば特に限定は無いが、好ましくはイソペンタンとイソヘキサンとイソオクタンとの混合物から構成される。
内包成分全体に占めるイソペンタンの質量割合は特に限定はないが、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは20〜45質量%、最も好ましくは30〜40質量%である。
また内包成分全体に占めるイソヘキサンの質量割合は、特に限定はないが、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは10〜30質量%、最も好ましくは15〜25質量%である。
また内包成分全体に占めるイソオクタンの質量割合は、特に限定はないが、好ましくは20〜50質量%、より好ましくは30〜49質量%、最も好ましくは40〜48質量%である。
【0030】
前記熱膨張性マイクロカプセル全体に占める内包成分の質量割合は、特に限定はないが、好ましくは5〜30質量%、より好ましくは10〜25質量%、最も好ましくは15〜20質量%である。熱膨張性マイクロカプセル全体に占める内包成分の質量割合が5質量%より小さい場合は、膨張力が低くなり、所望の比重あるいは発泡倍率の発泡プロテクターを得るために熱膨張性マイクロカプセルの添加量を高くする必要になることがある。一方、熱膨張性マイクロカプセル全体に占める内包成分の質量割合が30質量%より大きい場合は、発泡プロテクターの押出成形時に熱膨張性マイクロカプセルからの内包成分の漏出が大きくなり、発泡プロテクターの樹脂層内部や表面に多数のボイドが発生することがある。
【0031】
本発明で用いるニトリル系熱膨張性マイクロカプセルの平均粒子径は、特に限定はないが、好ましくは15〜25μm、最も好ましくは17〜23μmである。使用するニトリル系熱膨張性マイクロカプセルの平均粒子径が15μmより小さい場合は、膨張力が低くなり、所望の比重あるいは発泡倍率の発泡プロテクターを得るために多くの添加量が必要になることがある。一方、使用するニトリル系熱膨張性マイクロカプセルの平均粒子径が25μmより大きい場合は、発泡プロテクターの表面性が不十分となることがある。
【0032】
なお、本発明で用いる熱膨張性マイクロカプセルとしては、市販のニトリル系熱膨張性マイクロカプセルを用いてもよい。
【0033】
本発明の発泡プロテクターは、上記のようなニトリル系熱膨張性マイクロカプセルが加熱によって内包成分が気化して膨張することにより、マトリックス樹脂中に熱膨張性マイクロカプセルの外殻を構成するニトリル系樹脂の膜を有する気泡が散在する構造を有する。この気泡径が小さ過ぎると打音を抑制する効果が不十分となる場合があり、大き過ぎると外観を損ねる場合がある。かかる観点から、本発明の発泡プロテクターにおける平均気泡径は60〜180μmの範囲にあることが好ましく、80〜110μmの範囲にあることがより好ましい。
また、発泡倍率は、小さ過ぎると打音を抑制する効果が不十分となる場合があり、大き過ぎると外観を損ねる場合がある。かかる観点から、本発明の発泡プロテクターにおける発泡倍率は1.3〜3.5倍の範囲にあることが好ましく、2.0〜3.0倍の範囲にあることがより好ましい。
なお、平均気泡径及び発泡倍率の測定方法は、実施例において後述する。
【0034】
(プロテクターの製造方法)
以下に示すプロテクターの製造方法の説明では、重複を避けるために、特に断りのない限り、上記ニトリル系熱膨張性マイクロカプセルに関する種々の説明をそのまま適用してよい。
【0035】
本発明のコントロールケーブル用プロテクターを製造する方法としては、前記したオレフィン系熱可塑性樹脂又は塩化ビニル系樹脂と、ニトリル系熱膨張性マイクロカプセルとを配合した樹脂組成物を加熱して管状に押出成形するとともに熱膨張性マイクロカプセルを膨張させる方法(発泡押出成形)が挙げられる。
【0036】
熱膨張性マイクロカプセルとしては、外殻がニトリル系単量体を95質量%以上含有する重合性成分を重合することによって得られる共重合体から構成され、外殻に内包される内包成分(気化成分)がイソペンタンとイソヘキサンとイソオクタンとの混合物から構成され、平均粒子径が15〜25μmである熱膨張性マイクロカプセルが好ましい。
【0037】
例えば、オレフィン系熱可塑性樹脂ペレット100質量部に対して、ニトリル系熱膨張性マイクロカプセルを1〜5質量部、さらに、樹脂ペレットに熱膨張性マイクロカプセルを付着させるため、ゴム工業で用いられるプロセスオイルを1〜10質量部添加して、熱可塑性樹脂を管状に押出成形する装置において上記発泡押出成形を実施する。
【0038】
なお、ニトリル系熱膨張性マイクロカプセルは、発泡プロテクターの押出成形時にそのまま原料として用いてもよいが、ニトリル系熱膨張性マイクロカプセルとともに、基材成分として、ニトリル系熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度より低い融点を有する化合物および/または熱可塑性樹脂(例えば、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス等のワックス類、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、アイオノマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂;スチレン系エラストマー等の熱可塑性樹脂)を含むマスターバッチとしたものを発泡プロテクターの押出成形時の原料の一部として用いてもよい。
【0039】
具体的には、マスターバッチとなる低融点の樹脂中に熱膨張性マイクロカプセルが添加された発泡剤マスターバッチを、熱可塑性樹脂100質量部に対し、3〜10質量部添加して、発泡押出成形を行ってもよい。
【0040】
<コントロールケーブル用管状積層部材>
本発明に係るコントロールケーブル用管状積層部材は、前記したコントロールケーブル用プロテクターとアウターケーシングとを有し、アウターケーシングがコントロールケーブル用プロテクターによって被覆された構成を有する。
【0041】
本発明で用いるアウターケーシングの構成は特に限定されず、例えば、摩擦係数の小さいポリブチレンテレフタレート、高密度ポリエチレン、ポリオキシメチレンなどの樹脂で形成された管状の内管(樹脂製ライナー)の外周面に平鋼線をスパイラル状に巻き、さらにその上にアウターコートとして樹脂層を積層したアウターケーシングを使用することができる。この場合、アウターケーシングの外周面を構成するアウターコートには容易に配索できる柔らかさと、石跳ねなどによって傷が付き難い耐チッピング性を併せ持った、オレフィン系樹脂または塩化ビニル系樹脂を用いることが好ましい。
【0042】
アウターコートを構成するオレフィン系樹脂は、ポリプロピレンの単独重合体やポリプロピレンに少量のエチレンを共重合したものや、リアクターTPOと呼ばれるプロピレンやエチレン等のブロック共重合体が挙げられる。また、曲げ弾性率が300〜600MPaで、D硬度が40〜70であることが配索性から好ましく、MFRは1〜20g/minのものが成形性から好ましい。
また、アウターコートを構成する塩化ビニル系樹脂は、可塑剤としてDOPやDINPを配合した軟質ポリ塩化ビニルで、配索性や低温脆化性からA硬度が70〜90程度のものが好ましい。
なお、本発明で用いるアウターケーシングは上記のような構成に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂中に短繊維状の補強剤を分散させることで高い柔軟性と強度を備えた単層のアウターケーシングを用いてもよい。
【0043】
例えば、架橋構造を有するEPDM発泡ゴムや架橋塩ビ発泡体をプロテクターとして用いると、相溶性の無い異種材料である熱可塑性樹脂系のアウターコート材とのヒートシールが出来ず、金属を用いたカシメや、接着剤を用いての固定方法を取る必要がある。カシメは新たな部品が必要な事と煩雑な工程が必要であり、接着工程はポリプロピレン(PP)製のアウターコート又はプロテクターの表面に接着剤を塗布し、その上からチューブ状のEPDM発泡ゴムを回しながら接着剤が発泡ゴムの内面に広がるように挿入するものであるが、接着剤の均一な塗布が難しいことや、接着剤のはみ出しがおこるなど大変煩雑な作業のため、工数のかかる工程である。
更に、EPDM発泡ゴムや架橋塩ビ発泡体は製造時に複雑な原材料の配合や混練工程、及び長い加硫発泡工程が必要であるため材料コストも高くなっている。
【0044】
一方、本発明の発泡プロテクターは、マトリックス樹脂としてオレフィン系熱可塑性樹脂又は塩化ビニル系樹脂を使用するため、接着剤やカシメを用いずに、熱可塑性樹脂系のアウターコート材と接着又は密着させることができる。
例えば、本発明のコントロールケーブル用プロテクターを構成するマトリックス樹脂と、アウターケーシングの外周面を構成するマトリックス樹脂とが同種の樹脂、すなわち、発泡プロテクターを構成するマトリックス樹脂とアウターケーシングの外周面(例えばアウターコート)を構成するマトリックス樹脂がいずれもオレフィン系熱可塑性樹脂であるか、塩化ビニル系熱可塑性樹脂で構成すれば、接着剤やカシメを用いずに、熱溶着によって良好に一体化することができる。
【0045】
このようにコントロールケーブル用プロテクターを構成するマトリックス樹脂と、アウターケーシングの外周面を構成するマトリックス樹脂とが同種の樹脂であれば熱溶着が可能であるが、耐熱性の観点から、アウターケーシングの外周面を構成するマトリックス樹脂としては、オレフィン系熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。特に耐熱性が必要な場合にはオレフィン系樹脂を、それ以外には塩化ビニル系樹脂を使い分けてもよい。
【0046】
熱溶着の方法としては、発泡プロテクターの内周面にアウターケーシングの外周面が接触するように発泡プロテクターの中心孔にアウターケーシングを挿入し、例えば、超音波溶着発振治具を発泡プロテクターの外周面に接触させて超音波発振させる方法が好適である。これにより、アウターコートと発泡プロテクターとの境界面に摩擦熱が生じ、両者を熱溶着させることができる。このように熱溶着によって発泡プロテクターとアウターケーシングを一体化させれば、従来の固定方法である金属を用いたカシメや接着剤による固定に比べ、工数の簡素化と部品点数の削減が図れる。また、本発明の発泡プロテクターの材質を相手材のアウターコート材料と同種の材質にすることにより、リサイクルも容易である
【0047】
なお、本発明の発泡プロテクターを成形する際、アウターケーシングの外周面を被覆するように押出成形(押出被覆成形)することも好ましい。アウターケーシングと発泡プロテクターをそれぞれ別個に成形すると、アウターケーシングを発泡プロテクターに挿入する作業が必要であるが、発泡プロテクターの押出成形とともにアウターケーシングを被覆すればアウターケーシングの挿入工程が不要となる。上記のような押出被覆成形は長尺のコントロールケーブルを製造する際に特に有効である。
【0048】
具体的には、例えば、クロスヘッドの押出成形機においてヘッドの後部からアウターケーシングを挿入し、そのアウターケーシングの外周面に吐出部から出てくる発泡材料を押出被覆成形する方法が挙げられる。このように押出被覆成形する際、発泡プロテクターとアウターケーシングが同種のマトリックス樹脂で形成されていれば、自然に熱溶着されて一体化することができる。なお、発泡プロテクターとアウターケーシングが異種のマトリックス樹脂で形成されている場合でも発泡プロテクターとアウターケーシングとの密着性をある程度確保することができる。
【0049】
<コントロールケーブル>
本発明のコントロールケーブルは、アウターケーシングと、アウターケーシングを被覆する本発明の発泡プロテクターを有するコントロールケーブル用管状積層部材と、コントロールケーブル用管状積層部材内(アウターケーシング内)に摺動可能に挿入されたインナーケーブルと、を有する。
【0050】
図1は本発明に係る発泡プロテクターを備えたコントロールケーブルの一例を概略的に示している。アウターケーシング20とアウターケーシング20を被覆する発泡プロテクター10によりコントロールケーブル用管状積層部材40が構成され、アウターケーシング20の中心孔にインナーケーブル30が摺動可能に挿入されている。なお、インナーケーブル30の端部には機能を伝達するために固定部材32が設けられている。
【0051】
インナーケーブル30としては金属製のワイヤーを使用することができ、要求される強度等に応じて選択すればよい。
金属製のワイヤーは防錆のためナイロンなどの樹脂でコーティングされることもある。
また、アウターケーシング中に摺動性を向上するためグリースを注入することもある。
【0052】
インナーケーブル30の径は、アウターケーシング20内で長手方向(軸方向)に摺動可能なサイズとする。コントロールケーブル50の用途に応じて要求される屈曲性等にもよるが、例えば、自動車用途であれば、アウターケーシング20の内径とインナーケーブル30の径との差は、大き過ぎるとストロークロスが大きくなるため、例えば、0.3mm以上0.5mm以下とすることができる。
【0053】
本発明のコントロールケーブル50の用途は限定されず、例えば、自動車用途であれば、サンルーフ開閉ケーブル、シートケーブル、ウインドウ開閉ケーブル、パーキングブレーキケーブル、トランクオープンケーブル、燃料オープンケーブル、ボンネットケーブル、キーロックケーブル、ヒータ調整ケーブル、オートマ変速ケーブル、スロットルケーブル、アクセルケーブルなど種々の用途に用いることができる。
【0054】
そして、本発明の発泡プロテクターをコントロールケーブルに用いることで、自動車の走行時に振動によるボディー等の打音が効果的に抑制され、しかも、発泡プロテクターが柔軟性を有するため、曲げ配索性が容易である。
【実施例】
【0055】
以下に実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、配合量(含有量、添加量)に関する「部」、「%」はすべて質量基準である。
また、以下の説明において、実施例1、実施例2は、それぞれ表1における参考例1、参考例2に該当する。
【0056】
まず、以下の合成例1〜3に従ってニトリル系熱膨張性マイクロカプセルを製造した。
(合成例1)
塩化ナトリウム120g、シリカ有効成分が20質量%であるコロイダルシリカ90g、ポリビニルピロリドン1.0gおよびカルボキシメチル化ポリエチレンイミン・Na塩の5%水溶液1.0gを、イオン交換水600gに加えた後、得られた混合物のpHを2N塩酸によってpH2.8〜3.2に調整し、水性分散液を調製した。
これとは別に、アクリロニトリル130g、メタクリロニトリル106g、メチルメタクリレート3g(以上、単量体成分);エチレングリコールジメタクリレート1.0g(架橋剤);イソペンタン20g、イソヘキサン12g、イソオクタン28g(以上、内包成分);およびアゾビスイソブチロニトリル1.5g(重合開始剤)を混合して油性混合物を調製した。
【0057】
上記水性分散液および油性混合物を混合し、得られた混合液をホモミキサー(プライミクス株式会社製、ホモミキサーMARK II、回転数12000rpm)で2分間分散して、縣濁液を調製した。この懸濁液を容量1.5リットルの加圧反応器に移して窒素置換をしてから反応初期圧0.5MPaにし、80rpmで攪拌しつつ重合温度70℃で20時間重合した。重合後に得られた重合液を濾過、乾燥して、熱膨張性マイクロカプセルMC1を得た。
得られた熱膨張性マイクロカプセルMC1の平均粒子径は20μm、膨張開始温度は135℃、最大膨張温度は170℃であった。
【0058】
(合成例2)
合成例1において、シリカ有効成分が20質量%であるコロイダルシリカの添加量を50gに変更して水性分散液を調製し、また、アクリロニトリル100g、メタクリロニトリル49g、メタクリル酸90g(以上、単量体成分);エチレングリコールジメタクリレート1.0g(架橋剤);イソペンタン40g、イソオクタン20g(内包成分);およびアゾビスイソブチロニトリル1.5g(重合開始剤)として油性混合物を調製したこと以外は合成例1と同様にして熱膨張性マイクロカプセルMC2を得た。
得られた熱膨張性マイクロカプセルMC2の平均粒子径は35μm、膨張開始温度は165℃、最大膨張温度は215℃であった。
【0059】
(合成例3)
合成例1において、シリカ有効成分が20質量%であるコロイダルシリカの添加量を40gとして水性分散液を調製した以外は合成例1と同様にして熱膨張性マイクロカプセルMC3を得た。
得られた熱膨張性マイクロカプセルMC3の平均粒子径は45μm、膨張開始温度は145℃、最大膨張温度は180℃であった。
【0060】
(実施例1)
スクリュー径D=50mm、長/径比(L/D)=25の単軸押出機(長田製作所社製)のホッパーに、合成例2で作製した熱膨張性マイクロカプセルMC2を2.5部およびオレフィン系熱可塑性樹脂(ミラストマー7030、A硬度70°、三井化学社製)を100部に相当する量で投入した。シリンダー部およびダイスの温度を200℃に設定して、外径φ12mm、内径φ5mmの管状(チューブ状)に押出し、管状の発泡プロテクターを得た。得られた発泡プロテクターの物性を測定し、結果を表1に示す。なお、発泡プロテクターの物性測定方法は後述の通りである。
【0061】
(実施例2〜5)
表1に示す原料をそれぞれ用いて実施例1と同様な方法で発泡プロテクターを作製し、その結果を表1に示す。なお、表中、実施例2、4のPVCとは、ポリビンコンパウンド2332(A硬度65°、可塑剤にて可塑化された軟質塩化ビニル樹脂、プラス・テク社製)で、実施例3、5のオレフィンは実施例1で用いたミラストマー7030であり、MC1およびMC3は合成例1および合成例3の熱膨張性マイクロカプセルである。
【0062】
(実施例6)
アウターケーシングとして、ポリブチレンテレフタレート製ライナーの表面に平鋼線をスパイラル状に巻いたものの上に、アウターコートとしてオレフィン系熱可塑性樹脂(プライムTPO E2700、D硬度60、プライムポリマー社製)を押出被覆成形したものを用意した。このアウターケーシングの表層に実施例2と同様の軟質塩化ビニル樹脂と熱膨張性マイクロカプセルMC1を100対2.5(質量比)にて実施例1と同様に同時押出し被覆成形を行って発泡プロテクターを形成した。物性値を表2に示す。
【0063】
(実施例7)
実施例6において、アウターコートを形成する樹脂としてオレフィン系熱可塑性樹脂に代えて軟質塩化ビニル樹脂(ポリビンコンパウンド2512、A硬度85°、プラス・テク社製)を用い、発泡プロテクターを形成する樹脂として軟質塩化ビニル樹脂に代えてオレフィン系熱可塑性樹脂(ミラストマー7030、A硬度70°、三井化学社製)を用いた以外、実施例6と同様な方法で同時押出し被覆成形を行った。
【0064】
(実施例8)
アウターコートを形成する樹脂として実施例7のPVCを用いたこと以外は実施例6と同様にしてアウターケーシングを作製した。また、実施例2のPVC及び熱膨張性マイクロカプセルMC1を原料として発泡プロテクターを成形した。発泡プロテクターの中心孔に上記作製したアウターケーシングを挿入し、発泡プロテクターとアウターケーシングとを超音波溶着機(超音波工業社製)を用いて後融着(熱溶着)した。
【0065】
(実施例9)
実施例1のオレフィン系熱可塑性樹脂と熱膨張性マイクロカプセルMC1を用い発泡プロテクターを実施例1と同様に成形した。発泡プロテクターの中心孔に実施例6で用いたアウターケーシングを挿入し、発泡プロテクターとアウターケーシングとを超音波溶着機(超音波工業社製)を用いて後融着(熱溶着)した。
【0066】
(実施例10)
実施例9にて製作した発泡プロテクター後融着アウターケーシングに、金属撚り線製のインナーケーブルを挿通し、コントロールケーブルを作製した。
【0067】
(比較例1)
実施例1にて用いたオレフィン系熱可塑性樹脂100質量部に対し、化学発泡剤(ビニホールACNo.3−K7、永和化成工業社製)を5質量部用い、実施例1と同様な方法で押出発泡させてプロテクターを作製した。
【0068】
(比較例2)
実施例2にて用いた塩化ビニル樹脂100質量部に対し、比較例1と同様の化学発泡剤を5質量部用い、実施例2と同様な方法で押出発泡させてプロテクターを作製した。
【0069】
(比較例3)
市販のEPDM発泡体にアウターケーシングを挿入してコントロールケーブル用管状積層部材を作製した。
【0070】
(比較例4)
市販の架橋PVC発泡体にアウターケーシングを挿入してコントロールケーブル用管状積層部材を作製した。
【0071】
<プロテクターの評価>
[発泡倍率]
JIS K 6268(加硫ゴム−密度測定)に準じ、電子比重計(理化学機器社製)を用いて比重を求め、ソリッド比重に対する発泡比重から発泡倍率を算出した。
【0072】
[A硬度]
JIS K 6253(加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法)に準じ、デュロメータ(ミツトヨ社製)を用いてA硬度を求めた。
【0073】
[平均気泡径]
成形されたプロテクターを長手方向に対して垂直に切断し、その断面における熱膨張性マイクロカプセルの気泡径を、マイクロスコープ(キーエンス社製)を用いて計測した。
【0074】
[表面性]
表面粗さ計(ミツトヨ社製)により、プロテクターの表層の凹凸を計測した。判断基準として、その計測値であるΔZ値が0.10未満を○、0.10≦ΔZ値≦0.30を△、0.30超を×とした。
【0075】
[プロテクター曲げ剛性]
長さ300mmのプロテクターの一端を片持ち治具に取り付け、他方の先端が30mm以上撓むものを合格とした。
【0076】
<コントロールケーブルの評価>
[配索性]
長さ400mmのプロテクターとアウター組付け品サンプルにおいて、一端を固定し曲げR100に配索した時の、もう一端の反発応力をプッシュプルゲージ(アイコーエンジニアリング社製)にて計測した。その判断基準として、200g以下を合格とする。
【0077】
[打音特性]
プロテクターとアウター組付け品サンプルを用いて、高さ10cmから落下させた時の打音をその落下面から1m離れた地点より音響振動測定機(リオン社製)で計測した。その判断基準として、45dB未満を合格とし、45dB以上を不合格とする。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
実施例1は押出成形温度200℃にて発泡し、発泡倍率は1.3倍でA硬度は35°とやや高かったが、平均気泡径が68μmであり表面性は良好であった。
実施例2は押出成形温度180℃にて発泡し、発泡倍率は1.4倍でA硬度は34°とやや高かったが、平均気泡径が65μmであり表面性は良好であった。
実施例3は押出成形温度170℃にて発泡し、発泡倍率は2.1倍と非常に高く、A硬度は17°と低かった。平均気泡径は83μmで表面性は良好であった。
実施例4は押出成形温度170℃にて発泡し、発泡倍率は2.3倍と非常に高く、A硬度は16°と低かった。平均気泡径は87μmで表面性は良好であった。
実施例5は押出成形温度が180℃にて発泡し、発泡倍率は2.8倍で、A硬度13°と良好であったが。平均気泡径が172μmとなり表面性が若干悪かった。
【0082】
実施例6はアウターケーシングの上から発泡プロテクターを同時押出し被覆して得られたものである。発泡倍率は2.8倍、A硬度11°と非常に低硬度で配索性および打音特性は良好であった。
実施例7は実施例6と同様にアウターケーシングの上から発泡プロテクターを同時押出し被覆して得られたものである。発泡倍率は2.6倍、A硬度15°と非常に低硬度で配索性および打音特性は良好であった。
実施例8はアウターケーシングの上から発泡プロテクターを挿入し得られたものである。発泡倍率は2.8倍、A硬度11°と非常に低硬度で配索性および打音特性は良好であった。また超音波溶着機により、非常によく後融着ができた。
実施例9は実施例8と同様にアウターケーシングの上から発泡プロテクターを挿入し得られたものである。発泡倍率は2.6倍、A硬度15°と非常に低硬度で配索性および打音特性は良好であった。また超音波溶着機により、非常によく後融着ができた。
実施例10はアウターケーシングの上から発泡プロテクターを挿入し得られたものである。発泡倍率は2.6倍、A硬度15°と非常に低硬度で配索性および打音特性は良好であった。またインナーワイヤーをアウターケーシング組付け品に装着し、フューエルケーブルとして実車配索し作動させたところ、良好な操作性が得られた。
【0083】
比較例1の発泡プロテクターは、発泡倍率は1.1倍、A硬度60°と硬く、表面性も凹凸が激しかった。この発泡プロテクターをアウターケーシングに超音波溶着し、組み付けたものの、配索性および打音性は良好でなかった。
比較例2の発泡プロテクターは、発泡倍率は1.2倍、A硬度60°と硬く、表面性も凹凸が激しかった。この発泡プロテクターをアウターケーシングに超音波溶着し、組み付けたものの、配索性および打音性は良好でなかった。
比較例3の発泡プロテクターは、低硬度で配索性および打音特性は良好であったが、超音波溶着機による後融着はできなかった。
比較例4の発泡プロテクターは、低硬度で配索性および打音特性は良好であったが、超音波溶着機による後融着はできなかった。