(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5870857
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】射出装置
(51)【国際特許分類】
B22D 17/32 20060101AFI20160216BHJP
B29C 45/77 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
B22D17/32 B
B22D17/32 H
B29C45/77
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-139270(P2012-139270)
(22)【出願日】2012年6月21日
(65)【公開番号】特開2014-597(P2014-597A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2014年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(72)【発明者】
【氏名】山口 和幸
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 一起
【審査官】
酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−071725(JP,A)
【文献】
実開平02−148766(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 17/32,
B29C 45/53,45/77
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出プランジャの成形材料を射出駆動させる射出シリンダと、
前記射出シリンダに連結され、前記射出シリンダに作動油を給排する第一シリンダと、
前記射出シリンダに前記第一シリンダと並列に連結され、前記射出シリンダに作動油を給排する第二シリンダと、
前記第一シリンダのピストンおよび第二シリンダのピストンを進退自在に駆動する駆動手段と、
前記射出シリンダの一端側と前記第一シリンダの一端側との間に設けられ、前記第一シリンダのピストンが前進するときは、前記第一シリンダから前記射出シリンダに向かう作動油の流れを許容し、前記射出シリンダから前記第一シリンダへの流れを遮断し、前記第一シリンダのピストンが後退するときは、前記第一シリンダから前記射出シリンダに向かう作動油の流れを許容し、前記射出シリンダから前記第一シリンダへの流れを許容する方向制御弁と、
前記方向制御弁と前記第一シリンダとの間に設けられ、前記第一シリンダの一端側と前記射出シリンダの一端側との間の作動油の流量を調整する第一流量調整手段と、
前記射出シリンダの他端側と前記第一シリンダの他端側との間および前記射出シリンダの他端側と前記第二シリンダの他端側との間に設けられ、前記第一シリンダの一端側と前記射出シリンダの一端側との間の作動油の流量を調整する第二流量調整手段と、を備えることを特徴とする射出装置。
【請求項2】
前記第一流量調整手段は、
作動油を一時的に貯留できるバッファタンクと、
前記方向制御弁と前記第一シリンダの一端側との間の作動油を前記バッファタンクに排出するパイロット切替弁と、
前記方向制御弁と前記第一シリンダの一端側との間に前記バッファタンクの作動油を供給する補充用制御弁とを、備えることを特徴とする請求項1に記載の射出装置。
【請求項3】
前記第二流量調整手段は、
作動油を一時的に貯留できるバッファタンクと、
前記射出シリンダの他端側と前記第一シリンダの他端側との間および前記射出シリンダの他端側と前記第二シリンダの他端側との間の作動油を前記バッファタンクに排出するパイロット切替弁と、
前記射出シリンダの他端側と前記第一シリンダの他端側との間および前記射出シリンダの他端側と前記第二シリンダの他端側との間に作動油を供給する補充用制御弁とを、備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の射出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、射出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
型内に成形材料を射出し、充填することによって所望の製品を成形する装置として射出装置が知られている。そして、近時の射出装置では、例えば、特許文献1の射出装置のように、電動機を用いて射出シリンダに作動力を付与することが行われている。特許文献1の射出装置は、成形材料を型内に射出する射出プランジャを作動させる射出シリンダ装置と、射出シリンダ装置に作動油を供給する変換シリンダ装置とを、備えている。そして、特許文献1の射出装置では、射出シリンダに作動油を供給する際に、変換シリンダ装置の変換ピストンの駆動源として電動機を用いている。これにより、特許文献1の射出装置では、電動機の駆動力によって変換シリンダ装置の変換ピストンが作動して作動油を射出シリンダ装置に供給するとともに、その供給された作動油によって射出シリンダ装置の射出ピストンが、成形材料の射出方向へ作動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−115683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、射出装置は、一般的に、低速工程、高速工程及び増圧工程の3工程によって作動させ、これらの各工程において射出ピストンを所望の速度で、かつ所望の圧力をキャビティ内の成形材料に付与するように作動させている。このため、特許文献1の射出装置のように、電動機の駆動力によって作動用シリンダを作動させることは、当該作動用シリンダを油圧ポンプなどによる作動油の流量制御のみによって作動させる場合に比して、射出シリンダの動作量をより緻密に制御することが可能である。射出装置は、成形材料から所望の製品を成形したら、射出ピストンを後退させている。射出ピストンの後退動作は、緻密制御が不要である。そのため、従来は後退動作に油圧ポンプが用いられていた。射出ピストンの後退動作に油圧ポンプを用いる射出装置は、油圧ポンプおよび作動油タンクからなる油圧ユニットが必要である。そのため、部品点数が増加するとともに射出装置の構造が複雑化し、大型化していた。
【0005】
本発明は上記の問題点を鑑みてなされたもので、本発明の目的は、射出ピストンの後退動作に油圧ユニットを用ない射出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、射出プランジャの成形材料を射出駆動させる射出シリンダと、前記射出シリンダに連結され、前記射出シリンダに作動油を給排する第一シリンダと、前記射出シリンダに前記第一シリンダと並列に連結され、前記射出シリンダに作動油を給排する第二シリンダと、前記第一シリンダのピストンおよび第二シリンダのピストンを進退自在に駆動する駆動手段と、前記射出シリンダの一端側と前記第一シリンダの一端側との間に設けられ、
前記第一シリンダのピストンが前進するときは、前記第一シリンダから前記射出シリンダに向かう作動油の流れを許容し、前記射出シリンダから前記第一シリンダへの流れを遮断
し、前記第一シリンダのピストンが後退するときは、前記第一シリンダから前記射出シリンダに向かう作動油の流れを許容し、前記射出シリンダから前記第一シリンダへの流れを許容する方向制御弁と、前記方向制御弁と前記第一シリンダとの間に設けられ、前記第一シリンダの一端側と前記射出シリンダの一端側との間の作動油の流量を調整する第一流量調整手段と、前記射出シリンダの他端側と前記第一シリンダの他端側との間および前記射出シリンダの他端側と前記第二シリンダの他端側との間に設けられ、前記第一シリンダの一端側と前記射出シリンダの一端側との間の作動油の流量を調整する第二流量調整手段と、を備えることを特徴とする。これにより、射出ピストンの後退動作に油圧ユニットを用いない射出装置を提供できる。
【0007】
また、本発明の第一流量調整手段は、作動油を一時的に貯留できるバッファタンクと、前記方向制御弁と前記第一シリンダの一端側との間の作動油を前記バッファタンクに排出するパイロット切替弁と、前記方向制御弁と前記第一シリンダの一端側との間に前記バッファタンクの作動油を供給する補充用制御弁とを、備えることを特徴とする。さらに、本発明の第二流量調整手段は、作動油を一時的に貯留できるバッファタンクと、前記射出シリンダの他端側と前記第一シリンダの他端側との間および前記射出シリンダの他端側と前記第二シリンダの他端側との間の作動油を前記バッファタンクに排出するパイロット切替弁と、前記射出シリンダの他端側と前記第一シリンダの他端側との間および前記射出シリンダの他端側と前記第二シリンダの他端側との間に作動油を供給する補充用制御弁とを、備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、射出ピストンの後退動作に油圧ユニットを用いない射出装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態における射出装置を説明する。
図1に示す射出装置としてのダイカストマシンは、型を構成する固定金型と可動金型によって形成されるキャビティ内に、溶融した成形材料としての金属材料(例えば、アルミニウム)を射出し、充填する装置である。型内に射出された成形材料は、凝固後に取り出されることにより、所望の成形品となる。ダイカストマシンは、キャビティに連通する射出スリーブ内に供給された金属材料をキャビティに押し出す射出プランジャを射出駆動する射出シリンダ1を備えている。射出プランジャは、射出シリンダ1のピストンロッドの先端に連結されている。射出シリンダ1には、非圧縮性流体(流体)としての作動油を給排する第一シリンダとしての増速シリンダ2および第二シリンダとしての増圧シリンダ3が配管を介して連結されている。射出シリンダ1のボトム室1Bには、増速シリンダ2のボトム室2Bが連結されている。また、射出シリンダ1のボトム室1Bに増圧シリンダ3のボトム室3Bが、増速シリンダ2のボトム室2Bと並列に接続されている。本実施形態では、増速シリンダ2におけるピストン2Pのストロークと増圧シリンダ3におけるピストン3Pのストロークは、同じ長さに設定されている。また、増速シリンダ2の直径D2は、増圧シリンダ3の直径D3よりも大きく設定されている。増速シリンダ2のロッド室2Rは、射出シリンダ1のロッド室1Rに配管を介して連結されている。また、増圧シリンダ3のロッド室3Rも、射出シリンダ1のロッド室1Rに配管を介して連結されている。射出シリンダ1のロッド室1Rに対し、増速シリンダ2のロッド室2Rと増圧シリンダ3のロッド室3Rは並列である。増速シリンダ2のピストン2Pは、ロッド室2R側からナット12に連結されている。また、増圧シリンダ3のピストン3Pは、ロッド室3R側からナット12に連結されている。ナット12は、ボールねじ11に嵌合されている。ボールねじ11は、モータ10により回転自在である。ボールねじ11とナット12は、ボールねじ機構を構成している。ナット12は、ボールねじ11の回転に伴い、
図1の左右方向に移動する構成である。ピストン2Pおよびピストン3Pは、ナット12により増速シリンダ2および増圧シリンダ3内を進退自在である。なお、本実施形態では、ナット12が移動すると、ピストン2Pおよびピストン3Pは、同期して同じ距離だけ移動するようにナット12に連結されている。また、本実施形態では、モータ10、ボールねじ11、ナット12により駆動手段が構成されている。また、本実施形態の駆動手段は、単一である。
【0011】
射出シリンダ1の一端側であるボトム室1Bと増速シリンダ2の一端側であるボトム室2Bとの間の配管には、方向制御弁としてパイロット操作チェックバルブ4が設けられている。パイロット操作チェックバルブ4は、増速シリンダ2のボトム室2Bから射出シリンダ1のボトム室1Bに向かう作動油の流れを許容するものである。また、パイロット操作チェックバルブ4は、ボトム室1Bからボトム室2Bへの流れを遮断するものである。パイロット操作チェックバルブ4には、パイロット圧を導くパイロット管路4Pが接続されている。パイロット管路4Pは、射出シリンダ1のロッド室1Rと増速シリンダ2のロッド室2Rおよび増圧シリンダ3のロッド室3Rとの間の配管に接続されている。パイロット操作チェックバルブ4と増速シリンダ2のボトム室2Bとの間の配管には、第一流量調整手段として流量調整回路5が設けられている。流量調整回路5には、バッファタンク15とパイロット切替弁16とチェックバルブ6が設けられている。バッファタンク15は、増速シリンダ2における作動油の不足分を補充する程度の作動油が一時的に貯留できるものである。チェックバルブ6は、パイロット操作チェックバルブ4と増速シリンダ2のボトム室2Bとの間の配管からバッファタンク15への作動油の流れを遮断するものである。また、チェックバルブ6は、バッファタンク15からパイロット操作チェックバルブ4と増速シリンダ2のボトム室2Bとの間の配管への作動油の流れを許容するものである。チェックバルブ6は、補充用制御弁であり、増速シリンダ2のボトム室2Bにおける作動油が不足したときに、適宜作動油を供給するものである。パイロット切替弁16は、パイロット操作チェックバルブ4と増速シリンダ2のボトム室2Bとの間の配管からバッファタンク15への作動油の流れを連通もしくは遮断を切替えるものである。パイロット切替弁16は、バネにより通常は遮断位置に付勢されている。パイロット切替弁16には、パイロット管路16Pが連結されている。パイロット管路16Pは、射出シリンダ1のボトム室1Bとパイロット操作チェックバルブ4および増圧シリンダ3のボトム室3Bとの間の配管の圧力を導くものである。パイロット切替弁16の切替えは、パイロット管路16Pからのパイロット圧がバネの付勢力よりも大きくなったときに切替えられるものである。パイロット切替弁16は、連通状態に切替えられたときに、作動油をバッファタンク15へ排出するものである。本実施形態では、パイロット切替弁16を切り替えるパイロット管路16Pのパイロット圧は、増速シリンダ2および増圧シリンダ3により加圧可能な最大圧力よりも小さい値に設定されている。
【0012】
射出シリンダ1の他端側であるロッド室1Rと増速シリンダ2の他端側であるロッド室2Rとの間の配管には、第二流量調整手段として流量調整回路7が設けられている。流量調整回路7が設けられている位置は、射出シリンダ1のロッド室1Rと増圧シリンダ3の他端側であるロッド室3Rとの間の配管でもある。流量調整回路7には、バッファタンク15とパイロット切替弁17とチェックバルブ8が設けられている。バッファタンク15には、増速シリンダ2および増圧シリンダ3、さらに各ロッド室1R、2R、3Rにおける作動油の不足分を補充する程度の作動油が貯留されている。チェックバルブ8は、補充用制御弁であり、射出シリンダ1のロッド室1Rと増速シリンダ2のロッド室2Rおよび増圧シリンダ3のロッド室3Rとの間の配管からバッファタンク15への作動油の流れを遮断するものである。また、チェックバルブ8は、バッファタンク15から射出シリンダ1のロッド室1Rと増速シリンダ2のロッド室2Rおよび増圧シリンダ3のロッド室3Rとの間の配管への作動油の流れを許容するものである。チェックバルブ8は、増速シリンダ2および増圧シリンダ3、さらに各ロッド室1R、2R、3Rにおける作動油が不足したときに、適宜作動油を供給するものである。パイロット切替弁17は、射出シリンダ1のロッド室1Rと増速シリンダ2のロッド室2Rおよび増圧シリンダ3のロッド室3Rとの間の配管からバッファタンク15への作動油の流れを連通もしくは遮断を切替えるものである。パイロット切替弁17は、バネにより通常は遮断位置に付勢されている。パイロット切替弁17には、パイロット管路17Pが連結されている。パイロット管路17Pは、射出シリンダ1のロッド室1Rと増速シリンダ2のロッド室2Rおよび増圧シリンダ3のロッド室3Rとの間の配管の圧力を導くものである。パイロット切替弁17の切替えは、パイロット管路17Pからのパイロット圧がバネの付勢力よりも大きくなったときに切替えられるものである。パイロット切替弁17は、連通状態に切替えられたときに、作動油をバッファタンク15へ排出するものである。
【0013】
次に本実施形態における作用を説明する。
射出装置は、射出プランジャで成形材料を射出するため射出シリンダ1を駆動する。そのために、射出装置は、射出シリンダ1のボトム室1Bを広げてピストン1Pを射出プランジャ側へ移動させるため、ボトム室1Bに作動油を供給する。射出装置は、まず、モータ10を駆動させてボールねじ11を回転させる。すると、ボールねじ11に嵌合したナット12が増速シリンダ2および増圧シリンダ3に接近する方向に移動する。ナット12が移動すると、ナット12に連結されたピストン2Pおよびピストン3Pがそれぞれ増速シリンダ2および増圧シリンダ3内を移動する。ピストン2Pおよびピストン3Pは、それぞれ同期して駆動され、同じ距離だけ移動する。増速シリンダ2では、ピストン2Pが移動すると、ボトム室2B内の作動油が射出シリンダ1に向けて供給される。ボトム室2Bから排出された作動油は、パイロット操作チェックバルブ4を通過して射出シリンダ1のボトム室1Bへと流れていく。なお、このときボトム室2Bから排出される作動油は、流量調整回路5には流れない。流量調整回路5では、パイロット切替弁16がバネにより遮断位置に付勢された状態である。また、チェックバルブ6は、ボトム室2Bからバッファタンク15への作動油の流れを遮断している。増圧シリンダ3では、ピストン3Pが移動すると、ボトム室3B内の作動油が射出シリンダ1に向けて供給される。ボトム室3Bから排出された作動油は、増速シリンダ2のボトム室2Bから排出された作動油とともに射出シリンダ1のボトム室1Bへと流れていく。
【0014】
射出シリンダ1は、ボトム室1Bに増速シリンダ2および増圧シリンダ3の両方から供給される作動油により、ピストン1Pが高速で移動する。これにより射出プランジャは成形材料を高速で射出する。なお、射出シリンダ1において、ピストン1Pが高速で移動すると、ロッド室1Rは縮小する。ロッド室1Rが縮小すると、ロッド室1R内の作動油はロッド室1Rから排出され、増速シリンダ2のロッド室2Rおよび増圧シリンダ3のロッド室3Rへと流れていく。このとき、流量調整回路7により、各ロッド室1R、2R、3R内の作動油圧力が上昇した場合には、パイロット切替弁17が連通位置へ切り替わる。そして、作動油をバッファタンク15へと排出する。また、各ロッド室1R、2R、3R内の作動油の流量が不足した場合には、バッファタンク15からチェックバルブ8を介して適宜作動油が供給される。
【0015】
射出シリンダ1により射出プランジャが成形材料を高速で射出していくと、キャビティ内に成形材料が充填される。充填が完了すると、射出プランジャおよび射出シリンダ1にはピストン1Pの移動方向に対し抵抗が発生する。すると、射出シリンダ1のボトム室1B内は、増速シリンダ2および増圧シリンダ3から供給される作動油により作動油圧力が上昇していく。射出装置は、モータ10を駆動し続けて、増速シリンダ2および増圧シリンダ3から作動油を射出シリンダ1に供給し続ける。ボトム室1B内の圧力が上昇していくと、パイロット管路16P内の圧力も上昇していく。そして、パイロット管路16P内の圧力が所定値を越えると、パイロット切替弁16は、遮断位置から連通位置へと切り替わる。すると、増速シリンダ2のボトム室2Bから排出される作動油は、射出シリンダ1のボトム室1Bとパイロット操作チェックバルブ4との間の作動油圧力の方が高くなるため、パイロット切替弁16を介してバッファタンク15へと流れて排出されていく。一方、増圧シリンダ3のボトム室3Bから供給される作動油は、射出シリンダ1のボトム室1B内の作動油を加圧する。そして、キャビティ内の成形材料を加圧し続ける。
【0016】
ボトム室3Bから供給される作動油は、パイロット操作チェックバルブ4によりバッファタンク15に流れることはない。射出シリンダ1では、ボトム室1B内の圧力がパイロット切替弁16のパイロット圧以上になると、ボトム室1Bには増圧シリンダ3からの作動油のみが供給される。すると、増速シリンダ2および増圧シリンダ3から作動油が供給されていたときよりも作動油の供給量は低下する。射出シリンダ1は、増圧シリンダ3の作動油により、高い圧力がピストン1Pに加わる。そして、射出シリンダ1および射出プランジャによりキャビティ内に圧力を加えていく。これにより、キャビティ内を増圧する。この増圧工程により、成形材料がキャビティ内で加圧され形成されていく。
【0017】
射出プランジャおよび射出シリンダ1が増圧シリンダ3からの作動油によりキャビティ内を増圧していくと、キャビティから射出プランジャおよび射出シリンダ1への抵抗が増加していく。すると、射出シリンダ1のボトム室1Bから増圧シリンダ3へと抵抗が伝わり、ナット12およびボールねじ11からモータ10の負荷抵抗となる。射出装置では、モータ10の負荷トルクを監視している。そして、モータ10の負荷トルクが所定値以上になったら、成形材料の充填が完了したと判断する。そして、射出装置は、モータ10を駆動し続けて、キャビティ内で成形材料を所定トルクで加圧し続ける。その後、射出装置は、成形材料が凝固したらモータ10を停止する。射出装置は、成形材料の凝固により成形が完了したと判断する。そして、射出装置は、成形された成形品を取り出す。ここで、可動金型を固定金型から離すときに、射出装置は、成形品を固定金型から押し出すために、モータ10を駆動して成形品の一部へ負荷を与える。これにより、成形品を固定金型から取り外す。
【0018】
次に、射出装置は、モータ10を逆回転するように駆動する。そして、射出プランジャおよび射出シリンダ1を後退させる。モータ10を逆回転させると、ボールねじ11およびナット12により増速シリンダ2のピストン2Pおよび増圧シリンダ3のピストン3Pが逆方向へ移動する。すると、増圧シリンダ3では、ロッド室3Rが縮小してボトム室3Bが拡大する。これと同時に、増速シリンダ2では、ピストン2Pが移動してロッド室2Rが縮小する。そして、増速シリンダ2のボトム室2Bは、拡大する。ロッド室2Rおよびロッド室3Rが縮小すると、ロッド室2Rおよびロッド室3Rから排出された作動油は、射出シリンダ1のロッド室1Rへと流れていく。射出シリンダ1のロッド室1Rに作動油が流れ込むと、射出シリンダ1のピストン1Pに圧力が加わる。すると、ロッド室1Rとロッド室2Rおよびロッド室3Rを繋ぐ管路内の圧力が上昇して、パイロット管路4Pからパイロット操作チェックバルブ4を開くようにパイロット圧がパイロット操作チェックバルブ4に作用する。射出シリンダ1のピストン1Pは、ロッド室1Rに作動油が流れ込むことにより、ボトム室1Bを縮小させるように移動する。すると、ボトム室1Bが縮小にともない、ボトム室1B内の作動油が増速シリンダ2のボトム室2Bおよび増圧シリンダ3のボトム室3Bへと流れていく。これにより、射出シリンダ1のロッド室1R内の作動油が増加するとともに、ボトム室1B内の作動油が減少してピストン1Pが移動する。そして、射出シリンダ1および射出プランジャが後退する。そして、射出プランジャおよび射出シリンダ1が所定位置まで後退したら、射出シリンダ1のボトム室1Bから作動油は流れなくなる。このとき、増速シリンダ2のピストン2Pおよび増圧シリンダ3のピストン3Pは、所定位置まで戻っておらず、さらに所定まで戻り続ける。ボトム室2Bおよびボトム室3Bの拡大に伴い不足する作動油は、バッファタンク15よりチェックバルブ6を介して補充される。増速シリンダ2のピストン2Pおよび増圧シリンダ3のピストン3Pが所定位置まで後退したら、射出成形の1サイクルを終了する。
【0019】
本実施形態は、以下の効果を奏する。
(1)本実施形態の射出装置は、増速シリンダ2および増圧シリンダ3を射出シリンダ1に並列で配置した。そして、増速シリンダ2および増圧シリンダ3をモータ10、ボールねじ11、ナット12により同期して駆動させる。そのため、単一のモータ10、ボールねじ11、ナット12の駆動手段で高い射出速度と射出圧を実現し得る。
(2)射出装置の駆動手段は、モータ10、ボールねじ11、ナット12による単一の構成とした。そのため、増速シリンダ2および増圧シリンダ3を複数の駆動手段で駆動する場合に比べ、部品点数を低減し射出装置を低コスト化できる。また、単一の駆動手段を設けるだけで済むため、射出装置を省スペース化、小型化できる。
(3)射出装置の射出シリンダ1は、増速シリンダ2、増圧シリンダ3、流量調整回路5および流量調整回路7で構成され、モータ10により駆動されている。そのため、射出シリンダ1の後退動作も容易であり、後退動作用に油圧ポンプなどを設ける必要がない。また、油圧ポンプを設ける場合に比べ、射出装置の低コスト化および小型化が可能である。
(4)射出装置には、流量調整回路5および流量調整回路7を設けた。そのため、射出装置の各部のシールからリーク等により作動油量が変化したとしても、作動油量を元に戻すことができ、射出装置は、安定した動作を得ることができる。
(5)射出装置には、流量調整回路5を設けている。流量調整回路5により増速シリンダ2の作動油の流れを容易に切り替えられる。
(6)流量調整回路5は、バッファタンク15、チェックバルブ6およびパイロット切替弁16により構成されている。パイロット切替弁16は、パイロット圧により切り替え自在である。そのため、流量調整回路5に新たな駆動手段などを設ける必要がなく、流量調整回路5を簡単な構造にできる。また、流量調整回路7も流量調整回路5と同様であり、簡単な構成で、新たな駆動手段を必要としない。
(7)増速シリンダ2の直径D2は、増圧シリンダ3の直径D3よりも大きく設定している。そのため、射出シリンダ1を駆動させるときに、増速シリンダ2の大きな直径D2でより多くの作動油を供給して高速駆動を達成できる。
【0020】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。以下に本発明の変更例を記載する。
○実施形態における増速シリンダ2と増圧シリンダ3は、異径の同ストロークを採用しているが、これに限定されない。両シリンダの寸法は適宜変更可能である。例えば、増速シリンダ2の直径D2と増圧シリンダ3の直径D3は同じでも良い。また、直径D2が直径D3よりも小さくても良い。ピストン2P、3Pの直径は、射出シリンダ1のピストン1Pの直径D1に合わせて適宜設定すると良い。さらに、ピストン2Pのストロークとピストン3Pのストロークは同じでなくても良い。
○流量調整回路5は、実施形態の構成に限定されない。例えば、流量調整回路5の代わりに電磁切替弁を用いても良い。さらに、射出シリンダ1の位置をリミットスイッチなどで検出し、所定位置で切替弁を切替える構成としても良い。さらに、モータ10にエンコーダなどを設けて、モータ10の駆動量などにより切替弁を切替える構成としても良い。また、チェックバルブ6の代わりに切替弁を用いても良い。
○実施形態における駆動手段は、ボールねじ構造に限定されない。モータ10により、増速シリンダ2のピストン2Pおよび増圧シリンダ3のピストン3Pを駆動できれば構成は適宜変更して良い。また、ボールねじ11およびナット12は、複数組設けても良い。
○射出装置の駆動手段は単一でなくても良い。例えば、増速シリンダ2および増圧シリンダ3を別々の駆動手段で駆動しても良い。増速シリンダ2および増圧シリンダ3は、流量のバランスさえ取れば個別に駆動させても良い。
○方向制御弁としてパイロット操作チェックバルブ4を用いたが、これに限定されない。電磁切替弁を使用しても良い。
【符号の説明】
【0021】
1 射出シリンダ
1B ボトム室
1P ピストン
D1 直径
1R ロッド室
2 増速シリンダ
2B ボトム室
2P ピストン
D2 直径
2R ロッド室
3 増圧シリンダ
3B ボトム室
3P ピストン
D3 直径
3R ロッド室
4 パイロット操作チェックバルブ
4P パイロット管路
5 流量調整回路
6 チェックバルブ
7 流量調整回路
8 チェックバルブ
10 モータ
11 ボールねじ
12 ナット
15 バッファタンク
16 パイロット切替弁
16P パイロット管路
17 パイロット切替弁
17P パイロット管路