(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5870918
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体の精製方法
(51)【国際特許分類】
C08G 10/02 20060101AFI20160216BHJP
【FI】
C08G10/02
【請求項の数】15
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-509315(P2012-509315)
(86)(22)【出願日】2011年4月5日
(86)【国際出願番号】JP2011002025
(87)【国際公開番号】WO2011125326
(87)【国際公開日】20111013
【審査請求日】2014年3月4日
(31)【優先権主張番号】特願2010-88728(P2010-88728)
(32)【優先日】2010年4月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡田 悠
(72)【発明者】
【氏名】東原 豪
【審査官】
久保田 英樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−242719(JP,A)
【文献】
特開2009−155638(JP,A)
【文献】
国際公開第2001/016199(WO,A1)
【文献】
特開2009−229666(JP,A)
【文献】
特開2006−259249(JP,A)
【文献】
特開2002−179751(JP,A)
【文献】
特開2001−019731(JP,A)
【文献】
特開平05−001157(JP,A)
【文献】
米国特許第3842038(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 8/00−16/06
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルナフタレンとホルムアルデヒドとを反応させて得られるアルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体、及び、有機溶媒を含む溶液を、酸性の水溶液と接触させることを特徴とするアルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体の精製方法。
【請求項2】
前記酸性の水溶液が、塩酸、硫酸、硝酸及びリン酸からなる群より選ばれる1種以上の鉱酸水溶液である請求項1記載の精製方法。
【請求項3】
前記酸性の水溶液が、酢酸、プロピオン酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、フェノールスルホン酸、p−トルエンスルホン酸及びトリフルオロ酢酸からなる群より選ばれる1種以上の有機酸水溶液である請求項1記載の精製方法。
【請求項4】
前記酸性の水溶液が、硫酸の水溶液である請求項2記載の精製方法。
【請求項5】
前記酸性の水溶液が、蓚酸の水溶液である請求項3記載の精製方法。
【請求項6】
前記有機溶媒が、トルエン、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート又は酢酸エチルである請求項1〜5のいずれかに記載の精製方法。
【請求項7】
前記有機溶媒が、シクロヘキサノン又はプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートである請求項6に記載の精製方法。
【請求項8】
前記アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体が下記一般式(1)で示される単位を含む請求項1〜7のいずれかに記載の精製方法。
【化1】
(式(1)中、Xは−(O CH
2)t−であり、tは0〜2である。nは0〜4である。)
【請求項9】
前記アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体が下記一般式(2)で示される単位を含む請求項1〜7のいずれかに記載の精製方法。
【化2】
(式(2)中、Xは−(O CH
2)t−であ
り、tは0〜2である。Rはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。)
【請求項10】
前記アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体が下記一般式(3)で示される単位を含む請求項1〜7のいずれかに記載の精製方法。
【化3】
(式(3)中、Xは−(O CH
2)t−であ
り、tは0〜2である。R
1はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、ノルボルニル基、シクロヘキシル基、トリシクロデシル基、アダマンチル基、デカヒドロナフチル基、ビシクロオクチル基及びアセナフテニル基からなる群から選択される1種以上の官能基を示す。また、式(3)中、Yは−CO−又は単結合を示し、Zは酸素原子又は硫黄原子を示す。mは0〜3である。)
【請求項11】
前記アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体が下記一般式(4)で示される単位を含む請求項1〜7のいずれかに記載の精製方法。
【化4】
(式(4)中、Xは−(O CH
2)t−であり、
tは0〜2であり、Yは−CO−又は単結合を示し、Zは酸素原子又は硫黄原子を示す。R
2はそれぞれ独立に水素原子、又は炭素数1〜4の炭化水素基を示し、R
3はそれぞれ独立にノルボルニル基、シクロヘキシル基、トリシクロデシル基、アダマンチル基、デカヒドロナフチル基及びビシクロオクチル基からなる群から選択される1種以上の官能基を示す。lは0〜3である。)
【請求項12】
前記アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体が下記一般式(5)で示される単位を含む請求項1〜7のいずれかに記載の精製方法。
【化5】
(式(5)中、Xは−(O CH
2)t−であり、
tは0〜2であり、Yは−CO−又は単結合を示し、Zは酸素原子又は硫黄原子を示す。R
4はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基、ノルボルニル基、シクロヘキシル基、トリシクロデシル基、アダマンチル基、デカヒドロナフチル基、ビシクロオクチル基及びアセナフテニル基からなる群から選択される1種以上の官能基を示す。oは1〜2であり、pは0〜4である。)
【請求項13】
前記アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体が下記一般式(6)で示される単位を含む請求項1〜7のいずれかに記載の精製方法。
【化6】
(式(6)中、Xは−(O CH
2)t−であり、
tは0〜2であり、Yは−CO−又は単結合を示し、Zは酸素原子又は硫黄原子を示し、R
3はそれぞれ独立にノルボルニル基、シクロヘキシル基、トリシクロデシル基、アダマンチル基、デカヒドロナフチル基及びビシクロオクチル基からなる群から選択される1種以上の官能基を示す。R
5はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基を示す。qは1〜2であり、rは0〜4である。)
【請求項14】
前記アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体が下記一般式(7)で示される単位を含む請求項1〜7のいずれかに記載の精製方法。
【化7】
(式(7)中、Xは−(O CH
2)t−であり、
tは0〜2であり、R
5はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基を示す。sは0〜4である。)
【請求項15】
前記アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体が下記一般式(8)で示される単位を含む請求項1〜7のいずれかに記載の精製方法。
【化8】
(式(8)中、Xは−(O CH
2)t−であり、
tは0〜2であり、R
5はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基を示し、sは0〜4である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体の精製方法、特に、金属含有量の低減されたアルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体の工業的に有利な精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モノメチルナフタレン及び/又はジメチルナフタレンを主成分とする多環式芳香族炭化水素とパラホルムアルデヒドとを、芳香族モノスルホン酸の存在下に反応させて得られる芳香族炭化水素樹脂は公知であり、得られる樹脂は、液状エポキシ樹脂との相溶性及びキシレンに対する溶解性が優れている(特許文献1参照)。
【0003】
また、メトキシメチレンナフタレン化合物と、フェノール、クレゾール又はナフトール等のフェノール性水酸基を有する化合物とを、ジエチル硫酸の存在下に反応させ、ナフタレンとフェノール性水酸基を有する化合物とがメチレン基を介して結合した構造を持つフェノール樹脂を得る方法が公知である(特許文献2参照)。
【0004】
これらの樹脂は半導体用のコーティング剤、レジスト用樹脂、半導体下層膜形成樹脂として使用されている。これらの用途においては、特に金属含有量が、歩留まり向上のために重要な性能項目となっている。すなわち、金属含有量の多い樹脂を用いた場合には、半導体中に金属が残存し、半導体の電気特性を低下させることから、金属含有量を低減することが求められている。
【0005】
金属含有量の低減されたアルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体の製造方法として、アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体と有機溶媒を含む溶液を、イオン交換樹脂と接触させる方法や、フィルターで濾過する方法等が考えられる。
しかしながら、イオン交換樹脂を用いる方法では、種々の金属イオンを含有する場合は、イオン交換樹脂の選択に難があり、金属の種類によっては除去が困難であるという問題、非イオン性の金属の除去が困難であるという問題、さらには、ランニングコストが大きいという問題がある。一方、フィルターで濾過する方法では、イオン性金属の除去が困難であるという問題がある。
そのため、金属含有量の低減されたアルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体の工業的に有利な精製方法の確立が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭54−86593号公報
【特許文献2】特開2004−91550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、金属含有量の低減されたアルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体の工業的に有利な精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体と有機溶媒を含む溶液を、酸性の水溶液と接触させることにより、種々の金属の含有量が著しく低下することを見出し、本発明に到った。
【0009】
すなわち、本発明はつぎの通りである。
1. アルキルナフタレンとホルムアルデヒドとを反応させて得られるアルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体、及び、有機溶媒を含む溶液を、酸性の水溶液と接触させることを特徴とするアルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体の精製方法。
2. 前記酸性の水溶液が、塩酸、硫酸、硝酸及びリン酸からなる群より選ばれる1種以上の鉱酸の水溶液である第1項記載の精製方法。
3. 前記酸性の水溶液が、酢酸、プロピオン酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、フェノールスルホン酸、p−トルエンスルホン酸及びトリフルオロ酢酸からなる群より選ばれる1種以上の有機酸水溶液である第1項記載の精製方法。
4. 前記酸性の水溶液が、硫酸の水溶液である第2項記載の精製方法。
5. 前記酸性の水溶液が、蓚酸の水溶液である第3項記載の精製方法。
6. 前記有機溶媒が、トルエン、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート又は酢酸エチルである第1項〜第5項のいずれかに記載の精製方法。
7. 前記有機溶媒が、シクロヘキサノン又はプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートである第6項に記載の精製方法。
8. 前記アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体が下記一般式(1)で示される単位を含む第1項〜第7項のいずれかに記載の精製方法。
【化1】
(式(1)中、Xは−(O CH
2)t−であり、tは0〜2である。nは0〜4である。)
9. 前記アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体が下記一般式(2)で示される単位を含む第1項〜第7項のいずれかに記載の精製方法。
【化2】
(式(2)中、Xは前記と同様である。Rはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。)
10. 前記アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体が下記一般式(3)で示される単位を含む第1項〜第7項のいずれかに記載の精製方法。
【化3】
(式(3)中、Xは前記と同様である。R
1はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、ノルボルニル基、シクロヘキシル基、トリシクロデシル基、アダマンチル基、デカヒドロナフチル基、ビシクロオクチル基及びアセナフテニル基からなる群から選択される1種以上の官能基を示す。また、式(3)中、Yは−CO−又は単結合を示し、Zは酸素原子又は硫黄原子を示す。mは0〜3である。)
11. 前記アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体が下記一般式(4)で示される単位を含む第1項〜第7項のいずれかに記載の精製方法。
【化4】
(式(4)中、X、Y、Zは前記と同様である。R
2はそれぞれ独立に水素原子、又は炭素数1〜4の炭化水素基を示し、R
3はそれぞれ独立にノルボルニル基、シクロヘキシル基、トリシクロデシル基、アダマンチル基、デカヒドロナフチル基及びビシクロオクチル基からなる群から選択される1種以上の官能基を示す。lは0〜3である。)
12. 前記アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体が下記一般式(5)で示される単位を含む第1項〜第7項のいずれかに記載の精製方法。
【化5】
(式(5)中、X、Y、Zは前記と同様である。R
4はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基、ノルボルニル基、シクロヘキシル基、トリシクロデシル基、アダマンチル基、デカヒドロナフチル基、ビシクロオクチル基及びアセナフテニル基からなる群から選択される1種以上の官能基を示す。oは1〜2であり、pは0〜4である。)
13. 前記アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体が下記一般式(6)で示される単位を含む第1項〜第7項のいずれかに記載の精製方法。
【化6】
(式(6)中、X、Y、Z、R
3は前記と同様である。R
5はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基を示す。qは1〜2であり、rは0〜4である。)
14. 前記アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体が下記一般式(7)で示される単位を含む第1項〜第7項のいずれかに記載の精製方法。
【化7】
(式(7)中、X、R
5は前記と同様である。sは0〜4である。)
15. 前記アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体が下記一般式(8)で示される単位を含む第1項〜第7項のいずれかに記載の精製方法。
【化8】
(式(8)中、X,R
5,sは前記と同様である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明により、種々の金属の含有量の著しく低減されたアルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体の精製方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体を有機溶媒に溶解させ、その溶液を酸性水溶液と接触させることにより、アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体と有機溶媒を含む溶液に含まれていた金属分を水相に移行させ、金属含有量の低減されたアルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体を精製する。
【0012】
本発明で使用されるアルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体は、少なくともアルキルナフタレンとホルムアルデヒドとを反応させて得られるアルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体であるが、アルキルナフタレン及びホルムアルデヒド以外の原料としてフェノール、フェノール誘導体、ナフトール、ナフトール誘導体等を用いることができる。また、該重合体を得るに際し、例えば、アルキルナフタレン及びホルムアルデヒドを反応させた後、フェノール、フェノール誘導体、ナフトール、ナフトール誘導体等で変性することにより、目的とする重合体を得る方法などの多段階の反応を経て最終的に得られる重合体でも良い。
【0013】
本発明に用いる重合体を得るのに用いられるアルキルナフタレンとしては、α―メチルナフタレン、β―メチルナフタレン、1,2−ジメチルナフタレン、1,3−ジメチルナフタレン、1,4−ジメチルナフタレン、1,5−ジメチルナフタレン、1,6−ジメチルナフタレン、1,7−ジメチルナフタレン、1,8−ジメチルナフタレン、2,3−ジメチルナフタレン、2,6−ジメチルナフタレン、2,7−ジメチルナフタレン、トリメチルナフタレン、テトラメチルナフタレン、アセナフテン、メチルアセナフテン、シクロヘキシルナフタレン、ノルボルニルナフタレン、トリシクロデカニルナフタレン、アダマンチルナフタレン、デカニルナフタレン及びビシクロオクチルナフタレンの群から選ばれる1種、又は2種以上の混合物である。原料調達の優位性と樹脂製造のしやすさ、光学特性等を総合的に考慮した際には1,5−、2,6−、2,7−、1,8−ジメチルナフタレンないしアセナフテンが好ましく、その中でも1,5−ジメチルナフタレンが特に好ましい。
【0014】
ジメチルナフタレンはナフタレン環の2つの芳香環双方にメチル基を各1個有する構造であるため、酸性又はアルカリ触媒存在下で、ホルムアルデヒドと縮合反応させた際に、多官能性樹脂となる。無置換のナフタレンやモノメチルナフタレン、及びナフタレン環の片方の芳香環のみがジメチル化された、1,2−ジメチルナフタレン、1,3−ジメチルナフタレン、1,4−ジメチルナフタレンを原料とした場合は、界面反応のような特殊な反応形式を採用しない限り多官能性樹脂は得られない。また、トリメチル置換以上のナフタレン化合物を用いた場合にも、反応点が少なくなり多官能性樹脂は得られない。
【0015】
本発明で用いるアルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体は、下記一般式(1)で示される構成単位を有することが好ましい。
【化9】
(式(1)中、Xは−(O CH
2)t−であり、tは0〜2である。nは0〜4である。)
【0016】
本発明で用いるアルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体は下記一般式(2)で示される構成単位を有していてもよい。
【化10】
(式(2)中、Xは前記と同様である。Rはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。)
【0017】
本発明の一般式(2)で示される構成単位を含む変性アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体は、一般式(1)で示される構成単位を有する重合体に下記一般式(9)で示される化合物からなる変性剤を、酸性又はアルカリ触媒下で縮合反応することにより得られる。一般式(9)で示される化合物としてはアセナフテンが特に好ましい。
【化11】
(式(9)中、Rは前記と同様である。)
【0018】
本発明で用いるアルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体は下記式(10)で示される各単位からなる群から選ばれる構成単位を有していてもよい。
【化12】
(式(10)中、Xは前記と同様である。)
【0019】
本発明の一般式(10)で示される構成単位を含む変性アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体は、一般式(1)で示される構成単位を有する重合体にアントラセン、フェナントレン、ピレン、アセナフチレン、アセナフテン、インデン、フルオレン、フラーレン等の芳香族炭化水素類からなる変性剤を、酸性又はアルカリ触媒下で縮合反応することにより得られる。
【0020】
本発明で用いるアルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体は、下記一般式(3)で示される構成単位を含むことが好ましい。
【化13】
(式(3)中、Xは前記と同様である。R
1はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、ノルボルニル基、シクロヘキシル基、トリシクロデシル基、アダマンチル基、デカヒドロナフチル基、ビシクロオクチル基及びアセナフテニル基からなる群から選択される1種以上の官能基を示す。また式(3)中、Yは−CO−又は単結合を示し、Zは酸素原子又は硫黄原子を示す。mは0〜3である。)
【0021】
本発明の一般式(3)で示される構成単位を含む重合体は前記重合体に下記一般式(11)で示される化合物からなる変性剤を、酸性又はアルカリ触媒下で縮合反応することにより得られる。
【化14】
(式(11)中、Y、Z、R
1、mは前記と同様である。)
【0022】
一般式(11)で示される化合物としてはフェノール又はフェノール誘導体であることが好ましい。フェノール誘導体は、フェノールとアルケンないしアルコールないしハロゲン化物を酸触媒下でアルキル化反応させることにより得られる。また、エステル化物を用いてエステル交換反応後、ルイス酸触媒等によりフリース転位させることにより、カルボニル基を介したケトン化物が得られる。
【0023】
本発明で用いるアルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体は、下記一般式(4)で示される構成単位を含むことが好ましい。
【化15】
(式(4)中、X、Y、Zは前記と同様である。R
2はそれぞれ独立に水素原子、又は炭素数1〜4の炭化水素基を示し、R
3はそれぞれ独立にノルボルニル基、シクロヘキシル基、トリシクロデシル基、アダマンチル基、デカヒドロナフチル基及びビシクロオクチル基からなる群から選択される1種以上の官能基を示す。lは0〜3である。)
【0024】
本発明の一般式(4)で示される構成単位を含む重合体は前記重合体に下記一般式(12)で示される化合物からなる変性剤を、酸性又はアルカリ触媒下で縮合反応することにより得られる。一般式(12)で示される化合物としてはフェノール誘導体であることが好ましい。
【化16】
(式(12)中、Y、Z、R
2、R
3、lは前記と同様である。)
【0025】
本発明で用いるアルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体は、下記一般式(5)で示される構成単位を含むことが好ましい。
【化17】
(式(5)中、X、Y、Zは前記と同様である。R
4はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基、ノルボルニル基、シクロヘキシル基、トリシクロデシル基、アダマンチル基、デカヒドロナフチル基、ビシクロオクチル基及びアセナフテニル基からなる群から選択される1種以上の官能基を示す。oは1〜2であり、pは0〜4である。)
【0026】
本発明の一般式(5)で示される構成単位を含む重合体は前記重合体に下記一般式(13)で示される化合物からなる変性剤を、酸性又はアルカリ触媒下で縮合反応することにより得られる。
【化18】
(式(13)中、Y、Z、R
4、o、pは前記と同様である。)
【0027】
一般式(13)で示される化合物としてはナフトール又はナフトール誘導体であることが好ましい。ナフトール誘導体ないしナフタレンジオール誘導体は、ナフトールやナフタレンジオールとアルケンないしアルコールないしハロゲン化物を酸触媒下でアルキル化反応させることにより得られる。また、エステル化物を用いてエステル交換反応後、ルイス酸触媒等によりフリース転位させることにより、カルボニル基を介したケトン化物が得られる。
【0028】
本発明で用いるアルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体は、下記一般(6)で示される構成単位を含むことが好ましい。
【化19】
(式(6)中、X、Y、Z、R
3は前記と同様である。R
5はそれぞれ独立に水素原子、又は炭素数1〜3の炭化水素基を示す。qは1〜2であり、rは0〜4である。)
【0029】
本発明の一般式(6)で示される構成単位を含む重合体は前記重合体に下記一般式(14)で示される化合物からなる変性剤を、酸性又はアルカリ触媒下で縮合反応することにより得られる。一般式(14)で示される化合物としてはナフトール誘導体であることが好ましい。
【化20】
(式(14)中、Y、Z、R
3、R
5、q、rは前記と同様である。)
【0030】
本発明のアルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体は下記一般式(7)で示される単位を含むことが好ましい。
【化21】
(式(7)中、X、R
5は前記と同様である。sは0〜4である。)
【0031】
本発明の一般式(7)で示される構成単位を含む重合体は前記重合体に下記一般式(15)で示される化合物からなる変性剤を、酸性又はアルカリ触媒下で縮合反応することにより得られる。
【化22】
(式(15)中、R
5、sは前記と同様である。)
【0032】
本発明のアルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体は下記一般式(8)で示される単位を含むことが好ましい。
【化23】
(式(8)中、X,R
5,sは前記と同様である。)
【0033】
本発明の一般式(8)で示される構成単位を含む重合体は前記重合体に下記一般式(16)で示される化合物からなる変性剤を、酸性又はアルカリ触媒下で縮合反応することにより得られる。
【化24】
(式(16)中、R
5、sは前記と同様である。)
【0034】
本発明で使用するアルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体は、フェノール性水酸基にエポキシ基を導入することが出来る。フェノール性水酸基を有する樹脂とエピクロロヒドリン等のエポキシ含有化合物を塩基の作用によりエポキシ基を導入することが出来る。
【0035】
本発明で使用するアルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体は単独でも良いが、2種以上混合することもできる。また、アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体は、各種界面活性剤、各種架橋剤、各種酸発生剤、各種安定剤等を含有したものであっても良い。
【0036】
本発明で使用される有機溶媒としては、水と任意に混和しない有機溶媒であれば特に限定されないが、半導体製造プロセスに安全に適用できる有機溶媒が好ましい。使用する有機溶媒の量は、使用する重合体に対して、通常1〜100重量倍程度使用される。
使用される溶媒の具体例としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸n‐ブチル、酢酸イソアミル等のエステル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2‐ヘプタノン、2−ペンタノン等のケトン類、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルアセテート類、n‐ヘキサン、n‐ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。これらの中でも、トルエン、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸エチル等が好ましく、特にシクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが好ましい。
これらの溶媒はそれぞれ単独で用いることもできるし、また2種以上を混合して用いることもできる。
【0037】
本発明で使用される酸性の水溶液としては、一般に知られる有機、無機系化合物を水に溶解させた水溶液の中から適宜選択される。例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸を水に溶解させた水溶液、又は、酢酸、プロピオン酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、フェノールスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸を水に溶解させた水溶液が挙げられる。これら酸性の水溶液は、それぞれ単独で用いることもできるし、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。これら酸性の水溶液の中でも、硫酸、硝酸及び、酢酸、蓚酸、酒石酸、クエン酸等のカルボン酸の水溶液が好ましく、さらに、硫酸、蓚酸、酒石酸、クエン酸の水溶液が好ましく、特に蓚酸の水溶液が好ましい。蓚酸、酒石酸、クエン酸等の多価カルボン酸は金属イオンに配位し、キレート効果が生じるために、より金属を除去できると考えられる。また、ここで用いる水は、本発明の目的に沿って、金属含有量の少ないもの、例えばイオン交換水等が好ましい。
【0038】
本発明で使用する酸性の水溶液のpHは特に制限されないが、水溶液の酸性度があまり大きくなるとアルキルナフタレンホルムアルデヒド樹脂に悪影響を及ぼすことがあり好ましくない。通常、pH範囲は0〜5程度であり、より好ましくはpH0〜3程度である。
【0039】
本発明で使用する酸性の水溶液の使用量は特に制限されないが、その量があまりに少ないと、金属除去のための抽出回数多くする必要があり、逆に水溶液の量があまりに多いと全体の液量が多くなり操作上の問題を生ずることがある。水溶液の使用量は、通常、有機溶媒に溶解したアルキルナフタレンホルムアルデヒド樹脂溶液に対して10〜200重量%であり、好ましくは20〜100重量%である。
【0040】
本発明は、上記のような酸性の水溶液と、アルキルナフタレンホルムアルデヒド樹脂及び有機溶媒を含む溶液とを接触させることにより、金属分を抽出することを特徴とする。
抽出処理を行う際の温度は通常、20〜90℃であり、好ましくは30〜80℃の範囲である。抽出操作は、例えば、攪拌等により、よく混合させたあと、静置することにより行われる。これにより、アルキルナフタレンホルムアルデヒド樹脂と有機溶媒を含む溶液に含まれていた金属分が水相に移行する。
【0041】
得られる混合物は、アルキルナフタレンホルムアルデヒド樹脂と有機溶媒を含む溶液相と水相に分離するのでデカンテーション等によりアルキルナフタレンホルムアルデヒド樹脂と有機溶媒を含む溶液を回収する。静置する時間は特に制限されないが、静置する時間があまりに短いと有機溶媒を含む溶液相と水相との分離が悪くなり好ましくない。通常、静置する時間は10分以上であり、より好ましくは30分以上である。
また、抽出処理は1回だけでもかまわないが、混合、静置、分離という操作を複数回繰り返して行うのも有効である。
【0042】
酸性の水溶液を用いてこのような抽出処理を行った場合は、処理を行ったあとに、該水溶液から抽出し、回収したアルキルナフタレンホルムアルデヒド樹脂と有機溶媒を含む溶液は、さらに水との抽出処理を行うことが好ましい。抽出操作は、攪拌等により、よく混合させたあと、静置することにより行われる。そして得られる溶液は、アルキルナフタレンホルムアルデヒド樹脂と有機溶媒を含む溶液相と水相に分離するのでデカンテーション等によりアルキルナフタレンホルムアルデヒド樹脂と有機溶媒を含む溶液相を回収する。また、ここで用いる水は、本発明の目的に沿って、金属含有量の少ないもの、例えばイオン交換水等が好ましい。抽出処理は1回だけでもかまわないが、混合、静置、分離という操作を複数回繰り返して行うのも有効である。また、抽出処理における両者の使用割合や、温度、時間等の条件は特に制限されないが、先の酸性の水溶液との接触処理の場合と同様で構わない。
【0043】
こうして得られたアルキルナフタレンホルムアルデヒド樹脂と有機溶媒を含む溶液に混入する水分は減圧蒸留等の操作を施すことにより容易に除去できる。また、必要により有機溶媒を加え、アルキルナフタレンホルムアルデヒド樹脂の濃度を任意の濃度に調整することができる。
【0044】
得られたアルキルナフタレンホルムアルデヒド樹脂と有機溶媒を含む溶液から、アルキルナフタレンホルムアルデヒド樹脂のみ得る方法は、減圧除去や再沈殿による分離、及びそれらの組み合わせ等、公知の方法で行うことができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に限定はされない。以下の合成例において、化合物の構造は
1H−NMR測定で確認した。
【0046】
<合成例> アルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体の合成
(ジメチルナフタレン樹脂(DMN樹脂)の合成)
・DMN樹脂の合成例1
ジム・ロート氏冷却管、温度計、攪拌翼を設置した四つ口フラスコ(2000mL)に、窒素気流下で、三菱ガス化学製1,5‐ジメチルナフタレン(1,5DMN)(218g、1.4mol)、三菱ガス化学製ホルマリン40%水溶液(420g,5.6mol)、関東化学製98%硫酸(194g)を仕込み、常圧下、7時間100℃で還流させた。エチルベンゼンで希釈後、中和及び水洗を行い、脱溶媒並びに1,5DMNを減圧除去し、淡褐色固体(1,5DMN‐R)250gを得た。GPC測定の結果、Mn:550、Mw:1130、Mw/Mn:2.05であった。
【0047】
(ナフトール変性DMN‐Rの合成)
・変性樹脂の合成例1
ジム・ロート氏冷却管、温度計、攪拌翼を設置した四つ口フラスコ(500mL)に、窒素気流下で、合成例1で得た1,5DMN‐R(90g)、関東化学製α‐ナフトール(71.1g,0.49mol)、パラトルエンスルホン酸(0.36g)を加え、4時間、185℃まで昇温させ反応させた。溶媒希釈後、中和及び水洗を行い、脱溶媒並びに減圧除去し、淡褐色固体(NF−1)160gを得た。GPC測定の結果、Mn:848、Mw:1630、Mw/Mn:1.93であり、また、水酸基価は175mgKOH/gであった。なお、前記NF−1については、上記一般式(1)及び(5)で示される構成単位を含むアルキルナフタレンホルムアルデヒド重合体である。
【0048】
・変性樹脂の合成例2
変性樹脂の合成例1におけるα‐ナフトールの仕込み量を(50.1g,0.35mol)に代えた以外は変性樹脂の合成例1と同様に合成し、淡褐色固体(NF−2)125gを得た。GPC測定の結果、Mn:871、Mw:2174、Mw/Mn:2.50であり、また、水酸基価は122mgKOH/gであった。
【0049】
<実施例> 金属含有量の低減された変性樹脂のシクロヘキサノン溶液の製造
(実施例1)
1000mL容量の四つ口フラスコ(底抜き型)に、NF‐1をシクロヘキサノンに溶解させた溶液(15wt%)を400g仕込み、攪拌しながら75℃まで加熱した。次いで、蓚酸水溶液(pH1.3)400gを加え、3分間攪拌後、1時間静置した。これにより油相と水相に分離したので、水相を除去した。この操作を2回繰り返した後、得られた油相に、超純水400gを仕込み、3分間攪拌後、1時間静置し、水相を除去した。この操作を3回繰り返すことにより、金属含有量の低減されたNF−1シクロヘキサノン溶液を得た。
【0050】
(実施例2)
実施例1における蓚酸水溶液(pH1.3)400gを仕込む代わりに、硫酸水溶液(pH1.3)400gを仕込んだ以外は同様に処理して金属含有量の低減されたNF−1シクロヘキサノン溶液を得た。
【0051】
<実施例> 金属含有量の低減された変性樹脂のPGMEA溶液の製造
(実施例3)
1000mL容量の四つ口フラスコ(底抜き型)に、NF‐2をPGMEAに溶解させた溶液(10wt%)を400g仕込み、攪拌しながら40℃まで加熱した。次いで、蓚酸水溶液(pH1.3)100gを加え、3分間攪拌後、1時間静置した。これにより油相と水相に分離したので、水相を除去した。この操作を2回繰り返した後、得られた油相に、超純水100gを仕込み、3分間攪拌後、1時間静置し、水相を除去した。この操作を3回繰り返すことにより、金属含有量の低減されたNF−2PGMEA溶液を得た。
【0052】
(実施例4)
実施例3における蓚酸水溶液(pH1.3)100gを仕込む代わりに、クエン酸水溶液(pH1.3)100gを仕込んだ以外は同様に処理して金属含有量の低減されたNF−2PGMEA溶液を得た。
【0053】
(実施例5)
実施例3における蓚酸水溶液(pH1.3)100gを仕込む代わりに、硫酸水溶液(pH1.3)100gを仕込んだ以外は同様に処理して金属含有量の低減されたNF−2PGMEA溶液を得た。
【0054】
処理前のNF‐1シクロヘキサノン溶液及び実施例1、2における各種金属含有量をICP−MSによって測定した。測定結果を表1に示した。
【0055】
【表1】
【0056】
処理前のNF‐2PGMEA溶液及び実施例3、4、5における各種金属含有量をICP−MSによって測定した。測定結果を表2に示した。
【0057】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、金属含有量の低減されたアルキルナフタレンホルムアルデヒド樹脂を工業的に有利に製造することができる。