(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記活性金属化合物領域の前記一面は、凹凸を有する面であり、前記厚み範囲は、前記凹凸のうち最も前記Cu部材に近い地点からの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の接合体。
請求項5から請求項7のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板と、前記回路層のうち前記セラミックス部材とは反対側の面に接合された電子部品と、を備えたことを特徴とするパワーモジュール。
前記Cu−P系ろう材は、Cu−Pろう材、Cu−P−Snろう材、Cu−P−Sn−Niろう材、Cu−P−Znろう材の中から選択されるいずれか1種であることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の接合体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示したDBC法によってセラミックス基板とCu板とを接合した場合、1000℃以上で加熱し接合するため、セラミックス基板に熱負荷がかかることによりセラミックス基板とCu板との接合信頼性が低下する懸念があった。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、セラミックス部材とCu部材との接合信頼性が高い接合体、パワーモジュール用基板、パワーモジュール、及び、接合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のいくつかの態様は、次のような接合体、パワーモジュール用基板、パワーモジュール、及び、接合体の製造方法を提供した。
すなわち、本発明の接合体は、Alを含むセラミックスからなるセラミックス部材と、Cu又はCu合金からなるCu部材とが接合されてなる接合体であって、前記セラミックス部材と前記Cu部材との間には、
Cu−P系ろう材を用いた接合部が形成され、該接合部のセラミックス部材側には、活性金属を含む化合物からなる活性金属化合物領域が形成され、該活性金属化合物領域の前記Cu部材側をなす一面から、前記Cu部材側に向かって、0.5μm〜3μmの厚み範囲における前記接合部のAl濃度が0.5at%以上、15at%以下の範囲であることを特徴とする。
【0008】
接合部におけるAl成分は、セラミックス部材の構成材料、即ち、Alを含むセラミックスの一部が、セラミックス部材とCu部材との接合時に分解され、Al成分が接合部に向かって拡散することにより生じたものである。Al濃度は、セラミックス部材の分解度合いを示すものであり、Al濃度が高いほど、セラミックス部材の分解が進行し、セラミックス部材と接合部との接合力が高まっていることを示している。
ここで、前記Al濃度が0.5at%未満であるとセラミックス部材の分解が進んでおらず、セラミックス部材とCu部材とが剥離率が増加する。また、前記Al濃度が15at%を超えると接合部におけるAl成分が多くなることでAlの金属間化合物等が増加することにより、接合部の硬度が上昇し、セラミックス部材とCu部材との接合信頼性が低下する。
従って、本発明のように、接合部のAl濃度を所定の範囲内にすることによって、セラミックス部材と接合部との接合力を高く維持することができ、接合部における剥離率を低減させ、セラミックス部材とCu部材とが強固に接合された接合体を実現できる。
【0009】
本発明の接合体においては、前記活性金属化合物領域の前記一面は、凹凸を有する面であり、前記厚み範囲は、前記凹凸のうち最も前記Cu部材に近い地点からの範囲であることを特徴とする。
これによって、Al濃度によるセラミックス部材の分解の度合いをより正確に把握でき、接合部における剥離率の低減を確実に実現することができる。
【0010】
本発明の接合体においては、前記セラミックス部材は、AlN、Al
2O
3のうち、いずれかより構成されることを特徴とする。
セラミックス部材としてAlN、Al
2O
3を選択することで、絶縁性、および耐熱性に優れた接合体を製造することができる。
【0011】
本発明の接合体においては、前記活性金属化合物領域は、活性金属の窒化物、活性金属の酸化物のうち、いずれかを含むことを特徴とする。
活性金属化合物領域に活性金属の窒化物、活性金属の酸化物を含むことにより、セラミックス部材との接合性が向上し、剥離率の低減を確実に実現することができる。
【0012】
本発明のパワーモジュール用基板は、前述の接合体を備えたパワーモジュール用基板であって、前記Cu部材を回路層として用い、前記セラミックス部材において前記回路層が接合される面の反対面に、金属層を形成したことを特徴とする。
Cu部材を回路層として用い、セラミックス部材におけるこの回路層が接合された面の反対面に金属層を形成してパワーモジュール用基板とすることによって、セラミックス部材と回路層との間に形成される接合部のAl濃度が所定の範囲内に保たれ、セラミックス部材と接合部との接合力を高く維持することができ、接合部における剥離率を低減させ、セラミックス部材と回路層とが強固に接合されたパワーモジュール用基板を実現できる。
【0013】
本発明のパワーモジュール用基板においては、前記金属層はCu又はCu合金からなることを特徴とする。
この場合、セラミックス部材の回路層が接合される面の反対面に、Cu又はCu合金からなる金属層が形成されているので、放熱性に優れたパワーモジュール基板を実現できる。
【0014】
本発明のパワーモジュール用基板においては、前記金属層はAl又はAl合金からなることを特徴とする。
この場合、セラミックス部材の回路層が接合される面の反対面に、Al又はAl合金からなる金属層を接合することによって変形抵抗が小さくなり、セラミックス部材に熱応力が加わった際に、この熱応力をAl又はAl合金からなる金属層によって吸収でき、セラミックス部材の熱応力による破損を抑制することが可能になる。
【0015】
本発明のパワーモジュールは、前述のパワーモジュール用基板と、前記回路層のうち前記セラミックス部材とは反対側の面に接合された電子部品と、を備えたことを特徴とする。
本発明のパワーモジュールによれば、前述のような接合体を有するパワーモジュール用基板を用いているので、セラミックス部材と回路層とが強固に接合されており、信頼性に優れている。
【0016】
本発明の接合体の製造方法は、
前述の接合体を製造する接合体の製造方法であって、Cu−P系ろう材と、活性金属を含有する活性金属材とを介して、前記セラミックス部材に前記Cu部材を積層させた積層体を形成する積層工程と、前記積層体を加熱処理して、前記Cu−P系ろう材を溶融させるとともに、前記セラミックス部材に含まれるAlを前記Cu−P系ろう材に向けて拡散させる加熱処理工程と、を備えていることを特徴とする。
【0017】
本発明の接合体の製造方法によれば、加熱処理工程において、セラミックス部材に含まれるAlをCu−P系ろう材に向けて拡散させることによって、セラミックス部材と接合部との接合力を高く維持することができ、接合部における剥離率を低減させ、セラミックス部材とCu部材とが強固に接合された接合体を製造することができる。
【0018】
本発明の接合体の製造方法においては、前記Cu−P系ろう材は、Pを3mass%以上10mass%以下含有することを特徴とする。
Pを3mass%以上10mass%以下含有するCu−P系ろう材は、融点が低いので、加熱した際に、融液が発生しやすくなり、セラミックス部材とCu部材との反応が進みやすくなるため、セラミックス部材とCu部材とを強固に接合することができる。
【0019】
本発明の接合体の製造方法においては、前記Cu−P系ろう材は、Cu−Pろう材、Cu−P−Snろう材、Cu−P−Sn−Niろう材、Cu−P−Znろう材の中から選択されるいずれか1種であることを特徴とする。
このようなろう材を用いた場合、ろう材の融点が低いので、確実にセラミックス部材とCu部材との接合を行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、セラミックス部材とCu部材との接合信頼性が高い接合体、パワーモジュール用基板、パワーモジュール、及び、接合体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の接合体、およびその製造方法について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0023】
(接合体)
図1は、本発明の接合体一例を示す断面図である。
接合体10は、例えば、パワー半導体を備えたパワーモジュールを構成するパワーモジュール用基板として用いられる。この接合体10は、
図1に示すように、セラミックス基板(セラミックス部材)11と、このセラミックス基板11の一面11a(
図1において上面)に配設されたCu部材12とを備えている。また、このセラミックス基板11とCu部材12とは、接合部13を介して接合されている。接合部13は、例えば、活性金属材及びCu−P系ろう材を加熱処理することによって形成される。なお、こうした接合体10の製造方法は、後ほど詳述する。
【0024】
セラミックス基板11は、Alを含む絶縁性の高いセラミックス、例えば、AlN(窒化アルミニウム)、Al
2O
3(アルミナ)等から構成されている。本実施形態では、セラミックス基板11は、放熱性の優れたAlNで構成されている。セラミックス基板11の厚さは、例えば0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmのものを用いている。
【0025】
Cu部材12は、高い導電性を有するCu又はCu合金からなる金属板が用いられる。本実施形態では、Cu部材12として無酸素銅からなる金属板を用いている。このCu部材12の厚さは、例えば、0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmのものが用いられている。
このようなCu部材12は、例えば、パワーモジュール用基板の回路層として用いられる。
【0026】
図2は、接合部13の概要を示した要部拡大断面図である。また、
図3は、接合部13の断面観察写真である。なお、
図2及び
図3に示す、本実施形態の接合部13の構成は、セラミックス基板11とCu部材12との接合に、Cu−P−Sn−Niろう材と、活性金属としてTiを用いた場合の一例である。なお、活性金属としては、Ti以外にも、例えば、Zr、Nb、Hfなどが挙げられる。
接合部13は、活性金属材(本実施形態ではTi)及びCu−P系ろう材を所定の温度、時間で熱処理することで生じる接合層である。
接合部13は、Cu部材12側にある合金層17と、セラミックス基板11側にある活性金属化合物領域16とを備えている。
【0027】
本実施形態において、活性金属化合物領域16は、活性金属材から拡散されたTiと、セラミックス基板11を構成するAlNに含まれるNとが化合して形成されたTi窒化物、例えばTiNを主体に構成されている。合金層17は、ろう材の成分であるCu,P,Sn,Ni、および活性金属材から拡散されたTi及びそれらの合金や金属間化合物で構成されている。
【0028】
このような構成の接合部13において、活性金属化合物領域16のCu部材12側をなす一面16aからCu部材12側に向かって、0.5μm〜3μmの厚み範囲EにおけるAl濃度が0.5at%以上、15at%以下の範囲となるように形成されている。即ち、活性金属化合物領域16の一面16aから、Cu部材12に向けて0.5μm(Δt1)の位置で広がる面と、Cu部材12に向けて3μm(Δt2)の位置で広がる面との間の、2.5μmの厚み範囲Eに広がる領域内においては、Al濃度が0.5at%以上、15at%以下とされている。なお、Al濃度は厚み範囲Eにおける平均値とされている。上記厚み範囲EにおけるAl濃度は、0.5at%以上、10at%以下とすることが好ましいが、これに限定されることはない。
【0029】
接合部13におけるAl成分は、セラミックス基板11の構成材料、即ち、Alを含むセラミックスの一部が、セラミックス基板11とCu部材12との接合時に分解され、Al成分が接合部13に向かって拡散することにより生じたものである。例えば、本実施形態では、セラミックス基板11を構成するAlNが分解し、Alが拡散したものである。
【0030】
このような接合部13の厚み範囲EにおけるAl濃度の制御は、セラミックス基板11とCu部材12との接合時における、加熱処理工程での接合温度の設定や、加熱時間の設定によって、所望の値に制御される。
【0031】
なお、本実施形態では、活性金属化合物領域16は、活性金属材と、セラミックス基板11を構成するAlNに含まれるNとが化合して形成された活性金属の窒化物を主体に構成されているが、セラミックス基板11としてAl
2O
3を用いた場合、活性金属化合物領域16は、Al
2O
3に含まれるOと活性金属とが化合して形成された活性金属の酸化物を主体に構成される。
【0032】
また、
図2では、模式的に、活性金属化合物領域16の一面16aを平面としているが、実際には、
図3の観察写真に示すように、この活性金属化合物領域16の一面16aは多数の凹凸をもつ面とされている。この場合、例えば
図4に示すように、Alの濃度が規定された接合部13の厚み範囲Eは、活性金属化合物領域16の一面16aのうち、最もCu部材に近い地点Sp(最もCu部材12側に突出した頂部Sp)を基点として、0.5μm〜3μmの厚み範囲Eが定義されればよい。
【0033】
また、セラミックス基板11の他面11b側に、更に金属部材、例えばAl又はAl合金からなるAl部材、CuやCu合金からなるCu部材が接合された構成であることも好ましい。こうした金属部材の一例として、4N−AlからなるAl部材や、無酸素銅からなるCu部材とが挙げられる。セラミックス部材11と金属部材との接合には、例えば、Al−Si系ろう材やCu−P系ろう材などを用いることができる。Al−Si系ろう材としては、Si含有量が1mass%から12mass%のろう材が挙げられる。
【0034】
以上のような構成の接合体10によれば、セラミックス基板11とCu部材12とを接合する接合部13は、活性金属化合物領域16の一面16aからCu部材12側に向かって、0.5μm〜3μmの厚み範囲EにおけるAl濃度が0.5at%以上、15at%以下になるように形成されている。このAlは、セラミックス基板11を構成するAlNやAl
2O
3が分解され、拡散したものである。よって、Alの濃度は、これらAlNやAl
2O
3の分解度合いを示すものであり、Alの濃度が高いほど、AlNやAl
2O
3の分解が進行し、セラミックス基板11と接合部13との接合力が高まっていることを示している。
【0035】
よって、接合部13の特定領域のAl濃度を管理することで、セラミックス基板11と接合部13との接合力を高く維持することができ、接合部13の剥離率を低減させることが可能になる。
【0036】
(接合体の製造方法)
上述したような構成の接合体の製造方法について説明する。
図5は、本発明の接合体の製造方法を段階的に示した断面図である。
例えば、パワーモジュール用基板として用いられる接合体を製造する際には、まず、AlN(窒化アルミニウム)、Al
2O
3(アルミナ)等のAlを含むセラミックスからなるセラミックス基板(セラミックス部材)11を用意する(
図5(a)参照)。本実施形態では、AlNからなり、厚みが0.635mmのセラミックス基板を用いた。
【0037】
次に、セラミックス基板11の一面11a側に、ろう材31、活性金属材32およびCu部材12を順に積層し、積層体35を形成する(
図5(b)参照:積層工程)。ろう材31は、Cu−P系ろう材が用いられる。Cu−P系のろう材としては、例えば、Cu−Pろう材、Cu−P−Sn系ろう材、Cu−P−Sn−Ni系ろう材、Cu−P−Zn系ろう材、Cu−P−Sn−Mn系ろう材、Cu−P−Sn−Cr系ろう材、Cu−P−Sn−Fe系ろう材などが挙げられ、本実施形態では、Cu−P−Sn−Niろう材を用いている。
【0038】
Cu−P−Sn−Niろう材の組成は、具体的には、Cu−7mass%P−15mass%Sn−10mass%Niとされている。ここで、Cu−P−Sn−Niろう材の厚さは、5μm以上150μm以下となるように形成される。
【0039】
Cu−P系のろう材の成分であるPは、ろう材の融点を低下させる作用効果を有する元素である。また、このPは、Pが酸化することで発生するP酸化物により、ろう材表面を覆うことでろう材の酸化を防止するとともに、溶融したろう材の表面を流動性の良いP酸化物が覆うことでろう材の濡れ性を向上させる作用効果を有する元素である。
【0040】
Pの含有量が3mass%未満では、ろう材の融点を低下させる効果が十分に得られずろう材の融点が上昇したり、ろう材の流動性が不足し、セラミックス基板11とCu部材12との接合性が低下したりするおそれがある。また、Pの含有量が10mass%超では、脆い金属間化合物が多く形成され、セラミックス基板11とCu部材12との接合性や接合信頼性が低下するおそれがある。
このような理由からCu−P系ろう材に含まれるPの含有量は、3mass%以上10mass%以下の範囲内が好ましい。上記Cu−P系ろう材に含まれるPの含有量は、6mass%以上8mass%以下の範囲内であることがさらに好ましいが、これに限定されることはない。
【0041】
Cu−P系のろう材の成分の一例であるSnは、ろう材の融点を低下させる作用効果を有する元素である。Snの含有量が0.5mass%以上では、ろう材の融点を確実に低くすることができる。また、Snの含有量が25mass%以下では、ろう材の低温脆化を抑制することができ、セラミックス基板11とCu部材12との接合信頼性を向上させることができる。
このような理由からCu−P系ろう材にSnを含有させる場合、その含有量は0.5mass%以上25mass%以下の範囲内にすることが好ましい。
【0042】
Cu−P系のろう材の成分の一例であるNi、Cr、Fe、Mn等は、セラミックス基板11とろう材との界面にPを含有する金属間化合物が形成されることを抑制する作用効果を有する元素である。
Ni、Cr、Fe、Mnのうちいずれか1種または2種以上の含有量が2mass%以上では、セラミックス基板11とろう材との接合界面にPを含有する金属間化合物が形成されることを抑制することができ、セラミックス基板11とCu部材12との接合信頼性が向上する。
【0043】
また、Ni、Cr、Fe、Mnのうちいずれか1種または2種以上の含有量が20mass%以下では、ろう材の融点が上昇することを抑制し、ろう材の流動性が低下することを抑え、セラミックス基板11とCu部材12との接合性を向上させることができる。
このような理由からCu−P系ろう材にNi、Cr、Fe、Mnのうちいずれか1種または2種以上を含有させる場合、それらの合計含有量は2mass%以上20mass%以下の範囲内にすることが好ましい。
【0044】
Cu−P系のろう材の成分の一例であるZnは、ろう材の耐酸化性を向上させる作用効果を有する元素である。
Znの含有量が0.5mass%以上では、ろう材の耐酸化性を十分に確保し、接合性を向上させることができる。また、Znの含有量が50mass%以下では、脆い金属間化合物が多く形成されることを防止し、セラミックス基板11とCu部材12との接合信頼性を確保することができる。
このような理由からCu−P系ろう材にZnを含有させる場合、その含有量は0.5mass%以上50mass%以下の範囲内にすることが好ましい。
【0045】
ろう材31は、構成元素の成分の粉末を混合し、適切なバインダーを介してペースト状にしたもの(ろう材ペースト)を、セラミックス基板11の一面11aに塗布することによって形成される。
【0046】
活性金属材32は、少なくとも活性元素を含有するものとされている。活性金属材32の性状としては、箔、粉末、粉末に適切なバインダーを加えて混練したペーストなどが挙げられる。
本実施形態では、活性金属材として、Ti箔を用いており、Ti箔の厚さは、0.5μm以上25μm以下とされている。また、Ti箔の組成を純度99.4mass%以上としても良く、本実施形態では純度99.6mass%としている。
【0047】
なお、本実施形態では、活性金属材32は、Cu部材12の側に配しているが、セラミックス部材11の側に配することもできる。この場合、積層体35の積層順序は、セラミックス部材11、活性金属材32、ろう材31、およびCu部材12の順になる。
【0048】
次に、
図5(c)に示すように、積層体35を、例えば真空加熱処理炉Hに入れ、積層体35を加圧しつつ、ろう材31の溶融温度(接合温度)以上になるまで加熱する(加熱処理工程)。これによって、ろう材31が溶融する。その後、冷却されると、
図5(d)に示すように、セラミックス部材11とCu部材12とが接合部13を介して接合された接合体10が得られる。
【0049】
本実施形態では、加熱処理工程における加熱処理条件として、積層体35の積層方向への加圧力1〜35kgf/cm
2(0.10〜3.43MPa)、真空加熱炉内の圧力10
−6Pa以上10
−3Pa以下、加熱温度700℃以上850℃以下、加熱時間10分以上60分以下にそれぞれ設定した。
【0050】
加熱処理工程においては、セラミックス基板11の一面11aのAlNが分解され、Alが接合部13に拡散する程度まで加熱処理を行う。即ち、
図2に示す、得られた接合体10の接合部13において、活性金属化合物領域16のCu部材12側をなす一面16aからCu部材12側に向かって、0.5μm〜3μmの厚み範囲EにおけるAl濃度が0.5at%以上、15at%以下の範囲となるように加熱処理を行う。
【0051】
これにより、セラミックス基板11を構成するAlNの分解度合いが適切な範囲になり、セラミックス基板11と接合部13との接合力が高められる。よって、接合体10のセラミックス基板11と接合部13との接合力を高く維持することができ、接合部13の初期剥離率を低減させることが可能になる。
【0052】
(パワーモジュール用基板及びパワーモジュール)
上述した接合体を用いたパワーモジュール用基板及びパワーモジュールの構成について説明する。なお、
図1、
図2に示す接合体10と同一の構成には同一の符号を付し、その詳細な説明を略す。
図6は、本発明のパワーモジュール用基板及びパワーモジュールを示す断面図である。
【0053】
本発明のパワーモジュール1は、パワーモジュール用基板40と、このパワーモジュール用基板40の一方側(
図6において上側)の面にはんだ層2を介して接合されたパワー半導体(電子部品)3と、を備えている。
ここで、はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。
【0054】
本発明のパワーモジュール用基板40は、セラミックス基板(セラミックス部材)11と、このセラミックス基板11の一面11a(
図6において上面)に配設されたCu部材(回路層)12と、セラミックス基板11およびCu部材12を接合する接合部13と、からなる接合体10を備えている。
【0055】
また、パワーモジュール用基板40は、Cu部材(回路層)12が配設されたセラミックス基板11の一面11aに対して反対面を成すセラミックス基板11の他面11b(
図6において下面)に金属層41を備えている。金属層41は、例えば、Cu又はCu合金からなる金属板が用いられる。本実施形態では、金属層41として無酸素銅からなる金属板を用いている。このCu部材12の厚さは、例えば、0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmのものが用いられている。
【0056】
本発明のパワーモジュール用基板40におけるCu部材(回路層)12は、パワーモジュールに適用した際に、パワー半導体の回路層を構成する。即ち、Cu部材12はパワー半導体の導電体を成す。また、セラミックス基板11はこの導電体の下層側を絶縁する絶縁体を成す。
【0057】
このような本発明のパワーモジュール用基板40及びパワーモジュール1によれば、
図1に示す本発明の接合体10を適用することによって、セラミックス基板11とCu部材(回路層)12とを接合する接合部13の特定領域のAl濃度が管理され、セラミックス基板11と接合部13との接合力を高く維持したパワーモジュール用基板40及びパワーモジュール1を実現することができる。
【0058】
なお、本実施形態では、パワーモジュール用基板40として、セラミックス基板11の他面11b金属層41を形成しているが、こうした金属層41を特に形成しない構成であってもよい。また、金属層41は、Cu又はCu合金に限定されるものではなく、各種金属を用いることができる。例えば、AlやAl合金などを金属層として適用することもできる。
例えば、金属層41をAlやAl合金によって形成すれば、例えば、セラミックス部材に熱応力が加わった際に、この熱応力をAl又はAl合金からなる金属層によって吸収でき、セラミックス部材の熱応力による破損を抑制することが可能になる。金属層をAlやAl合金によって形成する場合、厚さは0.1mm〜3.0mmの範囲内に設定することが好ましい。
【実施例】
【0059】
(実施例1)
表1記載の材質からなるセラミックス基板(40mm×40mm×0.635mmt)の一方の面に、表1記載のろう材(37mm×37mm)、表1記載の活性金属材(37mm×37mm)、無酸素銅からなるCu板(37mm×37mm×0.3mmt)を順に積層し、積層体を形成する。なお、本発明例4については、Cu−7mass%P−15mass%Sn−10mass%Ni粉末とTi粉末からなるペーストをろう材及び活性元素として用いた。なお、ペーストの塗布厚は80μmとした。
【0060】
そして、積層体を積層方向に圧力5kgf/cm
2(0.49MPa)で加圧した状態で真空加熱炉に投入し、加熱することによってセラミックス基板の一方の面にCu板を接合した。加熱温度及び時間は表1記載の通りとした。
このようにして、本発明例1〜8、比較例1〜3の接合体を得た。得られた接合体の「活性金属化合物領域の有無」「接合部におけるAl濃度」「接合率」について評価した。
【0061】
(活性金属化合物領域の有無)
接合体の断面をEPMA(電子線マイクロアナライザー、日本電子株式会社製JXA−8530F)により倍率10000倍で測定し、セラミックス基板に含まれる元素(AlNの場合はN、Al
2O
3の場合にはO)及び活性金属元素の元素マッピングを取得する。得られたマッピングにおいて、活性金属元素とセラミックス基板に含まれる元素が同一領域に存在する場合に活性金属化合物領域が有ると判断した。
図7に、活性金属化合物領域の観察例を示す。この
図7においては、活性金属元素(Ti)とセラミックス基板(AlN)に含まれる元素(N)が同一領域に存在しており、活性金属化合物領域が有ると判断される。
【0062】
(接合部におけるAl濃度)
接合部におけるAl濃度の測定方法としては、接合部の断面をEPMA(電子線マイクロアナライザー、日本電子株式会社製JXA−8530F)により分析し、活性金属化合物領域の一面から0.5μm〜3μmの範囲を定量分析しAl濃度を測定した。具体的には上記範囲内の任意の個所10点を分析し、その平均値をAl濃度とした。
【0063】
(冷熱サイクル試験)
冷熱サイクル試験は、冷熱衝撃試験機(エスペック株式会社製TSB−51)を使用し、パワーモジュール用基板に対して、液相(フロリナート)で、−40℃×5分←→150℃×5分の2000サイクルを実施した。
(接合率)
接合率の評価は、接合体に対し、セラミックス基板とCu部材との界面の接合率について超音波探傷装置(株式会社日立パワーソリューションズ製FineSAT200)を用いて評価し、以下の式から接合率を算出した。
ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積、すなわち本実施例ではCu部材の面積(37mm×37mm)とした。超音波探傷像を二値化処理した画像において剥離は接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。
(接合率(%))={(初期接合面積)−(剥離面積)}/(初期接合面積)×100
接合率の評価は、冷熱サイクル試験を行う前(初期接合率)及び冷熱サイクル試験後に行った。
結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
(実施例2)
(本発明例9〜10)
実施例1で得られた接合体を用い、セラミックス基板の他方の面にAl−Si系ろう材を介して純度99.99mass%以上のアルミニウム(4N−Al)を接合し、金属層を形成したパワーモジュール用基板を作成した。本発明例9では本発明例2の接合体を、本発明例10では本発明例8の接合体を用いた。なお、実施例9〜10では、Al−Si系ろう材として、Al−7mass%Siろう材を用いた。
(本発明例11〜12)
セラミックス基板の一方の面及び他方の面に、Cu−7mass%P−15mass%Sn−10mass%Niろう材、Ti箔、無酸素銅(OFC)からなるCu板を順に積層し、積層体を形成し、積層体を積層方向に加圧した状態で真空加熱炉に投入し、加熱することによってセラミックス基板の一方の面及び他方の面にCu板が接合されたパワーモジュール用基板を作成した。本発明例11ではセラミックス基板としてAlNを、本発明例12ではAl
2O
3を用いた。
得られた本発明例9〜12のパワーモジュール用基板に対し、回路層(セラミックス基板の一方の面)の接合率を評価した。評価方法は実施例1記載と同じとした。
結果を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
表1に示す結果から、本発明例1〜8については、Al濃度が0.5at%以上、15at%以下の範囲であるため、セラミックス基板とCu板との初期の接合率が高く、強固に接合されていることが確認された。また、冷熱サイクル後の接合率も高く、接合信頼性に優れたCu板とセラミックス基板の接合体が得られた。
一方、比較例1及び比較例2は、Al濃度が0.5at%以上、15at%以下の範囲から外れているため、セラミックス基板とCu板との初期接合率及び冷熱サイクル後の接合率が、本発明例と比較して劣った。また、接合時に活性金属材を用いなかった比較例3では、Cu板とセラミックス基板が接合されなかった。
また、表2に示す結果から、本発明例9〜12については、冷熱サイクル試験後の接合率が高く、接合信頼性が高いことが確認された。