【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構、企業研究者活用型基礎研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アクセプター元素は、2族元素及び13族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有し、前記ドナー元素は、15族元素及び16族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有することを特徴とする請求項3に記載のグラフェン基板の製造方法。
前記金属層は、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、Cd(カドミウム)及びHg(水銀)からなる群から選ばれる少なくとも1つを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のグラフェン基板の製造方法。
前記耐熱材料は、酸化物、窒化物、炭化物、フッ化物、雲母、及びダイヤモンドの内から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のグラフェン基板の製造方法。
前記炭素含有層は、炭素同素体、低分子有機化合物、人工高分子有機化合物、天然高分子有機化合物及び炭素を含む無機化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のグラフェン基板の製造方法。
前記炭素同素体は、無定形炭素、ガラス状炭素、結晶性グラファイト、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、フラーレン、ダイヤモンド、ナノダイヤモンドの内の少なくとも一種を含み、
前記低分子有機化合物は、メタロセン、ナフタレン、アントラセン、及びペンタセンの内の少なくとも一種を含み、
前記人工高分子有機化合物は、テフロン、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、ポリエチレンの内の少なくとも一種を含み、
前記天然高分子有機化合物は、タンパク質、核酸、脂質、及び多糖類の内の少なくとも一種を含み、
前記炭素を含む無機化合物は、炭化ケイ素(SiC)、炭化ホウ素(B4C)、炭化アルミニウム(Al4C3)、炭化チタン(TiC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化ハフニウム(HfC)、炭化バナジウム(VC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化タンタル(TaC)、炭化クロム(CrC)、炭化モリブデン(MoC)、炭化タングステン(WC)、窒化炭素(C3N4)、及び窒化炭素ホウ素(BCN)の内の少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項11に記載のグラフェン基板の製造方法。
前記(a)工程は、ホルダの中に前記炭素含有層を配置し、前記基板の上にスペーサを配置し、前記スペーサ内に前記金属層を配置し、その上に前記耐熱材料層を配置してから、前記金属層を加熱することで前記金属層中に前記炭素含有層中の炭素を溶解させることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載のグラフェン基板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
現在の情報化社会を支えるのはシリコンをベースとしたCMOS(相補型金属酸化物半導体)に代表される半導体素子である。これまで、シリコン半導体産業は、リソグラフィー技術、エッチング技術、成膜技術などの微細加工技術の適用範囲をマイクロメートルから数十ナノメートルまで継続的に引き下げることで微細化を果たし、高集積化と高性能化を同時に実現してきた。
【0003】
近年、半導体チャネルとして働くシリコン層の薄さは原子層レベルに達しようとしており、その材料的・物理的限界が指摘されている。
【0004】
究極の薄さである2次元原子層薄膜でありながら、化学的にも熱力学的にも安定なグラフェンはこの要請に応える大きな潜在性を秘める新規半導体材料であり、それらの優れた物性を活用することで、既存素子の性能を凌駕する新素子が実現できる可能性がある。
【0005】
グラフェンはsp
2混成の炭素のみで構成される層状物質であるグラファイトを1層だけ取り出したものであり、前述の通り、化学反応に対して非常に堅牢であり、また、熱力学的にも安定な単原子層平面物質である。
【0006】
グラフェンの構造は、炭素原子を頂点とする正6角形の六炭素環を隙間なく敷き詰めた蜂の巣(ハニカム
:honeycomb)状の(擬)2次元シートで、炭素−炭素間距離は約1.42オングストローム(0.142nm)、層の厚さは、下地がグラファイトならば、3.3〜3.4オングストローム(0.33〜0.34nm)、その他の基板上では10オングストローム(1nm)程度である。
【0007】
グラフェン平面の大きさは、一片の長さがナノメートルオーダーの分子サイズから理論上は無限大まで、様々なサイズを想定することが出来る。通常、グラフェンは1層のグラファイトを指すが、層数が2層以上のものを含む場合も多い。
【0008】
その場合、1層、2層、3層のものは、それぞれ、単層(モノレイヤー
:monolayer)グラフェン、2層(バイレイヤー
:bilayer)グラフェン、3層(トリレイヤー
:trilayer)グラフェンと呼ばれ、10層程度までのものをまとめて数層(フューレイヤー
:few−layer)グラフェンと呼ぶ。また、単層グラフェン以外は多層グラフェンと言い表す。
【0009】
グラフェンの電子状態は低エネルギー領域においてディラック方程式で記述できる(非特許文献1、参照)。この点、グラフェン以外の物質の電子状態がシュレディンガー方程式で良く記述されるのと好対照である。
【0010】
グラフェンの電子エネルギーはK点近傍で波数に対して線形の分散関係を持ち、より詳しくは、伝導帯と荷電子帯に対応する正と負の傾きを持つ2つの直線で表現できる。それらが交差する点はディラックポイントと呼ばれ、そこでグラフェンの電子は有効質量ゼロのフェルミオンとして振舞うという特異な電子物性を持つ。これに由来して、グラフェンの移動度は10
7cm
2V
−1s
−1以上という既存物質中で最高の値を示し、しかも温度依存性が小さいという特長を持つ。
【0011】
単層グラフェンは基本的にバンドギャップがゼロの金属もしくは半金属である。しかしながら、大きさがナノメートルオーダーになるとバンドギャップが開き、グラフェンの幅と端構造に依存して、有限のバンドギャップを持つ半導体となる。また、2層グラフェンは摂動なしではバンドギャップがゼロであるが、2枚のグラフェン間の鏡面対称性を崩すような摂動、例えば、電界を加えると、電界の大きさに応じて有限のギャップを持つようになる。
【0012】
例えば、3Vnm
−1の電界でギャップは0.25eV程度開く。3層グラフェンの場合は伝導帯と荷電子帯が30meV程度の幅で重ね合わさる半金属的な電子物性を呈する。伝導帯と荷電子帯が重なるという点はバルクのグラファイトに近い。4層以上のグラフェンも半金属的物性を呈し、層数が増えるに従って、バルクのグラファイトの電子物性に漸近して行く。
【0013】
また、グラフェンは機械的特性にも優れ、グラフェンの1層のヤング率は2TPa(テラパスカル)と跳びぬけて大きい。引っ張り強度は既存物質中最高レベルである。
【0014】
その他、グラフェンは独特の光学特性を持つ。例えば、紫外光領域(波長:〜200nm)からテラヘルツ光近傍領域(波長:〜300μm)までの幅広い電磁波領域において、グラフェンの透過率は、1−nα(n:グラフェンの層数、n=1〜10程度、α:微細構造定数、α=e
2/2hcε
0=0.0229253012、e:電気素量、h:プランク定数、ε
0:真空の誘電率)と、グラフェンの物質定数ではなく、基本物理定数のみで表される。これは他の物質材料では見られない、グラフェン特有の特徴である。
【0015】
さらに、グラフェンの透過率と反射率はテラヘルツ光領域でキャリア密度依存性を示す。これは電界効果に基づいてグラフェンの光学特性を制御できることを意味する。他の2次元原子層薄膜も次元性に基づく特異な物性を持つことが知られている。
【0016】
上述の如く、グラフェンの例外的な電子物性や光学特性、優れた機械的特性や化学的特性を持つことから、化学からエレクトロニクスまで幅広い産業分野での利用が期待される。特に、次世代エレクトロニクス、スピントロニクス、オプトエレクトロニクス、マイクロ・ナノメカニクス、バイオエレクトロニクス分野の半導体装置や微小機械装置への展開が世界各国で進められている。他の2次元原子層薄膜に関してもグラフェン同様、産業利用を目的とした研究開発が活発に行われている。
【0017】
グラフェンを電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor:FET)のチャネルなど、半導体装置に利用する場合、グラフェンを支持する基板(グラフェン基板)が必要である。
【0018】
従来技術のグラフェン基板の製造方法は以下の4つの方法が用いられてきた。
即ち、(1)剥離による製造方法(非特許文献2、参照)、(2)CVDによる製造方法(熱分解気相成長)(非特許文献3、参照)、(3)SiC(炭化ケイ素)の熱分解による製造方法(非特許文献4、参照)、(4)ガリウム・アモルファス炭素界面成長による製造方法(特許文献1および非特許文献5、参照)の4つの製造方法である。
【0019】
前述した(1)の剥離による製造方法は天然グラファイトやHOPG(Highly Oriented Pyrolytic Graphite
:高配向熱分解黒鉛)などグラファイト結晶から粘着テープでグラファイト・グラフェン片を剥ぎ取り、基板に貼り付けるという方法である。
【0020】
また、前述した(2)のCVDによる製造方法は、金属触媒を蒸着した基板もしくは金属触媒として働くフォイル(箔)上でメタンなどの炭化水素を熱分解もしくはプラズマ分解してグラフェンを成長させた後、不要になった金属触媒を酸等で除去し、別の基板にグラフェンを転写する方法である。
【0021】
さらに、前述した(3)のSiC(炭化ケイ素)の熱分解による製造方法は、SiC基板を高温(〜1600℃)で熱処理し、基板表面のシリコン原子を飛ばしつつ、同基板上で炭素原子を凝集しグラフェンを成長させる方法である。
【0022】
また、前述した(4)のガリウム・アモルファス炭素界面成長による製造方法は、基板上に蒸着したアモルファス炭素層に上方から液体ガリウム層を高温(〜1000℃)で接触させることで、界面反応によりアモルファス炭素上にグラフェンを成長させる。別な基板に、このガリウム層/グラフェン層/アモルファス炭素層の複合層を転写し、ガリウムを酸で溶解することで、グラフェン層/アモルファス炭素層の複合層を得るという方法である。前述した(4)の方法によると、1回の転写ではアモルファス炭素層/グラフェン層/基板という順序になるので、素子作製上の要請からグラフェンを最上層にする。すなわち、グラフェン層/アモルファス層/基板の順序にするには、さらにもう1回、合計2回の転写が必要となる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面に基づいて本発明に実施の形態を詳細に説明する。
【0037】
まず、第1の実施形態に係るグラフェン基板の製造方法の概略について、
図1(a)乃至(e)を参照しながら説明する。
【0038】
第1に、
図1(a)に示すように、金属層2を成長用基板1と炭素含有層3の間に挟んで配置することにより、成長用基板1/金属層2/炭素含有層3の3層構造を形成する。なお、3層構造の順序が逆、すなわち、炭素含有層3/金属層2/成長用基板1でも後述する効果は同じである。
【0039】
ここで、炭素含有層3は炭素5以外の元素6を含んでいてもよく、また、炭素5のみで構成されていてもよい。
【0040】
第2に、上記の3層構造を適当な温度で加熱する。すると、
図1(b)に示すように、金属層2は液体となり、炭素含有層3の表層から炭素5とその他の元素6が金属層2に溶解し出す。適当な時間が経過すると、最終的に、
図1(c)で示すように、炭素含有層3の全体が金属層2に溶解する。
即ち、金属層2は液体状態で炭素5を溶解するためのフラックスとして働く。
【0041】
ここで、金属層2としては、高温でも炭素固溶度が著しく低いもの、具体的には炭素固溶度がppmレベルのものを用いる。一般に、炭素難溶金属の炭素固溶度は知られていないが、経験上、800℃の温度で、0.1〜10ppmの範囲と推定している。
【0042】
このことにより、炭素含有層3に炭素5以外の元素6が含まれていたとしても、著しく低い炭素固溶度が律速となって、その他の元素6も極微量しか金属層2へ溶解しない。
【0043】
第3に、炭素5が極微量溶解した金属層2を冷却する。すると、
図1(d)に示すように、金属層2の炭素固溶度が減少し、過飽和状態となるため、炭素5は金属層2に接触する任意の表面に析出し始める。適当な時間が経過すると、
図1(e)に示すように、最終的に、炭素5はグラフェン9として成長用基板1の表面に結晶化する。即ち、炭素含有層中3の炭素5がグラフェン9の原料である。
【0044】
上記のグラフェン成長に関し、冷却時、金属層2中の炭素5が、2次元構造を持つグラフェン9として析出し、無定形のアモルファス炭素として析出しないのは、フラックスである金属層2がグラフェン形成の触媒として働くという効果のためであると考えられる。
【0045】
また、成長用基板2の表面が平滑であることや、成長用基板2とグラフェン構造の表面構造が格子整合することがグラフェン9の層成長を促進する働きがあると考えられる。
【0046】
なお、
図1(d)の冷却時に、その他の元素6は通常析出しない。これは、炭素以外の元素の場合、例えば、その他の元素が金属元素である場合、金属層2に対する固溶度が室温でも%レベルであるため、過飽和とならないためである。また、その他の元素6が水素、酸素、窒素などの軽元素の場合、金属層2に対する固溶度が高いということに加え、加熱溶解後、一部が気体となって金属層2より放出されるためと考えられる。
【0047】
そのため、グラフェン9のみを選択的に成長用基板1の表面に介在物無しで直接形成することが可能となる。
【0048】
以上が、本発明で示されるフラックス法によるグラフェン基板の製造方法の概略である。
【0049】
次に、
図2を参照してグラフェン基板10(10a,10b,10c…の総称)の製造方法をより具体的に説明する。
なお、図2において、符号10に追加した異なるアルファベット記号は、基板が互いに同一ではないか、または、同一の基板であっても、異なる材料で構成されている基板を示している。
【0050】
第1に、
図2(a)に示すように、原料用基板4を用意する。原料用基板4は、グラフェン製造のための炭素含有層3を保持する働きがある。なお、後述するように、グラフェン9を成長させる基板としても働く場合があり、グラフェン9を伴うことでグラフェン基板10bを構成する。
【0051】
原料用基板4の材料としては耐熱性のある材料から選択可能であり、主に以下の5つの群から選ばれる少なくとも1つが選択される。
【0052】
第1群は、石英(SiO
2)、アルミナやサファイア(Al
2O
3)、酸化チタン(TiO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ニッケル(NiO)、ジルコニア(ZrO
2)、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)、タンタル酸リチウム(LiTaO
3)などの酸化物である。
【0053】
第2群は、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、窒化炭素(C
3N
4)、窒化炭素ホウ素(BCN)などの窒化物である。
【0054】
第3群は、炭化ケイ素(SiC)、炭化ホウ素(B
4C)、炭化アルミニウム(Al
4C
3)、炭化チタン(TiC)、炭化ジルコニウム(ZrC)。炭化ハフニウム(HfC)、炭化バナジウム(VC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化タンタル(TaC)、炭化クロム(CrC)、炭化モリブデン(MoC)、炭化タングステン(WC)などの炭化物である。
【0055】
第4群は、フッ化バリウム(BaF
2)、フッ化カルシウム(CaF
2)、フッ化マグネシウム(MgF
2)などのフッ化物である。
【0056】
第5群は、雲母(マイカ)、ダイヤモンドなどのその他の耐熱材料である。
【0057】
なお、後述するように、第3群ならびに第5群のダイヤモンドはそれ自体が炭素含有層3の材料として利用できる。
【0058】
但し、炭素含有層3が自らを保持する基板として働く場合、原料基板4は必ずしも必要でない。なお、原料用基板4の表面は適当な方法で予め清浄しておく。
【0059】
第2に、
図2(b)に示すように、炭素含有層3を原料用基板4の表面に配置する。炭素含有層3はグラフェン製造で炭素供給のための原料として働く。
【0060】
炭素含有層3の材料としては、基本的に炭素を含有する物質であれば何れも使用可能であり、主に以下の5つの群から選ばれる少なくとも1つが選択される。
【0061】
第1群は、無定形炭素、ガラス状炭素、結晶性グラファイト、単層ならびに多層カーボンナノチューブ、C
60やC
70に代表されるフラーレン、ダイヤモンド、ナノダイヤモンドなどの炭素同素体である。
【0062】
第2群は、メタロセン、ナフタレン、アントラセン、ペンタセンなどの低分子有機化合物である。
【0063】
第3群は、テフロン(登録商標)、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、ポリエチレンなどの人工高分子有機化合物である。
【0064】
第4群は、タンパク質、核酸、脂質、多糖類などの天然高分子有機化合物である。
【0065】
第5群は、炭化ケイ素(SiC)、炭化ホウ素(B
4C)、炭化アルミニウム(Al
4C
3)、炭化チタン(TiC)、炭化ジルコニウム(ZrC)
、炭化ハフニウム(HfC)、炭化バナジウム(VC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化タンタル(TaC)、炭化クロム(CrC)、炭化モリブデン(MoC)、炭化タングステン(WC)、窒化炭素(C
3N
4)、窒化炭素ホウ素(BCN)などの炭素を含む無機化合物である。なお、炭素含有層3の材料の選択に関して以下のことが経験上分かっている。
【0066】
炭素含有層3の材料として使用する材料中の炭素含有率が高いほど、品質の良いグラフェンが得られる傾向がある。炭素の原子比率が20%を切ると、炭素以外の元素がグラフェンの品質に悪影響を及ぼす傾向が見受けられる。従って、炭素含有層3の材料は、炭素の原子比率が20%以上の物質が望ましい。特に、上記第1群の炭素同素体材料はほぼ純粋な炭素のみで構成されているので、炭素含有層3の材料として優れている。
【0067】
炭素含有層3の形成方法は以下の通りである。
炭素含有層3は必ずしも均一な膜である必要はない。すなわち、原料用基板4の表面に局所的に配置されているだけで十分である。なぜなら、前述の通り、炭素含有層3は金属層2へ溶解する炭素5を供給するだけで、グラフェン9の成長には直接関係しないからである。
【0068】
但し、金属層2中への炭素5の溶解の容易性や溶解後の炭素濃度の均一性を考慮すると、炭素含有層3は、ある程度均一な膜であることが望ましい。
【0069】
均一な膜の製造方法としては、炭素含有材料の性質や形状に応じて、主に、次の3つの方法が挙げられる。
【0070】
第1の方法は、真空蒸着法、分子線蒸着法、イオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法、化学蒸着法、スパッター法などの乾式製膜法である。これらの方法は、上記第1群から第5群まで幅広い炭素含有材料について利用可能である。この方法は、装置コストが嵩むという短所があるが、極薄で均一な製膜が行えるという長所がある。
【0071】
第2の方法は、滴下法、スピンコート法、ディップコート法などの湿式製膜法である。上記第2群から第4群に属する炭素含有化合物は殆どが溶媒に可溶であるので、それらの溶液を調整することで、この方法が利用可能である。また、上記第1群と第5群に属する固体系炭素含有材料の場合は、その微粒子や粉体を溶媒に懸濁させることで、この方法が利用可能である。この第2の方法は、低コストで、かつ適用できる炭素含有材料範囲が広いという特長を持つ。
【0072】
第3の方法は、吹付塗布法、エアースプレー塗布法、電着塗布法、静電塗布法などである。これらの方法は炭素含有材料の付着能力や表面電位に依存するため、適用できる炭素含有材料範囲が限られるという難点があるが、大面積の均一な膜を製造するのに特に適している。
【0073】
第3に、
図2(c)で示すように、金属層2を炭素含有層3上に密着して配置する。前述の通り、金属層2は炭素5を融解させるフラックスとしての役割がある。また、前述の通り、金属層2としては、炭素固溶度がppmレベルのものを用いる。
【0074】
このような、炭素固溶度が非常に低い金属を使用することは、グラファイトではなく、極薄の原子層薄膜であるグラフェンを形成する上で必須条件である。
【0075】
このような金属としては、例えばガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、タリウム(Tl)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)の群から選ばれる少なくとも1つを用いることが出来る。
【0076】
但し、環境や人体への影響を考慮に入れると、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、ビスマス(Bi)の単体、もしくはそれらの合金の使用が望ましい。この中で、ガリウムは液体状態の温度範囲が29.8〜2403℃と単体元素中で最も広く、高温となっても蒸気圧がかなり低い(例えば、800℃で10
−3Pa)という特徴を有する。これらの特徴はフラックスとして働く温度範囲が非常に広く、加熱時に蒸発による消失が非常に少ないということを意味するので、ガリウムおよびその合金は金属層
2の材料として特に優れている。
【0077】
なお、金属層2と炭素含有層3の密着工程を室温で行う場合、金属層2の材料金属は室温付近で液体であるものが扱い易い。
【0078】
例えば、室温付近で液体である金属としては、ガリウム・インジウム合金(融点:15.7℃程度)、ガリウム・インジウム・スズ合金(融点:19℃)、ガリウム・アルミニウム合金(融点:26.5℃)、ガリウム(融点:29.8℃)、ビスマス・鉛・スズ・カドミウム・インジウム合金(融点:46.7℃程度)などが挙げられる。
【0079】
ただし、適当な加熱のもとで密着工程を扱う場合は、必ずしも室温付近の融点を持つ金属を用いる必要はない。
【0080】
第4に、
図2(d)に示すように、成長用基板1を金属層2上に密着して配置する。以上より、原料用基板4/炭素含有層3/金属層2/成長用基板1の4層構造が形成される。なお、4層構造の順序が逆、すなわち、成長用基板1/金属層2/炭素含有層3/原料用基板4でも効果は同じである。なお、前述の通り、炭素含有層3が自らを保持する基板として働く場合、原料基板4は必ずしも必要でない。
【0081】
従って、原料基板4がない場合は3層構造である。成長用基板1はグラフェン9をその表面に成長させる基板として働き、グラフェン9を伴うことでグラフェン基板10aを構成することになる。
【0082】
ここで、成長用基板1の材料としては、原料用基板4の材料と同様、耐熱性のある材料から選択可能であり、主に以下の5つの群から選ばれる少なくとも1つが選択される。
【0083】
第1の群は、石英(SiO
2)、アルミナやサファイア(Al
2O
3)、酸化チタン(TiO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ニッケル(NiO)、ジルコニア(ZrO
2)、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)、タンタル酸リチウム(LiTaO
3)などの酸化物である。
【0084】
第2の群は、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、窒化炭素(C
3N
4)、窒化炭素ホウ素(BCN)などの窒化物である。
【0085】
第3の群は、炭化ケイ素(SiC)、炭化ホウ素(B
4C)、炭化アルミニウム(Al
4C
3)、炭化チタン(TiC)、炭化ジルコニウム(ZrC)。炭化ハフニウム(HfC)、炭化バナジウム(VC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化タンタル(TaC)、炭化クロム(CrC)、炭化モリブデン(MoC)、炭化タングステン(WC)などの炭化物である。
【0086】
第4の群は、フッ化バリウム(BaF
2)、フッ化カルシウム(CaF
2)、フッ化マグネシウム(MgF
2)などのフッ化物である。
【0087】
第5の群は、雲母(マイカ)、ダイヤモンドなどのその他の耐熱材料である。
【0088】
なお、グラフェン基板10を電子デバイス作製のための基板として使用するという観点からすると、成長用基板1は絶縁体であることが必要条件となる。上記の5つの群の内、第3群に属する炭化物には、金属的性質を持つものが一部含まれるが、それ以外は基本的に絶縁体であるので、殆どの場合で電子デバイス製造用途に使用可能である。
【0089】
次に、成長用基板1の平坦性について述べる。
また、高品質なグラフェンを得るためには、成長用基板1はグラフェンを成長させる所望の平面内において平坦であることが望ましい。平坦性の観点からすると、成長用基板1として、単結晶基板もしくは単結晶を表面に製膜した基板が特に適している。
【0090】
ここで「高品質なグラフェン」とは結晶性の高いグラフェンを意味する。
具体的には、ラマン分光で得られるDバンドとGバンドの比であるD/G比が小さいグラフェンが高品質である。D/G比は出来るだけ小さいほうが良く、D/G比≦0.2が望ましい。
【0091】
なお、Dバンド
(disorder band
)は、1350cm
−1付近に現れる欠陥構造に由来するラマンバンド、Gバンド
(graphite band
)は、〜1580cm
−1付近に現れる理想結晶におけるC−C結合の全対称伸縮振動に由来するラマンバンドある。
【0092】
また、グラフェン品質の極限を考えると、最高品質は、無欠陥の完全結晶で、D/G比=0、最低品質は、アモルファス(無定形)で、D/G比≧1となる。
【0093】
成長用基板1の平坦性を向上させる方法としては、基板の性質や形状に応じて、次の4つの方法が挙げられる。
【0094】
第1の方法は、真空加熱処理、水素プラズマ処理などの乾式エッチング法である。この方法は装置コストが嵩むという短所があるが、クリーンで精度の高い平坦性が確保できる。
【0095】
第2の方法は、フッ酸(HF)処理、リン酸(H
3PO
4)処理などの湿式エッチング法である。この方法は簡便で低コストである利点がある。
【0096】
以上の2つの方法は基板全面の平坦性を得る目的のほか、表面に3次元的な構造を持つ基板に対して局所的な平坦性を向上させる目的にも使用できる。
【0097】
第3の方法は、ラップ研磨、光学研磨、化学機械研磨(CMP
:Chemical Mechanical Polishing)などが挙げられる。この方法は基板全面の平坦性を確保するのに適している。特にCMPを用いれば原子レベルの平坦性が得られる。
【0098】
第4の方法は、グラフェン構造と格子整合性が高い基板表面を利用する方法である。この場合、特に高品質なグラフェンが得られる。この条件を満たす基板としては、六方晶系窒化ホウ素(helagonal boron nitride
:h−BN)の単結晶が挙げられる。
なお、成長用基板1の表面は適当な方法で予め清浄しておく。
【0099】
第5に、加熱を行うと、
図2(e)に示すように、炭素含有層3の表面から、炭素5とその他の元素6が金属層2に溶解する。
【0100】
加熱は、金属層2や炭素含有層3の酸化など望ましくない化学反応を防ぐために、真空下または不活性ガス気流下で行うことが好ましい。
【0101】
加熱する手段としては、次の3つの方法が挙げられる。
【0102】
第1の方法は、電気炉、赤外線ランプによる加熱方法である。この場合、上述の原料用基板4/炭素含有層3/金属層2/成長用基板1の4層構造全体が加熱される。この方法は簡便で低コストという利点がある。
【0103】
第2の方法は、高周波誘導加熱装置を用いる加熱方法である。この場合、炭素含有層3が導体でない場合は金属層2のみ、炭素含有層3がグラファイト系炭素である場合は、金属層2と炭素含有層3のみが選択的に加熱される。しかし、原料用基板4/炭素含有層3/金属層2/成長用基板1の4層構造は密着しているので、金属層2からの熱伝導により、原料用基板4、炭素含有層3、成長用基板1も間接的に加熱される。この方法は装置コストが嵩むという短所があるが、急熱・急冷を実行できるほか、局所的な加熱なのでエネルギーコストを低減できる長所がある。
【0104】
第3の方法は、マイクロ波誘電加熱装置を利用する加熱方法である。この場合、金属層2もしくは金属層2と炭素含有層3以外の誘電体部分、すなわち、原料用基板4、成長用基板1、後述の
図3のホルダ11、スペーサ12、フタ13などの4層構造を収める容器が選択的に加熱される。しかし、誘導加熱の場合と同じ理由で、金属層2もしくは金属層2と炭素含有層3も間接的に加熱される。第2の方法と同様に、この方法は装置コストが嵩むという短所があるが、急熱・急冷を実行できるほか、局所的な加熱なのでエネルギーコストを低減できる長所がある。
【0105】
加熱温度の条件は次の通りである。
加熱する温度は、600℃以上が必要で、800℃以上が望ましく、1000℃以上がより好ましい。なお、600℃という温度範囲の下限は、グラフェン化に最低限必要な温度に対応する。また、加熱温度を800℃以上にすると、D/G比≦0.2である、高品質なグラフェンを形成することが可能である。さらに、加熱温度を1000℃以上にすると、D/G比≦0.1である、特に高品質なグラフェン9を得ることが出来る。
【0106】
第6に、冷却すると、
図2(f)に示すように、金属層2に溶解した炭素5が、金属層2に接する、成長用基板1と原料用基板4の双方の表面に析出しはじめ、最終的には、
図2(g)に示すように、グラフェン9が双方の基板上に直接形成される。
【0107】
この際、前述の通り、金属層2に溶解したその他の元素6は過飽和とならないので、通常は析出せず、グラフェン9のみが介在物なしで成長用基板1と原料用基板4の表面に直接形成される。
【0108】
なお、
図2(f)では、加熱時、炭素5の金属層2中における濃度が金属層2の炭素固溶度より小さい場合、すなわち、炭素5の全量が金属層2に溶解する場合を示している。従って、グラフェン9は成長用基板1と原料用基板4の双方の表面に形成される。この場合、グラフェン9が成長した成長用基板1と原料用基板4の双方をグラフェン基板10a、10bとして利用することができる。
【0109】
他方、加熱時の金属層2の炭素固溶度以上の量を炭素含有層
3に配置する場合、原料用基板4上に炭素含有層3の一部が残る。従って、冷却時、グラフェン9は金属層2が接触する成長用基板1の表面と、炭素含有層3残渣の表面に成長することになる。この場合は、グラフェン9が成長した成長用基板1をグラフェン基板10aとして利用する。但し、炭素含有層3の材料が上記第1群に属するダイヤモンドや上記第3群に属する炭化物からなる基板の場合、それらが絶縁体基板である限り、グラフェン基板10bとして利用できる。
【0110】
冷却条件は次の通りである。
単位時間当たりの降下温度、すなわち、冷却速度は、加熱した温度から400℃までの範囲で、0〜100℃/分の範囲であることが望ましい。ここで、冷却速度0℃/分とは、ある温度を維持することを意味する。なお、400℃以下では自然冷却で構わない。また、急冷(例えば、冷却速度:50℃/分)の後に、徐冷(例えば、冷却速度:2℃/分)を行うことにより、炭素5の結晶化、すなわち、グラフェン9の成長に対し、その駆動力を増大させることが可能である。これによりグラフェンの品質を向上することが出来る。
【0111】
第7に、金属層2を除去すると、
図2(h)に示すように、グラフェン基板10a、10bが得られる。
【0112】
金属層2の除去は以下の二段階で行う。
第1段階では、金属層2を液体状態まま、吸引などの適当な方法で物理的に除去する。この段階で、金属層2の大部分はグラフェン基板10a、10bから取り除かれる。なお、第1段階で除去された金属層2の材料は再度、フラックスとして使用可能である。特に、レアメタルであるガリウム(Ga)を利用する場合、フラックスの再生は製造コストを顕著に低下させる効果がある。
【0113】
第2段階では、第1段階で取り除けなかった金属層2の残渣を化学的処理で除去する。具体的には酸・アルカリ溶液にグラフェン基板10a、10bを浸漬し、残渣を溶解させる。適当な温度(〜80℃)に酸・アルカリ溶液を加熱すると、金属層2の溶解を促進出来る。金属層2の残渣を溶解する酸としては、塩酸(HCl)、硫酸(H
2SO
4)、硝酸(HNO
3)などを用いることが可能である。ガリウムやアルミニウムのような両性金属の場合は、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化テトラメチルアンモニウムの水溶液を用いることにより、金属層2の残渣を溶解することも可能である。
【0114】
次に、p型グラフェンとn型グラフェンの製造方法について述べる。
【0115】
上記のグラフェン製造工程に、アクセプター元素あるいはドナー元素を添加するドーパント導入工程を追加すると、p型グラフェンあるいはn型グラフェンを製造することが出来る。
【0116】
一般に、グラフェンのキャリアは外部電界の向きに応じてホールと電子が流れる両極性伝導を呈する。ところが、グラフェンを構成する炭素を他の元素で少数だけ置換すると、置換する元素の種類に応じて、キャリア伝導はp型、n型のどちらかが主体となる。例えば、14族元素(IUPAC無機化学命名法改訂版(1989)による族番号、以下、同じ)である炭素に対して価電子が1個少ない13族元素、あるいは2個少ない2族元素、すなわち、アクセプター元素で格子置換すると、p型となる。一方、価電子が1個多い15族元素、あるいは2個多い16元素、すなわち、ドナー元素で格子置換すると、n型となる。従って、ドーパント元素を導入する工程を追加すると、加熱時に、金属層2へ炭素と伴にドーパント元素が溶解し、冷却時に、炭素と伴にドーパント元素が析出することになる。結果、炭素の一部がドーパント元素で格子置換されたグラフェンが得られる。
【0117】
p型グラフェン製造には、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)などの2族元素、またはホウ素(B)、アルミニウム(Al)などの13族元素など、アクセプター元素を含む材料を添加すればよい。
【0118】
n型グラフェン製造には、窒素(N),リン(P)、ヒ素(As)、Sb(アンチモン)などの15族元素、またはイオウ(S)、セレン(Se)、テルル(Te)などの16族元素など、ドナー元素を含む材料を添加すればよい。
【0119】
ドーパント導入の方法としては、以下の2通りが挙げられる。
第1の方法は、
図2(b)に示される炭素含有層3を配置する際、予め、炭素含有層3にドーパント元素を添加しておく方法である。ドーパント元素単体をそのまま添加するか、ドーパント元素を含む材料を添加すればよい。また、もともとドーパント元素を含む材料を炭素含有層の材料として選択してもよい。
【0120】
第2方法は、
図2(e)に示される加熱時に、雰囲気にドーパント元素を含むガスを導入する方法である。p型グラフェンの製造のためには、ジボランガス(B
2H
6)の導入、n型グラフェンの製造のためには、アンモニア(NH
3)、ホスフィンガス(PH
3)、アルシンガス(AsH
3)の導入が挙げられる。
【0121】
最後に、グラフェン9の層数を制御する方法について述べる。その方法は以下の2つである。
【0122】
第1の方法は原料の炭素量を調整することによる層数制御法である。
加熱した温度において、炭素含有層3中の炭素濃度が金属層2の炭素固溶度より低ければ、炭素含有層3は金属層2へ全量溶解する。従って、金属層2の炭素固溶度より低い範囲内で、炭素含有層3の炭素濃度を調整すれば、グラフェン9の層数を制御することが出来る。
【0123】
例えば、単層グラフェンの炭素原子の面密度は38.0個/nm
2なので、炭素含有層3中の炭素濃度を面密度換算で、75.7ng/cm
2(ナノグラム/平方センチメートル)×n(nは自然数)に調整すれば、成長用基板1上にn層グラフェン9を形成できる。
【0124】
図3(a)を参照すると、炭素固溶度曲線を用いることで、炭素量調整による層数制御法を説明している。ここでは1200℃まで加熱する場合を考える。1200℃での最大固溶度は
図3(a)に示す通りである。炭素含有層3を用意する時、この最大固溶度より少ない範囲で、図中に示される1層分の炭素量を単位として、炭素量をn層、n+1層、n+2層分というように予め調整しておく。なお、室温における炭素固溶度に相当する炭素量をそれぞれ加味しておく必要があるが、一般に、室温における炭素固溶度は無視できるぐらい小さい。炭素5は加熱時に金属層
2に一旦溶解し、冷却時にグラフェン9として析出する。炭素量を調整してあるので、得られるグラフェン9の層数はn層、n+1層、n+2層となる。従って、原料の炭素量を調整することによりグラフェン層数を制御することが可能である。この方法によれば、高い加熱温度を選択できるので、層数制御を行いつつ、特に高品質なグラフェン9を得ることが出来る。
【0125】
第2の方法は、加熱温度を調整することによる層数制御法である。
金属層2の炭素固溶度は温度に依存するので、加熱温度を調整することによっても、グラフェン9の層数を制御することが出来る。一般に、金属中の炭素固溶度は温度上昇と伴に増加するので、炭素含有層3中の炭素量が十分あるとすると、加熱温度を上げるほど、層数の多いグラフェン9を形成することが出来る。
【0126】
図3(b)を参照すると、炭素固溶度曲線を用いて、加熱温度調整による層数制御法を説明している。800℃、1000℃、1200℃の各加熱温度における最大炭素固溶度は図中に示す通りである。炭素含有層3を用意する時、これらの最大固溶度以上になるように、炭素含有層3の炭素量を予め調整しておく。すると、加熱・冷却後、室温と各加熱温度における最大炭素固溶度の差に相当する量の炭素5がグラフェン9に変換される。この方法は、上記の第1の方法が使用できない場合、例えば、ガラス状炭素、ダイヤモンド、炭化ケイ素などのバルク基板を炭素含有層3として利用するため、炭素量を自由に調整できない場合の層数制御法として役立つ。
【0127】
以上のように、第1の実施形態によれば、金属層2を炭素含有層3と成長用基板4に同時に接触させ、加熱することで金属層2中に炭素含有層3中の炭素5を溶解させ、次いで冷却することで、金属層2中の炭素5を成長用基板1と原料用基板4の表面にグラフェン9として析出させることにより、グラフェン基板10a、10bを製造している。
【0128】
そのため、グラフェン基板10a、10bのスケールアップが容易であり、大面積のグラフェン基板を製造できるという利点が得られる。
【0129】
さらに、第1の実施形態ではSiC熱分解グラフェンの場合のような、高温(〜1600℃)処理や、基板の水素プラズマ処理・シラン処理が不要であるので、低コスト化が図れる。
【0130】
さらに、第1の実施形態によれば、成長用基板1と原料用基板4には絶縁体が用いられる。すなわち、グラフェン基板10a、10bはグラフェン・オン・インシュレータ(graphene on insulator
:絶縁体上グラフェン)基板である。そのため、ガリウム・アモルファス炭素界面成長グラフェンの場合とは全く異なり、第1の実施形態のグラフェン基板10a、10bはそのまま、グラフェン素子の製造に使用できる。
【0131】
さらに、第1の実施形態では、CVDグラフェンの場合のような、グラフェン10a、10bの品質を劣化させる転送工程を必要としないので、高品質を維持しつつ、グラフェン素子を製造できる利点が得られる。
【0132】
即ち、第1の実施形態に係るグラフェンの製造方法は、量産性があり、高品質のグラフェンが得られると同時に、低製造コストで、半導体装置製造に直接使用可能である。
【0133】
次に、第2の実施形態について説明する。
本発明の第2の実施形態は、基本的な製造の手順は第1の実施形態と同様であるが、異なる点が3つある。
【0134】
1つ目の相違点は、金属層2の流出や流動を防ぐための工夫が施されている点、具体的には、金属層2をスペーサ12で取り囲んでいる点、フタ13が重石となっている点である。
【0135】
2つ目の相違点は、金属層2の蒸発による消失を防ぐための工夫が施されている点、具体的には、上記原料用基板4/炭素含有層3/金属層2/成長用基板1の4層構造(スペーサ12を含む)全体をホルダ11とフタ13で覆っている点である。
【0136】
3つ目の相違点は、成長用基板1と原料用基板4を静置するための工夫が施されている点、具体的には、スペーサ12が成長用基板
1(配置順序が逆の場合は炭素含有層3を配置した原料用基板4)を支持している点、また、ホルダ11が上記4層構造全体を支持している点である。
【0137】
後述のように、スペーサ12、ホルダ11、フタ13は熱処理に耐えうるものであれば良く、主に以下の5つの群から選ばれる少なくとも1つが選択される。
【0138】
第1の群は、石英(SiO
2)、アルミナやサファイア(Al
2O
3)、酸化チタン(TiO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ニッケル(NiO)、ジルコニア(ZrO
2)、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)、タンタル酸リチウム(LiTaO
3)などの酸化物である。
【0139】
第2の群は、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、窒化炭素(C
3N
4)、窒化炭素ホウ素(BCN)などの窒化物である。
【0140】
第3の群は、炭化ケイ素(SiC)、炭化ホウ素(B
4C)、炭化アルミニウム(Al
4C
3)、炭化チタン(TiC)、炭化ジルコニウム(ZrC)
、炭化ハフニウム(HfC)、炭化バナジウム(VC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化タンタル(TaC)、炭化クロム(CrC)、炭化モリブデン(MoC)、炭化タングステン(WC)などの炭化物である。
【0141】
第4の群は、フッ化バリウム(BaF
2)、フッ化カルシウム(CaF
2)、フッ化マグネシウム(MgF
2)などのフッ化物である。
【0142】
第5の群は、雲母(マイカ)、ダイヤモンドなどその他の耐熱材料である。
【0143】
なお、材料コストの観点からは、石英ガラス、アルミナや窒化ホウ素の焼結体などが安価で実用的である。
【0144】
以下、
図4を参照して第2の実施形態に係るグラフェン基板10a、10bの製造方法について説明する。
【0145】
なお、第2の実施形態において、第1の実施形態と同様の機能を果たす要素については同一の番号を付し、説明を省略する。
【0146】
第1に、
図4(a)に示すように、ホルダ11を用意する。
ホルダ11は
図4(a)に示すように、中央に凹部が形成された箱型の形状を有しており、凹部の寸法・形状は原料用基板4、成長用基板1の寸法・形状に対応している。
【0147】
ホルダ11はフタ13と一体となって金属層2が加熱時に蒸発するのを防ぐ働きがあると伴に、上記原料用基板4/炭素含有層3/金属層2/成長用基板1の4層構造(スペーサ12を含む)全体を支持する働きがある。
【0148】
第2に、
図4(b)に示すように、炭素含有層3を予め配置した原料用基板4をホルダ11内に配置する。
【0149】
第3に、
図4(c)に示すように、スペーサ12を炭素含有層3/原料用基板4上に配置する。
【0150】
スペーサ12は
図4(c)に示すように、中央部がくり貫かれた板状の形状を有しており、その寸法・形状は原料用基板4、成長用基板1の寸法・形状に対応している。
【0151】
スペーサ12は成長用基板
1を支持する働きがあると伴に、金属層2が水平方向に流動するのを防ぐ働きがある。
【0152】
第4に、
図4(d)に示すように、金属層2をスペーサ12内で炭素含有層3/原料用基板4に密着して配置する。
【0153】
なお、金属層2の量は次に述べる成長用基板
1との接触を十分確保できるように予め調整しておく。
【0154】
第5に、
図4(e)に示すように、成長用基板1を金属層2に密着して配置する。
【0155】
以上より、原料用基板4/炭素含有層3/金属層2/成長用基板1の4層構造が形成される。なお、4層構造の順序が逆、すなわち、成長用基板1/金属層2/炭素含有層3/原料用基板4でも後述する効果は同じである。
【0156】
第6に、
図4(f)に示すように、フタ13を成長用基板
1上に配置する。
【0157】
フタ13は
図4(f)に示すように、中央に凸部が形成された板上の形状を有している。凸部の寸法・形状は原料用基板4、成長用基板1の寸法・形状に対応し、凸部の厚みは上記4層構造に十分接するように調整されている。
【0158】
フタ13は重石となって金属層2が流動するのを防ぐ働きがあると伴に、ホルダ11と一体となって金属層2が加熱時に蒸発するのを防ぐ働きがある。
【0159】
第7に、
図4(g)に示すように、加熱・冷却によりグラフェン9を形成する。
【0160】
加熱時の観察によると、第1の実施形態と比べて、スペーサ12には、金属層2が流動したり、水平方向へ流出するのを防止する効果があることが確認される。
【0161】
また、第1の実施形態の場合、加熱時に、成長用基板1(順序が逆の場合は炭素含有層3を配置した原料用基板4)は金属層2上で浮動状態にあり不安定であるのと比較して、スペーサ12がある場合、成長用基板1(順序が逆の場合は炭素含有層3を配置した原料用基板4)はスペーサ12でしっかり固定されるという効果が確認される。
【0162】
さらに、第1の実施形態と比べて、ホルダ11とフタ13があるお陰で、加熱時の金属層2の蒸発が大幅に低減されることが確認される。また、ホルダ11は上記4層構造をしっかりと固定するという効果が確認される。
【0163】
第8に、第1の実施形態と同様の方法で金属層2を除去することで、
図4(h)に示すように、グラフェン基板10a、10bが得られる。
【0164】
このように、金属層2を炭素含有層3と成長用基板4に同時に接触させ、加熱することで金属層2中に炭素含有層3中の炭素5を溶解させ、次いで冷却することで、金属層2中の炭素5を成長用基板1と原料用基板4の表面にグラフェン9として析出させることにより、グラフェン基板10a、10bを製造している。
【0165】
従って、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
【0166】
また、ホルダ11、スペーサ12、フタ13を追加することにより、第1の実施形態と比べて、金属層2の流出・流動を抑制される効果、加熱時の金属層2の蒸発を減少させる効果、成長用基板1と原料用基板4を静置する効果が生まれる。
【0167】
従って、第2の実施形態によれば、金属層2を炭素含有層3と成長用基板4にスペーサ12を介して同時に接触させ、ホルダ11とフタ13でスペーサ12を含む上記4層構造全体を覆いつつ加熱することで、金属層2の蒸発を防ぎつつ金属層2中に炭素含有層3中の炭素5を溶解させ、次いで冷却することで、金属層2中の炭素5を成長用基板1と原料用基板4の表面にグラフェン9として析出させることにより、グラフェン基板10a、10bを製造している。
【0168】
次に、第3の実施形態について説明する。
【0169】
第3の実施形態は、第1と第2の実施形態において、種々の表面形状を有する成長用基板
1の表面にグラフェン9を形成したものである。
【0170】
図5(a)に示す基板1aは、第1と第2の実施形態で用いた成長用基板1と同様の平面形状、即ち平坦な平面形状を有している。そのため、第1と第2の実施形態で説明した方法により、平坦な基板1aから、平坦なグラフェン9aを有する平坦なグラフェン基板10aが得られる。
ここで、図5において、グラフェン成長用の基板1a,1b、1c・・・を纏めて成長用基板1と呼ぶ。成長用基板1に追加した異なるアルファベット記号は、基板が同一ではないか、または、同一の基板であっても材料が互いに異なることを示す。また、グラフェン9a,9b,9c・・・を纏めてグラフェン9と示す。グラフェン9においても、符号9に追加した異なるアルファベット記号は、同一ではないか、形状が異なるか、または、材料が異なることを示している。
【0171】
一方、
図5(b)では凸型の3次元構造を持つグラフェン基板10b、
図5(c)では波型(凹凸形状)の3次元構造を持つグラフェン基板10c、
図5(d)では凹型の3次元構造を持つグラフェン基板10dが得られる。
【0172】
ここで、
図5(b)〜(d)において、3次元構造が100μm(マイクロメートル)以上と十分大きい場合、液化した金属層2は成長用基板
1b〜1dのすべての面と接することができる為、3次元構造のすべての面がグラフェン化する。
【0173】
また一方で、
図5(e)や(f)において、3次元構造の周期寸法が概ね100μm以下と小さい場合は、液化した金属層2は成長用基板1eと1fの3次元構造のすべての面に接することが出来ない。
【0174】
これは金属層2を構成する金属の界面張力のためである。
【0175】
そのため、例えば、
図5(e)の場合、拡大
図21eに示すように、成長用基板1eの波型構造(凹凸形状)において山の頂点部分(凸部)のみがグラフェン化する。そのため、グラフェン基板10eの拡大
図22eに示すように、短冊状グラフェン9eを頂くグラフェン基板10eが得られる。
【0176】
また、
図5(f)の場合、拡大
図21fに示すように、液化したフラックスはメッシュ構造内部に浸透することが出来ず、メッシュ構造の表面のみと接する。この場合は、メッシュ構造の周期が十分小さいためにグラフェン化がメッシュ(凹部)を架橋するようにして進行する。この結果、拡大
図22fに示すように、メッシュ構造を2次元周期グラフェン9fが被覆したグラフェン基板10fが得られる。
【0177】
以上、第3の実施形態によれば、上記のグラフェン基板10a〜10fを元に、後述する様々なグラフェン素子を作製することが可能である。
【0178】
次に、第4の実施形態について説明する。
【0179】
第4の実施形態は、第1の実施形態に係るグラフェン基板10を用いて電界効果トランジスタ37を製造したものである。
【0180】
なお、第4の実施形態において、第1の実施形態と同様の機能を果たす要素については同一の番号を付し、説明を省略する。
【0181】
以下、
図6を参照して第4の実施形態に係る電界効果トランジスタ37の製造方法について説明する。
【0182】
ここでは、標準的なリソグラフィー技術を用いてグラフェン
9をチャネルとして有する電界効果トランジスタ37を製造する手順が例示されている。
【0183】
第1に、
図6(a)で示すように、成長用基板1を用意し、第1の実施形態に係る方法により、
図6(b)に示すように、成長用基板1がグラフェン9で被覆されたグラフェン基板10を得る。
【0184】
第2に、レジスト塗布、リソグラフィー露光、ウェットエッチングにより、
図6(c)に示すように、マスク31を形成する。
【0185】
第3に、マスク31で覆われた以外のグラフェン9を酸素プラズマでドライエッチングすることで、
図6(d)に示すように、グラフェン9からなるソース・ドレイン電極コンタクト部分32、ならびに、グラフェン・チャネル33を得る。
【0186】
第4に、
図6(e)に示すように、適当な金属材料を用いてソース・ドレイン電極34を蒸着により形成する。
【0187】
第5に、
図6(f)に示すように、適当な絶縁体材料を用いてゲート絶縁体35を蒸着により形成する。
【0188】
第6に、
図6(g)に示すように、適当な金属材料を用いてゲート電極36をゲート絶縁体35上に蒸着により形成することで、最終的に、グラフェン9をチャネルとして有する電界効果トランジスタ37を得る。
【0189】
なお、
図6は図
5(a)の平坦なグラフェン基板10aから出発して電界効果トランジスタ37を製造した例であるが、図
5(b)〜図
5(f)の様々な表面構造を持つグラフェン基板10b〜10fから出発すれば、様々なグラフェン素子を得ることが可能である。
【0190】
例えば、図
5(b)〜図
5(d)に示される3次元構造のグラフェン基板10b〜10dからは、機械要素部品、センサー、アクチュエターと電子回路を組み合わせたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)やNEMS(Nano Electro Mechanical Systems)に代表されるメカノエレクトロニクス分野の半導体装置を得ることが出来る。
【0191】
また、図
5(c)〜図
5(f)の周期構造を持つグラフェン基板10c〜10fからは、その周期が遠赤外からテラヘルツ電磁波帯の波長程度である場合、増幅器、発信器、光源、レーザー、超高速・広帯域情報通信機器などのオプトエレクトロニクス分野の半導体装置を得ることが出来る。
【0192】
さらに、図
5(e)や図
5(f)の微細な周期構造を持つグラフェン基板10e、10fから出発すれば、太陽電池、省エネルギー発光ダイオード照明、熱電変換素子などの環境・エネルギー分野の半導体装置を得ることが可能である。
【実施例】
【0193】
以下、実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
【0194】
(実施例1)
ここで示す実施例は、グラフェンの品質と加熱時間の関係に関するものである。
【0195】
図4に示す方法を用いて、様々な加熱温度でグラフェン基板10を作製した。得られたグラフェン9のラマンスペクトルを測定し、グラフェン品質の指標であるD/G比を求めた。具体的な手順は以下の通りである。
【0196】
第1に、様々な加熱温度において
図4に示す方法を適用し、グラフェン基板10を作製した。成長用基板1としては石英ガラス基板、金属層
2としてはガリウム・アルミニウム合金、炭素含有層3としては板状のガラス状炭素を使用した。加熱は真空下、電気炉で行い、加熱温度は500、600、700、800、900、1000、1100℃、冷却速度は1〜7℃/分の範囲であった。
【0197】
第2に、金属層2(ガリウム・
アルミニウム)の化学的処理は80℃の濃塩酸に約15分浸漬することで行い、それぞれの加熱温度で作製されたグラフェン基板10を純水、アセトン、イソプロピルアルコールの順で洗浄し、窒素(N
2)ブローで乾燥させた。
【0198】
第3に、それぞれの加熱温度で作製されたグラフェン基板10上のグラフェン9について、同一サンプルのいくつかの領域でラマンスペクトルを取得した。ラマン励起レーザーの波長は532nm、レーザーパワーは10mW以下、顕微ラマン分光装置を用いて測定を行った。いくつかのラマンスペクトルを平均し、D/G比を求めた。
【0199】
図7は上記方法で作製されたグラフェン9のD/G比と加熱温度の関係を示す図である。
図7に示すように、加熱温度が高くなるにつれ、D/G比は減少する。すなわち、グラフェン9の品質が向上する傾向が見られた。加熱温度が600℃の場合、D/G比が約0.6であることから、グラフェンの品質はかなり低いが、いくつかの領域ではD/G比が0.2以下であった。従って、グラフェン基板10上の所々に、望ましい品質のグラフェンが存在することが確認された。なお、加熱温度が800℃の場合で、D/G比=0.2程度、1000℃の場合で、D/G比=0.1程度であった。従って、600℃がグラフェン成長の最低加熱温度であり、加熱温度が800℃以上の場合、高品質のグラフェンが得られ、1000℃以上の場合、より高品質なグラフェンがえられることが分かった。
【0200】
以上より、本発明によれば、加熱温度を600℃以上、望ましくは800℃、より望ましくは1000℃以上にすることで、グラフェン基板10を製造できることが証明される。
【0201】
(実施例2)
ここで示す実施例は、炭素量調整によるグラフェン層数制御に関するものである。
【0202】
図4に示す方法を用いて、炭素含有層3の炭素量を調整しつつ、グラフェン基板10a、10bを作製した。得られたグラフェン9のラマンスペクトルを測定し、グラフェンの品質と層数を評価した。具体的な手順は以下の通りである。
【0203】
第1に、C
60フラーレンのトルエン溶液を調整し、グラフェン層数が1層、2層、3層、4層、10層の2倍に相当する炭素量になるように、5つの別々の石英ガラス基板上に滴下塗布した。
【0204】
第2に、作製した5種類のC
60塗布基板に対して、
図4に示す方法を適用し、グラフェン基板10a、10bを作製した。成長用基板1としてはサファイア基板、金属層
2としてはガリウム、炭素含有層3としてはC
60塗布層、原料用基板
1としては石英ガラス基板を用いた。加熱は真空下、電気炉で行い、加熱温度は1100℃、冷却速度は約2℃/分であった。
【0205】
第3に、金属層2(ガリウム)の化学的処理は80℃の濃塩酸に約15分浸漬することで行い、それぞれの炭素量で作製されたグラフェン基板10a、10bを純水、アセトン、イソプロピルアルコールの順で洗浄し、窒素(N
2)ブローで乾燥させた。
【0206】
第4に、それぞれの炭素量で作製されたグラフェン基板10a、10b上のグラフェン9のラマンスペクトルを取得した。ラマン励起レーザーの波長は532nm、レーザーパワーは10mW以下、顕微ラマン分光装置を用いて測定を行った。
【0207】
図8は、(a)1層、(b)2層、(c)3層、(d)4層、(e)10層、のグラフェン層数に相当する炭素量を用いて作製された、成長用基板1(サファイア基板)上のグラフェン9のラマンスペクトルである。G/D比はそれぞれ0.1前後であることから、作製されたグラフェン9は非常に高品質である。文献によると、(a)〜(e)のラマンスペクトルは、それぞれ、1層、2層、3層、4層、10層と同定される。また、別途、光学顕微鏡を用いた可視吸収スペクトルの測定を行ったところ、上記同定が支持される結果が得られた。
【0208】
なお、原料用基板4(石英ガラス基板)上のグラフェン9も同様の結果であった。すなわち、炭素源であるC
60は加熱により、一旦全量が炭素5として金属層2(ガリウム)に溶解し、冷却により、C
60由来の炭素5は成長用基板1と原料用基板4に半分ずつ、グラフェン9として析出したと解釈できる。
【0209】
以上より、本発明によれば、炭素含有層3の炭素量を調整することで、グラフェンの層数を制御しつつ、高品質なグラフェン基板10を製造できることが証明される。
【0210】
(実施例3)
ここで示す実施例は、炭素含有層3として様々な炭素含有材料を用いて作製されるグラフェン基板10に関するものである。
【0211】
図4に示す方法を用いて、炭素含有層3として、天然グラファイト、単層カーボンナノチューブ、ガラス状炭素、ナノダイヤモンド、C
60フラーレン,ニッケロセン([(C
5H
5)
2]Ni)を使用し、グラフェン基板10を作製した。得られたグラフェン9のラマンスペクトルを測定し、グラフェンの品質を評価した。具体的な手順は以下の通りである。
【0212】
第1に、天然グラファイト/原料用基板4は、粘着テープを用いて天然グラファイト表層からグラファイト薄膜を機械的に剥離し、それをサファイア基板に貼り付けることで作製した。成長用基板1としてサファイア基板を用いた。
【0213】
第2に、単層カーボンナノチューブ/原料用基板4は、単層カーボンナノチューブの1,2−ジクロロエタン懸濁液を調整し、その懸濁液をサファイア基板にスピンコートすることで作製した。成長用基板1としてサファイア基板を用いた。
【0214】
第3に、ガラス状炭素の場合は実施例1と同様の方法を用いた。
【0215】
第4に、ナノダイヤモンド/原料用基板4は、ナノダイヤモンドのエタノール懸濁液を調整し、その懸濁液を石英ガラス基板にスピンコートすることで作製した。成長用基板1として石英ガラス基板を用いた。
【0216】
第5に、C
60の場合は実施例2と同様の方法を用いた。
【0217】
第6に、ニッケロセン/原料用基板4は、ニッケロセンのクロロホルム溶液を調整し、その溶液を石英ガラス基板に滴下塗布することで作製した。成長用基板1として石英ガラス基板を用いた。
【0218】
第7に、上記のように作製した炭素含有層3/原料用基板4、もしくは炭素含有層3に対して、
図4に示す方法を適用し、グラフェン基板10を作製した。金属層2としてガリウムを用いた。加熱はアルゴン(Ar)気流下、電気炉で行い、加熱温度は600〜1000℃、冷却速度は約1〜5℃/分であった。
【0219】
第8に、金属層2(ガリウム)の化学的処理は80℃の濃塩酸に約15分浸漬することで行い、それぞれのグラフェン基板10を純水、アセトン、イソプロピルアルコールの順で洗浄し、窒素(N
2)ブローで乾燥させた。
【0220】
第9に、それぞれのグラフェン基板10上のグラフェン9のラマンスペクトルを取得した。ラマン励起レーザーの波長は532nm、レーザーパワーは10mW以下、顕微ラマン分光装置を用いて測定を行った。
【0221】
図9は、(a)天然グラファイト、(b)単層カーボンナノチューブ、(c)ガラス状炭素、(d)ナノダイヤモンド、(e)C
60フラーレン、(f)ニッケロセンを炭素含有層3として用いて作製したグラフェン基板上10のグラフェン9のラマンスペクトルである。G/D比は0.15〜0.4程度、グラフェンの層数は4〜6層程度である。なお、G/D比、層数のバラツキは加熱温度と冷却速度がそれぞれ場合で異なることが原因である。同一条件で製造すれば、炭素源の違いによるグラフェン9の品質への影響はない。従って、様々な炭素源を炭素含有層3として用いることで、グラフェン9を絶縁体基板上に成長できることが分かった。
【0222】
以上より、本発明によれば、様々な炭素源を炭素含有層3の材料として用いることで、グラフェン基板10を製造できることが証明される。
【0223】
(実施例4)
ここで示す実施例は、様々な絶縁体基板上に作製されるグラフェン基板10に関するものである。
【0224】
図4に示す方法を用いて、(001)面のダイヤモンド基板、(0001)面(シリコン面)の4H−SiC基板、(000−1)面(カーボン面)の6H−SiC基板、(0001)面のh−BN(六方晶系窒化ホウ素)基板、(0001)面(C面)のサファイア基板、石英ガラス基板上にグラフェン9を成長させ、それぞれのグラフェン基板10を作製した。得られたグラフェン9のラマンスペクトルを測定し、グラフェンの品質を評価した。具体的な手順は以下の通りである。
【0225】
第1に、ダイヤモンド基板、4H−SiC基板、6H−SiC基板の場合、自らが炭素供給源として働くと同時に、グラフェン成長のための基板として働く。この場合は、金属層2を基板上に配置し、
図4に示す方法でグラフェン基板10bを作製した。
【0226】
第2に、h−BN基板の場合、h−BN単結晶の表層を機械的に剥離し、剥がれた単結晶薄片を(1000)面(シリコン面)の6H−SiC基板に貼り付けた。なお、この場合、6H−SiC基板が炭素供給源として働き、h−BN単結晶薄膜がグラフェン成長の基板として働く。
【0227】
第3に、サファイア基板の場合、炭素含有層3としてガラス状炭素を使用した。
【0228】
第4に、石英ガラス基板の場合、実施例2と同様の方法を用いた。
【0229】
第5に、上記方法で作製した様々な基板に対して、
図4に示す方法を適用し、グラフェン基板10を作製した。金属層2としてガリウムを用いた。加熱は真空下、電気炉で行い、加熱温度は900〜1100℃、冷却速度は約0.5〜5℃/分であった。
【0230】
第6に、金属層2(ガリウム)の化学的処理は80℃の濃塩酸に約15分浸漬することで行い、それぞれのグラフェン基板10を純水、アセトン、イソプロピルアルコールの順で洗浄し、窒素(N
2)ブローで乾燥させた。
【0231】
第7に、それぞれのグラフェン基板10上のグラフェン9のラマンスペクトルを取得した。ラマン励起レーザーの波長は532nm、レーザーパワーは10mW以下、顕微ラマン分光装置を用いて測定を行った。
【0232】
図10は、(a)ダイヤモンド基板、(b)4H−SiC基板、(c)6H−SiC基板、(d)h−BN薄膜基板、(e)サファイア基板、(f)石英ガラス上に作製されたグラフェン9のラマンスペクトルである。G/D比は0.1〜0.2程度と非常に低かった。グラフェンの層数は5層程度である。従って、どの場合でも、非常に高品質のグラフェン9が絶縁体基板上に形成されていることが確認された。
【0233】
以上より、本発明によれば、様々な絶縁体基板上に、高品質のグラフェン基板10を製造できることが証明される。
【0234】
(実施例5)
ここで示す実施例は、金属層2として様々な金属材料を用いて作製されるグラフェン基板10に関するものである。
【0235】
図4に示す方法を用いて、金属層2としてガリウムならびにガリウム・インジウム合金を用いてグラフェン9を成長させ、グラフェン基板10を作製した。得られたグラフェン9のラマンスペクトルを測定し、グラフェンの品質を評価した。具体的な手順は以下の通りである。
【0236】
第1に、金属層2として、ガリウムとガリウム・インジウム合金を用いて、
図4に示す方法を適用し、グラフェン基板10を作製した。成長用基板1として石英ガラス基板、炭素含有層3として板状のガラス状炭素を使用した。加熱はアルゴン気流下、電気炉で行い、加熱温度は800℃、冷却速度は約20℃/分であった。
【0237】
第2に、金属層2の化学的処理は80℃の濃塩酸に約15分浸漬することで行い、それぞれの加熱温度で作製されたグラフェン基板10を純水、アセトン、イソプロピルアルコールの順で洗浄し、窒素(N
2)ブローで乾燥させた。
【0238】
第3に、それぞれの金属層
2で作製されたグラフェン基板10上のグラフェン9について、ラマンスペクトルを取得した。ラマン励起レーザーの波長は532nm、レーザーパワーは10mW以下、顕微ラマン分光装置を用いて測定を行った。
【0239】
図11は、(a)ガリウム、(b)ガリウム・インジウム合金を金属層3として用いて作製されたグラフェン9のラマンスペクトルである。G/D比は0.4程度、グラフェンの層数は6層程度である。従って、金属層
2の種類を換えても、グラフェン9が絶縁体基板上に形成されていることが確認された。
【0240】
以上より、本発明によれば、様々な金属層
2を用いることで、グラフェン基板10を製造できることが証明される。
【0241】
(実施例6)
ここで示す実施例は、グラフェン基板10を用いたデバイス作製に関するものである。
【0242】
図4に示される方法により、(0001)面の6H−SiC基板ならびに(0001)面の単結晶酸化シリコン(SiO
2)上にグラフェン9を作製し、
図6に示す方法により、グラフェン9をチャネルとする電界効果トランジスタ37を作製した。双方のトランジスタに対して、電気的測定を行うことにより、デバイス特性を評価した。具体的な手順は以下の通りである。
【0243】
第1に、グラフェン基板10の作製方法は、実施例1〜5と同様である。但し、単結晶SiO
2基板の場合、炭素含有層3としてテフロン薄膜を用いた。
【0244】
第2に、グラフェン基板10を用いた電界効果トランジスタ37の作製は
図6に示す通りである。
【0245】
第3に、上記で作製されたグラフェン9をチャネルとする電界効果トランジスタ37を、プローバと半導体パラメーターアナライザを用いて、室温で伝導特性を評価した。
【0246】
6H−SiC基板、単結晶SiO
2板、どちらの基板上に作製されたグラフェントランジスタの場合でも、それらのドレイン電流のゲート電圧依存性(輸送特性)は、0V付近のディラックポイントでドレイン電流が最小となり、ゲート電圧をマイナス側、プラス側どちらに掃引してもドレイン電流が増大するという、グラフェンに典型的な両極性伝導を呈した。
【0247】
従って、本発明の方法によれば、グラフェンからなる半導体素子を製造できることが証明された。
【0248】
(実施例7)
ここで示す実施例は、ドーピングされたグラフェン基板10と、それを用いたデバイス作製に関するものである。
【0249】
図4に示す方法にドーパント導入工程を追加することで、絶縁体基板上にp型ならびにn型グラフェンを成長させ、p型ならびにn型グラフェン基板を作製した。
【0250】
次いで、
図6に示す方法により、p型ならびにn型グラフェンをチャネルとする電界効果トランジスタ37を作製した。双方のトランジスタに対して、電気的測定を行うことにより、デバイス特性を評価した。具体的な手順は以下の通りである。
【0251】
第1に、p型ならびにn型グラフェン基板の基本的な作製条件は実施例1〜5と同様である。異なる部分は以下の通りである。まず、p型グラフェン作製のために、アクセプター元素のホウ素(B)を微量含むガラス状炭素を炭素含有層3として使用した。また、n型グラフェン作製のためには、ドナー元素の窒素(N)を微量含むガラス状炭素を炭素含有層3として使用した。なお、成長用基板1として単結晶SiO
2基板、金属層2としてガリウムを用いた。
【0252】
第2に、上記で得られたp型ならびにn型グラフェン基板を用いた電界効果トランジスタ37の作製は
図6に示す通りである。
【0253】
第3に、上記で作製されたp型ならびにn型グラフェンをチャネルとする電界効果トランジスタ37を、プローバと半導体パラメーターアナライザを用いて、室温で伝導特性を評価した。
【0254】
輸送特性を測定した結果、ホウ素をドープしたグラフェンから作製されたグラフェントランジスタの場合、両極性伝導が非対称となり、p型伝導が優位となった。一方、窒素をドープしたグラフェンから作製されたグラフェントランジスタの場合、両極性伝導が非対称になり、n型伝導が優位となった。この結果は、ホウ素ドープでp型グラフェン、窒素ドープでn型グラフェンが成長することが可能であることを意味する。さらに、それぞれのグラフェン基板を用いることで、p型グラフェン・チャネルならびにn型グラフェン・チャネルからなるトランジスタを作製可能であることを意味する。
【0255】
従って、本発明の方法によれば、p型ならびにn型グラフェン基板が作製可能で、それらの半導体素子を製造できることが証明された。
【0256】
以上、本発明の実施形態および実施例について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0257】
例えば、本実施形態では、グラフェン基板を用いて電界効果トランジスタを製造した場合について説明したが、本発明は何らこれに限定されることはない。例えば、論理回路、記憶素子回路、AD(アナログ・デジタル)コンバーターなどのエレクトロニクス分野の半導体装置を製造することも可能である。