【実施例1】
【0014】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、上下左右、前後の方向は図中に示す方向であるとして説明する。
【0015】
図1に示すように、インパクトドライバ1は、ハウジング2と、モータ3と、減速機構4と、ハンマ5と、アンビル6と、ライト8と、制御部7と、電源コード9を含んで構成される。出力軸となるアンビル6には、図示しない先端工具が装着される。
図1では先端工具として六角ソケットを装着できる取り付け部10が設けられた図で示されるが、取り付け部10に代えてドライバビットやその他の先端工具をワンタッチで取り付けることができる装着機構を設けても良い。インパクトドライバ1の外郭は、ハウジング2と、樹脂製のカバー21とによって構成される。カバー21の内側には金属製のハンマケース22が収容され、ハンマケース22の先端側の一部は外部に露出する(
図2参照)。ハウジング2は、胴体部2aと、ハンドル部2bと、基板収容部2cの3つの部分から構成される。胴体部2aは略筒状を有しており、カバー21及びハンマケース22と共同して、モータ3と、減速機構4と、ハンマ5と、アンビル6とを、回転軸方向に直列に配置するように収容する。モータ3の回転は、動力伝達機構たる減速機構4、ハンマ5、アンビル6を介して先端工具に伝達される。
【0016】
ハンドル部2bには、トリガ26が設けられ、トリガ26はハンドル部2b内に収容されたスイッチ機構27と接続され、モータ3の回転速度を設定する。ハンドル部2bと胴体部2aと接続部分であってトリガ26の直上には、モータ3の回転方向を切替える正逆切替スイッチ28が設けられる。基板収容部2cにはモータ3の回転制御を行う制御部7が収容され、外部からの電力を供給するための電源コード9が下方に延出する。制御部7は、制御回路基板72と、電源回路基板73を含んで構成され、これらは主に基板収容部2c内に収容されるが、電源回路基板73の一部(チョークコイル73b、コンデンサ73c等)はハンドル部2b内にも収容される。制御部7は、トリガ26の操作量に応じてモータ3に供給する電力量を調整することにより、モータ3の回転速度を制御する。電源回路基板73には図示しないダイオードブリッジが搭載され、交流100Vの商用電源を整流して141Vの直流に変換する。インパクトドライバ1では、作業者が把持するハンドル部2bの一端側(上側)にモータ3や減速機構4などの金属製の部材を配置し、他端(下側)に基板の中でも重量のある電源回路基板73及び制御回路基板72を配置し、ハンドル部2b内の基板収容部2c側寄りの位置に重い素子であるチョークコイル73b及びコンデンサ73cを配置してインパクトドライバ1全体の重量バランスを良好に保っている。
【0017】
モータ3は、ブラシレス直流モータであって、前後方向に延びる出力軸31と、出力軸31に固定され複数の永久磁石32aを有するロータ32と、ロータ32を囲むように配置され複数のコイル(ステータコイル)33を備えるステータ34を含んで構成される。本実施例のモータ3は、3相4極6スロットであるが、極数、スロット数はこれだけに限られずその他の数のブラシレス直流モータを用いても良い。出力軸31のモータ3の前方側であって、減速機構4との間には冷却ファン35が設けられ、モータ3と同期して回転することにより吸気口23a(
図2参照)から空気を取り込んで、モータ3の各部を通過させてそれらを冷却した後に、後述する排気口23b(
図2参照)から外部に排出させる。モータ3の詳細な構成は後述する。モータ3の軸方向後方側であって、出力軸31の軸方向と垂直な方向にインバータを搭載するための回路基板40が設けられる。回路基板40はモータ3の外形とほぼ同形の略円形の両面基板であり、この基板上にはFET(Field effect transistor)等の半導体製のスイッチング素子42や、ホールIC等の図示しない位置検出素子が搭載される。
【0018】
減速機構4は、複数の歯車を備える遊星歯車機構で構成され、出力軸31の回転を所定の減速比で減速させてスピンドル53に伝達する。ここで、スピンドル53とハンマ5とはカム機構によって連結され、このカム機構は、スピンドル53の外周面に形成されたV字状のスピンドルカム溝と、ハンマ5の内周面に形成されたハンマカム溝と、これらのカム溝に係合するボール54によって構成される。スピンドル53により回転されるハンマ5は前端に軸方向前方に凸状に突出する衝突部51を有し、アンビル6は後端に径方向に凸状に延びる被衝突部61を備え、ハンマ5が回転した際に衝突部51が被衝突部61と回転方向において衝突する。衝突部51と被衝突部61は、ハンマ5とアンビル6の相対向する回転平面上の2箇所に対称に形成される。ハンマ5はスプリング52によって常に前方に付勢されており、静止時にはボール54とカム溝との係合によってアンビル6の被衝突部61の端面とは隙間を隔てた位置にある。
【0019】
スピンドル53が回転駆動されると、その回転はカム機構を介してハンマ5に伝達され、ハンマ5が半回転しないうちにハンマ5の衝突部51がアンビル6の被衝突部61に係合してアンビル6を回転させるが、そのときの係合反力によってスピンドル53とハンマ5との間に相対回転が生ずると、ハンマ5はカム機構のスピンドルカム溝に沿ってスプリング52を圧縮しながらモータ3側へと後退を始める。
【0020】
そして、ハンマ5の後退動によってハンマ5の衝突部51がアンビル6の被衝突部61を乗り越えて両者の係合が解除されると、ハンマ5は、スピンドル53の回転力に加え、スプリング52に蓄積されていた弾性エネルギーとカム機構の作用によって回転方向及び前方に急速に加速されつつ、スプリング52の付勢力によって前方へ移動し、その衝突部51がアンビル6の被衝突部61に再び係合して一体に回転し始める。このとき、強力な回転打撃力がアンビル6に加えられるため、アンビル6の先端の取り付け部10に装着される図示しない先端工具に強い回転打撃力が伝達される。以後、同様の動作が繰り返されて先端工具からねじに回転打撃力が間欠的に繰り返し伝達され、例えば、ねじが木材等の図示しない被締結材にねじ込まれる。
【0021】
ライト8はLED(発光ダイオード)であって、図示しないライトボタンを押下することにより点灯し、その光は先端工具及びその周囲を照らす。これにより、作業者は暗所でもライト8の明かりによって作業をすることができる。
【0022】
図2は本発明の実施例に係るインパクトドライバ1の外観を示す側面図である。ハウジング2は、縦断面において左右に可能な2つ割ハウジングにより構成され、左右のハウジング2は、複数のビス24で互いに固定される。胴体部2aの後端面には外気を取込む複数の吸気口23aが形成され、胴体部2aの左右の両側面であって冷却ファン35(
図1参照)の周囲付近にはハウジング2の内部に取込んだ外気を排出する複数の排気口23bが形成される。
【0023】
図3は、本発明の実施例に係るインパクトドライバ1の背面図である。胴体部2aの背面側に設けられる吸気口23aは、左右のハウジング2にそれぞれ設けられ、十分な量の外気を取り込むために比較的大きめの開口とされる。ハウジング2の胴体部2aの形状は、その内壁がモータ3の外径にほぼ沿った円筒形状で有り、胴体部2aの下方には、胴体部2aの直径よりも細い径のハンドル部2bが下側に延びるように配置される。
【0024】
次に
図4及び
図5を用いてモータ3のステータ部分の構造について説明する。
図4は
図1のモータ3のステータ単体部分の側面図である。
図5は
図4のモータ3のステータコアの分解斜視図である。ステータ34は、略円筒状のステータコア36と、ステータコア36の軸方向両端に設けられているインシュレータ37、38とを有する。ステータコア36の内部には、半径方向内方に突出するように円周方向に並んで6つのティース36cが設けられ、各ティース36cの間にスロット36bが規定される。ステータコア36の外周面には、半径方向外方に突出するように4つの凸部36aが設けられ、各凸部36aはハウジング2の内周側にそれぞれに設けられた図示せぬ凹部と嵌合することによってハウジング2の径方向に回転及び軸方向に移動しないように保持される。つまり、ステータコア36は左右方向からハウジング2に挟まれるようにして保持される。
【0025】
2つのインシュレータ37、38は、コイル33とステータコア36とを絶縁するためにステータコア36の軸方向両端にそれぞれ設けられており、例えば高分子樹脂等の絶縁材料の一体成形によって製造される。ステータコア36は強い磁力線を導くため、例えば鋼板の積層構造により構成される。インシュレータ37、38には半径方向内方に突出するように円周方向に並んで6つのインシュレータ側ティース37c、38cが設けられ、インシュレータ37、38の外周面には、4つの突起部37a、38aが半径方向外方に突出するように設けられる。インシュレータ側ティース37c、38cはコイル33を巻く際のいわゆるボビンの一部となるものであって、ステータコア36の各ティース36cとインシュレータ側ティース37c、38cとは円周方向において全て一致している。さらに、インシュレータ側ティース37c、38cの内周部分には、巻かれたコイルがインシュレータ側ティース37c、38cから移動しないように、フランジ状に延びたストッパ部37b、38bが形成される。ストッパ部37b、38bの内周側の形状はロータ32の外周面と所定の間隔を隔てて対向する曲面状に構成される。
【0026】
インシュレータ37、38に設けられる各突起部37a、38aには、ステータコア36の凸部36aと当接することによってステータコア36に対してインシュレータ37、38が相対的に回転しないように保持するためのものである。4つの突起部37a、38aとステータコア36との嵌合はきつめに設定すると好ましく、それによってインシュレータ37、38をステータコア36に対して軸方向にも移動不能とすることができる。尚、インシュレータ37、38とステータコア36の固定方法は突起部37a、38aを用いる方法だけで無く、接着やねじ止め等のその他の公知の固定方法で固定するように構成しても良い。
【0027】
インシュレータ側ティース37c、ステータコア36のティース36c、インシュレータ側ティース38cには、軸方向に並べて配置した際にコイルを巻くためのボビン状の形状となり、これらに沿ってコイル33が巻かれる。この固定は、ステータコア36の両端に設けられたインシュレータ37、38のうち、後方側(回路基板40が面する側)のインシュレータ38のインシュレータ側ティース38cから巻き始め、スロット36bを通過してインシュレータ37のインシュレータ側ティース37cに掛けられた後、スロット36bを通過して再びインシュレータ38に至る。この動作を複数回繰り返すことにより、コイル33はステータコア36の一つのティース36cに巻かれたコイルとなる。このときコイル33は、インシュレータ37、38(共に絶縁体で構成)と図示しない絶縁紙とによって確実にステータコア36と絶縁されるように構成される。コイル33をインシュレータ37、38に巻回する作業の際、インシュレータ37、38とステータコア36との位置がずれてしまうとコイル33を巻回することができないため、インシュレータ37とステータコア36とは確実に固定されていることが重要であり、そのために突起部37a、38aが機能する。このようにして円周方向で6箇所あるティース36cの周りにコイル33を巻いて、その後に6つのコイルを所定の接続方法で、例えばスター接続させる。その結果、コイル33の後方側からは6本の引出線(引出部33b)が引き出されることとなり、引出部33bは回路基板40に接続される。
【0028】
図6は
図1のインバータ回路基板単体の背面図であり、6つのスイッチング素子42が取り付けられた状態を示している。この回路基板40には、ガラスエポキシ製の両面基板であって、回路基板40の外形形状はモータ3のステータコア36の外形にほぼ沿った形状で有り、4つのネジによってインシュレータ38に固定される。回路基板40の周囲の4箇所には図示しないネジを貫通するための貫通穴41が形成され、図示しないネジが貫通穴41を貫通させてインシュレータ38のネジボス38e(
図5参照)に螺合される。回路基板40上には、コイル33に供給する電力を制御する略直方体の6つのスイッチング素子42が、その長手方向が出力軸31の軸方向と平行になるように配置される。回路基板40の略中央部分には、出力軸31が貫通する貫通穴40aが形成される。回路基板40のスイッチング素子42が設けられている側とは反対側の面(モータ側の面)には、ロータ32の永久磁石32aの位置を検出するための3つのホール素子(図示せず)が配置される。スイッチング素子42の近傍には、コイル33の引出部33bの端部を前側から貫通させて後側にて半田付けをおこなうための半田付け用穴43が形成される。半田付け用穴43の周囲には図示しない配線パターンが形成され、コイル33と所定のスイッチング素子42を接続する。回路基板40の下側には、外部から直流を供給するための図示しない電力線を半田付けするための半田付け用穴44が形成される。
【0029】
ここで本実施例の半田付け用穴43へのコイル33の固定方法を説明する前に、
図9を用いて従来例におけるブラシレスモータのステータコイルと回路基板の接続状態を説明する。
図9は従来技術に係るブラシレスモータのステータコイルと回路基板の接続状態を示す部分断面図であって、
図1のA−A断面に相当する部分の部分断面図である。従来技術においても、本実施例においてもステータコア36、インシュレータ37、38は同じ部品を用いている。また、回路基板40の形状も
図6で説明したものと同一である。ステータコイル133は、ステータコア36の各ティース36cの軸方向両側に位置するインシュレータ37、38に掛かるように巻かれ、コイル状に巻かれた部分(コイル部133a)からの引き出し部分(引出部133b)が位置し、引出部133bの回路基板40側の端部が回路基板40に半田付けされる。ここで用いられる回路基板40は
図6で示した本実施例の回路基板と同じで有り、つまり従来の回路基板40を替えること無くそのまま本発明の電動工具に用いることができる。ここでは引出部133bの端部は半田付け用穴43の前方側から後方側に貫通され、後方側から半田45によって固定される。この際、引出部133bのうち、コイル部133aからの引出点付近と半田45付近以外は固定されない空中結線状態となる。このため電動工具の稼働時の振動によって空中結線部分たる引出部133bが振動するが、この振動が予想以上に大きくなる場合があった。
【0030】
図7は、本実施例に係るブラシレスモータのステータコイルと回路基板の接続状態を示す図であり、
図1のA−A部に相当する部分断面図である。本実施例では回路基板40とステータコア36のコイル部33aの間の空中配線となる引出部33bを熱収縮チューブ46で覆うように構成した。つまり、半田45で固定する前に、引出部33bを熱収縮チューブ46に貫通させるようにする。熱収縮チューブ46の径や長さは、収縮させた後に引出部33bの全体を覆うのに最適となるように選択すると良い。引出部33bに熱収縮チューブ46を通した後に、引出部33bの先端を半田付け用穴43に貫通させた後に半田45で固定する。次に、熱収縮チューブ46を熱で収縮させた後に熱収縮チューブ46の両端を接着剤47、49(例えば瞬間接着剤や接着作用を有する樹脂)により接着固定する。引出部33bの回路基板40側は、回路基板40の前面側において接着剤47を半田付け用穴43の周囲を均等に盛るようにする。また、引出部33bのコイル部33a側においても熱収縮チューブ46とコイル部33aが接着剤49によって固定される。
【0031】
本実施例では熱収縮チューブ46の両端以外は固定されない空中結線となるが、熱収縮チューブ46により引出部33bが補強されることになるため引出部33bの振れが大幅に抑制される。特に熱収縮チューブ46は弾力性、制震性の高い材料、例えば、ポリオレフィン、PVC(ポリ塩化ビニル)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等で構成されるためその効果が大きい。さらに熱収縮チューブ46の両端部分を回路基板40またはコイル部33aに接着固定することで、熱収縮チューブ46がしっかり固定されるため、引出部33bの振れが更に抑制されることで、引出部33bの断線を効果的に防止できる。なお、従来例では回路基板40とステータコア36のコイル部33aの間に樹脂などを流し込み、樹脂が固まることで回路基板40の剛性を上げ、断線防止を用いる方法が知られているが、本構造は樹脂にて内部空間を充填していないので、樹脂が風路を遮ることでモータの発熱に影響するという悪影響を効果的に防止することができる。