特許第5871238号(P5871238)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5871238プロトン伝導体及びプロトン伝導体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5871238
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】プロトン伝導体及びプロトン伝導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/02 20160101AFI20160216BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20160216BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20160216BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20160216BHJP
【FI】
   H01M8/02 M
   H01B1/06 A
   H01B13/00 Z
   !H01M8/10
【請求項の数】11
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2012-525430(P2012-525430)
(86)(22)【出願日】2011年7月22日
(86)【国際出願番号】JP2011066666
(87)【国際公開番号】WO2012011552
(87)【国際公開日】20120126
【審査請求日】2014年7月16日
(31)【優先権主張番号】特願2010-165497(P2010-165497)
(32)【優先日】2010年7月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104178
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100152515
【弁理士】
【氏名又は名称】稲山 朋宏
(72)【発明者】
【氏名】呉 松烈
(72)【発明者】
【氏名】吉田 敏宏
(72)【発明者】
【氏名】河村 剛
(72)【発明者】
【氏名】松田 厚範
(72)【発明者】
【氏名】武藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】内堀 大輔
【審査官】 藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−084159(JP,A)
【文献】 特開2007−073475(JP,A)
【文献】 特開2009−181716(JP,A)
【文献】 特開2005−071961(JP,A)
【文献】 特開2009−016156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00 − 8/24
H01B 1/00 − 1/24
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキソ酸の酸性塩を含む無機固体酸塩と、アゾール、ジアゾール、トリアゾール、テトラゾール、アゾール誘導体、ジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、およびテトラゾール誘導体のうちいずれかを含むアゾール化合物との複合体を有するプロトン伝導体であって、
前記複合体は、
前記無機固体酸塩のうち、アルカリ金属イオンまたはアンモニウムイオンを含む前記オキソ酸の酸性塩中のオキソ酸アニオンと、前記アゾール化合物との間に、水素結合が形成された構造を有することを特徴とするプロトン伝導体。
【請求項2】
前記アゾール化合物に対する前記無機固体酸塩のモル比が1以上であることを特徴とする請求項に記載のプロトン伝導体。
【請求項3】
前記酸性塩は、アルカリ金属イオンまたはアンモニウムイオンが、前記オキソ酸の酸性基とイオン結合した塩であることを特徴とする請求項またはに記載のプロトン伝導体。
【請求項4】
前記アゾール化合物は、複素5員環中に2つ以上の窒素原子を含むことを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のプロトン伝導体。
【請求項5】
前記アゾール化合物はトリアゾールであることを特徴とする請求項に記載のプロトン伝導体。
【請求項6】
プロトン伝導体の製造方法において、
オキソ酸の酸性塩を含む無機固体酸塩と、アゾール、ジアゾール、トリアゾール、テトラゾール、アゾール誘導体、ジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、およびテトラゾール誘導体のうちいずれかを含むアゾール化合物とをメカニカルミリングし、前記無機固体酸塩と前記アゾール化合物との複合体を製造する混合工程を備えたプロトン伝導体の製造方法であって、
前記複合体は、
前記無機固体酸塩のうち、アルカリ金属イオンまたはアンモニウムイオンを含む前記オキソ酸の酸性塩中のオキソ酸アニオンと、前記アゾール化合物との間に、水素結合が形成された構造を有することを特徴とするプロトン伝導体の製造方法。
【請求項7】
前記酸性塩は、アルカリ金属イオンまたはアンモニウムイオンが、前記オキソ酸の酸性基とイオン結合した塩であることを特徴とする請求項に記載のプロトン伝導体の製造方法。
【請求項8】
前記混合工程は、前記アゾール化合物に対する前記無機固体酸塩のモル比が1以上となるように配合された前記無機固体酸塩と前記アゾール化合物とを混合処理することを特徴とする請求項またはに記載のプロトン伝導体の製造方法。
【請求項9】
前記アゾール化合物は、複素5員環中に2つ以上の窒素原子を含むことを特徴とする請求項からのいずれかに記載のプロトン伝導体の製造方法。
【請求項10】
前記アゾール化合物はトリアゾールであることを特徴とする請求項に記載のプロトン伝導体の製造方法。
【請求項11】
前記混合工程は、遊星ボールミルによるミリングによって混合処理を行うものであることを特徴とする請求項から1のいずれかに記載のプロトン伝導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中温無加湿の条件で動作する燃料電池に使用するプロトン伝導体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クリーンな発電システムとして燃料電池が広く知られており、その一種として、フッ素系ポリマーの高分子固体電解質を用い、加湿条件下80℃程度の温度で作動させる燃料電池が提案されている。更に、近年においては、100℃〜250℃の中温領域において、無加湿条件下で動作する中温無加湿燃料電池(Medium Temperature Dry Fuel Cell、MTDFC)の実現が期待されている。
【0003】
MTDFCは、前述のフッ素系ポリマーの高分子固体電解質を用いる燃料電池に比べ、1.プロトン伝導のための水分が不要であるので、加湿器を不要とでき、装置の小型化を図ることができる。2.100℃以上での運転により、耐CO特性を向上することができる、言い換えれば、触媒被毒を大幅に軽減できるので、Pt使用量の低減、および改質ガスシステムの簡略化を図ることができる。3.作動温度の上昇により、冷却システムの簡素化及び排熱利用による総合エネルギー利用効率の向上を図ることができるといった利点を備えている。
【0004】
かかるMTDFCに用いられる電解質膜として、ポリベンジイミダゾール(PBI)を基本骨格とした電解質膜が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された該電解質膜は、PBIと無機酸とアデニル酸とを含有しており、リン酸をドープすることで、高いプロトン伝導性を発現させている。
【0005】
一方で、MTDFCの電解質に用いるプロトン伝導体として、水の代わりにイオン液体が提案されている。イオン液体は、イミダゾールなどのプロトン伝導性を備える塩基性固体に、酸性物質を加えることにより生成される常温液体の物質である。一般にイオン液体は、塩基性固体単体よりも熱安定性が良好であり、イオン伝導度も塩基性固体単体と比較して著しく良好である。例えば、イミダゾールは90℃以上で10−3Scm−1のプロトン伝導性を備えているが、イミダゾールにビストリフルオロメタンスルフォニルイミド(HTFSI)を混合したイオン液体(イミダゾール/HTFSI=9/1)では、120℃で10−1Scm−1に到達することが報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0006】
最近、このイオン液体とヘテロポリ酸とを混合して生成したプロトン伝導体が提案されており、電解質としての安定性の向上と高いプロトン伝導性との両立が試みられている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−218299号公報
【特許文献2】特開2009−16156号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】A.Nodaら,J.Phys.Chem.B,107,4024(2003)
【発明の概要】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、時間の経過に伴い、ドープされたリン酸が電解質膜から流出・浸出し易い。このため、大量にリン酸をドープすることで導電率を高めた場合、長時間使用により流出・浸出したリン酸が周辺部材を腐食するなどの大きな問題があった。
【0010】
また、非特許文献1に記載された技術では、電解質が液体であるので、液漏れの懸念があるという問題点があった。また、プロトン移送に関与しない対イオンが存在するためにプロトンの輸率が大きく低下してしまうという問題点があった。更には、液体であるために、電解質を薄膜化して電池エネルギーの高密度化を図ることが困難であるという問題点があった。
【0011】
特許文献2に記載された技術では、イオン液体を固定化しその流動性を低減することが試みられている。これにより、液漏れ等の溶出については解消し得る。しかしながら、対イオンが存在するためにプロトンの輸率低下については解決できない。加えて、本技術では、140℃以下でのプロトン伝導性が、イオン液体に比べて大幅に低下し、140℃以下での温度領域でのプロトン伝導性が不良になってしまうという問題点があった。このため、特許文献2に記載されたプロトン伝導体を電解質に用いて燃料電池を形成した場合、運転開始から実際に発電が開始されるまでに待機時間が生じてしまうという問題点があった。言い換えれば、実際に燃料電池として運転を行う場合に、急速運転に対応できず、ユーザの使い勝手の低下を招く可能性があるという問題点があった。
【0012】
本発明は、中温無加湿の条件下において良好なプロトン伝導性を備えるプロトン伝導体とその製造方法とを提供することを目的としている。
【0013】
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
本発明の第態様に係るプロトン伝導体は、オキソ酸の酸性塩を含む無機固体酸塩と、アゾール、ジアゾール、トリアゾール、テトラゾール、アゾール誘導体、ジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、およびテトラゾール誘導体のうちいずれかを含むアゾール化合物との複合体を有するプロトン伝導体であって、前記複合体は、前記無機固体酸塩のうち、アルカリ金属イオンまたはアンモニウムイオンを含む前記オキソ酸の酸性塩中のオキソ酸アニオンと、前記アゾール化合物との間に、水素結合が形成された構造を有することを特徴とする。
【0023】
ここで複合体とは、無機固体酸塩とアゾール化合物とが結合によって一体化されたものを意味するものであり、単に無機固体酸塩とアゾール化合物とが混合された混合物とは異なる。プロトン伝導体は、PBIにリン酸をドーピングした電解質膜のように、必要なプロトン導電率を確保するために大量のリン酸をドーピングする必要がない。従って、燃料電池の長時間稼動に伴うリン酸の大量浸出を回避でき、周辺部材の腐食を抑制できるという効果がある。
【0024】
更にプロトン伝導体は、固体電解質として扱えるので、イオン液体を用いる場合のような液漏れの発生がない。故に、燃料電池への使用時において電解質の液漏れに起因する汚染発生を低減できるという効果がある。
【0025】
加えてプロトン伝導体は、中温領域よりも低い温度である低温でのプロトン伝導性を向上させることができるという効果がある。従って、プロトン伝導体を燃料電池の電解質として適用すれば、運転開始後、早い段階から発電を行うことができる。言い換えれば、稼動開始から実働までの待機時間を短縮でき、急速運転を行うことができるという効果がある。
【0026】
また第一態様において、前記アゾール化合物に対する前記無機固体酸塩のモル比が1以上であってもよい。
【0027】
これによって、複合体の構造をプロトン伝導性の発現に適した構造とすることができ、中温無加湿の条件下でも良好なプロトン伝導性を発現させることができるという効果がある。このためプロトン伝導体は、中温無加湿で動作させる燃料電池の電解質に適用できる。
【0028】
また第態様において、前記酸性塩は、アルカリ金属イオンまたはアンモニウムイオンが、前記オキソ酸の酸性基とイオン結合した塩であってもよい。
【0029】
これによって、一価の陽イオンであるアルカリ金属イオンやアンモニウムイオンとアゾール化合物のプロトンとが置換された構造の複合体を得ることができる。このため、アルカリ金属イオンやアンモニウムイオンの作用により、複合体中のプロトン伝導性能、言い換えればプロトン輸送性を向上させることができるという効果がある。
【0030】
また、第一態様において、前記アゾール化合物は、複素5員環中に2つ以上の窒素原子を含んでいてもよい。
【0031】
これによってアゾール化合物は、プロトンの輸送に作用を及ぼす窒素原子の数を増大させることができ、プロトン伝導性を向上させることができるという効果がある。
【0032】
また、第一態様において、前記アゾール化合物はトリアゾールであってもよい。
【0033】
これによって、良好なプロトン伝導性を有する複合体を得ることができるという効果がある。また、トリアゾールは容易に入手可能な汎用の化合物であるので、低コストでプロトン伝導体を製造することができるという効果がある。
【0034】
アゾール化合物中の窒素原子の数が多いほどプロトン伝導性の向上が期待できるが、アゾール化合物が汎用の化合物でない場合には、製造コストの増加を招いてしまう。また、窒素化合物は、種類によっては爆発性を有するため、取扱に注意が必要となる。このため、製造に際しての使い勝手を低下させるといった不具合を生じてしまう。しかし、トリアゾールは、汎用の化合物として流通しており、爆発危険性の低い窒素化合物である。このため、低コストで複合体を製造できる上、原料管理や工程管理を容易とすることができる。
【0035】
本発明の第態様に係るプロトン伝導体の製造方法は、プロトン伝導体の製造方法において、オキソ酸の酸性塩を含む無機固体酸塩と、アゾール、ジアゾール、トリアゾール、テトラゾール、アゾール誘導体、ジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、およびテトラゾール誘導体のうちいずれかを含むアゾール化合物とをメカニカルミリングし、前記無機固体酸塩と前記アゾール化合物との複合体を製造する混合工程を備えたプロトン伝導体の製造方法であって、前記複合体は、前記無機固体酸塩のうち、アルカリ金属イオンまたはアンモニウムイオンを含む前記オキソ酸の酸性塩中のオキソ酸アニオンと、前記アゾール化合物との間に、水素結合が形成された構造を有することを特徴とする。
【0036】
態様によれば、混合工程によって得られる複合体は、無機固体酸塩およびアゾール化合物のいずれとも異なる新たな構造体となっている。このため、無機固体酸塩およびアゾール化合物のいずれよりも、中温無加湿の条件下で高いプロトン伝導性を有するものとすることができる。故に、得られる複合体を用いることによって、中温無加湿の条件下でも良好なプロトン伝導性を実現するプロトン伝導体を製造することができる。
【0037】
加えて、機械的な混合処理という簡便且つ容易な手法で複合体を生成することができるので、ゾルゲル法などの無機有機複合体の製造方法に比較して少ない工程数で目的の複合体を生成することができる。このため、製造コストの抑制や良好な生産効率を実現できるという効果がある。
【0038】
また第態様において、前記酸性塩は、アルカリ金属イオンまたはアンモニウムイオンが、前記オキソ酸の酸性基とイオン結合した塩であってもよい。
【0039】
これによって、機械的な混合処理にて付与されるエネルギーによって、アゾール化合物のプロトンがアルカリ金属イオンまたはアンモニウムイオンによって置換される。加えて、オキソ酸アニオンとアゾール化合物の間に水素結合のネットワークが形成される。ここで、アルカリ金属イオンやアンモニウムイオンは一価の陽イオンであるので、プロトンとの置換を良好に行うことができる。従って、アルカリ金属イオンまたはアンモニウムイオンの作用とオキソ酸アニオンとアゾール化合物の間に形成された三次元水素結合ネットワークにより、複合体中のプロトン伝導性能、言い換えればプロトン輸送性を向上させることができるという効果がある。
【0040】
また第態様において、前記混合工程は、前記アゾール化合物に対する前記無機固体酸塩のモル比が1以上となるように配合された前記無機固体酸塩と前記アゾール化合物とを混合処理してもよい。
【0041】
これによって、得られる複合体を、プロトン伝導性の発現により適した構造にすることができるという効果がある。従って得られるプロトン伝導体は、中温領域よりも低い温度である低温でのプロトン伝導性を向上させることができるという効果がある。故に、プロトン伝導体を燃料電池の電解質として適用すれば、運転開始後、早い段階から発電を行うことができる。言い換えれば、稼動開始から実働までの待機時間を短縮でき、急速運転を行うことができるという効果がある。
【0042】
また第態様において、前記アゾール化合物は、複素5員環中に2つ以上の窒素原子を含んでいてもよい。
【0043】
これによってアゾール化合物は、プロトンの輸送に作用を及ぼす窒素原子の数を増大させることができ、プロトン伝導性を向上することができるという効果がある。
【0044】
また第態様において、前記アゾール化合物はトリアゾールであってもよい。
【0045】
これによって、良好なプロトン伝導性を発現する複合体を得ることができると共に、低コストでプロトン伝導体を製造することができるという効果がある。アゾール化合物中の窒素原子の数が多いほどプロトン伝導性の向上が期待できるが、アゾール化合物が汎用の化合物でない場合には、製造コストの増加を招いてしまう。また、窒素化合物は、種類によっては爆発性を有するため、取扱性を低下させるといった不具合を生じてしまう。しかし、トリアゾールは、汎用の化合物として流通しており、爆発危険性の低い窒素化合物である。このため、低コストで複合体を製造できる上、原料管理や工程管理を容易とすることができる。
【0046】
また第態様において、前記混合工程は、遊星ボールミルによるミリングによって混合処理を行うものであってもよい。
【0047】
これによって、例えば通常のボールミルに比べて強い衝撃力を混合物に付与することができる。従って、短時間で効率よく、無機固体酸塩とアゾール化合物との複合化を行うことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1A】実施例1で作製した複合体および比較例1,2で調製した試料それぞれのラマンスペクトル分析結果を示した図である。
図1B】実施例1で作製した複合体および比較例1,2で調製した試料それぞれのラマンスペクトル分析結果を示した図である。
図2】実施例1で作製した複合体および比較例1,2で調製した試料の固体NMR分析の結果を示した図である。
図3】実施例1の複合体および比較例1,2で調製した試料のイオン導電率を示した図である。
図4】実施例1の複合体および比較例1,2で調製した試料の熱重量変化を示した図である。
図5】実施例1で作製した複合体および比較例1,2で調製した試料の120℃環境下での熱重量変化を示した図である。
図6】実施例2において作製した複合体および比較例1,2で調製した試料のイオン導電率を示した図である。
図7】実施例3において作製した複合体および比較例1,3で調製した試料のイオン導電率を示した図である。
図8】実施例3において作製した複合体および比較例1,3で調製した試料の熱重量変化を示した図である。
図9】実施例4において作製した複合体および比較例1,4で調製した試料のイオン導電率を示した図である。
図10】実施例4において作製した複合体および比較例1,4で調製した試料の熱重量変化を示した図である。
図11】実施例5において作製した複合体および比較例1,5で調製した試料のイオン導電率を示した図である。
図12】実施例6において作製した複合体および比較例2,6で調製した試料のイオン導電率を示した図である。
図13】実施例7において作製した複合体および比較例4,6で調製した試料のイオン導電率を示した図である。
図14】比較例7,8において作製した混合物a、混合物bのイオン導電率を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明のプロトン伝導体およびその製造方法について詳細に説明する。
【0050】
本発明のプロトン伝導体は、主に、無機固体酸塩とアゾール化合物との複合体で形成されている。無機固体酸塩は、プロトン伝導性を有するオキソ酸化合物や金属酸化物水和物である。本発明では、オキソ酸化合物が複合体を形成する原料として用いられる。
【0051】
本発明で用いられるオキソ酸化合物は、正塩ではなく水素原子を残す酸性塩であって、MHnAOの構造を備えている。Mは、1価のアルカリ金属またはNHイオンである。オキソ酸化合物は、アルカリ金属またはNHイオンが、酸性基とイオン結合した酸性塩である。なお、オキソ酸化物中のオキソ酸アニオンは、必ずしもMと解離した状態にあるものを示すのではなく、化合物中の原子団を示すことも含む。アルカリ金属としては、好適には、イオン半径の大きいものが用いられる。イオン半径の大きいアルカリ金属として、K,Cs,Rb等が例示される。Aは、4つの酸素とオキソ酸アニオン(HnAO)を形成する元素であれば特に限定されない。オキソ酸アニオンを形成する元素として、S,Se,As,P等が例示される。nは、水素原子の数を表している。
【0052】
無機固体酸塩としては、硫酸水素セシウム(CsHSO)、リン酸二水素セシウム(CsHPO)、二硫酸水素三アンモニウム((NHH(SO)、リン酸二水素硫酸水素二セシウム(Cs(HSO)(HPO))、二リン酸五水素セシウム(CsH(PO)が例示されるが、これに限定されるものではない。無機固体酸塩は、上述したようにオキソ酸の酸性塩自体であっても良いし、オキソ酸の酸性塩を一部に含む化合物であってもよい。
【0053】
アゾール化合物は、5員環中に1つ以上の窒素原子を含む複素環化合物である。複素環に含まれる窒素原子数が1、2、3、4となる順に、アゾール、ジアゾール、トリアゾール、テトラゾールとなっている。尚、本発明におけるアゾール化合物は、上記のアゾール、ジアゾール、トリアゾール、テトラゾールおよびこれらの誘導体を含んでいる。
【0054】
具体的には、アゾール化合物として、複素環の窒素原子に結合する水素原子を備えるものであって、1H−アゾール(ピロール)、2H−アゾール(2H−ピロール)、1,3−ジアゾール(イミダゾール、下記式(1)参照)、1,2−ジアゾール(ピラゾール、下記式(2)参照)、1H−1,2,3トリアゾール、1H−1,2,4トリアゾール(下記式(3)参照)、1H−テトラゾール(下記式(4)参照)及びこれらの誘導体が例示される。
【0055】
誘導体は、窒素原子に結合する水素原子以外の水素原子が置換されたものである。下記式(1)に示すイミダゾールにおいては、2,4,5の位置の水素原子が他の原子や原子団(基)に置換される。下記式(2)に示すピラゾールにおいては、3,4,5の位置の水素原子が、他の原子や原子団(基)に置換される。下記式(3)に示す1H−1,2,4トリアゾールにおいては、3,5の位置の水素原子が、他の原子や原子団(基)に置換される。1H−1,2,3トリアゾールにおいては、4,5の位置の水素原子が、他の原子や原子団(基)に置換される。下記式(4)に示すテトラゾールについては、5の位置の水素原子が、他の原子や原子団(基)に置換される。尚、置換される水素原子は、単数であっても複数であっても良い。
【0056】
置換基としては、アルキル基、エステル基、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アシル基、フェニル基、ハロゲンなどが例示されるが、これに限定されるものではない。更には、下記式(5)に示すベンジイミダゾールのように、環構造が結合されたものであっても良い。加えて、例えば、5,5'ビステトラゾールのような二量体構造であっても良い。
【0057】
【化1】
【0058】
【化2】
【0059】
【化3】
【0060】
【化4】
【0061】
【化5】
【0062】
誘導体は、構造中にアゾール構造を含む類縁体であっても良い。類縁体としては、テトラゾール環を備えたロサルタンやカンデサルタンなどが例示される。
【0063】
本発明においては、アゾール化合物の中でも、特に常温で固体のものが好適に用いられる。また、複素5員環中に2以上の窒素原子を備えるものが好適に用いられる。アゾール化合物としては、例えば、イミダゾール、1H−1,2,3トリアゾール、1H−1,2,4トリアゾール、1H−テトラゾール、ベンジイミダゾール等が例示される。
【0064】
本発明のプロトン伝導体は、上述の無機固体酸塩とアゾール化合物とを複合化して形成されるが、1の無機固体酸塩と1のアゾール化合物とを複合化してもよく、複数の無機固体酸塩と複数のアゾール化合物とを複合化しても良い。また、得られた複合体を単独で用いてプロトン伝導体を形成しても良く、得られた複合体の複数種類を混合してプロトン伝導体を形成しても良い。
【0065】
プロトン伝導体は、無機固体酸塩とアゾール化合物とが複合体化され、無機固体酸塩ともアゾール化合物とも異なる新たな構造体となっている。プロトン伝導体は、中温領域で良好なプロトン伝導性を有する。また、無機固体酸塩およびアゾール化合物単独の場合に比べて、100℃以下の低温におけるプロトン伝導性が向上する。更に、無機固体酸塩が潮解性を備えている場合、アゾール化合物と複合体化されることで潮解性を低減でき、品質安定性や取扱性を向上させることができる。潮解性を備えた無機固体酸塩として、硫酸水素セシウムなどが例示される。加えて、対イオンの固定化を容易としてその移動を制限することができるので、プロトンの輸率向上を図ることができる。対イオンとして、無機固体酸アニオンとアゾールアニオンが例示される。
【0066】
本発明のプロトン伝導体において、無機固体酸塩とアゾール化合物とのモル比は任意に選択することができる。以下、無機固体酸塩とアゾール化合物とのモル比は、二つの物質のモルの比(X:Y)である。実施形態および実施例において、無機固体酸塩とアゾール化合物とのモル比は、両者の合計が100となる値で示している。従って、二つの物質のモルの割合が示されることとなる。一方の物質のモル比のみが示されている場合には、他方のモル比は一義的に確定し、例えば、一方の物質のモル比が20であれば、他方の物質のモル比は80となる。無機固体酸塩:アゾール化合物のモル比は50:50から90:10の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、無機固体酸塩のモル比は90未満である。無機固体酸塩が硫酸水素セシウムである場合には、このなかでも70:30から90:10の範囲内であることが好ましく、特に、無機固体酸塩:アゾール化合物のモル比を80:20とすることがより好ましい尚、アゾール化合物に対する無機固体酸塩のモル比が1以上とは、本実施形態および実施例において無機固体酸塩のモル比が50以上であることに相当する。
【0067】
無機固体酸塩とアゾール化合物とのモル比が50:50である場合よりも無機固体酸塩のモル比が大きくなると、100℃以下の低温において、プロトン伝導性が向上する傾向にある。また、無機固体酸塩とアゾール化合物とのモル比が90:10となると、無機固体酸塩のモル比がそれ以下の所定の範囲にある場合に比べて、プロトン伝導性が低下する傾向がある。そこで、無機固体酸塩とアゾール化合物とのモル比が50:50から90:10に規定することにより、良好なプロトン伝導体となり得る複合体を容易に形成することができる。
【0068】
本発明のプロトン伝導体は、後述する機械的な混合処理によって生成されたものであっても良い。この場合には、得られる無機固体酸塩とアゾール化合物との複合体は、いわゆるメカニカルアロイの手法、別の表現ではメカニカルミリングの手法によって複合体化される。尚、上記モル比で無機固体酸塩とアゾール化合物との複合体が得られる場合には、メカニカルミリング以外の手法によって創製しても良い。例えば、超音波照射、衝撃波照射、あるいは加速した質量粒子の照射といった手法が適用される。比較的安価な設備で合成と行うためには、ミリング処理が好ましい。ミリング処理は、遊星型ボールミル、振動ボールミル、回転ボールミル、アトマイザーなどを用いることができるが、好適には遊星型ボールミルが用いられる。
【0069】
本発明のプロトン伝導体は、上述の複合体の特性を大きく損なわない範囲で、さらに副成分を含んで構成されても良い。副成分としては、必然的に混入される原料である無機固体酸塩の不純物、およびアゾール化合物の不純物のみならず、任意に添加される添加剤が含まれる。
【0070】
添加剤としては、中温無加湿の条件化でプロトン伝導性を向上させる固体物質や、プロトン伝導体を成膜する場合に、成膜特性を向上させるものが好ましい。添加剤として、オキソ酸の酸性塩以外の無機固体酸塩や、リン酸、パーフルオロスルホン酸系ポリマー、PBIなどが例示される。
【0071】
オキソ酸の酸性塩以外で無機固体酸塩に含まれる物質としては、ヘテロポリ酸が例示される。ヘテロポリ酸としては、具体的には、リンタングステン酸(H3[PW12O40]・nH2O)、ケイタングステン酸(H4[SiW12O40]・nH2O)、リンモリブデン酸(H3[PMo12O40]・nH2O)、ケイモリブデン酸(H4[SiMo12O40]・nH2O)などが好適なヘテロポリ酸として挙げられる。
【0072】
更に、本発明のプロトン伝導体は、固体粉末状態であるので、プレス成形によってペレット状とし、固体電解質とすることができる。また、プロトン伝導体をマトリックス樹脂に分散させて成膜し、固体電解質に成形しても良い。マトリクス樹脂には、例えば、中温無加湿の条件下で、強度や熱安定性が確認されているPBIや、スルホン化ポリエーテルエーテルケトンを用いても良い。プロトン伝導体のマトリクス樹脂に対する重量比が大きくなるほど、電気化学的性能が向上するという利点がある。半面、柔軟性など機械的特性が低下する。このため、マトリクス樹脂とプロトン伝導体との配合比は、電気的性能と機械的特性とのバランスを考慮して適宜決定される。
【0073】
以上説明したように、本発明のプロトン伝導体によれば、オキソ酸化合物の酸性塩とアゾール化合物とを複合化した複合体により、中温無加湿の条件下で良好なプロトン伝導性を実現できる。その上、プロトン伝導体は、100℃以下の低温から良好に発電可能なイオン導電率を発現させることができる。つまり、中温無加湿の条件下で良好なプロトン伝導性を有すると共に、低温から動作させることのできるプロトン伝導体を実現できる。その上、プロトン伝導体中を移動する対イオンを低減できるので、プロトン輸率を向上させ、従来提案されているイオン液体の電解質に比して高い発電効率を実現できる。
【0074】
次に、本発明のプロトン伝導体の製造方法について説明する。本発明のプロトン伝導体の製造方法では、無機固体酸塩とアゾール化合物とを機械的に混合処理して複合体を製造する。機械的な混合処理としては、原料がいわゆるメカニカルアロイを形成するために必要な応力を付与できるものであれば良い。混合処理として、ロールミル、ロッドミル、振動ミル、ジェットミル、遊星ボールミル、回転ボールミル、振動ボールミル、攪拌ボールミル、アトマイザー、ニーダー等を用いた混合処理などが例示される。
【0075】
混合処理の衝撃による機械的エネルギーよって、無機固体酸塩とアゾール化合物とは微細に混合される。そして、アゾール化合物のプロトンと無機固体酸塩の一価の陽イオンとが定量的に置換されると共に、アゾール化合物と無機固体酸塩との間に新たな結合が生成され、両者は複合化される。結合が生成されることによって、混合物や出発物質単独では実現できない高いプロトン伝導性と耐久性が実現できる。
【0076】
混合処理においては、好適には、ボールミルが用いられ、更に好適には、ボールミルの中でも従来型のボールミルに比べて大きな応力を原料に付与できる遊星ボールミルが用いられる。これにより、効率的且つ確実に無機固体酸塩とアゾール化合物とを複合化することができる。
【0077】
本発明のプロトン伝導体の製造方法においては、原料である無機固体酸塩とアゾール化合物とは、任意のモル比で混合される。好適には、無機固体酸塩:アゾール化合物のモル比が、50:50から90:10の範囲内で配合されることが好ましく、このなかでも70:30から90:10の範囲内で配合されることが好ましく、特に、80:20で配合されることがより好ましい。
【0078】
混合時間は、混合方法に応じて適宜選択される。例えば遊星ボールミルを用いた場合には、10分以上であることが望ましく、好適には10分以上240分以下、更に好適には30分以上240分以下であることが望ましく、特に60分であることが望ましい。機械的な混合処理によって複合体を形成しようとした場合、混合処理条件によって得られる複合体の構造は変化する。複合体の構造はプロトン伝導性に影響を与えるので、むやみに混合処理を行うだけでは良好なプロトン伝導体を製造することは難しい。しかし、ミリング処理において、混合時間を上記時間条件とすることで、良好なプロトン伝導性を備えたプロトン伝導体を的確に製造することができる。
【0079】
尚、上述した混合処理を行う工程が、本発明の混合工程に該当する。
【0080】
本発明のプロトン伝導体の製造方法においては、上述の混合処理の前に、原材料を精製する精製工程を設けても良い。また、添加剤を混合する場合、添加剤の混合は、無機固体酸塩およびアゾール化合物と共に混合処理で行っても良く、無機固体酸塩とアゾール化合物との混合処理の前または後に、添加剤を混合する工程を設けて混合しても良い。以上説明したように、本発明によれば、機械的混合処理という単純な方法で、中温無加湿条件下で良好なプロトン伝導性を有するプロトン伝導体を製造できる。
【0081】
また、本発明のプロトン伝導体を固体電解質として利用する場合、既知の製造方法を用いて成形することができる。例えば、本発明のプロトン伝導体をプレスによる圧縮成形にて固体電解質に成形してもよい。また、本発明のプロトン伝導体をマトリックス樹脂に分散させて成膜し、固体電解質膜に成形しても良い。マトリクス樹脂には、例えば、中温無加湿の条件下で、強度や熱安定性が確認されているPBIや、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリスルホン(SPUまたはSPSU)、スルホン化ポリイミド(SPI)を用いても良い。
【0082】
電解質膜の具体的な製造手順としては、例えば、キャスティング溶媒中に、樹脂とプロトン伝導体とを溶解・分散させる。樹脂とプロトン伝導体との配合比は、電気的性能と機械的特性とのバランスを考慮して適宜決定される。樹脂材料及びプロトン伝導体には、安定剤が添加されてもよい。得られた溶液は、ガラス基板上にキャスト成膜される。これによって、樹脂材料−プロトン伝導体からなる膜が得られる。以下、得られる膜を、複合膜という。
【0083】
次いで、洗浄が行われた後、リン酸に複合膜が浸漬され、加熱される。これによって、リン酸が複合膜内にドーピングされ電解質膜となる。リン酸への複合膜の浸漬時間を変化させることで、リン酸のドーピング量は調節される。
【0084】
得られる電解質膜では、ドーピングしたリン酸がプロトンの伝導に寄与する。電解質膜を使用した燃料電池は、加湿が不要となるので、中温無加湿条件下で動作する燃料電池として使用できる。また、電解質膜内では、本発明のプロトン伝導体がリン酸と共にプロトンの伝導に寄与する。従って、リン酸のドーピング量が少ない場合であっても、電解質膜は高いプロトン伝導性を示す。さらに電解質膜は、リン酸の添加量を抑制できるので、リン酸による腐食を低減できる、
【0085】
なおドーピングされる物質としてはリン酸が最も好ましいが、例えば硫酸など酸性や塩基性両側に作用できる電子受容性物質をドーピングしてもよい。
【実施例1】
【0086】
次に、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例で用いたトリアゾールは、全て1H−1,2,4−トリアゾールである。従って、実施例および比較例におけるトリアゾールは、1H−1,2,4−トリアゾールを示している。実施例および比較例で用いた評価方法は以下の通りである。
【0087】
(a)イオン導電率の評価
プレス成形機(P−16B、RIKEN社製)を用い、測定対象物を60MPaで1分間プレスを行い、直径12mmのペレット状の測定サンプルを作製した。電気化学測定システム(SI 1260、Solartron社製)を用い、作製した各測定サンプルの各々について、イオン導電率の測定を行った。測定は、無加湿条件下で60℃〜160℃(昇温速度5℃/分)の範囲で行った。測定データは専用のソフトウェア(Z−plot、Scribner Associates社製)を用いて収集した。尚、イオン導電率はプロトン伝導性を評価するものであり、イオン導電率が高いほどプロトン伝導性が高いことを示している。
【0088】
(b)TGAによる評価
TGA装置(Rigaku Thermo Plus TG 8120、(株)リガク社製)を用い、大気雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温から500℃までの熱重量変化を測定した。また、TGA装置を用いて、大気雰囲気下で120℃に保持した場合の熱重量変化を測定した。
【0089】
(c)ラマン分光法による評価
レーザラマン分光光度計(NRS−3100、日本分光株式会社(JASCO))を使用し、フーリエ変換ラマン分光法(FT−Raman)を用いて、ラマン散乱光スペクトルの測定を行った。CCD検出器温度は−50℃、測定波数400〜4000cm−1、光源露出時間2秒、積算回数16回の条件下で測定を行い、評価を行った。
【0090】
(d)核磁気共鳴法(NMR)による評価
NMR装置(UNITY-400P、 バリアン・テクノロジーズ・ジャパン・リミテッド)を用い、核磁気共鳴法(NMR)による固体NMR測定を行って分子構造を評価した。固体NMR測定は、120℃の真空雰囲気で乾燥したサンプルを窒素雰囲気下で直径7mmのローターに詰め込み、回転数5000RPMの条件下で行った。
【0091】
(実施例1)
硫酸水素セシウム(添川理化学株式会社製)とトリアゾール(1H−1,2,4−トリアゾール、東京化成工業株式会社製)とを、モル比で、90:10、80:20、70:30、60:40、50:50、40:60、30:70、20:80、10:90となるように配合した。それぞれを、遊星型ミリング装置(planetary ball mill (Fritsch Pulverisette 7)、フリッチュ・ジャパン(株)製)に投入し、回転数720RPMで60分間、窒素雰囲気下でミリング処理を行い、混合処理を行った。その後、遊星型ミリング装置から取り出した内容物を、100℃の真空オーブンの中で10時間乾燥させ、各配合比に対応する硫酸水素セシウム−トリアゾール複合体を、白色個体で得た。このようにして得られた複合体を、以下「xCHS(100−x)Tz複合体」と称す。尚、xは硫酸水素セシウムのモル比である。
【0092】
(実施例2)
硫酸水素セシウム(添川理化学株式会社製)とトリアゾール(1H−1,2,4−トリアゾール、東京化成工業株式会社製)とを、モル比で80:20となるように配合した。それぞれを、遊星型ミリング装置(planetary ball mill (Fritsch Pulverisette 7)、フリッチュ・ジャパン(株)製)に投入し、回転数720RPM、窒素雰囲気下でミリング処理を行い、混合処理を行った。混合時間は、10分、30分、60分、120分、240分間とした。その後、遊星型ミリング装置から内容物を取り出し、100℃の真空オーブンの中で10時間乾燥させ、各混合時間に対応する硫酸水素セシウム−トリアゾール複合体を、白色個体で得た。
【0093】
(実施例3)
硫酸水素セシウム(添川理化学株式会社製)とイミダゾール(東京化成工業株式会社製)とを、モル比で、90:10、80:20、70:30、50:50、40:60、30:70、20:80、10:90となるように配合した。それぞれを、遊星型ミリング装置(planetary ball mill (Fritsch Pulverisette 7)、フリッチュ・ジャパン(株)製)に投入し、回転数720RPMで60分間、窒素雰囲気下でミリング処理を行い、混合処理を行った。その後、遊星型ミリング装置から内容物を取り出し、100℃の真空オーブンの中で10時間乾燥させ、各配合比に対応する硫酸水素セシウム−イミダゾール複合体を、白色個体で得た。このようにして得られた複合体を、以下「xCHS(100−x)Iz複合体」と称す。尚、xは硫酸水素セシウムのモル比である。
【0094】
(実施例4)
硫酸水素セシウム(添川理化学株式会社製)とベンジイミダゾール(東京化成工業株式会社製)とを、モル比で、90:10、80:20、70:30、60:40、50:50、40:60、30:70、20:80、10:90となるように配合した。それぞれを、遊星型ミリング装置(planetary ball mill (Fritsch Pulverisette 7)、フリッチュ・ジャパン(株)製)に投入し、回転数720RPMで60分間、窒素雰囲気下でミリング処理を行い、混合処理を行った。その後、遊星型ミリング装置から内容物を取り出し、100℃の真空オーブンの中で10時間乾燥させ、各配合比に対応する硫酸水素セシウム−ベンジイミダゾール複合体を、白色個体で得た。このようにして得られた複合体を、以下「xCHS(100−x)Bz複合体」と称す。尚、xは硫酸水素セシウムのモル比である。
【0095】
(実施例5)
硫酸水素セシウム(添川理化学株式会社製)とテトラゾール(1H−テトラゾール、東京化成工業株式会社製)とを、モル比で、90:10、80:20、70:30、60:40となるように配合した。それぞれを、遊星型ミリング装置(planetary ball mill (Fritsch Pulverisette 7)、フリッチュ・ジャパン(株)製)に投入し、回転数720RPMで60分間、窒素雰囲気下でミリング処理を行い、混合処理を行った。その後、遊星型ミリング装置から内容物を取り出し、100℃の真空オーブンの中で10時間乾燥させ、各配合比に対応する硫酸水素セシウム−テトラゾール複合体を、白色個体で得た。このようにして得られた複合体を、以下「xCHS(100−x)Tez複合体」と称す。尚、xは硫酸水素セシウムのモル比である。
【0096】
(実施例6)
リン酸二水素セシウム(三津和化学株式会社製)とトリアゾール(1H−1,2,4−トリアゾール、東京化成工業株式会社製)とを、モル比で、90:10、80:20、70:30、60:40、50:50となるように配合した。それぞれを、遊星型ミリング装置(planetary ball mill (Fritsch Pulverisette 7)、フリッチュ・ジャパン(株)製)に投入し、回転数720RPMで60分間、窒素雰囲気下でミリング処理を行い、混合処理を行った。その後、遊星型ミリング装置から内容物を取り出し、100℃の真空オーブンの中で10時間乾燥させ、各配合比に対応するリン酸二水素セシウム−トリアゾール複合体を、白色固体で得た。このようにして得られた複合体を、以下「xCDP(100−x)Tz複合体」と称す。尚、xはリン酸二水素セシウムのモル比である。
【0097】
(実施例7)
リン酸二水素セシウム(三津和化学株式会社製)とベンジイミダゾール(東京化成工業株式会社製)とを、モル比で、90:10、80:20、70:30、60:40、50:50となるように配合した。それぞれを、遊星型ミリング装置(planetary ball mill (Fritsch Pulverisette 7)、フリッチュ・ジャパン(株)製)に投入し、回転数720RPMで60分間、窒素雰囲気下でミリング処理を行い、混合処理を行った。その後、遊星型ミリング装置から内容物を取り出し、100℃の真空オーブンの中で10時間乾燥させ、各配合比に対応するリン酸二水素セシウム−ベンジイミダゾール複合体を、白色個体で得た。このようにして得られた複合体を、以下「xCDP(100−x)Bz複合体」と称す。尚、xはリン酸二水素セシウムのモル比である。
【0098】
(比較例1〜6)
下記原料のそれぞれを、メノウ乳鉢にて細粉化して、それぞれ比較例1〜6の試料とした。比較例1には硫酸水素セシウム(添川理化学株式会社製)、比較例2にはトリアゾール(1H−1,2,4−トリアゾール、東京化成工業株式会社製)、比較例3にはイミダゾール(東京化成工業株式会社製)、比較例4にはベンジイミダゾール(東京化成工業株式会社製)、比較例5にはテトラゾール(東京化成工業株式会社製)、比較例6にはリン酸二水素セシウム(三津和化学株式会社製)をそれぞれ用いて試料を調製した。尚、比較例1〜6にて調製された試料は原料そのままであるので、理解を容易とするために、以下においては適宜、原料の物質名を用いて説明を行う。
【0099】
(比較例7、8)
硫酸水素セシウム(添川理化学株式会社製)とトリアゾール(1H−1,2,4−トリアゾール、東京化成工業株式会社製)とを、モル比で、80:20となるように配合して、乳鉢にて均一になるよう混合し、比較例7の混合物aを得た。更に、得られた混合物aを100℃の真空オーブンの中で1時間乾燥させ、比較例8の混合物bを得た。
【0100】
(評価結果)
実施例1および比較例1,2について、ラマン分光法、核磁気共鳴法、イオン導電率、TGAにより評価を行った結果を、図1Aから図5に示す。
【0101】
図1A、および図1Bは、実施例1で作製したxCHS(100−x)Tz複合体および比較例1,2で調製した試料(硫酸水素セシウム、トリアゾール)それぞれのラマンスペクトル分析結果を示している。図1A、および図1Bにおいては、横軸は波数を、縦軸はピーク強度を示している。ラマンスペクトルは、800cm−1〜1200cm−1の範囲で測定を行った。図1Aに、1200cm−1〜1000cm−1の範囲のスペクトルを示している。図1Bに、1000cm−1から800cm−1の範囲のスペクトルを示している。また、図1A、および図1Bにおいては、上側から順に、硫酸水素セシウム、xCHS(100−x)Tz複合体、トリアゾールとなるように、測定されたラマンスペクトルが示されている。また、xCHS(100−x)Tz複合体のラマンスペクトルは、上側からxが90、80、70、・・・、10となる順で示されている。図1A、および図1Bの各スペクトルの右方には、それぞれのスペクトルに対応する複合体の符号、称号、物質名、または化学式が示されている。
【0102】
図1A、および図1Bから解るように、実施例1のxCHS(100−x)Tz複合体には、硫酸水素セシウム、トリアゾールの両者には存在しないピークであって、C−S結合に帰属するピークとN−S結合に帰属するピークとが観察された。C−S結合に帰属するピークの位置は、図1Aにおいて一点鎖線にて示されている。N−S結合に帰属するピークの位置は、図1Bにおいて破線にて示されている。即ち、機械的混合処理によって作製された複合体は、単なる混合物ではなく、トリアゾールと硫酸水素セシウムとが複合化されたことによって、両者のいずれとも異なる構造体となったことが示された。
【0103】
図2は、実施例1で作製した、xCHS(100−x)Tz複合体および比較例1,2で調製した試料(硫酸水素セシウム、トリアゾール)の固体NMR分析の結果を示している。図2においては、横軸は化学シフトを、縦軸はピーク強度を示している。図2において、上側から順に、硫酸水素セシウム、xCHS(100−x)Tz複合体、トリアゾールとなるようにNMRスペクトルが示されている。また、xCHS(100−x)Tz複合体のNMRスペクトルは、上側からxが90、80、70、60、50となる順で示されている。図2の各スペクトルの右方には、それぞれのスペクトルに対応する複合体の符号、称号、物質名、又は化学式が示されている。
【0104】
図2から解るように、xCHS(100−x)Tz複合体のNMRスペクトルは、トリアゾール、硫酸水素セシウムとのいずれのスペクトルとも全く異なった。つまり、図1Aおよび図1Bのラマンスペクトル分析結果と同様に、xCHS(100−x)Tz複合体は、トリアゾールと硫酸水素セシウムとが複合化されたことによって、両者のいずれとも異なる構造体となったことが示された。言い換えれば、無機固体酸塩に含まれるオキソ酸の酸性塩とアゾール化合物とを機械的混合処理することにより、単なる混合物ではなく両者の複合体が生成されたことが示された。
【0105】
図3は、実施例1のxCHS(100−x)Tz複合体および比較例1,2で調製した試料(硫酸水素セシウム、トリアゾール)のイオン導電率を示している。図3においては、横軸は温度を、縦軸は導電率を示している。xCHS(100−x)Tz複合体、硫酸水素セシウム、およびトリアゾールのイオン導電率が温度に対してプロットされている。
【0106】
図3において、白丸、黒逆三角、白三角、黒四角、白四角のプロットは、それぞれ、xCHS(100−x)Tzのxが、90、80、70、60、50である複合体のイオン導電率を示している。また、黒丸のプロットは硫酸水素セシウムのイオン導電率を示し、黒菱形で示すプロットはトリアゾールのイオン導電率を示している。
【0107】
図3から解るように、xCHS(100−x)Tz複合体は、120℃を超えると、少なくとも120℃〜160℃の範囲で、いずれも10−3Scm−1程度という高いイオン導電率を示した。
【0108】
また、xCHS(100−x)Tz複合体において硫酸水素セシウムのモル比が50以上になると、60℃〜120℃の範囲の比較的低い温度領域においても良好なイオン導電率を示した。70CHS30Tz複合体では、60℃近傍から10−4Scm−1以上の高いイオン導電率を示した。特に、80CHS20Tzにおいては、60℃近傍から160℃の広い温度範囲で略10−3Scm−1のイオン導電率が実現された。90CHS10Tzでは、60℃〜140℃の範囲においてはイオン導電率が80CHS20Tzよりも低下する傾向が見られたが、140℃以上において、少なくとも140℃〜160℃の範囲で、比較例1の硫酸水素セシウムのイオン導電率10−3Scm−1を上回るイオン導電率を示した。尚、図示を省略しているが、xCHS(100−x)Tz複合体において硫酸水素セシウムのモル比が40以下の場合は、特に100℃以下における高いイオン導電率は達成できなかった。
【0109】
一方で、比較例1の硫酸水素セシウムは、140℃近傍で10−3Scm−1程度の高い導電率を備えるが、140℃未満では10−6Scm−1を下回る低イオン導電率であった。また、比較例2のトリアゾールは、120℃で10−3Scm−1程度の高い導電率を備えるが、120℃を下回る温度では低いイオン導電率であった。
【0110】
図4は、実施例1のxCHS(100−x)Tz複合体および比較例1,2で調製した試料(硫酸水素セシウム、トリアゾール)の熱重量変化を示している。図4においては、横軸は温度、縦軸は重量分率を示している。各複合体の熱重量変化を示す曲線には、それぞれの複合体を示す符号が対応付けられて示されている。また、図4において、硫酸水素セシウムの熱重量変化を示す曲線には「CsHSO」が対応付けて示され、トリアゾールの熱重量変化を示す曲線には「pure1,2,4−Triazole」が対応付けて示されている。尚、図4には、参考例として、原料トリアゾールのみを実施例1と同じ条件でミリング処理したものの熱重量変化を示す曲線を示しており、「MM1,2,4−Triazole」の表示が対応付けて示されている。
【0111】
図5は、実施例1で作製したxCHS(100−x)Tz複合体および比較例1,2で調製した試料(硫酸水素セシウム、トリアゾール)の120℃環境下での熱重量変化を示している。図5中には、xCHS(100−x)Tz複合体、硫酸水素セシウム、およびトリアゾールについて、120℃での熱重量変化が示されている。また、xCHS(100−x)Tz複合体の熱重量変化を示す曲線は、上側からxが90,80,70となる順で示されている。図5中において、各複合体等の熱重量変化を示す曲線には、図4と同様、それぞれに対応する符号、物質名、化学式が対応付けて示されている。また、図5の右方には、複合体中に配合されたトリアゾールの重量分率を矢印にて示している。具体的には、90CHS10Tz複合体中のトリアゾール配合量は3wt%であり、80CHS20Tz複合体中のトリアゾール配合量は7wt%であり、70CHS30Tz複合体中のトリアゾール配合量は12wt%である。
【0112】
図4図5から解るように、xCHS(100−x)Tz複合体の熱安定性は、トリアゾールに比べて改善し向上した。特に、xCHS(100−x)Tz複合体において硫酸水素セシウムのモル比が50以上になると、図4に示すように、150℃程度までの熱安定性は大きく向上した。
【0113】
また、図5に示すように、120℃の条件下で10時間経過した後においても、xCHS(100−x)Tz複合体のトリアゾール成分は、配合量よりも多く残存した。つまり、トリアゾールは、複合体化されることで熱的に安定化されたことが示された。これまで、アゾール化合物をプロトン伝導体として用いることも提案されてはいるが、融点以上で熱安定性が低下するために中温条件下での長時間使用は困難であった。しかし、アゾール化合物を無機固体酸塩と複合化することで、アゾール化合物の熱安定性を向上させることができるので、中温無加湿条件下で実用的に使用し得るプロトン伝導体を実現できることが示された。
【0114】
実施例2および比較例1,2について、イオン導電率により評価を行った結果を図6に示す。
【0115】
図6は、実施例2において作製した80CHS20Tz複合体および比較例1,2で調製した試料(硫酸水素セシウム、トリアゾール)のイオン導電率を示している。図6においては、横軸は温度を、縦軸は導電率を示している。実施例2において作製した各複合体、硫酸水素セシウム、およびトリアゾールのイオン導電率が温度に対してプロットされている。
【0116】
図6において、白丸、黒逆三角、白三角、黒四角、白四角のプロットは、それぞれ、混合時間が10分、30分、60分、120分、240分で作製された80CHS20Tz複合体のイオン導電率を示している。また、黒丸で示すプロットは硫酸水素セシウムのイオン導電率を示しており、黒菱形で示すプロットはトリアゾールのイオン導電率を示している。
【0117】
図6からも解るように、トリアゾールと硫酸水素セシウムとをミリング処理することにより得られる80CHS20Tz複合体は、わずか10分の混合時間でも120℃で10−3Scm−1のイオン導電率を示すと共に、60℃〜120℃の低温側でもイオン導電率がトリアゾールおよび硫酸水素セシウムに比べて大きく向上した。更に、混合時間を60分とした80CHS20Tz複合体は、60℃〜160℃の広い温度範囲で10−3Scm−1という高いイオン導電率を示した。また、混合時間が240分になると、混合時間が120分のものよりも、80CHS20Tz複合体のイオン導電率は低下した。
【0118】
実施例3および比較例1,3について、イオン導電率、およびTGAにより評価を行った結果を、図7および図8に示す。
【0119】
図7は、実施例3において作製したxCHS(100−x)Iz複合体、および比較例1,3で調製した試料(硫酸水素セシウム、イミダゾール)のイオン導電率を示している。図7においては、横軸は温度を、縦軸は導電率を示している。xCHS(100−x)Iz複合体、硫酸水素セシウム、およびイミダゾールのイオン導電率が温度に対してプロットされている。
【0120】
図7において、白丸、黒逆三角、白三角、黒四角のプロットは、それぞれ、xCHS(100−x)Izのxが、90、80、70、50である複合体のイオン導電率を示している。また、黒丸で示すプロットは硫酸水素セシウムのイオン導電率を示しており、白四角で示すプロットはイミダゾールのイオン導電率を示している。
【0121】
図8は、xCHS(100−x)Iz複合体および比較例1,3で調製した試料(硫酸水素セシウム、イミダゾール)の熱重量変化を示している。図8においては、横軸は温度、縦軸は重量分率を示している。各複合体の熱重量変化を示す曲線には、それぞれの複合体を示す符号が対応付けられて示されている。また、図8において、硫酸水素セシウムの熱量変化を示す曲線には「CsHSO」が対応付けて示され、イミダゾールの熱重量変化を示す曲線には「pureImidazole」が対応付けて示されている。尚、図8には、参考例として原料イミダゾールのみを実施例3と同じ条件でミリング処理したものの熱重量変化を示す曲線を示しており、「MM Imidazole」の表示が対応付けて示されている。
【0122】
図7からも解るように、xCHS(100−x)Iz複合体は、120℃を越えても、少なくとも160℃まではイオン伝導性を備えることが示された。また、xCHS(100−x)Iz複合体において硫酸水素セシウムのモル比が70以上となると、120℃で10−3Scm−1の高いイオン導電率を示した。硫酸水素セシウム、イミダゾールのそれぞれに比して、50℃で10倍から1000倍程度、イオン導電率が上昇した。特に、80CHS20Iz複合体は、50℃でも10−3Scm−1近いイオン導電率を示し、50℃〜160℃の広い温度範囲で、略10−3Scm−1のイオン導電率を示した。
【0123】
更に、図8に示されるように、xCHS(100−x)Iz複合体は、イミダゾールに比べて熱安定性が向上し、複合体中の硫酸水素セシウムのモル比が大きくなるほど、熱重量の減少が緩慢になった。特に、xCHS(100−x)Iz複合体において硫酸水素セシウムのモル比が50以上である場合、中温無加湿燃料電池の動作領域である100℃〜200℃の範囲内において、熱安定性が著しく向上することが認められた。
【0124】
一方、イミダゾールは、100℃を越えると熱的に不安定になり、150℃付近から急激に重量減少が生じた。このため図7に示すように、融点以上である場合、100℃で10−3Scm−1以上という良好なイオン導電率を備えるものの、120℃に達する前に、イオン伝導体としての機能を失うことが示された。尚、xCHS(100−x)Iz複合体中においてセシウムのモル比が40以下の場合は、特に100℃以下における高いイオン導電率は達成できなかった。
【0125】
実施例4および比較例1,4について、イオン導電率、およびTGAにより評価を行った結果を図9および図10に示す。
【0126】
図9は、実施例4において作製したxCHS(100−x)Bz複合体および比較例1,4で調製した試料(硫酸水素セシウム、ベンジイミダゾール)のイオン導電率を示している。図9においては、横軸は温度を、縦軸は導電率を示している。xCHS(100−x)Bz複合体、硫酸水素セシウム、およびベンジイミダゾールのイオン導電率が温度に対してプロットされている。
【0127】
図9において、白丸、黒逆三角、白三角、黒四角、白四角のプロットは、それぞれ、xCHS(100−x)Bzのxが、90、80、70、60、50である複合体のイオン導電率を示している。また、図9において、黒丸で示すプロットは硫酸水素セシウムのイオン導電率を示しており、黒菱形で示すプロットはベンジイミダゾールのイオン導電率を示している。
【0128】
図10は、xCHS(100−x)Bz複合体および比較例1,4で調製した試料(硫酸水素セシウム、ベンジイミダゾール)の熱重量変化を示している。図10において横軸には温度、縦軸には重量分率を示している。各複合体の熱重量変化を示す曲線には、それぞれの複合体を示す符号が対応付けられている。また、図10において、硫酸水素セシウムの熱重量変化を示す曲線には「CsHSO」が対応付けて示されており、ベンジイミダゾールの熱重量変化を示す曲線には「Benzimidazole」の表示が対応付けて示されている。尚、図10には、参考例として、原料ベンジイミダゾールのみを実施例4と同じ条件でミリング処理したものの熱重量変化を示す曲線を示しており、「MM−Benzimidazole」の表示が対応付けて示されている。
【0129】
図9からも解るように、xCHS(100−x)Bz複合体は、硫酸水素セシウムのモル比が60以上になると、少なくとも100℃近傍から140℃以下の温度範囲において、硫酸水素セシウム、ベンジイミダゾールに比べて、イオン伝導性が向上した。更に、70CHS30Bz複合体、80CHS20Bz複合体は、60℃〜140℃の温度範囲において、硫酸水素セシウム、ベンジイミダゾールのいずれよりも、イオン導電率が向上し、140℃を超えると、10−3Scm−1程度のイオン導電率となった。
【0130】
また、図10に示すように、xCHS(100−x)Bz複合体は、ベンジイミダゾールに比べて熱安定性が向上した。また、xCHS(100−x)Bz複合体中の硫酸水素セシウムのモル比が50以上となると、その効果は顕著となった。
【0131】
ここで、図9図10に示されるように、ベンジイミダゾールは、150℃を越えると熱的に不安定になった。図10に示されるように、ベンジイミダゾールは、180℃付近から急激に重量減少が生じた。ベンジイミダゾールは、トリアゾールやイミダゾールに比べて熱安定性は高いものの、図9に示すように、イオン導電率は、140℃においても10−6Scm−1を超えない程度の低いイオン導電率しか示さなかった。尚、xCHS(100−x)Bz複合体中において硫酸水素セシウムのモル比が40以下の場合は、特に100℃以下における高い導電率は達成できなかった。
【0132】
実施例5および比較例1,5について、イオン導電率により評価を行った結果を図11に示す。
【0133】
図11は、実施例5において作製したxCHS(100−x)Tez複合体および比較例1,5で調製した試料(硫酸水素セシウム、テトラゾール)のイオン導電率を示している。図11においては、横軸は温度を、縦軸は導電率を示している。xCHS(100−x)Tez複合体、硫酸水素セシウム、およびテトラゾールのイオン導電率が温度に対してプロットされている。
【0134】
図11において、白丸、黒逆三角、白三角、黒四角のプロットは、それぞれ、xCHS(100−x)Tezのxが、90、80、70、60である複合体のイオン導電率を示している。また、図11において、黒丸のプロットは硫酸水素セシウムのイオン導電率を示しており、黒菱形のプロットはテトラゾールのイオン導電率を示している。
【0135】
図11からも解るように、xCHS(100−x)Tez複合体は、硫酸水素セシウムのモル比が60〜80の範囲では、少なくとも100℃近傍から140℃の温度範囲において、硫酸水素セシウム、ベンジイミダゾールよりも、イオン導電率が向上し、140℃で10−3Scm−1を上回る高いイオン導電率を示した。
【0136】
実施例6および比較例2,6について、イオン導電率により評価を行った結果を図12に示す。
【0137】
図12は、実施例6において作製したxCDP(100−x)Tz複合体および比較例2,6で調製した試料(トリアゾール、リン酸二水素セシウム)のイオン導電率を示している。図12においては、横軸は温度を、縦軸は導電率を示しており、xCDP(100−x)Tz複合体、リン酸二水素セシウム、およびトリアゾールのイオン導電率が温度に対してプロットされている。
【0138】
図12において、白丸、黒逆三角、白三角、黒四角、白四角のプロットは、それぞれ、xCDP(100−x)Tzのxが、90、80、70、60、50である複合体のイオン導電率を示している。また、図12において、黒丸のプロットはリン酸二水素セシウムのイオン導電率を示しており、黒菱形のプロットはトリアゾールのイオン導電率を示している。
【0139】
図12からも解るように、xCDP(100−x)Tz複合体は、120℃を越え180℃に至っても良好なイオン伝導性を有しており、イオン導電率は、リン酸二水素セシウムよりも大きく向上した。特に、50CDP50Tz複合体および60CDP40Tz複合体は、140℃で10−3Scm−1に達する高いプロトン伝導性を示した。
【0140】
実施例7および比較例4,6について、イオン導電率により評価を行った結果を図13に示す。
【0141】
図13は、実施例7において作製したxCDP(100−x)Bz複合体および比較例4,6で調製した試料(ベンジイミダゾール、リン酸二水素セシウム)のイオン導電率を示している。図13においては、横軸は温度を、縦軸は導電率を示している。xCDP(100−x)Bz複合体、リン酸二水素セシウム、およびベンジイミダゾールのイオン導電率が温度に対してプロットされている。
【0142】
図13において、白丸、黒逆三角、白三角、黒四角、白四角のプロットは、それぞれ、xCDP(100−x)Bzのxが、90、80、70、60、50である複合体のイオン導電率を示している。また、図13において、黒丸のプロットはリン酸二水素セシウムのイオン導電率を示しており、黒菱形のプロットはベンジイミダゾールのイオン導電率を示している。
【0143】
図13からも解るように、xCDP(100−x)Bz複合体のイオン導電率は、リン酸二水素セシウム、ベンジイミダゾールのいずれよりも高くなった。具体的には、ベンジイミダゾールでは、180℃で10−6Scm−1程度の低いイオン導電率であり、リン酸二水素セシウムも180℃で10−5Scm−1程度の低いイオン導電率であった。しかし、xCDP(100−x)Bz複合体においてリン酸二水素セシウムのモル比が50以上となると、60℃から180℃の範囲で、リン酸二水素セシウム、ベンジイミダゾールのいずれよりも高いイオン導電率が得られ、50CDP50Bz複合体、60CDP40Bz複合体、70CDP30Bz複合体は、180℃で10−4Scm−1を越えるプロトン伝導性を示した。
【0144】
比較例7,8について、イオン導電率により評価を行った結果を図14に示す。
【0145】
図14は、比較例7において作製した混合物a、比較例8において作製した混合物b、実施例1の80CHS20Tz複合体、比較例1の硫酸水素セシウム、比較例2のトリアゾールそれぞれのイオン導電率を示している。図14は、横軸に温度を、縦軸に導電率を示している。実施例1の80CHS20Tz複合体、混合物a、混合物b、硫酸水素セシウム、トリアゾールのイオン導電率が、温度に対してプロットされている。
【0146】
図14において、白丸、黒逆三角、白三角のプロットは、それぞれ、混合物a、混合物b、80CHS20Tz複合体のイオン導電率を示している。また、図14において、黒丸のプロットは硫酸水素セシウムのイオン導電率であり、黒菱形のプロットはトリアゾールのイオン導電率である。
【0147】
図14からも解るように、混合物a、混合物bは、80CHS20Tz複合体に比べ、いずれも低いイオン導電率であった。従って、単純に無機固体酸塩とアゾール化合物とを混合しただけでは、両者の複合体を形成させるには不十分あるいは不能であることが示された。また、両者が複合体を形成することにより、中温領域で高いプロトン伝導性と、100℃以下の低温側のプロトン伝導性の向上とを実現できることが示された。
【0148】
以上の結果から、オキソ酸化合物の酸性塩とアゾール化合物とを複合化した複合体により、中温無加湿の条件下で10−3Scm−1という高いイオン導電率を実現できることが示された。その上、100℃以下の低温から高いイオン導電率を発現させることができることが示された。つまり、中温無加湿の条件下で良好なプロトン伝導性を有すると共に、低温から動作させることのできるプロトン伝導体を実現できることが示された。その上、プロトン伝導体中を移動する対イオンを低減できるので、プロトン輸率を上昇させて発電効率を向上できることが示された。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14