(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るスパイラル管状ヒータについて、実施形態を用いて説明するが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0012】
先ず、本発明に係るスパイラル管状ヒータの一実施形態について説明する。本実施形態に係るスパイラル管状ヒータ1は、
図1及び2に示すように、長手方向に延びる発熱体2が、積層された第1の耐熱性樹脂テープ4と第2の耐熱性樹脂テープ6との間に挟まれ、発熱体2が長手方向の端部でそれぞれ独立して異なるリード線8と接合されている。
【0013】
発熱体2は、線状又は面状の発熱体を相互に絶縁されるように、長手方向に2〜5本配置していることが好ましく、本実施形態においては、線状の発熱体を3本配置している。3本の発熱体2a、2b、2cは、端部(後の接合部分)3a、3b、3cがそれぞれ独立してリード線8a、8b、8cに接合されている。発熱体2の端部3をそれぞれ独立にリード線8と接続することによって、被加熱体の温度制御を効率よく正確に行うことができ、また、1つの発熱体が断線しても他の発熱体により温度制御が可能であるため、より安全なヒータとして使用することができる。また、発熱体2は、相互の絶縁を確実なものとするために、
図3に示すように、発熱体2とリード線8との接合部分のうち、少なくとも隣接する一の接合部分と他の接合部分(例えば3aと3b)とを、長手方向の相対的な位置が異なるように設けられていること、すなわち短手方向に一直線上に並ばないようずらして配置することが好ましい。
【0014】
発熱体2において、線状の発熱体としては、1本以上(通常1〜10本程度)の金属線からなるものが挙げられる。この金属線としては、直径が10〜500μm、特に20〜200μmのものが好ましい。また、面状の発熱体としては、金属箔や帯状の金属が挙げられ、厚みが5〜100μm、幅が0.4〜40mm程度のものが好ましい。
【0015】
上記金属線、金属箔および帯状の金属を形成する金属としては、ニクロム、カンタル、インコネル、鋳鉄などの電気抵抗を有するものが挙げられ、特に抵抗率が30×10
−6Ωcm以上のものが好ましい。上記の線状又は面状の発熱体は、相互に間隔をあけて複数配設され、該間隔は、ヒータの幅や線状又は面状の発熱体の配設数などにより異なるが、通常、1〜20mm程度となるようにするのが好ましい。
【0016】
第1の耐熱性樹脂テープ4と第2の耐熱性樹脂テープ6は、それぞれ積層体であるヒータの表面層を形成し、発熱体2を挟むように配置され、接着剤層10を介して積層されている。第1の耐熱性樹脂テープ4及び第2の耐熱性樹脂テープ6は、ガラス転移温度あるいは融点が180℃以上であるポリイミドあるいはポリアミドからなり、厚みが15〜200μm、幅が3〜50mmのテープ状フィルムであることが好ましい。
【0017】
これらの中でも、50〜300℃での線膨張係数(CTE)が3〜50×10
−6cm/cm/℃(ppmで表示することもある)であって、引張弾性率が200〜1400kg/mm
2である芳香族ポリイミドフィルムあるいは芳香族ポリアミドフィルムが好適であり、特に、吸水率が4%以下、より好ましくは3%以下である芳香族ポリイミドフィルムが好適である。
【0018】
上記の芳香族ポリイミドは、例えば3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物などの芳香族テトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどの芳香族ジアミンとを重合、イミド化して得られる。特に、芳香族ポリイミドとして3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を芳香族テトラカルボン酸成分中15モル%以上使用して得られるものが耐熱性、低線膨張係数、低吸水率であることから好ましい。
【0019】
また、上記の芳香族ポリアミドは、例えば2−クロロテレフタル酸クロリド、2,5−ジクロロテレフタル酸クロリドなどの芳香族酸クロリドと2−クロロ−p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどの芳香族ジアミンとの反応で得られる。
【0020】
以下、第1の耐熱性樹脂テープ4及び第2の耐熱性樹脂テープ6の形成材料として用いられる上記芳香族ポリイミドフィルム及び上記芳香族ポリアミドフィルムの好ましい製造方法について、さらに詳しく説明する。
上記芳香族ポリイミドフィルムは、例えば以下のようにして製造することができる。先ず、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとをN,N−ジメチルアセトアミドやN−メチル−2−ピロリドンなどの有機極性溶媒中で重合して、ポリマーの対数粘度(測定温度:30℃、濃度:0.5g/100ml溶媒、溶媒:N−メチル−2−ピロリドン)が1〜5、ポリマー濃度が15〜25重量%であり、回転粘度(30℃)が500〜4500ポイズであるポリアミック酸(イミド化率:5%以下)溶液を得る。次いで、好適にはこのポリアミック酸100重量部に対して0.01〜1重量%のリン化合物、例えば(ポリ)リン酸エステルおよび/またはリン酸エステルのアミン塩などの有機系リン化合物あるいは無機リン化合物および、好適にはさらにポリアミック酸100重量部に対して0.02〜6重量部のコロイダルシリカ、窒化珪素、タルク、酸化チタン、燐酸カルシウムなどの無機フィラー(好適には平均粒径0.005〜5μm、特に0.005〜2μm)を添加してポリアミック酸溶液組成物を調製する。このポリアミック酸溶液組成物をそのままあるいは化学イミド化剤を加えて、平滑な表面を有する支持体表面に流延し、乾燥して固化フィルムを形成し、上記固化フィルムを支持体表面から剥離する。次いで、固化フィルムの片面または両面にアミノシラン系、エポキシシラン系あるいはチタネート系の表面処理剤を含有する表面処理液を塗布した後、さらに乾燥することもできる。上記のようにして得られた固化フィルムを、必要であれば両方向に延伸した後乾燥フィルムの幅方向の両端縁を把持した状態で、最高加熱温度:350〜500℃の範囲内の温度で加熱して乾燥およびイミド化して芳香族ポリイミドフィルムとして好適に製造することができる。上記のようにして得られた芳香族ポリイミドフィルムを、好適には低張力下あるいは無張力下に200〜400℃程度の温度で加熱して応力緩和処理し、巻き取る。この芳香族ポリイミドフィルムは、そのままあるいはコロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射、グロー放電処理、火炎処理で表面処理を施した後、接着性を改良した芳香族ポリイミドフィルムとして使用することができる。
【0021】
また、上記芳香族ポリアミドフィルムは、例えば以下のようにして製造することができる。芳香族酸クロリドと芳香族ジアミンとを有機極性溶媒中で溶液重合、あるいは水系媒体を使用する界面重合することで合成される。ポリマー溶液は、単量体として酸クロリドとジアミンとを使用すると塩化水素が副生するため、これを中和するために水酸化カルシウムなどの無機の中和剤、またはエチレンオキサイドなどの有機の中和剤を添加する。また、イソシアネートとカルボン酸との反応は非プロトン性有機極性溶媒中、触媒の存在下で行われる。これらのポリマー溶液はそのままフィルムを形成する製膜原液にしてもよく、またポリマーを一度単離してから上記の溶媒に再溶解して製膜原液を調製してもよい。製膜原液には溶解助剤として、無機塩例えば塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどを添加してもよい。製膜原液中のポリマー濃度は2〜35重量%が好ましい。
【0022】
第1の耐熱性樹脂テープ4と第2の耐熱性樹脂テープ6は、接着剤層10を介して接着されていることが好ましい。接着剤層10は、耐熱性の熱可塑性接着剤や熱硬化性接着剤からなり、好適には積層された際の乾燥状態での厚みが2〜100μm、幅が3〜50mmである。この接着剤層10は、第1の耐熱性樹脂テープ4および/または第2の耐熱性樹脂テープ6に接着剤を塗布して設けてもよいし、あらかじめ接着剤をシート状に成形したものを張り合わせることにより設けてもよいが、特に、第1の耐熱性樹脂テープ4および/または第2の耐熱性樹脂テープ6を接着剤付きのテープ状フィルムとすることにより設けることが好ましい。
【0023】
接着剤層10を形成する熱硬化性接着剤としては、エポキシ樹脂、NBR−フェノール系樹脂、フェノール−ブチラール系樹脂、エポキシ−NBR系樹脂、エポキシ−フェノール系樹脂、エポキシ−ナイロン系樹脂、エポキシ−ポリエステル系樹脂、エポキシ−アクリル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド−エポキシ−フェノール系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリイミドシロキサン−エポキシ樹脂などが挙げられる。また、熱可塑性接着剤としては、ポリイミド系樹脂、ポリイミドシロキサン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアミドイミドエーテル系樹脂、ポリイミドエステル系樹脂などが挙げられる。中でも、ポリイミドシロキサン系樹脂からなる熱硬化性接着剤が好ましい。
【0024】
以下、本実施形態に係るスパイラル管状ヒータ1の製造方法について説明する。本実施形態に係るスパイラル管状ヒータ1は、被加熱体(被加熱体の形状は、断面円形または角形等任意の形状を有してよい。)と同一外形状を有する長尺の形状付与部材からなることが好ましい。製造方法としては、先ず、耐熱性の棒またはパイプ14に、スパイラル状に巻いた際に内側層となる第1の耐熱性樹脂テープ4と、それと同じ幅か少し幅の狭い外側層となる第2の耐熱性樹脂テープ6と、その間に接着剤層10及び線状又は面状の発熱体2を長手方向に2〜5本配置する。第1の耐熱性樹脂テープ4及び第2の耐熱性樹脂テープ6は、例えば好適にはテープ状芳香族ポリイミドフィルムが用いられる。次に、接着剤層10に用いる接着剤が熱硬化性接着剤の場合には、溶媒を乾燥除去してBステージの段階で硬化温度以上の温度に加熱することによって、また、接着剤層10に用いる接着剤が熱可塑性接着剤の場合には、積層体に圧力を加えてガラス転移温度あるいは融点以上の温度に加熱し、冷却することによって、フィルムの内側層と外側層とを重ねたまま接着剤を硬化して積層一体化させる。接着剤層10は、積層体においては中間層を形成する。次に、積層一体化させたスパイラル状積層体のそれぞれの発熱体2に、独立した異なるリード線8をそれぞれ接合することによって得られる。
【0025】
上記の方法は、好適には、
図4乃至7に示すように、例えば次のようにして実施できる。先ず、前記内側層となる第1の耐熱性樹脂テープ4および外側層となる第2の耐熱性樹脂テープ6の形成材料となる耐熱性樹脂フィルムの片面に接着剤層10となる接着剤を塗布し、接着剤の乾燥厚みが2〜100μmである接着剤付きフィルムを得る。このフィルムを3〜50mmにスリットし、接着剤付きの第1の耐熱性樹脂テープ4および第2の耐熱性樹脂テープ6を製造する。この第1の耐熱性樹脂テープ4を、接着剤の付いた面を外側にして直径が5〜50mmの円状の棒またはパイプ14にスパイラル状に巻きつけ、両端を固定する(
図4)。次いで、その上に、線状の発熱体2を長手方向に2〜5本、スパイラル状に巻き付ける(
図5)。次いで、さらにその上に、接着剤同士が重なるように、外側層となる接着剤付きの第2の耐熱性樹脂テープ6を巻き付け(
図6)、必要であれば周囲をテープ状あるいは線状のワイヤー16などで加圧・固定して(
図7)、150〜400℃の範囲内の温度に加熱して接着剤を硬化して積層一体化し、冷却した後、形成された積層体を棒またはパイプ14から外し、スパイラル状積層体を得ることができる。
【0026】
次いで、上記のようにして得られたスパイラル状積層体を適当な長さに切断し、複数配置された発熱体2について、端部をそれぞれ独立に異なるリード線8と接続することによって、本実施形態に係るスパイラル管状ヒータ1を得ることができる。発熱体2とリード線8の接続は、例えば、
図8では、第1の耐熱性樹脂テープ4および第2の耐熱性樹脂テープ6の両端部を剥がして露出させた3本の発熱体2a、2b、2cを、それぞれ独立して異なるリード線8a、8b、8cに接合させる。発熱体2とリード線8とは、導電性が確保されるかぎり任意の接続方法で接続されている。接続方法としては、例えば、はんだ付け、ろう付け、溶接、金型打ち抜きなどが挙げられる。このとき、上述したように、隣接する発熱体2とリード線8との接合部分(例えば3a、3b)は、絶縁を確実なものとするために、長手方向の相対的な位置が異なるように設けられていること、すなわち短手方向に一直線上に並ばないようずらして配置することが好ましい。また、
図9に示すように、隣接する発熱体2とリード線8との接合部分3a、3b、3cは、絶縁をより確実なものとするために、一の接合部分3a、3cと第1の耐熱性樹脂テープ4との間、及び他の接合部分3bと第2の耐熱性樹脂テープ6との間に一の接着剤シート12が配置されていることが好ましい。すなわち、接着剤シート12を介して上下互い違いになるよう配置することが好ましい。接着剤シート12としては、第1の耐熱性樹脂テープ4と第2の耐熱性樹脂テープ6とを接着させる接着剤層10を形成するものと同様の耐熱性の熱可塑性接着剤あるいは熱硬化性接着剤からなる接着剤をシート状に成形したものが好ましい。さらに、
図10に示すように、耐熱性樹脂テープを剥がした部分全体に亘って接着剤層10を形成する接着剤シートを再度配置し、剥がした耐熱性樹脂テープを元に戻して全体を加熱あるいは圧力を加えるとともに加熱して、接合部全体を耐熱性樹脂テープで覆うことにより、接着剤層10と同一材料からなる接着剤シート12が接着剤層10と一体となり、本実施形態に係るスパイラル管状ヒータ1が得られる。
【0027】
以上、本実施形態に係るスパイラル管状ヒータ1の製造方法を示したが、上記製造方法は一例であって、例えば、第1の耐熱性樹脂テープ4、接着剤層10、発熱体2、及び第2の耐熱性樹脂テープ6が積層した積層体をあらかじめ作製し、それをスパイラル状になるように成形することによって本実施形態に係るスパイラル管状ヒータ1を製造することなども可能である。
【0028】
本実施形態に係るスパイラル管状ヒータは、熱をより均一に被加熱体に伝導させるために外側に熱伝導性の良い材料(例えば銅線)を編組することができる。また、保温の目的で外側を、シリコーン樹脂の発泡体、ガラス繊維、フッ素系樹脂の発泡体などから形成された耐熱性発泡シートや耐熱性多孔シートなどの保温材で覆ってもよい。
【実施例】
【0029】
以下に本発明の実施例を示す。本実施例の各測定は、以下の通りに行った。
(1)抵抗測定
MIL−STD−202G Method 303に準拠して行った。
環境温度:20℃±5℃
(2)絶縁抵抗測定
MIL−STD−202G Method 302に準拠して行った。
印加電圧:1000V(直流)
印加時間:1分
(3)耐電圧測定
MIL−STD−202G Method 302に準拠して行った。
印加電圧:1000V(交流50Hz)
印加時間:1分
(4)通電試験
25℃±5℃の環境下でヒータを冶具等に固定せず、フリーの状態で吊るし168時間規定の直流電圧を通電した。
(5)熱衝撃試験
気槽式熱衝撃試験器(楠本化成(株)製 WINTECH NT1200W)にて−65℃、30分、室温、5分、150℃、30分の熱サイクルを5回行った。
【0030】
実施例1
(スパイラル状積層体の製造)
ポリイミドフィルムの片面にポリイミドシロキサン系の熱硬化性接着剤を積層したフィルム(宇部興産株式会社製)を7mm幅にスリットして、長さ367mmの接着剤付きテープA(第1の耐熱性樹脂テープ)およびテープB(第2の耐熱性樹脂テープ)を作製した。この接着剤付きテープAを接着剤の付いた面を外側にして、外径6.35mm、長さ1mのステンレス製の丸棒にピッチが20mmになるように螺旋状に巻き付け、両端を固定した。次に、その上に外径が0.14mmのニクロム線をテープ幅に対して均等な幅になるように3本(発熱体a、b、c)巻き付け、両端を固定した。更に、その上に接着剤付きテープBを接着剤の付いた面を内側にして巻き付け、両端を固定した。そして、この積層体全体にステンレス製ワイヤーを隙間なく巻き付け、オーブン中で100℃で1時間、続いて200℃で1時間加熱して接着剤を硬化させた。冷却し、長さ260mmのスパイラル状積層体を作製した。
【0031】
(リード線の装着)
上記で作製したスパイラル状積層体をステンレス製の丸棒から外し、積層体の両端から約20mmを接着剤付きテープAと接着剤付きテープBの重なっている間から剥がしニクロム線を露出させた。そして、各ニクロム線を、被覆を剥がした電線(潤工社製 M2750024TN3U00)の端に巻き付け、更に各ニクロム線と電線の接合部を100μmの幅2mm、長さ2mmのニッケル箔で包み、ニッケル箔の中央部をスポット溶接した。このとき、電線と各ニクロム線の接合部が積層体の短手方向に一直線上に並ばないよう接合位置を調整した。
【0032】
(接合部の絶縁・被覆)
ニクロム線と電線の接合部に、両端の接合部が下、中央の接合部が上となるように、幅7mm、長さ約10mmのポリイミドシロキサン系の熱硬化性接着剤シートを置き、更に、全接合部をカバーするように幅7mm、長さ約20mmのポリイミドシロキサン系の熱硬化性接着剤シートを置いて全ての層を重ね、200℃のプレスにて5分間加圧して全ての層を接着して、スパイラル管状ヒータを得た。このヒータの初期の特性と通電試験及び熱衝撃試験後の特性を表2、3に示す。
【0033】
実施例2〜4
実施例1と同様な方法で表1に示した仕様のヒータを作成した。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】