特許第5871190号(P5871190)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5871190サーミスタ用金属窒化物膜及びその製造方法並びにフィルム型サーミスタセンサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5871190
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】サーミスタ用金属窒化物膜及びその製造方法並びにフィルム型サーミスタセンサ
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/04 20060101AFI20160216BHJP
【FI】
   H01C7/04
【請求項の数】3
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-81107(P2012-81107)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-211434(P2013-211434A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2014年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 寛
(72)【発明者】
【氏名】藤田 利晃
(72)【発明者】
【氏名】長友 憲昭
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和崇
(72)【発明者】
【氏名】稲場 均
【審査官】 田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−319737(JP,A)
【文献】 特開平05−090011(JP,A)
【文献】 特開昭62−291001(JP,A)
【文献】 特開昭63−096262(JP,A)
【文献】 特開平06−158272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーミスタに用いられる金属窒化物膜であって、
一般式:TiAl(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、
その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相であり、
X線回折においてc軸配向(002)の回折ピーク強度に対するa軸配向(100)の回折ピーク強度のピーク比(a軸配向(100)の回折ピーク強度/c軸配向(002)の回折ピーク強度)が、0.1以下であることを特徴とするサーミスタ用金属窒化物膜。
【請求項2】
絶縁性フィルムと、
該絶縁性フィルム上に請求項1に記載のサーミスタ用金属窒化物膜で形成された薄膜サーミスタ部と、
少なくとも前記薄膜サーミスタ部の上又は下に形成された一対のパターン電極とを備えていることを特徴とするフィルム型サーミスタセンサ。
【請求項3】
請求項1に記載のサーミスタ用金属窒化物膜を製造する方法であって、
Ti−Al合金スパッタリングターゲットを用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って成膜する成膜工程を有し、
前記反応性スパッタにおけるスパッタガス圧を、0.41Pa以下に設定することを特徴とするサーミスタ用金属窒化物膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム等に非焼成で直接成膜可能なサーミスタ用金属窒化物膜及びその製造方法並びにフィルム型サーミスタセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
温度センサ等に使用されるサーミスタ材料は、高精度、高感度のために、高いB定数が求められている。従来、このようなサーミスタ材料には、Mn,Co,Fe等の遷移金属酸化物が一般的である(特許文献1及び2参照)。また、これらのサーミスタ材料では、安定なサーミスタ特性を得るために、600℃以上の焼成が必要である。
【0003】
また、上記のような金属酸化物からなるサーミスタ材料の他に、例えば特許文献3では、一般式:M(但し、MはTa,Nb,Cr,Ti及びZrの少なくとも1種、AはAl,Si及びBの少なくとも1種を示す。0.1≦x≦0.8、0<y≦0.6、0.1≦z≦0.8、x+y+z=1)で示される窒化物からなるサーミスタ用材料が提案されている。また、この特許文献3では、Ta−Al−N系材料で、0.5≦x≦0.8、0.1≦y≦0.5、0.2≦z≦0.7、x+y+z=1としたものだけが実施例として記載されている。このTa−Al−N系材料では、上記元素を含む材料をターゲットとして用い、窒素ガス含有雰囲気中でスパッタリングを行って作製されている。また、必要に応じて、得られた薄膜を350〜600℃で熱処理を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−226573号公報
【特許文献2】特開2006−324520号公報
【特許文献3】特開2004−319737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
近年、樹脂フィルム上にサーミスタ材料を形成したフィルム型サーミスタセンサの開発が検討されており、フィルムに直接成膜できるサーミスタ材料の開発が望まれている。すなわち、フィルムを用いることで、フレキシブルなサーミスタセンサが得られることが期待される。さらに、0.1mm程度の厚さを持つ非常に薄いサーミスタセンサの開発が望まれているが、従来はアルミナ等のセラミックス材料を用いた基板材料がしばしば用いられ、例えば、厚さ0.1mmへと薄くすると非常に脆く壊れやすい等の問題があったが、フィルムを用いることで非常に薄いサーミスタセンサが得られることが期待される。
しかしながら、樹脂材料で構成されるフィルムは、一般的に耐熱温度が150℃以下と低く、比較的耐熱温度の高い材料として知られるポリイミドでも200℃程度の耐熱性しかないため、サーミスタ材料の形成工程において熱処理が加わる場合は、適用が困難であった。上記従来の酸化物サーミスタ材料では、所望のサーミスタ特性を実現するために600℃以上の焼成が必要であり、フィルムに直接成膜したフィルム型サーミスタセンサを実現できないという問題点があった。そのため、非焼成で直接成膜できるサーミスタ材料の開発が望まれているが、上記特許文献3に記載のサーミスタ材料でも、所望のサーミスタ特性を得るために、必要に応じて、得られた薄膜を350〜600℃で熱処理する必要があった。また、このサーミスタ材料では、Ta−Al−N系材料の実施例において、B定数:500〜3000K程度の材料が得られているが、耐熱性に関する記述がなく、窒化物系材料の熱的信頼性が不明であった。
さらに、フィルムにサーミスタ材料層を成膜した場合、フィルムを曲げた際に、サーミスタ材料層にクラックが発生することがあり、信頼性が低下してしまう不都合があった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、フィルム等に非焼成で直接成膜することできると共に、耐屈曲性にも優れたサーミスタ用金属窒化物膜及びその製造方法並びにフィルム型サーミスタセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、窒化物材料の中でもAlN系に着目し、鋭意、研究を進めたところ、絶縁体であるAlNは、最適なサーミスタ特性(B定数:1000〜6000K程度)を得ることが難しいため、Alサイトを電気伝導を向上させる特定の金属元素で置換すると共に、特定の結晶構造とすることで、非焼成で良好なB定数と耐熱性とが得られることを見出した。また、特定の配向特性に設定して膜応力を制御することで、高い耐屈曲性が得られることも見出した。
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
【0008】
すなわち、第1の発明に係るサーミスタ用金属窒化物膜は、サーミスタに用いられる金属窒化物膜であって、一般式:TiAl(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相であり、X線回折においてc軸配向(002)の回折ピーク強度に対するa軸配向(100)の回折ピーク強度のピーク比(a軸配向(100)の回折ピーク強度/c軸配向(002)の回折ピーク強度)が、0.1以下であることを特徴とする。
このサーミスタ用金属窒化物膜では、一般式:TiAl(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相であるので、非焼成で良好なB定数が得られると共に高い耐熱性を有している。
また、X線回折においてc軸配向(002)の回折ピーク強度に対するa軸配向(100)の回折ピーク強度のピーク比(a軸配向(100)の回折ピーク強度/c軸配向(002)の回折ピーク強度)が、0.1以下であるので、膜応力が制御されて曲げに対してもクラックの発生を抑制することができる。
なお、上記ピーク比を0.1以下に設定した理由は、が0.1を超えると、折曲試験(直径6mmの曲率)1回でクラックが発生してしまうためである。
【0009】
なお、上記「y/(x+y)」(すなわち、Al/(Ti+Al))が0.70未満であると、ウルツ鉱型の単相が得られず、NaCl型相との共存相又はNaCl型相のみの相となってしまい、十分な高抵抗と高B定数とが得られない。
また、上記「y/(x+y)」(すなわち、Al/(Ti+Al))が0.95をこえると、抵抗率が非常に高く、きわめて高い絶縁性を示すため、サーミスタ材料として適用できない。
また、上記「z」(すなわち、N/(Ti+Al+N))が0.4未満であると、金属の窒化量が少ないため、ウルツ鉱型の単相が得られず、十分な高抵抗と高B定数とが得られない。
さらに、上記「z」(すなわち、N/(Ti+Al+N))が0.5を超えると、ウルツ鉱型の単相を得ることができない。このことは、ウルツ鉱型の単相において、窒素サイトにおける欠陥がない場合の正しい化学量論比は、N/(Ti+Al+N)=0.5であることに起因する。
【0010】
第2の発明に係るフィルム型サーミスタセンサは、絶縁性フィルムと、該絶縁性フィルム上に第1の発明のサーミスタ用金属窒化物膜で形成された薄膜サーミスタ部と、少なくとも前記薄膜サーミスタ部の上又は下に形成された一対のパターン電極とを備えていることを特徴とする。
すなわち、このフィルム型サーミスタセンサでは、絶縁性フィルム上に第1の発明のサーミスタ用金属窒化物膜で薄膜サーミスタ部が形成されているので、非焼成で形成され高B定数で耐熱性の高い薄膜サーミスタ部により、樹脂フィルム等の耐熱性の低い絶縁性フィルムを用いることができると共に、耐屈曲性に優れ良好なサーミスタ特性を有した薄型でフレキシブルなサーミスタセンサが得られる。
また、従来アルミナ等のセラミックスを用いた基板材料がしばしば用いられ、例えば、厚さ0.1mmへと薄くすると非常に脆く壊れやすい等の問題があったが、本発明においてはフィルムを用いることができるので、例えば、厚さ0.1mm以下の非常に薄いフィルム型サーミスタセンサを得ることができる。
【0011】
第3の発明に係るサーミスタ用金属窒化物膜の製造方法は、第1の発明のサーミスタ用金属窒化物膜を製造する方法であって、Ti−Al合金スパッタリングターゲットを用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って成膜する成膜工程を有し、前記反応性スパッタにおけるスパッタガス圧を、0.41Pa以下に設定することを特徴とする。
すなわち、このサーミスタ用金属窒化物膜の製造方法では、Ti−Al合金スパッタリングターゲットを用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って成膜するので、上記TiAlNからなる本発明のサーミスタ用金属窒化物膜を非焼成で成膜することができる。
また、反応性スパッタにおけるスパッタガス圧を、0.41Pa以下に設定するので、膜の表面に対して垂直方向にa軸よりc軸が強く配向し、0.1以下の上記ピーク比となる第1の発明に係るサーミスタ用金属窒化物膜の膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るサーミスタ用金属窒化物膜によれば、一般式:TiAl(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相であるので、非焼成で良好なB定数が得られると共に高い耐熱性を有している。また、X線回折においてc軸配向(002)の回折ピーク強度に対するa軸配向(100)の回折ピーク強度のピーク比が、0.1以下であるので、高い耐屈曲性を得ることができる。
また、本発明に係るサーミスタ用金属窒化物膜の製造方法によれば、Ti−Al合金スパッタリングターゲットを用いて、窒素含有雰囲気中でスパッタガス圧を、0.41Pa以下に設定した反応性スパッタを行って成膜するので、上記ピーク比が0.1以下のTiAlNからなる本発明のサーミスタ用金属窒化物膜を非焼成で成膜することができる。
さらに、本発明に係るフィルム型サーミスタセンサによれば、絶縁性フィルム上に本発明のサーミスタ用金属窒化物膜で薄膜サーミスタ部が形成されているので、樹脂フィルム等の耐熱性の低い絶縁性フィルムを用いて、耐屈曲性に優れ良好なサーミスタ特性を有した薄型でフレキシブルなサーミスタセンサが得られる。さらに、基板材料が、薄くすると非常に脆く壊れやすいセラミックス材料でなく、樹脂フィルムであることから、厚さ0.1mm以下の非常に薄いフィルム型サーミスタセンサが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るサーミスタ用金属窒化物膜及びその製造方法並びにフィルム型サーミスタセンサの一実施形態において、サーミスタ用金属窒化物膜の組成範囲を示すTi−Al−N系3元系相図である。
図2】本実施形態において、フィルム型サーミスタセンサを示す平面図である。
図3】本実施形態において、フィルム型サーミスタセンサの製造方法を工程順に示す平面図である。
図4】本発明に係るサーミスタ用金属窒化物膜及びその製造方法並びにフィルム型サーミスタセンサの実施例において、サーミスタ用金属窒化物膜の耐屈曲性試験を示す説明図である。
図5】サーミスタ用金属窒化物膜の反り測定方法において、屈曲用実施例を立設させた状態で上方から視た際の反りを示す説明図である。
図6】本発明に係る実施例において、材料学的な圧縮と引張とを示す説明図である。
図7】本発明に係るサーミスタ用金属窒化物膜及びその製造方法並びにフィルム型サーミスタセンサの実施例において、サーミスタ用金属窒化物膜の膜評価用素子を示す正面図及び平面図である。
図8】本発明に係る実施例・参考例及び比較例において、25℃抵抗率とB定数との関係を示すグラフである。
図9】本発明に係る実施例・参考例及び比較例において、Al/(Ti+Al)比とB定数との関係を示すグラフである。
図10】本発明に係る実施例において、Al/(Ti+Al)=0.84としたc軸配向が強い場合におけるX線回折(XRD)の結果を示すグラフである。
図11】本発明に係る参考例において、Al/(Ti+Al)=0.83としたa軸配向が強い場合におけるX線回折(XRD)の結果を示すグラフである。
図12】本発明に係る比較例において、Al/(Ti+Al)=0.60とした場合におけるX線回折(XRD)の結果を示すグラフである。
図13】a軸配向の強い参考例とc軸配向の強い実施例・参考例とを比較したAl/(Ti+Al)比とB定数との関係を示すグラフである。
図14】本発明に係るc軸配向が強い実施例を示す断面SEM写真である。
図15】本発明に係るa軸配向が強い参考例を示す断面SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るサーミスタ用金属窒化物膜及びその製造方法並びにフィルム型サーミスタセンサにおける一実施形態を,図1から図3を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図面では、各部を認識可能又は認識容易な大きさとするために必要に応じて縮尺を適宜変更している。
【0015】
本実施形態のサーミスタ用金属窒化物膜は、サーミスタに用いられる金属窒化物膜であって、一般式:TiAl(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系の結晶系であってウルツ鉱型(空間群P6mc(No.186))の単相である。すなわち、このサーミスタ用金属窒化物膜は、図1に示すように、Ti−Al−N系3元系相図における点A,B,C,Dで囲まれる領域内の組成を有し、結晶相がウルツ鉱型である金属窒化物である。
なお、上記点A,B,C,Dの各組成比(x、y、z)(原子%)は、A(15、35、50),B(2.5、47.5、50),C(3、57、40),D(18、42、40)である。
【0016】
また、このサーミスタ用金属窒化物膜は、例えば、図10に示すように、X線回折においてc軸配向(002)の回折ピーク強度に対するa軸配向(100)の回折ピーク強度のピーク比(a軸配向(100)の回折ピーク強度/c軸配向(002)の回折ピーク強度)が、0.1以下である。
すなわち、このサーミスタ用金属窒化物膜は、膜の表面に対して垂直方向にa軸よりc軸が強く配向している。さらに、このサーミスタ用金属窒化物膜は、膜の表面に対して垂直方向に延在している柱状結晶である。
【0017】
なお、膜の表面に対して垂直方向(膜厚方向)にa軸配向(100)が強いかc軸配向(002)が強いかの判断及びc軸配向(002)の回折ピーク強度に対するa軸配向(100)の回折ピーク強度のピーク比は、X線回折(XRD)を用いて結晶軸の配向性を調べることで、(100)(a軸配向を示すミラー指数)と(002)(c軸配向を示すミラー指数)とのピーク強度比から求める。
【0018】
次に、本実施形態のサーミスタ用金属窒化物膜を用いたフィルム型サーミスタセンサについて説明する。
本実施形態のフィルム型サーミスタセンサ1は、図2に示すように、絶縁性フィルム2と、該絶縁性フィルム2上にTiAlNのサーミスタ材料で形成された薄膜サーミスタ部3と、互いに対向した一対の対向電極部4aを薄膜サーミスタ部3上に配して絶縁性フィルム2上に形成された一対のパターン電極4とを備えている。
【0019】
上記一対の対向電極部4aは、互いが対向した間の領域を除く薄膜サーミスタ部3の表面を全て覆っている。
上記絶縁性フィルム2は、例えば厚さ7.5〜125μmのポリイミド樹脂シートで帯状に形成されている。なお、絶縁性フィルム2としては、他にPET:ポリエチレンテレフタレート,PEN:ポリエチレンナフタレート等でも構わない。
【0020】
上記パターン電極4は、薄膜サーミスタ部3上に形成された膜厚5〜100nmのCr又はNiCrの接合層と、該接合層上にAu等の貴金属で膜厚50〜1000nmで形成された電極層とを有している。
一対のパターン電極4は、互いに対向状態に配した櫛形パターンの一対の櫛形電極部である上記対向電極部4aと、これら対向電極部4aに先端部が接続され基端部が絶縁性フィルム2の端部に配されて延在した一対の直線延在部4bとを有している。
【0021】
また、一対の直線延在部4bの基端部上には、リード線の引き出し部としてAuめっき等のめっき部4cが形成されている。このめっき部4cには、リード線の一端が半田材等で接合される。さらに、めっき部4cを含む絶縁性フィルム2の端部を除いて該絶縁性フィルム2上にポリイミドカバーレイフィルム7が加圧接着されている。なお、ポリイミドカバーレイフィルム7の代わりに、ポリイミドやエポキシ系の樹脂材料を印刷で絶縁性フィルム2上に形成しても構わない。
【0022】
次に、このフィルム型サーミスタセンサ1の製造方法について、図3を参照して以下に説明する。
本実施形態のフィルム型サーミスタセンサ1の製造方法は、絶縁性フィルム2上に薄膜サーミスタ部3をパターン形成する薄膜サーミスタ部形成工程と、互いに対向した一対の対向電極部4aを薄膜サーミスタ部3上に配して絶縁性フィルム2上に一対のパターン電極4をパターン形成する電極形成工程とを有している。
【0023】
より具体的な製造方法の例としては、厚さ50μmのポリイミドフィルムの絶縁性フィルム2上に、Ti−Al合金スパッタリングターゲットを用い、窒素含有雰囲気中でメタルマスクを用いた反応性スパッタ法にて、TiAl(x=8、y=44、z=48)の薄膜サーミスタ部3を膜厚200nmで成膜する。その時のスパッタ条件は、到達真空度5×10−6Pa、スパッタガス圧0.41Pa以下、ターゲット投入電力(出力)300Wで、Arガス+窒素ガスの混合ガス雰囲気下において、窒素ガス分率を20%で作製した。
【0024】
これにより、図3の(a)に示すように、一辺1.6mmの正方形状の薄膜サーミスタ部3を形成する。
次に、薄膜サーミスタ部3及び絶縁性フィルム2上に、スパッタ法にて、Cr膜の接合層を膜厚20nm形成する。さらに、この接合層上に、スパッタ法にてAu膜の電極層を膜厚200nm形成する。
【0025】
次に、成膜した電極層の上にレジスト液をスピンコーターで塗布した後、110℃で1分30秒プリベークを行い、露光装置で感光後、現像液で不要部分を除去し、150℃5分のポストベークにてパターニングを行う。その後、不要な電極部分を市販のAuエッチャント及びCrエッチャントの順番でウェットエッチングを行い、図3の(b)に示すように、レジスト剥離にて所望のパターン電極4を形成する。この際、一対の対向電極部4aは、両者で外形が一辺1.0〜1.9mmの略正方形状とされ、薄膜サーミスタ部3が中央にくるように配されて、薄膜サーミスタ部3全体を覆ってパターン形成される。
【0026】
次に、図3の(c)に示すように、例えば厚さ20μmの接着剤付きのポリイミドカバーレイフィルム7を絶縁性フィルム2上に載せ、プレス機にて150℃,2MPaで10min加圧し接着させる。さらに、図2に示すように、直線延在部4bの端部を、例えばAuめっき液によりAu薄膜を2μm形成してめっき部4cを形成する。
なお、複数の温度センサ1を同時に作製する場合、絶縁性フィルム2の大判シートに複数の薄膜サーミスタ部3及びパターン電極4を上述のように形成した後に、大判シートから各フィルム型サーミスタセンサ1に切断する。
このようにして、例えばサイズを16×4.0mmとし、厚さを0.08mmとした薄いフィルム型サーミスタセンサ1が得られる。
【0027】
このように本実施形態のサーミスタ用金属窒化物膜では、一般式:TiAl(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系の結晶系であってウルツ鉱型の単相であるので、非焼成で良好なB定数が得られると共に高い耐熱性を有している。
また、X線回折においてc軸配向(002)の回折ピーク強度に対するa軸配向(100)の回折ピーク強度のピーク比(a軸配向(100)の回折ピーク強度/c軸配向(002)の回折ピーク強度)が、0.1以下であるので、膜応力が制御されて曲げに対してもクラックの発生を抑制することができる。
【0028】
さらに、このサーミスタ用金属窒化物膜では、膜の表面に対して垂直方向に延在している柱状結晶であるので、膜の結晶性が高く、高い耐熱性が得られる。
なお、このサーミスタ用金属窒化物膜では、膜の表面に対して垂直方向にa軸よりc軸を強く配向させているので、a軸配向が強い場合に比べて高いB定数が得られる。
【0029】
本実施形態のサーミスタ用金属窒化物膜の製造方法では、Ti−Al合金スパッタリングターゲットを用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って成膜するので、上記TiAlNからなる上記サーミスタ用金属窒化物膜を非焼成で成膜することができる。
また、反応性スパッタにおけるスパッタガス圧を、0.41Pa以下に設定することで、膜の表面に対して垂直方向にa軸よりc軸が強く配向し、0.1以下の上記ピーク比となるサーミスタ用金属窒化物膜の膜を形成することができる。
【0030】
したがって、本実施形態のフィルム型サーミスタセンサ1では、絶縁性フィルム2上に上記サーミスタ用金属窒化物膜で薄膜サーミスタ部3が形成されているので、非焼成で形成され高B定数で耐熱性の高い薄膜サーミスタ部3により、樹脂フィルム等の耐熱性の低い絶縁性フィルム2を用いることができると共に、耐屈曲性に優れ良好なサーミスタ特性を有した薄型でフレキシブルなサーミスタセンサが得られる。
【0031】
また、従来アルミナ等のセラミックスを用いた基板材料がしばしば用いられ、例えば、厚さ0.1mmへと薄くすると非常に脆く壊れやすい等の問題があったが、本発明においてはフィルムを用いることができるので、例えば、厚さ0.1mm以下の非常に薄いフィルム型サーミスタセンサを得ることができる。
【実施例】
【0032】
次に、本発明に係るサーミスタ用金属窒化物膜及びその製造方法並びにフィルム型サーミスタセンサについて、上記実施形態に基づいて作製した実施例により評価した結果を、図4から図15を参照して具体的に説明する。
【0033】
<屈曲試験>
上記実施形態に基づいて作製した屈曲用実施例のフィルム型サーミスタセンサに対して、半径6mmの曲率で凹と凸とに交互に100回ずつ屈曲試験を行い、試験後に薄膜サーミスタ部を観察し、クラックの有無を確認した。すなわち、図4の(a)に示すように、作製したフィルム型サーミスタセンサ1を、屈曲試験用治具20の台部20b上に立設された一対の挟持体20aの間に挟み、図4の(b)(c)に示すように、薄膜サーミスタ部3の領域について左に1回、右に1回曲げることを100回ずつ行う。なお、一対の挟持体20aは、それぞれ先端が半径6mmの曲率の断面円弧形状とされている。すなわち、挟持体20aの半径6mmの曲率になる先端に薄膜サーミスタ部が位置するようにフィルム型サーミスタセンサをセットして上記試験を行った。
上記クラックの有無については、絶縁性フィルム側から薄膜サーミスタ部を観察した。また、併せて試験前後における電気特性変化も評価した。これらの評価結果を表1に示す。
【0034】
また、屈曲用実施例について、膜応力を以下の計算式及び計算値に基づいて求めた。この結果も表1に示す。なお、下記式の基板は、絶縁性フィルムに相等する。
【数1】
【0035】
上記式の曲率半径は、絶縁性フィルム2の表面全体に薄膜サーミスタ部3を成膜しただけの反り用サンプル1Aを、図5に示すように、垂直に立設状態の平板部材21に沿って立設させ、成膜前後における平板部材21に対する両側部のたわみ距離a,bの平均から反り量及び曲率半径を算出した。
なお、求めた膜応力は、図6に示すように、圧縮の方向に力が加わる場合はマイナスで表記され、引張の方向に力が加わる場合はプラスで表記される。
【0036】
上記反り用サンプル1Aは、4インチ(101.6mm)サイズで、厚さ50μmのポリイミドフィルムの絶縁性フィルム2上の全面に、Ti−Al合金スパッタリングターゲットを用い、窒素含有雰囲気中でメタルマスクを用いた反応性スパッタ法にて、TiAl(x=8、y=44、z=48)の薄膜サーミスタ部3を膜厚200nmで成膜した。その時のスパッタ条件は、表1に示すように、到達真空度5×10−6Pa、スパッタガス圧0.13〜0.41Pa、ターゲット投入電力(出力)300Wで、Arガス+窒素ガスの混合ガス雰囲気下において、窒素ガス分率を20%で作製した。
【0037】
また、比較として、スパッタガス圧を0.45〜0.67Paに調整し、上記ピーク比が0.1を超える薄膜サーミスタ部を成膜したフィルム型サーミスタセンサの屈曲用比較例を作製し、同様に評価した。なお、各薄膜サーミスタ部の成膜時のスパッタガス圧等の成膜条件と、XRDにおける上記ピーク比とは、表1に示すとおりである。
この評価の結果、上記ピーク比が0.1を超える屈曲用比較例では、クラックが発生してしまっているのに対し、本発明の屈曲用実施例はいずれも膜応力が20MPa以下であり、クラックが生じていない。
【0038】
また、各屈曲用比較例では、抵抗値変化率及びB定数変化率が大きいのに対し、クラックの無い各屈曲用実施例は、抵抗値変化率が0.4%以下、B定数変化率が0.2%以下と、電気特性変化が小さく、曲げ性に対して優れていることが確認された。
【0039】
【表1】
【0040】
<膜評価用素子の作製>
本発明の実施例及び比較例として、図7に示す膜評価用素子121を次のように作製した。
まず、反応性スパッタ法にて、様々な組成比のTi−Al合金ターゲットを用いて、Si基板Sとなる熱酸化膜付きSiウエハ上に、厚さ500nmの表2に示す様々な組成比で形成されたサーミスタ用金属窒化物膜の薄膜サーミスタ部3を形成した。その時のスパッタ条件は、到達真空度:5×10−6Pa、スパッタガス圧:0.1〜1Pa、ターゲット投入電力(出力):100〜500Wで、Arガス+窒素ガスの混合ガス雰囲気下において、窒素ガス分率を10〜100%と変えて作製した。
【0041】
次に、上記薄膜サーミスタ部3の上に、スパッタ法でCr膜を20nm形成し、さらにAu膜を100nm形成した。さらに、その上にレジスト液をスピンコーターで塗布した後、110℃で1分30秒プリベークを行い、露光装置で感光後、現像液で不要部分を除去し、150℃で5分のポストベークにてパターニングを行った。その後、不要な電極部分を市販のAuエッチャント及びCrエッチャントによりウェットエッチングを行い、レジスト剥離にて所望の櫛形電極部124aを有するパターン電極124を形成した。そして、これをチップ状にダイシングして、B定数評価及び耐熱性試験用の膜評価用素子121とした。
なお、比較としてTiAlの組成比が本発明の範囲外であって結晶系が異なる比較例についても同様に作製して評価を行った。
【0042】
<膜の評価>
(1)組成分析
反応性スパッタ法にて得られた薄膜サーミスタ部3について、X線光電子分光法(XPS)にて元素分析を行った。このXPSでは、Arスパッタにより、最表面から深さ20nmのスパッタ面において、定量分析を実施した。その結果を表2に示す。なお、以下の表中の組成比は「原子%」で示している。
【0043】
なお、上記X線光電子分光法(XPS)は、X線源をMgKα(350W)とし、パスエネルギー:58.5eV、測定間隔:0.125eV、試料面に対する光電子取り出し角:45deg、分析エリアを約800μmφの条件下で定量分析を実施した。なお、定量精度について、N/(Ti+Al+N)の定量精度は±2%、Al/(Ti+Al)の定量精度は±1%ある。
【0044】
(2)比抵抗測定
反応性スパッタ法にて得られた薄膜サーミスタ部3について、4端子法にて25℃での比抵抗を測定した。その結果を表2に示す。
(3)B定数測定
膜評価用素子121の25℃及び50℃の抵抗値を恒温槽内で測定し、25℃と50℃との抵抗値よりB定数を算出した。その結果を表2に示す。
【0045】
なお、本発明におけるB定数算出方法は、上述したように25℃と50℃とのそれぞれの抵抗値から以下の式によって求めている。
B定数(K)=ln(R25/R50)/(1/T25−1/T50)
R25(Ω):25℃における抵抗値
R50(Ω):50℃における抵抗値
T25(K):298.15K 25℃を絶対温度表示
T50(K):323.15K 50℃を絶対温度表示
【0046】
これらの結果からわかるように、TiAlの組成比が図1に示す3元系の三角図において、点A,B,C,Dで囲まれる領域内、すなわち、「0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1」となる領域内の実施例全てで、抵抗率:100Ωcm以上、B定数:1500K以上のサーミスタ特性が達成されている。
【0047】
上記結果から25℃での抵抗率とB定数との関係を示したグラフを、図8に示す。また、Al/(Ti+Al)比とB定数との関係を示したグラフを、図9に示す。これらのグラフから、Al/(Ti+Al)=0.7〜0.95、かつ、N/(Ti+Al+N)=0.4〜0.5の領域で、結晶系が六方晶のウルツ鉱型の単一相であるものは、25℃における比抵抗値が100Ωcm以上、B定数が1500K以上の高抵抗かつ高B定数の領域が実現できている。なお、図9のデータにおいて、同じAl/(Ti+Al)比に対して、B定数がばらついているのは、結晶中の窒素量が異なるためである。
【0048】
表2に示す比較例3〜12は、Al/(Ti+Al)<0.7の領域であり、結晶系は立方晶のNaCl型となっている。また、比較例12(Al/(Ti+Al)=0.67)では、NaCl型とウルツ鉱型とが共存している。このように、Al/(Ti+Al)<0.7の領域では、25℃における比抵抗値が100Ωcm未満、B定数が1500K未満であり、低抵抗かつ低B定数の領域であった。
【0049】
表2に示す比較例1,2は、N/(Ti+Al+N)が40%に満たない領域であり、金属が窒化不足の結晶状態になっている。この比較例1,2は、NaCl型でも、ウルツ鉱型でもない、非常に結晶性の劣る状態であった。また、これら比較例では、B定数及び抵抗値が共に非常に小さく、金属的振舞いに近いことがわかった。
【0050】
(4)薄膜X線回折(結晶相の同定)
反応性スパッタ法にて得られた薄膜サーミスタ部3を、視斜角入射X線回折(Grazing Incidence X-ray Diffraction)により、結晶相を同定した。この薄膜X線回折は、微小角X線回折実験であり、管球をCuとし、入射角を1度とすると共に2θ=20〜130度の範囲で測定した。一部のサンプルについては、入射角を0度とし、2θ=20〜100度の範囲で測定した。
【0051】
その結果、Al/(Ti+Al)≧0.7の領域においては、ウルツ鉱型相(六方晶、AlNと同じ相)であり、Al/(Ti+Al)<0.65の領域においては、NaCl型相(立方晶、TiNと同じ相)であった。また、0.65< Al/(Ti+Al)<0.7においては、ウルツ鉱型相とNaCl型相との共存する結晶相であった。
【0052】
このようにTiAlN系においては、高抵抗かつ高B定数の領域は、Al/(Ti+Al)≧0.7のウルツ鉱型相に存在している。なお、本発明の実施例では、不純物相は確認されておらず、ウルツ鉱型の単一相である。
なお、表2に示す比較例1,2は、上述したように結晶相がウルツ鉱型相でもNaCl型相でもなく、本試験においては同定できなかった。また、これらの比較例は、XRDのピーク幅が非常に広いことから、非常に結晶性の劣る材料であった。これは、電気特性により金属的振舞いに近いことから、窒化不足の金属相になっていると考えられる。
【0053】
【表2】
【0054】
次に、本発明の実施例は全てウルツ鉱型相の膜であり、配向性が強いことから、Si基板S上に垂直な方向(膜厚方向)の結晶軸においてa軸配向性が強いか、c軸配向性が強いかであるかについて、XRDを用いて調査した。この際、結晶軸の配向性を調べるために、(100)(a軸配向を示すミラー指数)と(002)(c軸配向を示すミラー指数)とのピーク強度比を測定した。
【0055】
その結果、スパッタガス圧が0.67Pa未満で成膜された実施例は、(100)よりも(002)の強度が非常に強く、a軸配向性よりc軸配向性が強い膜であった。特に、スパッタガス圧が0.41Pa以下で成膜された実施例は、c軸配向(002)の回折ピーク強度に対するa軸配向(100)の回折ピーク強度のピーク比(a軸配向(100)の回折ピーク強度/c軸配向(002)の回折ピーク強度)が、0.1以下であった。
【0056】
一方、スパッタガス圧が0.67Pa以上で成膜された実施例は、(002)よりも(100)の強度が非常に強く、c軸配向よりa軸配向が強い材料であった。
なお、同じ成膜条件でポリイミドフィルムに成膜しても、同様にウルツ鉱型相の単一相が形成されていることを確認している。また、同じ成膜条件でポリイミドフィルムに成膜しても、配向性は変わらないことを確認している。
【0057】
c軸配向が強く上記ピーク比が0.1以下の実施例におけるXRDプロファイルの一例を、図10に示す。この実施例は、Al/(Ti+Al)=0.84(ウルツ鉱型、六方晶)であり、入射角を1度として測定した。この結果からわかるように、この実施例では、(100)よりも(002)の強度が非常に強くなっている。
また、a軸配向が強い参考例のXRDプロファイルの一例を、図11に示す。この実施例は、Al/(Ti+Al)=0.83(ウルツ鉱型、六方晶)であり、入射角を1度として測定した。この結果からわかるように、この参考例では、(002)よりも(100)の強度が非常に強くなっている。
【0058】
さらに、この参考例について、入射角を0度として、対称反射測定を実施した。この場合も、やはり(002)よりも(100)の強度が非常に強く、基板面に対して垂直な方向(膜厚方向)に対して、c軸配向よりもa軸配向が強かった。なお、グラフ中(*)は装置由来のピークであり、サンプル本体のピーク、もしくは、不純物相のピークではないことを確認している(なお、対称反射測定において、そのピークが消失していることからも装置由来のピークであることがわかる。)。
【0059】
なお、比較例のXRDプロファイルの一例を、図12に示す。この比較例は、Al/(Ti+Al)=0.6(NaCl型、立方晶)であり、入射角を1度として測定した。ウルツ鉱型(空間群P6mc(No.186))として指数付けできるピークは検出されておらず、NaCl型単独相であることを確認した。
【0060】
次に、ウルツ鉱型材料である本発明の実施例・参考例に関して、さらに結晶構造と電気特性との相関を詳細に比較した。
表3及び図13に示すように、Al/(Ti+Al)比がほぼ同じ比率のものに対し、基板面に垂直方向の配向度の強い結晶軸がc軸である材料(参考例5,実施例7,8,9)とa軸である材料(参考例19,20,21)とがある。
【0061】
これら両者を比較すると、Al/(Ti+Al)比が同じであると、a軸配向が強い材料よりもc軸配向が強い材料の方が、B定数が100K程度大きいことがわかる。また、N量(N/(Ti+Al+N))に着目すると、a軸配向が強い材料よりもc軸配向が強い材料の方が、窒素量がわずかに大きいことがわかる。理想的な化学量論比:N/(Ti+Al+N)=0.5であることから、c軸配向が強い材料のほうが、窒素欠陥量が少なく理想的な材料であることがわかる。
【0062】
【表3】
【0063】
<結晶形態の評価>
次に、薄膜サーミスタ部3の断面における結晶形態を示す一例として、熱酸化膜付きSi基板S上に成膜された実施例(Al/(Ti+Al)=0.84,ウルツ鉱型、六方晶、c軸配向性が強い)の薄膜サーミスタ部3における断面SEM写真を、図14に示す。また、参考例(Al/(Ti+Al)=0.83,ウルツ鉱型六方晶、a軸配向性が強い)の薄膜サーミスタ部3における断面SEM写真を、図15に示す。
これら実施例・参考例のサンプルは、Si基板Sをへき開破断したものを用いている。また、45°の角度で傾斜観察した写真である。
【0064】
これらの写真からわかるように、いずれの実施例・参考例も高密度な柱状結晶で形成されている。すなわち、c軸配向が強い実施例及びa軸配向が強い参考例の共に基板面に垂直な方向に柱状の結晶が成長している様子が観測されている。なお、柱状結晶の破断は、Si基板Sをへき開破断した際に生じたものである。
【0065】
<耐熱試験評価>
表4に示す実施例、参考例及び比較例において、大気中,125℃,1000hの耐熱試験前後における抵抗値及びB定数を評価した。その結果を表4に示す。なお、比較として従来のTa−Al−N系材料による比較例も同様に評価した。
これらの結果からわかるように、Al濃度及び窒素濃度は異なるものの、Ta−Al−N系である比較例と同じB定数で比較したとき、耐熱試験前後における電気特性変化でみたときの耐熱性は、Ti−Al−N系のほうが優れている。なお、参考例5,実施例8はc軸配向が強い材料であり、参考例21,24はa軸配向が強い材料である。両者を比較すると、c軸配向が強い実施例・参考例の方がa軸配向が強い参考例に比べて僅かに耐熱性が向上している。
【0066】
なお、Ta−Al−N系材料では、Taのイオン半径がTiやAlに比べて非常に大きいため、高濃度Al領域でウルツ鉱型相を作製することができない。TaAlN系がウルツ鉱型相でないがゆえ、ウルツ鉱型相のTi−Al−N系の方が耐熱性が良好であると考えられる。
【0067】
【表4】
【0068】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、薄膜サーミスタ部の上にパターン電極(対向電極部)を形成しているが、薄膜サーミスタ部の下にパターン電極を形成しても構わない。
【符号の説明】
【0069】
1…フィルム型サーミスタセンサ、2…絶縁性フィルム、3…薄膜サーミスタ部、4…パターン電極
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図1
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15