特許第5870524号(P5870524)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5870524
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 26/00 20160101AFI20160216BHJP
   F02D 21/08 20060101ALI20160216BHJP
   F02D 9/02 20060101ALI20160216BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
   F02M25/07 570J
   F02M25/07 570D
   F02D21/08 301B
   F02D9/02 S
   F02D9/02 325A
   F02D41/04 360H
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-154770(P2011-154770)
(22)【出願日】2011年7月13日
(65)【公開番号】特開2013-19377(P2013-19377A)
(43)【公開日】2013年1月31日
【審査請求日】2014年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 直樹
【審査官】 安井 寿儀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−156229(JP,A)
【文献】 特開2009−052504(JP,A)
【文献】 特許第4417664(JP,B2)
【文献】 特開2002−295347(JP,A)
【文献】 特開2005−002937(JP,A)
【文献】 特開2008−303744(JP,A)
【文献】 特開2000−110683(JP,A)
【文献】 特開2001−115866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 25/07
F02D 9/02
F02D 21/08
F02D 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DMEを燃料とするエンジンの制御装置であって、
前記エンジンの吸気ポートに接続される吸気通路と、
前記エンジンの排気ポートに接続される排気通路と、
前記エンジンの燃焼室内にDMEを噴射するインジェクタと、
前記排気通路と前記吸気通路とを連通して、排気の一部を吸気系に還流するEGR通路と、
前記EGR通路との分岐部よりも上流側に位置する前記吸気通路内に設けられ、閉弁時に吸気の流通を遮断可能なバルブと、
前記バルブの開閉を制御するバルブ制御部と、
前記EGR通路内に設けられ、排気還流量を調整可能なEGRバルブと、
前記EGRバルブの開閉を制御するEGRバルブ制御部と、
を備え、
前記エンジンの停止中、前記インジェクタの噴射ノズル部から漏出したDMEが前記吸気ポート、前記吸気通路、前記EGR通路および前記排気通路を流通して大気へと放出されるよう、前記バルブ制御部は前記バルブの開度を全閉に制御し、前記EGRバルブ制御部は前記EGRバルブを開弁状態に制御することを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
前記エンジンの停止中、前記EGRバルブ制御部は前記EGRバルブの開度を全開に制御する請求項1に記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記燃焼室は、前記エンジンの停止中常に、前記排気通路を介して大気に開放されている請求項1または2に記載のエンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの制御装置に関し、特にDMEを燃料とするエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディーゼルエンジンの環境対策の一環として、軽油燃料の代わりに排気がクリーンなジメチルエーテル(以下、DMEという)を燃料に用いるものが注目されている。
【0003】
このDMEは、軽油と同等のセタン価を有し、着火性は軽油よりも良好である。また、DMEは軽油と比較して沸点温度が低く、大気圧下で軽油が常温時に液体であるのに対して、DMEは常温時に気体となる性質を有している。
【0004】
このような性質のDMEを燃料とするエンジンの燃料供給装置として、例えば特許文献1には、エンジン停止時にコモンレール内に残留するDMEを、パージラインを経由してパージタンクに回収すると共に、コンプレッサにより圧縮して再液化させた後に燃料タンクへ戻すシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−56409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、DMEを燃料とするエンジンにおいては、エンジン停止時にコモンレール内等に残留する高圧状態のDMEが、エンジン停止から長期間経過した後にインジェクタの噴射ノズルから燃焼室内へと漏れ出る可能性がある。特に、エンジン停止時に吸気弁が開いた状態の気筒においては、燃焼室内に漏れ出たDMEは吸気通路へと流入し、インタークーラ内部等の吸気側に多量に溜まる場合がある。そのため、エンジンの再始動時に、これら吸気側に溜まった多量のDMEが着火することで異常燃焼を引き起こし、異音の発生やピストンリングの破損を招く可能性がある。
【0007】
本発明はこのような点に鑑みてなされたもので、その目的は、エンジン停止中にDMEが燃焼室内や吸気側に残留することを防止して、エンジン再始動時の異常燃焼を効果的に抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本発明のエンジンの制御装置は、DMEを燃料とするエンジンの制御装置であって、前記エンジンの吸気ポートに接続される吸気通路と、前記エンジンの排気ポートに接続される排気通路と、前記排気通路と前記吸気通路とを連通して、排気の一部を吸気系に還流するEGR通路と、前記EGR通路との分岐部よりも上流側に位置する前記吸気通路内に設けられ、閉弁時に吸気の流通を遮断可能なバルブと、前記バルブの開閉を制御するバルブ制御部とを備え、前記バルブ制御部は、前記エンジンの停止中は前記バルブの開度を全閉に制御することを特徴とする。
【0009】
また、前記EGR通路内に設けられ、排気の還流量を調整可能なEGRバルブと、前記EGRバルブの開閉を制御するEGRバルブ制御部とをさらに備え、前記EGRバルブ制御部は、前記エンジンの停止中は前記EGRバルブの開度を全開に制御してもよい。
【0010】
また、前記エンジンの運転状態が排気還流量を大量に必要とする所定の運転領域にある時は、前記EGRバルブ制御部は、前記EGRバルブの開度を全開に制御し、前記バルブ制御部は、前記バルブの開度を吸気流量が絞られる所定開度に制御するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエンジンの制御装置によれば、エンジン停止中にDMEが燃焼室内や吸気側に残留することを防止して、エンジン再始動時の異常燃焼を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るエンジンの制御装置の全体構成を示す模式的な部分断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るエンジンの制御装置の制御フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1、2に基づいて、本発明の一実施形態に係るエンジンの制御装置について説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0014】
図1に示すように、本実施形態のエンジンの制御装置1は、DEMを燃料とするエンジン10と、エンジン10に吸気(新気)を導入する吸気通路13と、エンジン10から排気を導出する排気通路14と、排気の一部を吸気側に還流するEGR通路15と、吸気を遮断可能な吸気遮断弁16と、排気の還流量(以下、EGR量という)を調整可能なEGRバルブ17と、ECU(電子制御ユニット)20とを備え構成されている。なお、本実施形態の吸気遮断弁16は、本発明のバルブに相当する。
【0015】
エンジン10には、図示しないコモンレールにより加圧された高圧状態のDMEを燃焼室10c内に噴射するインジェクタ31が設けられている。また、エンジン10は、カム32の回動により開閉駆動する吸気弁10aと排気弁10bとを備えている。なお、図示の関係上、図1には複数ある各気筒のうち一つの気筒のみを示している。
【0016】
吸気通路13は、エンジン10の吸気ポート11に接続されており、吸気流れの上流側から順に、いずれも図示しないエアフィルタとインタークーラとを備えている。また、排気通路14は、エンジン10の排気ポート12に接続されており、排気流れの下流側には図示しない排気浄化装置が設けられている。
【0017】
EGR通路15は、エンジン10の排気の一部を吸気側に還流するもので、排気浄化装置(不図示)よりも上流側の排気通路14と、インタークーラ(不図示)よりも下流側の吸気通路13とを連通して設けられている。また、EGR通路15には、還流排気を冷却するEGRクーラ34と、EGR量を調整するEGRバルブ17とが設けられている。
【0018】
吸気遮断弁16は、例えば公知のバタフライバルブであって、EGR通路15との分岐部よりも上流側に位置する吸気通路13内に設けられている。また、吸気遮断弁16は、ECU20に電気的に接続されたアクチュエータ16aを備えている。すなわち、ECU20からの出力信号に応じてアクチュエータ16aが作動することで、吸気遮断弁16の開度(吸気遮断量)が制御されるように構成されている。
【0019】
EGRバルブ17は、EGRクーラ34よりも吸気通路13側に位置するEGR通路15内に設けられている。また、EGRバルブ17は、ECU20に電気的に接続されたアクチュエータ17aを備えている。すなわち、ECU20からの出力信号に応じてアクチュエータ17aが作動することで、EGRバルブ17の開度(EGR量)が制御されるように構成されている。
【0020】
ECU20は、エンジン10の運転状態に応じて燃料噴射量や燃料噴射時期等の各種制御を行うもので、公知のCPUやROM、RAM、入力ポート、出力ポート等を備え構成されている。この各種制御を行うために、ECU20には、図示しない車速センサ、エンジン回転センサ等の出力信号がA/D変換された後に入力される。また、ECU20は、エンジン停止判定部21と、吸気遮断弁制御部22と、EGRバルブ制御部23とを一部の機能要素として有する。これら各機能要素は、本実施形態では一体のハードウェアであるECU20に含まれるものとして説明するが、これらのいずれか一部を別体のハードウェアに設けることもできる。
【0021】
エンジン停止判定部21は、エンジン10が停止中であるか否かを判定する。例えば、イグニッションキーがOFF操作された場合、エンジン10は停止中と判定される。一方、イグニッションキーがON操作された場合、エンジン10は通常運転中と判定される。
【0022】
吸気遮断弁制御部22は、本発明のバルブ制御部に相当するもので、エンジン10の運転状態に応じて吸気遮断弁16の開度を制御する。具体的には、エンジン停止判定部21によりエンジン10が停止中と判定された場合、吸気遮断弁制御部22は、吸気遮断弁16を全閉にする作動信号をアクチュエータ16aに出力する。すなわち、エンジン10の停止中は、吸気遮断弁16が全閉状態に維持される。
【0023】
一方、エンジン停止判定部21によりエンジン10が通常運転中と判定された場合、吸気遮断弁制御部22は、吸気遮断弁16をエンジン10の運転状態に応じた所定開度にする作動信号をアクチュエータ16aに出力する。例えば、エンジン10の運転状態がEGR量を大量に必要とする所定の低負荷運転領域にある場合は、EGRバルブ17が詳細を後述するEGRバルブ制御部23により全開に制御されると共に、吸気遮断弁16が吸気遮断弁制御部22により吸気量を絞る所定開度に制御されることで、EGR量を効果的に増量するように構成されている。
【0024】
EGRバルブ制御部23は、エンジン10の運転状態に応じてEGRバルブ17の開度を制御する。具体的には、エンジン停止判定部21によりエンジン10が停止中と判定された場合、EGRバルブ制御部23は、EGRバルブ17を全開にする作動信号をアクチュエータ17aに出力する。すなわち、エンジン10の停止中は、EGRバルブ17が全開状態に維持される。
【0025】
一方、エンジン停止判定部21によりエンジン10が通常運転中と判定された場合、EGRバルブ制御部23は、EGRバルブ17をエンジン10の運転状態に応じた所定開度とする作動信号をアクチュエータ17aに出力する。例えば、エンジン10の運転状態がEGR量を大量に必要とする所定の低負荷運転領域においては、EGRバルブ17の開度を全開にする作動信号がアクチュエータ17aに出力されるように構成されている。
【0026】
次に、本実施形態に係るエンジンの制御装置1の制御フローを図2に基づいて説明する。
【0027】
ステップ(以下、ステップを単にSと記載する)100では、エンジン停止判定部21によりエンジン10が停止中であるか否かが確認される。イグニッションキーがOFF操作された場合、エンジン10は停止中と判定されてS110へと進む。一方、イグニッションキーがON操作された場合、エンジン10は通常運転中と判定されてS200へと進む。
【0028】
S110では、吸気遮断弁制御部22により吸気遮断弁16の開度が全閉に制御されると共に、S120では、EGRバルブ制御部23によりEGRバルブ17の開度が全開に制御されて、本制御はリターンされる。すなわち、エンジン10の停止中においては、インジェクタ31の噴射ノズル部から燃焼室10c内に漏出したDMEは、全閉状態の吸気遮断弁16により吸気上流側への流れ込みを阻止されてEGR通路15内に流入し、その後、排気通路14内を流通して大気へと放出される。
【0029】
一方、上述のS100において、エンジン10が通常運転中と判定された場合、S200では、EGRバルブ制御部23によりEGRバルブ17の開度がエンジン10の運転状態に応じて制御される。
【0030】
また、S210において、エンジン10の運転状態がEGR量を大量に必要とする所定の低負荷運転領域にあると判定された場合、S220では、EGRバルブ制御部23によりEGRバルブ17が全開に制御されると共に、吸気遮断弁制御部22により吸気遮断弁16が吸気量を絞る所定開度に制御される。すなわち、EGR量が大量に必要な時は、EGRバルブ17を全開にして、吸気遮断弁16の開度を絞りぎみにコントロールすることで、EGR量は効果的に増量される。
【0031】
以上のような構成により、本実施形態に係るエンジンの制御装置1によれば以下のような作用効果を奏する。
【0032】
エンジン10が停止中と判定された場合、吸気遮断弁16は全閉に制御されると共に、EGRバルブ17は全開に制御される。すなわち、エンジン10の各気筒のうち、吸気弁10aが開弁した状態で停止した気筒の燃焼室10c内には、インジェクタ31の噴射ノズル部から残留したDMEが漏出するが、この漏出したDMEは全閉状態の吸気遮断弁16により吸気上流側への流入を阻止されつつ、EGR通路15内へと流れ込む。その後、EGR通路15内に流入したDMEは、排気通路14内を流通して大気へと放出されることになる。
【0033】
したがって、エンジン10の停止中に、DMEが燃焼室10c内や吸気通路13内に残留することを確実に防止することができ、エンジン10の再始動時における異常燃焼や異音の発生を効果的に抑止することができる。
【0034】
また、エンジン10が通常運転中と判定された場合、EGRバルブ17の開度はエンジン10の運転状態に応じて制御される。特に、EGR量を大量に必要とするようなエンジン10の低負荷運転領域においては、EGRバルブ17は全開に制御されると共に、吸気遮断弁16は吸気量を絞る所定開度に制御される。すなわち、EGRバルブ17の開度を全開にしつつ、吸気遮断弁16の開度を絞りぎみにコントロールすることで、EGR通路15から吸気系に取り込まれる排気の還流が促進されることになる。
【0035】
したがって、エンジン10の通常運転時に、吸気遮断弁16の開度調整によりEGR量を必要に応じて効果的に増量することが可能となり、排気中のNOx濃度を効果的に低減することができる。
【0036】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0037】
例えば、上述の実施形態において、エンジン10が停止中であるか否かはイグニッションキーのON・OFF操作に基づいて判定されるものとして説明したが、エンジン回転センサ(不図示)の検出値に基づいて判定するようにしてもよい。
【0038】
また、エンジン10の停止時におけるEGRバルブ17の開度は、DMEをEGR通路15内に流通し得る開度であれば、必ずしも全開にする必要はない。
【0039】
また、燃料はDMEに限定されず、液化ガス等を燃料とするエンジンに広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0040】
10 エンジン
11 吸気ポート
12 排気ポート
13 吸気通路
14 排気通路
15 EGR通路
16 吸気遮断弁(バルブ)
17 EGRバルブ
20 ECU
22 吸気遮断弁制御部(バルブ制御部)
23 EGRバルブ制御部
図1
図2