【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、土壌に含まれる水分のイオン濃度を特定すべく鋭意検討を重ねてきた。
本発明者らは一対の電極間に印加する電気信号の位相変化に着目した。
その結果、当該位相変化は、水分量の如何にかかわらず、水分に含まれるイオン濃度と一定の関係を有することを見出した。
既述のように、土壌においては全ての水分が連続しているとかぎらないので、土壌に電極を接触させてその間の電気抵抗を単に測定するだけでは土壌に含まれる水分の電気伝導度、ひいては土壌中の水分のイオン濃度を正確に特定することはできない。
これに対し、位相変化を測定すれば、土壌における水分量の如何にかかわらず、水分に含まれるイオン濃度を特定できる。
【0006】
図1に示す一対の電極の下面を測定対象に接触させ、一方の電極へ所定周波数の入力電気信号を印加し、他方の電極から出力電気信号を検出する。そのときの、両者の位相変化θは次の式1で表わされる。
【数1】
ここにおいて、水溶液の特性は次のように表わされるものとする。
【数2-1】
【数2-2】
【数2-3】
但し、Zは水溶液のインピーダンス、Rは水溶液における電極間の抵抗、Cは水溶液における電極間の容量を示す。
【0007】
上記式1において、周波数が固定であればω及びεは定数となり、結果として、位相変化θは抵抗率ρのアークタンジェントに比例する。換言すれば、位相変化θは電気伝導度σ(=1/ρ)の逆数のアークタンジェントに比例する。
電気伝導度σは水溶液中のイオン濃度に比例するので、結果として、位相変化θはイオン濃度の逆数のアークタンジェントに比例することとなる。このとき、インピーダンスZは何ら影響しない。
なお、より厳密にいえば、イオン濃度の変化に伴い水溶液の誘電率εも変化するが、その変化率は水自体の誘電率に比べて極めて小さいので無視することができる。
【0008】
図2は、周波数を固定したときの水分量に対する位相変化、イオン濃度に対する位相変化の測定結果である。
水分量1.0は水溶液の状態を示し、例えば水分量0.4は単位体積のロックウール対してその40容量%の水溶液を含浸させたこを示す。
図2の結果は、25μm×4mmのアルミニウムの一対を875μmの間隔で配置したもので測定した。
図2の結果は、位相変化θが水分量に依存せず、イオン濃度の逆数のアークタンジェントにのみ比例することを示している。
これにより、位相変化θに基づき土壌中の水分のイオン濃度を特定できることがわかる。
【0009】
土壌を水分中に土成分と空気とが分散しているものと考えれば、上記の知見は、水等の溶媒Aに他の成分Bを分散させた系において、溶媒Aに溶解したイオン性の溶質Cの濃度が位相変化から特定できることを意味する。ここに、成分Bと成分Aとは電気伝導度とが異なり、成分Bは成分Aに溶解していない。
水分量に無関係であるので、水溶液自体(即ち、何ら他の不溶成分を含まないもの)についてのイオン濃度を位相変化から求めることもできる。
【0010】
この発明の第1の局面は次のように規定される。
溶媒中に該溶媒に溶解しない不溶成分を分散した分散系において、前記溶媒に含まれる溶質の濃度を特定する方法であって、
前記分散系に一対の電極を接触させ、
前記電極の一方へ交流の入力電気信号を印加し、
前記電極の他方からの出力電気信号の位相と前記入力電気信号の位相とを比較し、
前記位相の比較結果に基づき、前記溶媒に含まれる溶質の濃度を特定する、濃度特定方法。
【0011】
上記において、溶媒は溶質を溶解できるものであれば特に限定されない。水の他、アルコールやエーテル等の油系の溶媒を用いることもできる。
溶質は溶媒に溶解してイオン化し、溶解量に応じて
溶媒の電気伝導度を変化させるものとする。
不溶成分は溶媒に溶解せず、溶媒に対して物理的に独立して溶媒中に分散していれば気体、液体、固体を問わない。ただ、不溶成分は高い電気抵抗を有するものか若しくは絶縁体とする。不溶成分が導電性を備えると、分散系の電気伝導度が当該不溶成分に支配され、求めるところの溶媒の電気伝導度、ひいては溶質の濃度を得られないからである。また、不溶成分に対し溶媒の比誘電率は十分高いものとする。溶媒が不溶成分と同じ程度もしくは小さい比誘電率であった場合、不溶成分に支配され、求めるところの水分量に支配されない濃度の計測が得られないからである。
かかる不溶成分として、固体状の無機材料及び高分子材料、更には空気その他のガスを用いることができる。水を溶媒としたときは油成分を不溶成分とすることができ、また、その逆も可なりである。
【0012】
分散系として土壌を採用したときは、溶媒が水、溶質がリンやカリウム等のイオン、不溶成分は固体成分(粘土やその二次粒子等からなる無機物、生物の屍骸等からなる有機物)や固体成分の空隙に存在する空気からなる。上記固体成分をこの明細書で「土成分」とよび、間隙に存在する空気を「空気成分」とよぶ。
分散系において不溶成分は溶媒に対して必ずしも均一に分散していなくてもよい。
【0013】
分散系に接触させる電極は、分散系に対して化学的に安定とすることが好ましく、例えば、金、白金等の貴金属及びその合金や炭素で形成することができる。
入力電気信号は電極の一方(第1の電極)へ入力する。入力電気信号は交流信号であり、濃度測定時にはその周波数を一定にすることが好ましい。
電極の他方(第2の電極)からの出力電気信号を検出し、入力電気信号と出力電気信号との位相を比較する。比較の一態様として両者の位相差を検出する。
【0014】
土壌においてその水分量の特定も重要である。
ここに、汎用的な電気伝導度センサによる測定結果を
図3に示す。
図3の結果より、電気伝導度(EC)センサの出力は水分量及びイオン濃度に比例することがわかる。
このことは、
【数3】
より明らかである。
1/ρ=σ(電気伝導度)のアークタンジェント∝イオン濃度であり、誘電率εは水分量に比例するからである。
【0015】
従って、イオン濃度が特定されれば、測定された電気伝導度より水分量を特定できることがわかる。
よって、位相変化θよりイオン濃度を特定し、特定されたイオン濃度を基準にして、測定された電気伝導度より土壌の水分量を特定できる。
水分量の特定においても土壌は分散系の一例に過ぎないことは既述の通りである。
【0016】
以上の知見に基づき、この発明の第4の局面は次のように規定される。即ち、
前記分散系の電気伝導度を測定し、
得られた前記電気伝導度と第1〜3局面の何れかに記載の濃度特定方法で特定された溶媒中のイオン性溶質の濃度とに基づき、前記分散系中の溶媒量を特定する、分散系中の溶媒量特定方法。
【0017】
上記、溶媒量特定方法を実行するための溶媒量特定装置として、第5の局面を提案する。
半導体基板と、
該半導体基板上に絶縁層を介して第1の電極対と第2の電極対とが配置され、
前記第1の電極対に接続されて、該第1の電極対間の位相変化を特定する位相変化特定部と、
前記半導体基板の特定位相変化に基づき、前記位相変化特定部で特定された位相変化を補正する位相変化補正部と、
前記第2の電極対に接続されて、該第2の電極対間の電気伝導度を特定する電気伝導度特定部と、
前記半導体基板の特定電気伝導度に基づき、前記電気伝導度特定部で特定された電気伝導度を補正する電気伝導度補正部と、
を備える溶媒量特定装置。
【0018】
本発明者らは土壌の水分に含まれるイオン濃度と水分量とを特定する他の方式も検討してきた。以下に説明する。
水分量は単位体積の土壌において土と空気の容積を差し引いた部分であるが、土壌中の水分にはカリウムイオン、リン酸イオン等をはじめてとして各種のイオンが含まれているので、電気信号を処理して水分量を特定する際には水分のイオン濃度(以下、単に「濃度」ということがある)を無視することができない。
土壌に含まれる水分のイオン濃度が特定できれば、水分量を特定する際に当該イオン濃度の影響を補正することができると考えられる。水分のイオン濃度は電気伝導度より特定可能であるが、土壌中において全ての水分が連続しているとは限らないので、換言すれば測定された土壌の電気伝導度には土壌中の土や空気の量(即ち、単位体積当たりの土壌から水分量を除いた量)が影響するので、土壌の電気伝導度を単に測定するだけでは土壌に含まれる水分の
イオン濃度を正確に特定することはできない。
以上説明したように、水分量を特定する際には電気伝導度が影響し、電気伝導度を特定する際には水分量が影響する。よって、それぞれの特性を単独で測定しても、得られた値には誤差が含まれてしまう。
かかる課題を解決すべく鋭意検討を重ねてきた結果、これらの関係を水分量と電気伝導度の連立方程式と見立てることに気がついた。即ち、同じ土壌から実測した水分量(見掛け上の水分量WC1)と電気伝導度(見掛け上の電気伝導度EC1)を同時に処理することにより、土壌における真の水分量WC0及び真の電気伝導EC0とを推定できると考えた。
水分量を測定するときに利用する指標として電気伝導度の影響が比較的小さい静電容量値Qを用いることとした。なお、この明細書及び請求の範囲において静電容量を単に「容量」ということがある。
【0019】
本発明の第6の局面は次のように規定される。
半導体基板と、
該半導体基板上に絶縁層を介して第1の電極対と第2の電極対とが配置され、
前記第1の電極対に接続されて、該第1の電極対間の電気伝導度を特定する電気伝導度特定部と、
前記第2の電極対に接続されて、該第2の電極対間の静電容量を特定する静電容量特定部と、を備える土壌の水分状態特定装置。
【0020】
このように規定される第6の局面の水分状態特定装置によれば、電気伝導度ECを測定するための第1の電極対と静電容量を測定するための第2の電極対とが同一の半導体基板上に配置されるので、土壌に対して同一の条件でその電気伝導度と静電容量Qを測定できる。よって、実測された電気伝導度(見掛け上の電気伝導度EC1)及び静電容量Q(見掛け上の静電容量Q1;見掛け上の水分量WC1に対応))を処理して得られる真の電気伝導度EC0の推定値及び真の水分量WC0の推定値に高い信頼性を確保できる。
【0021】
この発明の第7の局面は次のように規定される。即ち、第6の局面に規定の装置において、前記第1の電極対の内側に前記第2の電極対が配置される。
このように規定される第7の局面の水分状態特定装置によれば、第1及び第2の電極対の配置を可久的に小さくできる。
なお、第1の電極対と第2の電極対は基板上において同一の空間を測定できれば、その配置態様は特に限定されるものではない。装置をコンパクトにする見地から第2の局面の構成を採用することが好ましいが、その他、第2の電極対の内側に第1の電極対を配置したり、互い違いに配置することもできる。更には、第1の電極対の向きと第2の電極対の向きとを直交させることもできる。
【0022】
この発明の第8の局面は次のように規定される。即ち、第6又は第7の局面に規定の装置において、前記第1及び第2の電極対は相互に絶縁層でアイソレートされ、該絶縁層の表面が親水化処理される。
このように絶縁層の表面を親水化処理することにより、各電極対に対する土壌中の水分のなじみやすくなり、測定レンジが拡大する。
親水化処理の方策は特に限定されるものではないが、絶縁層の表面に親水性の層(酸化シリコン膜等)を形成すればよい。