(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2と、該シート2の片面に前記熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するタイゴム3を積層した積層体シート1の端部をラップスプライスしてインナーライナー層10を形成させた空気入りタイヤにおいて、前記熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2として、前記ラップスプライスされる端部の先端が、以下の要件(a)および要件(b)を満足する先端先鋭化処理されたものが用いられ、かつ該ラップスプライスされた部分においては、前記先鋭化処理部分と先鋭化処理を受けていない部分の双方を有した2層の該シート2部分の間に、前記タイゴム3の層が挟持されて存在し、前記先端先鋭化処理された先端部分の表面では、該エラストマーが前記熱可塑性樹脂の被膜で覆われていることを特徴とする空気入りタイヤ。
要件(a):該先端先鋭化処理された部分の長さL(μm)が、L=(0.769〜3.077)×t(μm)長さ分、先端から内側に入った位置まであること、
要件(b):該先端先鋭化処理が、前記熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の先端から、(t×1/3)長さ分内側に入った位置で、厚さT(μm)が、0.154t≦T≦0.538tを満足する関係を有すること、
ここで、
t:熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の非先端先鋭化処理部分のタイヤ周方向平均厚さ(μm)
T:熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の先端から、(t×1/3)長さ分内側に入った位置でのシート2の厚さ(μm)
前記積層体シート1が1枚もしくは複数枚が用いられ、1枚の場合はその両端部が、複数枚の場合は相互の端部が、ラップスプライスされて前記インナーライナー層10を形成してなる請求項1に記載の空気入りタイヤ。
熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2と、該シート2の片面に前記熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するタイゴム3を積層した積層体シート1の端部をラップスプライスしてインナーライナー層10を形成させる空気入りタイヤの製造方法において、前記熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の前記ラップスプライスされた端部の先端が、以下の要件(a)および要件(b)を満足する先端先鋭化処理された形態を有し、かつ該ラップスプライスされた部分においては、前記先鋭化処理部分と先鋭化処理を受けていない部分の双方をシート長さ方向に有した2層の該シート2部分の間に、前記タイゴム3の層が挟持されるようにして、前記先端先鋭化処理された先端部分の表面では、該エラストマーが前記熱可塑性樹脂の被膜で覆われるようにして、前記ラップスプライスを形成することを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
要件(a):該先端先鋭化処理された部分の長さL(μm)が、L=(0.769〜3.077)×t(μm)長さ分、先端から内側に入った位置まであること、
要件(b):該先端先鋭化処理が、前記熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の先端から、(t×1/3)長さ分内側に入った位置で、厚さT(μm)が、0.154t≦T≦0.538tを満足する関係を有すること、
ここで、
t:熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の非先端先鋭化処理部分のタイヤ周方向平均厚さ(μm)
T:熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の先端から、(t×1/3)長さ分内側に入った位置でのシート2の厚さ(μm)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、更に詳しく本発明の空気入りタイヤとその空気入りタイヤを製造する方法について説明する。
【0023】
本発明の空気入りタイヤは
、熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2と、該シート2の片面
に前記熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するタイゴム3を積層した積層体シート1の端部をラップスプライスしてインナーライナー層10を形成させた空気入りタイヤにおいて
、前記熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2として、前記ラップスプライスされる端部の先端が、以下の要件(a)
および要件(b)を満足する先端先鋭化処理されたもの(請求項
1の発明)が用いられ、かつ該ラップスプライスされた部分においては、前記先鋭化処理部分と先鋭化処理を受けていない部分の双方を有した2層の該シート2部分の間に、前記タイゴム3の層が挟持されて存在していることを特徴とする。
要件(a):該先端先鋭化処理された部分の長さL(μm)が、L=(0.769〜
3.077)×t(μm)長さ分、先端から内側に入った位置まであること、
要件(b):該先端先鋭化処理が
、前記熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の先端から、(t×1/3)長さ分内側に入った位置で、厚さT(μm)が、
0.154t≦T≦
0.538tを満足する関係を有すること、
ここで、
t
:熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の非先端先鋭化処理部分のタイヤ周方向平均厚さ(μm)
T
:熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の先端から、(t×1/3)長さ分内側に入った位置でのシート2の厚さ(μm)
【0024】
本発明者らは、従来技術による空気入りタイヤの不都合点であるインナーライナー層を構成してい
る熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物のシートと
、前記可塑性樹脂組成物のシートと加硫接着されたタイゴムシートとが相互間で剥離する原因について種々検討した結果、以下の知見を得た。
【0025】
すなわち、上述の積層体シート1を、通常の方法で準備した場合、
図2(a)、(b)に示した積層体シート1の両端のラップスプライス部S付近では、上下に存在する剛性の大き
な熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物のシート2に挟まれたタイゴム部に大きな応力が発生し、そのため
、熱可塑性樹脂組成物のシート2の先端部付近4などにおいてクラックの発生や、さらに該クラックが大きくなって剥離が発生すると考えられるものであった。
【0026】
これに対して、本発明の空気入りタイヤにおいては、
図1に示したように、積層体シート1を所定長さに切断して準備するに際して
、熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物のシート2として、その先端付近にて先端先鋭化処理されている部分5が形成されたものを準備するのである。これにより、ラップスプライスされた部分において、上下にペアで存在する剛性の大き
な熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物のシート2の厚さが、先端部付近4では薄いものとなり、また、シート2とタイゴム部3との界面の面積が広くなることから応力は分散され、これら理由により、シート2に挟まれたタイゴム部3に発生する応力は小さくかつ分散もされて、緩和されたものとなる。
【0027】
このことが、タイヤ使用の開始後に
、該熱可塑性樹脂組成物のシート2と加硫接着されたタイゴムシート3との間で互いの剥離現象を起こすことを防止するのに効果を発揮する。タイゴムシート3は、ラップスプライスされた部分においては、上述のように、2層の該シート2部分の間に挟持されて存在しており、かつ該2層のシート2は、いずれも前記先鋭化処理部分と先鋭化処理を受けていない部分の双方をシート長さ方向に有した態様のものである。ラップスプライスされた部分のうち、先鋭化処理を受けていない部分は
図1(b)において6で示した部分である。この構造により、ラップスプライス部においても、シート2は先鋭化処理を受けていない部分を有し、シート2が本来有する空気透過防止性能も十分に維持される。
【0028】
本発明において
、熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物のシート2が、その先端で「先端先鋭化処理をされている」とは、通常の刃物を使用して常温下で積層シート1を切断しただけの場合では、シートの幅方向から見たとき、その切断面はシート2の平面方向に垂直な切断端面を有するが(
図2(a))、本発明にかかるシート2では、その切断端面が、
図1の(a)〜(c)にモデル的に示したように、先鋭化処理されて先端に向かって徐々に細くなっている先端先鋭化処理部分5を有しているものであり、そのような側面形状になるように、物理的または化学的な処理もしくはそれら双方の処理あるいはそれらの処理と熱的処理の組合せなどによる処理がなされていることをいうものである。
【0029】
その処理は、所望のラップスプライスに適応させた所定長さに積層シート1を切断するのと同時になされるものであってもよく、あるいは、所定長さに切断後になされるものであってもよい。さらに、あるいは、積層シートにされる前の段階で
、熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物のシート2の先端部または/およびタイゴム3の先端部に対して先端先鋭化処理を施して、しかる後に、両者を積層・接合して積層シート1を形成せしめるようにしてもよい。これらは、先端先鋭化処理が該加硫成形よりも前の工程にてなされたものである。いずれにあっても、積層シートの先端部での先鋭化形態が実現できて、上述した応力の分散と緩和効果が得られるものである。また、あるいは、先端先鋭化処理がタイヤの加硫成形後に行われるものでもよく、特に該先端尖鋭化処理が、後述するような物理的処理を主とする処理である場合には、タイヤの加硫成形後に行うことも処理のしやすさや的確さなどの点での利点がある。
【0030】
「先鋭化処理されて先端に向かって徐々に細くなっている形状」は、先端付近において、「丸味」が付けられている程度のものでもよく、そのような丸味を有する形状にされているだけでも、上述したクラックの発生、剥離の発生の防止効果は顕著に認められる。このシート2の先端での先端先鋭化処理がされた形態は、加硫前と加硫後とでその先鋭形態が実質的に維持されるものであり、タイヤとしての使用開始後に該クラックの発生や剥離の発生の防止効果が有効に発揮されるのである。
【0031】
上述したように、シート2の先端での先端先鋭化処理は、丸味が付けられている程度でも効果を発揮するが、特に、高い効果を安定して得る上で、該先端先鋭化処理が
、前記熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の先端から、(t×1/3)長さ分内側に入った位置で、厚さT(μm)が、
0.154t≦T≦
0.538tを満足する関係を有するようになされていること(前述した要件(b))が重要である。
図1(c)はこの関係を示したものであり、先端から(t/3)分だけ内側に入った位置での厚さのレベルについての関係であり、好ましくは、
Tは0.2t
以上である。ここで、tは
、熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の非先端先鋭化処理部分のタイヤ周方向平均厚さ(μm)であり、Tは
、熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の先端から、(t×1/3)長さ分内側に入った位置でのシート2の厚さ(μm)である。
【0032】
また、先端先鋭化処理された部分(
図1(c)で5)の長さLについては、該先端先鋭化処理された部分の長さLが、L=
(0.769〜3.077)×t(μm)長さ分、先端から内側に入った位置まであること(前述した要件(a))が重要である。この下限のL=
0.769×tは、後述する実施例2における値を基にするものである。好ましくは、L=(1.0〜
3.077)×t(μm)であること、すなわち、該Lの長さ分だけ内側に入った位置まで先端先鋭化処理部であることが好ましい。より好ましくは
、L=(1.0〜2.5)×t(μm)である。本発明において、このLとTの要件(a)、(b)
の双方を満足すること
が有効である。
【0033】
しかして、本発明の空気入りタイヤの製造方法は
、熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2と、該シート2の片面
に前記熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するタイゴム3を積層した積層体シート1の端部をラップスプライスしてインナーライナー層10を形成させる空気入りタイヤの製造方法において
、前記熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の前記ラップスプライスされた端部の先端が、以下の要件(a)
および要件(b)を満足する先端先鋭化処理された形態を有し(請求項
4の発明)、かつ該ラップスプライスされた部分においては、前記先鋭化処理部分と先鋭化処理を受けていない部分の双方をシート長さ方向に有した2層の該シート2部分の間に、前記タイゴム3の層が挟持されるようにして、前記ラップスプライスを形成することを特徴とするものである。
要件(a):該先端先鋭化処理された部分の長さL(μm)が、L=
(0.769〜3.077)×t(μm)長さ分、先端から内側に入った位置まであること、
要件(b):該先端先鋭化処理が
、前記熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の先端から、(t×1/3)長さ分内側に入った位置で、厚さT(μm)が、
0.154t≦T≦
0.538tを満足する関係を有すること、
ここで、tとTは、前述したと同一の定義による値である。
【0034】
本発明において、先端先鋭化処理されている部分の形状は、
図1(a)〜(c)に示したような側断面形状で、きれいなテーパー状を呈していることが望ましいが、きれいなテーパー状でなくても効果は発揮できるので、非対称のテーパー状のものや、テーパー状に先鋭化されていて、かつ一方向に(例えばタイゴム層側に)湾曲している形状や、多少の凹凸を有した形態や、前述した丸味付けされているようなもの等であってもよい。
【0035】
本発明において、このシート2の先端への先端先鋭化処理は、例えば、ロール状の巻き体からシート2を、所要長さ分を引き出して、シート2に張力をかけながら電熱線などのヒートカッタを当てて熱切断を行うこと、あるいは、通常の刃物での切断後、シートの長さ方向の切断端面に、アルカリや酸などの化学的溶解処理をすること、あるいはグラインダややすり等を用いた各種研磨などの物理的処理をすることにより行うことができる。中では、シート2に張力をかけながら鈍角な刃先をもつヒートカッタを当てて熱切断を行うこと等が、コントロールのしやすさや設備面やコスト面から好ましい。
【0036】
なお、熱切断により行う場合
には、前記シート2が熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなる
ので、先端先鋭化処理された先端部分の表面では熱を受けて前記熱可塑性樹脂が流動されながら切断されていることから、切断端付近の表面に存在する該エラストマーが該熱可塑性樹脂の被膜で覆われて得られる現象が生ずる。こうして得られたシート2は、エラストマーが露出している状態で加硫接着される場合と比較して、より強い加硫接着状態が得られるので、その点でも前記したクラックの発生や剥離の発生の防止に効果的なものである。一般に、積層体シートの切断面上にエラストマーが露出して存在していると、該エラストマーが加硫接着を阻害して、該熱可塑性樹脂組成物のシートとタイゴムシートとの間の加硫接着力を低くさせるので、エラストマーが極力露出しないようにして先端先鋭をすることが好ましく、上述した熱切断方式は、この点で好ましいものである。熱切断方式をとる場合は、該熱切断の熱で溶融し流動される熱可塑性樹脂が、切断面上にあるエラストマーの全部を覆うことが十分にできる条件で熱切断することが好ましく、具体的には、(熱可塑性樹脂の融点+30℃)〜(熱可塑性樹脂の融点+180℃)の範囲内の切断温度で行うのが好ましく、切断温度がこの範囲よりも低い場合には熱可塑性樹脂を流動させることが難しく、エラストマーの被覆を十分に行うことは難しい。また、切断温度がこの範囲よりも高い場合には熱可塑性樹脂組成物やタイゴムシートを劣化させることがあり好ましくない。熱切断は、ヒートカッタを用いて行うこと、あるいはレーザーを用いて行うことが好ましい。熱を加えるとともに張力を加えて熱切断することが重要であり、さらに、加圧してヒートカッタを当てて切断するようにしてもよい。また、超音波カッタや高周波カッタなども同様に使用できる。
【0037】
また、上記した熱切断による、「切断端付近の表面に存在するエラストマーが、熱可塑性樹脂の被膜で覆われて得られる現象」の効果は、熱を利用しないで切断した端部に、切断後、熱風や加熱プレートあるいは加熱ローラを適宜に当てる処理を行うことなどによっても得ることができる。また、それらの処理は、積層シートにされる前の段階で
、熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物のシート2の単体で先端先鋭化処理をした場合には、その単体の状態で行うことができる。
【0038】
図3(a)は
、熱可塑性樹脂組成物からなるシート2と
該熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するタイゴム3を積層した積層体シート1を、所望のラップスプライスに適応させた所定長さに切断をする際に
、熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の先端が先鋭化処理された状態で得ることを実現する切断手法の1例を示したモデル図であり、ヒートカッタ8を積層体シート1の長手方向に傾斜角αで傾斜させて(積層体シートの幅方向には、傾けずに)、ヒートカッタ8を矢印D方向に進行させて熱溶断する例を示している。同
図3(b)はその切断手法によるヒートカッタ8
と熱可塑性樹脂組成物2のシートの先端部9の形態との関係をモデル的に示したものであり、積層体の先端は切断端部で先端が先鋭化されている。傾斜角αは、30〜60度の範囲が好ましい。
【0039】
図4(a)は、ヒートカッタを用い
て熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の熱切断を行う際に、特に好ましく採用され得る切断手法を示したものであり、ヒートカッタ8を
、熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の側面に該シート2の上方空間と下方空間に跨って交差するように当て、かつ、ヒートカッタ8を進行させる方向D(この場合
、熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の幅方向と同一の方向)に向けて傾斜角θで傾斜させた状態
で熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の一方端E1から他方端E2まで進行させて熱切断を行う手法によるのが好ましい。
【0040】
本発明者らの知見によれば、この手法による場合、ヒートカッタ8を進行させる際にヒートカッタ8を傾斜させるレベルは、シート2の垂線Lと10°〜60°の傾斜角度(ヒートカッタ8の進行方向Dと直角方向の傾斜角度)αをもって傾斜した状態とするのが好ましい。ヒートカッタ8をこのように一方端E1側から他端E2側に向けて交差させて進めて切断する方式にすることは、ヒートカッタ8
を熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の全面に一度に押し当てて熱切断をする場合と比べて、熱が逃げてしまうことが少なく、確実にきれいな切断面状態で切断することができる点で好ましいのである。この方式で得られる切断端の状態は、
図4(c)にモデル図を示した如くであり
、熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の先端部9は、先鋭化処理されて、先端先鋭化処理されている部分5が形成される。これは、傾斜角度(ヒートカッタ8の進行方向D(切断線方向)と直角方向の傾斜角度)αで傾斜させた状態で進行させたことにより
、熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の先端部9が下方に押圧作用を受けながら溶融されて切断されたためと考えられるものである。
【0041】
さらに、
図5(a)に示したように
、熱可塑性樹脂組成物からなるシート2と該シートと加硫接着するタイゴム3とを積層した積層体シート1をヒートカッタ8を傾斜角度(ヒートカッタ8の進行方向D(切断線方向)と同一方向の傾斜角度)θで傾斜させて切断してもよい。本発明者らの知見によれば、この方式で得られる切断端の状態は、
図5(b)にモデル図を示した如くであり、熱可塑性樹脂組成物2のシートの先端部9は、先鋭化されて先端先鋭化処理されている部分5が形成され、かつ、通常は、タイゴム3のシート層の先端側に湾曲して回り込んでいるものとして得られる。これは、傾斜角θで傾斜させた状態でヒートカッタ8を進行させることにより、熱可塑性樹脂組成物2のシートの先端部が下方(タイゴム3のシート層のある方向)に押圧作用を受けながら溶融されて切断されるためと考えられるものである。この
図5(b)に示したような、熱可塑性樹脂組成物2のシートの先端部が多少湾曲したような形態の積層体の状態のものであっても、本発明者らの知見によれば、それがタイヤの加硫成形工程に供された場合には、該工程中では加硫ブラダーに押されるため、最終的に、
図1(C)のようにほぼ真っ直ぐな先鋭形状を有したものを得ることができる。
【0042】
図6は、本発明にかかる空気入りタイヤの形態の1例を示した一部破砕斜視図である。空気入りタイヤTは、トレッド部11の左右にサイドウォール部12とビード部13を連接するように設けている。そのタイヤ内側には、タイヤの骨格たるカーカス層14が、タイヤ幅方向には左右のビード13、13間に跨るように設けられている。トレッド部11に対応するカーカス層4の外周側にはスチールコードからなる2層のベルト層15が設けられている。矢印Xはタイヤ周方向を示している。カーカス層14の内側には、インナーライナー層10が配され、そのラップスプライス部Sがタイヤ幅方向に延びて存在している。
【0043】
本発明にかかる空気入りタイヤでは、タイヤ内周面上でこのラップスプライス部S付近で従来は生じやすかったクラックの発生、インナーライナー層10を形成してい
る熱可塑性樹脂組成物からなるシート2とタイゴム層3の間のクラックの発生、剥離の発生が抑制されて耐久性が著しく向上するものである。ラップスプライス部Sの重なり長さは、タイヤサイズにもよるが、好ましくは7〜20mm程度、より好ましくは8〜15mm程度とするのがよい。重なり長さが長すぎると、ユニフォミティーが悪化する方向であり、短すぎると成形時にスプライス部が開いてしまうおそれがあるためである。
【0044】
本発明で用いることのできる
熱可塑性樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えば、ナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6(MXD6)、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体〕及びそれらのN−アルコキシアルキル化物、例えば、ナイロン6のメトキシメチル化物、ナイロン6/610共重合体のメトキシメチル化物、ナイロン612のメトキシメチル化物、ポリエステル系樹脂〔例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル〕、ポリニトリル系樹脂〔例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、(メタ)アクリロニトリル/スチレン共重合体、(メタ)アクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体〕、ポリメタクリレート系樹脂〔例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル〕、ポリビニル系樹脂〔例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体、塩化ビニリデン/アクリロニトリル共重合体〕、セルロース系樹脂〔例えば、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース〕、フッ素系樹脂〔例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)〕、イミド系樹脂〔例えば、芳香族ポリイミド(PI)〕等を好ましく用いることができる。
【0045】
また、本発明で使用できる熱可塑性樹脂組成物を構成す
るエラストマーとしては、例えば、ジエン系ゴム及びその水添物〔例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR、高シスBR及び低シスBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR〕、オレフィン系ゴム〔例えば、エチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニル又はジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー〕、含ハロゲンゴム〔例えば、Br−IIR、CI−IIR、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体(BIMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、塩素化ポリエチレンゴム(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレンゴム(M−CM)〕、シリコンゴム〔例えば、メチルビニルシリコンゴム、ジメチルシリコンゴム、メチルフェニルビニルシリコンゴム〕、含イオウゴム〔例えば、ポリスルフィドゴム〕、フッ素ゴム〔例えば、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム〕、熱可塑性エラストマー〔例えば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ボリアミド系エラストマー〕等を好ましく使用することができる。
【0046】
また、前記した特定の熱可塑性樹脂と前記した特定のエラストマーとの組合せでブレンドをするに際して、相溶性が異なる場合は、第3成分として適当な相溶化剤を用いて両者を相溶化させることができる。ブレンド系に相溶化剤を混合することにより、熱可塑性樹脂とエラストマーとの界面張力が低下し、その結果、分散相を形成しているエラストマーの粒子径が微細になることから両成分の特性はより有効に発現されることになる。そのような相溶化剤としては、一般的に熱可塑性樹脂及びエラストマーの両方又は片方の構造を有する共重合体、あるいは熱可塑性樹脂又はエラストマーと反応可能なエポキシ基、カルボニル基、ハロゲン基、アミノ基、オキサゾリン基、水酸基等を有した共重合体の構造をとるものとすることができる。これらはブレンドされる熱可塑性樹脂とエラストマーの種類によって選定すればよいが、通常使用されるものには、スチレン/エチレン・ブチレンブロック共重合体(SEBS)及びそのマレイン酸変性物、EPDM、EPM、EPDM/スチレン又はEPDM/アクリロニトリルグラフト共重合体及びそのマレイン酸変性物、スチレン/マレイン酸共重合体、反応性フェノキシン等を挙げることができる。かかる相溶化剤の配合量には特に限定されないが、好ましくは、ポリマー成分(熱可塑性樹脂とエラストマーとの合計)100重量部に対して、0.5〜10重量部がよい。
【0047】
熱可塑性樹脂とエラストマーがブレンドされた熱可塑性樹脂組成物において、特定の熱可塑性樹脂とエラストマーとの組成比は、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマーが不連続相として分散した構造をとるように適宜決めればよく、好ましい範囲は重量比90/10〜30/70である。
【0048】
本発明において
、熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物には、インナーライナーとしての必要特性を損なわない範囲で相溶化剤などの他のポリマーを混合することができる。他のポリマーを混合する目的は、熱可塑性樹脂とエラストマーとの相溶性を改良するため、材料の成型加工性をよくするため、耐熱性向上のため、コストダウンのため等があり、これに用いられる材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ABS、SBS、ポリカーボネート(PC)等を例示することができる。また、一般的にポリマー配合物に配合される充填剤(炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナ等)、カーボンブラック、ホワイトカーボン等の補強剤、軟化剤、可塑剤、加工助剤、顔料、染料、老化防止剤等をインナーライナーとしての必要特性を損なわない限り任意に配合することもできる。熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマーが不連続相として分散した構造をとる。かかる構造をとることにより、インナーライナーに十分な柔軟性と連続相としての樹脂層の効果により十分な剛性を併せ付与することができると共に、エラストマーの多少によらず、成形に際し、熱可塑性樹脂と同等の成形加工性を得ることができるものである。
【0049】
本発明で使用できる熱可塑性樹脂、エラストマーのヤング率は、特に限定されるものではないが、いずれも、好ましくは1〜500MPa、より好ましくは50〜500MPaにするとよい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例などにより、本発明の空気入りタイヤについて具体的に説明する。
【0051】
なお、空気入りタイヤの評価は、各試験タイヤの内腔のインナーライナー層のスプライス部付近でのクラックの発生、剥離の発生をそれ以外の部分での状況とも比較しつつ行った。
【0052】
試験タイヤとして、215/70R15 98Hを用い、各実施例、比較例ごとに各2本を作製し、これをJATMA標準リム15×6.5JJに取り付け、タイヤ内圧をJATMA最大空気圧(240kPa)とした。
【0054】
実施例1、比較例1
インナーライナー層を構成する熱可塑性樹脂組成物のシートは、実施例
1および比較例
1では、表1に示すように熱可塑性樹脂としてN6/66、エラストマーとしてBIMSを50/50でブレンドをした熱可塑性樹脂組成物の厚さ130μmのシートを用いた。
【0055】
実施例
1の単体シートを、ヒートカッタを用いて、単体シートをヒートカッタに対し垂直方向に1〜3Nの張力を掛けながら、所定の長さに切断した。比較例
1のものは、上記の積層体シートを室温のもとで、シート面に対して垂直に立てた刃物式カッタを使用して行った。
【0056】
実施例
1と比較例
1の各シートの切断端面付近を光学顕微鏡で観察したところ
、実施例
1でtが130μm、Tは40μm、Lは100μmであった。
【0057】
比較例1
品は、その先端の切断端面は、シート平面方向に垂直なエッジを持つ形状であった。
【0058】
さらに、一方、表2に示すような組成の厚さ0.7mmの接着タイゴムを、実施例1
、比較例
1の各シートと積層し、各積層シート成形ドラム上に重なり長さ10mmでラップスプライスして、その他は通常の加硫成形方法により、それぞれ上述した仕様の空気入りタイヤを製造した。
【0059】
該空気入りタイヤを7.35kNで50,000kmを走行させた後、各試験タイヤの内腔のインナーライナー層のスプライス部付近でのクラックの発生、剥離の発生の有無を、それ以外の部分での状況とも比較しながら調べた。
【0060】
その結果、比較例1
品では、40,000km走行後、スプライス部付近でクラックが発生し、さらに累積で50,000km走行後、クラックは熱可塑性樹脂シートとタイゴム間の剥離へ進行した。その時点で、スプライス部付近以外では特に問題は発生しておらず良好な状態であった。
【0061】
一方、本発明の実施例1
品では、50,000km走行後も、スプライス部付近、それ以外の場所のいずれでも特に問題は発生しなかった
。
【0062】
実施例2
インナーライナー層を構成する熱可塑性樹脂組成物のシートは、実施例
2では、表1に示すように熱可塑性樹脂としてN6/66、エラストマーとしてBIMSを50/50でブレンドをした熱可塑性樹脂組成物の厚さ130μmのシートを用いた。
【0063】
実施例
2の単体シートを
図3に示したように、傾斜角α=45度でヒートカッタをシート長手方向にだけ傾けて所定の長さに切断した。
【0064】
実施例
2の各シートの切断端面付近を光学顕微鏡で観察したところ
、tが130μm、Tは40μm、Lは130μmであった。
【0065】
さらに、一方、表2に示すような組成の厚さ0.7mmの接着タイゴムを、実施例
2の各シートと積層し、各積層シートを成形ドラム上に重なり長さ10mmでラップスプライスして、その他は通常の加硫成形方法により、それぞれ上述した仕様の空気入りタイヤを製造した。
【0066】
該空気入りタイヤを7.35kNで50,000kmを走行させた後、各試験タイヤの内腔のインナーライナー層のスプライス部付近でのクラックの発生、剥離の発生の有無を、それ以外の部分での状況とも比較しながら調べた。
【0067】
その結果、本発明の実施例
2品では、実施例
1と同様に、50,000km走行後も、スプライス部付近、それ以外の場所のいずれでも特に問題は発生しなかった。
【0069】
実施例3
インナーライナー層を構成する熱可塑性樹脂組成物のシートは、実施例
3では、表1に示すように熱可塑性樹脂としてN6/66、エラストマーとしてBIMSを50/50でブレンドをした熱可塑性樹脂組成物の厚さ130μmのシートを用いた。
【0070】
実施例
3の単体シート2を
図4に示した方法で、ただし、傾斜角度α=0度、同θ=0度として、ヒートカッタ8を垂直方向を維持したままで移動させ、所定の長さに切断した。切断された先端部は先鋭化されていない状態のものであった。
【0071】
該カットされた単体シート2の縁部に対し、傾斜角度(切断線方向と直角方向の傾斜角度)α=45度、傾斜角度(切断線方向と同一方向の傾斜角度)θ=0度で、単体シートの長手方向にだけ研磨シートを傾けてあてて研磨をした。
【0072】
実施例
3の各シートの切断端面付近を光学顕微鏡で観察したところ
、tが130μm、Tは20μm、Lは400μmであった。
【0073】
さらに、一方、表2に示すような組成の厚さ0.7mmの接着タイゴムを、実施例
3の各シートと積層し、各積層シートを成形ドラム上に重なり長さ10mmでラップスプライスして、その他は通常の加硫成形方法により、それぞれ上述した仕様の空気入りタイヤを製造した。
【0074】
該空気入りタイヤを7.35kNで50,000kmを走行させた後、各試験タイヤの内腔のインナーライナー層のスプライス部付近でのクラックの発生、剥離の発生の有無を、それ以外の部分での状況とも比較しながら調べた。
【0075】
その結果、本発明の実施例
3品では、実施例
1と同様に、50,000km走行後も、スプライス部付近、それ以外の場所のいずれでも特に問題は発生しなかった。
【0077】
実施例4、比較例2
インナーライナー層を構成する熱可塑性樹脂組成物のシートは、実施例
4および比較例
2では、表1に示すように熱可塑性樹脂としてN6/N66、エラストマーとしてBIMSを50/50でブレンドをした熱可塑性樹脂組成物の厚さ130μmのシートを用いた。
【0078】
同じくインナーライナー層を構成する接着タイゴムは、表2に示すような組成の厚さ0.7mmのゴムとした。これら
の熱可塑性樹脂組成物のシートとタイゴム層とを積層した積層シートのロール巻き体として準備した。
【0079】
タイヤ成形ドラムに該積層シートをラップスプライスして巻き付けるに際して、所要長さへの切断は、実施例
4のものは、上記の積層体シートをヒートカッタ(電熱線カッタ(0.6mm径))を用いて、3〜5Nの張力を掛けながら、熱切断方式(切断温度300℃)で行った。比較例
2のものは、上記の積層体シートを室温のもとで刃物式カッタを使用して行った。
【0080】
実施例
4と比較例
2の各積層シートの切断端面付近を光学顕微鏡で観察したところ、実施例
4品は、その先端が張力を付与されながら熱切断されていることにより先端先鋭化しているものであり
、tが130μm、Tは70μm、Lは200μmであった。なお、実施例
4品では、X光電子分光分析(XPS)で観察したところ、切断端面上にあるエラストマーのBIMSが、溶融流動した熱可塑性樹脂N6/66でほぼ完全に覆われていることが確認された。
【0081】
比較例
2品は、その先端の切断端面は、シート平面方向に垂直なエッジを持つ形状であった。比較例
2品では、切断端面上にあるエラストマーのBIMSがそのまま露出していることが確認された。
【0082】
各積層シートを成形ドラム上に、重なり長さ10mmでラップスプライスして、その他は通常の加硫成形方法により、それぞれ上述した仕様の空気入りタイヤを製造した。
【0083】
該空気入りタイヤを7.35kNで50,000kmを走行させた後、各試験タイヤの内腔のインナーライナー層のスプライス部付近でのクラックの発生、剥離の発生の有無を、それ以外の部分での状況とも比較しながら行った。
【0085】
その結果、比較例
2品では、20,000km走行後、スプライス部付近でクラックが発生し、さらに累積で50,000km走行後、クラックは熱可塑性樹脂組成物シートとタイゴム間の剥離へ進行した。その時点で、スプライス部付近以外では特に問題は発生しておらず良好な状態であった。
【0086】
一方、本発明の実施例
4品では、実施例
1と同様に走行試験に供したところ、50,000km走行後も、スプライス部付近、それ以外の場所のいずれでも特に問題は発生しなかった。
【0087】
実施例
5
図5(a)に示した傾斜角(ヒートカッタ8の進行方向Dと同一方向の傾斜角度)θ=20°としてヒートカッタを用いた他は、実施例
4と同様にして積層体シートの熱切断を行い
、実施例
5とした。
【0088】
実施例
5でtが130μm、Tは60μm、Lは220μmであった。なお、実施例
5品では、X光電子分光分析(XPS)で観察したところ、切断端面上にあるエラストマーのBIMSが、溶融流動した熱可塑性樹脂N6/N66でほぼ完全に覆われていることが確認された。また、いずれも、熱可塑性樹脂組成物2のシートの先端部は、
図3(b)に示したようにタイゴム層側に多少湾曲したような形態の積層体であったが、タイヤの加硫成形工程を経た後は該工程中では加硫ブラダーに押されたため、
図1(C)に示したようなほぼ真っ直ぐな先鋭形状を有しているものであった。
【0089】
いずれの空気入りタイヤも実施例1、2と同様に走行試験に供したところ、50,000km走行後も、問題は何も発生しなかった。
【0090】
実施例1〜
5の各空気入りタイヤにおけるt(μm)、L(μm)、T(μm)の関係をまとめて表3に示した。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
【表3】