(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エンジンへの燃料の供給量を調節する混合気供給量調節部と、制御ゲインを設定する制御ゲイン設定部と、前記エンジンの回転速度を検出する回転速度検出手段と、前記エンジンの目標回転速度と前記回転速度検出手段により検出された回転速度との偏差を回転速度偏差として演算する回転速度偏差演算手段と、前記制御ゲイン設定部により設定された制御ゲインを用いて前記回転速度偏差に演算を施すことによりエンジンの回転速度を目標回転速度に収束させるために必要な前記混合気供給量調節部の操作量を演算する操作量演算手段とを備え、前記操作量演算手段により演算された操作量だけ前記混合気供給量調節部を操作することによりエンジンの回転速度を目標回転速度に収束させる制御を行うエンジン用電子ガバナーにおいて、
前記制御ゲイン設定部は、前記目標回転速度の変動量に応じて決定した目標速度変動時制御ゲイン補正係数と、前記エンジンの負荷が変動したときに生じる回転速度偏差に応じて決定した負荷変動時制御ゲイン補正係数との双方を用いて、設定された制御ゲインの基準値を補正することにより、前記操作量の演算に用いる制御ゲインを決定するように構成されていることを特徴とするエンジン用電子ガバナー。
前記回転速度偏差の符号と、前記回転速度検出手段により検出された回転速度の変化傾向とから前記エンジンの負荷が変動しているか否か及び負荷変動時の制御ゲインの補正が必要であるか否かを判定する負荷変動判定手段が設けられ、
前記制御ゲイン設定部は、前記負荷変動判定手段により前記エンジンの負荷が変動していて制御ゲインの補正が必要であると判定されているときに、前記回転速度偏差に応じて負荷変動時制御ゲイン補正係数を決定するように構成されていること、
を特徴とする請求項1に記載のエンジン用電子ガバナー。
微小時間毎に目標回転速度を検出して今回検出した目標回転速度を設定された割合で減衰させた目標回転速度を前回の目標回転速度として記憶する目標速度記憶手段が設けられ、
前記目標速度変化判定手段は、今回検出した目標回転速度と前記目標速度記憶手段に記憶された前回の目標回転速度とを比較することにより前記目標回転速度が変化したか否かを判定するように構成され、
目標速度変動量演算手段は、今回検出した目標回転速度と前記目標速度記憶手段に記憶された前回の目標回転速度との差を演算することにより前記目標回転速度の変動量を演算すること、
を特徴とする請求項3に記載のエンジン用電子ガバナー。
前記負荷変動判定手段は、エンジンの回転速度が目標回転速度よりも高いと判定されている状態で前記回転速度検出手段により検出されたエンジンの回転速度に増加方向の変化が検出されたときに前記エンジンの負荷が減少していて負荷変動時の制御ゲインの補正が必要であると判定し、エンジンの回転速度が目標回転速度よりも低いと判定された状態で前記回転速度検出手段により検出されたエンジンの回転速度に減少方向の変化が検出されたときに前記エンジンの負荷が増加していて負荷変動時の制御ゲインの補正が必要であると判定し、エンジンの回転速度が目標回転速度よりも高いと判定され、かつ前記回転速度検出手段により検出されたエンジンの回転速度に増加方向の変化が検出されないとき、及びエンジンの回転速度が目標回転速度よりも低いと判定され、かつ前記回転速度検出手段により検出されたエンジンの回転速度に減少方向の変化が検出されないときに前記エンジンの負荷に変動がないか、又は負荷が変動しているとしても負荷変動時の制御ゲインの補正は必要ないと判定するように構成されていること、
を特徴とする請求項3又は4に記載のエンジン用電子ガバナー。
前記負荷変動判定手段は、前記回転速度検出手段により検出された回転速度の移動平均値の変化からエンジンの回転速度が増加方向に変化しているのか減少方向に変化しているのかを判定することを特徴とする請求項3,4又は5に記載のエンジン用電子ガバナ。
【背景技術】
【0002】
エンジンを駆動源として動作する自動車等の装置においては、フィードバック制御により、エンジンの実回転速度を目標速度に収束させる制御を行う電子ガバナーが用いられている。
図6に示されているように、エンジン用電子ガバナー1は、エンジン2への燃料と空気の供給量を調節する混合気供給量調節部3と、エンジン2の実回転速度の情報を含む信号を出力する回転センサ4の出力からエンジンの実回転速度を検出して回転速度検出信号Vnを出力する回転速度検出手段5と、エンジンの目標回転速度を設定する目標速度設定器6から与えられる目標速度設定信号Vnoと回転速度検出信号Vnとの偏差Vno−Vnを演算する回転速度偏差演算手段7と、比例ゲインP,積分ゲインI及び微分ゲインDを設定する制御ゲイン設定部8′と、制御ゲイン設定部8′により設定された比例ゲインP,積分ゲインI及び微分ゲインDを用いて、偏差(Vno−Vn)に比例、積分及び微分演算を施すことにより、偏差(Vno−Vn)を零にするために必要な混合気供給量調節部3の操作量を与える制御信号Vqを出力する操作量演算手段9と、制御信号Vqを入力として、操作量演算手段9により演算された操作量だけ混合気供給量調節部3を操作するために混合気供給量調節部3に与える操作信号を出力する操作信号出力部10とを備えている。
【0003】
操作量演算手段9は、制御ゲイン設定手段により設定された比例ゲインP,積分ゲインI及び微分ゲインDを用いて、下記の(1)式により偏差(Vno−Vn)に比例、積分及び微分演算を施すことにより、偏差(Vno−Vn)を零にするために必要な混合気供給量調節部3の操作量を与える制御信号Vqを出力する。
Vq=P(Vno−Vn)+I∫(Vno−Vn)dt+D{d(Vno−Vn)/dt}…(1)
【0004】
混合気供給量調節部3は、操作信号出力部10から与えられる操作信号に見合った量の燃料と空気をエンジンに与えるように混合気供給量を調節して、エンジンの回転速度を目標回転速度に一致させる。
【0005】
PID制御によりエンジンの回転速度を目標回転速度に収束させる制御を行う電子ガバナーにおいては、制御ゲインP,I,Dにより制御の応答性や安定性などの性能が決まる。制御ゲインを固定値とする場合には、応答性を良くするために制御ゲインを大きく設定すると安定性が悪くなり、負荷が細かく変動したときや、目標回転速度を僅かに変更したときに、回転速度のオーバーシュート及びアンダーシュートが大きくなって、回転速度が目標回転速度に収束するまでに時間がかかってしまう。また安定性を良くするために制御ゲインを小さく設定すると応答性が悪くなり、負荷が大幅に変動したときや、目標回転速度を大きく変更したときに、回転速度のオーバーシュート及びアンダーシュートが大きくなって、エンジンの回転速度を目標回転速度に収束させるまでの所要時間が長くなる。また負荷が大幅に増加した場合には、エンジンが要求する量の混合気を供給できずにエンジンストールを起こすこともある。
【0006】
そこで、特許文献1に示されているように、目標回転速度と回転速度偏差と制御ゲインとの間の関係を与える三次元の制御ゲイン演算用マップを用いて、目標回転速度と回転速度偏差とに対してこのマップを検索することにより、目標回転速度及び回転速度偏差の個々の値に対して制御ゲインを設定する提案がなされている。
【0007】
なお上記の説明では、(1)式の右辺の第1項ないし第3項の演算を行うことにより、エンジンの回転速度を目標速度に一致させるために必要な操作量の演算を行うとしたが、回転速度を目標回転速度に一致させるために必須であるのは、比例ゲインPを用いた操作量の演算P(Vno−Vn)のみであり、積分ゲインIを用いた回転速度偏差の積分演算I∫(Vno−Vn)dt及び微分定数を用いた回転速度偏差の微分演算D{d(Vno−Vn)/dt}は必要に応じて付加される。積分ゲインIを用いた偏差の積分演算を行う(1)式の右辺第2項は、回転速度を目標回転速度との間に生じる残留偏差を特に小さくすることが必要な場合に付加される。また微分ゲインDを用いた偏差の微分演算を行う(1)式の右辺第3項は、回転速度の急激な変化によりハンチングが生じるのを防止する場合等に付加される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に示された発明のように、目標回転速度と回転速度偏差とに対してマップを検索することにより目標回転速度及び回転速度偏差の個々の値に対して制御ゲインを決定するようにすれば、目標回転速度及び回転速度偏差に対して細かく制御ゲインを設定することができるため、制御ゲインを固定値とした場合に比べると、エンジンの回転速度の制御をより適確に行わせることができる。しかし、以下に示すように、特許文献1に記載された発明により最適な制御を行うことができるのは、目標回転速度が一定に保たれて、負荷変動により回転速度偏差が生じる場合のみであり、目標回転速度が適宜に変化させられることにより回転速度偏差が生じる場合に、制御ゲインを最適値に設定することはできない。
【0010】
一般に、PID制御によりエンジンの回転速度を目標回転速度に収束させる制御を行う電子ガバナーにおいては、目標回転速度が一定の状態で負荷変動により回転速度偏差が生じた場合に最適な制御ゲインと、負荷変動がない状態で目標回転速度が変化したことにより回転速度偏差が生じた場合に最適な制御ゲインとは一致しない。従って、エンジンの運転中に目標回転速度を適宜に変化させることがある場合には、目標回転速度が一定の状態で負荷変動により回転速度偏差が生じた場合と、負荷変動がない状態で目標回転速度が変化したことにより回転速度偏差が生じた場合とを区別して、制御ゲインをそれぞれの場合に適した値に設定しないと、最適な制御を行わせることができない。
【0011】
しかしながら、特許文献1に示された発明によった場合には、目標回転速度が一定の状態で負荷変動により回転速度偏差が生じた場合と、負荷変動がない状態で目標回転速度が変化することにより回転速度偏差が生じた場合とを区別することができないため、制御ゲインを適確に設定することができないことがある。
【0012】
例えば、エンジンの負荷変動がなく、実回転速度が目標回転速度に一致している状態にあるとき(回転速度偏差が零であるとき)に目標回転速度を変化させると、目標回転速度の変化分に等しい回転速度偏差が生じるため、負荷が一定であるにもかかわらず、負荷が変動したことにより回転速度偏差が生じたのと同じ状態が生じることになり、回転速度偏差が生じた原因が、負荷変動にあるのか、目標回転速度の変化にあるのかを特定することができない。そのため、特許文献1に記載された発明によった場合には、負荷変動により回転速度偏差が生じた場合と目標回転速度の変化により回転速度偏差が生じた場合とを区別してそれぞれの場合に最適の値に制御ゲインを設定することができない。
【0013】
この場合、負荷変動により回転速度偏差が生じたときに最適な制御を行うことができるように制御ゲインを演算するマップを作成すると、目標回転速度の変化により同じ回転速度偏差が生じたときに最適な制御を行うことができず、目標回転速度の変化により回転速度偏差が生じたときに最適な制御を行うことができるように制御ゲインを演算するマップを作成すると、負荷変動により同じ回転速度偏差が生じたときに最適な制御を行うことができない。従って、従来の電子ガバナーでは、マップ演算される制御ゲインの値が、負荷変動により回転速度偏差が生じた場合及び目標回転速度の変化により回転速度偏差が生じた場合の何れの場合にも折り合いがつく妥協した値になるように制御ゲイン演算用マップを作成せざるをえず、回転速度の最適制御を行うことができない。
【0014】
図7は、目標回転速度が一定な状態で負荷変動により回転速度偏差が生じたときに最適な制御を行うことができるように制御ゲインを設定して、負荷を変化させたときのエンジンの回転速度の応答を示したものである。これに対し、
図8は、制御ゲインを
図7と同じに設定して、目標回転速度を変化させたときの回転速度の応答を示している。
図8から明らかなように、目標回転速度が一定な状態で負荷変動により回転速度が変動した場合に最適な制御を行うように制御ゲインを設定した状態で、目標回転速度を変化させた場合には、操作量が過剰になって、回転速度が目標回転速度を大きく超えてから目標回転速度に収束する特性になり、目標回転速度切換時の回転速度の変動が大きくなってしまうため、好ましくない。
【0015】
本発明の目的は、負荷変動により回転速度偏差が生じた場合及び目標回転速度の変化により回転速度偏差が生じた場合の何れの場合にも制御ゲインを最適値に設定して、安定性及び応答性が共に高い最適制御を行うことを可能にするエンジン用電子ガバナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、エンジンへの燃料及び空気の供給量(混合気の供給量)を調節する混合気供給量調節部と、制御ゲインを設定する制御ゲイン設定部と、エンジンの回転速度を検出する回転速度検出手段と、エンジンの目標回転速度と回転速度検出手段により検出された回転速度との偏差を回転速度偏差として演算する回転速度偏差演算手段と、制御ゲイン設定部により設定された制御ゲインを用いて回転速度偏差に演算を施すことによりエンジンの回転速度を目標回転速度に収束させるために必要な混合気供給量調節部の操作量を演算する操作量演算手段とを備えて、操作量演算手段により演算された操作量だけ混合気供給量調節部を操作することによりエンジンの回転速度を目標回転速度に収束させる制御を行うエンジン用電子ガバナーを対象とする。本明細書には、上記のような構成を有するエンジン用電子ガバナにおいて、前記の目的を達成するために、少なくとも第1ないし第5の発明が開示される。
【0017】
本明細書に開示された第1の発明においては、制御ゲイン設定部が、目標回転速度の変動量に応じて決定した目標速度変動時制御ゲイン補正係数と、エンジンの負荷が変動したときに生じる回転速度偏差に応じて決定した負荷変動時制御ゲイン補正係数との双方を用いて、設定された制御ゲインの基準値を補正することにより、操作量の演算に用いる制御ゲインを決定するように構成される。
【0018】
上記のように、目標回転速度の変動量に応じて決定した目標速度変動時制御ゲイン補正係数と、エンジンの負荷が変動したときに生じる回転速度偏差に応じて決定した負荷変動時制御ゲイン補正係数との双方を用いて制御ゲインの基準値を補正することにより制御ゲインを決定するようにすると、負荷変動により回転速度偏差が生じた場合及び目標回転速度の変化により回転速度偏差が生じた場合の何れの場合にも制御ゲインを最適値に設定して、安定性及び応答性が共に高い最適制御を行うことができる。
【0019】
本明細書に開示された第2の発明は、第1の発明に適用されるもので、本発明においては、回転速度偏差の符号と、回転速度検出手段により検出された回転速度の変化傾向とからエンジンの負荷が変動しているか否か及び負荷変動時の制御ゲインの補正が必要であるか否かを判定する負荷変動判定手段が設けられる。この場合、制御ゲイン設定部は、負荷変動判定手段によりエンジンの負荷が変動していて制御ゲインの補正が必要であると判定されているときに、回転速度偏差に応じて負荷変動時制御ゲイン補正係数を決定する。
【0020】
本明細書に開示された第3の発明においては、制御ゲイン設定部が、目標回転速度が変化したか否かを判定する目標速度変化判定手段と、目標速度変化判定手段により目標回転速度が変化したと判定されたときに目標回転速度の変動量を演算する目標速度変動量演算手段と、目標速度変化判定手段により目標回転速度が変化したと判定されたときに、操作量の演算に用いる制御ゲインを求めるために該制御ゲインの基準値に乗じる目標速度変動時ゲイン補正係数を目標速度変動量演算手段により演算された目標回転速度の変動量に対して演算し、目標速度変化判定手段により目標回転速度が変化していないと判定されたときには目標速度変動時ゲイン補正係数を1とする目標速度変動時制御ゲイン補正係数演算手段と、回転速度と目標回転速度との大小関係と回転速度検出手段により検出された回転速度の変化傾向とからエンジンの負荷が変動したか否か及び負荷変動時の制御ゲインの補正が必要であるか否かを判定する負荷変動判定手段と、負荷変動判定手段によりエンジンの負荷が変動していて負荷変動時の制御ゲインの補正が必要であると判定されたときに、操作量の演算に用いる制御ゲインを求めるために制御ゲインの基準値に乗じる負荷変動時制御ゲイン補正係数を回転速度偏差に対して演算し、負荷変動判定手段によりエンジンの負荷が変動していないと判定されるか、又は負荷が変動しているとしても制御ゲインの補正は不要であると判定されたときには負荷変動時制御ゲイン補正係数を1とする負荷変動時制御ゲイン補正係数演算手段と、制御ゲインの基準値に目標速度変動時ゲイン補正係数と負荷変動時制御ゲイン補正係数とを乗じることにより制御ゲインの基準値を補正して操作量の演算に用いる制御ゲインを求める制御ゲイン補正手段とを備えて、制御ゲイン補正手段により補正された制御ゲインを、操作量の演算に用いる制御ゲインとするように構成される。
【0021】
本明細書に開示された第4の発明は、第3の発明に適用されるもので、本発明においては、微小時間毎に目標回転速度を検出して今回検出した目標回転速度を設定された割合で減衰させた目標回転速度を前回の目標回転速度として記憶する目標速度記憶手段が設けられる。この場合、目標速度変化判定手段は、今回検出した目標回転速度と目標速度記憶手段に記憶された前回の目標回転速度とを比較することにより目標回転速度が変化したか否かを判定するように構成され、目標速度変動量演算手段は、今回検出した目標回転速度と目標速度記憶手段に記憶された前回の目標回転速度との差を演算することにより目標回転速度の変動量を演算する。
【0022】
本明細書に開示された第5の発明は、第3の発明又は第4の発明に適用されるもので、本発明においては、負荷変動判定手段が、エンジンの回転速度が目標回転速度よりも高いと判定されている状態で回転速度検出手段により検出されたエンジンの回転速度に増加方向の変化が検出されたときにエンジンの負荷が減少していて負荷変動時の制御ゲインの補正が必要であると判定し、エンジンの回転速度が目標回転速度よりも高くないと判定された状態で回転速度検出手段により検出されたエンジンの回転速度に減少方向の変化が検出されたときにエンジンの負荷が増加していて負荷変動時の制御ゲインの補正が必要であると判定し、エンジンの回転速度が目標回転速度よりも高いと判定され、かつ前記回転速度検出手段により検出されたエンジンの回転速度に増加方向の変化が検出されないとき及びエンジンの回転速度が目標回転速度よりも高くないと判定され、かつ前記回転速度検出手段により検出されたエンジンの回転速度に減少方向の変化が検出されないときにエンジンの負荷に変動がないか又は負荷が変動しているとしても負荷変動時の制御ゲインの補正は必要がないと判定するように構成される。
【0023】
本明細書に開示された第5の発明は、第3の発明、第4の発明又は第5の発明に適用されるもので、本発明においては、負荷変動判定手段が、回転速度検出手段により検出された回転速度の移動平均値の変化からエンジンの回転速度が増加方向にあるのか減少方向にあるのかを判定するように構成される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、目標回転速度の変動量に応じて決定した目標速度変動時制御ゲイン補正係数と、エンジンの負荷が変動したときに生じる回転速度偏差に応じて決定した負荷変動時制御ゲイン補正係数との双方を用いて制御ゲインの基準値を補正することにより制御ゲインを決定するので、負荷変動により回転速度偏差が生じた場合及び目標回転速度の変化により回転速度偏差が生じた場合の何れの場合にも制御ゲインを最適値に設定して、安定性及び応答性が共に高い最適制御を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下図面を参照して、本発明に係るエンジン用電子ガバナーの実施形態について説明する。
図1は本発明に係る電子ガバナーを備えたエンジンシステムの構成を示したもので、同図において、1はエンジン2の回転速度を目標速度に収束させるように制御する電子ガバナー、6はエンジンの目標回転速度を切り換える際に操作される切換スイッチ等からなる目標速度設定器である。目標速度設定器6により設定された目標回転速度は電子ガバナー1に与えられる。エンジンの目標回転速度は、目標速度設定器6により切り換えられる他、エンジンの回転速度をアイドル速度に低下させるアイドルダウン要求が出された際や、アイドルダウン要求が解除された際などにも変化させられる。
【0027】
IGはエンジン2を点火する点火装置、Tvはエンジンの吸気管に取り付けられて、エンジンのシリンダに供給される混合気の供給量を調節するスロットルバルブ、Btは電子ガバナー1に電源電圧を与えるバッテリである。バッテリBtは、エンジン2により駆動される磁石式交流発電機(図示せず。)の整流出力により、充電装置を通して充電される。
【0028】
点火装置IGは、一次コイル及び二次コイルを有して二次コイルがエンジンの点火プラグに接続された点火コイルと、点火コイルの一次コイルに流す一次電流を制御する点火回路とを備えていて、エンジンの点火時期に点火回路が点火コイルの一次電流に急激な変化を生じさせることにより、点火プラグに火花を生じさせるための点火用高電圧を点火コイルの二次コイルに誘起させる。点火コイルの一次コイルには、エンジンの点火を行う毎に高い一次電圧が誘起する。この一次電圧の周波数はエンジンの回転速度に比例し、その発生間隔はエンジンの回転速度に反比例している。本実施形態では、点火装置IGの点火コイルの一次コイルを回転センサとして用いて、点火コイルの一次電圧の発生間隔からエンジンの回転速度を検出する。
【0029】
電子ガバナー1は、CPU、ROM及びRAM等を有するマイクロプロセッサを備えていて、マイクロプロセッサがROMに記憶されたガバナ制御タスクのプログラムを微小時間毎に繰り返し実行することにより、エンジンの回転速度を目標回転速度に収束させる制御を実現するために必要な各種の手段を構成する。
【0030】
図2を参照すると、本実施形態の電子ガバナー1の構成がブロック図で示されている。本実施形態の電子ガバナー1は、エンジンへの燃料及び空気の供給量を調節する混合気供給量調節部3と、回転速度検出手段5と、目標速度記憶手段21及び回転速度記憶手段22と、回転速度偏差演算手段7と、制御ゲイン設定手段8と、操作量演算手段9と、操作信号出力部10とにより構成されている。
【0031】
回転速度検出手段5は、微小時間毎にエンジンの実回転速度N(rpm)を検出する手段である。回転速度検出手段5を構成するため、本実施形態では、エンジンの点火時に点火装置IGの点火コイルの一次コイルに誘起する一次電圧を点火一次信号として検出して、この点火一次信号が検出される毎にエンジンの回転速度を制御するマイクロプロセッサに割込み処理を実行させる。この割込み処理では、前回の点火一次信号が発生してから今回の点火一次信号が発生するまでの時間を点火一次信号発生間隔として計測して、この点火一次信号発生間隔からエンジンの回転速度を演算する。
【0032】
目標速度記憶手段21は、目標速度設定器6により設定されるエンジンの目標回転速度Ntを微小時間毎に(マイクロプロセッサがガバナ制御タスクを実行する毎に)検出して、今回検出した目標回転速度を設定された割合で減衰させた目標回転速度を前回の目標回転速度として記憶する手段である。
【0033】
回転速度記憶手段22は、各検出タイミングでエンジンの実回転速度を逐次記憶する手段で、回転速度検出手段5により検出されたエンジンの実回転速度Nを微小時間毎に現れる検出タイミングで検出して、設定された検出回数分の回転速度Nを順次記憶する。
【0034】
回転速度偏差演算手段7は、微小時間毎に目標回転速度から実回転速度を減じる演算を行って回転速度偏差dNを演算する。
【0035】
制御ゲイン設定部8は、操作量の演算に用いる制御ゲインを設定する部分で、目標速度変化判定手段8Aと、目標速度変動量演算手段8Bと、目標速度変動時制御ゲイン補正係数演算手段8Cと、回転速度平均値演算手段8Dと、負荷変動判定手段8Eと、負荷変動時制御ゲイン補正係数演算手段8Fと、制御ゲイン補正手段8Gとからなっている。本実施形態では、説明を簡単にするため、比例ゲインP、積分ゲインI及び微分ゲインDの3つの制御ゲインのうち、比例ゲインPのみを用いて回転速度偏差N−Ntに比例演算P(N−Nt)を行うことにより操作量を求めるものとし、積分ゲイン及び微分ゲインは操作量の演算に用いないものとする。すなわち(1)式の右辺第1項のみにより操作量を演算するものとする。
【0036】
目標速度変化判定手段8Aは、目標回転速度が変化したか否か(目標速度設定器6が目標回転速度を変化させたか否か)を判定する手段で、この手段は、マイクロコンピュータがガバナ制御タスクを実行する毎に今回検出された目標回転速度Ntを前回検出された目標回転速度として目標速度記憶手段21に記憶されている目標回転速度Nt0と比較することにより、目標回転速度が変化したか否かを判定する。
【0037】
目標回転速度変動量演算手段8Bは、目標回転速度が変化したと判定されたときに、今回検出された目標回転速度Ntと前回検出された目標回転速度Nt0との差Nt−Nt0を目標回転速度変動量dNtとして演算する手段である。
【0038】
目標速度変動時制御ゲイン補正係数演算手段8Cは、目標速度変化判定手段8Aにより目標回転速度Ntが変化したと判定されたときに、操作量の演算に用いる制御ゲインを求めるために該制御ゲインの基準値Kpに乗じる目標速度変動時ゲイン補正係数Cptを目標回転速度変動量演算手段8Bにより演算された目標回転速度変動量dNtに対して演算する手段である。
【0039】
本実施形態で用いる目標速度変動時制御ゲイン補正係数演算手段8Cは、目標速度変化判定手段により目標回転速度が変化したと判定されたときに目標速度変動時ゲイン補正係数演算用テーブルを目標回転速度変動量dNtに対して検索することにより、目標速度変動時ゲイン補正係数Cptを演算し、目標速度変化判定手段により目標回転速度が変化していないと判定されたときには目標速度変動時ゲイン補正係数Cptを1とする。目標速度変動時ゲイン補正係数演算用テーブルは、目標回転速度変動量dNtと目標速度変動時ゲイン補正係数Cptとの間の関係を与えるテーブル(マップ)で、このテーブルは例えば、各目標回転速度変動量dNtに対して目標速度変動時ゲイン補正係数Cptの値を種々異ならせて回転速度の応答特性を調べる実験から得られた最適なデータに基づいて作成されてROMに記憶されている。
【0040】
回転速度平均値演算手段8Dは、回転速度検出手段5により検出されたエンジンの回転速度の平均値を演算する手段である。本実施形態の回転速度平均値演算手段は、回転速度検出手段5により検出されたエンジンの回転速度の移動平均値Nvを演算するように構成されている。回転速度の移動平均値Nvの演算は、今回の検出タイミングで検出された回転速度の検出値と、今回の検出タイミングの直近に現れた連続するn−1回(nは2以上の整数)の検出タイミングでそれぞれ検出されて回転速度記憶手段22に記憶されているn−1個の回転速度の検出値とからなる合計n個の回転速度の検出値の平均値を演算することにより行う。
【0041】
負荷変動判定手段8Eは、エンジンの負荷が変化したか否か及び負荷変動時の制御ゲインの補正が必要であるか否かを判定する手段である。本実施形態で用いる負荷変動判定手段8Eは、回転速度偏差演算手段7により演算された回転速度偏差dNの符号からエンジンの回転速度が目標回転速度よりも高いと判定されている状態で回転速度検出手段5により検出されたエンジンの回転速度に増加方向の変化が検出されたときにエンジンの負荷が減少していて負荷変動時の制御ゲインの補正が必要であると判定し、回転速度偏差の符号からエンジンの回転速度が目標回転速度よりも低いと判定された状態で回転速度検出手段5により検出されたエンジンの回転速度に減少方向の変化が検出されたときにエンジンの負荷が増加していて負荷変動時の制御ゲインの補正が必要であると判定する。また回転速度偏差dNの符号からエンジンの回転速度Nが目標回転速度Ntよりも高いと判定され、かつ回転速度検出手段5により検出されたエンジンの回転速度Nに増加方向の変化が検出されないとき、及び回転速度偏差dNの符号からエンジンの回転速度Nが目標回転速度Ntよりも低いと判定され、かつ回転速度検出手段5により検出されたエンジンの回転速度Nに減少方向の変化が検出されないときにエンジンの負荷に変動がないか、又は負荷が変動しているとしてもエンジンの回転速度が目標回転速度に収束し得る状態であるので負荷変動時の制御ゲインの補正は必要ないと判定する。
【0042】
ここで、回転速度偏差dNをdN=N−Ntの式により求めるとすると、回転速度偏差dNが正になる(エンジンの回転速度Nが目標回転速度Ntよりも高くなる)のは、(a)目標回転速度Ntが減少方向に変更された場合、(b)エンジンの負荷が減少して回転速度にオーバーシュートが生じた場合、及び(c)負荷が増加して回転速度のアンダーシュートが生じた後の制御における混合気供給量調節部の操作量が過大であったために回転速度Nが上昇した場合のいずれかの場合である。
【0043】
また回転速度偏差dNが負になる(エンジンの回転速度Nが目標回転速度Ntよりも低くなる)のは、(d)目標回転速度が増加方向に変更された場合、(e)負荷が増加して回転速度にアンダーシュートが生じた場合、及び(f)負荷が減少して回転速度にオーバーシュートが生じた後の制御における混合気供給量調節部の操作量が過大であったために回転速度Nが低下した場合のいずれかの場合である。
【0044】
従って、回転速度偏差dN(=N−Nt)が正である状態(エンジンの回転速度が目標回転速度よりも高い状態)で、回転速度の移動平均値Nvからエンジンの回転速度が上昇していると判定されたときに、負荷が減少していると判定することができ、回転速度偏差dN(=N−Nt)が負である状態(エンジンの回転速度が目標回転速度よりも低い状態)で、回転速度の移動平均値Nvからエンジンの回転速度が低下していると判定されたときに、負荷が増加していると判定することができる。
【0045】
前述の様に、本実施形態では、エンジンの回転速度が目標回転速度よりも高いと判定されている状態で回転速度検出手段5により検出されたエンジンの回転速度に増加方向の変化が検出されたときにエンジンの負荷が減少していて負荷変動時の制御ゲインの補正が必要であると判定し、エンジンの回転速度が目標回転速度よりも低いと判定された状態で回転速度検出手段5により検出されたエンジンの回転速度に減少方向の変化が検出されたときにエンジンの負荷が増加していて負荷変動時の制御ゲインの補正が必要であると判定するが、回転速度偏差dN(=N−Nt)が正である状態(エンジンの回転速度が目標回転速度よりも高い状態)で、回転速度の移動平均値Nvからエンジンの回転速度に増加方向の変化が生じているとの判定がされなかったとき、及び回転速度偏差dN(=N−Nt)が負である状態(エンジンの回転速度が目標回転速度よりも低い状態)で、回転速度の移動平均値Nvからエンジンの回転速度に減少方向の変化が生じているとの判定がされなかったときには、エンジンの負荷に変動がないか又は負荷が変動しているとしても負荷変動時制御ゲイン補正係数を用いた制御ゲインの補正を行う必要がない状態であると判定する。このような判定を行う理由は下記の通りである。
【0046】
すなわち、エンジンの回転速度Nが目標回転速度Ntよりも高いと判定され、かつエンジンの回転速度に増加方向の変化が検出されない状態は、次の(A)ないし(C)のいずれかの状態である。
(A)負荷が一旦減少したために回転速度Nが目標回転速度Ntよりも高くなったが、その後負荷が増加に転じたために回転速度が目標速度に向けて低下していく状態。
(B)負荷が一旦減少したために回転速度Nが目標回転速度Ntよりも高くなったが、その後負荷の変動がないためにガバナによる制御が有効に働き、回転速度が目標速度に向けて低下していく状態。
(C)負荷が一旦減少したために回転速度Nが目標回転速度Ntよりも高くなった後、負荷が引き続き減少しているが、その負荷の減少方向の変動が急激でないために、ガバナによる制御が有効に働き、回転速度Nが目標回転速度Ntに向けて低下していく状態。
【0047】
またエンジンの回転速度Nが目標回転速度Ntよりも低いと判定され、かつエンジンの回転速度Nに減少方向の変化が検出されない状態は、次の(D)ないし(F)のいずれかの状態である。
(D)負荷が一旦増加したために回転速度Nが目標回転速度Ntよりも低くなったが、その後負荷が減少に転じたために回転速度が目標速度に向けて上昇していく状態。
(E)負荷が一旦増加したために回転速度Nが目標回転速度Ntよりも低くなったが、その後負荷の変動がないためにガバナによる制御が有効に働き、回転速度が目標速度に向けて上昇していく状態。
(F)負荷が一旦増加したために回転速度Nが目標回転速度Ntよりも低くなった後、負荷が引き続き増加しているが、その負荷の増加方向の変動が急激でないために、ガバナによる制御が有効に働き、回転速度Nが目標回転速度Ntに上昇していく状態。
【0048】
上記(A)ないし(F)の状態は、何れもガバナによる制御が有効に働いて、エンジンの回転速度が目標回転速度に収束し得る状態であるので、本実施形態では、これらの状態が検出されたときに、エンジンの負荷に変動がないか、又は負荷が変動しているとしても負荷変動時の制御ゲインの補正は必要ないと判定して、負荷変動時制御ゲイン補正係数を用いた制御ゲインの補正を行わない。
【0049】
本実施形態では、回転速度の移動平均値を用いてエンジンの回転速度が増加傾向にあるか減少傾向にあるかを判定しているが、このように構成しておくと、回転速度の微小変化による誤判定を防いで、エンジンの回転速度が増加傾向にあるか減少傾向にあるかの判定を正確に行わせることができる。
【0050】
負荷変動時制御ゲイン補正係数演算手段8Fは、負荷変動時に制御ゲイン補正するために制御ゲインの基準値Kpに乗じる負荷変動時制御ゲイン補正係数Cplを演算する手段である。本実施形態の負荷変動時制御ゲイン補正係数演算手段8Fは、負荷変動判定手段8Eによりエンジンの負荷が変動していて制御ゲインの補正が必要であると判定されたときに、操作量の演算に用いる制御ゲインを求めるために制御ゲインの基準値Kpに乗じる負荷変動時制御ゲイン補正係数Cplを回転速度偏差dNに対して演算する。負荷変動時制御ゲイン補正係数Cplの演算は、回転速度偏差dNと負荷変動時制御ゲイン補正係数Cplの適正値との間の関係を与える負荷変動時制御ゲイン補正係数演算用マップを回転速度偏差dNに対して検索することにより行う。負荷変動時制御ゲイン補正係数演算用マップも予め実験的に作成してROMに記憶させておく。
【0051】
制御ゲイン補正手段8Gは、制御ゲインの基準値Kpを補正して操作量の演算に用いる制御ゲインを求める手段で、予め設定されてROMに記憶された制御ゲインの基準値Kpに目標速度変動時ゲイン補正係数Cptと負荷変動時制御ゲイン補正係数Cplとを乗じる演算Kp×Cpt×Cplを行うことにより制御ゲインの基準値を補正して、操作量の演算に用いる制御ゲインを求める。
【0052】
図2に示した電子ガバナを構成する各手段を実現するために微小時間間隔でマイクロコンピュータに実行させるガバナ制御タスクのアルゴリズムを示すフローチャートを
図3及び
図4に示した。このガバナ制御タスクでは、先ず
図3のステップ1において、前回このタスクを実行した際に演算された回転速度の移動平均値Nvを、前回の移動平均値Nv0として記憶させる。次いでステップ2でエンジンの回転速度Nを検出し、今回新たに検出した回転速度を含めて改めて回転速度の移動平均値を演算する。
【0053】
次にステップ3で目標速度設定器6により設定された目標回転速度Ntを読み込み、ステップ4に進む。ステップ4では、ステップ3で新たに読み込んだ目標回転速度Ntを前回読み込まれた目標回転速度Nt0と比較して、目標回転速度が変化しているか否かを判定する。その結果、目標回転速度が変化していると判定された場合には、ステップ5に進んで目標回転速度の変動量dNt=Nt−Nt0を目標速度変動量として演算した後ステップ6に進む。ステップ6では、目標速度変動量dNtを用いて目標回転速度変動時制御ゲイン補正係数演算用テーブルKpt_variable(dNt)を検索することにより、操作量の演算に用いる制御ゲインを求めるために予め設定された制御ゲインの基準値Kpに乗じる目標回転速度変動時制御ゲイン補正係数Cptを演算する。
【0054】
次いで
ステップ7に進んで、目標速度変動量dNtに予め設定した減衰係数Katを乗算して求めた数値を今回読み込まれた目標回転速度Ntから減ずる演算Nt0=Nt−dNt×
Katを行って、演算された(検出された目標回転速度よりも減衰された)目標回転速度Nt0を前回の目標回転速度として目標速度記憶手段21に記憶させる。減衰係数Katは、予め制御対象であるエンジンの特性に合わせた適切な値に設定しておく。
【0055】
本実施形態において、今回検出された目標回転速度Ntそのものを前回の目標回転速度Nt0として更新するのではなく、今回検出された目標回転速度Ntから今回演算された目標速度変動量dNtに減衰係数Katを乗算して減衰させた目標速度変動量dNt×
Katを減じたものを前回の目標回転速度Nt0として更新するのは、目標回転速度に変化があったことを一定時間の間保持して、制御ゲインを補正したことによる効果がエンジンの実際の回転速度の制御に確実に効くようにするためである。
【0056】
ガバナ制御タスクを微小時間間隔でマイクロプロセッサに実行させることにより電子ガバナを構成する各手段を実現する場合、前回のタスク実行時から今回のタスク実行時までの時間は極めて微小であるため、今回検出された目標回転速度Ntそのものを前回の目標回転速度Nt0として更新して制御ゲインを設定する処理を行わせるようにした場合には、制御ゲインの補正の効果が効いている時間が微小になり、制御ゲインを補正したことによる効果をエンジンの実際の回転速度の制御に確実に反映させることが困難である。例えば、ガバナ制御タスクを10msec間隔で実行するとすると、今回検出された目標回転速度Ntそのものを前回の目標回転速度Nt0として更新するようにした場合には、制御ゲインを補正した後10msecが経過した時点では目標回転速度に変化がないと判断され、制御ゲインの補正が行われない。ここで、エンジンの回転速度が例えば3000rpmであるとすると、エンジンが1回転するのに要する時間は20msecであり、1燃焼サイクルは40msecであるが、ガバナによる回転速度の制御効果は、エンジンの燃焼行程があって初めて現れるため、1燃焼サイクルの時間(40msec)よりも短い時間の間しか制御ゲインの補正効果が持続しないとすると、制御ゲインの補正の効果をエンジンの回転速度の制御に確実に反映させることが難しい。上記の例のように、ガバナ制御タスクを10msec毎に実行する場合、制御ゲインの補正の効果が持続する時間と燃焼時間との比(補正効果持続時間/燃焼時間)は10/40(=1/4)となるため、制御ゲインを補正したことによる効果は1/4の確率でしか効かないことになる。実際には、制御ゲイン補正の効果を3〜4燃焼サイクルの間は持続させることが望ましいため、制御時間を延ばす必要がある。本実施形態では、今回検出された目標回転速度Ntから今回演算された目標速度変動量dNtに減衰係数Katを乗算して減衰させた目標速度変動量dNt×
Katを減じたものを前回の目標回転速度Nt0として更新することにより、制御ゲイン補正の効果が効く時間を延ばすことができるようにしている。
【0057】
ステップ4で、新たに読み込んだ目標回転速度Ntを前回読み込まれた目標回転速度Nt0と比較した結果、目標回転速度が変化していないと判定された場合には、ステップ8に進んで、目標回転速度変動時制御ゲイン補正係数Cptを1とする。
【0058】
ステップ7又はステップ8を実行した後、
図4のステップ9に進む。ステップ9では、検出された回転速度Nから目標回転速度Ntを減じる演算を行って回転速度偏差dN(=N−Nt)を求める。
【0059】
ステップ9を行った後、ステップ10に進み、ステップ9で演算された回転速度偏差dNが正であるか負であるか(実回転速度Nが目標回転Ntよりも高いか低いか)を判定する。前述のように、回転速度偏差dNが正になる(実回転速度Nが目標回転Ntよりも高くなる)のは、目標回転速度が減少方向に変更された場合、負荷が減少したために回転速度にオーバーシュートが生じた場合、及び負荷が増加してアンダーシュートが生じた後の制御で操作量が過大であったために回転速度が過度に上昇した場合の3つの場合のうちのいずれかである。また回転速度偏差dNが負になる(実回転速度Nが目標回転Ntよりも低くなる)のは、目標回転速度が増加方向に変更された場合、負荷が増加したために回転速度にアンダーシュートが生じた場合、及び負荷が減少してオーバーシュートが生じた後の制御で操作量が過大であったために回転速度が過度に低下した場合の3つの場合のうちのいずれかの場合である。
【0060】
ステップ10で、回転速度偏差dNが正であると判定された場合には、ステップ11に進んで、ステップ2で演算された回転速度の今回の移動平均値Nvを、前回演算された回転速度の移動平均値Nv0に上昇判定係数kuを乗じて求めた上昇判定値Nv0×kuと比較することにより、エンジンの回転速度が上昇判定値よりも上昇しているか否かを判定する。ステップ11で今回演算された回転速度の移動平均値Nvが上昇判定値Nv0×kuよりも大きいと判定された場合(回転速度偏差dNが正で回転速度が上昇していると判定された場合)には、ステップ12で負荷が減少していて、負荷変動時の制御ゲインの補正が必要であると判定する。前回演算された回転速度の移動平均値Nv0に上昇判定係数kuを乗じた値Nv0×kuを上昇判定値とするのは、エンジンの回転速度が上昇したか否かの判定を確実に行わせるためである。
【0061】
ステップ10で回転速度偏差dNが負である(回転速度Nが目標回転速度Ntよりも低い)と判定された場合には、ステップ13に進んで、ステップ2で演算された回転速度の今回の移動平均値Nvを、前回演算された回転速度の移動平均値Nv0に低下判定係数kdを乗じて求めた低下判定値Nv0×kdと比較することにより、エンジンの回転速度が低下判定値よりも低下しているか否かを判定する。その結果、今回演算された回転速度の移動平均値Nvが低下判定値Nv0×kdよりも低いと判定された場合(回転速度偏差dNが負で回転速度が低下していると判定された場合)には、ステップ14で負荷が増加していて負荷変動時の制御ゲインの補正が必要であると判定する。前回演算された回転速度の移動平均値Nv0に低下判定係数kdを乗じた値Nv0×kdを低下判定値とするのは、エンジンの回転速度が低下したか否かの判定を確実に行わせるためである。
【0062】
ステップ13で今回演算された回転速度の移動平均値Nvが低下判定値Nv0×kdよりも低いと判定された場合(ステップ11及び13の条件が成立しない場合)には、回転速度偏差dNが負である(回転速度が目標回転速度よりも低い)にもかかわらず回転速度の移動平均値Nvが低下判定値Nv0×kdよりも高い状態であることから、エンジンの回転速度が目標回転速度に近づいていると判定できるので、ステップ15で負荷変動による制御ゲインの補正は不要であると判定する。
【0063】
ステップ12でエンジンの負荷が減少していて制御ゲインの補正が必要であると判定されたとき、及びステップ14で負荷が増加していて制御ゲインの補正が必要であると判定されたときには、ステップ16に移行して回転速度偏差dNに対して負荷変動時制御ゲイン補正係数演算用テーブルKp_variable(dN)を検索することにより、負荷変動時制御ゲイン補正係数Cplを演算する。またステップ15で負荷変動による制御ゲインの補正は不要であると判定されたときには、ステップ17で負荷変動時制御ゲイン補正係数Cplを1とする。
【0064】
ステップ16又は17を実行した後、ステップ18に進み、比例制御ゲインの基準値Kpに目標回転速度変動時制御ゲイン補正係数Cptと負荷変動時制御ゲイン補正係数Cplとを乗じる演算を行って操作量の演算に用いる比例制御ゲインKp(Kp×Cpl×Cpt)を求める。次いでステップ19に進み、補正された比例制御ゲインを用いてエンジンの回転速度を目標回転速度に収束させる比例制御を行わせてこのタスクを終了する。
【0065】
図3及び
図4に示したアルゴリズムによる場合には、ステップ4により目標速度変化判定手段8Aが、またステップ5により目標速度変動量演算手段8Bがそれぞれ構成され、ステップ6ないし8により目標速度変動時制御ゲイン補正係数演算手段8Cが構成される。更にステップ2により回転速度平均値演算手段8Dが構成され、ステップ10ないし15により負荷変動判定手段8Eが構成される。またステップ16により負荷変動時制御ゲイン補正係数演算手段8Fが構成され、ステップ18により制御ゲイン補正手段8Gが構成される。更にステップ9により回転速度偏差演算手段7が構成される。
【0066】
エンジンの回転速度を目標回転速度に収束させる制御を行わせるためには、上記の実施形態のように、PIDの3つの制御ゲインのうち、比例ゲインPのみを用いて、回転速度偏差に(1)式の右辺第1項の比例演算を施すことにより燃料調節部の操作量を演算して、比例制御(P制御)を行わせるだけでも十分であるが、比例ゲインPと積分ゲインIとを用いて(1)式の第1項と第2項とにより操作量を演算したり、比例ゲインPと微分ゲインDとを用いて(1)式の第1項と第3項とにより操作量を演算したり、比例ゲインPと積分ゲインIと微分ゲインDとを用いて(1)式の第1項ないし第3項により操作量を演算したりする場合もある。上記の実施形態では、比例ゲインPの設定を例にとったが、積分ゲイン及び微分ゲイン設定も上記実施形態と同様に行うことができる。
【0067】
図3のステップ4で行う目標回転速度の変化の有無の判定は、今回検出された目標回転速度Ntと前回の目標回転速度Nt0とが一致しているか否かを判定することによりおこなっているが、今回検出された目標回転速度Ntと前回検出された目標回転速度Nt0との間に一定値以上の差があった場合に目標回転速度が変化したと判定するようにしてもよい。
【0068】
図3のステップ7においては、今回検出された目標回転速度Ntから、目標回転速度の変化量dNtに係数Katを乗じたものを減算することにより減衰させた目標回転速度Nt0を前回検出された目標回転速度とするようにしているが、目標回転速度に変化があったことを一定時間の間保持して、制御ゲインを補正したことによる効果がエンジンの実際の回転速度の制御に確実に効くようにするためには、今回検出した目標回転速度を設定された割合で減衰させた目標回転速度を前回の目標回転速度として更新する(記憶させる)ようにすればよく、その減衰のさせかたは上記の実施形態で示したものに限定されない。例えば、前回検出されたことにする減衰された目標回転速度Nt0の演算は、今回検出された目標回転速度Ntから一定値を減算する方法により行ってもよく、指定回数で均等に減衰量を変化させる方法によってもよい。
【0069】
指定回数で均等に減衰量を変化させる方法により、減衰された目標回転速度Nt0を求める場合には、目標回転速度変化量をdNt1、減衰実行回数(タスクの実行回数)をn,減衰指定回数をnoとして、Nt0=Nt−dNt1×(no−n)/noの演算を行うことにより減衰実行回数nが1増加する毎に、減衰量を減少させ、no回減衰を実行したときにNt0の減衰量を0としてNt=Nt0とする。
【0070】
図5は、目標回転速度の減衰量を指定回数で均等に変化させる方法によった場合の減衰された目標回転速度Nt0の変化の一例を示したもので、この例ではno=5としてNtを5回に分けて均等に減衰させ、5回目に減衰量を0としてNt0=Ntとしている。
【0071】
図4のステップ10においては、回転速度偏差dNが正であるか否かを判定するようにしているが、回転速度偏差dNが設定された一定の正の判定値以上であるか否か及び回転速度偏差dNが設定された一定の負の判定値以下であるか否かを判定して、回転速度偏差dNが一定の正の判定値以上である場合にステップ11に進み、回転速度偏差dNが一定の負の判定値以下である場合にステップ13に進み、回転速度偏差dNが一定の正の判定値以上でもなく、一定の負の判定値以下でもない場合にステップ15に進むようにしても良い。