【0023】
尚、本発明には、以下の実施形態が含まれる。
(1)上記目的を達成するため、以下の構造とする。
(2)マス部とプーリ部を別体とし、この間にラジアルベアリングおよびスプリングを設置する。また、スプリングは、ミスアライメントにより発生するベルトの軸方向発生荷重に対し小さくなるように設定する。これによりアライメントが発生しても、軸方向にプーリ部が動き、ミスアライメントがキャンセルされる。但し、プーリ部を樹脂など潤滑性の良い材料で製作した場合はラジアルベアリングを設けなくても良い。
(3)エンジン始動時の大振幅入力時はスプリングが大きく捩られ、外径側に膨らむか、内径側に縮む。このとき、構造上設けられた微小隙間がなくなり、外径側もしくは内径側にスプリングがロックし、バネの働きがなくなる(マス部とプーリ部が直結状態)。したがって、エンジン起動時に通過する共振点がなくなり、従来案よりもベルト変動を小さくすることができる。
(4)プーリ部の円周方向の動きをスムーズにするため、プーリ部の一端面もしくは両端面にスラストベアリングを設けても良い。但し、プーリ部を樹脂など潤滑性の良い材料で製作した場合はスラストベアリングを設けなくても良い。
(5)プーリ部が軸方向に自由にスライドすることによりミスアライメントがキャンセルされることによるベルト鳴きを防止することができる。また、回転止め機構によりベルトに対し半回転方向のクランク捩り振動の伝達を絶縁することで、ベルトの劣化を防ぐことができる。
【実施例】
【0024】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施例に係るプーリユニット1を備えるトーショナルダンパ41の要部断面を示している。
【0026】
当該実施例に係るプーリユニット1は、無端ベルト(図示せず)を巻架して回転トルクを伝達するためのプーリ2を有し(全体としてプーリ形状を呈し)、このプーリ2が内周側の内周リング(ハウジングまたはマス部とも称する)11と外周側の外周リング(プーリ部とも称する)21との2部品に分割されて両リング11,21の組み合わせによって構成され、外周リング21の外周面に無端ベルトを巻架するための溝部22が設けられている。溝部22としては、V溝を複数備えるポリV溝が描かれているが、V溝を1つのみ備えるモノV溝であっても良い。
【0027】
内周リング11および外周リング21は、互いに軸方向に変位可能および円周方向に変位可能に組み付けられている。また内周リング11および外周リング21は、一端を内周リング11に連結するとともに他端を外周リング21に連結したコイルバネ31によって互いに連結されている。したがって内周リング11に対し外周リング21が軸方向変位することによってプーリ2および無端ベルト間のミスアライメントを吸収することが可能とされており、このときコイルバネ31は、軸方向バネ性を発揮して外周リング21を初動位置に復帰動させるための復帰バネとして作用する。また、内周リング11に対し外周リング21が円周方向変位することによってトルク変動を吸収することが可能とされており、このときコイルバネ31は、円周方向バネ性を発揮してトルク変動を吸収するカップリングバネとして作用する。
【0028】
内周リング11および外周リング21間に、両リング11,21の同軸度を確保するとともに相対変位を円滑化するためにラジアルベアリング34が介装されている。外周リング21の軸方向一方(
図1では右方)に、この外周リング21が内周リング11の外周位置から軸方向一方へ脱落することがないように抜け止め部35が設けられている。外周リング21はコイルバネ31の弾性によってこの抜け止め部35へ向けて付勢されている。抜け止め部35および外周リング21間に、外周リング21の相対回転を円滑化するためにスラストベアリング39が介装されている。また当該プーリユニット1は、回転軸に固定するハブ42にゴム状弾性体43を介して装着され、このとき当該プーリユニット1は、ハブ42およびゴム状弾性体43を備えるトーショナルダンパ41の振動リングとして作用する。
【0029】
各部品は、以下のように構成されている。
【0030】
内周リング11は、金属または硬質樹脂などの剛材によって円筒状に成形されており、その外周面における軸方向他方(
図1では左方)の端部に、コイルバネ31を軸方向に保持するためのフランジ部12が一体に設けられている。
【0031】
外周リング21は、これも金属または硬質樹脂などの剛材によって円筒状に成形されており、上記したようにその外周面に溝部22が設けられている。また、その内周面における軸方向他方の端部に、コイルバネ31を収容するための環状の凹部23が設けられている。
【0032】
コイルバネ31は、
図2の単品図に示すように平板バネ鋼などによって所定の軸方向長さを備えるスパイラル状に成形されており、このコイルバネ31が上記凹部23に収容されて軸方向のバネ性を発揮することにより上記したように外周リング21がコイルバネ31により抜け止め部35へ向けて弾性付勢されている。
【0033】
コイルバネ31の一端に、折り曲げ形成された一端係合部32が設けられ、コイルバネ31の他端に、同じく折り曲げ形成された他端係合部33が設けられている。一方、内周リング11におけるフランジ部12に、一端係合部32を円周方向に係合する切り欠き状の係合部13が設けられ、外周リング21における凹部23の内面に、他端係合部33を円周方向に係合する切り欠き状の係合部24が設けられている。またコイルバネ31と内周リング11の間およびコイルバネ31と外周リング21の間にはそれぞれ初期的な径方向間隙(図示せず)が設定されている。したがって各係合部32,33を各係合部13,24に係合した状態で両リング11,21が相対回転すると、コイルバネ31は円周方向に捩られて、円周方向のバネ性を発揮する。
【0034】
抜け止め部35は、ステンレス鋼などによって環状の単体部品として成形されており、その内周端部に環状の取付部36が設けられるとともにこの取付部36から径方向外方へ向けて立ち上がり部37が一体成形されている。また立ち上がり部37に環状の段差部38が設けられ、この段差部38によってスラストベアリング39が保持されている。尚、この抜け止め部35は取付部36をもってハブ42に取り付けられているが、当該プーリユニット1において自己完結的に各部品を組み立てる場合には、取付部36を内周リング11に取り付けることが考えられる。
【0035】
上記構成を備えるプーリユニット1においては、無端ベルトを巻架して回転トルクを伝達するプーリ2が内周リング11および外周リング21の組み合わせによって形成され、外周リング21の外周面に無端ベルトを巻架するための溝部22が設けられ、内周リング11および外周リング21が互いに軸方向変位可能および円周方向変位可能に組み付けられるとともに、一端を内周リング11に連結するとともに他端を外周リング21に連結したコイルバネ31によって連結されているために、上記
図5のようにプーリ2および無端ベルト間にミスアライメントが存在すると、外周リング21が無端ベルトの張力によって引っ張られるかたちにて内周リング11に対し軸方向他方へ向けて変位し、これによりミスアライメントが吸収される。このときコイルバネ31は、軸方向バネ性を発揮する復帰バネとして作用し、すなわち軸方向変位した外周リング21を自動で初動位置(原位置)に復帰動させる。
【0036】
また、当該プーリユニット1において、コイルバネ31は、軸方向バネとしてのみならず、円周方向バネとしても作用し、これによりトルク変動を吸収することが可能とされている。
【0037】
すなわち当該プーリユニット1においては、上記したように無端ベルトを巻架して回転トルクを伝達するプーリ2が内周リング11および外周リング21の組み合わせによって形成され、外周リング21の外周面に無端ベルトを巻架するための溝部22が設けられ、内周リング11および外周リング21が互いに軸方向変位可能および円周方向変位可能に組み付けられるとともに、一端を内周リング11に連結するとともに他端を外周リング21に連結したコイルバネ31によって連結されているために、内周リング11および外周リング21はコイルバネ31を捩りながら円周方向に相対変位することが可能とされており、コイルバネ31が大きく捩れて内周リング11の外周面または外周リング21の内周面に密着してそれ以上捩れなくなると、両リング11,21が直結状態となって供回りする。したがって前者の、コイルバネ31が捩れて両リング11,21が相対変位する状態にてエンジンアイドリング時の小振幅トルク変動を受けるとともに、後者の、コイルバネ31がそれ以上捩れず両リング11,21が直結・供回りする状態にてエンジン起動時の大振幅トルク変動を受けるようにバネ特性を設定することにより、エンジン起動時に通過する共振点を実質的になくすことが可能となる。したがってこのときコイルバネ31は、円周方向バネ性を発揮するカップリングバネとして作用し、従来技術におけるカップリングゴムの代わりをなすことになる。
【0038】
尚、上記したように当該プーリユニット1は、回転軸に固定するハブ42にゴム状弾性体43を介して装着され、このとき当該プーリユニット1は、ハブ42およびゴム状弾性体43を備えるトーショナルダンパ41の振動リングとして作用するので、ハブ42、ゴム状弾性体43および当該プーリユニット1の組み合わせよりなるトーショナルダンパ41としてのダンパ機能を発揮することが可能とされている。トーショナルダンパ41の種類としては、ゴム状弾性体43をハブ42または内周リング11の一方に加硫接着するゴム接着タイプとされているが、
図3に示すように、ゴム状弾性体43をハブ42および内周リング11間の径方向間隙に対して軸方向一方から圧入する非接着式のゴム嵌合タイプであっても良く、この場合、径方向間隙の内外周面には、ゴム状弾性体43を抜け止めすべく屈曲させるためのコンボリューション部44が設けられている。