特許第5871223号(P5871223)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5871223ロタキサン、架橋剤、架橋方法、架橋ポリマー及び架橋ポリマーの分解方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5871223
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】ロタキサン、架橋剤、架橋方法、架橋ポリマー及び架橋ポリマーの分解方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 323/00 20060101AFI20160216BHJP
   C07C 271/28 20060101ALI20160216BHJP
   C08F 20/30 20060101ALI20160216BHJP
   C08F 8/50 20060101ALI20160216BHJP
   C08F 220/30 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
   C07D323/00CSP
   C07C271/28
   C08F20/30
   C08F8/50
   C08F220/30
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-91486(P2011-91486)
(22)【出願日】2011年4月15日
(65)【公開番号】特開2012-224559(P2012-224559A)
(43)【公開日】2012年11月15日
【審査請求日】2014年4月9日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.平成23年1月7日発表 主催者 国立大学法人東京工業大学 東京工業大学 大学院理工学研究科有機・高分子 物質専攻 2010年度博士論文公聴会
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】山縣 悠介
(72)【発明者】
【氏名】高田 十志和
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼坂 泰弘
【審査官】 品川 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−068032(JP,A)
【文献】 特開2006−028103(JP,A)
【文献】 特開2003−137881(JP,A)
【文献】 特開2003−073349(JP,A)
【文献】 特開2009−067699(JP,A)
【文献】 特開2004−083726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 323/00
C07C 271/28
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの重合活性基を有し、
(−CH−CH−O−)
(式中、nは7〜10の整数である。)
で表された構造を有し且つ環の員数が21〜30である2つのクラウンエーテル分子からなる輪成分と、
該輪成分の空孔部分を貫通する、一般式(I)
[R−R−N−R−N−R−R]・2X ・・・(I)
(式中、Rはクラウンエーテルの空孔以上の嵩高さをもつ一価の基であり、Rはクラウンエーテルの空孔を貫通する二価の基からなる直鎖部であり、Rは二価の基、Rはtert−ブチル基、4−tert−ブチルフェニル基、シクロヘキシル基又はネオペンチル基、Xは一価の陰イオンである。)
で表される軸成分とを備えることを特徴とするロタキサン。
【請求項2】
前記Rが、tert−ブチル基、3,5−ジ−tert−ブチルフェニル基又は3,5?ジメチルフェニル基であることを特徴とする請求項1に記載のロタキサン。
【請求項3】
請求項1に記載のロタキサンを有することを特徴とする架橋剤。
【請求項4】
請求項3に記載の架橋剤を用いて、前記重合活性基と反応する重合性基を有するモノマーを架橋させることを特徴とするポリマー成分の架橋方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法によって得られることを特徴とする架橋ポリマー。
【請求項6】
請求項5の架橋ポリマーを、アンモニウム塩部位の中和によって分解することを特徴とする架橋ポリマーの分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの重合活性基を有するクラウンエーテル分子からなる輪成分と、末端に輪成分の空孔サイズと相補的な置換基を有する軸成分とを備えるロタキサン、該ロタキサンからなる架橋剤、該架橋剤を利用した架橋方法、該架橋方法により架橋して得られた架橋ポリマー、及び該架橋ポリマーの分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物理架橋又は化学架橋によって架橋体が得られ、ゲルや、ビーズなどとして利用されている。ここで、物理架橋体については、時間の経過や条件によって性質が変化しやすいという問題があり、一方、化学架橋体については、架橋点が化学結合で固定されているため構造や性質が強固であるものの、同時にその変性や分解が難しいという問題があることから、改善が望まれている。
【0003】
従来、図1に示すように軸成分1が輪成分2に貫通し、軸成分1の両端に輪成分2が抜けないようにエンドキャップ3が結合した構造を有する化合物が知られており、該化合物はロタキサンと呼ばれている。ここで、軸成分1と輪成分2とは、機械的結合によって繋がっていると表現されている。上記輪成分2は軸成分1上で、回転や並進運動を自由に行うことができるため、例えば、外部刺激により輪成分2の位置を制御して、分子スイッチ等への応用が研究されている。なお、軸成分1の一方の末端にエンドキャップ3がない場合や、エンドキャップ3の嵩高さが不十分である場合、ロタキサン構造における軸成分1と輪成分2が分かれることがあり、このような化合物は擬ロタキサンと呼ばれ、熱力学的に不安定な化学種であることが知られている。
【0004】
上記ロタキサンを用いた架橋ポリマーとして、例えば特許文献1では、ロタキサン構造を有する架橋剤と反応性のポリマーから得られ、機械的に架橋された架橋ポリマーが開示されている。該架橋体については、物性が高く、新規なゲル素材として期待されている。
【0005】
また、特許文献2では、環状構造を複数有するポリマーに、該ポリマーの環状構造の空洞部の径と同程度のサイズの基を末端に有する軸成分を貫通させたポリ擬ロタキサンを前駆体とする、架橋体の合成方法、及びその解架橋方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-28103号公報
【特許文献2】特開2010-209301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の技術は、いずれも反応性ポリマーによる高分子反応を利用しているため、架橋できる対象が限定され、架橋度や架橋体の性質を自由に制御できないという問題があった。さらに、特許文献1の技術によって得られた架橋体は、非共有結合により機械的にポリマーを架橋しているものの、軸成分の末端に輪成分の空孔よりも嵩高い基が導入されていることから、架橋構造が極めて安定化しており、その解架橋が困難であるため、さらなる改善が望まれていた。
【0008】
そこで本発明の目的は、輪成分及び軸成分の適正化を図ることで、既存のモノマーとの重合によって架橋度及び性質が制御された機械的な架橋構造を持つ架橋ポリマーを製造できるとともに、該架橋ポリマーを解架橋できるロタキサン、該ロタキサンからなる架橋剤、該架橋剤を利用した架橋方法、該架橋方法により架橋して得られた架橋ポリマー、及び該架橋ポリマーの分解方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、少なくとも1つの重合活性基を有する2つのクラウンエーテル分子からなる輪成分と、該輪成分の空孔部分を貫通する、一般式(I)
[R−R−N−R−N−R−R]・2X ・・・(I)
(式中、Rはクラウンエーテルの空孔以上の嵩高さをもつ一価の基であり、Rはクラウンエーテルの空孔を貫通する二価の基からなる直鎖部であり、Rは二価の基、Rはクラウンエーテルの空孔と相補的な嵩高さをもつ一価の基、Xは一価の陰イオンである。)
で表される軸成分とを備えるロタキサンを用いることで、既存のモノマーとの重合によって架橋度及び性質が制御された機械的な架橋構造を持つ架橋ポリマーを製造できるとともに、該架橋ポリマーを解架橋できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下の通りである。
(1)少なくとも1つの重合活性基を有し、
(−CH−CH−O−)
(式中、nは7〜10の整数である。)
で表された構造を有し且つ環の員数が21〜30である2つのクラウンエーテル分子からなる輪成分と、
該輪成分の空孔部分を貫通する、一般式(I)
[R−R−N−R−N−R−R]・2X ・・・(I)
(式中、Rはクラウンエーテルの空孔以上の嵩高さをもつ一価の基であり、Rはクラウンエーテルの空孔を貫通する二価の基からなる直鎖部であり、Rは二価の基、Rはtert−ブチル基、4−tert−ブチルフェニル基、シクロヘキシル基又はネオペンチル基、Xは一価の陰イオンである。)
で表される軸成分とを備えることを特徴とするロタキサン。
【0011】
(2)前記Rが、tert−ブチル基、3,5−ジ−tert−ブチルフェニル基又は3,5−ジメチルフェニル基であることを特徴とする上記(1)に記載のロタキサン。
【0012】
(3)上記(1)に記載のロタキサンを有することを特徴とする架橋剤。
【0013】
(4)上記(3)に記載の架橋剤を用いて、前記重合活性基と反応する重合性基を有するモノマーを架橋させることを特徴とするポリマー成分の架橋方法。
【0014】
(5)上記(4)に記載の方法によって得られることを特徴とする架橋ポリマー。
【0015】
(6)上記(5)の架橋ポリマーを、アンモニウム塩部位の中和によって分解することを特徴とする架橋ポリマーの分解方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、既存のモノマーとの重合によって架橋度及び性質が制御された機械的な架橋構造を持つ架橋ポリマーを製造できるとともに、該架橋ポリマーを解架橋できるロタキサン、該ロタキサンからなる架橋剤、該架橋剤を利用した架橋方法、該架橋方法により架橋して得られた架橋ポリマー、及び該架橋ポリマーの分解方法を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ロタキサンの構造を模式的に示した図である。
図2】実施例1の架橋ポリマーから得られた白色固体の、H NMRスペクトルを示した図である。
図3】実施例1の架橋ポリマーから得られた白色固体の、GPC(ゲル浸透クロマトグラフ分析)の校正曲線を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の構成と限定理由について説明する。
【0019】
<ロタキサン>
本発明によるロタキサンは、少なくとも1つの重合活性基を有する2つのクラウンエーテル分子からなる輪成分と、
該輪成分の空孔部分を貫通する、一般式(I)
[R−R−N−R−N−R−R]・2X ・・・(I)
(式中、Rはクラウンエーテルの空孔以上の嵩高さをもつ一価の基であり、Rはクラウンエーテルの空孔を貫通する二価の基からなる直鎖部であり、Rは二価の基、Rはクラウンエーテルの空孔と相補的な嵩高さをもつ一価の基、Xは一価の陰イオンである。)
で表される軸成分とを備えることを特徴とする。
【0020】
上記構成を具えることで、クラウンエーテル1つあたりの官能基数を調整することで、所望の重合活性基の数が得られるため、既存のモノマーとの重合により、要求に応じた架橋度及び性質に制御された機械的な架橋構造を持つ架橋ポリマーを製造でき、さらに、前記軸成分中にクラウンエーテルの空孔サイズと相補的なサイズをもつ置換基を有するため、特定の条件下で架橋ポリマーを容易に解架橋でき、可溶性ポリマーに変換可能である。
【0021】
以下、本発明によるロタキサンの各成分について説明する。
(輪成分)
本発明によるロタキサンの輪成分は、少なくとも1つの重合活性基を有する2つのクラウンエーテル分子からなる。
前記軸成分の両末端に存在する置換基(R及びR)により、通常の条件下では輪成分は軸成分上から脱離することができず、軸成分上に保持される。
【0022】
前記輪成分を構成するクラウンエーテル分子は、一般構造式(−CH−CH−O−)で表される大環状のエーテルである。該クラウンエーテル分子の環の員数は、21〜30であることが好ましく、24であることがより好ましい。該クラウンエーテル分子の環には炭素原子および酸素原子だけでなく、窒素原子、硫黄原子などが存在していてもよい。前記クラウンエーテル分子の具体例として、例えば、ジベンゾ−24−クラウン−8−エーテル、24−クラウン−8−エーテル、ベンゾ−24−クラウン−8−エーテル、ビス(ビナフチル)−28−クラウン−8−エーテル、ビス(ビフェニル)−28−クラウン−8−エーテル、ジシクロヘキシル−24−クラウン−8−エーテル、ベンゾ/ビナフチル−24−クラウン−8−エーテルなどが挙げられ、その中でも、ジベンゾ−24−クラウン−8−エーテル、24−クラウン−8−エーテル、ベンゾ−24−クラウン−8−エーテル、ジシクロヘキシル−24−クラウン−8−エーテルを用いることが好ましい。
【0023】
前記重合活性基としては、例えば、ビニル基、エチニル基、エポキシ基、オキセタン基が挙げられる。
前記クラウンエーテル1個あたりの官能基の数は、1以上で、かつ、構造上可能である限り特に制限されない。通常、1〜8の範囲で容易に制御することができる。架橋点となる重合活性基の数は、クラウンエーテル一個当りの官能基数を調節することによって変えることができ、架橋剤としてどのような挙動、どの程度の架橋点数が求められるか、個別の要求に応じて制御することが可能である。通常は、クラウンエーテル1分子当り、重合活性基数が1であり、ロタキサン全体としては重合活性基数が2であることが好ましい。なお、前記輪成分を構成するそれぞれのクラウンエーテル分子上の官能基の数は、同じであっても、異なっても構わない。
【0024】
前記クラウンエーテル分子の具体例としては、下記式(II)及び(III)の化合物が挙げられる。
【化1】
【化2】
【0025】
また、本発明の輪成分は、2つのクラウンエーテル分子からなるが、その理由としては、2本のポリマー鎖を非共有結合を介して機械的に連結するためである。
【0026】
(軸成分)
本発明によるロタキサンの軸成分は、一般式(I)で表される。
[R−R−N−R−N−R−R]・2X ・・・(I)
(式中、Rはクラウンエーテルの空孔以上の嵩高さをもつ一価の基であり、Rはクラウンエーテルの空孔を貫通する二価の基からなる直鎖部であり、Rは二価の基、Rはクラウンエーテルの空孔と相補的な嵩高さをもつ一価の基、Xは一価の陰イオンである。)
【0027】
上記式(I)において、Rは、本発明のロタキサンの輪成分を、前記輪成分を構成するクラウンエーテル分子の空孔と同程度以上の嵩高さを持つ一価の基であれば、特に制限されない。例えば、tert−ブチル基、3,5−ジ−tert−ブチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基などが挙げられる。
【0028】
上記式(I)において、Rは、クラウンエーテルの空孔を貫通する二価の基からなる直鎖部である。前記クラウンエーテルの空孔を貫通するものであれば特に制限はされず、例えば、メチレン基、イソプロピレン基、p−フェニレン基、m−フェニレン基、エーテル基、エステル基、アミド基等が挙げられる。
【0029】
上記式(I)において、Rは、二価の基であり、ベンゼン環以上の長さを持った2価の基であることが好ましい。具体的には、−C−CH−C−、p−フェニレン基、ヘキサメチレン基、テトラメチレングリコール基、トルイル基等が挙げられる。
【0030】
上記式(I)において、Rは、前記輪成分を構成するクラウンエーテルの空孔と相補的な嵩高さをもつ一価の基である。ここで、クラウンエーテルの空孔との相補的な嵩高さとは、最安定配座においては、前記クラウンエーテルの空孔を貫通しない嵩高さであるが、特定の配座においては、前記クラウンエーテルの空孔を貫通する嵩高さを意味する。具体的な種類については特に限定はされない。例えば、好適なクラウンエーテル分子であるジベンゾ−24−クラウン−8−エーテル、24−クラウン−8−エーテル、ベンゾ−24−クラウン−8−エーテル、ジシクロヘキシル−24−クラウン−8−エーテルに対して相補的な嵩高さを有する点から、最大外接半径が4.0〜5.0Åの置換基、特に、tert−ブチル基、4−tert−ブチルフェニル基、シクロヘキシル基、ネオペンチル基等が好ましい。
【0031】
上記式(I)において、Xは、ロタキサン構造を安定化できるソフトな陰イオンであれば、特に制限はされない。具体的には、ヘキサフルオロリン酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、トリフルオロ酢酸アニオン等が挙げられる。
【0032】
上記式(I)で示される本発明の軸成分としては、例えば、下記式(IV)で表されるアンモニウム塩が挙げられる。
【化3】
【0033】
<架橋剤>
本発明による架橋剤は、上述したロタキサンを有することを特徴とする。
前記ロタキサンの効果により、既存のモノマーとの重合によって架橋度及び性質が制御された機械的な架橋構造を持つ架橋ポリマーを製造できるとともに、製造された架橋ポリマーについては解架橋が可能である。
なお、前記架橋剤については、前記ロタキサンのみからなるものでも、他の架橋剤と混合したものであっても良い。
【0034】
<架橋方法、架橋ポリマー>
本発明による架橋方法は、上述の架橋剤を用いて、前記ロタキサン中の重合活性基と反応する重合性基を有するモノマーを架橋させることを特徴とする。架橋の条件については、本発明の架橋剤を用いること以外は特に限定されず、要求に応じて適した条件で行うことができる。
そして、上記架橋方法によって、本発明による架橋ポリマーを得ることができる。
【0035】
<架橋ポリマーの分解方法>
本発明による架橋ポリマーの分解方法は、上述の架橋ポリマーを、アンモニウム部位を中和することによって分解することを特徴とする。具体的には、ハロゲン化物イオンへのイオン交換又は塩基による中和等が挙げられる。従来の架橋ポリマーについては、架橋構造が極めて安定化されているため、解架橋が困難であったが、本発明では、前記ロタキサン中のRはクラウンエーテルの空孔と相補的な嵩高さをもつ一価の基によって、特定条件下で解架橋が可能となる。解架橋により得られる均一溶液をポリマー成分の貧溶媒へ再沈殿することで、可溶性ポリマーを回収することが可能である。
解架橋の条件については、例えば、架橋点のアンモニウム部位における対アニオンを上記式(I)におけるXからフッ化物イオンに交換すると、定量的に架橋鎖(軸成分)の脱離による解架橋が達成できる。対アニオンの交換は、例えばテトラブチルアンモニウムフッ化物塩溶液の添加により容易に実現できる。
【0036】
上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、特許請求の範囲の記載内容に応じて種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例をあげて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1>
(輪成分の合成例)
下記式(V)で表されるクラウンエーテル化合物(5.0g、10mmol)とカレンズMOI(登録商標)(3.0mL、21mmol)のジクロロメタン(100mL)溶液に、ジラウリル酸ジ−n−ブチルすず(0.61mL、1.0mmol)を加え、25oCで13時間攪拌した。反応混合物を10mL程度まで濃縮してからヘキサン(100mL)に再沈殿し、得られた沈殿を回収した。これを、イソプロパノール、トルエン、ヘキサンの混合溶媒で再結晶させることで、下記式(VI)で表されるクラウンエーテル誘導体(10mmol、96%)を無色球状結晶として得た。
mp 95.0-102.8 oC; 1H NMR (400 MHz, 298K, CDCl3) d 6.91-6.81 (m, 7H, Ar-H), 6.10 (s, 1H, CH2=C),5.58 (s, 1H, CH2=C), 5.03 (br, 1H, N-H), 5.00 (s, 2H, ArCH2), 4.23 (t, J = 5.2 Hz, -COOCH2-), 4.16-4.14 (m, 8H, ArOCH2-), 3.93-3.91 (m, 8H, ArOCH2CH2), 3.53-3.49 (m, 8H, ArCH2CH2OCH2-), 3.51 (d, J = 5.2 Hz, -NHCOOCH2-), 1.93 (s, 3H, Me) ppm; 13C NMR (100 MHz, 298 K, CDCl3), d 167.2, 156.2, 148.9, 148.8 (2), 135.8, 129.2, 126.0, 121.6, 121.3, 114.2, 113.9, 113.5, 71.2 (2), 69.8 (2), 69.4, 69.3, 66.8, 63.6, 40.1, 18.2 ppm; IR (KBr) 3315 (N-H), 3066 (C-H), 2930 (C-H), 1715 (C=O), 1693 (C=O), 1255 (N-H), 1173 (C-O) cm-1; FAB-HRMS (NBA) m/z calcd for C32H43NO12 [M+] 633.2777; found, 633.2785.
【0038】
【化4】
【0039】
(軸成分の合成例)
4-(アミノメチル)安息香酸9.06g(60.0mmol)をメタノール400mLに溶かし、塩化チオニル20mLを滴下した後、12時間還流した。余剰の塩化チオニル及び溶媒を減圧留去して白色固体を得た後、これを酢酸エチルで洗浄し、真空乾燥後8.16gの4−(メトキシカルボニル)ベンジルアンモニウム塩酸塩を得た。
1H NMR(400MHz,298K,CD3OD):δ 8.51 (br,3H),7.97 (d,J = 12.0Hz,2H,Ar-H)
,7.62 (d,J = 12.0Hz,2H,Ar-H),4.09 (s,2H,ベンジル位),3.82 (s,3H,メチル
基) ppm.
次に、4−(メトキシカルボニル)ベンジルアンモニウム塩酸塩4.02g(20.0mmol)を脱水テトラヒドロフラン60mLに溶解し、トリエチルアミン10mLを加えた。ここにピバリン酸クロリド2.40g(20.0mmol)と脱水テトラヒドロフラン30mLとの溶液を0℃で加え、室温で一晩攪拌した。反応液に1M塩酸を酸性になるまで加え、酢酸エチル200mLで抽出した。溶媒を減圧留去し、残渣を真空乾燥して、N−(4−(メトキシカルボニル)ベンジル)ピバルアミドの白色固体4.87g(収率98.1%)を得た。
1H NMR(400MHz,298K,アセトン-d6):δ 8.00 (d,J = 7.08Hz,2H,-OCO-Ar-H),7.3
1 (d,J = 7.08Hz,2H,-CH2-Ar-H),6.19 (br,1H,N-H),4.50,4.48 (s,1H×2,ベン
ジル位のプロトン),3.93 (s,3H,Me),1.20 (s,9H,tBu) ppm.
次に、N−(4−(メトキシカルボニル)ベンジル)ピバルアミド4.87g(19.6mmol)と脱水テトラヒドロフラン90mLとの溶液を、脱水テトラヒドロフラン90mL中に水素化リチウムアルミニウム2.73g(72.0mmol)を懸濁させた溶液に0℃で滴下した。反応液を12時間還流し、室温まで冷却した後、飽和硫酸ナトリウム水溶液で余剰の水素化リチウムアルミニウムを処理した。ろ過により沈殿物を除去し、ろ液をクロロホルム250mLで2回抽出し、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去した後、得られた無色オイルを20mLのメタノールに溶かし、氷浴下で10質量%ヘキサフルオロリン酸水溶液30mLを加え、さらに水を沈殿の析出が止まるまで加えた。ろ過により沈殿を回収し、真空乾燥によりによって、下記式(VII)で表されるアンモニウム塩5.06g(収率73%)を得た。
【0040】
(ロタキサンの合成例)
上記式(VI)で表されるクラウンエーテル誘導体(0.253g、0.400mmol)と上記式(VII)で表されるアンモニウム塩(0.141g、0.400mmol)のジクロロメタン溶液(2.0mL)に4,4−メチレンビスイソシアナート(50.0mg、0.200mmol)を加え、ジラウリル酸ジ−n−ブチルスズ(15μL)を入れて25oCで12時間攪拌した.反応溶液を濃縮し,クロロホルム(3.0mL)に溶かして,分取GPCで精製し下記式(VIII)で表されるロタキサン(0.272g、61.1%)を白色固体として得た。
1H NMR (400 MHz, 298 K, CDCl3) 7.58 (d, J = 7.7 Hz, 4H), 7.25-7.24 (m, 8H), 7.07 (d, J = 8.0 Hz, 4H), 7.01 (d, J = 8.0 Hz, 4H), 6.92-6.77 (m, 14H), 6.09 (s, 2H), 5.78 (s, 2H), 5.09 (s, 4H), 5.00 (s, 4H), 4.69-4.61 (m, 4H), 4.22-4.14 (m, 16H), 3.90 (s, 8H), 3.85 (s, 4H), 3.81 (s, 8H), 3.75 -3.74 (m, 8H), 3.51-3.49 (m, 8H), 3.25-3.23 (m, 4H), 3.03-3.00 (m, 4H), 1.93 and 1.90 (s, 6H), 1.64 (s, 18H) ppm.
【0041】
【化5】
【0042】
<実施例1>
上記式(VIII)で表されるロタキサン(0.224g、0.100mmol)と、メタクリル酸メチル(0.513mL、4.80mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(0.5mL)溶液を凍結脱気し、アゾビスイソブチロニトリル(8mg、50μmol)を加えた。アルゴン雰囲気下、60oCで12時間攪拌した。その後、得られたゲルをクロロホルムとメタノールに交互に浸して2回洗浄を行い、真空乾燥することで、架橋ポリマー(0.612g、83%)を作製した。なお、作製した架橋ポリマーのガラス転移点は、T163℃、5%重量分解温度は、Td5211℃であった。
【0043】
<実施例2>
上記式(VIII)で表されるロタキサン(0.112g、0.050mmol)と、N,N−ジメチルアクリルアミド(0.257mL、2.40mmol)溶液を凍結脱気し、アゾビスイソブチロニトリル(4mg、25μmol)を加えた。アルゴン雰囲気下、60oCで12時間攪拌した。その後、得られたゲルをクロロホルムとメタノールに交互に浸して2回洗浄を行い、真空乾燥することで、架橋ポリマー(0.275g、76.3%)を作製した。なお、作製した架橋ポリマーのガラス転移点は、T98.8℃、5%重量分解温度は、Td5226℃であった。
【0044】
<評価1>
各実施例において作製された架橋ポリマー20mgを正確に秤量し、大量の溶媒(表第1を参照。)に浸漬して12時間25℃で静置した。その後、デカンテーションにより溶媒を取り除き、残ったゲル(架橋ポリマー)の重量を秤量し次式から重量膨潤度を算出した。
重量膨純度(%)=(膨潤時の重量−乾燥時の重量)/乾燥時の重量×100
重量膨潤度の算出結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1の結果から、実施例1及び2とで、膨潤度の大きく異なる架橋ポリマーが得られた。その結果、既存のモノマーから、架橋度及び性質の異なる架橋ポリマーが得られることがわかった。特に、実施例1の架橋ポリマーがクロロホルムによく膨潤するオルガノゲルであったのに対して、実施例2の架橋ポリマーは、水によく膨潤するヒドロゲルであることがわかった。
【0047】
<評価2>
実施例1及び2において作製された架橋ポリマー15mgを、0.1mol/Lに調製したテトラブチルアンモニウムフッ化物塩三水和物のN,N−ジメチルホルムアミド溶液に浸した後、60℃で12時間加熱を行った。反応溶液を、水(40mL)へ再沈殿させ、得られた沈殿物をジクロロメタン(0.5mL)に溶かして、メタノール又はエーテル(40mL)へ再沈殿させたところ、白色固体が回収された。
【0048】
実施例1の架橋ポリマーから得られた白色固体は、図2に示すH NMRスペクトル及び図3のGPC曲線から、実施例1で得た架橋ポリマーが解架橋したポリマーであることがわかった。3.6ppmの−OCHのピークとクラウンエーテル由来のeのピークから算出した架橋度は3.4%であり、架橋度を4%に設定した仕込み比とほぼ一致した。また、SECでは単峰性のピークを与え、完全に解架橋が進行したことが示唆された。このポリマーの数平均分子量(M)と分子量分布(M/M)は、それぞれ、M:4.48×10、M/M:1.77であった。
【0049】
実施例の架橋ポリマーから得られた白色固体は、クロロホルムに可溶であり、H NMRスペクトルから、実施例2で得た架橋ポリマーが解架橋したポリマーであることがわかった。積分比から求めた架橋度は1.5%であり、SECでは単峰性のピークを与え、完全に解架橋が進行したことが示唆された。このポリマーの数平均分子量(M)と分子量分布(M/M)は、それぞれ、M:5.05×10、M/M:1.70であった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、既存のモノマーとの重合によって架橋度及び性質が制御された機械的な架橋構造を持つ架橋ポリマーを製造できるとともに、該架橋ポリマーを解架橋できるロタキサン、該ロタキサンからなる架橋剤、該架橋剤を利用した架橋方法、該架橋方法により架橋して得られた架橋ポリマー、及び該架橋ポリマーの分解方法を提供することが可能となり、産業上有用である。
【符号の説明】
【0051】
1 軸成分
2 輪成分
3 エンドキャップ
図1
図2
図3